喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章(30)繰り返されるゲーム

2009.09.27  *Edit 

 どのくらいの時間が過ぎたのだろう。
 確実なことは、サラの体を抗えない闇が飲み込んだということだ。
 サラの脳は、全身を覆う耐え難い痛みを察知したと同時に、意識を手放してしまった。
 つまりは……。

「また、死んだ……もうやだ」

 サラの呟きは、どこまでも果てしなく広がる、暗く淀んだ海に吸収されて消える。
 あたかも自分の体が小さな筆の先になって、墨汁容器にドボンと浸けられたようだ。
 自分の肉体や脳みそが存在するかしないか……それすら分からない。
 けれど、あたり一面に『オラは死んじまっただー』というコミカルな昭和の名曲が流れてくるくらいだから、サラという魂はまだ消滅していないのだろう。
 
「しっかし、今度の場所は暗いなー。ここが冥界ってやつ? それとも地獄?」

 まだレベルが一桁なのに、うっかり難易度の高いダンジョンへ迷い込んだ間抜けな勇者。
 それが今の自分だ。
 棺桶に入れて、ずるずる引きずって教会へ連れて行ってくれる仲間は居ない。

「ゲームオーバー、何回まで許されるのかなあ。前みたいに、コンティニューってできるの?」

 当然のように、答えは返ってこない。
 そもそも、自分が口という器官を持っていて、声を発しているのかすら分からない。
 コールタールのような漆黒の海を泳ぐ……というより、自力で動くこともままならずクラゲのように漂いながら、サラは今まで起こったことを思い出してみた。
 一生懸命思い出さなければ、出てこないことを憎らしいと思いながら。

「こういうのって、勝手に出てくるものじゃないの? ねえ、走馬灯!」

 実在の人物へ愚痴を言うように叫んでみたものの、当然返事はない。
 仕方がないと腹をくくり……サラは自力で、先程の攻防を思い返した。
 三途の川を流れながら、一人反省会がスタートした。

  * * *

 失敗したのは、サラがしょっぱなからビビってしまったせい。
 今まで相対したことのない、レベル違いのボスキャラを相手にして、頭が真っ白になった。
 どうして意味も無く、ペラペラと余計なことをしゃべっていたのか分からない。
 いや、こういうことをする人物に見覚えがある。
 これはまさに……。

「雑魚キャラ……」

 呟いた言葉が、ストンと胸に落ちた。
 大口を叩くくせにあっさりやられる、街のチンピラそっくりだ。
 なぜ雑魚キャラがあんな風におしゃべりなのか、サラは身を持って理解できた。

「ああやって、逃げだしたくなる自分を鼓舞してるわけだな。うん、ポジティブシンキングってやつだ。俺強ぇー! なーんて言ったら、もしかしてハッタリに騙されて敵が逃げてくれないかなって……」

 アハハ、と乾いた笑いを上げつつも、絶対無理だ、アホ丸出しだと冷酷に告げるもう一人の自分がいた。
 しかしあの時『逃げる』のコマンドを選択したところで、結果は同じだったはずだ。
 正面からやられるか、背中からやられるかの差。
 正面を向いていただけエライ、とサラは雑魚発想のセルフ慰めをしてみる。

「おっと、イカンイカン。しっかり反省しなきゃ。万が一チャンスをもらって、もう一回同じシーンからスタートとなっても、勝てるようにねっ」

 こうして死んだのは、完全にビビッた自分のミス。
 それ以前に、危険な存在に対してリスク回避ができていなかった。

「クロル王子なら、サラ姫がアレを封印した直後に、やってたはずよねぇ」

 サラが攻略すべきは、あの窓だった。
 炎が燃え尽きる前に……いや、あの赤い瞳の悪魔が起き上がる前に、せめてカーテンと窓を開いておけば良かったのだ。
 アイツはきっと、太陽光に弱いはずだから。
 サラ姫が“北風”のように赤い瞳を凍えさせて縛り付けたのと違って、太陽の光は悪魔を表舞台から追いやる。

