喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第一章 異世界召喚


第一章 エピローグ ~天使を待つ男の、愉快な日常~

2009.04.13  *Edit 

桜並木が鮮やかに咲き誇り、学生を中心とした花見客で盛り上がる、T市の春。
T駅前のロータリーにも、数本の桜が植えてあるが、すでに枝の半分以上には緑色に染められている。

桜は、新入生の象徴でもある。
この春から、高校生になるのを楽しみにしていた、天使のように愛らしい少女は、校舎の桜を見ることはなかった。

  *  *  *

「馬場若先生!」
「あっ、はい。なんでしょう?」

いつも馬場のボケを華麗にスルーしてくれる、50代のイカス女性看護士松田さんから呼ばれて、馬場は窓際から目をはずした。
馬場先生と呼ばれると「ああ、父を呼んでいるのかと思いましたよ」と、若先生と呼ばれると「ああ小児科の若松先生のことかと」と、いちいちシャレでかわしているうちに、このスペシャルW呼びが定着してしまった。

「もう、いつも若先生は、隙あらば窓際でボケーっとしちゃって!」

窓際一郎ってあだ名つけちゃいますよ!あーカタカナのイチローの方じゃないですよ、漢字の一郎の方ですからね!と、ブツブツ言いながら去っていく看護士、馬場が求める16文ツッコミの相方にふさわしい貫禄だ。

もうすぐ、あのロータリーで天使を見つけてから、16年。
あの日の光景は、一秒単位、何度でも頭の中で再生できるくらい、強烈に焼きついている。
僕の腕のなかで、初めてその青い瞳をひらいた天使。
いや、腕じゃなくて僕の(勤務している病院の)ベッドの中で、かな?

「馬場若先生!」
「あー、いやいや、僕は窓際一郎といいますが、なにか……」

窓から目線を外すと、そこにいたのは熟年看護士ではなく、彼の天使だった。

「ね、松田さんのモノマネ、どう?似てた?」

栗色の柔らかな髪は、今日はひとくくりにして、銀の花模様が美しいバレッタでとめてある。
後れ毛がこぼれたうなじの白さがなまめかしい。

しかし、顔立ちはまだまだ20才そこそこと言っても通じるくらい幼い。
光の加減で淡いブルーに見える大きな瞳は細められ、小さくぽってりとした口元は得意げな笑みを浮かべている。

「あー、びっくりした。松田さんが天使に見えました。どうしたんですか、松田さん。イメチェンですか?ずいぶん若返りますねぇ。やっぱり女性は化粧と洋服で変わるって本当ですね」

彼女はむっつりと膨れて、やっぱり帰りますと言い放ち、きびすを返す。
天使は、ノリツッコミというコミュニケーション術を知らなかった。

  *  *  *

「はい、馬場医院特製、漢方ニガマズ、なんとか茶です、どーぞ」

つい調子にのって、ニガマズゲロンコピー……と続けそうになった。
ノリツッコミすらできない彼女には、その手のモアディープなシャレは通じないのだ。
本物の松田さんなら、あらじゃあわたしのブーブーエキスも加えてくださいなと言って、おしりを突き出してくるにちがいない。

安住ハナは、馬場が適当につけたお茶のネーミングに露骨に嫌そうな顔をしたものの、人に出されたものは残さないという良識があるため、恐る恐るその湯のみに口をつけた。

「あっ、普通に美味しい……」

眉根を寄せて、蕾のように閉じていたハナの表情が、一気に花咲くようにほころぶ。
馬場はこうやって、ハナに小さな嘘やトリックを仕掛けるのが好きだった。
最初に驚かせて、ちょっと怒らせて、でもその後で笑わせる。
一度にいろいろな表情を見たいから、最初から優しく甘くはしてあげない。

  *  *  *

「今日は、どうかしたんですか?」

お茶をすする手が止まり、そっとテーブルに置かれた。
馬場の専門はカウンセリングではないが、ハナはもう17年近く、馬場の最愛の患者を続けてくれている。

「どうかしたんですけど、言いたくないんです」
「どうして?」
「言ってしまったら、認めてしまうみたいで」
「なぜそう思うの?」
「私は怖くて、逃げて、いろいろな大事なものを捨ててきたこと」
「ん、そうなんだ?」
「なのに、私は一番大事なものを、そこに行かせてしまった」

