喉ニ小骨ガ

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「その他短編」
凡人・大木広人の事件簿 ~密室、消えたP&Uの謎~


凡人・大木広人の事件簿 ~密室、消えたP&Uの謎~ 本編(完)

2010.11.15  *Edit 

 放課後の屋上は、早朝以上に静かだった。
 雨が近づいているのか、薄暗い曇り空から吹きつける風は、湿り気を帯びて冷たい。薄手のワイシャツとズボンでは少し肌寒い。より薄手のブラウスとミニスカート姿の女子は、俺達以上に寒く感じることだろう。
 緊張のせいもあって冷えた指をこすり合わせると、カチカチと金属音が鳴った。
 俺の手には、いつも靴箱に引っかけてある南京錠が握られている。U字のフック部分を押し込むだけで簡単にロックがかかる、シンプルな鍵だ。
 それを指でいじりながら、俺はこの事件の流れをもう一度頭の中で整理した。

 まずは『密室P&U事件』だ。
 昨日の夕方、俺はこの鍵をかけて帰宅した。その時、靴箱の中には何もなかった。今朝登校して、ウメに靴箱を開けさせるまでは……。
 靴箱の側面や扉に仕掛けはない。つまり、犯人は確実にこの鍵を開けて、P&Uを入れたということになる。
 直後の『消えたP&U事件』については、誰にもアリバイは無い。ゴリゴも含めて、全員がP&Uを隠せたということになる。教室やトイレや用務員室、または職員室へ行くフリをして、一旦靴箱の影に隠れる。俺が立ち去った後、すばやくP&Uを処分すれば良いのだ。
 PもUも、サイズ的にはかなり小さいし、ズボンやスカートのポケットに入れて隠そうと思えば隠せる。ただ、不自然にこんもり膨らんでしてしまうだろうけれど……それこそトイレにでも寄って捨ててしまえばいい。
「謎は全て解けた……とカッコ良く言いたいとこだけど、細かいとこが分かってないんだよなぁ」
 まあいいか、と俺は思った。
 犯人は、もうすぐここにやってくるのだから――。

『ギィィッ……』
 錆びついた屋上のドアが、悲鳴のような音を立てて開いた。
 そこに現れたのは……。
「どうしたの? 大木君」
「わざわざごめんね、水瀬さん」
 秋風に煽られ、栗色の長い髪が波のように揺れる。
 その髪を白く薄い手のひらで抑えながら、彼女は天使のように微笑んだ。



