喉ニ小骨ガ

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「その他短編」
凡人・大木広人の事件簿 ~密室、消えたP&Uの謎~


凡人・大木広人の事件簿 ~密室、消えたP&Uの謎~ 本編(2)

2010.11.09  *Edit 

 一度目を逸らし、もう一度確認する。何度見ても、パンツとウ○コだ。
「パンツと、ウ○チ……ふふっ、なんで……? プハハッ!」
 呆然としていた葵が、堪え切れなくなって笑い出す。水瀬さんは、あまりの非日常的な光景にショックを受けているのか、無表情で立ちつくしている。
 俺はとりあえず、しゃがみこんで爆笑するウメを蹴飛ばした。こんな悪戯をするような奴は、一人しか思い浮かばない。
 それは、目の前のコイツだ。
「ウメ! てめーっ、今自分でコレ入れたんだろっ! ふざけんな!」
 俺の渾身の蹴りも、ウメには一ポイントのダメージも与えられない。腹を抱えるだけでは治まらず、ついにはスノコの上に尻もちをついてヒーヒー言い出したウメは、涙を流しながら答えた。
「オレじゃねぇって! オレが手ぶらなの、お前も見てただろーがっ!」
「ざけんなっ! お前以外に誰が、こんなくだらねぇ悪戯をっ!」
 俺が、手にした二リットルペットボトル入りの袋で、ウメの頭を殴ろうとしたそのとき。
「――コラッ! 何を騒いでる!」
「やべっ……」
 スノコの上に転がっていたウメが、シャキンと音を立てるくらい一瞬で立ち上がり、直立不動の姿勢を取った。
 やってきたのは、無駄に暑苦しいと生徒から不評の体育教師、新堂だ。あだ名はゴリゴ31。命名はウメだが、今やそう呼ばない生徒は居ないほど定着している。
 今年三十一歳のゴリゴが未だ独身なのは、とある動物と某有名漫画のキャラを足して二で割ったような風貌のせいだけではないだろう。そろそろ夏服の季節も終わりだというのに、ゴリゴはランニングに短パン姿で校内を闊歩している。濃過ぎる顔立ちに、もじゃっと生えたスネ毛が見苦しい。
 見た目もキツイが、性格はもっとキツイ。些細なことで生徒達に干渉し、問題を大げさに煽りたてたり、時には頭ごなしに怒鳴りつけるのだ。その行為が「愛情の裏返しならぬ空回り」と評したのは、他でもないこのウメなのだが、確かに言いえて妙だ。
 俺からすると、決して悪い先生ではないのだが……こんなときに会いたくないランキング、ナンバーワンの人物であることは間違いない。
「どうした。何かあったのか?」
 ノッシノッシと床に敷かれたスノコを揺らしながら近づいてくるゴリゴに、俺とウメは何となく罰の悪さを感じて目配せした。今さら靴箱を閉じても、怪しいだけだ。「何でもありません」としらばっくれたところで、ここを覗きこまれたらすぐバレる。
「いや、あのぅ……」
「なんだ、はっきり言いなさい」
 元ヤンのくせに、教師にはからっきし弱いウメが口ごもる。代わりに俺が口を開いた。
「俺の靴箱に、ちょっとした悪戯が」
「何っ? 見せてみろ」
 熱血教師として、見過ごせないと思ったのだろうか。もしくは、頻発する盗難事件が頭をかすめたのか。
 真面目な顔で俺の靴箱を覗き込んだゴリゴは……真っ赤な顔をして吹き出した。
「おっ、お前ら、なんてくだらない悪戯をっ……ウハハッ!」
「せ、先生、ヒドイっす! 笑うなんて……ぷはっ!」
 せっかく止まっていたウメの笑いのツボが、ゴリゴの野太い笑い声によって再び押された。俺の背後でビクついていた女子二人も、怒られるという緊張感から解放されたのかクスクスと笑い出す。
「全く高校生にもなって、しょーがない奴らだ。これは俺が処分しておいてやるから、お前らは教室に行け」
「はぁーい」
