喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第四章 女神降臨


第四章(23)女神の正体

2009.08.01  *Edit 

 最初にそれを見つけたのは、トリウム軍の騎士だった。
 闇を押し戻し、変わらぬ姿で復活した太陽の光を受けてきらめく体。
 背中から生えた羽は純白で、長い黒髪をまとわりつかせている。

 澄み切った青空を背景に羽ばたくその姿は、どの家庭にも必ずある絵画そのもの。
 この世界の空を守る『女神』だった。

「――女神だ!」

 叫んだ声が、荒野を吹き抜ける風に乗り、仲間たちの目を覚まさせる。
 暗闇に包まれ、一度は意識を失った彼らが次々と目を開き……そこに奇跡を見た。

「女神……」
「ああ、女神だ……」

 太陽を背負う女神の体は光り輝き、人間の直視を許さない。
 あまりの眩しさに目を極限まで細め、畏怖に体を強張らせ……それでも人々は、一瞬たりとも目を逸らせなかった。
 女神の放つ光を浴びるにつれ、彼らの心からは暗い感情が抜け落ちていく。
 先ほどまで心を覆い尽くしていた憎しみも、悲しみも、苦しみも……全てが涙とともに抜け落ちて、残るものは光に溢れる未来だった。

「これは、夢か……?」

 騎士たちの中心に居たシシト将軍は、溢れる涙を拭いもせず、ただ空を見上げた。
 常に意志の強さを見せていた瞳は、今はただ空の色だけを映す。
 後方から聞こえる軍馬のいななきが、夢では無いのだとメッセージを伝えてくるようだ。

「夢だったら、もったいないよね」

 隣にいたクロルも、空を見上げながら涙を流していた。
 まだ隣に寝転んでいるリグルを蹴り飛ばして「早く起きなよ」とささやく。

「起きてるっつーの!」

 ちょっと腰が抜けただけだと、情けない言い訳をしつつ、リグルは四つんばいのまま顔を上げる。
 遠く上空にいる女神と、目が合ったような気がした。

「今、女神が俺のこと見たっ」
「そんなわけあるか」

 突っ込んだのは、カリムだった。
 女神の存在を気にしつつも、聖剣の柄を握り締め周囲の確認を怠らない。
 トリウム軍全員がぼんやりと立ち尽くす中、それ以外のことを考えているのはカリムだけだった。

 カリムは、先ほどまでの暗闇の痕跡を探していた。
 トリウム軍の先頭に位置していたカリムには、見えていたのだ。
 太陽が陰るそのとき、木にくくりつけられ磔にされたサラの足元から漆黒の靄が浮かび、サラを覆いかき消してしまうのを。
 サラが闇に飲まれた……いや、サラが闇を吸い込み飲み込んだ……カリムの目にはそう映った。

「くそっ……サラ!」

 女神なんて要らない。 
 この世界からサラが消えるくらいなら……。

「カリム君の目は、節穴だねえ」

 クロルは、空を見上げたまま笑った。
 この生意気な王子の皮肉にはもう慣れたはずだったが、このときばかりは激情を抑え切れなかった。

「てめえっ!」

 詰め寄りかけたカリムに、クロルは涙の跡を隠さぬまま、天を指差してみせた。

「ちゃんと良く見てみたら? あの女神様、変な格好してるから」

  * * *

 天高く飛んだサラは、立ち上がり自分を指差す人々を見下ろしていた。
 時おり風に煽られ、視界がぶれる。
 きっとヘリコプターに乗ったら、こんな感じなのかもしれないと思いながら、サラは大事な人を探した。
 サラが望めば、双眼鏡を操るように視界が勝手にズームアップしてくれる。
 自分でもまだ半信半疑のまま、サラは「女神能力って本当に便利ねー」と呟いた。

 サラは、まずトリウム軍の状況を探った。
 存在感のあるシシト将軍がすぐに見つかり、その近くにいるクロル、なぜか四つんばいになっているリグル、そして……何かを求めるようにうろつくカリムが見えた。
 サラの記憶が再び巻き戻され……最後にサラの名を呼んだのが、カリムだったと気付いた。
 最後の最後まで闇に立ち向かい、自我を失わなかった。

「ありがと、カリム」

 サラは、ひときわ大粒の涙を零した。
 呟きは風の精霊となり、涙の宝石を包みながらカリムの元へ飛んだ。
 突然女神から宝石を贈られたカリムは、びくりと体を硬直させ天を見上げる。
 手のひらに輝く石を乗せ、呆気に取られたように口を開けるカリムに軽く微笑みかけると、サラは逆方向を向いた。

 ネルギ軍は、まだダメージから回復しきっていない。
 人の体で、あれだけの闇を抱え込まされたのだから、当然といえば当然だろう。
 特に“弾”と呼ばれた老人たちは、倒れたまま起き上がれない者がほとんどだった。

「彼らを、助けて」

 サラの願いを受けて、光の精霊たちが歓喜の声をあげた。
 あたたかい光の渦が老人たちの体を包み込み、全ての傷を塞いでいく。
 少し前に目覚めたキール将軍は、荒野に座り込んだままその奇跡を見守っていた。
 何者かに殴られたらしい自分の左頬の痛みも、こぼれた光の中でいつしか消えていった。