 教わったばかりのメアドを活用して、俺は水瀬さんを放課後の屋上へ呼び出していた。
「ここ寒いから、単刀直入に聞くよ……正直に答えて欲しいんだ」
 彼女は「何のことか分からない」といった、無垢な仔猫の目で俺を見上げる。
 俺の信念はぐらつきそうになる。けれど、言わなきゃいけない。
 静まれ心臓、と心の中で怒鳴りつけ、俺は声が震えないように腹の底から息を吐き出しつつ、その一言を告げた。
「――犯人は、君だね?」
 彼女は答えなかった。その代わりに、ふっと笑った。
 それはいつも見せている温かな笑みではなく、吹きつける北風のような冷笑だった。
「……一応、理由を聞いてあげる。どうしてそう思ったの?」
 やはり、話は長くなりそうだ。
 俺はすっと彼女に近づいた。今度は野良猫のように怯えた目をして、俺を睨みつけてくる。なるべく優しく微笑みかけながら、俺は彼女の手を引き、給水塔の影の少しだけ風が弱まる場所へと誘導した。彼女は俺の手を振り払うと、少し顔を赤らめて「ありがと」と呟いた。
 予想外、いや理想的なツンデレっぷりだ。
 蕩けそうになる男心をグッと抑え、俺は考えたことを順序立てて伝える。
「えっと……最初に思いついたキッカケはね、単純に水瀬さんにだけ“動機が無い”からだったんだ」
「どういう意味?」
「あの通り、ウメと葵の二人とはいつも馬鹿げたやり取りをしてる。だから、手の込んだ悪戯を仕掛けるのには、単純に“俺をからかう”って動機がある。ゴリゴは、いつも学生の揉め事を探してる。たぶん生徒から頼られたり尊敬されたいんだろうな。俺との接点だけど、たまたま体育の授業でサッカーがあってから、目をつけられてたんだよね。サッカー部に入れってしつこくてさ。まあ、あんなバカらしいことをするには、動機が弱過ぎるけど」
「……となると、私には全く動機が無いってことよね。だって大木君とは、ちゃんと話したのって今日が初めてでしょう?」
 彼女を襲う冷たい風に対して、少しでも盾になるよう、俺は胸を張りながら告げた。
「そう……それなのに、君が“動機を考えろ”って言ったからさ。行き詰って、犯人探しを諦めかけていた俺に、わざわざヒントを与えるみたいにね」
 なぜ、他の悪戯じゃなかったのか?
 なぜ、パンツとウ○コだったのか?
「おかげで俺、思い出したんだ。パンツとウ○コ……この二つの言葉を良く使ってた時期があったなって。小学校低学年の頃だった」
 彼女は唇を噛み、自分を抱きしめるように胸の前で腕をクロスさせる。そうやって腕を組むのは、自分を守りたい気持ちの表れだと、テレビで心理学者が言っていた。
 彼女の張った透明なガードを突き破るべく、俺は腹の底に力を込めて語った。
「あの頃、隣のクラスに男勝りな女の子がいてね。いつも俺達男子に張り合ってきた……名前はハッキリ覚えてないけど、確か“みっちゃん”って呼ばれてた」
 おぼろげな記憶の中で、こんがり日焼けしたショートカットの少女が顔をくしゃくしゃにして笑う。太陽をバックに「キシシ」と笑い声を立てて。
 あれは確か、俺を落とし穴にハメた時のことだ。みっちゃんの背後では、いつもすぐ泣く女子達も俺を見下ろしながら笑っていて、本当に悔しかった。あの落とし穴事件を機に、男子対女子の壮絶な戦争が起こった。
「みっちゃんはいつもズボンだったから、俺らは“男女”ってからかってさ。珍しくスカート履いてきたとき、真っ先にスカートめくりで攻撃したんだ。そしたら、みっちゃんのパンツのお尻に、茶色い熊のイラストがあって……」
 そう、みっちゃんのお尻は小さくて、そこにプリントされた熊は可愛かった。
 だから思わず、言ってしまった。
「みっちゃんのパンツに、ウ○コがついてる……ってさ。ははっ!」
「笑うところじゃないでしょっ!」
 キッと俺を睨みつけるアーモンド形の勝気な瞳が、やせっぽちで気の強いみっちゃんと重なる。胸の中が、懐かしさと甘酸っぱさで満たされていく。
「まあまあ、良く言うじゃん。あの年代の男は、好きな子ほどいじめたくなるって」
「――ッ!」
 俺は自分の放った台詞の意味に気付かないまま、回想を続ける。
 みっちゃんは、男子から『ウ○コ』と囃したてられるようになった。当時流行っていた『みっちゃんみちみち~』という歌と同じあだ名だったことが災いして。
 みっちゃんは顔を真っ赤にしながら「歌うのやめろ!」と追いかけてくる。俺達は蜘蛛の子を散らすみたいに逃げた。男子の集団がバラけても、最後まで俺を狙ってくるから、俺はみっちゃんをからかうのをやめられなかった。
 でもその後すぐに、みっちゃんは遠くに引っ越してしまった。そのときはとても寂しかった。先生に住所を教えてもらい、俺は心を込めて手紙を書いた。
 ただ、返事は来なかった。俺は布団の中でこっそり涙して、全部を忘れることにしたんだ。これからは、絶対に女の子をいじめないと誓って。
 自ら閉ざした記憶の扉は、予想以上に硬かったらしい。それから今日まで、みっちゃんのことは一度も思い出さなかった。転校してきた水瀬さんを見ても、靴箱の中のP&Uを見ても。
 水瀬さんは俯き、何かを堪えるように震えている。その儚げな容貌は、みっちゃんと違い過ぎる。
 けれど、俺はどっちの女の子も、最強に可愛いと思った。
「……った」
「うん?」
 ふと漏れ聴こえた、か細い声。俺は軽く屈み、彼女の唇へと耳を寄せる。
 そして次の台詞に、胸を痛めた。
「辛かったの……」
「そうだよな。ゴメンな」
 あの頃どうしても言えなかった言葉、手紙に記した言葉が、ようやく届けられた。それでも彼女は俯いたままで……。
「一生許さないって思った。大木広人のこと」
「うん、これから復讐してくれていいよ。俺のこと凡人の“凡ちゃん”とか、いっそ“ウ○コ菌”って呼んでくれても構わないから」
「バカ……」
 呟いた彼女の大きな瞳から、ポロリと涙の雫が落ちた。



