喉ニ小骨ガ

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「一分間のラブストーリー」
トーストにピーナツバター


トーストにピーナツバター 本編

2009.07.29  *Edit 

 腰に巻きつけるカフェ風エプロンは可愛いけれど、上着が汚れるから料理には向かない。私はあくびを噛み殺しながら、今日も普通のエプロンを手に取った。せっかく彼にねだって買ってもらったのに、悲しいことに一度も出番が来ない。「用と美は相容れないもの」という彼の言葉はやはり正しかった。
「さて、今日のメニューはどうしよっかな……」
 冷蔵庫に貼り付けたカロリー表とにらめっこした結果、私はアボカドとトマトを選んだ。角切りにして手作りマヨネーズをあえ、ちょっぴりのニンニクと黒胡椒をアクセントに。メインはカリカリベーコンと半熟卵。それらを大きめのセラミックプレートに盛り付ければ、彼の好きなものばかりが詰まった完璧な一皿になる。コーヒー豆もセットしたし、あとは……。
『――ガタン!』
 洗面所の引き戸が開く音が響いてきた。トーストを焼く合図だ。
 トースターに差し込むのは、彼が好きな『ヴィアン』のホテルブレッド。週二回バスで来店する私は、店員さんにすっかり顔を覚えられてしまった。焼き上がり前に着いてしまうと「もうちょっと待ってね」と声をかけられたり、たまに私の顔色が悪いときはお店の隅で休ませてくれたりする。
 そんなとき私は決まって「スミマセン」と言っていたけれど、彼に「ありがとうの方が良い」と教わってからは、それが私の口癖になった。
「うん、今日も良い匂い」
 レトロなポップアップトースターから、キツネ色の耳がぴょこんと飛び出した。この子はいつもお値段以上の幸せをくれる。
 何もつけなくても甘いけれど、うちではピーナツバターをつけるのが定番だ。「ピーナツ油はオレイン酸が豊富で健康に良い」からって。オリーブ油や椿油みたいにお肌につけても良いらしい。彼はいつも私が知らない世界を教えてくれる。
 鼻歌をうたいながらバターベラを繰り、ピーナツバターをたっぷり塗り終えたとき、彼がリビングにやってきた。
「おは、よ……」
 言葉が、喉に詰まった。トーストを手のひらに乗せたまま、私の体は人形のように固まった。
 ああ今日は“あの日”なんだ。彼が良く眠れなかった日。
 昨夜、私を殴り足りなかったせい。
 彼の冷たい手のひらが、トーストを持つ私の手に重ねられ……次の瞬間、私の視界は真っ暗になった。顔全体にぬるりと生温い油の感触。口の中に甘いピーナツバターが入り込む。目にも、鼻にも。
 パンが、床にベシャリと落ちた。
 遠ざかる足音を聞きながら、私の唇はいつもの呪文を唱えていた。

 ありがとうございます。
 ありがとうございます。

 感謝しなきゃいけない。彼は私の顔に、肌に良いピーナツ油を塗ってくれたのだから。(了)


【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
『DV』という社会問題に興味があり、そこに陥った女の人の生活を切り取ってみようと思いました。世間的には『ポジティブ最高』みたいな風潮がありますが、ポジティブに受け取ることが、決して良いことではないケースもある……そんなことが皮肉っぽく伝わればいいなーと。(でも、彼女は幸せなのです。だから抜け出せないという……)

※リベンジ(アホ)作品『トーストに、何つける?』をお口直しにどうぞ。


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