喉ニ小骨ガ

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「その他短編」
ドメスティックバイオレンス弁当


ドメスティックバイオレンス弁当(前編)

2009.08.14  *Edit 

【前書き】非常にライトですが暴力描写がありますので、苦手な方はどうぞご注意くださいませ。


〜プロローグ〜


 新宿駅から電車を二回乗り換えて、約一時間。
 各駅停車しか停まらないこの街は、マンションが立ち並ぶ閑静な住宅街だ。
 街外れには小さな川が流れていて、川沿いの道は桜の連なる遊歩道になっている。
 春には川面に落ちる花びらがピンクの絨毯となり、思わずため息が漏れるほど美しい。

 私の住む部屋は、駅から徒歩十分の賃貸マンション。
 六畳の洋室が二つと、十二畳のキッチンがついた2LDK。
 少し古いけれど、ベランダから桜が見えるという立地の良さが決め手だった。

 もう一点、はずせないポイントは、猫が飼えること。
 おかげで敷金は三ヶ月分になってしまったけれど、なんとか粘って礼金を安くしてもらうことができた。
 苦笑する不動産屋のおじさんを尻目に、二人とも大満足だった。

 ふてぶてしいけれど可愛いミーコが居て、ナオキは優し過ぎるくらい優しくて。
 私は……本当に幸せだった。



1.その手に恋をした私


 友達と良く「何フェチ?」なんてくだらない会話をすることがある。
 そんなとき「男の人の手が好き!」と主張する女の子はけっこう多い。
 もちろん、私も同感だ。
 厳密に言えば『ピアノが似合う手』が理想だと思う。
 大きな手のひら、短く整えられた爪、節くれだった長い指。
 そんな手が力強く鍵盤を叩くシーンをイメージするだけで、胸が高鳴る。

 ある日私は、理想の手に出会った――。

  * * *

 私は、派遣社員をしている。
 派遣という働き方は、短くて三ヶ月、長くても一年ほどで会社を変わるのが一般的だ。
 働き手はいくつもの会社を経験できるし、会社側は安い賃金で欲しい時期だけ人材を確保できる。
 そんなメリットがある反面、デメリットも発生する。
 全てを一から教えなければならない、能力の低い人材……つまり『使えない』人間を雇ってしまったときだ。
 今の私は、まさにソレだった。

 大きな会社の総務や営業部を何社か経験して、今年二十二歳になった私は、少し欲が出て「手に職をつけたい」と思ってしまった。
 一念発起し、『未経験者歓迎』と告知されていたウェブデザイン会社に採用されたのが、四月の始め。
 最初は派遣からスタートし、うまく行けば契約社員、いずれは正社員とステップアップできる……そんな触れ込みだった。

 しかし現実は、そう甘くない。
 未経験者歓迎といっても、研修などのシステムは無く、仕事を教えてくれる先輩も居なかった。
 ドサリと置かれたマニュアルを片手に、覚えた端から入力作業を行う毎日。
 お昼どころかトイレ休憩さえなかなか取れないほど、仕事は過酷だった。

 入社一ヵ月後、いわゆる五月病にかかり集中力が切れた私は、ミスをした。
 大事なデータを丸々消してしまったのだ。
 フロアの真ん中で上司から長時間叱責され、涙を堪えながら自分のデスクへ戻った私は、ぼんやりとパソコン画面を見つめていた。

 画面上の文字は頭に入らず、『退職』のニ文字が浮かんでは消える。
 契約期間は六月末まで、あとニヶ月弱も残っている。
 しかし、私が今日で辞めても、この会社にとっては痛くも痒くもない。
 派遣会社の営業さんも、事情を話せば納得してくれるだろう。

 そんなことを考えていた私の前に、突然一つの手が現れた。
 缶コーヒーを摘んだ細く長い指と、ゴツゴツ骨ばって血管の浮いた白い手の甲。
 まさに私の思い描く、理想どおりの手だった。
 缶が置かれる『コトン』という音を残して、その手は一瞬で消えてしまった。
 その側面には、黄色の小さな付箋が貼られている。

