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「その他短編」
凡人・大木広人の事件簿 ~密室、消えたP&Uの謎~


凡人・大木広人の事件簿 ~密室、消えたP&Uの謎~ 本編(3)

2010.11.13  *Edit 

 自己紹介がてらの過去暴露話は、大いに盛り上がった。
 ゲーセン魔人な今の俺と違い、小学生の俺は非常に活発な男児だった……というネタで、俺はきっと水瀬さんに対するイメージアップを計れたのだと思う。脳内アルバムから引っ張り出したヤンチャな武勇伝に、水瀬さんはニコニコ上機嫌で相槌を打ってくれた。
 しかし、ウメが余計な一言で水を差すのが、いつものパターン。
「そんなに元気ハツラツだったのに、なんでこんな残念な子になっちゃったんだ?」
「……さあな。良く覚えてねーや。つーか残念言うな」
 なんてテキトーにツッコミを入れたところで、胸のもやもやは広がるばかり。
 人生最初の挫折は、小学校低学年の頃。調子に乗ってヤンチャをし過ぎた結果であり、自業自得だった。
 記憶が霞むほど昔のことなのに、今胸に広がる想いは中二でサッカーに挫折したときと同じくらい苦い。正直、あまり思い出したくない。つまりは、未だに傷が塞がり切っていないのだろう。
 俺は脳内アルバムをバタンと閉じ、明るい声を立てた。
「さて、そろそろ仕事すっか。水瀬さん、その空箱くれる?」
「あ、うん」
 いつのまにか軽妙な口げんかを再発させたウメと葵をよそに、ほとんど食べていない俺と甘いもの専門だった水瀬さんが、せっせと机の上を後片づけする。普段なら理不尽だと文句を垂れるところだが、今の俺は水瀬さんと初めての共同作業で……本当にお腹いっぱいだ。
 机の上がキレイに片付くと、葵が白紙のルーズリーフとシャーペンを取りだした。
 いざ本題の『クラスの出し物について』とっかかるのかと思いきや……葵は宣言した。
「では、今から推理を始めます!」
「はぁっ?」
「まずは、密室に現れたパンツとウン……これ人前で連呼するのもなんだから、イニシャルにしよう。えー『密室に現れて、消えたP&Uの謎』と」
 そう言って、紙の中央に四角を書き『P&U』と記す。
「ねえ葵ちゃん、文化祭のことは……」
「いいのいいの。今日の招集はウメへの嫌がら……じゃなくて、メンバーの親睦が目的だったんだから。なにより、こんな面白いことってめったに無いじゃない?」
 学年一のお祭り女、葵が言いだしたらもう誰にも止められない。美術の成績も良い葵は、せっせと校内の見取り図らしきものを描いていく。
 昇降口を中心に、左側にはゴリゴの向かった職員室。右側には、水瀬さんが向かった用務員室。保健室はその隣だ。下駄箱のすぐ裏手には、葵が向かった女子トイレ。そして廊下を進んだ先に、ウメが向かった教室へ繋がる階段。
 こうして図にすると、見事に五人がてんでバラバラな行動を取ったことが分かる。
 俺たちが感心して眺める中、葵は胸の前で腕組みをし、力強く告げた。
「まずは、密室の謎ね。P&Uが、いかにして下駄箱に閉じ込められたか……は置いときましょ。考えたって分からないもの」
「葵は諦めが早ぇなー。ダイエットもその調子で諦めてるんだなっ」
「もー、ウメは黙ってて! あんたも重要参考人なんだからねっ!」
 獣のように威嚇した葵は、ボブヘアの横髪をきっちり耳にかけ直すと、空白部分に人の形を描き足した。
「では先に、消えたP&Uの謎について検証しましょう。事件発覚のとき現場付近に居たのは、うちら四人。その近くにゴリゴ。今のところ容疑者はこの五人ね。では、今日の行動を再確認します」
 女子二人の頭にはリボンを、ゴリゴのマークだけゴリラ顔とスネ毛を描いて皆を一笑いさせてから、葵が言った。
