喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章(15)モンスター制御

2009.08.20  *Edit 

 遠目に大きな砂の塔のように見えたものは、近づくにつれて巨大な砂の竜巻と分かった。
 アレクと並んでラクタを走らせるサラは、自分の背中をぴりぴりと緊張させた。

「サラッ、見えてきたぞ!」
「うん!」

 戦地で、上空から廃墟の街を見下ろしたときのことを、サラはふと思い出す。
 巣穴からワラワラと出てくる、黒く蠢くアリにも見えた、ネルギ軍の魔術師たち。
 今の彼らは、サラの同志だ。
 彼らを襲う者がいたら、それはサラにとっても敵でしかない。

 危機感は十分ある。
 当然使命感も。
 それなのに、翼が開く気配がまったくしない。
 何者かが、サラの体に鎖を巻きつけたかのように、自由がきかない。

「何か変っ……」

 五百人あまりの集団からつまはじきにされたように、戦力にならない人間たちが後方にひとかたまりになっている。
 ほとんどが高齢者と少女たちだ。
 彼らを守るべく、防御魔術に長けた魔術師たちがドーム状の水の膜を作る。
 それは、この水の少ない砂漠ではあまりにも弱く、一秒ごとに形を歪めながら縮んでいく。

「彼らはリーズに守らせよう。俺らは前線へ!」
「分かった!」

 異常現象を恐れるラクタを結界付近に乗り捨て、サラとアレクは魔術師たちを掻き分けて前へと進む。
 突然現れたサラたちに目を留める余裕もないくらい、切羽詰っているようだ。
 砂を踏みしめて走るサラは、状況を把握すべく周囲を見渡した。

 砂が巻き上げられるのは、風の魔術のせいだ。
 それを起こしているのは、ネルギ軍の魔術師たち。
 高く舞い上がったその砂の奥……つまり、地面の中に彼らの目的があった。
 風を操り穴を掘ったかと思えば、すぐに炎を地中へと放つ。
 熱と砂に自らの肌が焼けていくのもかまわず、砂煙を吸い込むことも気にせず、攻撃力のある魔術師たちは術を繰り出し続けていた。

 そんな彼らをからかうように、砂からランダムに現れるモノは……。

「――サンドワーム!」

 サラが叫んだとき、おろしたての革靴の足元に、こぽりと小さな穴が開いた。

  * * *

「サラ、どけっ!」

 アレクが、左の腰に差した細身の曲剣を抜き、サラの足元から触手を伸ばしたサンドワームの体を切り裂く。
 銀色の三日月がサラの靴先を駆け抜けると共に、暗い土色をしたサンドワームの体が一部切り離された。
 残った本体がずぶずぶと砂に潜る間、切れ端は青黒い体液を砂に飛び散らせてぴくぴくと痙攣している。

 ちょうど大人の腕ほどの太さで、五十センチ程度の長さに千切れた、一匹のサンドワーム。
 これが胴体なのか、枝分かれした触手の一部なのかは分からない。
 そのグロテスクな見た目に、背筋にゾクリと悪寒が走る。
 アレがもし、自分の足に巻きついていたら……そんなイメージをしてしまったサラは、その残骸が転がる場所から飛び退いた。

「最悪っ……きもちわるいっ」
「なんだよこいつら……おい、サラ。やばいぞ」

 アレクは、切り捨てたはずの触手を、曲剣の先端で指し示した。
 サラは、今自分が飛びのいた場所に転がっている、サンドワームの破片を見つめた。
 すでに体液の流出は止まり、切断された傷口も消えている。
 確かに切れ端だったものが、むずむずと動き始め、長さを伸ばし……一匹のサンドワームへと成長していく。
 瞬時にアレクが炎の魔術をぶつけると、その生まれたての小さなサンドワームは消し炭になった。

「少しでも体の組織が残ってりゃ、こいつら生き返るのか」
「私、カリム探してくる! アレク、リーズを呼んで来て!」

 最小限の伝言を頼み、サラは砂に足を取られながら必死で駆け出した。
 まるでたちの悪い、もぐら叩きゲームのようだ。
 サンドワームは砂の中を自在に移動し、人の足元で頭を出しては食らいついてくる。
 頭にはぽっかり開いた丸い口と尖った歯が並び、噛み付かれればかなりの痛手だ。
 その目的は……。

