喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
番外編


番外編2(5)シャイニング☆ドラゴン ~その4~

2010.01.13  *Edit 

4.勇者の花嫁修業は百合の香り


 ゲームのシナリオが裏から表へとひっくり返った結果、俺は花嫁ではなく勇者キャラとして旅立つことになった。
 ホッとする反面、問題も山積みで……。
「あのー、俺見ての通り、全然腕力無いんだけど?」
 手にした宝剣の重さは、二リットルのペットボトル程度。騎士が腰に差した大剣とは比べ物にならない極小サイズだが、もやしっ子ゲーマーな俺の二の腕は、それを高く掲げるだけでぷるぷる震えてしまう。気合いを入れてカッコ良く振りおろしてみたところで、今度はボディがぐらつく。
 貧弱極まりないその姿を見て、王子は吐息と共に眉をしかめ、騎士はこめかみを抑え、重鎮たちはうーんと唸った。
 魔術師だけが笑顔をキープしたまま、ポンと手を打つ。
「私に、策があります」
 ギャラリーが固唾を飲んで見守る中、俺を見つめ何やら怪しげに瞳を光らせた魔術師は、高らかに宣言した。
「ズバリ、花嫁のフリして光龍に近づいちゃう作戦!」
 なるほど、と一斉に頷く重鎮たち。俺だけがげんなりモードだ。
「そんな上手く行くかぁ?」
「はい、確実に」
 魔術師は頬を桃色に染めながら、ローブの中をもぞもぞまさぐる。どうやらそこは転移魔術の出所らしい。まさに四次元ポケットだ。
 ズルリと引っ張り出されたのは、白くてふわふわした布の塊。
「さあこの花嫁衣装を着てみてください! きっとお似合いですはぁはぁ!」
 ――鼻息荒っ!
「え、お一人では着替えられない? ならば不肖私の手でお着替えを……」
 既に俺の苺臭にイチコロなのか、その提案に男たち全員が目をギラつかせる。
 すると、紅一点の美女が動いた。
 電光石火、魔術師の手からドレスを奪い取り、拘束の魔術で縛りあげる。深紅のローブが残像になって見えるその素早さは、まさに赤い彗星。
 縋りつくような目で見つめる俺に、彼女は力強く言い放った。
「輝君、ゴメンナサイね? この国の男って皆ヘンタイ病で。さあ全員ここから出て行って。あ、その“荷物”も運んでってねっ」
 男たちは、十把一絡げに部屋を追い出された。一人、魔術師だけはずるずると床を引きずられて。
 そして俺は、美女の手により……悲しくも完璧な花嫁姿に変身させられた。

