喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章(10)妖精と女神

2009.08.15  *Edit 

 サラが二本のスプーンを手のひらに乗せたまま、一人顔色を赤くしたり青くしたりする姿に、その場に居たメンバーが不思議そうに顔を見合わせる。
 髪が伸びた理由とともに、サラが『魔術が使えるようになった』ことも、すでにナチルから説明を受けていたが、スプーンと心で会話できるとまでは聞いていなかった。
 それに気付かないまま、サラは妖精に話しかける。

『ねえ、私っていったい何なの? あなたたちは知ってる?』

 二人の妖精はアゴに手をかけ首を傾げ、まるで鏡に映したかのようにそっくりなポーズをとると、唇を尖らせながら言った。

『あたしたちは、女神様のこと“めがみさま”って感じるだけですぅー』
『こうしてくっついてると、キラキラで気持ちよくて……はぁー』

 くたびれたOLが二人、温泉に浸かったときのように、妖精はサラの手のひらにゆっくり倒れた。

  * * *

 天井に向けて広げたサラの左手の上で、金と銀の髪を持つ小さな妖精が幸せそうに寝転ぶ。
 女神パワーについて、何か有益な情報が得られるかと思っていたサラは、内心「チッ、つかえねー」と女神らしからぬ舌打ちをした。
 しかし、二人の妖精は「はー極楽極楽」「たまにはご主人様から離れるのもいいわねぇ」と、リゾート気分を満喫している。
 月巫女とは違って、意図的に話しかけない限りはサラの声も聞こえないようだ。
 今にもこっくり舟をこぎかねない妖精に、サラはもう一つだけ確認する。

『あなたたちは、リコのこと……闇の魔術のことどう思う? やっぱり光の魔術じゃ治せないものなの?』

 寝転んだ姿勢のまま、妖精は顔を見合わせると、目を伏せた。

『あたしたちは、強すぎる闇にはとっても弱いんです……』
『エール王子もですが、リコの魂も今は暗い闇の中に……』

 サラは、昼間の皆既日食を思い描いた。
 あのとき闇に隠された太陽は、リコの心と同じなのかもしれない。
 日食なら時間が経てば終わるけれど、リコの心は終わることのない暗闇に包まれているのだ。

『女神様、あたしたちリコのこと助けてあげたいって思うの……』
『リコの体を守ってあげることはできるから、付いていてあげたいんですっ』

 熱いお風呂からあがるようにゆらりと立ち上がると、「一緒に連れてってください」とヘッドを下げるスプーン。
 サラは慈愛が溢れる瞳で『ありがと』と声をかけると、顔を上げた。
 一度ベッドの上のリコに目をやると、その青白い顔に先ほどはなかった苦悶の色が見えた。
 夜が近づくにつれリコを覆う闇も深まるのだと、サラはなんとなく察した。

 この先、日一日と月が満ちて、夜の明かりは力を増していくのだ。
 とにかく、サラ姫に会わなければならない。
 一刻も早く……。

「リミットは、満月かな……」

 女神の能力が自在に操れるなら、サラがその翼で一人砂漠に舞い戻る方が早い。
 しかし、能力の限界も分からず、唐突に力が切れる不安定な状態では、むしろリスクになる可能性も高い。
 やはり正攻法で、陸路を使うしかない。
 魔力でサポートし、馬とラクタを使って限界まで急いでも、砂漠の王宮まで片道十日、往復二十日はかかってしまう。
 体調が悪いリコを動かすのは心が痛むけれど……。