「水が、足りないのかも」

 ラクタの血液を求めたように、ヤツラは人間の血を求めているのだ。
 となると、水を与えれば大人しくなるかもしれない。
 しかし、この植物の育たない乾いたエリアで、大量のサンドワームを満足させるだけの水を生み出すのは厳しい。
 砂漠は、風や炎との相性が良いエリアなため、カリムかキール将軍あたりがこの戦法を指示したのだろう。
 しかしいかんせん、一匹ずつ見つけ出して叩くしかないのだから、効率が悪すぎる。

「カリムッ! どこっ?」

 攻撃系の魔術師たちは、自分の足元に這いよる敵を見つけ出すので手一杯だ。
 怪我をした人間を運ぶために、彼らと砂埃の合い間を縫うように動き回っている人物が数名。
 その中に、カリムがいるはず。

「カリムッ!」

 サラの叫び声に、砂煙の中で聖剣を構え仁王立ちする、一人の男が振り返った。

「――サラッ?」
「いたっ!」

 砂から飛び出すサンドワームを「ひゃっ!」と叫んで避けながら駆け寄るサラに、カリムは戦地には似合わない、微かな笑みを浮かべた。

  * * *

 カリムたちとは、もっと落ち着いて合流したかったのだけれど、仕方がない。
 顔中から流れ出でる汗のせいで、砂埃をめいっぱい張り付かせて泥人形のようになったカリムに、サラは手早く状況確認をする。

「コイツラ、一体どうしてこんなに出て来たのっ?」
「俺に分かるか!」

 ぶっきらぼうで簡潔な答えと共に、カリムは砂地から頭をひょっこり覗かせたサンドワームを一薙ぎで倒す。
 サラは「剣じゃ増殖するっ」と叫ぼうとして、その声を飲み込んだ。
 なぜか、カリムの剣に払われたサンドワームは、そのまま動きを止めた。
 つい数分前にアレクが薙ぎ払ったサンドワームは、悪意を口から滴り落ちる唾液に滲ませながら、自動的に体を再生させたというのに。

「動かない……ていうか、逃げてる?」

 カリムの手にする鈍い銀の聖剣で切られたサンドワームは、全く違う動きをみせる。
 斬られた先から体液をボタボタ垂らしながら、怯えたように砂の中へもぐりこもうとくねくねしている。
 しかし体が千切れたせいで上手く行かず焦って、砂を体にまとわりつかせて擬態するのが関の山だ。

「どうして、カリムの剣だとコイツラ大人しくなるのっ?」
「俺に分かるか!」

 二度目の簡潔な答えを耳にしながら、サラは全体をみやる。
 理由は分からないにせよ、カリムの剣がヤツラを大人しくさせるなら……と一瞬考えたサラは、あちこちで起こる戦闘を見てその考えを捨てた。
 一人の人間が一匹ずつ倒して、この数では間に合うわけがない。
 そのうち魔力も体力も尽きて、やられるのがオチだ。

 サラが考えている間にも、カリムは近くにいた魔術師をサポートして、サンドワームに聖剣を突き立てる。
 カリムの右手には、サラの手には握ることがやっとな太さの、聖剣の束。
 そして、強く握られた左手からはみ出し、キラキラと眩しく輝くモノは……。

「カリム、あんたなんでそれ握ってるのっ?」
「俺に分かるか……いや、なんとなくだっ!」

 訂正したカリムの言葉を聞いて、サラは閃いた。
 一瞬で決着をつける、勝利の解法が。

「カリム、今ダイス持ってたらちょうだいっ」

 その言葉に、カリムは今さら気付いたかのように丸腰のサラを見つめ、左手に握った“女神の涙”を一度しまうと、代わりに小さな石ころを取り出した。
 手を伸ばしてサラが受け取ると同時に、石ころはサラの意思を察知し、一振りの美しい剣へと姿を変える。
 カリムがその華麗な変貌に目を奪われた刹那、足元がおろそかになった。

「来たよっ!」
「――っ」

 今までどおり振るわれた、風を巻き起こすカリムの聖剣が……今度は、沈黙した。
 切り刻まれてなお、勢いを損なわずに襲い掛かってくるサンドワームと、別の固体へと生まれ変わろうともがく切れ端。

「ビンゴ! カリム、その宝石絶対放さないで!」

 サラは叫びながら、黒剣を抜いた。
 薄暗い黄土色に包まれる視界の中でも、決して輝きを失わない、美しく怜悧なサラの相棒。
 心の中で、「ごめん、一匹だけ協力して?」とささやきかけると、黒剣が「了解」と言うようにキラリとその刃先を光らせた。
 同調するように、サラの目は黒騎士の目に変わる。
 たった今カリムが切り捨てた切れ端……その成長するサンドワームに、サラは黒剣の先を向けた。