「しかし、あいつは強かったよ。うん。それをやっても同じ結果だったかもしれん」

 目を開いているか閉じているかも分からないまま、サラは脳内でシュミレーションした。
 イメージしたのは、奴が国王の体という檻を抜け出し、瞳を開いたシーンだ。
 あの鮮やかな血の色を思い浮かべるだけで、背筋が凍りそうになる。
 ホラー映画で、このドアを開けば殺されると分かっていながら、そこへ近寄って行くキャラのように、逃れられない不安が襲う。

 それでも、サラは先程と同じように、相棒を構えて正面から対峙した。
 今度は、体が動く。
 ヤツが間抜けにも同じように足をポッキリ折っている隙に、正面にある窓をめがけて床を蹴ってみる。
 すれ違いざまにヤツの脇腹あたりに黒剣を突き出し、斬りつけながら駆け抜ける。
 ……と、あとわずかですり抜けられたのに、肩先にあいつの手が触れてしまった。
 ガーンとかダダーンという重低音と共に、サラの体はあっけなく霧散した。

  * * *

「くっ……イメトレでもゲームオーバー!」

 心の中でリセットボタンをポチッと押して、再び邪神サマと相対する。
 今度は、ヤツがまだ寝ている隙に……と思っても、脇をすり抜ける際にマッハで近寄られて死亡。
 足を折った瞬間に駆け抜けようとしても、気付かれて死亡。
 ゲーセンだったら、百円玉を何枚どぶに捨てたことか。

「なんなの、このクソゲー! どーせならサラ姫が居るときからリセットさせてよ!」

 何度リセットボタンを押しても、最後のセーブ地点、魔術師が立ち去る杖の音が消えた瞬間に戻ってしまう。
 イラついて叫んだところで、こだますら返ってこない。
 見渡す限り、黒黒黒……。
 非常に陰鬱な気分にさせられる。

 サラは苛立って、シュミレーションの中で敵に黒剣を投げつけてみる。
 投げやりで適当な攻撃は、ゲームの中でもバレバレだった。
 国王はそれをひょいっと避け、そのままサラに迫りタッチされてゲームオーバー。
 画面が真っ暗になると同時に、クロルの「詰めが甘いなー」という憎たらしい声が響いた。
 と同時に、アレクの「バーカ」という容赦ない嘲りも聞こえた。

「……くっそー!」

 いきり立つものの、妄想の中の二人は笑いながら去ってしまう。
 大好きなジュートや優しいリコでなく、この二人が真っ先に出てくるあたり、ヘタレプレイヤー向けの嫌がらせのようだ。
 このまま負け続けたら、いずれ魔術師ファースも出てくるかもしれない。
 サラが出会った最強の皮肉屋……彼に何か言われたら、本格的に凹まされる気がする。

「もうっ、今度こそ! 見てろよっ、クロル王子にアレクっ!」

 決意とともに音も無く巻き戻される時間と、繰り返されるまったく同じ映像。
 サラの体は、もう震えない。
 ホラー系のアクションゲームでも、「このドアを開ければゾンビが襲ってくる」と何度もやって分かってしまえば恐怖は消える。
 投げやり……良い意味で無心になったサラは、フッと閃いた。

「そーだ、黒剣ちゃんを使えば、もしかしたら……」

 ゆらり、と立ち上がり迫りくるゾンビ……ならぬ国王の皮をかぶった邪神。
 骨が折れて、ちぎり捨てて、また拾おうと腰を屈めるその瞬間まで、ゼロコンマ一秒単位でタイミングを計り……。

「――刺す!」

 足の甲が残っている左足に、黒剣をベッドの奥深く、床をも貫く深さで突き刺した。
 そのまま黒剣を手放し、ヤツの足に残したまま自分の体は疾風のように駆け抜ける。
 背後では、ヤツが黒剣を抜こうとし、諦めて自分の足を千切るブチブチという嫌な音がする。
 振り向かず、サラはそのまま窓へと体当たりした。

「行けぇーーっ!!」

 激しい音と共に、カーテンも窓もぶち破られる。
 サラの体は巨大なダンゴ虫のように丸まって転がり、ベランダへと落ちた。
 体中に打撲の痛みと、あちこちに切り傷のピリピリを感じつつ、サラは立ちあがってとっさに振り返る。

