喉ニ小骨ガ

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「その他掌編」
レイニーデイ ~雨音に魔法をかけて~


レイニーデイ ~雨音に魔法をかけて~ 本編

2011.06.10  *Edit 

「雨が降ればいいのに」
 窓の外は、今にも泣き出しそうな曇り空。俺は湿っぽい机に頬杖をつき、溜息混じりに呟く。
 願いを聞きつけたのは、神様でも雷様でもなく……隣の席の愛だった。
「一《はじめ》君、雨が好きなの?」
 やや太めな眉の下、つぶらな瞳を真ん丸にして不思議そうに小首を傾げる。その表情は同い年に見えないほどあどけない。ショートの黒髪がサラリと揺れ、天使の輪がキラキラ輝く。
(うぉおおおちくしょお可愛いぜッ!)
 なんて心の叫びは一ミリも漏らさず、俺は冷淡に言い放った。
「や、別に」
 これは行き過ぎた照れ隠し。こんな態度だから、高校に入学して二ヶ月も経つというのになかなか友達ができない。女子に話し掛けられることなど皆無だ。
 この、天然鈍感キャラの愛以外には。
「あ、何か隠してるー。ね、教えて? お礼するから」
「……次の体育、マラソンでダルイってだけ」
「へえ、一君が愚痴ってるの初めて見たよ。ちょっと新鮮!」
 愛は瞳のキラキラ指数を上げ、小柄な身体をズイッと寄せてくる。ヤバイ。これ以上近寄るな。イイ匂い過ぎて鼻血吹く。
「じゃ俺そろそろ行」
「待って、お礼がまだ」
「別にいいって」
「まあ聞いてよ、実は私魔法使いなんだ。今から一君の願いを叶えてあげる! ね、目瞑って三秒数えて?」
 ざわつく教室の片隅、俺は動悸息切れを必死で抑えつつ目を閉じた。と、耳をくすぐる愛の囁き声。
「さん、に、いち」
 ――コツン、コン、コン。
「……へ?」
 俺のつむじにぶつかり、机の上で二回バウンドしたそれは。
「えへっ。『飴が降りました』……なんて」
(うぁあああ可愛いっていうかもう!)
「ばぁか」
 俺は苦笑と共に立ち上がり、駄洒落魔法使いの頭を軽く小突いた。愛がむうっと唇を尖らせるから、仕方なく飴玉を口に放り込む。
 キュンと甘酸っぱいレモン味。包み紙のイエローがどこか懐かしい。
「あ、美味い」
「でしょ、私のお気に入りなんだッ」
 パアッと明るい笑顔に戻る愛。
 甘い物は苦手だけど……まあ、これなら悪くない。

「うわ、今更かよ……」
 昇降口を出ようとした途端、待ち望んだ雨。激しく叩き付ける雨脚に顔をしかめ、行くしかないかと折り畳み傘を取り出しかけたとき。
 視界の端に、キラキラ輝く天使の輪が映った。
「一君ッ!」
 セーラーのリボンを弾ませて、愛が駆けてきた。「委員会の仕事長引いちゃって」と軽やかな声が届くも、右から左へツツーと抜けていく。
(これは俗に言う『相合傘』フラグッ! いや待て落ち着け俺、残念ながら愛の家とは方向が真逆。「送るよ」ってのもさすがに不自然だ……)
「あ、もしかして一君も傘無いの? 私もなんだ。困ったねぇ」
 そわそわする俺を見て勘違いした愛が、目尻をふにゃんと下げて笑う。今更「傘あるし」とは言い出せない。かといって相合傘は難しく、この傘を貸すと言っても遠慮するに決まってる……だったら。
「あのさ、愛」
「うん?」
「目瞑って十秒……いや、三十秒数えてくれ」
「えっ、一君も魔法使うの?」
 俺が神妙な面持ちで頷くと、愛は恐る恐るというように瞼を下ろした。
 その瞬間、愛の世界は雨音だけになる。そして律儀な愛が「さんじゅう」と呟いたとき、俺の姿は消えているのだ。
 足元に、一本の傘を残して。

