喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
番外編


番外編2(2)シャイニング☆ドラゴン ~その1~

2010.01.09  *Edit 

1.苺シャンプーは異世界召喚の味

「お母さーん、シャンプー切れたまんまじゃん!」
 底冷えする廊下に顔を出して叫ぶと、台所から母が声を張り上げてきた。
「ゴメン、忘れちゃった! 明日スーパー行ってくるから、今日はお姉ちゃんの使って!」
「えー、アレ使うのー?」
「文句言わない! それが嫌なら石鹸で洗いなさいっ」
「頭バリバリになるよー」
「あら、そんなことないわよ。お母さんは地球にやさしい“石鹸シャンプー”と“お酢リンス”で快適ふさふさよっ。ついでに下の毛も――」
「あーはいはい、明日絶対だよっ!」
 エコロジストでエロテロリストな母の蘊蓄をシャットアウトし、極寒の脱衣所から極楽な湯船に出戻りダイブ。正方形の浴槽は狭くて、ギチギチの三角座りでようやく肩まで浸かれる。この狭さが年の割に小ぢんまりしたマイボディにはピッタリだけれど、前の家の広々快適なお風呂を思い出すと、胸がツキンと痛む。
 一昨年、父さんが倒産を機に家出し、やむなく自宅を売却。母と姉とアパートで三人暮らしになった。我が家の新たな大黒柱となった母は、太く逞しく……「いつものシャンプーじゃなきゃヤダ」と我儘を言ったところで、近所のコンビニで定価のシャンプーを買うなんて発想はミジンコ程も生まれないだろう。
「あーあ、シャンプー一つ好きなように買えないなんて、侘しいなぁ」
 こんなこと、頑張っている母はもちろん、姉にも友達にも言えない。だから、湯気が天井からポタリと背中に落ちる……そんな昭和レトロな浴室で独り、愚痴る。
「ボロアパートに引っ越して、高校も近所の公立一本……ま、受かったから良いけど。学校はそれなりに楽しいし。でもクリスマスはビミョー」
 高一の冬といえば人生花盛り。周囲はクリスマスを目前にし、ウキウキ浮足立っているというのに、なんら予定の無い自分。懐が寒いせいで、独り身の友達と遊ぶこともできない。
「明日もいつも通り、お母さんとサシでご飯か。多分メニューはケンタッキー……の代わりに格安鶏ムネ肉のからあげと、ケーキの代わりにヤマザキスイスロール。お姉ちゃんはデートかな。いいなぁ、突然理想の相手とフォーリンラブ……」
 寒すぎる妄想の間に、身体は温まった。湯船から上がり、しぶしぶ姉のシャンプーを手に取る。
 これは最近妙に色気づいて来た姉のお気に入り。ショッキングピンクのパッケージには、『ティアラ・恋コロンシャンプー(イチコロベリーの香り)』と書いてある。その丸文字フォントを見るだけで、甘ったるくて嫌気がさす。
 一応固形石鹸もチラリと見やり、「こっちの方がまだマシか」と溜息を一つ。
 これが運命の分かれ道とは、露知らず――。


「うわ、くっさー! ダメだこりゃ。取れないや」
 容器のてっぺんで微笑む、お姫様ヘッド(キャップ)をポキッとへし折ってワンプッシュ。たったそれだけで、ガッツリ髪に吸着する苺香料。
 ふと、現在放送中のCMを思い出す。
「“王子様が探していたのは苺の香りのお姫様でした”って、さすがに臭過ぎだっつーの……」
 温度を少し熱めにしてみようかと、お湯側のカランをもう半回転させる。と、いきなり熱湯になってしまった。シャワーヘッドから、一寸先も見えない程の湯気が立ち上る。
「ったく、これだから古い風呂釜は……」
 一旦シャワーを止めるべく、湯気もっくもくの中で伸ばした手が……何か別のものに触れた。
 それはプラスチックのカランじゃない。もっと柔らかくて、ほんのり温かいモノだ。
 むにゅっと握ってみると、こっちの手を握り返してくる。まさにシェイクハンド。
 ここには、自分以外誰も居ない。
 これはもしや……。
「ででで……出たっ……」
 不動産屋のオヤジの脂っこい笑顔が脳裏をよぎる。
『こちらは少々訳アリ物件でしてね……ま、理由は察してください』
 リアリストな母が笑い飛ばし、入居前には水戸泉(相撲取り)のごとく大量の塩を撒いてお清めを……って、今はそんなこと考えてる場合じゃない!
「ゆゆゆ……幽霊ーっ!」
 ほとばしる叫びは、にゅっと伸びて来た幽霊の手のひらによってあっさり塞がれた。大ぶりな宝石が光る指輪をはめた、大人の男の手だ。リアルなビジュアルと生々しい感触に、全身ゾワリと鳥肌が立つ。反射的にその手を振り払った……拍子に、濡れたタイルでつるっと踵を滑らせる。
 蛇のようにうねるシャワーホース、水垢で曇り切った壁の鏡、水滴がまとわりついた天井……と、スローモーションで移りゆく視界。
 あ、死ぬ。
 このままいけば、後頭部をタイルに強打してお陀仏。まさにB級ホラーの王道展開。
 思わずギュッと目を瞑ったものの、なかなか衝撃は訪れない。
 というか……。
 まさか、床にデカイ穴が開いてるなんて――
「ぎゃぁああっーー!」
 見えるのは、ただただ漆黒の闇。じたばたと動かした手足が空を切る。がっちり握られた幽霊の手だけが確かな感触。
 ああ、これはたぶん夢に違いない。
 狭い浴槽でうたた寝したばっかりに見てしまった、世にも奇妙な夢物語。
 それにしても、夢の中でもしっかり“苺臭”がするなんて……イチコロベリーのパワー、恐るべし。