「ねえ、ミナ。今日は学校に来てからうちらに会うまで、どーしてたの?」
「うんとね……最初は教室に行って、ロッカーに鞄置いたの。その後熱測ろうと思って保健室に行ったのね。保健の先生はまだ来てなかったから、用務員室で鍵借りて。熱測って教室戻るとき、玄関で葵ちゃん達の声がしたから」
「そっか。その間に誰か見かけた? 用務員のオジサン以外に」
「ううん。誰も見なかったよ」
 葵が、校舎二階にある教室、一階右翼に位置する用務員室と保健室、さらに昇降口までのルートにバツ印を付けて行った。
「誰かが隠れてたって可能性も考えなきゃいけないけど、まずはシンプルにね。えっと、アタシが着いたときは、玄関前には誰もいなかった。トイレ行こうと思ったら、ちょうど出てきたウメが声かけてきて……その後は、皆も知っての通り。解散した後も女子トイレ寄ったけど、個室は全部空いてたし、その後教室に戻るまでの間も誰とも会わなかった」
 言いながら葵は、玄関奥の女子トイレにもバツ印を付けた。
 本来このトイレは、来賓客も使うからあまり一般の生徒は使ってはいけないと指導されているが、葵やウメにとっては関係ないらしい。もっともウメは、ウ○コをしたくて焦っていたという理由もあるのだが。
「それで、ウメは?」
「オレが男子トイレに寄ったときは……必死だったもんで曖昧だけど、個室に確か一人……」
「ホント? 誰よっ」
「それは……オレだよ」
 ウメの整った顔が、痛みに歪む。
 俺が繰り出すより先に、葵のデコピンがさく裂していた。伸ばし気味の前髪の奥、赤くなったおでこをさすりながらウメが叫ぶ。
「イッテー。この暴力女っ」
「はいはい。他には? 教室来るまでに誰か見なかった?」
「見るわけねーだろ。何時だと思ってんだよ。運動部の奴らだってまだ来ない時間だっつーのに……しかしゴリゴはなんでこんな早くから学校来てるんだ? 怪しくねぇ?」
「ゴリゴは、毎日こんなもんらしいよ? 『明け方に全裸でグラウンドを走るゴリゴ』って七不思議知らない?」
「知るかよ……オエー。想像したくねぇ」
 ぶつぶつ言うウメを無視し、葵は俺のことをじいっと見つめてきた。
 ぽっちゃりしてるけど実は可愛い……そんな評価を受けている葵の、珍しく真剣な面持ち。こんな風に上目づかいに見つめられると、女子に免疫の無い俺はドキッとしてしまう。葵の目はパッチリ二重で、睫毛が意外と長い。小さめの丸っこい鼻とアヒル口が、アイドルグループの誰かに似てるなんて、入学当時から結構な噂になっていたものだ。
 睡眠不足に心労が重なったせいか、ぼんやりと葵に見とれていた俺の目の前に、ぷくっと短い人差し指が突き出された。
「――犯人は、あんたね! 大木広人!」
「……はぁっ?」
 驚きのあまり息を呑んだ俺は、ゲホゲホとせき込んだ。
「ほら、その動揺っぷりが犯人の証拠!」
「何だよ、その大雑把な推理……」
「っていうか、どう考えても大木クン以外無理なのよねー。密室の話だって、大木クンが嘘ついて自分で仕込んだら簡単でしょ? ついでに消えたときも、一番近くに居て“消えた”って主張してるのは大木クン。つまり……自作自演? 愉快犯?」
 葵だけでなくウメまでも、俺のことを疑惑の眼差しで見てくる。まるで敏腕刑事の取り締まりのようで、Yシャツがじわりと汗ばんでくる。隣に座るウメが俺の肩を抱き寄せ、優しく囁きかける。
「なあ、凡ちゃんや。吐くなら今のうちだぞ? 田舎のお袋さん、泣いてるぞ?」
「ちょっ、待てよ! 俺はやってねぇしっ!」
 思わず腰を浮かせた俺は、白々しい視線を浴びて腰を降ろした。ムキになって否定するほど、ますます怪しまれてしまう。
 葵の描いた図を見ながら、俺は落ち着いて自分の意見を述べた。