 サラの視線はより遠くへ移る。
 廃墟の街の奥にたたずむ、一軒の屋敷へ。
 まばたき一つで、石造りの建物がまるで透明なアクリルのように透き通った。
 戸惑いながらも外へ出ようとする魔術師たちは、まさに蟻の巣から出てくる蟻のように見える。
 その中には、おばちゃんたちの手引きで解放される少女たちの姿もあった。

 たった一つだけ、動かない体を見つけ……サラは一度目を閉じた。
 緋色のカーペットの上で、目から血を流して倒れているその男は、すでに肉体も魂も冥界に旅立っていた。
 サラは両手を合わせ、冥福を祈った。

  * * *

「もっと、遠くも見たい……」

 サラはより高く飛び上がると、少しずつ増えゆく緑の向こう……トリウム王城を見つめた。
 さすがに女神パワーにも限りがあるらしく、詳細は分からない。
 ただ、サラは漠然と感じ取った。
 あの城で、何かが起きたことを。
 サラの心の動揺が、女神の能力を一気に不安定にさせた。

「――きゃあ!」

 突然翼が閉じ、浮力を失ったサラは地上へと一気に急降下した。
 真下から、ジュートの怒声が響く。

「サラ、飛べっ!」
「――っく!」
「早く!」

 大地に激突する寸前で、パラシュートを開くように、固く閉じていた翼が広げられた。
 しかし羽ばたくまでは行かず、サラはそのままジュートの腕の中にズポッと落ちた。

「ギャッ!」
「いてぇ……」

 ちょうどお姫さま抱っこの姿勢で、ジュートを見上げたサラ。
 固い腕にぶつかったお尻と背中が痛いけれど、なんとか無事だったようでホッと一息つく……暇も無く、怒り心頭で睨みつけるジュートの瞳を直視してしまった。

「てめえ……飛ぶなら心を乱すな! お前の力は万能じゃないんだぞ!」
「うっ……ゴメン……」

 何度か見た、野生の獣のように感情をむき出しにするジュート。
 ブリザードのように襲い掛かる怒りの中に、隠しても隠しきれないある感情を見つけたサラは、顔を赤くした。
 今さら、気付いてしまった。
 ジュートが、自分の全てを許していることに。

「ふふっ」

 サラは父親に甘える娘のように、ジュートの胸に頬を摺り寄せた。
 ジュートは、ずっと私を待っていてくれたのだ。
 守護者として、人間の私を見守りながら……。

「人間の……人間……ん?」

 ガバッと顔を上げ、目の前の素敵過ぎる恋人を見つめながら、サラは自然と湧き上がってきたその言葉にツッコミを入れた。
 “人間の”私って、いったい……?

「あのう……もしかして私って、人間じゃ無いの?」
「お前は、自分のことを人間だと思うのか?」

 クールな声色で切り返されて、サラは胸の中に何かがストンと落ちたのを感じた。
 思い起こせば、小さい頃からいろいろな人に『サラちゃんって変!』と言われ続けていたような……。
 その理由は、てっきり母のキャラや、五人のパパたちのせいだと思っていたけれど……。

「じゃあ、私って何者?」
「話せば長くなるけど、いいのか?」
「――良くないっ!」

 サラは一度空を見上げ、太陽の位置を確認した。
 日が明るいうちに、トリウム王城に戻りたい。
 もう一度高く飛び立とうと羽を開くついでに、サラはジュートの体にギュッと抱きつくと、その緑の瞳を堪能するように熱く見つめた。
 日に焼けた太い首に指を絡ませ、少し砂がついた頬に軽くキス。
 「場所が違うだろ」と、ムッとしたように形良い眉を寄せるジュートに、サラは「次に会えたらね」とウインクし、ふわりと宙に浮かび上がった。

「相変わらず、抜けた女だなあ」

 飛び立つサラのお尻のポケットがついに破れ、キラキラと“女神の涙”をこぼしながら舞い上がる姿を、ジュートは「もったいねー」と苦笑しつつ見送った。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 どんな風にオチをつけようかと悩んでしまう回でした。サラちゃんの奇行をどこまで膨らませようかと……結局はカワイイレベル(?)に抑えてしまいました。女神様になっても激変しない感じがいいかなーと。ジュート君もそれほど変わらず。100%人間な仲間たちはびびりまくりです。人間の中でも一番動じてないのは、やっぱりクロル君でした。一番動じてるのは腰抜けたリグル君。本格的な犬化が進んでおります。カリム君は女神様よりサラちゃん愛が勝り……ごめんよー。うんキャラットの宝石で許してちょんまげっ。そして今回は、ついにリアルタイムの死人が出てしまいました。死亡フラグってのをガッツリ立てておいたのですが、申し訳ない。ちゃんと供養してあげようと思います。
 次回、第四章最終話です。女神サラちゃん、皆にあいさつまわり。最後の戦いへの決意とともに……。



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