私の罪の、後始末に。

呟くと、安住ハナはがっくりと肩を落とした。
泣いてはいない。
桜の咲きほこる頃から、毎日24時間涙を流し続け、もうそろそろ涙も枯れたころだから。

主語は語られなくても、察しがつく。
桜の咲くころ、新しい制服で学校に駆けていくのを楽しみにしていた、あの少女。

馬場は立ち上がり、安住ハナの肩を、背中側からそっと抱き寄せた。

「あなたは、彼女がどこへ行ったのか、知っているんですね?」

この質問も、もう何度目だろう。
彼女はこの問いかけに答えられたことがない。
パブロフの犬のように、号泣のスイッチにもなっている質問だ。

「ええ、でも、ちゃんと、っく、思い出せ、なくてっ」

いいんですよ、無理に思い出さなくて。
そういいながら彼女の背中をさするのも、定番のやりとり。

  *  *  *

「ハナさん、もしサラちゃんの行き先を思い出したら、一番先に、僕に教えてくださいね」

次の桜の季節に、間に合えばちょうどいいんですが。

「なぜ?次の桜の季節?」

鼻が真っ赤になっているハナさんは、小動物のように愛らしい。
彼女がお気に入りの、ふんわりハナ咲く鼻プルローションティッシュを差し出しながら、馬場はさらりと言った。

「ヒント。次のサラちゃんの誕生日には、16才でしょう?」

赤鼻のハナさんは、まだ答えが分からないというように、首をかしげる。

「では正解。次は、僕からエンゲージリングをあげて、プロポーズしようと思っていたんです」
「ばっ……馬場先生!」

鼻だけではなく、顔全体を真っ赤にしながら、ハナは立ち上がった。

「いいじゃないですか?僕はまだ独身だし、収入もそれなりにあるし、それに自覚していたかわかりませんが、彼女も僕を好きだったんですよ?」

きっと初恋なんじゃないかなぁ。
ときどき僕の元を訪れては、ぽーっと顔を見つめていたんですよね。
細いフレームのメガネが似合う人が好きとも言っていたっけ。
あとは、そうか、筋肉で締まったヤセマッチョが好きとも言ってたかな?
今から1年ジムで鍛えれば、彼女の理想の男になれるかもしれません。

「だから、早く思い出してくださいね、ハナさん?」

サラがお気に入りだったメガネを軽くかけ直して、馬場はハナに微笑んだ。

「思い出しても、ぜーったい馬場先生には教えません!」

ハナは、さっきまで泣いていたことなどすっかり忘れて、院長室を飛び出していった。

  *  *  *

ついさっきまでハナが座っていたソファに、馬場はそのぬくもりを確かめるように手のひらを触れてみたけれど、ひんやり吸いつく皮の感触しか帰ってこなかった。

泣いている彼女を元気付けるには、ちょっと怒らせてあげるのが一番。
きっと彼女は、あの男のところにかけこんで、馬場の愚痴を言いつけてはまあまあとなだめられているところだろう。

そろそろ「ロリコン」なんて言葉も覚えて、僕に投げつけてくるかな?
ブス専を皮切りに、スケベ、ヘンタイ、マザコン、ショタコン……いくつものスラングを彼女に仕込んできたことを思い出し、馬場は一人思い出し笑いをする。


でもね、ハナさん。
どうしても僕は、天使が欲しかったんです。
どうしても手に入らないなら、天使の娘を手に入れたいと思っても、いいじゃないですか?
天使の娘が、自ら僕の腕に飛び込んできてくれるなら、なおさらね。

ただ、今頃どこかで彼女は、憧れではなく、本物の恋を花開かせているような気がするんです。


だから、まだ、待つことを愉しませてくれませんか。


どうか、まだ、誰のものにもならないでくださいね、ハナさん。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
エピローグなのに、なぜか馬場先生が主役になってしまいました。医者キャラ=ヘンタイ度高いイメージになってしまうのは、お医者さんごっこという淫靡な単語のせいでしょうか。
裏主人公は、いつのまにか名前も出てしまった松田さんです。おばちゃんラブぱーと2。しかしモノホンのおばちゃんてこんなギャグ言うんかな?いつもこういうネタばっか考えてるんですけど、もしそーなら自分おばちゃん化自覚でややショック。
次回は、第一章ではイマイチ活躍の場が少なかった、カリム君の年相応ムッ○リな本音に切り込む問題作。ヒゲ好きもぜひ。



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~ Comment ~

1 ■無題 

これで一章完全完結、でしょうか。

全ての元になっているお母様登場ですね。
お母さんの正体(?)が、今から気になって仕方ない私です。

また来ますね~。

2 ■Re:無題 

>逸野紫苑さん
読了オツでした。
お母さんの正体は、引っ張って引っ張って……最後にはスッキリ明らかになると思います。うふふ。
また遊びに来てください☆
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