『頑張れ』

 やや右上がりの綺麗な文字に見入った私は、振り返るのが遅れた。
 手の主は、オフィスの中をせわしなく動き回る社員たちに紛れて消えた。



2.温かい手の恋人


 それから私は、理想の手の持ち主を探した。
 彼が残してくれた『頑張れ』のメッセージに応えるためにも、私は会社を辞めなかった。
 そして数日後、私は運良く彼を見つけることができた。

 彼はフロアの違うシステム部に所属していて、トラブルがあったときだけうちの部署に顔を出すという存在。
 見た目が特別カッコイイというわけではないけれど、背がすらりと高くて、清潔感のある短めの黒髪、そして優しげな笑顔が印象的な好青年だ。
 時々メガネをかけていて、それが少し切れ長の細い目にとても良く似合っていた。
 女子社員の間でも噂にのぼる『ナオキさん』が、彼のことだと初めて知った。

 真面目で穏やかで、しかも社内でも数少ない二十代の独身男性だから、当然モテる。
 噂を入手するたびに胸を焦がされた私は、ダメで元々と思い切って告白した。
 結果OKの返事をもらったときは、思わず「どうして?」と聞いてしまった。

『あの課長は、新人の女の子をいじめるのが趣味なんだ』

 課長から怒られている私を、フォローに来たナオキはずっと見ていたらしい。
 たいていの女の子が途中で泣き出してしまうのに、最後まで泣かなかった私に心惹かれたと教えてくれた。
 生まれて初めてのパーフェクトな両思いが嬉しくて、私は涙を堪えることができなかった。
 ナオキは、「女の子に泣かれるの苦手なんだよ」と困ったように笑いながら、そっと私を抱き寄せてくれた。

  * * *

 ナオキとの交際は、順調に進んだ。
 その日は、久しぶりのデート。
 待ち合わせの駅に電車が到着すると同時に、私は駆け出した。
 おろしたてのサンダルの踵が、明るいレンガ色の石畳の地面を蹴るたびにグラグラ揺れる。
 無事転ばずにナオキの元へ辿り着いた私は、ペコリと頭をさげた。

「――お待たせ! 今日はよろしくお願いします」

 腕時計をチェックすると、時間は待ち合わせの五分前。
 たまにはナオキより早く着いて、「待たせてゴメン」と言わせたいのに、毎回出かける間際で髪型や服装が気になってとっかえひっかえするから、結局ギリギリになってしまう。

「じゃ、とりあえず不動産屋を何件か回ってみようか。その後ご飯にしよう」
「うんっ」

 うなずきつつも、私はこっそりナオキを観察する。
 いつもの細身なスーツもいいけれど、私服姿もかなり素敵だ。
 一度だけ訪れた部屋は、男の一人暮らしだけあってお世辞にもキレイとはいえなかったけれど、センスの良いインテリアが揃い、ファッション雑誌が何冊か積まれていた。
 こういう本をちゃんと読む人なんだなと、私は納得した。

 好きな人に影響されやすい私は、ナオキに相応しい大人の女性になりたいと頑張った。
 デパートでブランド物のメイク用品を一式買い揃えたり、雑誌に出ていた小柄なモデルさんの髪型や服装を真似したり。
 今日は久しぶりのデートだから気合いを入れて、今季の新作ワンピースを着てきた。
 ベージュのツイード生地に、襟ぐりが大きく開いたデザインは……少し大人っぽすぎたかもしれない。
 私が胸元を気にしてうつむくと、つむじのあたりにポンと手のひらが乗せられた。

「ほら、行くぞ?」

 差し出された大きな手に、私はするりと手を重ねた。
 ナオキの温かい手が、私は大好きだった。



3.百円の不思議なジュース


 電話とメールで我慢することにも慣れたけれど、こうして手を繋ぐと私の胸はじわりと熱くなる。
 ナオキの骨ばった手は私より二まわりも大きくて、指が絡まるだけで体ごと包まれているようだ。
 ふわふわと夢心地で歩いていた私に、ナオキが現実を突きつけてきた。