「……んんっ?」

 決して賢い生き物とは言えないサンドワームも、何かを察したのだろうか。
 カリムの足元に忍び寄ろうとした、そのスモールサイズなサンドワームは、「ギョギョッ!」という奇妙な鳴き声と共に、地面の中に逃げてしまった。
 サラはもう一度黒剣を見て、その束に埋め込まれた、薄闇でも輝きを放つ女神の涙を左手の指でなぞる。

「これはやっぱり、女神様……かな?」

 一度剣を抜いただけで、サラの周囲からサンドワームはあらかた去った。
 ひとまず黒剣を鞘にしまったとき、サラは「さーぼぉー」というくぐもった声を耳にした。
 サラが振り向くと、頭に黒いマスクをすっぽりかぶった、ひょろ長いマント姿の男がふわふわと雲の上を歩くように近寄ってくる。
 しかし、実際そのスピードは普通の人間の全力ダッシュにも劣らない。
 スルスルと木の葉の上を歩く忍者のように近づいたそのアヤシイ大男は、そのままサラの腕に飛びついた。

「リーズ?」
「さささサー坊、おおお俺、むむむ虫ってかなり苦手なんだけど……あ、兄さんには結界の方お願いしてきたよ」
「オッケー。すぐ片付けてあげるから、スプーンちゃん貸してっ」

 ブルブルと震えるリーズの薄っぺらい手が、マントの中から二本のスプーンを取り出す。
 サラはそれをひったくると、「お願いっ、女神様っ!」と念じながら、二匹の妖精を包んだその手を、天高く掲げた。

  * * *

 サンドワームと格闘するネルギ軍魔術師を横目で見つつ、結界を維持していたアレクは、見てしまった。
 太陽が完全に地平線の向こうへ消えるその直前、眩い朝日のような光が砂漠に差し込むのを。
 光を浴びると同時に、体からは発していた魔力が溶けて消え……強固に張った結界はあえなく消え去った。
 それでも、アレクの心に焦りや動揺は生まれない。
 砂のタワーを作り上げていた、宙を舞う砂も流れて消え、残った場所には……女神が居たのだ。

 カリムも、リーズも、必死でサンドワームと格闘していたその他の魔術師たちも、ただ口をあんぐり開けて上空を見上げる。
 一度目にした姿とはいえ、やはり二度目も神々しさは変わらない。
 むしろ『夢ではないのだ』という感慨が強く湧き上がってくる。
 もっとも飛んでいる本人はといえば……。

「ふーん。こんなにいっぱいいたんだ。キモッ!」

 飛び上がったサラの目には、砂の中のサンドワームたちの姿がはっきりと見えていた。
 いくら地面の中に隠れていようとも、彼らの姿は薄く透けて見える。
 もぞもぞと必死で体を動かし、地中深くにもぐりこもうとしているヤツラに向かって、サラは叫んだ。

「あんたら、覚悟しぃやーっ! これ以上暴れたら、ハンバーグにして食ったるわっ!」

 女神の台詞は、豪快だった。
 聞いていた人間たちは、全員が固まった。
 唯一動じず、額をおさえ深いため息をついたカリム。
 そして、サラの手の中では二本のスプーンが『女神様っ!』『ステキー!』とはしゃいだ。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 サンちゃん(愛称つけてみました)大暴れの巻となりました。リアルに考えると気持ち悪い系のモンスターですが、ちょっとグロ可愛いっぽく。可愛い? え、そんなこたねー? せっかくカリム君たちと合流できたっつーのにバタバタの修羅場です。とはいえシリアス度はまだまだ低く、余裕たっぷりですが。(グロく書きたくなかったのでこうなった……) サラちゃんの変身シーンは、某ヒーロー系な感じで。決め台詞は、岩下志麻さんの極妻の名台詞から拝借しました。ハンバーグは、第一章から……お食事中の方、本当にどーもすみません。リーズ君と同じく、作者もあんなんが目の前に来たらもうBダッシュでトンズラします。こうしてコメディタッチに書いてる分には、脳内補正がきいて平気なのですが。しかし、女神様パワーって本当に絶大で楽チンだなー。まさに『主人公最強』ってヤツですわ。ズルいけど王道。
 次回は、カリムたちと落ち着いて話した後、今度こそ王宮へ。待ってる人らも戦々恐々?



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