喉ニ小骨ガ

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「一分間のラブストーリー」
ささやかすぎる贈り物~重なる想い~


ささやかすぎる贈り物 ~重なる想い~ 本編

2010.03.11  *Edit 

 おさげ髪を弾ませて、泣きぼくろの小柄な少女……桜子が駆けてくる。
「お待たせしましたっ」
 息を切らせ、着物の乱れを直す桜子。丸刈り頭を横に振った正二は、緊張した面持ちで「これをあなたに」と一枚の紙を差し出した。可憐な細い指が折畳まれたその紙を開く。
「まあ……」
 艶やかな唇から感嘆の声が漏れた。

『願はくは 花の下にて春死なむ その如月の望月のころ』

 長い睫毛を羽のようにパタパタと動かし、右上がりな筆文字を何度も目で追うと、桜子は囁いた。
「正二さん達筆ですねぇ。書道家になられたら?」
「桜子さんっ! 見るところ違いますから!」
 叫んだ正二は、その勢いでゲホンと咳をした。一度の咳が呼び水となり、喉の奥がみるみる熱く腫れていく。
 そんな正二の背中をさする、たおやかな手。
「ほら、大きな声を出すから。正二さんは昔から貧じゃ……病弱なのに」
「ゴホッ……さく、らこ……さん」
 涙目になる正二。桜子はくすくすと笑う。
 正二にとって桜子は一つ年上の幼馴染だ。守られる側の弟だった正二はいつしか桜子の背を追い越し、見た目はずいぶん大人になった。持病が正二を本の虫にした結果、今や正二は町一番の秀才。その才能を惜しむ声は、正二本人の耳にも届く程の噂になっていた。
「なのに……何故?」
 桜子の独り言めいた呟きに、正二は姿勢を正した。ひゅうひゅうと鳴る喉を気合いで止め、口をへの字に曲げて。太く凛々しい眉の間に縦ジワが入る。
「もう知っているんですね。赤紙のこと」
 冷たい風が桜子の前髪を揺らし、細い肩の向こうへと流れて行く。その先には慣れ親しんだ桜の木。薄紅色の蕾は春の訪れを告げているというのに、花開く時を待たず正二は戦地に行かなければならない。
 いつもは青白い顔を赤く火照らせ、正二は言った。
「俺、必ず生きて戻ります。だから――」
「あっ正二さん、その表情良いです! そのまま動かないでくださいます?」
 眉間のシワが深まる正二にも頓着せず、桜子は渡された紙を鞄にしまうと、新しい紙と鉛筆を取りだした。こうなった桜子には逆らえない。大人しく制止した正二は、黙々と筆を動かす桜子の姿を胸に焼き付けた。
「……はい、完成です」
「見せてください」
「嫌ですよー」
 無邪気に笑って紙を背に隠す桜子。鬼ごっこの誘惑に乗りかけた正二は、桜子の瞳に夕焼けの茜色を見つけた。もう時間が無い。
「桜子さん、聞いてください」
「何でしょう?」
「あの歌を詠んだ西行法師は、桜の花を愛していました。『死ぬときは桜の下で』と願うくらい……そして俺も」
 桜子の丸くつぶらな瞳が、パチパチと素早く瞬きする。これは一生懸命考えている時のしぐさだ。
 つまり、伝わっていない。
 正二は覚悟を決め、大きく息を吸い込んだ。
「桜子さん、俺はあなたと――」
「これあげますっ」
 肝心なところで邪魔をされる。
 肩を落としかけた正二は、手渡された紙を見てようやく気付いた。
 桜子は全て分かっているのだと。

 描かれていたのは、匂い立つような満開の桜。と、太い眉にへの字口の少年。隣には泣きぼくろのあるおさげの少女。
 絵の中の二人は手を繋ぎ、幸せそうに微笑んでいた。

「私、言葉なんて欲しくないんです。欲しいのは……」

 静かに顔を伏せた桜子の足袋を、涙の雫が濡らした。

 *

 うららかな春の日差しが、レースのカーテン越しに差し込む。線香の香りが漂う和室にぴょこんと頭を覗かせたのは、つぶらな瞳を持つショートカットの少女。その背後では、色白の少年が口をへの字に結んでいる。
「今度はどんなイタズラしたの? 姉ちゃん」
「イタズラじゃないよ、プレゼントだもん」
「昨日の“蛙”は、ばあちゃんには効果無かったみたいだけど」
「うっ……」
 少女はやや太めの眉の間に縦ジワを作る。「今どき珍しい物捕まえてきたねぇ。ありがと咲子ちゃん。せっかくだから、コレは夕飯のおかずにしましょうかね?」と、蛙の足を摘んで笑った祖母。驚く顔が見たいのに、いつも返り討ちにあう。
「今回はちょっと違うんだから……」
 祖母が出かけた隙に、弱点を探すべくこっそり和室を物色した少女は、飴色になった桐箪笥の奥に古びた紙を見つけた。引き出しの隙間から床に落ちてしまった、埃まみれの紙。重ね合わされた一枚には和歌が、もう一枚には大きな桜の木と大好きな祖母、去年亡くなった優しい祖父に似た人物が描かれていた。
 少女はその“ラブレター”を、祖母が昼寝に使うそばがら枕のカバーに差し込んだのだ。
 帰宅した祖母は、今その枕で眠っている。
「ふーん。たまには粋なイタズラもするんだね、姉ちゃん」
「たまにはって失礼な! てゆーかイタズラじゃないしっ!」
「ちょっ、静かに」
 唇の前で人差し指を立てた少年が、不意に顔を強張らせる。少女が視線の先を追うと、そこには陽だまりの中でまどろむ祖母の横顔。
 まるで微笑むように穏やかな……その頬には、光る雫があった。

(夢で逢えたらいいね、おばあちゃん!)

 姉弟は、そっと部屋を後にした。


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【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
電撃LLのお題『ささやかすぎる贈り物』は、珍しく自分にとてもマッチして、良い感じの話が作れました。まぁ、落選したので所詮はそのレベルなのですが……。今作品では、珍しく構成を綿密に考えました。シーンは2つで、序破急。笑わせてしゅんとさせて、なごませる……なんて、上手く行っていたら良いのですが。和歌を活用するというのも一つのしかけでした。詠み人は西行法師様で、意味は「どーせ死ぬなら、大好きな桜の花の下で死にたいな☆」です。死地に赴く男子にピッタリだなぁと。桜と桜子をかけて告白なんてキザだけど、この時代だからこそって感じじゃないでしょうか。あと一作の中に、幾つの贈り物(幸せ)を混ぜ込めるかなーというチャレンジも、こっそり行ってみました。絵、手紙、無事に戻ってきてくれたこと(もしくはそっくりさんと結婚……? この辺も読者様のご想像におまかせ)、その後の幸せな家庭、最後に孫たちが見せようとしてくれた夢……と、蛙も忘れずにw




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