「そういえば、もう新しい会社見つかりそうだって?」
「あ……うん。今の会社で基礎は覚えたし、経験アリって言えるからすぐ決まると思うけど、面接はまだちょっと先かな」

 私は複雑な気持ちを胸の奥に押し込め、アハハと声を上げて笑った。
 本当は今の会社を続ける意欲が湧いていたし、課長も周囲の先輩たちも私の努力を認めてくれつつあった。
 でも、ナオキから『交際を内緒にしたい』と言われ、私は契約更新を諦めた。
 不器用な私は、フロアを横切るナオキのことをどうしても目で追ってしまうから。

「会社が別になったら、堂々と平日デートもできるしね。せっかく付き合い始めたのに、周りにバレないようにビクビクするなんてもったいないもん。そうじゃなくても、忙しくてなかなか会えなかったのに……」
「来月からは、いつでも会えるようにするよ」
「うん、楽しみにしてるっ」

 久しぶりに会ったせいか、それとも明るい太陽の下で見るせいか……今日のナオキはどことなく違って見える。
 私を見る目が、やけに甘く艶めいている気がして、私は思わず目を伏せた。
 やっぱり、この大人っぽいワンピのせい?
 あまり胸元の露出が高すぎないように、一応スカーフを巻いてきたんだけれど……。

「――ごめん、ちょっと喉渇いたからジュース買ってくるね」

 私はナオキの手を解き、目に付いた自販機へと駆け出した。
 その間に、さりげなくスカーフを巻きなおす。
 満足して自販機を見つめる私に、苦笑を浮かべたナオキが歩み寄ってきた。

「お前は子どもみたいだなあ」
「ねえナオキ、なんかこの自販機変わってるね」

 好奇心旺盛で、感情がコロコロ変わるのが私の癖だ。
 胸元にあった意識は、自販機へ。
 コイン投入口の脇に『すべて百円!』と書かれた派手なPOPが貼られ、見たことの無いジュースのラインナップが並んでいる。
 新作のお菓子など珍しいものに目が無い私は、思わずはしゃいだ。

「ねえ、大阪名物みっくすじゅーちゅだって! どんな味かなあ? でもすごく甘そうだし、飲んだ後もっと喉乾きそうだよね……」
「とりあえず好きなの買えよ」

 ナオキが二百円を差し出してくれたので、私は「やったあ」と声を上げた。
 すごく気になるあの甘そうなジュースと、普通のお茶にしよう。
 そう決めた私が、投入口にお金を入れようとしたとき、ナオキはまるで世間話をするようにサラリと告げた。

「どうせ結婚するなら、少し広めの部屋借りて一緒に住もうか」

 軽い金属音を立てて落ちた、二枚のコイン。
 ナオキは「おっと」と呟いて、それを拾おうと身を屈めた。
 ちょうど私の足元、白いサンダルのつま先に転がった一枚に手を伸ばしたナオキは、アスファルトにポタポタ落ちる雫に気づいた。
 それは雨じゃなく、私の涙。
 マスカラが流れ落ちるのも忘れて泣きじゃくる私を、ナオキはあの日のように優しく抱き寄せた。

  * * *

 プロポーズの思い出は、ちょっと不思議な甘いジュースの味。
 その自販機は、私たちがこの街に来て一年も経たないうちに撤去されてしまった。
 ナオキと腕を組んで歩く私は、「なんだかサミシイね」と話しかけたけれど、ナオキは黙っていた。

 私の左手に、まだ指輪ははめられていなかった。



4.ミーコのおトイレ


 会社では大人に見えたナオキが、実はそうじゃないと気づいたのは、一緒に暮らし始めてすぐのこと。
 気付かせてくれたのは、猫のミーコだった。

 ミーコは、元々ナオキが拾った猫だ。
 住んでいたアパートはペット禁止だったため、しばらく隠れて飼っていたけれど、鳴き声が漏れて隣人からクレームが来ていたという。
 ナオキは悪びれもせず「だから、ちょうど俺も引っ越したかったんだ」と笑った。

