喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章(9)リコの病状

2009.08.14  *Edit 

 サラは、少しだけ自惚れていたのかもしれないと思った。
 リコのことを、自分なら治せるのではないかと。

「リコ……リコっ! 起きて!」

 ふっくらとした頬は痩せこけ、色白だった肌は病的に青くなり、唇はかさついて青紫色に変色している。
 医務室のベッドに横たわるリコは、サラの呼びかけにピクリとも動かない。
 意識が無いかと思えば、唐突に目を開き、水や食料を欲したりする。

「サラが呼んでも、無理か」

 アレクが落胆を隠さず呟くと、すかさずリーズが「兄さんっ」とたしなめる。
 リコはたまに寝返りをうち、体がかゆければ掻き、欠伸をしながら起き上がり、トイレにも一人で行く。
 倒れてから数時間、まるで人間の言葉を解さない動物のように過ごしているのだと、ずっと付き添っていたアレクが説明した。
 話を初めて聞くサラと、そのことを既に知っているエール、リーズ、ナチルは、皆同じように悲痛な表情で沈黙した。

  * * *

 基本的な体力や目に見える怪我は治せても、魂についた傷は直せないことは、サラも十分過ぎるほど知っている。
 地下牢で見た侍従長の姿と、リコの姿がどうしても重なる。
 もしリコが一生このままだったら……?
 最悪の想像をしかけたところで、サラは深いため息とともにリコの傍から離れた。
 そのとき、少しよろめいた体を背中からふわりと抱きとめたのは、エールだった。

「大丈夫か? サラ姫」
「ああ、ごめんなさい。大丈夫」

 エールとリコも、リーズを通じてある程度仲良くなっていたようだ。
 国王が倒れる中、仕事を放り出してここにいることがその証拠だった。
 もしくは、サラがリコを目覚めさせると期待して……その後に事情を聞こうと待ち構えていたのかもしれないけれど。

「エール王子から見て、リコの症状はどう思うの?」

 サラは少し意地悪だと自覚しつつ、その質問を投げかけた。
 母の呪いはもちろん、月巫女や侍従長に操られたということも、エールにとってはあまり思い出したくない記憶だろう。
 案の定、エールは顔色を若干悪くし、軽く唇を噛み締める。
 シンと静まり返る病室に、エールの低い声が広がった。

「俺が駆けつけたとき、リコ殿は全身に裂傷を負い倒れていた。闇が引いてすぐ、リーズと俺で手分けして治癒を。しかし、目を覚まさなかった。念のためサラ姫の髪も飲ませてみたが、それも功を奏さず……」
「そう……あなたは、あの“闇”は平気だった?」

 サラが問いを重ねると、エールは逆にサラが支えてあげなければならないほどぐらつく。
 それでも足を床に縫いとめ、力を入れて踏みとどまった。

「俺にとってもあの闇は、本当に恐ろしかった。魔女も月巫女も、全てを超越するような偉大で邪悪な力を感じた。偉大と評したのは、もしかしたら俺の中にまだ巣食い続ける闇がそう思わせたのかもしれない」

 エールの台詞には、自身が闇に囚われた経験者としての重みがあった。
 サラは、エールに力強くうなずいた。

「私も戦地であの闇を見て、心を奪われそうになったの。人は誰しも、あの闇に捕まる可能性があるのだと思う……」
「まっ、そりゃそーだな」

 不意にアレクが乱入してきた。
 重苦しい雰囲気に耐えかねたのか、おどけた口調でサラとエール二人の肩を抱く。
 相手が王子様だろうと頓着しない、相変わらずの野生的なコミュニケーションだ。

「なあサラ、俺が睨んでる犯人教えようか?」
「アレク……?」

 アレクは、背の低いサラの耳に挑戦的な三白眼を近づけると、内緒話でもなんでもない音量で告げた。

「リコは、ある男から狙われてたんだ。リコがこのままなら、そいつはそれで構わないと思ってるのさ。そいつはいつも、リコのことを『小さい動物みたいでカーワイー』と、涎を垂らしながら見ていたんだ。むしろ今の物言わぬリコに対して『もしこのままなら自分が一生世話してもいい』なんて邪な考えを持ってる。その理由は、普通の人間だったリコには既に振られ」
「――兄さん?」

 効果音に『ゴゴゴゴゴ……』という音が聞こえそうなくらい迫力のあるリーズが、睨み付けているようにも笑いかけているようにも見える表情で、アレクの上着の首根っこを掴まえて後方へ放り投げた。

  * * *

 サラとエールが真面目な会話を、アレクとリーズが不真面目な会話している間にも、ナチルはせっせと働いていた。
 先ほど領主館から運んできたリコの私物を解き、リコの目の前に一つ一つかざしていく。
 リコは、それらの何にも反応しなかった。
 あれだけ大事にしていた、焼け焦げたお守りにさえ。
 その様子を見守りながら、サラはエールに尋ねた。

「月巫女の髪でも、駄目なの?」

 最後の頼みの綱と思ったその発言にも、エールは黙って首を横に振る。

「デリスの話によると、リコ殿は自分自身に攻撃を仕掛けたとのこと……贄と器と対象を、一手に引き受けたとしたら、かなりの損傷を受けているはず。難しい状態と考えておいた方がいい」
「そう、分かった。ありがとう」