 優等生の葵が素直な返事をすると、仁王立ちしたゴリゴはうんうんと頷いた。
「そうだ、一応これは悪質な悪戯ってことで、担任に報告しておくからな。いいな? 二年B組大木広人」
 緩みかけた空気が、ピリッと引き締まった。
 この熱血教師は、なぜか俺に興味があるらしい。入学当時、体育の授業で軽く活躍してからというもの、顔を合わせる度に「サッカー部へ入れ」と誘われ続けて一年半。愛想笑いには定評のある俺も、さすがに辟易していた。
 つまり、ゴリゴは恐ろしくシツコイ性格なのだ。
「でも先生、別に俺は気にしてないんで」
 何事もあっさりスルーが基本、嫌なことはすぐ忘れてしまう俺とは、まるで正反対だなぁ……なんて、内心溜息を吐いた俺に、予想外の台詞が飛んでくる。
「お前がそう言ってもな、これが“いじめ”だって可能性があるんだぞ?」
 そうか、俺はいじめられっ子だったのか……そう思いかけて、ハッと気付く。
 この展開こそが、犯人の思うツボなのではないかと。
「先生、このこと黙っててください。そうじゃないと俺っ」
「よしよし。とりあえず後で話はゆっくり聞いてやるからな? とにかく教室に入っとけ。委員会の仕事もあるんだろう?」
 ごつい手が俺の頭をわしわしと撫でる。俺の脳みそをぐらんぐらん揺さぶると、「さて、軍手とビニール袋は職員室にあったかなー」と鼻歌混じりに呟きながら、ゴリゴは去って行った。
 俺はウメを、本気で睨みつけた。
「おい……なんだよこの展開。マジでお前が犯人じゃないのか?」
「オレじゃねえって。でも、この流れはちょっとヤバイな。ていうか、お前――」
 そこで、ブフッとウメが吹き出した。
「いぢめられっこだったのかよっ! ウ○コ菌! 高二で菌扱い! しかもパンツ泥棒!」
「てめぇっ!」
 赤いカーペットの上を爆笑しながら逃げて行くウメが、「ウ○コえんがちょー」という遠吠えをたなびかせ、整然と立ち並ぶ靴箱の影に消える。その姿を追おうとした俺を、背後のクスクス笑いが引きとめた。
 そろりと後ろを向くと、女子二人が曖昧な笑みを返してくる。
 二人のつぶらな瞳に浮かぶのは……あからさまな同情。
「……あの、葵ちゃん、大木君。私用務員室寄って、保健室の鍵返してくるね。だから先教室行ってて」
 水瀬さんがスカートのポケットをまさぐり、思い出したようにマスクを装着した。慌てて葵がその傍らに寄り添う。
「ゴメン、ミナ。体調悪いのに立ち話しちゃって」
「ううん。さっき熱計ったけど、平熱だったからもう大丈夫だよ」
 小柄な葵が軽くつま先立ちし、水瀬さんの額へと指先を伸ばす。「うん、平熱みたいだね」「もー、葵ちゃんってば心配性なんだからぁ」なんて……公然とイチャつき始める。
 すっかり蚊帳の外状態な俺は、ここぞとばかりに水瀬さんの麗しい姿を再スキャン。
 ふわりと柔らかそうな栗毛、日光に当たった形跡の見られない純白の柔肌、ほっそりとした首と、襟元から覗く肩甲骨。葵とは対照的に薄い胸は、俺の許容範囲……むしろ好みのストライクど真ん中。ブラウスの胸ポケットには、窮屈そうに納まるケータイ。ストラップとしては大き過ぎるテディベアが、その顔を水瀬さんの胸に向けてしがみつくポーズをとっており、若干の嫉妬を覚える。その下は引きしまったウエストと、するんとした紺色のプリーツスカート、長さは膝上十センチ、さらに脚は……。
「んじゃアタシ、おトイレ寄ってから教室行くわ。さっきウメと会って入りそびれちゃったし」
「じゃあ教室でね。大木君も」
 二人は手を振り、別々の方向へ。俺の目は水瀬さんのモチッとした美脚を必死で追うも、すぐに靴箱に隠れて見えなくなった。
 一人残された俺は、うなだれながらとぼとぼと歩き出した。手にした荷物がやけに重く感じる。