『だらしないよ』

 ついそんな言葉が漏れかけて、私は作り笑いでごまかした。
 子どもが「アレ欲しい」と玩具をねだる感覚で動物を飼うなんて、信じられなかった。
 世話がしきれなくなって困った頃に、ナオキは私という人材を見つけたのだ。
 我慢強くて泣かない、自分の言いなりになってくれる家政婦を。

 ナオキの本音に気付いてしまった私は、それまでと同じ気持ちではいられなかった。
 増殖する不満と足並みを合わせるように、私は結婚への歩みを遅らせた。

  * * *

 決定的な出来事が起きたのは、一緒に暮らし初めて二度目の夏。
 ナオキと夏休みの日程が合わなかった私は、お盆の一週間を使って九州の実家へ帰った。
 上京してから初めての帰省だったし、私はそれなりに楽しみにしていたのに……到着して早々、お母さんから「あんた、そろそろ同棲相手とケジメつけなさいよ!」と頭ごなしに怒鳴りつけられた。
 お父さんは何も言わなかったけれど、ただ悲しそうに私を見ていた。

 古くて堅い土地柄だし、一人娘の私が心配なのは良く分かる。
 でも、滞在中ずっと『だらしない』と責められ続け、かなり後味の悪い帰省になってしまった。
 疲れた体と重い荷物を引きずりながら東京へ戻り、家のドアを開けた瞬間……私は思わず眉をひそめた。

「なんか、臭い」

 悪臭の元は、玄関脇に置いてあるミーコのトイレだった。
 一週間は持つというシートを取り替えたのは、私が帰省する三日前。
 シートを見てみると、そこには気持ちの悪い小さな虫が大量にわいていた。
 乱暴にリビングの扉を開け放つと、寝間着姿でカーペットに寝転がっているナオキがいた。
 ただいまの挨拶も忘れて、私は怒鳴った。

「ちょっと! あんたなんでミーちゃんのおトイレ掃除してくれなかったの!」
「俺も、一昨日からミー連れて実家帰ってたからさー」
「家空ける前に、おトイレ綺麗にしてってよ!」

 言ったところで、無駄だということは分かっていた。
 主人であるナオキが、家政婦の言うことなど聞くはずが無いのだ。
 私の心は、湧き上がってくる醜い感情に支配された。

 食器を洗わずシンクに放置したり、洗濯物を丸めたままにしたり、お風呂の排水溝を詰まらせたりするのはもう当たり前。
 好きだから何でもやってあげたいというポジティブな気持ちは、同棲一年目で枯れ果てた。
 最初の約束では、結婚して私が専業主婦になるまでは交代制のはずだったのに。
 せめて「いつもありがとう」の言葉だけでもくれたら、頑張れるのに。

 アレもしてくれない、コレもしてくれない。
 気持ちの悪い虫のついたシートをゴミ袋へ放り込みながら、私はくすぶり続けていた不満を洗いざらいぶちまけた。
 今朝までさんざん聞かされた、母親そっくりの粘着質な口調で……。

 ヒステリックに怒鳴り散らす私に、ナオキは背中を向け続けた。



5.DVストアのお弁当


 その夜。
 くつろげなかった夏休みと、明日からまた仕事が始まること、なによりナオキと本格的なケンカをしてしまったというショックが重なり、私は疲れ切っていた。
 普段なら栄養バランスを考えた晩御飯を作るのだけれど、そんな気力は残っていなかった。

 私が何を言っても無反応で、カーペットに寝転がったまま一切動かなかったナオキが、一言「メシは?」と呟く。
 一緒に暮らし始めた頃、良く二人で料理を作ったことを思い出し、私は涙混じりのため息をついた。
 ソファに寝転がり、面白くもないテレビを眺めながら、私は吐き捨てるように言った。

「もう私、今日はご飯作らないから。コンビニでお弁当でも買ってくれば!」

 ナオキは無言で出ていき、しばらくすると『DVストア』とプリントされたビニール袋をぶらさげて帰ってきた。
 駅前にはチェーンのコンビニもあるけれど、うちから一番近いのがこの店だ。
 住宅街には珍しく夜十一時まで開いているので、たまに利用する。
 元々『二村商店』という名前の古い酒屋だったのが、改装と同時にそんな洒落た名前になり、手作り惣菜などの食品を置くようになった。