「確かに俺は、昨日の夜に靴箱を閉めた。中には何も無かったし、しっかり鍵もかけた。その後はコイツと一晩中一緒に居たし……今朝来たらあんなことになってたんだ。嘘じゃねーよ!」
「信じるよ」
 それは、鈴が鳴る様な声。
 一人の天使――マスクを外した水瀬さんが、俺に向かって微笑んでいた。うっとりと彼女を見やれば、その唇にチョコのかけら。
 ああ、こんなとき彼氏彼女だったら、この指でそっと拭ってあげるのに……。
 俺の甘い妄想を遮るように、葵が冷たく言い放つ。
「それで、こんなアホな悪戯した動機はなんなの? 大木クン」
「お前なぁっ……人の話を聞けって!」
「お生憎様。純情なミナは騙せても、このアタシの邪気眼はごまかせないわよ? さあ吐け!」
「良く見ろ! その邪気眼に俺の純白な心が映るだろうっ?」
 全力で否定するも、のれんに腕押し。調子に乗ったウメが、葵の追及に便乗する。
「どーせ親友のオレを笑わせたかったんだろ? さっき凡ちゃんは、わざわざ両手に荷物持って、オレに鍵開けさせたんだからさ。どこであのパンツとウ○コ手に入れたんだかワカンネーけど、そのお笑い魂は認めてやろーぜ?」
「そうねぇ。パンツはネット通販でも買える時代だしね。ウ○チは……良く覚えてないけど、ちょっと小さくて細かったよね。猫かなんかの拾ったの? 昔うちでも猫飼ってたけど、時間が立つとアレ固くなって案外匂いも無くなるし、持ち歩いてても別に不都合は」
「待てっ、冤罪だっ!」
 ニヤニヤ笑う二人を、俺は容赦なく睨みつけた。
「そんなこと言ったら、お前らだって充分怪しいんだぞ? トイレ行った話も嘘で、ウメと葵でこっそり示し合わせて、俺をハメる相談してたかもしれないだろっ?」
 苦し紛れに放った台詞に、ウメが「まあまあ」となだめてくる。
「凡ちゃん、嘘に嘘を重ねるほど苦しくなるんだぞ。俺が他人の家ではウ○コ出なくなる習性は、凡ちゃんも知ってるだろ? あと俺がウ○コしたって証拠は、便器の縁にしっかり残っ」
「――ちょ、汚ねぇ話すんなアホウメ!」
 女子(といっても水瀬さんのみ)を気遣い、俺はウメの赤裸々なアリバイ告白を強制終了させる。と、葵と目が合った。葵は爆笑しているかと思いきや、なぜか真顔でこう言った。
「……そっか、盲点だったわ。もしかしたらこれ、単独犯じゃなくて共犯者がいるかもしれないんだ。例えば、P&Uを仕込む係と、撤去する係。となると、ウメと大木クンがうちら女子を笑わせるために仕込んだって説も、案外信ぴょう性が……」
「いや、それも無いって!」
「……ま、無いわね。シラッと大嘘つく大木クンはさておき、ウメは嘘つけない性格だし」
 さりげなく俺のイメージダウン工作を図ると、葵は細い眉をクッと寄せ「うーん」と唸り始めた。天才探偵の推理タイムとばかりに、大仰に腕組みをして……たっぷり十秒後。
「ま、メンドクサイから大木クン犯人説でいんじゃない?」
「コラ!」
 と、すかさずウメがカットイン。
「ここは論理的に考えようや。オレも葵も嘘つかない誠実な人間だからシロ、当然水瀬さんとゴリゴもそんなことするキャラじゃない。つまり消去法で、犯人は凡ちゃんに決定」
 息もぴったりに頷き合う二人。ウメがナイスアイデアを閃いたとばかりに、ポンと手を叩いた。
「てっとりばやく自白させるか。凡ちゃんの弱いところ、俺は全て知っている……」
 危機感を覚え身を引く俺に、ウメの両手をワキワキしながらにじり寄ってくる。俺の危機を救おうともせず、好奇心いっぱいのキラキラした目で見つめる葵。
 俺は藁にもすがる思いで、、斜め向かいの水瀬さんを見やった。しかし、バラの花弁のような唇が、もう一度「信じるよ」の台詞を漏らす気配は感じられない。むしろ葵と同じように、この展開を楽しむかのごとき薄笑いを浮かべている。
 このままじゃ、俺はくだらない悪戯の犯人として、ウ○コレベルまでイメージダウンしてしまう!
