喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章 エピローグ ~三角の頂点(3)~

2009.12.13  *Edit 

「ねぇ、ジュート。なんだかすごく暑いの……このワンピ、脱いでいい?」
「……氷水でも飲んで我慢しろ」
「じゃあ、下着だけでも脱いでいいよね?」

 ベッドの上に寝転んだまま、サラはもぞもぞとワンピースの裾をたくし上げる。
 その下に穿いているのは、必殺下着人シリーズでも一番キレの良い、パープルのアイツだ。
 なんら躊躇せず、サイドの紐を引こうとしたサラの手が、力強い手でガシッと掴まれる。
 触れられた手のくすぐったさに、サラは思いっきりそれを振り払って笑い転げる。
 ワンピースからにょきっと飛び出る、均整のとれた細く白い足から目を逸らし、ジュートは呟いた。

「サラ……もう一回風呂入って、その香油落として来い」
「えー、またお風呂なんてメンドクサイよー」

 サラは、ベッドの上からむくっと起きて、ジュートの膝の上に移動。
 硬く引き締まった太ももの上にぽよんとお尻を乗っけて、ジュートの首に腕を回す。

「そうだ、いいこと考えたっ。ジュートも一緒にお風呂入ろ? 自分じゃ背中流せないもん」
「……勘弁してくれ」
「うふふっ。あなたのことも、ちゃんと洗ってあ・げ・る」

 首に回した手を外し、ジュートの頬から首へ、そして胸へと滑らせるサラ。
 上気した身体から否応なく香油の成分が飛び散り、それを吸い込んだジュートの胸を高鳴らせる。

「ねぇ、最初に洗って欲しい場所……どこ?」
「――くそっ!」

 思い切って抱き寄せれば、くすぐったいと大爆笑。
 冷たく突き放せば、こうしてねちっこく追いかけてくる。
 どうやら向こうから触るのはOKで、こっちに触られるのはNG。
 中途半端に触れて、誘惑して、生殺し状態をキープし続ける今のサラは……恐ろしい魔女だった。
 とりあえずサラを退かせるために、ジュートはその頬をむにっと摘む。

「ふひゃっ!」

 そのワンタッチだけで、サラは飛び退いてしまう。
 その立ち位置が寝室のドア方面に行ったことで、ジュートは一つのプランを思いついた。
 重い腰を上げると、ようやく笑いが収まりかけたサラの肩をつつく。

「うにゃっ!」

 またもや飛び退って、サラのポジションは寝室を飛び出し机の脇へ。
 そのままツンツンとつつき続けて……笑い転げ過ぎてぐったりしたサラを、服を着たまま女子風呂の湯船に放り込んだジュートは、風の魔術で“おばちゃん”を呼んだ。

  * * *

 全身に妙なけだるさを感じながら、サラはジュートの部屋でぼんやりと座りこんでいた。
 息が苦しく、酸素が足りない気がする。
 口でスーハーと呼吸しながら、サラはジュートに問いかけた。

「ねぇ、ジュート……なんで私、鼻栓なんて」
「気にするな。ついでに俺に近寄るな」

 容赦なく冷たい台詞に、サラは涙目でジュートを睨みつける。
 夢心地だったサラは、おばちゃんに身体を洗い直されている途中で目が覚めた。
 一度しっかりお風呂に入って、その後ジュートの部屋に行ったはずなのに……と考える端から記憶が零れ落ちて、あやふやになっていく。
 そして最も不可解なのが、お風呂あがりにおばちゃんが無理矢理詰め込んだ、この鼻栓。

「ねー、息が苦しいよ。なんでこんなことしなきゃいけないの? 私、鼻血なんて出てないよ?」

 おばちゃんは「頭領様の命令だから、取るんじゃないよっ」と言ったけれど、ジュートからその理由は一切説明してもらえない。
 文句を垂れるサラは、自分の皮膚にしみついたほのかな香りに気付かない。

「こんなの付けて恋人と二人きりなんて、しかも手も繋いじゃダメなんて、ヒドイよぉー」
「ヒドイのはお前だ……ったく、今夜はそれで我慢しろ。何か聞きたいことがあるなら聞け。無いなら出て行け」
「むうっ、その言い方ロマンチックじゃないー」
「文句言うなら今日はお開き。疲れたから俺はもう寝る」
「寝るって、一緒に……?」

 軽い天然ボケだったはずが、親の仇を見るような目つきで睨みつけられ、サラはうっと押し黙る。
 自分の記憶がおぼろげな間に、何かやらかしたのには違いない。
 けれど、そんな風に憎々しげに見られるほどの粗相はしてないはず!

「分かった、もう鼻栓のまんまでいいよっ。その代わり、今夜は朝まで生質問大会ね!」
「頼むから、手短にしてくれ……」
「なによ、私と一緒に居るのがそんなにイヤなのっ?」
「そういう問題じゃねーって……」

 こめかみを指で押さえ、くたびれきった老人のようなしゃがれ声を漏らすジュート。
 サラは不満を膨らませつつも、なぜかちょっとだけ自分が悪いような気になってきた。
 とりあえず、聞きたいことを頭の中で整理しようと試みる。
 しかし、ジュートへの疑問はたくさんあり過ぎて、溢れかえったハナの部屋の洋服ダンスのようだ。
 こういうときは何も考えず、片っ端からとっかかるに限る。

「じゃあ、今日のことから聞くね。さっき、地下の湖にサンちゃん達が集まってたのって、どうして?」
「それ言おうとすると、けっこう長くなるんだけどな……一言でいうと『魔女が封じられたから』だな」
「……なんだか、風が吹けば桶屋が儲かる話みたい。もうちょっと分かりやすくっ」