「うー……だりぃ、母さん水……」
「傘失くすなんてバカねぇ。次は柄のとこにでっかく名前書いときなさい。『一』って」
「それただの線にしか見えねーし……」
 母さんが「もっと変な名前つけりゃ良かった」と微妙な文句を垂れつつ部屋を出ていく。俺は苦い薬を飲み下しベッドにダイブした。
「うう、無様だ……」
 あんな気障なことをしておいて、翌日風邪で寝込むとは。恥ずかしくてもう愛に合わせる顔が無い……でも、やっぱり会いたい……。
 止むことのない雨音。心地良いまどろみに落ちる俺に、神様はささやかなご褒美をくれた。
 セピアな夢の中に現れたのは、制服姿の愛。
 トレードマークの笑顔は消え、捨て犬みたいな目で俺を覗き込む。
『一君、昨日は魔法の傘ありがとね。だけど……』
 ああ、ゴメン。そんな顔させたかったわけじゃないんだ。
『だって、私のせいで』
 いいって。俺にとっては、愛が濡れない方が大事だったからさ。
 目を真ん丸にした愛が「本当?」と尋ねる。俺は「本当だよ」と素直に答える。教室では言えない言葉たちが、静かな雨音に溶けていく。
『……ありがと。お礼に魔法かけてあげるね。風邪なんてすぐ治っちゃう、特別な魔法だよ』
 聴き慣れた「さん、に、いち」の囁き声。チャリッという包み紙の音。仄かなシャンプーの香り。
 そして――俺の唇にそっと触れた、レモンの甘み。
『一君、大好きだよ……早く良くなってね』


 翌日、すっかり熱が引いた俺が学校へ行くと、なぜか愛は居なかった。
 愛の友人曰く、誰かに風邪を移された、らしい。
 俺は「バカだなぁ」と苦笑し……夕立の中、家とは逆方向に歩きだした。
 口にレモン飴を放り込み、いつの間にか戻ってきた『魔法の傘』を広げて。


※以下、おまけの『初稿バージョン』です。某評価サイトにて「ちゅーは口にするべき」とのご意見を聞く前は「ちゅーはほっぺだっぺ!」と思ってました。飴もシュワシュワサイダーです。こう見比べると、やはり改稿は大事だなぁと思う……おろろろ。(´・┏Д┓・`)


「雨が降ればいいのに」
 窓の外は、今にも泣き出しそうな曇り空。俺は湿っぽい机に頬杖をつき、溜息混じりに呟く。
 願いを聞きつけたのは、神様でも雷様でもなく……隣の席の愛だった。
「一《はじめ》君、雨が好きなの?」
 やや太めな眉の下、つぶらな瞳を真ん丸にして不思議そうに小首を傾げる。その表情は同い年に見えないほどあどけない。ショートの黒髪がサラリと揺れ、天使の輪がキラキラ輝く。
(うぉおおおちくしょお可愛いぜッ!)
 なんて心の叫びは一ミリも漏らさず、俺は冷淡に言い放った。
「や、別に」
 これは行き過ぎた照れ隠し。こんな態度だから、高校に入学して二ヶ月も経つというのになかなか友達ができない。女子に話し掛けられることなど皆無だ。
 この、天然鈍感キャラの愛以外には。
「あ、何か隠してるー。ね、教えてッ。お礼するから」
「……次の体育、マラソンでダルイってだけ」
「へえ、一君にも苦手なことってあったんだ。何でもできちゃう人だと思ってたから、ちょっと新鮮!」
 愛は瞳のキラキラ指数を上げ、小柄な身体をズイッと寄せてくる。ヤバイ。これ以上近寄るな。イイ匂い過ぎて鼻血吹く。
「じゃ俺そろそろ行」
「待って、お礼がまだ」
「別にいいって」
「まあ聞いてよ、実は私魔法使いなんだ。今から一君の願いを叶えてあげる! ね、目瞑って三秒数えて?」
 ざわつく教室の片隅、俺は動悸息切れを必死で抑えつつ目を閉じた。愛の囁き声が耳をくすぐる。
「さん、に、いち」
 ――コツン、コン、コン。
「……へ?」
 俺のつむじにぶつかり、机の上で二回バウンドしたそれは。
「えへっ。『飴が降りました』……なんて」
(うぁあああ可愛いっていうかもう!)
「ばぁか」
 俺は苦笑と共に立ち上がり、駄洒落魔法使いの頭を軽く小突いた。愛がむうっと唇を尖らせるから、仕方なく降ってきた飴を口に放り込む。
 シュワッと弾けるサイダー。包み紙のブルーがどこか懐かしい。
「美味い、な」
「でしょ、これお気に入りなんだッ」
 パアッと明るい笑顔に戻る愛。
 甘い物は苦手だけど……まあ、たまには悪くない。