「やっぱり、連れて行くしかないかも」
「あのー、サー坊?」

 おずおずと、リーズが声をかけてきた。

「ああ、ごめん。妖精ちゃん借りて」

 サラがスプーンを返そうと手を差し出すと、リーズは一歩身を引いた。
 不思議に思ってもう一歩近づくと、また一歩下がってしまう。

「リーズ?」
「いや、なんか……サー坊が怖いんだけど」
「なにが?」

 きょとんとして首を傾げるサラに、手のひらの妖精が話しかけてきた。

『あのー、ちょっといいですかぁ?』
『女神様、後ろ後ろー』

 なんだか昭和のベタなお笑い番組みたいな展開に、サラが恐る恐る後ろを振り向くと……。

「――ぴゃっ!」

 奇妙な悲鳴と共に、サラの背中の羽がぷるっと震えた。
 握り締められたスプーンが『女神様って、面白いひとだねー』と笑い合った。

  * * *

 サラは、ほんの少しだけ女神パワーの仕組みが分かったような気がした。
 単に「女神パワー、オン!」みたいな掛け声やら気合いだけでは、せいぜいおならくらいしか出せない。
 心が何かを強く望んだときに……サラという人間のエゴが消え去ったときに、女神は現れる。
 あと、光の妖精に触れたことも、もしかしたら関係あるのかもしれない。
 戦地であれだけ力が安定していたのは、傍に精霊王が居たから……。

「あのー、みんな……くすぐったいんだけど……」

 勘が鋭くなっている今のうちに、女神の仕組みを整理しておきたいという希望は、参拝客の無礼な行為によって妨げられる。

「へえー、女神様の羽って鳥の羽と似てるんだなぁ。付け根はどーなってるんだ?」
「ちょっと兄さん、引っぱっちゃダメだって。せいぜい撫でるくらいで我慢しなよー」
「サラ姫が、女神様だったとは……ああこの神々しくも柔らかな肌触り……この羽を枕に眠りたい……」
「女神様の翼サイズは……と。うん、今度はもう少しお体にフィットした服を作れそうですわっ」

 眠っているリコを除き、残りの四人は……羽の玩具を目にした猫状態だ。
 リーズが声をかけるまでは、それこそ魂を抜かれたような態度を取っていたのだが。

『女神様、あたしたちを一回放して?』
『たぶん羽しまえるかもー』

 異常なテンションの四人の中で、もっとも冷静なリーズ。
 サラは手を伸ばして、リーズの胸ポケットにスプーンをねじ込んだ。
 その瞬間、一メートル大の翼は、白い残像を残して消えた。

「あー、良かった……」

 ホッとするサラに、不満げな三人と苦笑する一人の視線がぶつけられる。
 興奮状態がおさまり冷静さを取り戻した彼らは、サラにクールで明快な事情の説明を求めていた。
 サラは引きつり笑いを浮かべながら言った。

「あのね、私にも良く分からないんだけど、なんか、ときどき女神様に変身できる体になっちゃったみたい……」

 納得するにはほど遠いサラの言葉に、四人の眉の角度がつりあがる。
 それ以上は言えることが無く、サラはアハハと笑ってごまかそうとするが、四人の視線はますます冷たくなり、室内の温度も一気に冷えていく。
 冷や汗タラタラの女神を見ていられなくなったのか、無事我が家へ帰宅したスプーンズが補足をしたのだが……。

『今日のお昼で、この世界は滅びちゃうとこだったんだよー』
『女神様が救ってくれたんですよ、ねっ、女神様?』

 あたかも、時代劇のスケさんカクさんのような大げさ過ぎるフォローに、サラは「そんなことないよぉー」と慌てて手を振る。
 しかし、それを聞いてしまった面々は……悪代官一味のごとく、見事その場にひれ伏した。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 さて、八月もすでに折り返し地点。サラちゃん、未だ王城から出られず。想定外です。もう八月完結ののろしをアチコチに上げてしまったというのに……いや、諦めたら試合終了だっ。今回のメインは、サラちゃん&スプーンズの交流と、みんなの前で女神様暴露。「シムラ後ろー」は一回使いたかったので、出せて良かったです。(王道ギャグをいくつ制覇できるか……それも今作品の大事なテーマでありますっ)話が進まなかったので、あまり書くことが無いなあ。補足するとしたら、女神様が現れたときの態度で、エール王子がむっつり系だってバレたことくらい? アレク様は何気に分析魔だし、リーズ君はとにかく兄命のツッコミマシーン。ナチルちゃんは衣装係魂に火が。あー、こんなことばっか考えてるから進まないんだな……。
 次回は、ついに(やっと)王城脱出。平坦な旅はあっさりこなして先を急ごうと思います。



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