喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章(41)青いダイヤ

2009.10.16  *Edit 

 乾いた大地を力強く蹴り、小石を飛ばす蹄の音。
 そして、ガラガラと回る鋼鉄の輪。
 サラ自身二度ほどお世話になったことのあるその耳慣れた音に、ふふっと機嫌よさげに笑いながらサラは提案した。

「ヘイ、ジュート! あの人たちと合流しよ? もう近くまで来てるみたい」

 一度言ってみたかった、ビートルズ風の呼び方をしながら、サラはアメリカンに親指を立ててウインクする。
 ジュートは一瞬目を見開いた後、遠く砂煙の微かに立ち上る荒野を見やる。
 すぐさま状況を理解したのか明らかなしかめっ面になり、吐き捨てるように言った。

「チッ……お前のアレをナニしようって狙ってる、クソガキ共が来るのか……」
「ちょっ! ジュート、ナニ言ってんのっ?」

 巫女として崇め奉る、偉大な精霊王の意外な素顔を見てしまい、あっけに取られ口を半開きにする太陽の巫女。
 サラは、なおも続けて飛び出そうとする『盗賊スラング』を察し、その口を塞ごうと慌てて飛びついた。
 伸ばした手が、あっさりと空を切る。
 気付けばジュートは「冗談だよ、じゃあな」と笑顔の残像を残しながら消えてしまった。

「もう! ジュートってば……お別れのちゅーもしないでっ!」

 負け犬の遠吠えは、きっとジュートの耳に届いたはずだ。
 消えたジュートは、たいして遠くへは行っていないと女神の皮膚感覚……ではなく乙女の勘が告げている。
 サラが今から目指す場所で、先に待ち伏せしているつもりだろう。

 それにしても、あんな風に闇の魔術を使うのは、力が完璧じゃない“精霊王”にとって、かなりの負担になるはずなのに……。
 サラは「今度無茶したら、月に変わってお仕置きよっ!」と小声で文句を垂れつつ、小柄な太陽の巫女を小脇に抱えて翼を広げた。
 まるでセカンドバッグを抱えるサラリーマンのように、ナチュラルな動作で。

「あ、そーだ。暴れないでね? 今あなたが落っこちて死んじゃったら、神々の大戦争がはじまっちゃうから……って、あれ?」

 時すでに遅し。
 サラが使用上の注意ならぬ脅しをかけた時には、すでに空へと連れ去られていた太陽の巫女は、あっさり意識を飛ばしていた。
 ぐにゃりと折れ曲がる腰のあたりに両手を添え、身体全体をよいしょとお姫様ダッコの形に抱え直しつつ、サラは考える。

 目が見えないといっても、太陽の巫女には心の目がある。
 心の目に映る風景がどんなものなのかは、サラにも分からない。
 しかし、目に映らないモノを捉えるということは、イメージの世界で生きるということだろう。
 こんなとき、本物の目より鋭い心の目……イメージを膨らませることができるとしたら、普通の目を使うより余程怖いのかもしれない。
 サラは、今度目隠しでバンジージャンプをしてみようと真剣に考えつつ、蹄の音の発生源へと向かう。

「それにしても……本当に、折れちゃいそうなくらい細いなぁ」

 痩せ細り死に至る寸前の人々は、写真や映像でしか見たことがない。
 大澤パパと、海外の貧困地域について語り合ったことも少なくないけれど、やはりイメージするのと実際目の当たりにしその身体に触れるのとでは大違いだ。
 砂漠でも餓死する民はいるのだろうけれど、この世界へ呼ばれてから旅の途中も含め、サラが直接目撃するようなことはなかった。
 
 サラは、抱えたものの重みと感触に、何か人間ではないもの……異形の存在を彷彿とさせられた。
 昔「脱いだらスゴイんです」という流行語があったが、今の太陽の巫女は脱いだら直視できないような……きっと、ミイラのような肌をしているのだろう。
 未だ若く美しい月巫女が、もしこの姿を見たらどう思うのだろうか。
 なにより、狂おしいほどに“太陽”を求め続けたあの人が見たら……。

「大丈夫。きっとあの人は、気付いてくれるはず。なにより、もう一人……」

 呟いたサラは、空へ放った今の言葉が真実になるよう、強く願った。
 この細くしなびた身体には、三つの瞳がある。
 二つの赤い瞳と、一つの心の瞳。
 現在その三つ全てを閉じた太陽の巫女は、例えるなら、壊れモノシールが貼られた荷物だ。
 このままずっと、瞳を閉じていてくれたらいい。

「疲れたでしょう? でもその前に、やらなきゃいけないことがあるから……もう少し頑張ってね」

 太陽の巫女の身体を慈しむように抱きなおしながら、サラは宇宙の神さまに、この企みが成功することを心から祈った。

  * * *

 上空から見下ろすと、人の配置が一目瞭然だ。
 ちょうど、サラたちが数日前に馬車からラクタへと乗り換えた場所に、彼らは居た。
 サラたちがやった作業と同じように、馬車の荷物を外へ運び出し、数頭のラクタへと詰め替えている。
 砂漠の旅のツアコンとも言える屈強な盗賊たちが、作業を手伝う。