 水瀬さんとお近づきになれる、またとないチャンス。その他大勢のクラスメイトからランクアップした瞬間、俺は『パンツ&ウ○コ男』として、彼女の記憶に鮮烈な印象を与えてしまった……。
 というか、実際彼女を舐めるように見てしまった俺は、真性のヘンタイだ……。
「いやいや、アレはどんな男子でも見るだろう。つーか、これは逆にチャンスかもしれん。第一印象が最悪なら、あとは上がっていくだけだからなっ!」
 自分を鼓舞しつつ歩いていると、不意に足の裏がひやりと冷たさを訴えた。カーペット敷きの床が終わり、階段部分に差しかかったのだ。そこで初めて、自分が靴下のままだということに気付いた。
 両手には、重い荷物とスニーカー。パンツとウ○コにすっかり気を取られて、上履きに履き替えるのを忘れてしまった。
 慌てて駆け戻り、半開きのまま放置された靴箱を覗いたとき、俺は不思議な光景を目にした。
「アレが……無い?」
 散々笑いの種になった二つの異物……パンツとウ○コが、跡形も無く消えていた。



 適当に四つの机を寄せ合った小島に、買い込んだパンやスナック菓子を広げながら、俺はその事実を告げた。
「――えぇーっ! 消えたっ?」
 早速大好物のコーンマヨパンを頬張った葵が、喉を詰まらせつつ叫ぶ。
「消えたって、意味ワカンネー……ヤバイ、ウケる……」
 口の中の物をスプラッシュしかけたウメは、両手で口を抑えてうつむき、笑いを堪えブルブル震えている。
「あ、このチョコ美味しいっ」
 水瀬さんはマスクをつけたまま、一口大のチョコ菓子を嬉々として摘んでいる。零れ落ちそうなほど大きな目を、糸のように細めて。「葵ちゃんもどう?」なんて小箱を差し出したものの、葵はパンをごくんと飲み込み「ごめん、今ダイエット中だから」と、若干矛盾したことを口にして突っぱねた。続けてウメ、俺と小箱を向けるものの、俺たちは甘い菓子に興味がないため、首を横に振る。結果、水瀬さんは「やった、一人占めだ」と幸せそうに微笑んだ。
 ……どうやら水瀬さんは、意外と天然キャラらしい。
 それとも、俺のためにわざと話題を逸らそうとしてくれ……いや、それはないか。
 俺はポカリ入りの紙コップを勢いよくあおると、三人を見つめながら神妙な面持ちで話しかけた。
「ゴホン。で、昇降口で解散した後の話な。俺が靴箱の前を離れてから上履きを取りに引き返すまで、正確には分からないけど、ほんの一分ってとこだと思う。ゴリゴは職員室に行くってのんびり歩いてったし、往復でも最低三分はかかるだろ? だからゴリゴが来る前に……ブツが消えたんだよ」
 ナイフみたいに尖った俺の視線を受けて、ウメが大げさに両手を横に振った。
「おいおい、オレのことまだ疑ってんのかよー」
「どー考えても、容疑者お前しかいねーしっ」
「でもさぁ、良く考えれば不思議じゃない?」
 詰まった喉をジュースで洗い流した葵が、神妙な面持ちで眉根を寄せながら身を乗り出した。なんとなく全員、そっと顔を寄せ合う。
「あの靴箱、最後に使ったのって大木クン本人でしょ?」
「ああ、もちろん」
「それって、昨日の夕方だよね?」
「そうだな」
「そのとき、靴箱には何か置いてあった?」
「いや、別に何も……」
「ちゃんと、鍵もかけて帰ったんだよね?」
「そりゃ当然。俺、最近上履き買い換えたばっかだし、そこは注意してたから」
「他に合鍵を持ってる人は?」
「はぁ? 居るワケねーだろ。おい葵、まさかそれって……」
 葵の追及の意味が、俺にもようやく分かった。同時に、皆にも分かったようだ。
 探偵ばりのニヒルな笑みを浮かべ、ふっくらした頬にコーンの欠片をくっつけた葵が、皆の目の前にビシリと人差し指を立てる。
「昨夜鍵をかけてから、今朝開けるまで……あの靴箱は、完全な密室だったってことよ!」
 密室!
 ……に、パンツとウ○コ!