 半透明のビニール袋からは、二つのお弁当が透けて見える。
 正直私は、それを見て少しだけ反省したのだ。
 この街に初めて来た日、ナオキが差し出してくれた二百円を思い出して。
 内気な私が勇気をふりしぼって自分からアタックして……その後ニ年も一緒に過ごしてきた大事な人。

 その時、私が一言「ごめんね」と口にすれば、別の未来が待っていたのかもしれない。
 でも、意固地になった私は、ふてくされた顔を崩せなかった。
 ナオキは、無表情のままキッチンに向かい、二つのお弁当のうち一つをレンジにかけた。
 容器を包んでいるラップが溶けるほど加熱されたお弁当を、あちいなと呟きながら運んでくる。
 それをリビングのローテーブルに置き、私の目の前でひしゃげた蓋をはずし……。

「――てめえはそれでも食ってろ!」

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。
 私の頬に張り付いた照り焼きハンバーグが、ベチャリと胸元へ落ちる。
 大ぶりのから揚げ、赤いケチャップをまぶされたスパゲッティー、ポテトサラダとほうれん草のおひたしが少し、あとは大量の米粒が……私の顔めがけて投げつけられ、合革のソファやオフホワイトのカーペットに飛び散った。
 ナオキはもう一つの弁当を温めると、呆然として座り込む私に見向きもせず、自分の部屋へ消えた。

  * * *

「昨日はすまなかった……許して欲しい」

 翌朝、ナオキは私に頭を下げてきた。
 プライドの高いナオキが、知り合ってから初めて口にする謝罪の言葉だった。
 一晩中リビングで泣きじゃくり目を腫らした私は、なぜかナオキのことを『可哀想なひとだ』と思った。
 口が勝手に「わかった、ゆうべのことは忘れるね」と囁いていた。

 あの時、ナオキは人として越えてはいけない線を越えてしまったのだと思う。
 ナオキに押し出されるように、私もその線を越えた。

 ナオキの態度は、それから少しずつ変わっていった。
 ささいな口論からスタートして、最後は容赦なく振るわれる暴力。
 背が高いだけで、運動などは一切していない細身な体だけれど、やはりその手は男の手だ。
 たった一振りで、私は人形のように吹き飛んだ。
 ぶつかった壁はへこみ、リビングのガラス戸にはヒビが入ったけれど、そのまま放置されている。
 私もナオキもお金が無いし、修理したところでまた同じことになると分かっていたから。
 しだいに壊れていく部屋を見ないように心を麻痺させながら、私はナオキとの暮らしを続けた。

  * * *

 その夏の終わりに、ミーコが死んだ。
 お前が殺したのかと殴られ、蹴られ、ミーコの遺体を投げつけられても、私は抵抗しなかった。
 鼻血が止まった後、私は彼女の遺体を三枚重ねたビニール袋に入れた。
 一番外側には黒いゴミ袋、内側のニ枚はDVストアの袋だ。

 あの日食べた弁当のから揚げが相当気に入ったらしく、ナオキは毎晩DVストアに通うようになった。
 食事の支度をしなくて済む分、私は部屋の片付けや通院に時間を取られるようになった。
 仕事も相変わらず忙しく、食べるものといえば、チョコレートやポテトチップなどのお菓子ばかり。
 おかげで肌が荒れて化粧品もかぶれるようになったし、ずいぶん太ってしまった。

 私はミーコと一緒に、要らなくなった化粧品や洋服をゴミ袋に詰めた。
 ナオキからプロポーズされた日に着ていた、ベージュのワンピースも。
 ずっしりと重くなった袋を抱えてマンション一階のゴミ捨て場へ行き、青いポリバケツに放り込むと、少しだけ心が軽くなった。

 これで、少し家事が楽になる。
 余計な出費も減る。

「ごめんね、ミーコ」

 一瞬浮かびかけた笑みを消し、私は部屋に戻った。


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