 ◆

 浴室にぽっかり空いた幽霊トンネルを抜けると……そこは、天国だった。
 寝惚け眼に映るのは、一流ホテルスイートルーム調の内装。真上には、高い天井を遮るように白いレースの布がたるんとかかっている。これは天蓋ってやつだ。
 生まれて初めて体験する、ゴージャスな“お姫様ベッド”は、いつものセンベイ布団とは雲泥の差。まさに天国……。
 とろんと落ちかけた瞼に、微かな熱い吐息がかかる。
 吐息が……ん?
「――ぎゃあっ!」
「ああ、姫君。ようやくお目覚めですね? あと一秒遅ければ、不肖私がこの唇で起こしてさしあげるところでしたよ」
 枕元に寄り添い、吐息を感じるほどの至近距離で見つめてくるのは、見知らぬ男だ。
 長い睫毛に縁どられ、切なげに細められる瞳の色はグレー。着流しが似合いそうな、和風で端正な顔立ち。シルバーグレーの長い髪は、背中で一つに束ねる志村けん(シムケン)縛り。なぜかフードの付いた真っ黒いローブを着ている。
 パッと見、優しげなイケメン黒魔術師。しかしその瞳は、強烈な“ケダモノ”臭を放っていて……。
「まだ夢心地のご様子。では僭越ながら」
「――起きるっ、起きますっ!」
 ふっと笑みを漏らした男は、「それは残念」と呟いて枕元についた手を離す。
 その手に光る指輪には、見覚えがあった。
「アンタ、さっきの幽霊……ってことは、ここホントに天国っ?」
 ガバッと飛び起き、裸の左胸に手を当てる。感じるのは確かなビートを刻む鼓動。
 うん、生きてる。
「おっと姫君、そのお姿は刺激的過ぎますよ」
 男はいつの間にか白いガウンを手にしていて、剥き出しの肩にかけてくれた。上質な素材のようで、軽いのにホワンと温かい。袖を通しボタンをとめていると、思い出したように寒気がやってきた。髪もまだじっとり濡れている。
「――ひっくちん!」
「おや、お風邪を召されては一大事。取り急ぎ御髪を乾かしましょう。後で温かいお飲み物を」
 男は優雅に微笑むと、指輪をはめた手を突き出してきた。その手のひらからターボの温風が発生……。
「それにしても姫君の黒髪は、女神と見紛う程に美しい。それになんという芳しい香り。この香りに導かれて私は」
「あのー、ちょっといいっスか?」
 苺髪をオカズに妄想ワールドに入りかけていた男が、きょとんとした顔で切り返す。
「どうしました? 姫君」
「さっきから、ちょいちょい引っかかることが……」
 5W1H、全部聞きたいのはやまやまだけれど、優先順位的にはここから。
「その“姫君”って、まさか俺のことじゃないよね?」
「ん? あなた以外にどなたがいると?」
「俺、男なんスけど」
「ハハッ、ご冗談を。大丈夫です、少々寂しいお胸はいずれなんとかなりますよ。よろしければ不肖私が成長の術を」
 温風が止まり、その手がワキワキしながら近づいてくる。俺はヒイッと悲鳴を上げ、掛け布団を手繰り寄せた。
「そっちこそ冗談はよせって! 俺は男だ!」
「そんな芳しい男児など、私は見たことがありません。これは確かに姫君の香り」
「たまたま! お姉ちゃんのシャンプー使ったから!」
 不思議な透明ドライヤーですっかり乾いた髪からは、落としきれなかった苺臭がぷいーんと漂う。いつもは男気溢れる爽快ハード系を使っているのに、このクソ苺のせいで手触りはサラッサラ、スルッスル。これじゃ“ショートカットの女子”に間違えられても仕方ない……。
「畜生っ、見ろやコレっ!」
 俺は掛け布団を一気にはぎ取った。羽織ったガウンからはみ出した、股間のモノを見せる。
 男は一瞬眉根を寄せたものの、スッと目を逸らし、俺の顔だけを見つめて言った。
「さて、一体何だったのでしょう? 小さ過ぎて私の目には判別できませんでしたが」
「――嘘つくなっ! っていうか、さりげなくヒドイこと言うなー!」
 涙ぐむ俺に、男は声を上げて笑いながら「冗談ですよ、姫君」と囁いた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 しょっぱなから、自分らしさ大爆発な感じになりました! こんなベッタベタの異世界召喚……いかがでしょうか。ベッタベタの叙述トリック(=女子と誤解させちゃうぞーな仕掛け)も、どーですかね? 長編の方を読んでいただいている方には、舞台もお分かりになったかと思います。はい、ヘンタイ度ナンバーワンの魔術師様の居る『大陸』のお話でした。ヘンタイ魔術師様、どのくらいヘンタイ度をアップさせようかと悩みましたが、まあ全年齢の範囲内で。この先どんどんヘンタイ加速しますのでお楽しみにー。この作品ですが、ドリフをフューチャーしております。この第一話にも、ドリフネタがちょこちょこ隠れてますので、探してみてくださいませっ。(年齢的に分からない方は、親御さんに聞いてみましょう。いや、こんな話を読んでることは内緒にしておいた方がイイカモ……) ※ちなみにこの作品は「けんぷファー」というアニメのエンディングテーマ「ワンウェイ片思い」をひたすら聴きながら書きました。無駄に萌えまくり、テンション上げまくり狙いで。あれはスゴイ曲ですぜっ。あと腰が(ry
 次回は、主人公が異世界召喚された理由が明らかになります。そして、ヘンタイ魔術師さんの意外なプライベートも……?



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