 母さんが「いつかどこかで役に立つから」と、常にフレッシュなハンカチを仕込んでいてくれた。それが、本当に活躍する日が来るとは思わなかった。
 俺の差し出した水色のハンカチで目元を拭った彼女は、声をあげず静かに泣いていた。
 こんな風に、泣き声を我慢することに慣れているんじゃないか……なんとなくそう感じた俺は、彼女の気持ちが少しでも浮上するようにと、不自然なくらい明るい声で問いかける。
「でも水瀬さんがみっちゃんだなんて、全然気付かなかったなぁ。見た目もキャラも違うしさ」
「……大木君は、私のことなんてすっかり忘れてたってだけでしょ? 見た目は変わっても、名前は一緒なんだから」
「うっ……まぁ、確かに忘れてたけどさ」
「私の方は、わざわざ大木君が居る学校調べたのに。しかも眼鏡のもやしっ子になってても、すぐ分かったのに」
 彼女はむっつりと膨れて、さりげなく嬉しいことを言う。俺はニヤケそうになる口元を抑え、神妙な面持ちで伝えた。
「あー、それ一個言い訳させて。俺みっちゃんのこと、あえて忘れようとしたんだ。軽いトラウマっていうか……俺みっちゃんが転校した後、手紙出したんだよ? 返事が来なくてマジ泣きしたんだから」
 すると、彼女は弾かれたようにパッと顔を上げる。
「嘘、そんな手紙知らないよ? 届いてないもん」
「うーん……もしかしたら、俺の字が汚すぎて郵便屋さんが読めなかったのかもなぁ。差し戻そうにも、俺んちの住所も読めないだろうし……」
 自虐ネタでまんまと彼女を笑わせることに成功した俺は、調子に乗って当時の思い出を面白おかしく語る。小学生の頃、この町はもっと緑に溢れていて、俺達は日々大冒険を繰り広げていたのだ。
 懐かしく愉快な思い出話がひと段落したところで、俺は話の核心に触れた。
「ところでさ、あの密室と消えたP&Uのこと教えてくれよ。アレどうやったの?」
「……もう、だいたい分かってるんでしょ?」
 ハンカチを目元から離した彼女の瞳から、涙の輝きは消えていた。代わりに浮かぶのは、葵と同質の好奇心。
 誰にでも振りまく天使の仮面を外して、昔のように明るく活発な“みっちゃん”に戻った彼女は、罠を仕掛けた小悪魔のようにキュートな笑みを向けてくる。
 俺は彼女の目の前で、靴箱から持ってきた例の鍵をプラプラと振った。
「とりあえず、この鍵のカラクリだけはね……これ、昨日水瀬さんがすり替えたんだろ? もう一個同じやつを持ってて」
「うん、大正解」
 駅前の百円ショップで売っていて、この学校の生徒も多数愛用している、平凡な鍵。
 鍵穴まで一緒なものは無理でも、同じデザインのものなら、誰にでも簡単に入手することができる。
「少し前に、同じ鍵を買っておいたの。たまたま前に読んだ小説に、南京錠のトリックがあったから……アレをやってやろうと思ってね。ちょうど今日は朝早くから文化祭委員の会合があるっていうし、仲良くなる前に思い出させてやりたくて」
 不敵に笑う彼女は、スカートのポケットから、俺と同じ形の鍵を取りだした。
「昨日のお昼休みに、大木君の持ってるその鍵と、私が買ったこの鍵を交換しておいたの。ロックがかかってなければ、穴に引っかかってるだけだから、すり替えるなんて本当に簡単」
