喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章(37)融合

2009.10.06  *Edit 

「さて、どうしよっかなぁ」

 サラは再び、二つの選択肢の前に立たされていた。
 一つは、サラ姫の目覚めを促すこと。
 もう一つは、消えた太陽の巫女を追うこと。
 いずれにしても、もう回りだしてしまった運命は止まらない。
 サラにできることは、ただ一つ。

「自ら死を選ぶ者を、止めるだけ……あとは、見守ることしかできない」

 地球とこの世界とは、風景も人の姿形も、本当によく似ている。
 大きく異なるのは、この世界では科学があまり発達しておらず、魔術がその埋め合わせをしているということ。
 最近気付いたのは、この世界に『自殺』という概念が無いことだった。
 生命の灯が輝くのも、あえなく消えるのも、全ては神の思し召し。
 人が自ら、それを左右してはならない。

 そんなごく当たり前の倫理が崩れるとき……邪神は、それを狙っていた。
 自殺を考える者は、殺す者、殺される者とは比較にならないくらい強烈な力で、冥界への扉を開いてしまうのだ。
 結果、この世界と冥界との間に穴を開けてしまう。
 開いた穴からは絶望と恐怖が滲みだし、この世界は『森』に変わり……全ての生命は消える。
 だから女神は、それを許さない。

「例えるなら、自殺しちゃうと地縛霊になって、生まれ変わりのサイクルから外れちゃうってとこかな」

 サラは、カナタ王子の亡骸を見つめた。
 カナタ王子は、自殺したわけじゃない。
 赤い瞳に、殺されたのだ。
 もしサラがもう少し早く動いて、赤い瞳の暴走を止めていたら、彼は殺されずに済んだのかもしれない……。
 女神が「これが彼の運命」と断言するその奥で、人としての感情が激しく波立つ。
 できることは、祈ることくらいだけれど。

「どうか、安らかに……」

 サラは、カナタ王子から視線を外すと、その隣でぐったりと横たわるサラ姫を見つめた。
 お姫様の方も、既に身体は死んでいるのだ。
 国王と同じように、身体の中にある魂が必死で生き抜こうとしているのが分かる。
 傍らにしゃがみこみ、ツンツンと突いてみるものの、目覚める気配はない。

「ねー、まだ生きてるんでしょう? 狸寝入りは良くないわよ?」
「……」
「カナタ王子が死んだことが、そんなに悲しいの?」

 女神のサラは、カナタ王子に対して何も感じなかった。
 戦場で死んだ魔術師や、執念で長く生き延びた末に倒れたネルギ国王と、大差は無いと思った。
 彼らは、自分の中の闇に負けたのだ。
 誰かのために、自分の命を賭して……そんな死に方とは違う。
 むしろ冥界へ行き、次の転生を待つ方が幸せになれるだろう。

「あんたがそうやって粘ったって、冥界の門は開かない……あんたを生かそうとしてた“赤いの”も行っちゃったし、そろそろあんたも死んじゃうよ?」

 サラ姫は今、冥界の縁に居る。
 墨汁をぶちまけたような、色も音も無い世界で一人きり。
 しかも、自分へと刃を突きたてるカナタ王子に、何度も出会っているはずだ。
 どんなに叫んでも、身体を張っても、カナタ王子は死を選んでしまう。
 サラ姫は、そこで駄々をこね続けているのだ。

「約束したよね? 人を死なせるのは悪い子だって。あんたは今、一番大事なはずのあんた自身を死なせようとしてるんだよ?」

 サラは語りかけながら、冷たくなり始めたサラ姫の頬を撫でた。
 触れた手のひらから、「だってだって」と文句を垂れる声が聴こえた気がした。

  * * *

 思い起こせば、サラは幼少期からまったくワガママを言わない子だった。
 年の割には大人だと言われ続けたのは、天然天使な母と五人の大人過ぎるパパのせい……そう思っていたけれど。

「そういうとこはあんたが全部もってっちゃったのよね……」

 サラの溜息は深まるばかりだ。
 お気に入りの玩具にしがみつく子どもと、諦めさせようとする母親。
 そんなシーンを見るたび、サラは「なんでだろ?」と考えてきたのだ。
 なぜ、そこまで執着するのだろう。
 なぜ、諦めさせることができないのだろう?

