喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
番外編


番外編1(4)クロル王子、猫になる ~グルメ猫・その3~

2009.11.27  *Edit 

3.一日目・夜。

 昼にカレーを食べた俺(今はゴロー)も、ドライフードを食べたゴロー(今は俺)も、さすがに腹が減ってきた。
 ゴローは、いつも俺がするようにタッパーを開け、ドライフードをスプーンでひとすくいして小皿に移す。水を代えてくれている間に、俺はふらふらとその餌に吸い寄せられていった。
 一度、手の先でツンツンとつついてみる。小さな三角形の固い粒が、焦茶色・レンガ色・緑色の三色。ときおり混じる純白の丸い粒は、『お肉とお魚&野菜(ミルク粒入り)』という商品名の通りだ。
 見た目はこんなに不味そうなのに、なんという芳しい香り……涎が口の中にじゃぶじゃぶ溜まっていく。
「ほら、早く“ご飯”食べなよ」
『ご飯』
 そのキーワードに、俺の猫スイッチが入った。
「うにゃあっ!」
 歓喜の声を上げ、俺はその固いポリポリしたものに鼻を押し当て、本能の赴くままにむさぼりついた。
 美味い……なんて美味いんだ! 噛み締めるほどに口腔内から鼻へと充満するこの香り! お肉、お魚、野菜……三つのハーモニーにマイルドさをかもし出すミルク粒のアクセントがたまらん!
 俺がカリカリを食べるのに夢中になっている間、ゴローは冷蔵庫を物色していた。チャリッという特徴的なその音と、鼻腔をくすぐる強烈な香りを感じたとき……俺は目の前のご馳走を放り出し、ゴローの元へ駆け寄っていた。
「何食おうとしてる、てめーっ!」
「っふふふ。ずっとこれを食べてみたいと思ってたんだよねっ」
 ゴローが手にしていたのは、正方形の薄い板状のモノ。人間の俺がラッピングされたシートを剥がすたびに、興奮したゴローがニャンニャンと足元にまとわりついてきた、アレだ。
 猫の俺は、ゴローの向こう脛に爪を立てながら抗議した。
「それを俺にも食わせろっ!」
「ほほぅ……これがチーズ。なんとも濃厚でクリーミー、塩味がきいている」
「おーれーにーもー!」
「ダメだよヒデキ君。猫は塩分を取りすぎると病気になっちゃうからね」
「せめて、そのフィルム部分だけでも舐めさせて!」
 願いも空しく、フィルムは蓋のついたゴミ箱へひらりと消えた。
 ニオイが無くなると同時に、俺の欲求も萎む。すごすごとカリカリ前へ戻る俺に、やけに力無いゴローの声が届いた。
「ヒデキ君、なんだかボク、力が出ないよぅ……これだけじゃ腹の虫がおさまらないんだけど」
「当たり前だろ、スライスチーズ一枚じゃ……ていうか、その慣用句間違ってるし」
「あのさー、聞いてくれる? ボク人間になったら叶えたい夢があって」
「何だよいきなり」
「グルメ……」
 俺の第六感が、嫌な展開を予測する。尻尾がしゅるっと股の間に入り、また耳の裏がかゆくなってきた。本当にハゲたら可哀想だから耳を掻くのは我慢し、代わりに腕や足を舐めて心を落ち着かせる。
「人間の舌は、猫よりも複雑なんだってね。しかも、味覚は五つもあるとか」
 甘味、酸味、塩味、苦味、旨味。
 俺が過去に学んだ雑学を、複雑極まりない人間様の脳ミソから引っ張り出しつつ、ゴローはニヤリと笑った。
「この五日間で、五つの味覚を堪能する……うん、素晴らしい目標だ。人間とは自ら目標を立て、自己実現の達成に向かう生き物である」
「ちょっと待て」
「ヒデキ君も、猫の味覚を愉しんでるみたいだしね。さて、人間の世界は“お金”というものがあれば何でも手に入る、と……」
 俺の鞄から財布をまさぐるゴローに飛び掛った俺は、懇願した。
「やめてくれっ、俺の小遣い……夏休み博美とデートしようと思って溜めてたのにー!」
「いいじゃん、ちょっとくらい。可愛い飼い猫には旅をさせろというし。それにヒロミとはもうサヨナラしたんでしょ?」
「間違ってる! いろんなことがっ!」
 ゴローは財布をジーパンのポケットにねじ込むと、キッチンの食器棚の引き出しからあるモノを取り出した。
 それは俺がゴローの爪を切って怒らせた後に、必ず与えるもの。
「お詫びに、キミにもこれをあげるから、ね?」
 ゴローは躊躇せず、その小袋を開けた。

「――フニャアァァッ!」

 マタタビ……酒もタバコも苦手な俺にとって、それは初めて経験する悪魔の粉だった。
 何度も床を転がり、柱の角に体をこすりつけながら、俺は「せめて食費は一日千円以内で……」と壊れたレコーダーのように呟き続けた。



