喉ニ小骨ガ

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「その他掌編」
夏休みの計画~目指せ、熱湯甲子園!~


『夏休みの計画』~目指せ、熱湯甲子園!~ 本編

2009.09.28  *Edit 

 この学校には天使がいる。
 陶器のような肌、柔らかな栗色の髪、つぶらな瞳、バラ色の頬、果実のように赤い唇。
 天使の名は雷音真亜子。どんな男にも堕ちない高嶺の花。
 夏休み前日、俺は勝負を挑んだ。



 旧校舎一階、来賓室前。
 無料の給茶器が置かれているため、寒い日は生徒達が群がるが、この時期は閑散としている。
 涼を求めて廊下の窓を開ける俺の耳に、微かな足音が届いた。振り向くと、肩までの髪をふわりと弾ませながら一人の少女が駆けてくる。
「野球部の、南達也君だよね?」
 心臓バクバクで待ち構える俺のシャツは、すでに汗だくだ。一方彼女は汗一つかいていない。胸元のリボンが涼しげに揺れている。
 彼女は軽く会釈すると、天使のような眩しい笑顔を浮かべた。
「手紙ありがと」
「いや、らいおんセンパイこそ、どーもです!」
 直立不動でガチガチな俺に彼女は苦笑し……フッと俯いた。
「……もう全部バレてるのね? 私のこと」
 少し色素の薄い瞳に、長い睫が影を落とす。憂いを帯びた彼女の横顔に俺は見とれた。その肌の白さといったら、どんな酵素パワーで漂白したのかと思うほどだ。
 これだけ可愛い彼女がフリーなのは、ある性癖のせい。
 彼女を得るためには『あの部分』が強い男でなければならないのだ。

「今から、あなたを試していい……?」

 ゴクリと生唾を飲み込み、頷く俺。
 彼女は細い指をゆっくりと伸ばし……。

『ポチリ』
『じょろじょろじょろ……』

 溜まりゆくホット緑茶。見つめる彼女の瞳はキラキラ輝いている。
 彼女は、いわゆる『熱湯フェチ』だ。
 告白を断るときは必ず「私、猫舌の人ってダメなの」と言う。猫舌じゃないと主張する男は、全員ここへ呼び出して「このお茶一気飲みできる?」と問う。来賓室前のカーペットには、あえなく凡退した彼らの汗と涙と吹いたお茶が染み付いている。
 そして今、俺の打席がやってきた。
 バットのグリップを握るがごとく、湯気の立つ紙コップを掴む。薄い紙越しに触れる指が、火傷サイレンを鳴らす。

 ――俺は負けない。君のことが、本当に好きだから。

 入学式で見かけた時は、単に綺麗な人だなと思った。彼女が生徒会長として熱弁を振るう姿に、少し心が動いた。部活がらみで生徒会室に行った時、初めて会話して……恋に落ちた。「甲子園に行きたい」と呟いた彼女のために死ぬほど特訓し、レギュラーの座を勝ち取った。
 彼女が傍で応援してくれるなら、俺はやる。来年の夏は、必ず甲子園に連れて行ってみせる! そして今年の夏は、海に連れて行ってみせる! 祭りにも! 花火にも!
 膨らみかけた煩悩デリート、心頭滅却した俺は、その液体を一気に口の中へ!

『ゴックゴックゴック……』

 手首のスナップ、首の角度、脇の開き……全て特訓どおり!
 ノルマは毎日湯のみ百本ノック。温度は若干手心を加えた八十度。実戦では九十八度といったところか。なあに、前評判より速い球を投げるピッチャーなどザラだぜ! 少しスイングを速めればっ……!

「――ぐはぁっ!」

 俺は、熱湯という好敵手に打ち勝った。



「キミって変な人ねえ」
 呆れたような声色に、俺は涙を堪えて頷いた。
 タラコ唇を半開きにし、でろりと舌を出してハアハア言う俺は、変な人を通り越して立派な変態だ。
 彼女はクスッと笑うと「南君だけに、私の秘密教えてあげる」と囁いた。

「実は私……宇宙人なの」

 呼吸を止めて一秒……どころか永遠に息が止まりかける俺。
 彼女の父親は、太陽系外のマアライオン星からやってきたそうだ。ところが地球の女性を好きになり、あっさり故郷を捨てた。今は親子三人地球人として平和に暮らしている……。
 淡々と語るその声は心地よく、俺はいつしか真剣に耳を傾けていた。
「聞いてくれてありがと」
 彼女は照れたように呟くと、不意に俺の右手を握ってきた。
 正確に言えば、俺が握ったままの紙コップを。
「マアライオン人の女には、一つ武器があるの」
 俺のゴツイ手がひんやり冷たい小さな手で包まれ、口元へ引き寄せられる。赤い唇が開かれ、紙コップへ伸ばされるピンクの舌。
 天使のように可憐な宇宙人が、ほぅっと甘い吐息をついたその時――。

『じょぱぁっ!』

 飛び出したのは紛れも無い――熱湯。
 俺の脳みそも、一気に沸騰した。
 手から滑り落ち、靴先で弾む紙コップ。熱湯が足を濡らしたが、俺は一歩も動けなかった。
 彼女の潤んだ瞳に囚われていたから……。

「この“熱い吐息”で、求愛してくれる男を試すの。もし耐えられるなら――」

 夕暮れの涼しい風が頬を撫でる。
 俺の肩に手を添え、少し背伸びした彼女は、黙って……キスをした。
 天使のキスは、魔法のキス。タラコ唇も、ヒリつく舌も、ただれた喉も……彼女の舌に触れられ、その唾液を飲み込むと、全て元に戻っていた。
 そっと踵を降ろした彼女は、唇を俺のシャツに押し当てて、再び甘い吐息を漏らす。

「南君……私を甲子園に連れてって?」

 胸に熱いモノを感じながら、俺は思った。

 デートの前に、熱湯風呂で特訓だな……と。


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【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 電撃リトルリーグへの初挑戦作品です。見事落選しましたが、個人的には気に入っております。内容的には、初めて『ライトノベル』を意識して書いてみました。なので、こんなキャラです。(余裕ができたら、ライオンさんの両親編も書いてみたいところです)
※ちなみに、主人公の南君は『チビ犬』に出てくるサヤマ君の親友……というポジションです。『チビ犬探偵』の回で、サヤマ君に「頑張れよ」と囁かれた後、この告白へ挑戦したというリンクの仕方でした。このバカップルは、今後チビ犬の方のわき役としてちょこちょこ出てくると思います。

※合わせて『チビ犬とムツゴロウの恋愛事件簿』もどうぞ。




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