喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
番外編


番外編2(7)シャイニング☆ドラゴン ~その6~

2010.01.15  *Edit 

6.強敵を倒す奇跡の言葉は


 真の勇者にしか抜けないという、女神の宝剣。
 それを手にし、光龍と対峙した俺は……信じられないくらい強かった。
 地を蹴り飛びあがった身体は羽が生えたように軽く、韋駄天のごとく光龍へ詰め寄り一閃。それを予期していたのか、笑みを絶やさぬままスッと身引く光龍。剣は無残に空を切る。次の一手もかわされる。その次も。
 息があがり、汗が飛び散る。それでも俺の身体は止まらない。勇者を求める剣の意志が乗り移り、俺を戦いへと駆り立てる。
 一方光龍も、風に踊る木の葉のようにかわし続ける。疲れの色など微塵も見せず、むしろ楽しくて仕方ないといった眼差しを向けながら。
 完璧遊ばれてる……。
 そんな分析をするくらい、ある意味余裕がある自分を不思議に思いながらも、俺は剣を繰り出し続ける。
 援護射撃してくれる仲間もおらず、疲労を回復してくれるアイテムも無い。こうして敵に一撃も与えられず……むしろ、おちょくられて逃げ回られるだけの一方的な戦いに、勝利の道筋は見えない。たぶんこのまま体力《ヒットポイント》が尽きれば負けるだろう。
 そもそも俺のレベルは“1”だ。偶然城で最強の剣を手渡されて、“勇者”としてうまくシンクロできたからここまでやれているだけ。今の俺が、この世界の神であるラスボスを倒せるなんて奇跡だ。まるで最初から、負けることが決められている戦い……。
「そう、か……これは、強制、イベント……」
 後方へ飛び退いて距離を置き、俺は余裕綽々の光龍を睨みつけた。苦しい息を整えクールダウン。落ち着く程に、自分が漏らした言葉が真実なのだと確信していく。
 素直に認めてしまえば、見える世界が変わる。光龍は俺をおちょくってるわけじゃなく、俺のレベルアップのために胸を貸してくれているのだ。ニヒルな笑みを浮かべ、俺に向かってひらひらと手招きするそのしぐさも、俺の闘志を煽るため……そう受け止めれば、いっそ清々しささえ感じる。
「くそっ! だからって、簡単には負けてやらねーぞ!」
 再び光龍へ向かってダッシュし、袈裟切りにするも紙一重でかわされる。いくら気合いを入れたところで、既に腕も足も鉛のように重く、次第に単調になっていく打ち筋。稚拙な剣は、視線一つで見切られてしまう。
 しかし、それこそが俺と剣の罠。
 真一文字に振り抜いた剣を、僅かに残った腕力で強引に捻じ曲げ、俺は死角となる斜め下から斬り上げた。
「くらえ!」
 切っ先が光龍の頬をかすめた。ハラリ、と舞い散る黄金の髪。しかしその美しい顔に傷は無い。
 舌打ちする俺に、鋭い刃のような光龍の視線が向けられる。笑みを消した光龍は、何かを探るように俺の剣をねめつけ掠れ声で呟いた。
「お前の剣は……そうか、女神の――」
 光龍は軽くアゴをしゃくると、碧い瞳を好奇心に輝かせる。均整のとれた体躯を繭のように包み込み、一気に量を増して行く金色のオーラ。背筋にゾクリと悪寒が走る。
「ならば、我はお前を試させてもらう。遊びの時間は、終わりだ」
 意味を問い返す余裕は、もう無かった。
 光龍の瞳がゆっくりと伏せられ……俺は、剣を構え直しながらじりじりと後退した。
 何か、来る。
 次の瞬間、真夏の太陽のごとく全てをかき消す――閃光。
 あまりの眩しさに目を閉じ、腕で顔をかばう。その間、僅か数秒。
 消え去った疑似太陽の代わりに現れたのは、巨大な黄金のドラゴンだった。


