喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章(24)魔術師の告白

2009.09.13  *Edit 

 国王の間とはいえ、カーペットの毛足は短く粗末なものだった。
 オアシスの国との違いをお尻で感じつつ、サラは目の前の人物を見上げた。
 童話から抜け出したような、一人の年老いた魔術師。
 手にした赤褐色の杖には捻じれや窪みが走り、壁際の炎に照らされ幾筋もの陰影を作っている。

 なんとも不気味な形状の杖だが、この魔術師にはとても良く似合う。
 杖の代わりに毒りんごでも持てば、もっと似合うかもしれない。
 そんな失礼なことを考えてしまう自分をいさめるように首を振ると、サラは魔術師に問いかけた。

「じゃあ、最初の質問ね。あなたは、いつこの王宮に来たの?」
「はい……ちょうどサラ姫さまが、お生まれになる少し前でございます」

 シワが寄り垂れ下がった頬の肉が、言葉に合わせてわずかに上下する。
 ほとんど口を開かずにもごもごとしゃべるため、魔術師の声は聞きとりにくい。
 しかし、低くしわがれた声のトーンは一定で、落ち着いている。
 魔術師は、再び冷静さという仮面をつけたようだ。
 サラは、それを崩してやりたいと思った。

 テレパシーでも伝わったのだろうか?
 童話に出てくるお姫様キャラが、サラの狙いをあっさり実行してくれた。

「へえー、そうだったの。もっと古くからここに居たのかと思ってたわ」

 サラ姫の漏らした一言に、魔術師はぴくりと口元をひきつらせた。
 サラは「今さらかよっ!」と突っ込みそうになるのを、ぐっと我慢した。
 迂闊なことを言って、またサラ姫がキャンキャン騒ぎ出すと、うるさくて話が進まなくなる。
 彼女の横顔を睨みつけるだけにとどめ、溜息をつきながら視線を戻したサラは、その変化に気付いた。

 魔術師の閉じられた瞼の奥で、何かが燃えている。
 それは、先程サラが顔をのぞき込んでしまったとき一瞬だけ見せた、強烈な意志の発露だった。
 ひた隠しにしてきた感情のダムが、決壊するような……。
 サラは、すかさず次の質問を口にした。

「では、あなたはなぜこの王宮に?」
「そういえば、そうよねえ。ここに居たって、なーんにも楽しいことなんてないもの」

 サラの質問に、サラ姫も興味津々といった様子で言葉を重ねてきた。
 このお姫様はやはり人格的には魔女レベルだ……と、サラは頭を抱えたくなった。
 そんなことも知らずに、長年自分の世話をさせてきたのかと。
 しかも、やらせてきた仕事を『楽しくない』と断言してしまうとは!

 カナタ王子の次に大事なはずの人物も、サラ姫にとってはただの便利な道具扱い。
 人として認めてなどいなかった。
 だとしたら、単なる侍女であり、捨て駒扱いだったリコを救おうなんて発想が起きるわけがない。
 少しでもサラ姫の心を解きほぐし、リコのことを……と目論んでいたサラは、完全に打ちのめされた。

 サラが、今も別室で苦しんでいるであろうリコを慮り、溜息をつきかけたそのとき。
 凛と響く誰かの声が、サラの耳に飛び込んできた。

「もう、真実をお話しする時が訪れたのかもしれません……」

 それは、確かに目の前の魔術師が発したもの。
 口調のみならず、声の質が明らかに変わった。
 まるで別人のように、若々しい声。
 サラも、サラ姫も、唖然として魔術師を見つめた。

  * * *

 捻じれた細い杖の役目は終わった。
 曲がり切ったはずの腰を真っ直ぐ伸ばしたため、その杖へかけられる負荷は消えた。
 軽々と杖を持ちあげ、口をしっかり開きながら、魔術師は言った。

「わたくしがこの城に来たのは、ある目的のためでした。一人の女の命令に従ったのです」

 魔術師は、どうやら女性だったようだ。
 掠れる声は変わらないものの、トーンは一オクターブ上がり、耳に心地よい旋律を奏でる。
 ハスキーボイスがウリの女性ロック歌手を思い浮かべながら、サラは魔術師の話に聞き入った。

「その女は、生まれたばかりの赤ん坊を抱いていました。わたくしは、その子を連れてこの王宮へ入るようにと……」

 サラ姫は、ゆっくりと体を傾け、サラの方へと身を寄せた。
 天変地異を予期した動物のように、頼りなげに震える瞳は、魔術師をとらえて離さないまま。
 ドレスからむき出しの素肌の白さや、首周りの細さに戸惑いつつ、サラはその細い体へと手を伸ばす。
 安心させるようにそっと肩を抱くと、サラ姫は一瞬身をすくませたものの、サラの腕を振り払うこと無くそのままじっとしていた。

「赤ちゃんを連れてここに来るようにって、何の目的で?」
「その赤ん坊を、国王の子として育てるように……国王には既に話をしてあるからと、そう言って女は消えたのです」

 たったそれだけで、サラは誰が何をしたのかを薄々理解した。
 単なる確認作業として、問いかける。

「その女の特徴は?」
「……両の眼を血のように赤く染めた、美しい女でした」

 七人の人間の血を吸って、赤く染まった瞳。
 幻で見たシーンを思い出しかけたサラは、無意識にサラ姫を抱く腕に力を入れた。
 腕の中の儚い姫も、サラの騎士服の胸にすがりつき、体を押し付けてくる。

「じゃあ、その赤ちゃんは……?」

 サラが重ねた質問に、魔術師はゆっくりとうなずきながら、手にした杖の先をサラに向かって伸ばした。
 正しくは、サラが抱き寄せている姫君へ。
 鈴が鳴るような声が、サラの腕の中から放たれる。