「俺は何も知らずに、そっちの鍵をロックして帰ったんだな」
「そう。あとは今朝私が大木君達より早く学校に来て、私の持ってる方の鍵で靴箱を開けて、アレを置いて……今大木君が持ってる、元々の鍵の方をつけ直せば完了」
 まるで双子がこっそり入れ替わるみたいに、同じ形の南京錠が、昨夜だけ入れ替わった。
 鍵が一つしかないという思い込みが、真実を覆い隠した。
「今朝さ、俺の携帯をウメが普通に取ってただろ? そこでピンと来たんだ。ウメとは携帯の機種が同じだし、自分のだと思ってたものが人のかもしれないって。あとは、うちの母親がそっくりな豆腐を『微妙に違う』って言い張ったり……タイミング良くヒントがあってさ」
「……大木君って、やっぱり頭いいよね。普通そんなことで思いつかないよ」
「まあ結局鍵のトリックが分かったところで、それこそ犯人は誰でもいいってことになるんだけどね。決め手は、水瀬さんがくれた“動機”に関するヒントだったから」
 他にも、唐突に俺を「信じる」と言ってくれたり、昔話を仕掛けたり、熊のストラップを見せたり。
 褒め言葉のつもりで羅列すると、彼女はなぜかシュンと俯いてしまった。
「ごめんなさい。私もまさか、あんな展開になると思わなくて……本当は大木君が自分で靴箱を開けてたはずでしょ? その後どんな風にごまかすか見てやろうと思ったの。なのに、ウメ君が見つけて大騒ぎするし、先生も来るしで……焦っちゃった」
 自分の証言にも矛盾があったのだと彼女は暴露した。保健室を利用したなら、まずは用務員室に鍵を返してから教室に戻るのが最短ルートだ。だから彼女はあのとき保健室の鍵は持っていなかった。既に用務員室へ寄って、鍵を戻していたのだ。
 それなのに、P&U発覚の直後「鍵を返しに行く」と言ってしまった。
「じゃあもしかして、用務員のオジサンに聞き込みしたら……」
「うん、私の嘘がバレてたはず。もし葵ちゃんが『アリバイの裏を取る』って言い出してたら、自分でバラしちゃおうと思ってたけどね」
 そこまでは俺の想像通りだ。俺はうんうんと頷き、再度問いかけた。
「じゃあ、消えたP&Uの方は?」
「それも簡単なことよ。皆が考えた通り、私は用務員室には行かないで靴箱の裏に隠れてたの。大木君がいなくなってすぐ、アレを処分したってわけ。どうやったか分かる?」
 俺はしばし空を見上げて唸った後、両手を上げ降参のポーズをとってみせる。
「分からない? 案外ウメ君が鋭いなっていうのが、ヒント」
「ウメが……何だろう?」
「ほら、後からもう一度靴箱を見に行ったとき、ウメ君が見つけたじゃない。靴箱に忍び込んだ侵入者をね」
 ペロッと舌を出してみせた彼女が、あまりにも可愛くて……俺は推理どころじゃなくなってしまった。とっさに顔を伏せた俺を悩んでいると勘違いしたのか、彼女は楽しそうに笑った。
「もう一つ、ヒントあげるね。……小学生の頃、大木君が良く歌ってた、みっちゃんの歌があったでしょ?」
「うん、ゴメン」
「もう謝らなくていいから、あの歌思い出してみて? みっちゃんが何をしたか」
 俺は、その歌詞を記憶から引っ張り出してみた。未だに一字一句覚えていることに驚きながら。

