喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章(5)国王の秘密

2009.08.10  *Edit 

 サラのシュミレーションは、砂漠化の問題を解決すべく深まっていく。
 しかしどんな選択肢を辿っても、今ある条件だけでは行き止まりにぶつかってしまう。
 悩ましげに遠くを見つめるサラに、国王が苦い表情で語りかけてきた。

「先に言っておくが、砂漠の向こうまで物理的に水を運ぶのは不可能に近い。ひとまず魔術師を派遣して、水を呼ばせるしかない……それでも、ネルギ国民がすべて満足できる量には届かないかもしれない」

 それでは完全に片手落ちだと、サラは思った。
 いずれ、ネルギ国民は必ず思うだろう。
 もっと水をよこせ、と。
 サラの頭には、そう思わせないように意識を操作すること……ごくわずかな水の施しを「ありがとうございます」と言わせるレベルまで洗脳することくらいしか、合理的な方法がみつからなかった。
 それが、根本的な解決とは程遠いことは、分かっていたけれど。

「もしどこかに見つかっていない水脈があれば、あるいは……」

 国王の、力無い呟きが聞こえる。
 そんなことがあれば最高だが、希望的観測に基づくアイデアに頼るわけにはいかない。
 何か良い方法があるはずではないかと、考え続ける。
 もっとスマートな方法が、何か……。

「何か良い方法は、ないのでしょうか? 砂漠に水を生み出す方法が……」

 ネルギに水が沸いて、それを新生ネルギ政府主導で効率的に分配できたなら、ネルギには戦う意味が無くなる。
 自分たちの土地から沸いた水なら、誰かを恨むことも無く、穏やかに暮らしていけるだろう。
 ペットが餌を与えられるように、トリウムのお情けで生き延びていくことが、解決とは思えない。

「そうだな。その点は、我が国も看過できない。砂漠化を止めなければ、いずれこの国も飲み込まれ滅びるだろう。森も増殖している中で、大陸へ逃げ延びる方法も今のところ見つかっていないしな」

 そこまで話すと、国王はサラから離れ再びベッドの縁に腰掛けた。
 国王の息が荒いのは、気のせいではない。
 サラはその姿を見てようやく、本当は立ち上がるのが苦痛なくらいのダメージを受けていたのだと知る。

「国王様、長くすみません。もうそろそろお休みになってください」
「いや、大丈夫だ」
「ダメです。とにかく寝てください」

 苦笑した国王は布団の中に潜り込み、代わりにサラにもう少し近づくように言った。
 スツールを少しずらし、国王の元へとにじりよるサラの瞳をのぞき込みながら告げた言葉は、意外なものだった。

「サラ姫、俺は君に黙っていたことが一つある」
「黙っていたこと、ですか?」
「ああ……サラ姫が明日までここに留まるなら良いが、すぐにでも砂漠に旅立つなら、聞いて欲しい」

 真っ白いシーツの上の国王は、先ほどまでの生気を失い、頭を枕に沈めたまま力なく呟いた。

「俺は、もしかしたら……“魔女”を知っているかもしれない」

 息を呑むサラに、国王は口の端を上げてみせた。
 本当は悲しいのに無理やり取り繕うとする、あの笑顔だった。

  * * *

 国王は、隠し切れない悲しみをたたえた瞳で、横たわったまま斜め上にあるサラの顔を見つめている。
 サラは椅子から立ちあがり、ベッドサイドに膝をついた。
 国王が、自分を呼んでいるような気がして。
 先ほどフザケ半分で額に手を触れ、熱をはからされたときより、もっと近くへ。

「サラ姫の瞳の色は……似ている」

 伸ばされた大きな手のひらが、サラの片頬を包んだ。
 その手の熱さが、サラの心に激しい熱を思い出させる。
 サラは、こんな顔をする国王を見たことがあった。
 初めて国王と二人で会ったとき……国王が昔話をしてくれたあのときだ。

「あれは、青い瞳の女だった」

 サラの心臓が、ギュッと縮んだ。
 国王の暗くくぐもった声が、心の琴線に触れた気がした。
 全てを飲み込むような、その想いの名は……絶望。
 弟を凄惨な事件で失ったと告白したときに、国王はその感情を吐露したのだ。
 目の前の国王の気持ちが、あのときと同じように、サラの気持ちにシンクロする。

