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「一分間のラブストーリー」
初恋


初恋 本編

2011.10.02  *Edit 

 ゆらゆらと、笹舟が流れていく。
 降り注ぐ日差しを跳ね返し、さざめくたびに色を変える水面。黄緑色の小船が、そよ吹く風に煽られ小川をゆっくりと下る。頼りなげなその様を見て、優《ユウ》は目を細めた。水に沈むまいと抗う健気さに、心がとらわれる。
「ユウ、あんまり乗り出すと川さ落ちっぞ」
「大丈夫だよ」
 優は隣を歩く少年――恵司《ケイジ》に笑いかけた。
 梅雨の晴れ間の太陽は、雲に隠され続けたうっ憤をはらすかのように、強烈な熱をまき散らす。およそ運動とは縁のない恵司は、川べりの道を十分ほど歩いただけですっかり汗だくだ。皆が半袖の体操着で通学する中、恵司は長袖のワイシャツにネクタイという校則通りのいでたち。第一ボタンまできっちり止めたシャツに、恵司の性格が表れている。
 ……全く、見ているこっちが暑苦しい。
 優は涼しげに波打つ川面に視線を戻すと、無邪気に微笑んでみせた。
「でもさ、入ったらきっと気持ちいいよ?」
「バカだなぁ、こんなどぶ川ば入って、気持ちいいわけねぇべや」
 吐き捨てるように告げる恵司。優は心の中で「うちの近くの川はもっと黒くて臭い、本物のどぶだったよ」と囁いた。
 優の胸に蘇る、生まれ育った街。灰色のアスファルト、生温いビル風、車の排気ガス。
 今視界に映るのは、見渡す限りの緑だ。
 優がこの町へ移り住んで、早一ヶ月。前の街と比べては「全然違う」と驚嘆の声をあげていた優は、気付かなかった。素直過ぎるその言葉が、周囲を傷つけていたことを。
 中三の夏。季節外れの転校生に、憧憬の眼差しを向けていたクラスメイトは、数日で態度を一変させた。優を『都会モン』と呼び、仲間の輪から締め出した。優は無口で大人しい生徒として、再出発せざるをえなかった。
 完全な孤独ではないことが、不幸中の幸い。先に皆の輪からはみ出していた生徒が、優を受け入れてくれた。それが恵司だった。
『――その本、俺も読んだ。面白れぇべ』
 休み時間を無言で過ごすようになり、三日目の朝。寂しさに耐えかねた優は、逃げ場を求めて一冊の文庫本を開いた。父の本棚から適当に抜いたその本は、あっという間に優を別世界へと連れ去った。だから優は、突然耳元で響いた低い声に、心底驚いたのだ。
 そして、戸惑ったのは優だけではなかった。優を遠巻きに眺めていた生徒たちが、一斉にざわついた。その反応を見た彼は「何でもねぇ」と呟き、すぐさま優から離れていった。
 彼がいわゆる〝村八分〟扱いの男子ということは、優も知っていた。でもそのときの優にとっては、小柄でやせっぽちで平凡な顔立ちの少年が、救いの神に見えた。
 放課後、優が下駄箱を開けると、折り畳んだルーズリーフがあった。『本の話がしたい。伊瀬川の中橋の下で待ってる』――優は差出人を思い浮かべ、一人笑みを漏らした。皆の悪意が優に飛び火しないように……そんな気遣いに胸が熱くなった。
 川沿いの土手を下ると、群生する隈笹の陰に文庫本を手にした恵司がいた。教室とはうって変わり、優に屈託ない笑みを向けてくる。優も笑顔で手を振った。たいした自己紹介もせず、そのまま読書談義に興じた。恵司の放つ言葉は、どこか都会の匂いがした。
 この町は素朴過ぎる。優や恵司などの〝頭でっかち〟な子どもは、それだけで周囲から浮いてしまうのだ……優はそう結論付けた。
 それから優は、恵司との距離を少しずつ縮めていった。ただ恵司は『学校では俺に近づくな』と優に強く命じた。
 時折恵司は大柄な男子に取り囲まれ、罵声を浴びせられていた。優にできるのは、唇を噛み目を伏せることだけ。空しさは、恵司と川べりを歩く時間で埋めた。
 恵司は、初めて声をかけてきたときから優にやさしい。今もそうだ。ぼんやりと笹舟を追う優が砂利に躓くのを見るや、太めの眉をくっと寄せぶっきらぼうに言い放つ。
「この川、浅そうに見えっけど、場所によっては意外と深ぇんだ。水も冷やっこいしな」
「ふーん?」
「油断すっと、本当に落ちて風邪ひくぞ」
 優を気遣う台詞とそぐわない、川面をねめつける鋭い眼差し。優はその意味を悟った。
 恵司は、この川に落ちたことがあるのだろう。いや、落とされたのかもしれない……。
「そっか、じゃあ諦めよっと」
 哀しみを胸に秘め、優は明るい声をあげた。
 キラキラ、光る水面。
 ここに飛び込むことができないのなら――
 優はくるり、と身体を反転させた。お下げ髪が肩先で弾み、膝丈のスカートが翻る。
 恵司の正面に立ち、眩い太陽を背に、笑う。
「ケイ、夏休みになったら、海に行こうよ!」
 手の平を差し出す優。恵司は優の瞳をまじまじと見つめ……そっと、その手を握った。


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【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
去年のフェリシモ落選作です。一年寝かせて公開……読み直したんだケド、これはこれでいいような気がしたので、改稿せずそのまんまです。この作品ですが、テーマそのものを『三分間のボーイミーツガール』に転用(男子視点のラノベに加工)してみました。それくらい好きなネタです。イジメとかリアルにぶち当たると重苦しいものですが、それに屈しないことが幸福への一歩という気がして。救いはどこかにあるんだよ、というあたりも大事なメッセージですな。(……と、たまにはまぢめなことも言ってみる。(* ̄┏Д┓ ̄*)ゞ ※ちなみにこの話は、物書きオフのネタでもありました。「一人一作掌編作ってくるよーに!」という苛酷な指令の元に集結し、薄暗いカラオケボックスで十名ほどが回し読みしたという思い出がw その時「この話BL?」という意見もあったのですが、読み返すとそんなニオイがしないでもない……一応ラストに、優がスカート姿晒してるんだけど、なぜか途中まで性別不詳で書いてた。たぶん叙述トリック癖がついてるんだと思う。もしくはBL癖が。←




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