喉ニ小骨ガ

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「その他掌編」
ささやかすぎる贈り物~奇跡の花~


ささやかすぎる贈り物 ~奇跡の花~ 本編

2010.03.15  *Edit 

「おじいちゃま、何してゆのー?」
 喋り始めたばかりの幼い少女が、初老の男に駆け寄る。苦笑を浮かべながら、男は大事な孫娘を抱き止めた。身に纏った薄汚いローブの埃を軽く払うと、少女を膝の上に乗せ、枯れ枝のような手で髪を撫でる。揺らめく蝋燭の不安定な光ですら、真っ直ぐに反射する艶やかな髪を。
 しがみついてくる手の温もりは、燃える生命の証。それを肌で感じ、男は決意を新たにする。
「おじいちゃま……?」
「おお、リリア。すまんな。おじいちゃまは花を作っているんだよ」
「お花? リリも好き! いっしょに作りゅ!」
 少女が叫ぶと、間髪入れず鋭い声が飛んだ。
『――リリア、もう寝なさいって言ったでしょう?』
 少女は唇を尖らせながらも「はぁい」と返事をし、男の膝から飛び降りた。たったそれだけで建物は振動し、天井からは砂粒が落ちてくる。
 走り去る小さな赤いワンピース……その袖も裾もだいぶ綻びている。黒ずんだ足の裏が、暗がりに消えていく。
「許しておくれ、リリア。服も靴も用意してやれん……」
 男は作りかけの造花を見やると、テーブルに肘をつき両手で顔を覆った。指先が、伸び切った髭の感触を伝える。
 もう何十日、いや何百日入浴していないだろう?
 しかし人とは不思議な生き物だ。大抵のことには適応してしまう。今や猛烈な痒みにも慣れ、悪臭にも耐えうる鼻となった。
 そのしぶとさが、奇跡を導く……。
 ふっと自嘲した男は、人の気配を感じて顔を上げた。
「手伝いますわ」
 先程とは打って変わり、柔らかく労わるような声をかけて来た若い女。頬は痩せこけ、深い陰影ができている。
 自らの食事を減らし、少女に与えているのだ。それを分かっていながら、男にはなす術がない。
「体は、大丈夫か?」
「ええ。“奇跡の日”が近いのでしょう? リリアのためにも、寝込んでなんていられませんよ」
 女は微笑むと、男の隣に腰かけた。男が作りかけの花を手に取り、細い指で特殊な薄紙を貼り付けていく。緑色の紙は茎と葉、赤色の紙は花弁。パーツを小さく切り刻み、丁寧に、何枚も。
 偽りの花にも、微かな棘や香りがあるはずだった。なのに今は花に触れても、何も感じない。
 日毎に人としての感覚が狂っていく。身体だけでなく、心も……。
「奇跡の日、か……本当に来るとも分からぬが」
 男の弱音を、女は一蹴する。
「そのときは皆で神の元へ参りましょう。この身は滅びても、きっと私たち幸せになれますわ」
 これが母親の強さか、と男は思った。不意に目頭が熱くなり慌ててそっぽを向く。窓の向こうには、吸い込まれそうな漆黒の闇。この闇を割り、神の使者が降りてくる日まであと僅か。
「最後の夜は、皆でお風呂に入りましょうね。そして、残った食料を分け合って食べましょう。それまでにこの花を仕上げなきゃ」
「ああ、そうだな」
 水も、食料も、資源も……全てを使い果たしたこの星に残ったのは、張りぼての街並み。実際は単なる板であり、強風が吹けば倒れてしまうような代物だが、角度によってはそれなりに見える。
 本来の街は先の大戦で廃墟と化し、住民の数も激減した。生き残った住民は、身を寄せ合いながら奇跡を待っている。昼は張りぼての街を補強し、夜はこうして花を作りながら、祈る。
 どうか、罪深い我らをお許しください……。
「もうお休み、ユリア。あとは私に任せなさい」
「お父様、ですが」
「――父と呼ぶではない」
 落ち窪んだ瞳が鈍い光を放つ。相貌が変わったとしても、決して消せない光を。
 女は解れたスカートの裾を持ち上げ、深々と頭を下げた。
「畏まりました……皇帝陛下」

 数日後、唯一残された回線が神の意志を伝えた。
 ついに“方舟”が来ると――。

 *

 星は歓迎ムード一色だ。
 鄙びた街並みから少し離れた荒野には住民たちが集い、大きく手を振りながら歓声を上げる。長い髪の少女が、色鮮やかな花束を抱えて微笑む。
 ひときわ目立つ煌びやかな衣装を身につけた老人は、優雅に一礼した。
「ようこそ、我が星へ」
 近寄って来た小太りの中年男は、流暢な共通言語による挨拶を耳にし安堵の息をついた。同時に住民たちの身なりを確認し、ポケットの中の銃からさりげなく手を離す。
「いやぁ、不躾な依頼を快く受け入れていただき感謝いたします。今回の旅は、惑星ノアの要人による慰安目的でして。全く我儘なことに、観光ルートとして確立されていない未開の星を所望――おっと失敬」
「ええ、事情は承っておりましたよ。御覧の通り何も無い小さな星ですが、心ゆくまでお寛ぎください」
 背後には巨大な宇宙船。中年男の指示を受け、ハッチから次々と人が降りてくる。少女たちは、彼らに一本ずつ赤い花を手渡す。
 数分後……花を手にし、その香を吸い込んだ要人たちは荒野に倒れた。免疫を持たない彼らの身体は痺れ、動けない。
 老人は、組み伏せた中年男のポケットから銃を抜き取り言った。

「――さあ、今から我々が『要人』です。今度はなるべく平和な星へ出かけましょう」


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【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
電撃LLのお題『ささやかすぎる贈り物』で作った二作目です。残念ながらこちらも落選。「べ、別に受かるなんて思ってなかったんだからねっ!」と強がりを言いつつ、自分的にはハッピーじゃない作品って、やはり電撃読者さんには受け入れられにくいのではないかという気がしています。これなんてもう、酷いオチですからね。でもディック先生好きとしては、コロコロと転がるオチって魅力的です。今回は異世界ファンタジー風ビンボーネタから『陛下』→『使者の正体』→『オチ』と三回転がしました。けっこう前半のビンボー暮らしに共感してくださる方も多いようです。しかし、感情移入するほどオチとのギャップがイイ感じのスパイスに。善人と思ってたら実は悪よのぅ……これはミステリ的なひっくり返し方でした。続編があるとしたら、残された要人達による狂気に満ちたサバイバルゲーム……ふふふ。(←根暗) 実はこの作品、いただいた感想の中に「既存SF作家さんっぽい」というご意見もあり。どうもSF掌編を書こうとすると、過去読み込んだ海外SFの雰囲気(翻訳的文章?)が滲み出るようです。自分では意識してないんだけど……淡々とした三人称で面白みが足りないと言われれば、確かに。まぁ良くも悪くも『劣化コピー』ということなのでしょう。もっと精進せねば。というか、こんな話ばっかり何百何千と作ったSF掌編作家さんは神。星新一先生も。



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