 そしてジュートは、ちゃっかり盗賊グループの一員のような顔をして、少し距離を保ちながら彼らの動向をうかがっている。
 ああして存在感を消すというのは、ジュートにとって最も得意な木の魔術。
 サラは「あとで絶対ちゅーしてやるっ!」と睨みつけ、ひとまずは大好きな“彼ら”の元へ飛んだ。

「――あっ、サラ姫だっ!」
「うぉぉぉっ! サラ姫ーっ!」

 地上からぶんぶんと手を振る、もの凄く嬉しそうな子猫と大型犬の組み合わせ。
 サラの予想通り、クロル王子とリグル王子だった。
 変装しているつもりなのか、砂漠を行き来する商人と同じターバンを巻いているが、その眼力は隠せない。
 その上、同じように真新しいターバンを巻いたお付きの人間が、二人に目を光らせている。
 いずれも立派な騎士と魔術師ばかり……到底ただの商人一族には見えない、見るからに怪し過ぎる一行だ。

 サラが確認したところ、馬車は二台だった。
 この人数であれば、お忍びではなく国王の許可をもらっての旅なのだろう。
 その理由は……考えるまでも無い。

「運命って、これだから素敵ねっ」

 サラは、腕の中の存在から、まだ弱々しくも燃えている命の火を確認する。
 この人が目を覚ましたら、全てが終わるはず。
 微笑んだサラは、小鳥が舞い降りるように華麗に、砂漠の切れ目に降り立った。
 付き人たちが驚愕に身体をこわばらせる中、容赦なくサラへと突進してくる、洋猫と秋田犬。

「もうっ、二人ともこんなところで何してるのっ?」
「サラ姫カッコイイよっ!」
「サラ姫スゲー!」

 まとわりついてくる二人を適当にあしらうと、サラはまず一つの儀式を行った。
 意識を失ったままの太陽の巫女をやわらかい砂の上横たえ、軽く癒しの魔術をかける。
 なるべく赤い瞳に力が回らないように、腕や足の先を中心に……と気をつけたところで、そんな小細工が通用するのか分からないのだが。
 女神姿のサラに興奮していた二人も、その人物を見て何かを感じたのか、急に目つきを鋭くする。
 特に、クロル王子の反応は顕著だった。

「ねえ、その人誰? すごく危険な匂いがするけど」
「……やっぱり、クロル王子には分かっちゃうよねぇ」
「なにいっ? 俺だって分かるぞっ!」

 クンクンと鼻を鳴らしながら、でっかい図体を眠っている太陽の巫女へと近づけるリグル。
 サラは「ニオイで分かるんかいっ!」と鋭くツッコミつつも、太陽の巫女の容体を見守った。
 もしもサラの目論見が外れたとして、今日この太陽が沈んでしまったら……それでも、定期的に自分が癒しの光を当てれば、体力はもう少し持つだろう。

 問題は、気力の方……バーチャルワールドの戦いだ。
 あそこには、サラであっても介入することはできない。
 介入できるとしたら、その人は……。

  * * *

 眠り込む老婆は、今にも魂を手放してしまいそうなくらい、苦しげに顔を歪ませている。
 苦悶にあえぐその姿を見ると、どうしてもサラの心は“太陽の巫女”の記憶をたどってしまう。
 どうしても、あの事件をリアルに思い出してしまう……。

「それでも、償わなきゃいけないのよね」

 サラの言葉は涼やかな砂漠の風に乗り、喜び勇んだ風の精霊が砂を巻き上げて飛び去っていく。
 少し離れた場所では、サラを見守る緑の瞳。
 こんなときジュートは、絶対に手を貸さない。
 蒔いた種は、当事者が刈り取るしかないのだ……。

「私はいいのか……当事者といえば、当事者だもんね」

 太陽の巫女を見下ろし、切なげに目を細めたサラの耳元に、心地良いアルトの声が届いた。
 サラに密着するように身体を寄せた、クロルだ。

「ねえ、サラ姫。もしかしてこの人って……例の“魔女”?」
「ちょっ、クロル王子っ、しぃーっ!」

 無邪気に問いかけたクロルに、サラは唇に人差し指を当ててみせる。
 クロルは「何がいけないの?」とでも言いたげに、つぶらな瞳をパチクリと瞬きさせる。
 その目線の位置が、いつの間にかサラよりも少し上になっている気がするのは、気のせいだろうか。

 一方リグルはといえば、地獄犬耳でキャッチしてしまった『魔女』の言葉に反応して、ダッシュで後退った。
 先程は、鼻の頭が触れるほど至近距離に近寄って、必死で匂いを嗅いでいたというのに、別人のようなリアクションだ。
 器用に後ろ向きで走っていくリグルが、途中石に躓いて転びかけた。
 その大柄な体を、同じく立派な体格の男が支える。
 今さっき、後方に止まっている馬車から降りてきたばかりの、その人物は――。