「嘘……嘘でしょ?」
「申し訳ありません。この話は固く口止めされておりましたゆえ」
「私は、ネルギの王族じゃないの? 国王の子でも、あの王妃の子でもないの?」

 魔術師は、黙って首を縦に振る。
 サラはもたらされた新たな情報を整理しようと、懸命に頭を働かせた。
 でも、窒息しそうな息苦しさの中で、頭がうまく回らない。
 窓を開けた方がいいと思いながらも、しがみつくサラ姫をひきはがすことができない。

「ええっと、ちょっと待って。サラ姫の話はあとで聞いてあげる。ともかく、サラ姫が王族の血筋じゃないことは分かった。魔術師さん、そのときの話をもう少し詳しく教えて? 女とどんな会話をしたの?」
「……あの女は、サラ姫さまのことを誰の子とは言いませんでした。ただ“自分の魂を受け継ぐ者だ”と言っておりました。そして“自分を解放する者だ”と」

 潰れて見えないはずの目が、サラ姫に向けられた。
 慈しむような、憐れむような、複雑な感情とともに。

  * * *

 サラ姫は、赤い瞳の魔女……太陽の巫女の連れてきた娘だった。
 魔女が言ったという『魂を受け継ぐ』の言葉が、血を分けた娘という意味なのかはわからないけれど。
 単に、闇の魔術の才能を持った娘を見つけ、攫ってきたという可能性もなくはない。

「でも、なぜ魔女はそんなことをしたの? わざわざ自分の跡継ぎになる子を、他人に預けるなんて……」

 自問自答をするように、焦点の合わない瞳で呟いたサラに、魔術師からの返事は無かった。
 言葉というものを大事にする魔術師は、確証の無いことは口に出さないのだ。
 サラは唇を強く噛みしめ、その痛みをもって思考をクリアにすると、順を追って考えた。

 まず魔女は、カナタ王子と国王の夢に現れた。
 もしかしたら、その他の王族の枕元にも立ったのかもしれないが、真相は分からない。
 はっきり分かっているのは、国王とカナタ王子に『水の枯渇』を予言し、戦争をけしかけたというだけだ。
 それだけじゃなく……。

「そっか。国王と魔女は、もっと細かい話をしてたんだ。例えば、実際に戦争が始まったらどうやって戦えば良いのかを」

 幼く純粋なカナタ王子には、話が通じないと判断したのかもしれない。
 しかし野心家の国王とは、話がうまく噛み合った。
 そう考えたとき、サラの視界がぐにゃりと歪んだ。
 思わず息を呑んだサラの耳に、誰かの声が聞こえてきた。

『――あの国を滅ぼしてくれるなら、国王様に良いものを授けましょう』

 それはきっと、魔女の声。
 灰色の煙に包まれた幻の中、若かりし頃の血気盛んな国王と、赤い瞳の魔女の横顔がぼんやりと見える。
 幻の中の魔女は、片方の目に手を触れ、その手を国王の瞼へと向けた。
 国王と魔女は、そんな風に契約を結んだのだ。
 理解すると同時に、その幻は跡形も無く消え去った。

「なるほどね……魔女は、国王に“闇の魔術”という強力な武器を与えたんだ。一つは、赤い瞳。もう一つは……サラ姫」

 闇の魔術を司る赤い瞳は、魔性の塊だ。
 制御できなければ、身近な人物の命を食い散らかす。
 下手をすれば、譲り受けた国王も含め、この国を内側から滅ぼしてしまいかねない危険な存在となる。
 だからもう一つ、それを制御するアイテムが必要だった。
 それが、サラ姫なのだろう。

 サラは、なんとなくトランプのカードを思い浮かべた。
 赤い瞳が誰よりも強いキングなら、サラ姫はジョーカー。
 その二つが上手に働けば、あの英雄王が率いるオアシスの国にも打ち勝てたかもしれない。

 しかし、国王の体は赤い瞳の力に耐えられず、サラ姫は国のためではなく自分の快楽優先で動いた。
 結果が、このありさまだ。
 周囲の人間は振り回され、殺され続けた。
 結局戦争が起こって得をした人間なんて、どこにも居やしないのだ。

「闇の魔術の代償は、大きいってことね……」

 サラの言葉に、魔術師は何も言わず……微かに頭を縦に動かした。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 告白シリーズ第三弾。ようやく、サラ姫ちゃんの裏話まで辿り着きました。しかしまだまだ意味不明なところも多いのです。なるべく順を追って、小出しに進めていこうと思います。詰め込み過ぎると、二時間サスペンスの犯人自白みたいになっちまうし……。今回は、笑える部分無しのシリアスシーン連続でした。突っ込みどころは、サラ姫ちゃんのドライっぷりくらいでしょうか。サラ姫ちゃんは、サラちゃんと対照的な存在というキャラ設定なのですが(サラちゃんが小天使、サラ姫ちゃんが小悪魔)、このシーンではどーにも身動きとれず書きにくい。理由は、名無し魔術師さんのせいです。何かを含んで押し黙るような大人しいキャラは苦手っ。それって作者が単純ってことなんですけどね……。そーいや、この手のキャラはこの物語では初登場かもしれん。大人しいカリム君やリコちゃん含め、残りのキャラはそれなりに弾けてくれてます。というか、弾けさせてしまった。特に月巫女さん、ゴメン。あんなはずじゃなかったキャラです。名無し魔術師さんもそーなるか?
 次回は、もう少し動きを出していきます。ぷるぷるしてた小悪魔サラ姫ちゃんの反撃スタート。そして、あのひとも……。



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