「無理だ……勝てない」
 それは、本能的な恐怖。
 暗闇へと俺を引きずり込んだ、魔術師の手に感じたものと近いようで違う。唐突に訪れる死には、覚悟なんて必要無い。だけど今は、自らの敗北と残酷な死が鮮明に見える。忍び寄る死神の足音に気付いていながら、避けることができない。
 怯える俺を尻目に、巨大な光龍は咆哮をあげながら神殿の上部へと向かい、その天井を難なく突き破った。ガラガラと崩れ落ちる外壁。降ってくる岩塊を、身体と一体化した女神の剣で打ち砕きながら、俺は必死で恐怖に耐える。
 しばらくして岩の砲弾が止み、俺は空を見上げた。天高く駆け上った神の落とし子は、長い髭を揺らし、身体をくねらせながら薄曇りの雪空を一周。ぎょろりと見開かれた瞳が俺を捉えた刹那……風をはらみながら、一気に神殿へ駆け降りる。その裂けた口が開かれ、鋭い牙と共に何か赤いモノが見えた。
 それは、紅蓮の炎。
 気付いたときにはもう遅かった。遮るものは何もなく、ただ剣を構えて立ち尽くすしかできない。
 この炎に飲みこまれれば、ゲームオーバー。
 きっと俺は、狭苦しい浴槽で目を覚ます。指はふやけてしわくちゃで、台所ではお母さんが「長風呂ねえ」って苦笑い。お姉ちゃんはまだ帰って来ない。風呂あがり、俺は駅までひとっ走りさせられる。お姉ちゃんを迎えに行ってあげて、なんてメンドクサイ指令で……。
 今の俺にとっては、その平和こそが幸せな夢だ。俺の心を鈍くし、堕落させる甘い夢。
 コントローラーを手にした夢の中の俺が、囁きかける。
『そんなに辛いなら、消しちゃえよ』
 差し出された、リセットボタン。熱も、痛みも、重い身体も、恐怖も……全てをクリアしてまっさらになれる……。
 見えない糸に操られるように、ボタンへと伸びかけた指が、止まった。
 本当に、この世界を消していいのか?
 積み上げてきた、全ての経験値を失ってしまうのに?
『大丈夫、あなたならできる――』
 胸の奥から聴こえた声が、俺を目覚めさせた。

