喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第五章 砂漠に降る花


第五章 プロローグ ~女神休憩~

2009.08.05  *Edit 

 快調に空を飛び続けたサラは、だんだんとその高度が落ちていくことに気付いた。
 飛びたいという気持ちはあるのに、体は重く翼も追いつかない。
 これは……。

「ガス欠っ……」

 プスプスと音を立てるイメージで、サラはオアシスの雑木林に墜落した。
 ギリギリまでパラシュートのように羽を広げ、木に当たる瞬間に閉じたので、痛みはほとんど無い。
 しかし、今まで消そうにも消えてくれなかった背中の翼は、単なる肩甲骨へと変わっていた。

「うー……これじゃただのセクシーな人になっちゃうよっ」

 イブニングドレスのように破れた背中を、とりあえず長い髪で隠しつつ、サラはもう随分近くに見える王城を目指して歩き出した。
 靴で大地を踏みしめ、木々の香りや葉ずれの音を五感で受け止めながら歩くのは、空を飛ぶのとは違う趣がある。
 とはいえ、サラは空腹と疲労感で、オアシスの散歩を楽しむ余裕などは無かった。

「ていうか、良く考えたらこのまま城下町に入るのは問題アリかも」

 薄汚れてボロボロとはいえ、特徴的な黒い騎士服。
 超ロングになったとはいえ、黒髪とこの顔。
 アレクファンの上級貴族の少女から、トリウム城下町の黒騎士ファンクラブには「サラが実は女だった」ということはバレている。

「つかまったら、ちょっとメンドクサイなぁ」

 普段は女子モテ大歓迎のサラだが、今はまずい。
 雑木林を抜け、人が行き来する街道に出ると、サラは長い髪の頭頂部をなるべく前へと梳かし、有名ホラー映画の幽霊を装った。
 通り過ぎる旅人や住民は、ボロボロの服と顔が見えないほどの長髪、そして「ウラメシヤー」という危険な呟きに恐れおののき、誰も近寄ってこない。

 その擬態がちょっとだけ面白くなってしまったサラの頭には、通りすがりの誰かに食べ物を恵んでもらって燃料チャージするという発想はうまれなかった。

  * * *

 城下町が近づくにつれて、サラは怪しい擬態が返って目を引くと気付いた。
 この町には、自警団が居るのだ。
 彼らに目をつけられて職務質問され、「実は黒騎士でした」とバレては恥ずかしすぎる。
 サラは、なるべく人通りの少ない裏道を進み……そのうち、生来の方向音痴能力を発揮し、気付けば歩きなれた自治区にたどり着いていた。

「ここまで来たら、とりあえず領主館へ寄っていこう。一度着替えて、お風呂入って、ナチルにご飯……」

 サラのお腹はすでに鳴る元気もなく、洗面器のように凹んでいる。
 砂漠の旅では、もっと強烈な飢餓感があったのだが、そこまでは行かない。
 ピークを通り越せば平気になるのに、この中途半端さがやけに苦しい。
 わずかに残る“人間”としての体力を使い、サラは通り過ぎる自治区住民の視線を振り切るように、領主館へ向かい走った。

「着いた着いたよー!」

 木星に到着した人類のように、見慣れた門構えの館に駆け込んだサラ。
 ドアを開けると、天使のように愛らしい少女に出迎えられた。
 長い髪をツインテールに結び、黒いワンピースに白いフリフリエプロンを身につけた、正統派メイド姿のナチルだ。

「サラ様! どうなさったんですか、その髪は……」
「ごめん、詳しい事情は後でっ。まず何か食べさせて。その後お風呂、着替えてもう一回ご飯っ!」

 サラの剣幕に、ナチルは慌ててキッチンからリンゴを呼び寄せる。
 皮も剥かずにジューシーなそれへかぶりついたサラは、歯茎から血が出ることも気にせず一気に完食。
 ちょうど良いタイミングで、ナチルが戻ってきた。

「サラ様、お風呂の用意ができました。着替えは同じもので良いですか?」
「同じのでいいんだけど、ちょっと加工して欲しいの」

 サラはナチルに背中を向け、ビリビリに破れた布地を見せながら言った。

「背中に、これくらいの穴が開くように、切ってもらっていい?」
「はあ……分かりました」

 ナチルが腑に落ちないという表情をしたので、サラは騎士服を持ってきてもらい、切ってもらう場所を説明した。

「じゃあお風呂いただくね」
「行ってらっしゃいませ……あ、そのカツラはどうします? 外していただけたら洗っておきますが」

 浴室へ歩きかけたサラは、ベタな漫才師のようにズッコケる。
 どうやらナチルの中で、サラ=ヅラという認識が出来ているらしい。
 いきなり髪が伸びるという超常現象を、リアリストなナチルに説明するのも面倒なので、サラは論より証拠とアレを見せることにした。