「サラ姫ってば、本当に自己中過ぎ。カナタ王子は、もう安らかな眠りについてるの。そっとしといてあげなさいって」
「……」
「うーん、やっぱりこの言い方じゃ、意固地にさせるだけね」

 サラは、思案する。
 玩具をねだったり、公共の場で騒いだり、言うことをきかないガキンチョを従わせるにはどうすればよいのかを。
 思いついた北風と太陽ならぬ、『アメとムチ』作戦。
 ムチの方、いわゆる暴力や恐怖などの強気な態度では、今のサラ姫には通用しないどころか逆効果だ。
 甘えん坊なサラ姫には、とびきり甘いキャンディを。

「ねえ、サラ姫。あなた本当にカナタ王子のこと好きだったの? 単に、近くに居て優しかったから懐いてただけじゃないの?」

 確かにカナタ王子は、素敵な王子様だった。
 サラがこの世界に召喚されたばかりの頃は、かなり頼りにしていたし、いろいろなことを教えてくれた。
 頭を撫でられて、少し胸がときめいた。
 けれど、その後の強烈な出会いの数々で、カナタ王子の存在は薄れてしまった。

「やっぱりさぁ、男の人は優しいだけじゃダメだと思うのよね。顔が良いだけでもダメ。もちろん見た目がカッコイイってのは大事だけど、私の理想は、中身がカッコイイなって思える人なんだよねー」

 一つだけ、サラには断言できることがある。
 幼少期から、イイオトコのパパたちを見たり、この世界でも最上級のカッコイイ男たちを見てきたのは、だてじゃないのだ。

「サラ姫が『どーしても!』カナタ王子の後を追いたいっていうなら、もう止めないよ。ただ、これだけは言っておくわ……」

 と、前置きした上で、サラは大声で断言した。
 近くに人の気配がしないことを、確認したうえで。

「世界には、カナタ王子よりずっとずっとずーっと……素敵な男がいるんだっ! 特に男なら、殺されても絶対死なないくらいタフな人が最高! そんな男に会わせてあげるから、さっさと戻ってこい――!」

  * * *

 はぁはぁと肩で息をしたサラは、まるで肉体労働を一仕事終えたオッサンのように、満足げに額の汗をぬぐう。
 そのとき、自分にしか聴こえない『心話』の声をキャッチした。

『……本当?』
「はいはい、ホントホント。例えばね……」

 ジュート。
 その名を思い浮かべるだけで、サラの胸はキュンとなる。
 彼の甘く切なく深く……木漏れ日のようにやわらかい緑の瞳。
 砂漠の熱気にさらされ、少し乾いた唇。
 ヴァイオリンの音色のような、掠れ気味の甘い声がサラの名を呼び、陶酔するサラに不意打ちの口づけを落とす。
 そして、照れ隠しでそっぽを向いてしまうサラに笑いかけながら、告げるのだ。

「サラ、愛してる――」
「なにそれ、ズルイっ!」

 飛び起きたサラ姫は、サラをキッと睨みつける。
 瞳の色は、二つとも美しい漆黒。
 燃え尽きる直前の線香花火のように、ごく小さな光の玉が、最後の命の輝きを伝える。

「もうサラ姫ってば……可愛いんだから!」

 思いつきの例え話で本当に釣れてしまったことに苦笑しつつ、サラはその細すぎる体を引き寄せると、力いっぱい抱きしめた。
 その時、サラの体からは白、サラ姫の体からは黒の……対照的な光が放たれた。
 二つに分かれた魂は、溶け合い、混ざり合い、一つにまとまった。

「ふうっ……サラ姫の補完終了っと」

 今度は、銭湯から出たばかりのおばちゃんのように、手のひらでぱたぱたと火照った身体を仰いでみる。
 サラの腕という支えが無くなり、魂も奪われたサラ姫の身体は、音を立てて床へと崩れ落ちた。

『ちょっと、何よこれっ! なんで私が……あんたの身体の中にっ?』
「いいじゃない。あんたの身体って貧弱過ぎでしょ。こっちの身体だったら健康だし、便利な翼もあるしさ」
『それは……まあ確かにそーだけどっ』
「あとね、見てよこの筋肉! カッチカチ!」
『イヤッ! それは要らないーっ!』
「あー、うるさい。二重人格メンドクサイ……女神が居るだけでもややこしいのに。とりあえず黙ってて? あとあんたの元の体、危険だから消しとくわ」