 リコに見せるアイテムが無くなり、広げた荷物を片付け始めるナチルがベッドサイドから離れるのを見て、サラは再びリコの傍に近づいた。
 ベッドの脇に立って腰を屈めると、その頬を撫で、柔らかなブラウンの髪をかきあげた。
 自らの長い黒髪をリコの胸の上に垂らし、卵のようになめらかなその肌に、『女神』の祈りを込めながら、いくつかついばむようなキスを落としてみた。

 唇が離れた直後、無反応だったリコの頬にうっすらと赤みが戻るものの、しばらくするとまた元の青ざめた顔に戻ってしまう。
 圧倒的な闇に、少しの光があっけなくかき消される……そんな反応だった。
 その闇は、確実にリコの内部から染み出していた。

「リコの魂に、消せない傷がついた……そういうことなのね?」

 固く閉じたリコの睫毛が動かないことを確認すると、サラは振り返ってエールを見上げた。
 力なくうなずくエールに、サラは涙を堪えながら強気な笑みを向けた。
 リコは、大丈夫だ。
 他の刺客たちと違って、こうして冥界へ旅立たなかったことが、リコの勝利への布石。
 得体の知れない魔女とは違って、リコに魔術の種を仕込んだ人物がどこにいるかは、もう分かっているのだから。

「私が、絶対助けてあげる」

 リコが眠るその姿を瞳に焼き付けながら、サラがささやいたとき。

『はいっ!』
『絶対ですっ!』

「――えっ?」

 それが、女神サラとスプーン猫こと光の妖精、初めての会話だった。

  * * *

 もしかしたらこの場にいる誰よりも、リコのことを心配しているのかもしれない。
 それを見せないように、いつもどおりののんびりとした態度を貫き、表面上は気丈に振舞うリーズ。

「さっき言ったばっかりだろっ! お前らがしゃべりだすとヤヤコシイから黙っていろって」

 胸ポケットから取り出したのは、『ご主人様』からの受けた命令を破ったペットが二匹。
 睨み付けているようにも、笑いかけているようにも見える表情で、リーズは言った。

「後で遊んでやるから、今は大人しくしててくれ、な?」
『だってぇー』
『ご主人様のいぢわるっ』

 完璧にご主人様を舐めきっているそれは、猫耳のついた着ぐるみをかぶった、二本のスプーンだ。
 しかしサラの目には、スプーンと同化した手のひらサイズの小さな少女が二人に見える。
 背中からトンボのような薄く横長の羽を二枚ずつ生やし、耳の先が少しとんがった、雪のように白い肌のミニチュア美少女だ。
 ただし、服装はあくまで猫の着ぐるみなのだが……。

「フィギュア……?」

 サラの地球用語は、当然誰にも通じない。
 けれどそのスプーンは、サラの興味関心が自分たちに向けられていることを察した。
 感激した二匹は、興奮を隠せずに、リーズの手のひらの上でくるくると回る。

『嬉しいですっ。光の乙女とようやくお話できるっ!』
『光の乙女じゃないよっ、もうこの方は私たちの……』

『――めが』
「ちょっと待ったーっ!」

 サラは黒騎士らしい俊敏な動きで、リーズの手からスプーン二本を奪い取った。

『お願い、まだ黙っててっ!』

 心話で話かけると、妖精たちもなんら違和感なく同じように返してくる。

『どうしてですかぁ?』
『すぐバレますよぉ?』

 ぐっと言葉に詰まったサラは、可愛らしい小さな妖精の可愛くないツッコミに視線を泳がせる。
 奥ゆかしくドアの近くで待つナチルの姿をチラッとを確認すると、うっすら頬を染めた。
 背中の肩甲骨を後手に触りながら、サラは頬を染めつつ言った。

『それは……はずかしいから……』

 二本のスプーンが、カチャリと頭突きをしながら『女神様って乙女だねー』と笑い合った。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 リコちゃんお見舞い編ですが、シリアスからの逃げがここでも発揮されてしまいました。いつまでもしんみりしてらんねーっす。とりあえず、リコちゃんを治せる(?)のは本物サラ姫しかいないということだけは判明させました。ついでに盗賊兄弟チラッと慣れ合わせて、地味キャラ王子は地味なまま……そして、作者が大好きな正直者ペット・スプーンズとの初絡み。スプーンちゃんはどう考えてもツッコミ側なので、月巫女さま同様サラちゃんとの相性は抜群。×-GU(以下復唱なので略) どうも、ダブルボケタイプの漫才が苦手なので(止まらないボケの連鎖で押すのは良しですが)、サラちゃんの周囲にはツッコミキャラがおのずと増えていってしまう……。サラちゃんよりさらに(←この単語良く使うのに、この話では紛らわしいので使えません)ボケなのが、天使ママとリグル王子ですね。二人に対しては、サラちゃんも慣れないツッコミ側にまわります。って、こんな後書きでええんかのぅ?(←作者は常に一人芝居中)
 次回、スプーンズとちょっとおしゃべりしてから、砂漠へ向けて出発します。本当にようやく……。



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