喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章(27)サラ姫との約束

2009.09.23  *Edit 

「不思議ね……こんなにいろいろなことがあっても、私はあなたたちを憎むことができない」

 感情に欠陥でもあるのだろうか?
 何人もの人間を道具にし、使い捨てにしてきたというのに。
 大事な親友のリコを、苦しめた相手だというのに。
 自嘲混じりの笑みを漏らしたサラに、サラ姫はきょとんとした丸いビー玉みたいな目を向ける。

「しつこいようだけれど、本当にリコを助ける方法は分からないのね?」
「ええ。だって私、今までそんな失敗したことなんて無いんだもの。死ぬべき人が生きてるなんて、驚いたわ」
「死ぬべきとか言わないっ!」

 サラの形相があまりに恐ろしかったのか、サラ姫は首をすくめて「はーい」と素直に返事する。

「でも、本当のことよ? 魔術がかからなかったあなた以外で、私が失敗するなんて初めてだし」
「そう……だったらしょうがないわ。別の方法を探す」

 サラが思案顔で呟いた『別の方法』という言葉に、サラ姫が反応した。

「ねえ、私を殺すの?」

 リコや他人を玩具のように扱うだけじゃない。
 サラ姫は、彼女自身の生にも頓着しないのだ。
 それくらい麻痺していなければ、きっと人の命のやりとりなどできないのだろう。
 だけど……。

「――アホかっ!」
「痛っ!」

 思わず叫んだサラは、目の前の悪い子に、気合いを入れた母直伝デコピンの刑を処した。
 サラ姫の、どこをとっても白い肌の中、おでこの一部だけが淡い桜の花びらのように色づく。

「何するのよっ!」
「もう、人の命を粗末に扱わないって言いなさい!」

 噛みつこうとしたサラ姫は、サラの勢いに呑まれて尻尾を丸める。
 上手から攻撃してもダメなら、下手に。
 媚びるような上目遣いの視線で、サラに許しを請う。
 きっとカナタ王子ならば、この潤んだ瞳とわなわな震える唇を見て、すぐに許してしまうのだろう。
 しかし、そうは問屋がおろさない。

「早く言いなさい!」
「ええー……」
「“もう人の命を粗末に扱いません”よっ、早くっ!」

 再び、デコピンの構えを取ったサラに屈したサラ姫が、ふくれっ面でもごもごと告げた。

「……もう人の命を、粗末に扱いません」
「良くできました」

 呟きながら、額の真中に今度はサラの唇がふわりと落とされる。
 サラが母からされたように、優しく、心まで包み込むように。

「いーい? 人を傷つけたり、死なせたりするのは悪い子のすること。そういうことはもう言わないしやらないの。やろうとする人が居たら、止める側に回りなさい。分かった?」
「……はい」
「約束したからね?」
「……はぁい」

 ふくれっ面のまま、再び胸に飛び込んできたお姫様を抱きしめながら、サラは「この“しつけ”をするために、もしかしたら自分はサラ姫の元に呼び出されたのかもしれない」と思った。
 二人を見守っていた魔術師は、何か肩の荷が下りたかのように、ほぅっと息をついた。

  * * *

 話はあらかた終わったというのに、サラ姫はサラにくっついたまま離れない。
 それを引きはがすでもなく、好きなようにさせながらも、サラは「今自分には、緊張感が足りない」と思った。
 迫りくる日食を意識しながら戦場へ旅立ったときのように、漠然とした不安が、サラの心を焦らせる。
 自分が何か、大きな忘れ物をしているような気がして、きょろきょろと視線をさまよわせた。

 その視線が止まった先には、赤い瞳を抱えて横たわる国王。
 大人しく寝ていると分かっていても、どうしても気になってしまう。
 早くあれを封じなければ、再び世界は闇に閉ざされる……しかし、今はサラ姫のコントロールに頼ること以外に良い方法が思いつかない。

 この凶悪な存在は、サーカスのライオンみたいなものだ。
 今はサラ姫という調教師に従っているが、いつその牙を剥くか分からない。
 目の前に美味しい餌がちらつけば、豹変する。
 先程、新たな器候補のカナタ王子を見つけたときのように……。