 サラ姫の魂も消え、抜け殻と化したサラ姫の身体。
 赤い瞳の狙った最高の器は、内側から放たれる命の輝きを失ってもなお、美しかった。
 サラは、不自然な姿勢で倒れるサラ姫の身体に、躊躇なく手のひらをかざすと、全てを消し去る光を照射した。
 抵抗することのできないサラ姫の体は脆く、身体の端から粉々に砕け、最後は欠片も残さず光の中に溶けて消えた。

 これでもう、あの馬鹿みたいに貪欲な赤い瞳が求める器は、たった一つだけになった。
 赤い瞳は、月巫女の元へ向かおうとするだろう。
 太陽の巫女は、それを自力で防ぐつもりらしいけれど……。

「さて、太陽の巫女さんがどこまで頑張ってくれることやら」

 サラは、その後を追うべく翼をはためかせた。
 運命の終着点を、見届けるために。

  * * *

 自らぶち空けた一直線の穴を通り、サラはカリムたちが居る正門前へ戻った。
 門は既に開かれ、開かれた重く巨大な扉の向こう、城壁内の中庭にはちょうどネルギ軍が到着していた。
 とりあえず整列しているものの、サラ姫はおろかカナタ王子までもがこの場に現れないということで、人々の困惑は強まるばかりだ。
 国王の骸も、アレクのマントがかぶせられたままの状態で置かれている。
 どうしていいか分からない……ともかく誰かの指示を待ちたいという状況なのだろう。

 サラは、一旦カリムの元へ降りた。
 近くに居たリーズとリコ、そして人垣の向こうからアレクとキール将軍が駆け寄ってくる。
 他の人間はほぼ全員、悲鳴と共に床にひれ伏した。
 ネルギの重鎮総土下座だ。

「ただいまー。っていうか、お待たせしましたっ」

 絶景かな、と呟きつつ、サラはカリムの正面に立った。
 カリムは今までに数度見たピンチの時くらい、険しい表情をしている。
 怖すぎて何か用事が無いと近づけない……アレクの道場で遠巻きにして見詰めるだけの乙女心が良く分かる。
 戦いは終わったのに、どうしてだろう? と首を傾げるサラは、この場所を飛び立つ前にカリムに残した置き土産のことを、すっかり失念している。

「サラっ! お前今までなにやって」
「カナタ王子、亡くなったよ。王子の部屋に遺体があるから、後で弔ってあげて」
「……何、を?」
「しょうがなかったの。国王と一緒で……赤い瞳に操られてね」

 屈強な戦士であるカリムが、思い出したように武者震いする。
 きっとカリムも、覚悟していたのではないかとサラは思った。
 そして、もう一つの事実を告げる。

「カナタ王子はね、この国のことはカリムに任せれば安心って思ったみたい。本当はカリムがこの国の王子だって証拠を見つけちゃったんだよね。病弱で亡くなったことになってる弟王子って、カリムとすり替えられてた別人なんだってさ。カナタ王子はずっと苦しんでたから、たぶん冥界でホッとしてると思うな。あ、サラ姫は私が食べちゃった」
『――ちょっと、何その説明!』
「……じゃなくて、サラ姫は邪神に“器”として狙われてたから、私がその身体は処分しときました。魂は私の中に取り込んだから……うん? 私もこの国の姫ってことになるのかな?」

 世間話をするように、ぺらぺらと淀みなくしゃべったサラ。
 当然、カリムは石像のように固まった。

「おっと、こんな話してる場合じゃないや。早くしなきゃアレが行っちゃう」

 サラは、そろそろゴミ収集車が行っちゃうわ、と早朝に道端で立ち話をする奥様のように呟くと、折りたたんだ翼を広げなおした。
 二十センチほど床から浮き上がったサラは、石化したカリムに近寄って念を押す。

「えっと、詳しくはカナタ王子の乳母さんに確認して? 証拠のお手紙はカナタ王子が燃やしちゃたけど、たぶん他にも漁れば何か出てくるんじゃないかと思うな。とにかくカリム国王就任おめでと! 私はちょっと出かけてくるからあとよろしくー」

 去り際、さっきとは逆の頬にチュッと就任祝いのサービスを残して、サラは再び飛び立った。
 残されたカリムは、赤いのか青いのか分からない顔色で、その場に立ち尽くし……話を小耳に挟んだメンバーは、それぞれにふさわしいリアクションを取った。
 ある者は絶叫し、ある者は爆笑し、ある者は「落ち着いてー」となだめ、ある者は律儀に膝をついた。