「葵……それ当事者としては全然面白くねーし……」
 脱力する俺の肩を、身を乗り出した葵がバンバン叩きながら、興奮を露わにする。
「まあいいじゃないっ。あれを死体に例えたら、一気に本格ミステリでしょ! 密室で死体が発見された直後に、一瞬で消えちゃったって話なんだから!」
「死体……パンツと、ウ○コがっ……ククッ」
 勝手に盛り上がる葵と爆笑するウメ。そして、マスクの下の口元は見えないけれど、ぱっちりした目を細めて小刻みに震えている水瀬さん。
 俺は深い溜息と共に、至極マトモな推論を告げた。
「まあ、アレが消えたことに関しては、ゴリゴが途中でビニール袋見つけて、すぐ戻ってきたせいかもしれないし」
「――おいっ、大木いるか?」
 ナイスタイミング、と囁く葵。教室の後方ドアにもたれかかるようにして、軍手をはめたゴリゴが白いビニール袋をヒラヒラ振っていた。
「さっきのアレ、大木が自分で片付けたのか?」
 ゴリゴが片付けたという俺の説は、その一言であっさり覆された。
 俺は目まぐるしく変わる状況に適応すべく、必死で頭を働かせる。自分にとって最も都合が良い返答を導き出すと、さも相手のためにやったんだという体で告げた。
「……あっ、はい、そーです。すみません。先生の手を煩わせるのもナンなので……」
「そうか……まあいい。パンツの方は犯人探しに使えると思ったんだがな」
「あのっ、俺本当にいじめられたりとかしてませんからっ! きっとアレも仲良い奴の悪戯なんで、見逃してやってくださいっ!」
 ゴリゴの性格は、完全に掴んでいる。有り余る情熱に一度火がつくと長引くのだが、基本は熱しやすく冷めやすい。
 今が火消しのチャンスとばかりに、俺は立ち上がりペコッと頭を下げた。
「あまりオオゴトになると、俺マジで『パンツ』とか『ウ○コ』とかあだ名つけられて、いじめられかねませんのでっ。これから進路決める時期ですし、煩わされたくないんですっ」
「フムン……そうか。分かった」
 筋骨隆々の腕でドスンと胸を叩くと、ゴリゴは言った。
「まあ、大木はしっかりしてるし大丈夫か。もし何かあったら、いつでも相談に来なさい。また同じような目にあったらなっ」
 ガッハッハという豪快な笑い声が遠く消えていき……俺は溜息を吐きつつ着席。するとウメが、俺を尊敬の眼差しで見つめてきた。
「やっぱスゲーな、凡ちゃんの処世術」
「……別に、フツーだろ?」
「オレはああいう暑苦しい奴って苦手。鳥肌立つわ。中学んときも逃げ回ってたし」
 大げさにガタガタと震えてみせるウメに、俺は苦笑を返す。
「そー言われりゃ、俺は昔からあの手の先生は得意だったかな。特に小学生の頃とか、俺もかなりのワルガキで何度もやり合ってきたから。先生の方も、悪さすりゃガツンと拳骨落とすようなタイプだったしさ……」
 最近の教師には、生徒ととことん向き合おうという熱意を感じなくなった。
 それとも、俺の方が冷めてしまったのだろうか……?
 何の気なしにそんなことを考えていると、葵が身を乗り出してきた。
「へぇー、大木クンって悪戯っ子だったんだ。あんまり想像つかないなぁ。常にオッサン臭いっていうか、落ち着き払ってるイメージだもん」
「オッサン言うな。でもまあ、今まですっかり忘れてたくらいだもんな。当時は俺もクリクリボーズ頭で、泥んこでそこらじゅう走り回ってたな。蛙やら虫やら捕まえては、女の子の鞄に入れて泣かせたり、スカートめくりしたり……」
 と、不意に脳裏をよぎる、一枚のパンツ。お尻の真ん中に茶色いクマのイラストが描かれた、小さな白いパンツ。
 俺のイタズラ戦績のフィナーレを飾るそのパンツが、今朝下駄箱で見かけた白いパンツと、一瞬だけ重なった……そのとき。
「――ふぅん。その頃の写真見たいな」
 ああいいよ……と生返事をしかけて、俺の口は『あ』の形で固まった。視線が右へ左へと忙しなく彷徨う。
 聴こえたのは、女の子の軽やかな声。しかし今、葵はジュースを飲んでいて、声を出すことはできない。
 つまり『俺の写真を見たい』と発言したのは……。
「それナイスアイデア! っていうか、皆で見せ合いっこしない? アタシ、ミナのちっちゃい頃の写真見たいなっ」
「ハーイ、オレも美幼女時代の水瀬さん見たいっ」
 葵の提案に、すかさず便乗するウメ。水瀬さんは口元に手を添え、クスクスと楽しそうに笑いだす。
「別にいいけど、皆ビックリすると思うよ? あの頃はいつも半ズボン穿いてて、良く男の子に間違えられてたから」
「うっそ、想像つかなーい。超楽しみ!」
 ハイテンションではしゃぎ始める葵に、ウメがチャチャを入れる。
「あ、ついでにオレ、葵が昔痩せてたって証拠写真も見たいわ」
「だったらアンタも『元ヤンだった』っていう証拠写真出しなさいよねっ」
 そうして始まる、恒例の口げんか。
 俺の視線は、天使のように微笑む水瀬さんに釘づけになっていた。

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