 ◆

「靴先を上げてー、前に蹴ってー、脇に払ってー、着地。一歩ずつゆっくりね!」
「これ、けっこうキツイっス……」
 去年の文化祭でシンデレラをやったときは、こんなに本格的な衣装じゃなかった。ヒールの高い靴を履かされないだけマシとはいえ、下半身のウザさは想像以上。一歩足を踏み出すごとに、スカートの内布が足に絡まって躓きそうになる。女物の下着も……落ち着かない。
「もー無理っ。こんな格好じゃ俺、龍に会っても戦うどころか転ぶのが関の山だよー」
「泣きごと言わない! 背筋しゃんと伸ばす! 諦めたらそこで勝負はオシマイよっ」
「ハイ先生……」
 某バスケ漫画を思い出し、俺は鬼コーチのしごきに耐えた。広い室内を、端から端まで行ったり来たり。毛足の長い絨毯に足を取られ何度も転びながらも、小一時間後にはなんとか姫らしく歩けるくらいにレベルアップした。
 慣れない内腿の筋肉を使い疲労困憊した俺は、レッスン終了の合図と同時にベッドへダイブ。彼女は魔術を使った三分クッキングで、スープとサンドイッチの軽食を用意してくれた。
「うわぁ、これメチャメチャ美味いっス!」
 布団の上にパン屑が落ちるのも構わず、腹の虫に急かされるままむさぼりつく。彼女が隣に腰かけ、心配そうに俺の顔を覗きこんでくる。
「悪いわね、こんな簡単なもので。お腹のコルセットがあるから、あまり食べられないかと思って……もし足りなかったら言ってね?」
「や、俺元々小食なんで。うわ、この肉美味ぇ! うちは母も姉も料理下手だし、最近は外食もしてないし、ホントこんな美味いモノ久々に……ゴホッ」
 最後の一口にと頬張ったジューシーなローストビーフが喉につっかえ、激しく咳き込む俺。彼女はクスクス笑いながら俺の背を撫でた。大きく開いたドレスの背中に直接柔らかな手のひらが当たって、俺は自動的に赤面する。
 そんな俺の態度がおかしかったのか、ひとしきり楽しげに笑った後、彼女はポツリと呟いた。
「なんだか輝君って、不思議なひとね」
「はい?」
「突然見知らぬ世界に連れて来られて『世界を救え』だなんて、普通ならもっと動揺するはず……って、連れて来た私が言うことじゃないわね」
 その一言で、さっきまでの明るい雰囲気が一変する。彼女の顔から可憐な微笑は消え去り、代わりに現れたのは陰りを帯びた儚げな横顔。一目見るだけで、胸が締めつけられるように痛む。
「詳しくは言えないけれど、こんな状況になっちゃったのは私にも責任があるの。だからどうしても、自分の力で解決したかった。なのに私が動けば動くほど逆効果で……何の関係も無いあなたを巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
 俺は慌てて首を横に振ると、ぐちゃぐちゃで整理できない気持ちをそのまま吐き出した。
「あの、気にしないでください。って俺が言うのも変ですけど、俺は全然平気ですから。平気っていうか、まだ現実味が無いだけっていうか、いやそうじゃなくて……」
 ――所詮この世界はバーチャルだから。
 言ってはいけない台詞が漏れかけて、俺はとっさに手のひらで口元を覆った。
 今感じている心地良い疲労感も、美味しい食べ物も、何より目の前で悲しげに俯く美女も、目が覚めれば全て消えてしまう幻……。
 不意に湧き上がる寂寥《せきりょう》感。俺は軽く目を閉じた。そして、思い出す。
 現実の俺は、根性無しのダメ人間だ。勉強も運動もイマイチ。女みたいだとからかわれても、ヘラヘラ笑ってスルー。
 そんな俺が救いを求めたのが、ゲームの世界だった。コントローラーを握れば、俺は最強の勇者に変身する。限界までレベルアップし、凶悪なラスボスも薙ぎ倒す。
 貧弱な身体とツマンナイ現実を抱えたまま、俺はずっとそんな世界で戦い続けてきた。
 だけど……。
「輝君?」
「あの、聞いてもらえますか? 俺の家族の話……」
 いつもお風呂で愚痴るしか術がなかった、俺の本音。
 初めて人前で口に出すせいか、緊張で声が掠れる。背中から感じる熱に励まされ、俺はゆっくりと語った。
「俺の父親、辛いことがあって逃げたんです。俺はそんな父にそっくりで……父が居なくなってからは特に、その現実を見たくなくて、部屋に閉じこもって過ごしてた。でもそんな自分が大嫌いだった。本当は、強くなりたかった……」
 お母さんが、慣れない水商売で疲れているのを知っていた。
 お姉ちゃんも、大学進学を諦めた。
 なのに俺は――
「大丈夫、あなたならできる」
 背中に触れていた温もりが、いつしか俺の頭へと移った。彼女の指先はピアノを奏でるように、俺の髪に触れては離れる。俺は泣きそうな顔を見られたくなくて、顔を伏せドレスの裾を見つめた。
「私には、特別な力があるの。未来が少しだけ見える力。だから分かるのよ。あなたがこれからどんな素敵な人になるのか」
 唇から零れる、深い海のような母性。あの飄々とした魔術師ですら、虜にしてしまうような魅力。
 その声に操られるように、俺はゆるゆると顔を上げる。慈愛に満ちた笑みを湛える彼女は、近寄り難いくらいキレイで、それなのに圧倒的な引力で惹かれてしまう。
「今の話を聞いて、分かったわ。私たちがあなたを選んで、こうして呼び寄せて……この世界で出会ったのは、運命だったんだって」
「運命……?」
「だって輝君は、探してたんでしょう? 生まれ変わるキッカケを」
 彼女の柔らかな声が、見えない光の矢となって俺の心を射る。
 そうだ、俺はもうバーチャルな強さを得るだけでは飽き足らなかった。造られた勇者キャラじゃなく、生身の身体で強くなる……そのチャンスをずっと待ってたんだ。
 俺は唇を噛みしめ、力強くうなずいて見せた。
「ありがと。俺、本物の勇者になんてなれるか分からないけれど、この世界のために精一杯頑張ってみるよ……」
「うん、頑張って。きっと上手く行くわ」
 気付けば、彼女の細い指先が俺の頬に触れていた。彼女の唇から、甘い吐息が漏れる。それを感じることができるくらい、彼女は俺との距離を縮めてくる。
「あ、の……」
「頑張ってくれるなら、お礼に“祝福”をあげるね」
 彼女が言う祝福の意味を察して、俺の心臓がびくんと飛び跳ねた。体中の血液が、再び顔に集まってくる。宝石のように輝く、潤んだ黒い瞳から目が逸らせない。
 俺、どうしちゃったんだろう?
 今日は、やけに恋愛体質になってる気がする……。
「あなた可愛いわ。それにとっても良い香り。たぶん光龍ちゃんもそう思うはず。もちろん私も……」
 うん、BLよりも百合の方がイケる……。
 いや、俺は男だから百合じゃないけど、このシチュエーションって傍から見たら完璧百合……って、あれ?
 今さりげなく、妙な単語が聴こえたような?
 小首を傾げぼんやり考える俺に、彼女の唇が急接近してくる。逃げようにも逃げられない。いや、むしろ逃げたくない。
 ああ、ファーストキスまであと一秒……。
「勇者さーん、時間ですよー」
 えーっ、とブーイングしながら俺を抱き寄せる美女と、憮然とした表情で仁王立ちする魔術師。
 直後、俺は戦いの渦に巻き込まれる。世界最強魔術師二人による、ガチンコ夫婦喧嘩の贄として――。