 ヤツは……まだ落ち切らない午後の日差しを受けて、ゆらゆらと力なく後退りしていた。
 ベランダ側にヤツが来ないことを確認すると、サラはへっぴり腰で手を伸ばし、開き切っていない漆黒の分厚いカーテン掴んだ。
 それを思い切り引っ張って破り捨てると、室内へと入り込む太陽光は太さを増し、レーザービームのようにヤツの体を焼き付けた。

「……ゆー、うぃん?」

 崩れ落ちるゾンビ……ならぬ、眠りにつく邪神を呆けた頭で見つめながら、サラは格闘ゲームで勝利したときの台詞を呟いた。

  * * *

 勝利と同時に、待ちに待ったエンディングロールがスタートした。
 まずはこの戦法……剣は敵を倒すためでなく、力を逸らすために使えと教えてくれたアレクが目の前に現れた。
 サラは、素直にぺこりと頭を下げた。

「弟子としてとっても未熟でした、ゴメンナサイ」
「バーカ。気にすんな」

 アレクはニイッと自信満々に笑って、サラの髪をくしゃくしゃに撫でた。
 それからすぐに、リーズが現れた。
 見た目はちょっと軟弱だけれど、優しくて強いひと。

「サー坊、おつかれっ」

 サー坊、と呼びかけるのんびりした口調の裏には、強い意志を隠し持っている。
 彼らをもっと信頼していれば、悪魔に負けなかったのかもしれない。
 サラは、魔術師に頼む伝言を間違えたのだ。

「“逃げて”じゃなくて、一緒に戦って……皆にそういえば良かったね」
「俺はいいんだけどさー」
「そうだぞ、サラ! またお前は一人で無茶しやがって!」

 野生の獣を思わせる逞しい戦士……カリムが現れ、不機嫌極まりないといった仏頂面でサラに迫る。
 あの日食の日も、今回の帰還でも、カリムは最後までサラの身を案じていた。
 ずっと信頼して付き従ってきたカナタ王子よりも、サラを選んでくれたのだ。
 その信頼を、サラは無下にしてしまった。

「もしかしたら、私よりカリムの方が、ずっと勘が鋭かったのもしれないね」

 たぶんカリムは、本能的に察していたような気がする。
 サラが、国王の間で命を落とすことを……。
 会議室からカナタ王子と二人きりで出て行くサラに、カリムは最後まで抵抗していたのだ。
 力ずくで……という寸前で、理性を持って押しとどめた彼のたぎる情熱が、胸に痛かった。

 しょんぼりうなだれたサラの前には、もう誰も現れてくれなかった。
 最後の戦いに連れて行ったメンバーしか、このバーチャルな勝利をねぎらってくれないらしい。
 声だけで何度も登場したクロルが、いざ勝利したのに姿を見せないというのが憎らしい。

「ケチッ! どうせ妄想なんだから、会いたい人全員出してくれてもいいじゃんっ!」

 叫んだサラは、もう一人……最後の旅の大事なメンバーを思い浮かべた。
 ちょっぴり低めの鼻とそばかすが可愛くて、笑顔の良く似合う優しい少女を。

「リコ……大丈夫かなぁ。まだ、頑張ってるよね……?」

 もしかしたらリコは、自分と同じようにこの終わりなきゲームを繰り返しているのかもしれない……サラはそんなことを思った。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 ふーっ、ようやく書いていて楽しいシーンになりました。シリアスの中に一服の清涼剤(ギャグ)。格闘ゲームとかホラー系のアクションゲームにご縁の無い方には、上手くイメージしてもらえるか分かりませんが……作者はこの手のゲームが滅茶苦茶苦手です。あっという間に死んで、こんなにしつこくリトライすることはありません。自分ができないことをキャラにさせる、これぞ妄想のだいご味であります。さて、今回はこんな感じで、ほぼ中身はありませんでした。主人公がだんだん強くなるというテーマのために、レベルアップを、という回です。こういうの、ドラゴンボールっぽい王道かなぁと思いつつ。しかし、女神様な主人公を雑魚キャラ扱いにして殺すっちゅーのは、オリジナルな展開に違いない。どうぞ失笑してやってください。
 次回は、ついにサラちゃん冥界脱出です。リアル世界に戻ると、またシリアスシーンが待っている……ラストバトルへ一気に進みます。



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