「――俺はやってない! だから、犯人を捕まえてみせる……じっちゃんの名にかけて!」
 叫んだ俺の鼻息が、机の上のペンを転がすほどの嵐を巻き起こした。



 俺は、皆を引き連れて靴箱前へ来ていた。
 アドベンチャーゲームで学んだ知識によると、捜査で最も大事なステップは現場検証だ。どこかに犯人の痕跡が残っているかもしれない。遺留品とか、ダイイングメッセージとか。
「……ふむ。靴箱の高さは、ちょうど俺の目線だな。小さな子どもが悪戯したという可能性は消えるだろう」
「当たり前でしょっ」
 すっかり俺を犯人扱いの葵が、唇を尖らせて俺を見上げる。その横ではマスクをつけた水瀬さんが、困ったように小首を傾げている。ウメはその後ろで、ヘラヘラといけすかない笑みを浮かべる。
 俺はニヒルな表情をつくり、居並ぶ靴箱の取っ手部分に目を向けた。
「密室っていうけどさ、もしこの鍵が誰にでも開けられるとしたら? 所詮百円だし、いろんな奴の鍵とかぶってるだろ?」
 ほぼ全員の靴箱に、俺と同じような南京錠がぶら下がっている。ダイヤル式だったり、俺と同じく小さな鍵を差し込むタイプだったりと種類は様々だ。
「確かに大木クンと同じ鍵使ってるひとは、いっぱいいるけどさぁ……本体の形が一緒でも、鍵の形までそっくり同じってことは無いんじゃない?」
「う……まぁそうだな。でもこんなチャチな鍵、針金で簡単に開けられるかもしれないし」
 小汚いスニーカーが収まっているだけの日中は、鍵をロックせず穴にひっかけている。俺は、自分の南京錠を手に取った。そのフック部分を押し込んで、一度鍵を閉める。そして、教室から持ってきた針金クリップの先を、鍵穴の中に突っ込む。適当にぐりぐりとかき混ぜて……結果、一分弱で諦めた。
「……ま、こういう作業が得意な奴が居てもおかしくはないし」
「特技が鍵開けの高校生ねぇ……そんな人、漫画の世界でしか見たことないけど」
 葵の皮肉が俺の胸にグッサリ刺さっている間に、持ち前の好奇心を発揮し出したウメが、俺の靴箱の中を覗き込んでいた。上下左右、靴箱の内側をコンコンと叩いている。
「どーした、ウメ?」
「いや、もしかしたらこの中の仕切り板が外れたり、この戸ごと取れたり、なんか仕掛けが見つかるかなーと思ってさ……でもダメだ。アリンコ一匹しか見つからねえや」
「なるほど、その手があったか……」
 うっかり口に出してしまった、正直者の俺。すかさず葵が「大木クンって眼鏡キャラだけど、意外に賢くないのよね」と、水瀬さんに内緒話を囁きかける。
 ていうか内緒になってねぇ……。
「チガウ、今日は寝不足で頭の回転が鈍って」
 と、我ながら見苦しい言い訳をしようとした俺は、一つの事実に気付いた。
 あの方法なら――
「おい、ウメ」
「なんだよ」
 俺の靴箱をガタガタやっていたウメが、振り向きもせずに生返事をする。
「やっぱり犯人は、お前だなっ?」
「ほぅ……その説の根拠を聞こうじゃねーか」
 ウメは威圧感たっぷりの鋭い目で俺を見下ろし、ゴキゴキと指の骨を鳴らす振りをする。ウメの強烈デコピンを恐れた俺は、慎重に言葉を選んだ。
