喉ニ小骨ガ

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「その他短編」
ドメスティックバイオレンス弁当


サクラサク ~嘘の代償~

2010.03.31  *Edit 

【前書き】DV弁当番外編ですが、単品でもお召し上がりいただけます。なお、この作品には簡単な謎(暗喩?)があります。解きたい方は、深読みしてください。※本編の下に、作者ネタバレ情報を書きました。一読で「意味ワカンネー!」と思ってしまった方、どうぞご活用くださいませ。


 桜も狂い咲きしそうな小春日和の週末、俺は引越しをした。
 新居はリノベーション(新築同様の中古)物件の、東南角部屋2LDK。全財産を吐き出し、気の遠くなるような長期ローンを組んだ。
 俺は、人生を変えたかった。

「――さて、ひとまず休憩するか」
 軍手を放り投げ、足の踏み場も無いリビングを抜けてキッチンへ。昨夜のうちに設置しておいた冷蔵庫から、程良く冷えた缶ビールと小袋を一つ取り出し、俺はベランダに出た。
 購入の決め手は、この景色だった。
 眼下に広がるのは、穏やかな小川のせせらぎと桜並木。春には川面が薄紅色の花びらに埋め尽くされ、儚くも美しい絨毯に早変わりするだろう。
 こうして桜を想えば、自ずと浮かんでくるのはあの瞳。
 涙を湛えて艶めく彼女の瞳が、縋るように俺を見上げて――
 これ以上考えちゃいけない。
 俺はギュッと目を閉じ、無理にビールを煽った。苦味が俺を現実に引き戻す。
「しかし、残り二十五年か……長いな」
 念のため日付をメモしておこうと、携帯のカレンダー画面を開いた俺は、思わず息を飲んだ。

『今日の予定:結婚式』

 そうだ、俺はあえてこの日に引越しをぶつけた。唇を尖らせる彼女に「他の日は空いてなくてさ。終わり次第駆けつけるよ」なんて言い訳をして。
 俺は彼女に、嘘をついてばかりだった。
 おめでとうも、お幸せにも、アイツをよろしくも、何もかも。

 ◆

 最初の嘘は、忘れもしない今年の夏――
 駅ビルの屋上は、お世辞にも涼しいとは言えなかった。だからこそ、キンと冷えたビールが引き立つ。霜をまとったガラスのジョッキが運ばれてくると、俺たちは歓声を上げてそれを打ち鳴らした。
「ぷはぁー、最高っ! で、何があったの? ビール苦手なくせに、ビアガーデン行こうだなんて」
 ジョッキの半分を一気に飲み干した彼女が、白ヒゲを拭いながら問いかけてくる。俺はこの場所にして正解だと思った。彼女が一番幸せそうに笑う場所で、伝えたかった。
 実はさ、と勿体ぶりつつ鞄から取り出したのは、完成予想図が描かれたパンフレット。
「マンション買うことにしたんだ」
「ええっ!」
 俺はクスッと笑った。大きく見開かれたその瞳が、宇宙に浮かぶ惑星みたいに真ん丸で、可愛くて。彼女はひとしきり唸った後、神妙な面持ちで囁いた。
「ちなみに、おいくらで?」
「……いきなり直球だな」
「だって気になるんだもん。うちらの年で家買う人なんて他に居ないよ?」
「新築よりは全然安いよ。田舎だしさ」
「えー、良い場所じゃん! 新宿まで一直線! 設備だって……うわー」
 感嘆の息をつくと、彼女はにっこり笑って「おめでと! 今日は私のオゴリね」と胸を叩いた。俺は苦笑しつつ頷く。女の子に奢られるのは初めての経験だ。
 知り合って早一年、彼女は可憐なルックスを裏切る奔放さで、何度も俺を驚かせてきた。価値観を壊されるたびに、強烈に惹かれた。なのに臆病な俺は、友達以上恋人未満のポジションに甘んじたままで……。
 俺は勇気を出して提案してみるつもりだった。この部屋に、二人で暮らす未来を。
「あのさ、サクラ」
「ん、なぁに?」
「この部屋、ベランダが広くてさ……」
 彼女の真剣な眼差しが俺を捉える。その瞳があまりにも綺麗で……俺は動揺し、伝えるべき言葉を見失った。
 重い沈黙を破ったのは、俺の声じゃなく携帯だった。

 あの時、彼女は確かに俺の言葉を待っていた。
 なぜ素直に「君に桜を見せたくて」と言えなかったんだろう?
 なぜ逃げるように電話を取ってしまったんだろう?
『よー、久しぶりっ。珍しく仕事早めに終わったんだ。ビールでも飲みに行かねぇ?』
 アイツの地声は大きくて、俺の古い携帯から漏れ出した。途端に鋭さを増す、彼女の視線。
 きっと「また今度な」の返答で及第点。「今デート中」なんて言えば、彼女は花開くように微笑んでくれたはず。
 なのに……変わらぬ旧友の声に、俺はすっかり気が緩んでしまった。しばし雑談を交わした後、俺は慌てて告げた。
「悪い、今“友達”と一緒でさ」
 すると彼女は、やけに低い声で「ここに呼んだら?」と呟いた。