『みっちゃんみちみちウ○コ垂れて、紙がないから手で拭いて、もったいないから食べちゃった』

「……全く、ひでぇ歌詞だよなぁ。で、この歌がヒントって?」
「降参する? だったら教えてあげる」
 首を傾げる俺を見上げて、お気に入りのチョコレートを頬張ったときのように、ニッコリと微笑む。
 その可憐な唇がゆっくりと開いて……。
「歌の通りなの。あのUの方はね……私が、食べちゃった!」
「――なっ!」
「でも、ほんの少し食べ損ねが残ってたみたい。アリさんの嗅覚ってすごいのねえ」
「まさか、アレは……」
「うん、かりんとう。大好物なのっ」
 俺はがっくりと肩を落とした。今まであんなに恐れていた物が……あの屈強なゴリゴでさえ、軍手とビニール袋越しに触ろうとした物が、彼女の胃袋に収まっていたとは!
「風邪気味っていうのも、ちょっとしたアリバイ工作なんだ。皆より早く学校来る理由と、あとマスクしてられるようにって。マスクがあれば、白い布を持ってるとか、口もぐもぐさせてても多少ごまかせるかなって」
「スゲー、全然思いつかなかった。じゃあ、Pの方はどこに隠したんだ?」
「それは……きゃっ!」
 唐突に駆け抜けた疾風。
 その時、彼女のスカートがふわりとめくれ上がり……俺は、見てしまった。
 意外と肉付きの良い太ももの上、ピンク色のパンツの上に重なった、純白のもう一枚を。
「見たっ?」
 リンゴみたいに真っ赤な顔で俺を睨みつける彼女に、俺は素直過ぎる感想を漏らしていた。
「みっちゃん、ずいぶんお尻に肉ついたなぁ」
「――バカッ!」
 ヒラリと揺れるスカートの裾を抑え、栗色の髪をなびかせて、みっちゃんは脱兎のごとく走り去った。
 その後姿を見送りながら、俺は思った。
 今朝のみっちゃんは、クールな第三者の態度を装いながら、内心は本気で焦っていたのだろう。良くテレビドラマに出てくる犯人に似た心境で。なんせ、犯行現場であんなアクシデントが発生したんだから。
 しかし、いくら焦ったとはいえ……。
「公共の場で、ウ○コを頬張りながらパンツを穿く美少女かぁ。うーん、まさに事実は小説より奇なり。そんなの漫画でもありえないって」
 独りごちた俺は、ブハッと噴き出した。ひとしきり爆笑した後、眼鏡を持ち上げ目尻に浮いた涙を拭う。
「しっかしみっちゃんも、思い切ったことするよなぁ。俺がもっと早く引き返してたら、パンツはいてる決定的瞬間が見られたかも……まぁ、そーいやみっちゃんは昔からそんな子だったな。お互いバカな悪戯して、何度も先生に怒られたっけ」
 心の奥から引っ張り出された、古いアルバム。
 返事の来なかった手紙の悲しさから解放されれば、こんなにも色鮮やかに幼いみっちゃんの姿が蘇ってくる。そして小さなみっちゃんが、今朝まで俺が見ていた『憧れの水瀬さん』へ変化し……ツンデレが可愛らしい今のみっちゃんへとリンクしていく。
 吹きつける風の冷たさも忘れ、ゆっくりと順を追って彼女の気持ちを想像していくうちに、俺は一つの事実に気付いた。
 ようやく辿りついた最後の謎。
 彼女が俺に、こんな罠を仕掛けた理由。
「そっか。みっちゃんは俺に、気付いて欲しかったんだ……」
 みっちゃんは、俺のことをずっと覚えていた。
 ゴリゴに見つかった後、たぶん俺をかばうためにP&Uを消した。
 何よりさっきの、照れたような拗ねたような表情……。
「この推理が、当たってたら嬉しいんだけど」
 中学、高校と、それなりに可愛い女子と出会ってきた。でも、どんな女の子を見ても心が動かなかった。
「俺もずっと、忘れられなかったのかもな。初恋の相手が……」
 秋空にたなびく雲を見上げながら、俺は願った。
 彼女にとって俺が、この先もずっと、一人の平凡な男に成り下がりませんように、と。

 その夜、俺は彼女に電話をかけた。
 それはまさに、平凡と平和を愛する俺にとって一世一代の大勝負――



 翌朝。
「――ええっ! 犯人ってミナだったのっ?」
「んー、ゴメンねっ。ビックリした?」
「かなり……まいった。腰抜けそう」
 ぐったりと力なく崩れ落ちかけた葵の身体を、背後に居たウメがさりげなく支える。普段はノリが良くお喋りなウメも、「食べちゃった」という無邪気なカミングアウトはさすがに想定外だったのか、口をぽっかり開けて絶句している。
 二人のリアクションを見て、アハハと明るく笑い飛ばした水瀬咲子の髪は、さっぱりしたショートヘアに代わっていた。アイドルが舞台を降りて、普通の女の子に戻る……それくらい見事なイメチェンだ。
 俺は露わになった白いうなじに見とれつつも、なんとか口を開く。
 いつもと変わらない、平凡過ぎてあくびが出るような質問を。
「それにしてもみっちゃん、その髪型どーしたんだよ? 昨日の電話では切ったなんて言ってなかったのに」
「ふふっ。ヒロ君を驚かせたくてねー。どう? 昔みたいでしょ。長いのと短いの、どっちがイイ?」
 俺達の、ナチュラルを装いつつも違和感たっぷりの会話に、ウメと葵が生気を取り戻す。
「……“みっちゃん”?」
「……“ヒロ君”?」
 訝しげな二人の視線を浴びて、照れ笑いするのが精一杯な俺の背中を、頬を染めた彼女が『ちゃんと言え!』というように、力一杯叩いた。(了)


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【ささやかなお礼】
アルファポリス・青春小説大賞参戦終了。ありがとうございました!


【コメント大歓迎】
一言「読んだよ」でも残していただけると、作者感激してお返事書きます。誤字脱字のご指摘も嬉しいです。各話下のコメント欄か『BBS』もしくは『メールフォーム』へどうぞ。
※作者のプライベートにご興味があるという奇特な方は、日常ブログ『AQの小説裏話&ひとりごと』へ遠慮なく乱入してくださいませ。



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