喉ニ小骨ガ

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「一分間のラブストーリー」
すきま風


すきま風 本編

2010.02.23  *Edit 

『カリカリ、カリカリ……』
 こたつでうたた寝していた私は、聞き覚えがある――そして聞き捨てならない物音で目が覚めた。
「――ちょっとチャコ! そこ引っ掻かないで!」
 慌てて飛び起きると、私は障子を開けた。ほんの十五センチだけ。
「ニャアッ」
 するりと、チャコが居間に入ってきた。足音を立てず、細長い尻尾をくねらせて。そのまま華麗なキャットウォークで、私が抜けだしてぽっかり空いたこたつ布団の隙間から、ぽかぽかの天国へ。
 まんまとドアマンにさせられた私は、溜息混じりの苦笑を漏らした。
「まったく、どっちがご主人様だか分かんないよね」
 呟いた言葉が白い靄になる。私は羽織ったカーディガンの襟元をかき合わせると、チャコが待つ温かいお城に潜り込んだ。

 ***

 チャコと出会ったのは、桜の蕾がほころび始めた頃だった。
 不動産屋に向かう途中、ペットショップで一目惚れした茶トラのメス。新居はなるべく築浅でキレイな物件がいいと思っていたのに、『猫が飼える』という厳しい条件のせいで、古い木造アパートに住むはめになった。
 最初は障子に穴を開けられてしまったけれど、爪とぎをしっかり教えてからはそれもなくなって、あとは女同士の二人暮らしを満喫……と思っていたら、問題は冬にやってきた。
 マンションの暖かさに慣れた身体には、耐え難い寒さ。エアコンは寝室に一台しかない。間仕切りの障子を開け放ったところで、居間の方まで温風が行き渡るのには時間も電気代もかかり過ぎる。
 邪魔くさいけれど仕方ない、ひなびた和室にはぴったりだと、思い切ってこたつを購入した。すると今度は居心地が良過ぎて、そこから抜け出せなくなってしまった。
 今日みたいに特別寒い日は、まさにそのパターンだ。座椅子に乗せたお尻がいつしかずるずると下がり、気付けば首までこたつに浸かっている。
 芯から温まって、うとうと夢心地になったとき。
「ンニャア」
 私の肩のあたりから、チャコが顔を出してきた。天然湯たんぽになった身体を私の寝顔にこすりつけると、クカァッと大あくびを残して台所へ向かう。
 まどろみを邪魔された私は、しぶしぶ起き上がった。目の前には、書きかけの年賀状。再度筆ペンを手に取るものの、なかなか作業が進まない。
 寝室と台所、二方向に開けられた十五センチずつの隙間から、冷たい空気が入り込んでくる。しだいに指先がかじかんで、ついこたつに深く潜り込んで、結局うたた寝してはチャコに起こされる……なんて悪循環!
「もうっ、この部屋がこんなに寒いのはチャコのせいだよ。そうやって、戸を開けとかなきゃいけないから」
 文句を言ったところで、チャコは目を真ん丸にして「ニャア」と鳴くばかり。突然ぴくんと尻尾を震わせ、今度は寝室に飛んでいく。別にご飯があるわけでも、オモチャが転がっているわけでもないのに。
 猫の目には『人には見えないもの』が映っているのかもしれないと思う。こうして何かを追いかけるように突然走りだしたり、たまにじいっと天井のシミを見上げていたり。古い家だけにちょっと怖い。
 でも私が落ち込んでいるときに限って、膝の上に乗ってしつこく頬ずりしてくる……そんな不思議なこともしてくれるから、私はチャコが愛おしくて堪らなくなる。煩わしいことも、全部許せてしまう。
「ニャゥアー」
 いつの間にか、私の元へ舞い戻ってきたチャコ。爪を立てた手で、たしたしと私の腕を叩いてくる。このカーディガンも、チャコの猫パンチであちこちささくれ立ってしまった。
 まぁ、それも許してあげよう。
「はいはい、次はなぁに? ご飯?」
 私は寝惚け眼をこすると、我が家のお姫さまの命令に従った。

  ***

 目覚まし時計が鳴る前に、私は目を覚ました。
 布団はしっかりかかっているし、昨夜タイマーをセットしたエアコンも動いているというのに、今朝はやけに寒く感じる。
 その理由を探してさまよった視線が、部屋の片隅で止まった。
「ああ、戸が開いてたからか……」
 十五センチ開いたままの障子。またやっちゃった、とひとりごちながら身体を起こしかけて、止めた。布団にもぐりこんだまま、隙間の向こうの暗がりに目を凝らす。
 すました顔でそこを通り抜けるあの子は、もう居ない。私を置いて、遠くへ旅立ってしまった。
 なのに、この隙間から今にも顔を覗かせそうな気がして……私は「チャコ、おいで」と囁いた。

 するりと、すきま風が吹いた。


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【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 一分間のラブストーリーシリーズ、猫バージョンです。隙間というお題をいただいて作りました。隙間=『すきま風』(by杉良太郎)という金さんの曲が思い浮かび、その人間に対して二人称っぽい歌詞が“猫目線”な気がしたので……。いつも昭和歌謡にはインスパイアされております。ふふ。あと例のごとく暗喩好きなので、すきま風=霊的な存在が通り抜けること、みたいな感じにしてみました。……が、伝わらなかったらそれはそれで良いかなと思います。猫の行動はほぼノンフィクションです。猫可愛いぜよっ。でも悲しいよ。 『いつか別れが来るけれど、一緒に居たいの愛しいあなた……』(←演歌の花道風に)

※アルファポリス「WebコンテンツPickUP!」コーナーに、掲載いただきました。





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