 惜敗……ではなく完敗した魔術師は、ツタンカーメンのように直立不動で床に寝転がりながら言った。
「では、今から勇者殿を光龍の元へお届けしましょう」
「えっ、届けるって」
「例の“闇の道”を、光龍の住処まで繋げました。今度は私の手ではなく女神の宝剣が導くので、ものの数秒で辿り着くことができるはずです」
 ――早っ!
「ちょっと待て! いきなりラスボスっ?」
 近所で雑魚倒してレベル上げて、隣町で装備揃えて、魔術師と戦士系の仲間(できれば女子希望)探して、イベントこなして中ボス倒して……そういうの全部すっ飛ばしてっ?
 パニックで呆然とする俺に寄り添い、美女が囁いた。
「ゴメンね、輝君。もう時間が無いみたい。大丈夫、あなたならできる。さ、いってらっしゃい!」
 ああ、母の愛は深く……ときに厳しい。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 ついに出してしまいました! ザ・男の娘! そして百合(GL)! どっちもお初でございます。全年齢向けなのでライトですが、イケナイ雰囲気を味わっていただけましたでしょーか。むふふ。最近、この話の長編化を考えるにあたり、主人公が『天然男の娘』でいいのかと悩み中です。別の候補は、ボーイッシュな男装女子と、クール守銭奴系男子です。どっちも良い感じになると思うんだけど、このピュアっぽさもやっぱり捨てがたいのぅ……。あと今回は、途中で話が若干シリアスになりました。コメディにシリアス混ぜ込むのも難しい! 今後もうちょいシリアス化していくための布石だったりするのですが……中には全面コメディ押しを好む方もいらっしゃると思います。が、作者的にはやはりシリアスをエッセンスに使いたいところ。『グルメ猫』でもそーだったんですけどね……いきなりシリアス化。この流れが成功しているかは神の味噌汁……。あと、短編なのでRPG的にフィールドうろうろせず、一気にワープしちゃいました。手抜きっぽくてスミマセン。orz
 次回は、ラスボスこと光龍とご対面です。ニワカ勇者な主人公、初めてのバトルを目前に、かなり動揺するハメに……?



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