「何があったんですか? そのひとと……」

 自分以上に悲痛な面持ちのサラに気付き、国王はそのおでこを軽く指で弾いた。
 多少なりとも衝撃から守ってくれる前髪は、もう無い。
 軽くといえど鍛え上げられた国王の太い指は、クロルの細い指で弾かれるのとはレベルが違う。
 サラが思わず「イタッ!」と叫ぶと、国王は本気の笑みを漏らした。

「サラ姫、もしかして嫉妬してくれたのか?」
「えっ……まっ、まさか!」

 鳶色の瞳には再び生気が宿り、日に焼けた顔にくしゃっとシワが寄る。
 豪快な笑い声に、サラは小突かれた額をおさえながら「心配して損した……」と呟いた。
 そういえば、前も同じような展開になって、サラはこの部屋から脱兎のごとく逃げ出したのだと思い出しながら。

「もう国王様、ふざけないでちゃんと話してください!」
「怒ったサラ姫も可愛いぞ」
「もうっ!」

 母親を求める子どものように、国王はサラの頬に触れ、髪を撫でた。
 からかうような笑みを見て、サラはさっきみたいな顔をされるよりはマシだなと、国王のプチセクハラを我慢した。

  * * *

 国王は、いつもサラの近くまで降りてきてくれるけれど、本当は大人だ。
 弱さを見せそうで、スッと隠してしまう。
 それを吐き出せる相手は、デリスなのだろうか?
 それとも、国王を救ったあの銀の髪の巫女だろうか……。

「おっと、ずいぶん時間が経ってしまったな。またデリスに叱られかねん……簡単に言おう」

 ベッドの中で首を傾け、後方にある窓の外を見やると、国王は再びクールで厳格な“国王”の顔になる。
 太い眉をくっと上げ、サラの瞳を見つめながら言った。

「青い瞳と言っても、サラ姫の色とは違う……空の色ではなく、もっと深い湖のような色をしていた」

 サラはそういわれて、指先で自分の瞼に触れる。
 この世界に来てからは、とにかく青い瞳だと言われ続けてきたけれど、ずいぶん長く鏡をのぞき込んでいないので本当の色は分からない。
 水鏡では、瞳の色までは鮮明に見えない。
 しかし、地球にいたときはもっと……。

「あの女のことは、誰も知らない。今となっては、夢だったような気もする」

 国王の話に、サラは集中し直した。
 夢と語りながらも、国王の表情は今まさに心の傷口が開き、生々しい血を流しているように映る。

「いや、俺は確かに出会ったんだ。月巫女が居なければ、夢幻と思いこもうとしていただろうが」

 熱に浮かされたような、焦点の合わない目をしながら、国王は語った。
 同じような台詞を、ルリ姫が言っていたことをサラは思い出す。
 夢のような出会い。
 その言葉の意味することが、サラには分かってしまった。

「俺が前に、精霊の森の神殿へ行った話は、覚えているだろう?」
「はい。覚えてます」
「あの話には、一つだけ嘘があった。いや、嘘ではなく“言わなかった”ことが……」

 国王の見る夢に誘われるように、サラはあの日の記憶を探った。
 王弟から逃れた国王は、精霊の森へ足を踏み入れ、心の闇に打ち勝って神殿へたどり着いた。
 褒美に何か一つ、欲しいものを手に入れられると言われて、国王は月巫女を連れ帰ったのだと聞いた。

「神殿には、二人の巫女が居たんだ。月巫女と、その姉……“太陽の巫女”が」

 その言葉を聞いた瞬間、サラの心臓が激しい痛みを訴えた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 ようやく出せました。最後の重要人物・太陽の巫女さまです。最終章で出てくるなんて遅すぎる……後出しジャンケンみたいな展開ですみませんっ。今までも国王様は、サラちゃんの青い目にぴくんぴくん反応してたのですが、伏線にもならないようなレベルでございました。『太陽と月』の童話もここらへんに繋がってきます。うまく繋がるかは微妙ですが……。あと次回でもうちょい説明ありますが、国王様にはサラちゃんじゃなく本当に好きな人が居たという話でした。好きというか強烈すぎて忘れられないというか。サラちゃんのことは実際可愛がっているし、「あわよくば」(エロ男爵さま風に)という気持ちはありましたが、真剣さは王子たちの一段下になりますね。その辺突っ込んでいただいた読者さまには、納得いただける答えになれば幸いです。
 次回は、太陽の巫女さまのお話をもう少し。あとは、誰かが乱入してきます。



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