 その後、ビール好きの二人が意気投合するのを横目に、俺はただ苦いだけの液体を舐めていた。

 ◆

 あの夏の日と似た、生温い風が頬を撫でる。俺は空になった缶を床に置き、ぼんやりと桜を見つめた。
 華やかな花弁を持たず、少し寂しげに佇む冬の桜。俺の目には、それでも充分美しく映る。
 彼女もこの桜と同じだ。例えどんな姿でも……。
「好きだよ、サクラ。一生、君だけが」
 俺はどうしても、君を取り戻したかった。
 だから最後の嘘で、君を呼び出した。花嫁になる日を、指折り数えて待つ君を……。
 ふっと自嘲し、俺は上着のポケットをまさぐった。指先を掠めるビニールの感触。
 取りだした小袋の中には、二つの球が入っている。どんな星々をも霞ませる、俺だけの小さな惑星。俺はそれを、煌めく太陽の光にかざした。

「桜が咲いたら、また見せてあげるよ」

 それまでは冷凍庫の中で、おやすみ――


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■読んでいただいた皆様へ(ネタバレ)
いつも通り分かりにくい話を読んでいただいて、どうもありがとうございます。なんか、思ったよりご負担をかけてしまいそうなので、ここらで簡単にネタバレを。(以下、未読の方は見ないようにご注意を……)












今回の話は、サスペンス? ホラー? というジャンルでした。主人公は、好きな女子を友達に奪われて、諦めきれず殺してしまいました。基本は一読のラスト『二つの球・惑星』に引っかかってもらい、「あれ?」と思って読み直したら意味が分かった(ゾクッ)、的な感じ読んでくれたら満足でした。その他解説については、細かく深読みされるのが好きな方向けです。また、お題の『サクラサク』は、主人公の頭に狂気の桜が咲いてしまったこと(=狂い咲き)、副題『嘘の代償』は、人の道を踏み外したこと(=人生変わった)を意味してます。
<冒頭>
桜を見ながら思い出しているのは、彼女の死に際の姿です。涙うるうるで「やめて、助けて」と懇願されていた感じですね。人として当たり前の罪悪感を、ビール飲んでごまかしてます。好きな子殺せちゃう狂ったキャラなので、時効(25年)についてクールに計算してたり。(ローン返し終わる期間と、ちょっとしたミスリードを) ちなみに、うちのケータイは20年後までしかカレンダーが表示されませんでした。殺人の時効チェックしたい人には不便です。(←?) 殺害トリックや逃げおおせるかなどは棚の上にあげてしまったのですが、マイホームにリノベーション物件を選ぶあたり、なかなかに計算高いタイプという印象を。ビールと一緒に冷蔵庫から取り出した小袋が、最後に出てきます。
<中盤>
なんてことないラブでしたが、彼女の瞳をあえて強調し、『惑星』と表現してあります。奔放な子設定なので、もし警察が事件として事情聴取に来ても、「マリッジブルーだったのかも」的なことを答えりゃいいや、なんて計算もあったり。
<ラスト>
「どんな姿でも好き」で、死体でも好きですと。「呼び出して」、その後殺ってしまって、パーツ小分けして冷凍庫へ。ヤバイ品が入っているので、事前に冷蔵庫だけは自力でセッティングしてありました。(本文には書けませんでしたが、新品の高性能製品を購入したらしいです。あと、入りきらないパーツは……カニバったかもしれません) 冒頭で「桜が狂い咲き」という言葉も、主人公の頭が狂ってるあたりとちょっとかけてあります。最後は『惑星(目ん玉)』だけをかかげたところで、桜が見えるわけがない……でも狂ってるので主人公は満足です。
<その他>
「なぜ狂人の癖に、冒頭では罪悪感を滲ませているのか?」というご意見について少し解説を。これは「なぜ本来苦手なビールを、(好きな子を喜ばせるためじゃなく)一人で飲んでるのか?」という疑問に通じます。ビール=主人公に狂人スイッチが入る、トラウマ風アイテムにしたかったのです。あの屈辱……目の前でイチャつきやがって!(プチッ)、みたいな。なので、冒頭で主人公が「苦味で現実に戻る」という「現実」は、「狂気の世界」の方を意味してます。しかし、普段は穏やかなのに酒が入ると豹変する人といえば、連想するのはドメスティックバイオレンス。以前それをテーマにした掌編を書かせていただき、皆さまにオエーという思いをさせてしまったのですが、ああいう人が生まれる理由を常に考えているせいでこういう細かいネタ配置となりました。
……以上、ツマンナイ解説で失礼しました。orz


【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 この作品は、電撃LLお題『サクラサク』に合わせて、ニ千文字で作ったものです。もとは、このウツウツエンドと、普通エンド(失恋ホロリ)、ハッピーエンド(どんでん返し)と、三種類で迷ってました。でもどー考えてもコレのインパクトが強いなと試しに仕上げてみたら、どー考えてもコレ電撃さんにはマッチしねーなと……某サイトさんで高評価いただいたのもあり、投稿せずボツ扱いに。というか、さらに元を辿れば『DV弁当』の加害者狂気バージョンだったので、こっちにくっつけてしまえという流れになりました。ニ千文字という縛りが無かったら、もう少しツマンネー補足無しで書けたのですが、まぁこれはこれでコンパクトさが良いのかなと。
 DV弁当のシリーズは、『桜の見える呪われた部屋』という基本コンセプトがあります。主要キャラを変えて、DVと人体パーツのフェチ(カニバりんぐ)をテーマにと考えてます。手、目と来て、次は……ふふ。



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