「ねえ魔術師さん。もしこのまま……国王が亡くなったら、赤い瞳はどうなってしまうの?」

 サラは自戒しつつ、慎重に言葉を選んだ。
 どんな人物であろうとも、今生きている誰かが「死んだら」と考えることは不謹慎だし、サラ姫にも近いことを戒めたばかり。
 しかし今はそれを考えなければ、話が先に進まない。
 少しためらった後、魔術師は口を開いた。

「それは――」
「バカねぇ。そんなの決まってるじゃない。今の器から離れて、次の器に移るだけよ?」
「だからサラ姫は黙ってなさいっ」
「いひゃっ!」

 柔らかいほっぺを軽く摘んでやると、サラ姫はその白い頬をお餅のようにぷくっと膨らませる。
 じゃれあう二人のやりとりを見ながら、魔術師は淡々と答えた。

「肉体の死と魂の死には、少しだけ時間のずれが起こります。サラ姫さまのおっしゃる通り、肉体が死を迎えると同時に、次の器としてもっともふさわしい相手の魂へ乗り移るでしょう。これは魂へと取り付くものですから」
「その、移動するときって、赤い目玉が飛んでくわけ?」
「バァカ。そんなわけないでしょ。虫じゃないんだから」
「もう、黙っててよっ!」

 再びサラ姫の頬を摘み、みゅーんと横に引っ張る間に、魔術師から「瞬間移動」という回答がもたらされ……サラはその手を止めることも忘れて考え込んだ。

  * * *

 赤い瞳は、常に人の体という器を求める。
 そして器には適正度があり、もし合わない場合は短期間でその肉体を滅ぼしてしまう。
 もし今カナタ王子がそんなめにあったら……この国は崩壊するだろう。
 サラは、ぷにぷにと触り心地が良いサラ姫の頬を離し、その黒い瞳を覗き込んだ。

「次の器って、勝手に決まっちゃうの? それともサラ姫が選ぶの?」
「……」
「ねえってば」
「……」

 デコピンに続く二度のほっぺつねりですっかり拗ねたサラ姫は、サラに摘まれ少し色付いた頬を抑えながら、ふいっとそっぽを向いている。
 なんとも可愛らしい天邪鬼っぷりに、サラは思わず失笑した。
 しかし残念ながらサラは、天邪鬼キャラにはそれなりに免疫があるのだ。

「ふーん、じゃあいいや、魔術師さん教え」
「――そうよっ。私が選ぶの!」
「やっぱり、元々の魔力が強い人の方がいいの?」
「……」
「……魔術師さん?」
「それもあるけど、それだけじゃ拒絶しちゃうこともあるの。今まで馴染んでた体に近い人とか、魂の質が近い人が合うみたいよっ」
「拒絶って、どうなるわけ? ……魔術師さん」
「頭オカシくなっちゃうのっ。誰か殺したり、自分で自分のこと殺そうとしたりね」

 サラ姫の素直さを微笑ましく思いつつも、もう一人のサラが冷静に考えを巡らせる。
 過去に起こったという、王妃や王子たちの連続する死の原因は、赤い瞳との相性が合わなかったから。
 でもやっぱり、それだけじゃなくて……。

「サラ姫、あなた国王の身代りになってくれる器、自分の気に入らない人から選んで行ったんでしょ」
「……」
「ねえ、魔術師さん?」
「そうよっ。でも、仕方がないでしょう? 最初は私だって、どんな人が相応しいのか良く分からなかったんだから。それに……邪魔だったし」

 再びふくれっ面を作るサラ姫の頬を、つねる気は起らなかった。
 代わりにサラは、深いため息を、サラ姫の前髪が揺れるくらいの風速で吐き出した。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 ぷにぷに……まだ続きます。赤井瞳さん(擬人化)の説明。予想以上に長いです。うう……精根尽き果てた。とりあえず、この後書きはあとで直します。
 次回こそ、ようやく動きアリの予定です。本当に。



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