「お前は、俺の携帯にこの靴箱の鍵がつけてあるのを知っていた。そして、俺の家はこの学校から徒歩十五分。急げば往復二十分だ。昨夜から俺達はずっと一緒に居たが、明け方俺は二時間ほど熟睡した。その間にお前がここへ来てP&Uを仕込めば」
「はぁ? んなアホなことするかよ。凡ちゃんの隣でぐっすり寝てたっつーの。第一お前ん家って、夜中にドア開けたら警報鳴るんだろ?」
「あっ、そう……だな。よし、その可能性もナシ、と」
 俺はさも当たり前のことを確認したように、葵が情報を書き込んだルーズリーフに『ウメ:密室アリバイ有り』と加筆した。俺の汚い字を覗き込んできた葵が、「これ読めな過ぎ。アラビア文字? 暗号文?」と、またもや水瀬さんを巻き込んで大爆笑。俺のテンションをどん底まで追い込んだ後、クールに呟く。
「アリバイねぇ。でもそれ言ったら密室じゃなくて、消えたP&Uの方については、全員アリバイ無しよ? 大木クンも含めて、全員が一旦この場所を離れてバラバラになったんだから。ゴリゴだって、本当はすぐ戻ってきてP&Uを捨てて、あんな風にわざわざアピールしに来たのかもしれないじゃない?」
「そりゃそうだよな……」
 誰にも不可能な密室と、誰にも可能な消失。
 結局こんな風に推理してみたところで、誰かが嘘をついているとしたら、真相は藪の中だ。ましてや名探偵属性もない平凡な俺が、こんな難しいトリックを解ける可能性なんてゼロに等しい……。
 意気消沈した俺が、「じっちゃん、すまねぇ」とギブアップの言葉を口にしかけたとき。
「あのね、ちょっと思ったんだけど……」
 水瀬さんが囁く声はか細いのに、なぜか全員を黙らせるパワーがある。
 コホンと一つ咳をすると、水瀬さんはパッチリした瞳で俺を見上げて言った。
「私、ミステリ好きで良く読んでるの。アリバイで捜査が詰まったら、もう一回基本に戻ってみるといいかも。例えば、動機とか。先生には、こんな悪戯をする理由が無いよね? わざわざ学校で揉め事を起こすなんて」
「そーねぇ。無理やりこじつけるなら、ゴリゴって大木クンのことお気に入りだから、コミュニケーション取りたかった、とか?」
「んー、コミュニケーションなら、もっと別の方法があるんじゃないかな? パンツとウン……P&Uじゃなくても、いろいろ考えられるでしょ?」
 確かに、とその場に居た全員が頷いた。畳みかけるように、水瀬さんがシンプルな疑問を口にする。
「大木君も、葵ちゃんも、ウメ君も、これがただの悪戯だって思ってるみたいだけど、悪戯にしてもわざわざこんな手の込んだマネ、するかなぁ?」
 その言葉に、俺は焦った。
 ウメが……いつの間にか梅宮君じゃなく“ウメ君”と呼ばれてる! 俺は大木君のままなのに!
 できれば『ヒロ』とか呼んで欲しい……そう念じつつ、俺は水瀬さんの可憐なドヤ顔に見入った。
 俺のあだ名は、小学校の頃から『ヒロ』だった。この学校でも、入学当初は皆そう呼んでくれていた。なのに、ウメが俺のことを「ヒロって呼ぶとヒーローみたいでカッコイイからやだ」と拒絶したせいで、俺は“凡ちゃん”に……ッ!