「あのねナチル。驚かないでね?」

 サラは、まず長い髪を持ち上げて、白いうなじと背中を見せた。
 ナチルはそれだけで、大きな目を落っことしそうなくらい見開いている。

「サラ様……一体どんな毛生え薬を?」
「うん、その説明の前に、ちょっと見てて欲しいんだけど」

 破れたのは騎士服と、その下に着ていたインナーのTシャツ、そしてサラの胸を覆っていた下着の紐も切れていた。
 下着が無くても前面側に影響がほとんど無いというのが悲しいのだが、今のサラにとっては楽なことかもしれない。
 もしヌーブラが……と考えそうになったサラは、頭をぶんぶん振って邪念を追い払い、気合を入れた。

 ――いざ、リンゴパワーで……出でよ、白い翼っ!

『プヒッ!』

 出てきたのは翼ではなく、食物繊維の影響で活発になった腸から……だった。

  * * *

 こぢんまりとした湯船に体を沈めながら、サラは独り言を呟いた。

「なんで出なくなっちゃったんだろ、女神パワー」

 先ほどは、とんだ失態を見せてしまった。
 ナチルの笑いを噛み殺した表情を思い出し、サラはじゃぶんと頭のてっぺんまでお湯に浸かった。
 口からぷくぷくと空気を吐き出すと、もずくのように水面を覆う髪の毛が揺れる。
 重たいし、邪魔だし、見るだけで気持ちが悪い。
 ショートカットと節水シャンプーの素晴らしさを再確認しつつ、サラはお湯から上がった。

 脱衣所には、サラの指示通りに背中が大きくVの字にカットされた騎士服と、同じように切られたシャツが置いてあった。
 単にカットしただけで、特にボタン等は無いため、簡単に開いたり閉じたりする。
 それを着込み、脱衣所のドアを開けると、すぐにコンソメスープの良い香りが漂ってきた。
 長い廊下を走りぬけ、ダイニングに飛び込む。

「ナチル、ありがとっ! イイニオイ……」

 用意されたのは、熱々のラザニアとスープに、野菜サラダ。
 肉もチーズもたっぷりだ。
 サラが頼んだのは「高たんぱく・高脂質・高カロリー・そこそこビタミン」という、ナチルにとっては呪文のようなリクエスト。
 ナチルはその卓越したメイド力によって、ご主人様の意味不明な台詞の行間を読みとってくれた。

 がっついて舌を火傷しそうになるサラに、はしたないですよとデリスの娘発言をしつつも、オレンジジュースを注いでくれる優しいナチル。
 本当は王城で正式な魔術師として暮らしても良いはずなのに、アレクのためにこの領主館に残ると言った。
 サラは一瞬「もしや、ナチルはアレクのことを……」と考えたが、何も言わずともナチルは「それだけはありません」と非常に心外といった苦々しい表情で告げたので、純粋な善意なのだろう。

「ほーひへは、はれふは?」

 サラの質問を正確に理解する賢さは、まさにクロル並だ。

「アレク様は……王城へ行かれております」

 必要以上のことを言わない聡明さも、サラにとって好ましいものだった。
 この街に戻ろうと思ったときから、分かっていたことだけれど……サラは自分のパワーを満タンにしてから取り掛かりたかった。
 目の前のエネルギー源をすっかり胃の中におさめ、大好きなミルクティーとシフォンケーキを出してもらいながら、サラは詳しい説明を聞いた。

 できるなら、聞かずにいたかったその話を……。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 若干スピードダウンして、ぼよよんモードなプロローグとなりました。サラちゃん、美少女で女神様なのに……ごめんね、こんな変な子にしてしまって。女神様だって、人間だもの。出すものは出すのだということです。あとは、メイドキャラってやっぱファンタジーの王道……ナチルちゃんとイチャつかせたかったので、この展開にしました、という訳ではないのです。本当ですよー。そして、ナチルちゃんとご主人様のラブは全否定しておきました。ナチルちゃんの好みは……まあこの話もそのうち出てくるということで、お楽しみに。今回のネタ補足は「着いたー~木星」ですかね。こちら『たま』のさよなら人類という曲からです。『りんごをかじると血が出る』は、昔の歯磨き粉のCMから。あれ衝撃的でした。
 次回は、王城に向かう前にちょこっとナチルちゃんからの説明があり、お城に移動して、いざ国王様の元へ。



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