喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
番外編


番外編2(6)シャイニング☆ドラゴン ~その5~

2010.01.14  *Edit 

5.アレなラスボスが明かす衝撃の事実


 トンネルを抜けると、そこは……本物の雪国だった。
 視界が白一色に染まる程の豪雪。頭や肩に降りた雪の欠片は、すぐに水滴へと変わり身体を冷やしていく。
「寒い……なんか上着……」
 と呟くも、時既に遅し。通り抜けて来た暗闇トンネルは跡形も無く消え、所持品は宝剣一本のみ。薄手の花嫁衣装姿では、あっという間に凍死してしまう。
「とにかく、この中入ろ……」
 観念した俺は、薄暗い岩山の洞窟へ足を踏み入れた。


 そこは、音の無い世界だった。聴こえるのは俺の靴音と息づかいだけ。ラスボスを守るべく、うようよ湧いてくるはずのグロテスクな魔物はもとより、生命の気配が一切感じられない。それでも俺は剣を構え、細心の注意を払いながら進む。
 道は緩やかで曲がりくねった上り坂。奥へ進むにつれて、足元にはゴツゴツした岩が多くなり、レッスンで鍛えた足さばきもさすがに通用しなくなった。俺は思い切って、ぴらぴらしたスカートの裾を切り捨てた。
「こんなことに使って、ゴメンな」
 俺は剣に向かって謝る。その言葉を受けて鈍く光る剣。俺は「この剣には意志がある」と悟った。
 闇が深まれば松明のように発光し、分かれ道に当たれば正しい道を指し示す。俺はそんな剣を信じて進んだ。一歩ごとに剣と自分の心が通じ合い、一体化するような不思議な感覚……精神は研ぎ澄まされ、心が“勇者”になっていく。
 そして俺は洞窟の最奥、岩山の頂上へ到着した。
 ラストバトルの気配がぷんぷん漂う、半ば廃墟と化した神殿へ――。