「おい、リグル。お前は何をしているんだ?」
「あっ父様……じゃなくて、お頭っ!」

 ――バレバレだあっ!
 と、ツッコみたい気持ちを抑えて、サラは胸の前でギュッと両手を組んだ。
 自分の心臓の音が、ボリュームを徐々に上げて行く。
 今ここに居るのは、国王と太陽の巫女なのだ。
 それは、邪神の手によって引き裂かれた、運命の恋人……。

「早くここへ来て、彼女を見つけて……」

 逸る気持ちに反発するように、運命という名の神さまの見えざる手は、キャンキャンと吠えるリグルを障害物として配置した。
 国王は、見事に足止めを食らった。

  * * *

 胸の前でしっかりと組み合わされた指が、しゅるんとほどけて落ちた。
 サラの横で、眠たげな目をしたクロルが、本物の猫のようにクワッと大口を開けてアクビする。
 太陽は、ついにでっかい図体の一部を地平線に触れた。

「いやー、国王様って、やっぱスゴイなぁ」

 未だ存在に気付いていない太陽の巫女についてはさておき、ここに“女神サマ”が居るというのに、まるっきりお構いなしだ。
 森を突破し神殿へ辿り着いた唯一の人物……英雄王と呼ばれる国王の胆力は、もう神の域かもしれない。
 次期国王たる者がうんぬんかんぬん……という、立ち話にしては重過ぎるお説教が続く中、サラは少しずつトキメキがダウン、リアルな不安が首をもたげてきた。

「ねえ、クロル王子ちょっといい?」
「なんだい、僕のサラ姫?」
「僕のじゃないけど、一個相談……」

 優雅に微笑むクロルの耳たぶを、遠慮なくムギュッと引っ張ったサラは、耳元に唇を寄せてウィスパーボイスで問いかけた。
 遠くで見守るジュートの瞳に、明らかな敵意が生じたことにも気付かずに。

「あの二人のこと、もう分かってるんでしょっ? ヤバくない? どうなっちゃうと思うっ?」
「サラ姫、その言い方って、噂好きの侍女のおばちゃんみたいだよ?」
「なっ……おばちゃん……?」

 脱力し、ふらりとクロル王子から体を離したサラの目には、姿勢を変えずに眠り込む太陽の巫女が映る。
 ぴくぴくと、封じられ焼けただれた瞼が小刻みに震えている。
 赤い瞳は、何かを察しているのだろう。
 不敵に笑いながら「もう逃がさないよ?」と心の中で呟いたサラに、クロルの澄み切った声が届く。

「でもさ、さすがに今の姿じゃ分かんないと思うな」
「……むっ?」
「だって絶世の美女だったんだろ? 例の巫女……“青いダイヤ”さんは」

 ブルーダイヤ。
 サラの頭に、母がお気に入りの洗濯洗剤と『金・銀・パールプレゼント』のCMソングが蘇る。
 噴き出しかけたサラは、それどころじゃないと頭を強く振った。
 背中の羽がつられて、左右にパタパタ振れる。 
 その白をクロルが眩しげに見つめる中、サラは言われたばかりの事実を確認する。

「そっか……見た目かぁ。それって人にしてみれば大きいことよね」
「サラ姫は、もし僕がよぼよぼのジーサンになって現れても、同じ人だって分かる?」
「うん。分かるよ」

 軽く返した言葉に、クロルは過剰な反応を示した。
 真横から突き刺さるようなオレンジの光を受け、ターバンの隙間から覗く白い頬が色づく。
 手のひらで口元を覆うと「全く、サラ姫って……」と、珍しく口籠りながら呟いた。

「私じゃなくても、たぶん分かる人はいるよ。それが“運命の相手”だったらね!」

 サラはもう一度、足元に倒れたままの太陽の巫女を見た。
 単に空を“少し”飛んだだけで、こうも長い間目を覚まさないのは、他に理由があるのかもしれない。

「もしかして……怖いの?」

 落とした呟きは、シャボン玉のように弾けて消える。
 今この人に、自分の言葉は届かないのだ。
 悟ったサラは、自分へと近づく力強い足音に気付き、うつむいていた顔を上げた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 ということで、最後のメンバーはこの三名でした。ババを引いたのは、真面目なエール王子……やはり真面目地味系キャラは残念な結果に終わります。今頃は留守番を頑張りつつ、デリスばあちゃんの文句を受け止めるマシーンと化していることでしょう。残念賞でまた今度蛍あげます。クロル君、リグル君はさておき、やはりメインは国王様……と、この続きはまた次回で。今回は、テキトーなギャグをいくつか入れました。『ヘイジュード』は、絶対使ってやろうと思ってた一言です。『ブルーダイヤ』も。どちらも分からない年代の方は、親御さんかインターネットのヤホーさんに聞いてみてください。
 次回は、ついに寝たふりして逃げてる太陽の巫女(老女バージョン)と、国王様のご対面です。どうなることやら。



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