  * * *

 サラは、ちょっぴりグレーに色を変えた翼をはためかせ、女神レーダー駆使し、魔女の行方を追った。
 本来なら、ラクタを使っても十日ほどかかる道のり。
 ここへ来るときは、魔力を使って半分以下に時間短縮した。
 そして……。

「ああ、翼があるって素晴らしいっ!」

 鳥よ、鳥よ、鳥たちよーと、小学生の頃に合唱で歌った曲を口ずさみながら、サラは茜色の空を切り裂くように飛んで行く。
 できれば、今日の太陽が沈み切る前に終わらせたい。
 砂漠の砂の下には、二つ揃って力を増した赤い瞳……邪神の命令を待ち焦がれるモンスターが居るのだ。

「ま、死にたくなければ女神様のいうこと聞いてよね、サンちゃん?」

 サラが、飛びつつも地面を見透かすかのごとく睨みつけると、そわそわしていたサンちゃんたちが、ぴゅっと尾っぽを丸めて地中深くに逃げ込む気配がした。
 きっと森の向こうの大陸では、こんなことが珍しくないのだろう。
 魔術師ファースと“チョビ”こと金色の龍は、頑張って戦っているのだろうか?

「もともとは、あっちに居るアホ魔術師が仕掛けたのよねー。誰だかは分からないけど……邪神を復活させようだなんて、本当にアホ。あんたが真っ先に死ぬっつーの」

 平穏な日常に飽き足りない、名も知らぬ大陸の魔術師。
 彼は禁呪に手を染め、人を超える力を欲し、永遠の命を願った。
 その願いが、神殿の奥深くに眠っていた邪神の目を覚ましてしまった。

 目覚めたものの、神殿に封印の巫女が居る以上、邪神はそこから動くことができない。
 地底から見えない触手を伸ばし、野心や邪念を持つ人間に近づいてはその気持ちを増殖させ、力を蓄えるために人の死を増やした。
 全ての“死”を願う邪神の純粋な思いが、世界を混沌へと導いていく。

「この世界って、女神でも邪神でも無い、もっと偉大な神様が居るんだろーな……」

 いわば、地球も含めて宇宙そのものを制御する神。
 神は日食にあわせて、邪神にもチャンスを与えたのだ。
 女神……つまり太陽を倒すことができたら、この世界を支配しても良いのだと。
 本来、太陽の元では生存できない邪神のために、“器”という名の人間を用意した。
 童話の中の女神が、太陽を欠いて月を作ったように。

「すんごい昔も、そうやって争ったのよねー。そんで、結局こっちが勝ったからあいつは地下に封じられて、その後女神サマは神殿に……あれ?」

 なぜ神殿に人間の巫女が置かれるようになったのだろう?
 元はといえば、女神が神殿を管理していたはず……。

「ちょっと、女神さんや。どーゆーこと?」

 サラが突っ込むと、サラの中の女神は無言の抵抗をした。
 サラの意志に逆らうように唐突に翼を閉じ、サラの体をきりもみ下降させる。
 慌てて「ゴメン、もう言わない!」と言うと、一気に翼を広げた。
 ふよふよと落ちるその状況は、スカイダイビングでパラシュートを開いたときのようだ。
 女神にも、どうやら都合の悪い過去の一つや二つあるらしい、とサラは悟った。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 女神サラちゃん、最強っぷりを発揮してきました。もうやりたい放題です。まずは『サラ姫ちゃん補完計画』について。サラ姫ちゃんはカナタ王子のこと「好きー! 結婚してー!」なんて気分だったのですが、それって結局殻破った鳥のヒナが、初めて見た相手にぴよぴよしてるようなものでした。カナタ王子の方は熟女好き……というか、そっちも憧れみたいなもんなのですが。とにかく『妖艶で陰のある年上女性は、年下初心系少年からモテる!』というのが作者の持論であります。さて好奇心旺盛なサラ姫ちゃんが、何だったら一番釣りやすいかなーと思ったのですが、こんなんで釣ってみましたよ。「アホか!」の突っ込み歓迎です。恋に恋い焦がれるお年頃ってことで。あと、サラちゃんのカリム君いぢりパートツー。本当に彼は可哀想なキャラです。ごめんねごめんねー。最後は、邪神さんの発生理由を推察。この辺の細かいトコはお茶濁させてください。女神サンの転生前&大陸編は今のところ有馬(温)泉……。
 次回は、太陽の巫女を発見。これから何しようとしてるのか問いただす編。そこに意外な人物が現れる……かな?



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