 もう何度目かの殺意を込めてウメを睨みつける間、葵はリスのようにぷくっと頬を膨らませながら思案する。
「ミナってボケてるよーに見せて、意外と鋭い。そう考えれば、変だよねえ。単にビックリさせたり笑わせるだけなら、P&Uじゃなくても良かったワケでしょ。ヘビの玩具入れるとかさ」
「でも、P&Uだから、オレはめちゃめちゃウケたけどなっ」
 ウメがまたもや思い出し笑いをし始めるその横で……俺の脳裏には、何やらもやもやとした疑問が浮かんできた。
「パンツと、ウ○コ……?」
 あごに手を当て『考える人』のポーズを取った俺の脇から、沈黙を破るブブブという機械音。ウメがズボンのポケットからケータイを取り出す。
 しばし楽しげに会話した後、ウメは俺の肩を叩き言った。
「ほい、凡ちゃんのオカンから電話」
「人のケータイ勝手に取るなよ!」
 そう叫んで、俺は気付いた。
 さっきウメに靴箱を開けさせたときから、携帯を預けっぱなしだったのだ。まるっきり同じ機種で、似たようなストラップをつけているから分からなかった。
 慌ててそれを奪い取った俺に「帰りに豆腐を買って来い、男前じゃなくてジョニーの方だ」という母からのミッションが言い渡される。
 げんなりしつつも、いつものように「ポッシブル」と返事をする俺の横で「お母さん、ご馳走さまでした!」と葵が大声を出した。「あら、葵ちゃんも傍にいるの? ちょっと代わって」と言いだした電話をプチッと切る。
「ったく、こんな大事なときに何で……せっかく何か浮かびかけたっつーのにっ」
 思いっきり不機嫌になる俺の背中をぽんと叩き、葵が言った。
「そろそろタイムリミットだよ。謎が解けないままってのはしゃくだけど、一旦教室戻ろ? また何か気が付いたら話し合うってことで。そーだ、文化祭の件もあるし、ミナも二人に一応メアド教えてあげてよ」
 葵のグッジョブにより、俺は不機嫌をあっさり返上。
 ホクホクで水瀬さんの名前を携帯に入力していると、速攻作業を終えたウメが邪魔しにかかる。
「そーいや、水瀬さんって何で『ミナ』なの? 咲子の『サキ』でもいくね?」
「サキかぁ、あんまり慣れないかも。小さい頃からずっと、名字の方で呼ばれてたから」
「あ、そーなんだ。でも水瀬さんって、最近ご両親が別れたんだよね。名字変わったんじゃねーの?」
 あまりにもデリカシーの無いウメの発言。俺と葵が、左右からデコピンの構えをつくる。
 と、水瀬さんは何事も無いように、ニッコリ微笑んで告げた。
「うんとね、ちょっと複雑なんだけど、うちのお母さんって元々シングルマザーだったの。小学生のときに結婚したんだけど、籍入れないで“内縁の妻”って形で一緒に暮らして、今回また別居することになって……だから私は、ずっと“水瀬”なんだ」
 その台詞を耳にした俺の身体は、一瞬動きを止めた。スイッチが切れたアンドロイドみたいに。
 鈴が鳴るような軽やかな声が、俺の脳みそをぐるぐるとかき混ぜる。水瀬さんのブラウスの胸で、ケータイのストラップが揺れる。トラッドなスーツを着こなした、可愛らしいテディベア。
 さっき浮かびかけて消えた疑問が、入道雲のようにむくむくと湧きあがってくる。
 同時に、すっかり忘れていた……いや、忘れたかった記憶の扉が開かれていく。

 鍵の閉まった南京錠。
 ウメが取ってしまった、そっくりな二つの携帯電話。
 そして水瀬さんの過去と、パンツとウ○コに関する遠い記憶……。

 パズルのピースがはまるように、俺の頭は一つの結論を導き出していた。

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