「うわ、今更かよ……」
 昇降口を出ようとした途端、待ち望んだ雨。激しく叩き付ける雨脚に顔をしかめ、行くしかないかと折り畳み傘を取り出しかけたとき。
 視界の端に、キラキラ輝く天使の輪が映った。
「一君ッ!」
 セーラーのリボンを弾ませて、愛が駆けてきた。「委員会の仕事長引いちゃって」と話し掛けられるものの、右から左へツツーと抜けていく。
(これは俗に言う『相合傘』フラグッ! いや待て落ち着け俺、残念ながら愛の家とは方向が真逆。「送るよ」ってのもさすがに不自然だ……)
「あ、もしかして一君も傘無いの? 私もなんだ。困ったねぇ」
 そわそわする俺を見て勘違いした愛が、目尻をふにゃんと下げて笑う。今更「傘あるし」とは言い出せない。かといって相合傘は難しく、この傘を貸すと言っても遠慮するに決まってる……だったら。
「あのさ、愛」
「うん?」
「目瞑って十秒……いや、三十秒数えてくれ」
「えっ、一君も魔法使うの?」
 俺が神妙な面持ちで頷くと、愛は恐る恐るというように瞼を下ろした。
 その瞬間、愛の世界は雨音だけになる。そして律儀な愛が「さんじゅう」と呟いたとき、俺の姿は消えているのだ。
 足元に、一本の傘を残して。

「うー……だりぃ、母さん水……」
「傘失くすなんてバカねぇ! 次は柄のとこにでっかく名前書いときなさい。『一』って」
「それただの線にしか見えねーし……」
 母さんが「もっと変な名前つけりゃ良かった」と微妙な文句を垂れつつ部屋を出ていく。俺は苦い漢方薬を飲み下しベッドにダイブした。
 我ながら貧弱にも程がある。マラソンと雨の中のダッシュだけで、身体がへばった。
 本当は愛に会いたかった。でも会うのが怖くもあった。駄洒落なんてレベルじゃなく、恐ろしく気障なことをしてしまったから……。
 止むことのない雨音。心地良いまどろみに落ちる俺に、神様はささやかなご褒美をくれた。
 セピアな夢の中に現れたのは、制服姿の愛。
 トレードマークの笑顔は消え、捨て犬みたいな眼で俺を覗き込む。
『一君、昨日は魔法の傘ありがと。だけど一君は……』
 ああ、ゴメン。そんな顔させたかったわけじゃないんだ。
『だって、私のせいで』
 いいって。つか、飴くれよ。それでチャラにしてやるから。
『……わかった。お礼に魔法かけてあげるね。風邪なんてすぐ治っちゃう、特別な魔法だよ』
 聴き慣れた「さん、に、いち」の囁き声。雨音。チャリッという包み紙の音。甘いシャンプーの香り。
 そして――温かく柔らかな何かが、俺の頬にそっと触れた気がした。
『一君、大好きだよ……早く良くなってね』


 翌日、すっかり熱が引いた俺が学校へ行くと、なぜか愛は居なかった。
 どうやら誰かに風邪を移されたらしい。
 俺は「しょうがねぇな」と苦笑し、夕立の中、家とは逆方向に歩きだした。
 口の中にサイダー飴を放り込み、いつの間にか戻ってきた『魔法の傘』をさして。


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