 ◆

 規則的に並び、赤々と燃える壁際の炎。何本もの折れた灰色の柱。ひび割れが走り、今にも崩れ落ちそうな高い天井。黒ずんだ朱色のカーペットが敷かれた壇上……石造りの玉座にその男は居た。
 魔術師と同じ黒のローブをまとい、長い足を組みかえる金髪碧眼の男。遠目にも分かる、まさに絵に描いたような超絶美青年だ。あの煌びやかな王子でさえも霞んでしまう、圧倒的な存在感。
「此度の花嫁は、お前か」
 俺を見下ろす切れ長の瞳は涼やかで、深い森にも似た静けさを感じる。放たれた低い声が、俺の心の奥へと沁み渡る。あまりの神々しさに、俺は瞬きするのも忘れてその男を凝視した。
 しかし……完璧なだけに、惜しい。
 男の鼻の下に、いわゆる“チョビヒゲ”が生えているのだ。
 あのクール&ビューティな容貌には、ミスマッチ過ぎる。ていうか、もうドリフにしか見えない。
「ようやく我の花嫁に相応しい女を寄こしたか……さあ我の元へ参れ。その芳しい香を、傍で」
 薄く微笑みながら手招きするチョビヒゲ。俺はむずむずと持ち上がりそうになる唇を必死で抑える。イカン、集中せねば。ヒゲダンスよさらば。
 邪念を追い払うと、心は再び男の存在に支配された。俺はふらふらと覚束ない足取りで階段の手前まで歩み、立ち止まる。情けないことに、そこで足が竦んで動かなくなってしまった。青ざめて立ち尽くす俺に、男が高みから声を投げる。
「我が恐ろしいか……それでも我から目を逸らさぬとは、愛いやつよ。ならば我がそちらへ出向こう」
 男は重力を感じさせず、ゆらりと立ち上がった。身体から溢れ出すオーラが、黄金色に煌めきながら立ち上る。瞬きしても目を擦っても、その輝きは消えない。これが神の証なのだろうと俺は思った。
 貧弱でちっぽけなこの俺が、今から“勇者”としてこの男と戦わなければならない。そう考えるだけで、全身の毛穴から嫌な汗が噴き出す。本能が「逃げろ」と警告を発するけれど、背中に差し込んだ宝剣の重みがそれを許さない。心許ない手のひらが、宝剣の感触を求めて後ろへ回ろうとするのを、俺は意志の力でなんとか留めた。
 ダメだ、まだ早い。もう少し近づかなければ……。
 一段、また一段と男が降りてくる。床に足をつくたびに、この空間がギシリと音を立てる気がする。
 本当は自在に空を飛べる翼を持つくせに、それをせずにあえて大地を踏みしめて歩み寄る。その理由は一つしかない。こいつは“人間ごっこ”を楽しんでいるのだ。
 さしずめ俺は、新しい玩具ってところか。
 こんなシチュエーションにぴったりの言葉を、最近授業で習った……そう、『窮鼠猫を噛む』だ。
 なかなか言い得て妙だと、俺は自嘲した。その笑みが、強張っていた全身の筋肉を一気に弛緩させる。
 段を降りて同じ舞台に立った男は、俺の変化に一瞬目を見張った。俺は猛る闘志のままに男を睨みつけたいのを堪え、なるべく棘を抜いた穏やかな視線で見つめながら、囁いた。
「光龍さま……」
 自分の発した声が、まるで別人の声のように聴こえる。少し震えて甲高いソプラノは、まさに気丈な姫君そのもの。こんな声が出せるのは、去年シンデレラの練習をした賜物だ。あの風呂場で独り、必死で裏声の練習をした当時の記憶が蘇り、俺はますますおかしくなり自然と表情が和らぐ。土壇場で、頭のネジが飛んでしまったのかもしれない。
「なんとも芳しい香り……それに、美しい澄んだ声だ。お前の声には精霊が宿るようだな。その声をもっと聞かせてくれ」
 男はついに、手の届く距離までやってきた。笑みを深め、俺のことを愛おしげに見つめてくる。その視線を断ち切るように、俺は軽く会釈した。ドレスの背中に差し込んだ短剣が見えない角度で。
「お願いがございます。ワタクシをどうか、あなたの妻にしてくださいまし。そして世界に平和を」
 魔術師に教わった通りの台詞を告げてみたものの、我ながら恐ろしくヘタクソな棒読みになってしまった。さすがに嘘とバレたのか、男はククッと笑い声を漏らし、カマをかけるように問いかけた。
「よいのか?」
「――っ!」
 ふわり、と男の手が俺の頬を包んだ。ひんやりと冷たくて、生命の息吹を感じさせない人形のような手。
 それなのに、触れられた部分から、男の抱く強烈な想いが流れ込んでくる。魔術師も騎士も王子も、あの美女ですら凌駕するほどの、激情。
 俺の頬は、一気に熱を帯びる。
 この碧い瞳を、これ以上見ちゃダメだ。そうでなければ、俺は……。
「猶予をやろう。言い直すのなら今のうちだ」
「どういう、ことです?」
「お前、嘘をついているのであろう? 我は……嘘は好まぬ」
 その台詞に滲んだのは、初めて見せる“人間らしい”戸惑い。瞬間、理性が弾けた。
 心地良い大きな手のひらを、俺は自分の手でそっと包み込んだ。発熱する俺の手と頬に挟まれて、ぴくりと震える冷たい手。そのリアクション一つで、俺は確信した。
 この男は、愛情に飢えているのだと。
 世界を壊したいわけじゃない。たださみしいから、光龍は花嫁を求めるのだ。自分だけを、特別に愛してくれる存在を。
 男は、しばらく無言で俺を見つめていた。そしてふっと微笑を浮かべると、俺の頬からそっと手を引き抜き、一歩二歩と後退した。
「そうか、これが我の運命か……」
 その眼が、少しずつ覇気を帯びていく。同時に、からかうような神様の笑みが戻ってくる。
「光龍……?」
「既に知っての仕業かと思ったが、知らぬのならば教えてやろう。我の前で嘘は許されない。発した言葉は全て真実となる……といっても、我が同意すればの話だが」
「へっ?」
「つまり、お前が“花嫁になる”と言うなら、今すぐにでも“そういう身体”にしてやれる、ということだ。どうする?」
 えっとえっと……それってつまり俺が本物の女になるってことで……。
 頭にのぼっていた熱が、男の言葉を解釈すると同時にサーッと引いていく。ポンッと頭に浮かんだのは、ヘンタイ魔術師の微笑。奴はなぜか、この花嫁作戦が『確実に成功する』と断言して、俺にあの台詞を仕込んだ……。
「ちょっ、それ聞いてねーしっ!」
 なんてこった! 危うく性転換させられるところだったとはっ!
 俺は後ろ手に背中をまさぐる。すっかり握り慣れた剣を取り出し、顔の前で真っ直ぐ構えながら心のままに叫んだ。
「今のは全部無しっ。俺は男だ! お前を倒してサクッと元の世界へ帰ってやる!」
 初めて耳にするアルトの叫びを聞いて、その男……光龍は、嘲笑った。
「――いいだろう。受けよう」


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 シリアスな中にも、ヘンタイ臭がぷいーんと漂う舌戦でありました。主人公君、またもやBLモードに。ま、BLはすっかり馴染んできたよねーってライトな感じだったのが、今度はなんと性転換の危機……あわわわー。この話本当に全年齢向けでいいのかな? 大丈夫だよね? ちょっと作者の妄想が暴走気味なので、もし危険過ぎたら言ってくださいませ。PG12の注意書きを追加しましょう。あと今回は“ドリフ”ネタが重要なポジションに出て来ました。そう、例のヒゲです。分からない方は親御さんに聞いてみてください。ついでに「踊ってー」とおねだりしてみましょう。お茶の間に笑いが生まれること間違いなしですぜっ。休日には、水を入れたバケツを差し出して「やってー」と言ってみてください。物理の勉強ができるはずです。あ、くれぐれもお外でねっ。
 次回は、ようやく少年向け正統派ラノベ(?)な展開に入ります。常々バトルシーンが苦手と言い続けておりますので、どーぞ斜め読みを……最後はまたもや衝撃の展開に。(砂漠の方を読んでらっしゃる方は、ニヤッとしてくださいませっ)



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