 ◆

 急激に色を取り戻す視界の中、迫りくる炎の塊。
 その向こうには、長い髭をなびかせて目を細める光龍。その恐ろしくも神々しい姿が、人の姿をした光龍の笑みと重なる。
 二本の髭を見据えながら、俺は叫んだ。
「――来い! チョビヒゲーっ!」
 魂の叫びは……なんとなくマヌケな台詞となった。
 しかし、状況は一変する。
 猛る炎は、剣に届く直前であえなく消え去った。空を舞う巨大な光龍が、水槽を泳ぐタツノオトシゴのようにふよふよと降りてくる。発していた強烈な覇気は、無い。
 俺の前に降り立った光龍は、とぐろを巻いた身体をうねうねさせ、ちょんと突き出た短い手で髭を撫で続ける。俺の頭には疑問符しか浮かばない。
「光龍?」
 声をかけると、ポムッと白い煙をあげて人間バージョンに戻った光龍。やはり戦意は皆無で、くたびれきったサラリーマンのようにガックリと肩を落としている。たまにチラリと俺の顔を見ては、何か言いたげにもごもごと口を動かすものの、逡巡した結果うつむいてしまう。
「おい、どーしたよ」
 俺が語調を強めて促すと、光龍はようやく重たい口を開いた。
「お前……いや貴殿、先程我を何と呼んだ……? その、チョ……」
 俺は光龍が求める言葉を、ぽつりと呟いた。
「チョビヒゲ?」
 ウッと呻いて、その立派なチョビヒゲを指先でさすり始める光龍。さっぱり意味が分からない。
「なんだよ、さっきから」
「なぜその名を……」
「はぁ?」
「頼む、こう言ってくれ。『解放する』と」
「“解放する”」
 ヒゲをさすり続けていた光龍は、弾かれたようにそこから手を離した。ほうっと大きな溜息を漏らすと、ややウェーブがかかった見事な金髪をかきあげながら、俺をじっと見つめてくる。
 その表情にくっきりと現れているのは、百パーセント純粋な好意だ。瞳は熱っぽく潤み、白い頬が少し赤らんでいる。形良い唇から、恋する乙女のような吐息を漏らして。
 ワケが分からず困惑する俺に向かって、光龍は俺の想像の天井をぶち抜くようなことを告げた。
「どうやら貴殿は無意識に発したようだが……我の真名は、“チョビ”という」
 ――チョビ!
「我は元々、女神の生みし聖獣。この真名も、女神が与えてくれたものだ。女神の認めた人間に仕えるのが我の使命だったが……今、我を従える契約者は居ない。そのせいで、我の力は暴走してしまった。すまないと思いながらも、我もこの力を持て余していたのだ」
「はぁ……」
「花嫁が見つかった暁には、先の契約者の元へ戻るつもりであった。しかし、新たな契約者が現れるとは……貴殿は確かに女神の剣の担い手。しかも我が真の姿、闇の炎にも怯まぬ。そればかりか、真名を以って我を操る……貴殿の名は?」
「ひ、ヒカル」
「うむ、良い名だ。これで契約は成された。この先我はヒカルの守り手となる。我はヒカルの物だ!」
 なんだこの展開……。
 喜びを爆発させる超絶美青年の、火傷しそうなほど熱い視線をスルーしつつ、俺はなんとか冷静に思考を巡らせた。
 結局俺が奇跡的に勝てたのは、女神様がつけた“変な名前”を呼んだおかげだった。光龍も悪者のラスボスじゃなくて、普通にイイヤツで。
 俺は、サーカスのライオンが人に怪我を負わせたという痛ましい事件を思い出す。ライオンはふざけて甘噛みしたつもりでも、ヤワな人間相手には大ダメージになる。この世界と光龍の関係も、きっとそういうことなのだろう。
 突然眩しい光が差し込み、俺は眼を細めた。見上げればポッカリと開いた天井の向こう、空の彼方に太陽が現れていた。既に雪は止み、広がるのは雲ひとつない青空。これは偶然なのか、それとも光龍の機嫌が良くなったからなのか……。
「ヒカル? どうしたのだ?」
 ぼんやりする俺を、心配げに見下ろしてくる碧い瞳。このチョビヒゲが無ければ、至高の美形。
 チョビヒゲ、か……。
 俺は試しに、剣を持たない左手を差し出しながら言ってみた。
「チョビ、お手」
「ワン!」
 俺の手を取りぶんぶんと振る光龍。バトル前の魔王っぷりの欠片も見えない、愛嬌たっぷりの笑みを浮かべて。その姿がちょっとだけ可愛くて、俺はクスッと笑った。
「なんか複雑だけど、これにて一件落着……かな?」
 そう呟いたとき、奴は現れた。
 本当のラスボスが――。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 苦手バトルモードから、一気にギャグモードへ! これぞジェットコースター展開! っと、皆さま付いてこられましたでしょうか? 念のため解説しますと、「来いチョビヒゲ=こっち来てヒゲを触れ」という命令でした。この言葉モジリは、ミステリアスアスなノコギリガール制作秘話で「狩野=可能」と間違えちゃった☆ というエピソードでピンと来たのです。あー、こういうアホな誤解って大好き! と。(ちなみに、チョビにチン○ンを命じるかは最後まで悩みましたが、全年齢向けということでカット) チョビという名前&正体については、長編の方を読んでいた方にはバレバレでした。分かっちゃいたけど笑えた、なんて話になってたら嬉しいです。初めて読む方には、心地良いげんなり感を味わっていただけたのではないかと……。げんなりし過ぎてショック、という声も改稿前にはあったのですが、それを踏まえてちょっとだけバトルの厚みを増してみました。上手くごまかせてたらいいなー。今のどっぷり物語に浸かっている自分じゃ、その辺のさじ加減が分からないのですよね。数ヶ月寝かせてから読み直したら……たぶんげんなりするよーな気がする。うん。orz
 次回は、ついに最終話。真のラスボスにより全ての謎が明かされ、怒涛の展開へ。そして夢から覚めた主人公は……お約束の大団円ラストです!(週末出張なのでもしかしたら週明けになるも?)



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