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うちのお兄ちゃんを紹介します


うちのお兄ちゃんを紹介します 1.月曜昼

2009.10.31  *Edit 

「えーっ、また別れたのっ!」
「うわぁ、今回も早かったねぇ。まだ一週間でしょ?」
 女子二人に、キスを奪われんばかりに詰め寄られた私、斉藤優奈《さいとうゆうな》は、一歩二歩と後退してトイレの壁に背中をくっつけた。
 ここは校舎最奥の女子トイレ。お昼休みの残り十五分を、人気の少ないこの場所で過ごすのが最近の日課だ。
 現在高校三年の秋。私たち三人は、ラッキーなことに推薦で進路が決まった。といっても試験(面接と小論文)はこれからなのだが、進路指導の先生には「ほぼ大丈夫だろう」と太鼓判を押されている。
 同学年の生徒たちは、まさに受験一色。おにぎりをかじりながら参考書に向かうクラスメイトの前で、こんな浮ついた話をするのはさすがに無神経。よってここは絶好の内緒話スポットとなる。
「だってさっ。付き合うって言っても“お友達から”って念押したんだよ? メールと電話では紳士だったし、優しい人だなぁと思いかけてたのに、アイツいきなり手ぇ繋ごうとしてきて……」
 彼は近くの男子校の二年生だった。先週、駅で待ち伏せされて告白を受けた。私より頭一つ背が高くて笑顔の爽やかな、ハキハキ喋る感じ良い男の子だった。
 初めてのデートは昨日の午後、無難に映画を見て。その後、なぜか木枯らしが吹く夕暮れの公園に連れて行かれた。ベンチに腰掛けたとき、唐突に触れられた手……それがやけに熱いと思った瞬間、私は無意識にその手を振り払っていた。
 その先はお決まりのパターン。「俺は君の何なんだ?」と問われて「お友達」と正直に答えると、あっさり逆切れされてバイバイ。
 事の顛末を聞いた二人は、はぁーと大きなため息をついた。
「優奈、あんたそのうち刺されるよ? その気が無いなら最初から断らないと!」
 親友の美香がもう一歩詰め寄り、私の額を小突いてきた。
 美香はモデルみたいに背が高くスラッとしていて、艶のあるストレートのボブヘアが印象的だ。少しつり上がり気味の細い目が涼やかで、そこらの男よりよほど男前と女子に人気がある。性格は言いにくいことをビシッと直球で言うタイプで裏表がない。入学してすぐに意気投合してから、もう二年半の付き合いだ。
「私だって最初は断ったんだよ? でもアイツが『ゆっくりでいいから』って……」
「それ、高校入ってから何人目? あんた見た目が可愛いっていうかエロいんだから、不埒な輩が寄ってくるに決まってるでしょ!」
「うっ、エロいって……」
「ちゃんと現実を直視しなさい! ほれっ」
 洗面台前に連れ戻された私は、大きな鏡を覗き込む。
 肩より少し長めの、シャギーの入ったストレートの茶髪。顔の輪郭は丸いけれど、シャギー効果でいくらか細く見える。目は大きく黒目がちで、初対面の人には「目力がある」と良く言われる。鼻は小さくツンと尖っていて、その下のぽってりした唇は、確かに我ながらエロい……。
 しょんぼり眉毛の垂れ下がった鏡の中の自分とにらめっこしつつ、私は考える。
 可愛いとか好きだなんて言われると、私の胸はキュンとなる。だけど『見た目だけ好み』とか『エロい』から寄ってくる人はお断りだ。私が求めているのは、顔とか見た目なんかじゃなくハート……本当の私を好きになってくれる王子様。ずっとそう願っているのに、そんな人はなかなか現れない。
「本当に『この人こそは!』って思ったのに。私のこと大事にしてくれるんじゃないかって……なのに、結局身体目当てだなんて、ヒドイよぉ。手なんて握られたら、その次はすぐチューされちゃうじゃんっ! そしたらすぐ結婚だよっ?」