 サラから距離を取るため、ドアをまたいでデスクの椅子に座ったジュートは、長い足を組みかえながら淡々と答える。

「元々この岩山は“聖なる山”と呼ばれる場所だったんだよ。ここの地下と神殿の地下は直結している。水脈が“流れてきている”んじゃなくて、同じものなんだ。ようやく魔女が封じられて水の穢れが払われた。あいつらは魔物とはいえ大地の浄化を担うし、水を砂漠に持ち込むって仕事をする。だから一時的に結界を解いて呼び寄せた。以上」

 そこまでの情報だけでも、サラの頭の中はいっぱいいっぱい。
 与えられた情報が、丸めた毛糸のようにぐっちゃりとこんがらがる。
 サラはそれを解きほぐすべく、またもや端から質問を重ねた。

「えっと、聖なる山ってこの何も無い岩山が? しかも、ココと神殿って相当距離あるのに、繋がってるってどういうこと?」
「昔はもっと木も草も生えてたんだよ。女神が眠ってるうちに封印が解けて、いつの間にかサンドワームに乗っ取られてたんだ。聖域が魔物に穢されるのはマズイから、俺が来ざるをえなかった。あと繋がってるのは、ここが“頂点”だから」

 サラの頭には、見事に絡まった毛糸玉が出来上がった。

  * * *

「ねー、聞けば聞くほど分かんなくなってくんだけど……」

 ベッドに転がったサラは、ジュートの身代わりに愛用枕を抱きしめる。
 せめてジュートの匂いを感じたいと思っても、鼻栓がガッツリ邪魔をする。
 苛立って文句を言ってみたところで、ガンコジジイなジュートは鼻栓の解放許可を出してくれない。
 サラは唇をタコのように尖らせながら、聞いたばかりの話を噛み砕こうと試みた。

「つまり、大昔はキレイな山だったのが、女神が留守のうちに魔物であるサンちゃんに乗っ取られて……ん?」

 脳裏に蘇るのは、強固な岩盤を叩き飛ばして穴を開けた、サンちゃんの意外なパワー。
 ああやって、道を掘りながら進めるということは……。

「ねぇ……まさか、この砦の中の部屋とか通路って、全部サンちゃんたちの……?」
「まあ、当然だな」

 サラをからかうように、軽い口調であっさり言い放つジュート。
 リアルな想像をしかけたサラの背中に、ゾクッと悪寒が走る。
 この部屋はもちろん、うねうねと開いた穴という穴が……全て、サンちゃんたちの仕業だったとは!

「うえー、気持ち悪っ……てっきり鉱山の跡地だとばっかり思ってたのにー」
「鉱山がこんな非効率的な掘り方するワケねーだろ」
「確かに、なんだかアリの巣みたいな作りだなーとは思ってたけど、まさか本当にそうだとは思わなかったよ」

 悪寒を和らげるために、サラはサンちゃんを可愛いアニメキャラにデフォルメしてみた。
 聖なる山の封印が解けて、わーいわーいと喜んで引っ越してきたサンちゃん。
 せっせと穴を掘って部屋をたくさんつくり、仲間との愛を育てて子どもを増やして、これだけ立派なマイホームを築き上げた。
 しかし、そんなサンちゃんたちを追い出した、悪徳土地転がしがここに……。

 涙ながらにとぼとぼと砂漠へ出戻るサンちゃん一家。
 その後も、水不足の被害者になったり、闇の魔術で狂わされたりと、踏んだり蹴ったり。
 すっかりサンちゃん派になったサラは、サンちゃんに同情的な気分で、涼やかな目をしたジュートを睨み上げる。

「ジュートが、いたいけなサンちゃんたちからこの山を乗っ取ったのね。それっていつ頃?」
「いつだったかな。百年は経ってねえな」
「古っ! てゆーか……ジュートって何歳?」
「さあ、忘れた」

 ロリコンライン……いや、その話はひとまず置いておこう。
 本題は、そんなところじゃないし。
 サラが本当に聞きたかったのは……。

「だったら元カ……ううん、なんでもない」

 サラは、わざとらしくゴホンと大きな咳をした。
 心の奥から投げかけられる「それだけ長生きしてて、彼女の一人や二人居ないなんて、逆にキモイよねー」という、意地悪な乙女の声をかき消すべく。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 媚薬……はい、ゴメンナサイ。ずるずる引っ張ってしまいました。普段色気無いサラちゃんが、可愛く迫るシーンをねちねちと描きたかったのです。しかしヒドイ薬だぜ……ジュート君、生殺しにしちゃってごめんよっ。アホな微エロの後はガッツリ鼻栓で真面目なお話を。さて、このエピローグではでジュート君の謎をある程度暴露しようと思ってるのですが、なかなか進まねーです。最初のこんがらがった毛糸説明でピンと来る方は、天才だと思います。今回は、うねうね岩山の謎まで。サンちゃんたちは、だんだん愛らしいキャラになってきた……よね? あとは、ジュート君の私生活に関する憶測も多少。まあ、こういう輪廻転生していくキャラって、年齢聞くの愚問だよね? と、設定考えるのメンドクセー病をゴマカシつつ。ちなみにジュート君の元カノ=前の女神サマ、つまりサラちゃん自身です。己の敵は己ということで。
 次回は、ジュート君の過去話をガッツリと。サラちゃんの媚薬な煩悩もまだまだくすぶりまくり……。エピローグ、ラスト2です。



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