 俺がマタタビで夢の世界を旅行中、コンビニへ出かけたゴローは、意外とあっさり帰ってきた。なんでも、暗い中を歩くことや車のクラクションが怖かったらしい。
 一方俺の方は、電気もつかない暗がりでも快適だ。何かにぶつかりそうになればヒゲがぴくりと動いて、危険察知のセンサーになってくれる。
「ところで、何買ってきたんだよ?」
 ようやくまたたびが抜け、正常な思考を取り戻した俺がテーブルに飛び乗ると、ゴローはレジ袋を俺の前に置いた。うっすら透き通るその袋の中に、俺は大好物を発見する。
「こ、これは……」
「うん、菓子パンとアイスだよ。一日目は“甘み”を堪能するんだっ」
 俺は涙を流す代わりに、スンスンと鼻を鳴らしながら腹の毛を舐めた。菓子パンもアイスも、特別良いことがあったときのご褒美にしていた。いつもはスーパーで一斤百円の食パンを買い、同じく一個百円のジャムをつけてごまかしているのに。アイスなんて贅沢品はもう何日食べていないか……水道水の自家製カキ氷で我慢しろっちゅーねん……。
「なんとなく美味しそうだなーと思ったものを選んだけど、これはヒデキ君の記憶にあったからなんだね。しかし、甘みって癖になるねぇ。止まらないや」
 白い砂糖がかかったうずまき状のデニッシュ。表面がツヤツヤしたアップルパイ。本物のメロン果汁が入ったメロンパン。
 そして、あのアイス……。百円のラクトアイスならまだしも、俺が食べたくても手が出ないと涙を呑んでいた二百五十円の高級アイスクリーム、しかも期間限定リッチミルク味……。
「そんなに恨みがましい目で見ないでよ。ヒデキ君にも一口あげるからさ」
 デニッシュ生地のはらりと剥がれ落ちた皮が、アイスの蓋と共に目の前に差し出された。人間思考の俺はそこに飛びつきたいのに、猫という名の戦うボディが邪魔をする。
 嫌がる猫本能をなんとか押さえつけ、俺はそこに舌を伸ばした。デニッシュ皮を舌ですくい、くちゃくちゃと噛み締めてみる。次に、溶けて液体状になったアイスのミルクをぺろり。
「……味、しねーし」
 さっきのカリカリと比較するなら、百点満点の十点。
 猫背になってうつむく俺を尻目に、パンとアイスで腹を満たしたゴローは満足気に舌なめずりすると、突然びくんと体を震わせた。
「おおっ、なんかもよおしてきたよっ。人間の体って不思議なしくみだねえ。食べたらすぐそれが出てくるんだから」
 ゴローにそう言われて、俺も思い出したように下腹部を気にする。さっき食べたカリカリは確実に消化中。しかし腸の奥にまだ固いものが残り、手前まではあと一押し足りない。
「俺、ちょっと走ってくるっ!」
 とりあえず、十四畳のリビングを端から端まで三往復ダッシュしてみた。イイ感じにアレが盛り上がってきたそのタイミングで、俺は玄関先にあるトイレにまたがった。
『ムリムリムリッ……ムリッ』
 フニャゥーと息を吐きながらお尻をピクピクさせた俺は、ツーンと立ち上る香ばしいそのニオイが鼻につき、顔をしかめた。人間の俺が感じるよりよほど不快だ。
 ていうか、なんだか猛烈に恥ずかしいっ! 早くそれを隠したいっ!
 俺はできる限りこんもり砂をかけると、そろそろと猫足でそこを離れた。トイレから出て来たゴローが「ねえ、人間のアソコって……」と話しかけてくるのを遮り、俺は叫んだ。
「ゴロー、トイレのアレ、早く始末してくれよっ!」
「了解。じゃあヒデキ君も、ソコをきちんと始末しておいてね」
 そのとき俺は、猫の勘で察した。ゴローが始末しろと命じたのは、俺の……さっきアレが出て来たソノ部分。背中を床につけ、体を思いっきり猫背に曲げてみると、小さな蕾みにアレのカケラがついているのが見える。
 ま、まさか……。
 俺は信じられずにブルブルと頭を振りつつも、そこから視線を逸らせない。猫本能により、吸い寄せられるようにその場所へ舌が伸びていく。
 アレを、早く取り除きたい。
「おい、ゴロー……濡れタオルでぬぐってくれよ……」
 喘ぎながら必死で伝えた言葉は、この非情な男には届かなかった。
「大丈夫だよ、猫の舌だと“苦味”って味覚は薄いから」
 さて、もう一回シャワー浴びて来よっと言いつつ、ゴローはその場を立ち去った。
 一人にしてくれたのは、武士の情けなのだろうか。
 ああ……もう逆らえない……。
 舐めたい……。

 俺はこの日、人として大事なモノを失くした。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 今回は、そーとーお下品な話でした。申し訳ありません……でも、猫の気持ちになってもらえたはずです。アレとこっち、食べるならどっちがい……ゴホン。では一点補足を。トイレから出てきたゴローが言いたかったこと……はスルーしまして、真面目な話をば。猫にとってカリカリの色は識別できません。分かりやすさのために、そこだけフィクションにしてあります。そこだけ……はい嘘です。ツーンな匂いが恥ずかしいとか、あっちこっちにフィクションがございます。でもチーズやマタタビの話も含め、基本は猫の生態をリサーチして書いております。そして今回ようやくグルメの話になりました。実はこの話を書く際に『5』というお題が決められていたので、5つの味覚を5日間でという設定になりました。ちなみにゴローが食べていた菓子パン&アイスは、全て作者が愛している物です。本当は『ナイススティック』が一番好きなのですが、地味過ぎて描写が難しかったです。それこそ細長いう○……ゴホン。他にも小ネタが散りばめてありますので、見つけたらニヤッとしてください。
 次回は、二日目三日目と一気に進みます。グルメネタ中心で、あまりお下品にはなりませんのでご安心くださいませ。



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