 私が愛する古典的な少女漫画では、それが王道パターンだ。ページをめくるたびにドキドキする。たくさんの男性から求愛されて、主人公のお姫様は迷いに迷うのだ。でも結局、自分に手を出そうとするエロ王子の魔の手から命がけで守ってくれる、清廉潔白な一人の王子を選ぶ――。
 うっとりしながら持論を展開する私を、美香は「はいはい、耳にタコ! そんな男現代日本にはいませんっ!」とスルー。もう一人の親友はというと……。
「まぁしょーがないよ。優奈ちゃんってば顔は可愛いし、性格も優しいし、なんてったって胸が……ゴホン。つまり優奈ちゃんが悪いんじゃない、ピュアな優奈ちゃんをエロい小悪魔に見せてしまうそのボディが悪いのですよ」
 フォローを入れてくれるようで、確実なボディブロウを打ちこんでくるのが、さおり。ふわふわの栗色猫っ毛を二本のおさげに結い、細い垂れ目とふっくらした頬を持つ平安系美人。身長や体格は私とさほど変わらないのに、色白なせいで儚げに見える。
 さおりから含み笑いを向けられた私は、鏡では見切れてしまう自分の胸元をチラリと見た。これでもかと主張してくる胸の膨らみは、ブラウスの上に紺色のベストを重ねていてもなお目立つ。私にとっては、忌々しい肩こりの原因でしかないそれを睨みつけながら、さおりに訴えた。
「でもさっ、告白してくるときは皆好青年の王子様に見えるんだよ? 実際『大事にするよ』って言ってくれる人もいたのに、デートするといきなり身体目当てみたいに変わっちゃって……」
「んー、優奈ちゃんの乙女心は分かるけど、優奈ちゃんと二人きりになっても自制できるなんて、健全な男子高生に求めるのは酷かもー。あたしが男だとしても、優奈ちゃんと二人っきりにさせられて我慢できる自信無いしねぇ。ある意味“枯れてる”くらいオトナじゃなきゃ」
 笑うと消えてしまうさおりの目が、キランと光った。ほわほわした口調は柔らかいのに、出てくる言葉は辛辣。その二面性がさおりの魅力だ。モテるのになかなか彼氏ができない理由も、きっとそのあたりにあるのだろう。
 乙女すぎる私、男前すぎる美香、辛口すぎるさおり……この三人にまともな彼氏ができるのはいつのことやら。
「あーあ、どっかに落ちてないかな……オトナな男の人」
「無理。財布拾うより無理」
 私の夢物語を、リアリストな美香が一蹴する。
 そして美香の上を行くリアリストなさおりが、私にとって最大の禁句を告げた。
「優奈ちゃんのお兄さんの友達とかはぁ?」
「お……にい、ちゃん?」
 鏡の中の私が、一気に表情を曇らせていく。
「あ、いいじゃん、お兄さんの友達ルート。今大学二年だっけ? 確かM大だったよね」
「ていうか、優奈ちゃんのお兄ちゃんがどんな人か気になるぅ」
 この話題はマズイ。
 心臓がドキドキと激しく自己主張し、手のひらには冷や汗がじわりと湧いてくる。手にしていたリップグロスが、洗面台に滑り落ちカランと音を立てる。それを拾いながら、私はなるべくナチュラルに話題の転換を図った。
「えー、うちのお兄ちゃんなんて、普通過ぎてツマンナイよ? あっ、そういえば昨日見た映画が――」
「そーだ、さおりっ、M大って再来週学園祭じゃなかった? 駅にポスター貼ってあった気がする。行ってみようよ」
「あ、それナイスアイデアかも。大学の雰囲気もチェックできるし」
「よーし、再来週は“優奈の兄貴見学”兼、オトナな男発掘ツアーねっ!」
「いいねぇ。じゃあ今週末買い物に行かない? せっかくだからオトナっぽい格好してこ?」
 当事者である私をさしおいて、勝手に盛り上がる二人。
 こうなった二人を止められる訳が無く……私はがっくりと肩を落とした。

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