喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第四章 女神降臨


第四章(6)和解

2009.07.15  *Edit 

 手枷をはずされたサラとカリムは、クロルと一緒に城内を軽く見学した。
 つい先ほど、負傷兵たちを見てしまっただけあって、たいていのことでは動揺しない。
 城内の中庭で牧草や野菜が育てられ、それを食べる馬と家畜がいて、家畜を食べる人間がいて……そんな食物連鎖サイクルに、自分たちがぼっとんと落っことしたモノが使われていても。

「クロル王子は、ここ初めてなんだよね? リグル王子は、この砦に来たことあるの?」
「うん、何度かね。定期的に、戦死した騎士に祈りを捧げる儀式があるんだ。リグル兄は単純だから、その度に自分が討って出るって暴れて大変だったみたい」

 発言したクロルも、聞いていたサラとカリムも、その絵が浮かんで笑った。
 監視兼案内係の騎士たち数名も、会話を聞きながら苦笑する。

「この砦の騎士たちにとって、リグル兄は希望だ。唯一、自分たちの気持ちを分かってくれて、一緒に戦ってくれる……」

 サラは、繋がれた右手を気にした。
 手を洗えないかったという心苦しさから、繋ぐことをためらったけれど。
 こうしてクロルの手のひらが熱くなるときに、自分の手が役に立つなら、いくらでも繋いであげたい……そう思った。

「そうじゃないって、ちゃんと伝えたら?」
「サラ姫……」
「戦うって、そういうことだけじゃないでしょ?」

 クロルの十八番を奪ったサラのウインクに、クロルは破顔した。

  * * *

 会議室に戻ったサラたちは、コの字型に整然と並べられた机の一画、お誕生日席に座った。
 先ほどまでの緊張感が戻ってきて、サラは背筋を伸ばす。
 サラたちが席を外している間に仮眠を取ったリグルが、すでに燃料満タンといった表情でサラに微笑みかけ、間に入ったクロルにあっさり邪魔された。

 一人、ポツンと置かれた講師席ポジションの机にいるのは、シシト将軍。
 じゃれ合う王子たちを、まるでわさびのきき過ぎた寿司を食べたような顔で見やる。
 リグルという甘い中トロと、クロルというわさびを、両方味わっている……まさに清濁併せ呑むといったところか。
 本当はどっちも『清』なのにねと、サラは心の中で笑った。

「では、今から緊急会議を行う。議題は、使者殿の処遇と今後の戦略について――」
「あー、その前にちょっといい?」

 鬼将軍の言葉を遮ったのは、クロルだった。

「クロル王子っ!」
「固いことは抜き。今日は本音で言い合おうよ。騎士の皆さんたちもね?」

 目の前のやりとりにデジャブを感じたサラは、はたと気付く。
 なんだか王城で良く目にした、国王と侍従長のようだ。
 もしそうだとすると……きっと二人は、仲良くなれるはず。

「まず僕から言わせてもらうけどさ……この砦の水が枯渇してから、画期的な資源循環システムを考えたのって、誰だっけ?」

 立ち上がったクロルは、鼻から思い切り息を吸い込んで深呼吸すると「うん、匂わないね」と言った。
 過去、この砦の中がどんな匂いに包まれていたか……サラは、想像しようとして止めた。

「あと、補給部隊編成して、武器と馬を限界まで注ぎこんで、砦補強の人工手配して……その予算組んだのって誰?」
「それは……」
「うん、文官だよね? 僕も手伝ったけど。あと、許可出したのは国王。その元は国民の税金」

 騎士たちが見守る中、シシト将軍は憎憎しげにクロルを睨みつつも、軽く頭を下げた。
 ふさふさに見えた白髪混じりの黒髪のてっぺんが、若干薄くなっている。
 溜飲が下がったのか、クロルは皮肉げな笑みを引っ込めて、淡々と告げる。

「ここに留まるシシト将軍も、騎士たちも、僕は尊敬してるよ。ただ、君たちがここに居ない人間を無下にするのは間違ってる。僕たちだけじゃなく、国民が皆何かを失って苦しんでいる。国民たちにとって、たまには息抜きのお遊びも必要だよ? それが、政府の吸引力維持に繋がるならなおさらね」

 限界まで見開かれた大きな瞳が、澱みなく紡ぎだされるクロルの苦言を受け止めていく。

「シシト将軍は、この場所に長く居すぎたのかもしれない。自分の意思を機械的に実行するだけの部下を何人揃えても、意味が無い。戦いに勝てないのは君たち自身のせいでもあるんだよ。状況は常に変化するんだ。情報収集を怠って勝てると思う? まずはしっかり情報を集めて、内容を見極めて、柔軟に対応しなきゃ。ね、リグル兄?」

 唐突に話を振られたリグルが、オートマチックにうなずいた。
 左右に居並ぶ騎士たちは、図星をつかれたことに顔色を赤くしたり青くしたりしながらも、一様にうつむいている。
 シシト将軍だけが、真剣な面持ちでクロルを見つめていた。

「僕は……ずっとあの王城で戦っていた。僕なりにやれることはやってたつもりだった。それを“間違っている”と、ぶち壊してくれた人がいるんだ」

 クロルの視線は、いつしかすぐ左隣に居るサラに向けられていた。
 愛しむような、包み込むような、やわらかい視線。
 サラの白い頬が、一気に色を変えていく。

「シシト将軍、まずは一度頭をリセットして。ネルギ人とかトリウム人とか関係なく、一人の人間として彼女を……サラ姫を見て欲しい。細かい話は、それからだ」

 シシト将軍の目が、サラを捕らえた。
 威嚇するようなその目から逃げず、真っ直ぐ見つめ返すと、サラは一度頭を下げた。

  * * *

 言いたいことをある程度言い終え、満足気な笑みを浮かべて着席したクロルの代わりに、リグルが立ち上がった。

「サラ姫の手枷と今のクロルの話で、事情はなんとなく分かった。俺からも言わせてもらうが、サラ姫はトリウムの救世主だ。もちろん俺も救われた。国王も、エール兄も、クロルも、ルリも、バルトも……病んでた奴ら全員だ。国民だって、サラ姫のおかげで明るさを取り戻した。そもそもサラ姫は最初、一市民として武道大会に参加したんだ。グリード、ちゃんと説明してやれ!」

 グリードは、サラが男装して武道大会に出場し、優勝したことを語った。
 正々堂々と戦った結果自分が負けたことも、その後の犯人探しについても。
 犯人がシシト将軍とも面識のある騎士だったことに、会場はざわついた。

 サラは、左隣に座ったカリムをチラリと見た。
 この砦についてからまったく崩していない、ポーカーフェイスがそこにあった。
 シシト将軍の眼光にやられ動揺しっぱなしのサラは、そしらぬ振りをして机の下の足を踏んづけてやった。
 カリムがサラを睨みつけたタイミングで、右隣のクロルが再び立ち上がる。

「じゃあ、その後の話は僕からするね。優勝したサラ姫は、国王の前で身分を明かし『和平』を望んだ。国王も一度は承諾したけれど、その後が大変だったなー」

 クロルによる『サラの武勇伝』は、一時間にも及んだ。
 時系列で整理されたエピソードと、合間に補足されるクロルの解釈が、あたかもその現場を見てきたように臨場感タップリで語られた。
 ただし、エールに呪いをかけた魔女の正体や、すでに把握しているだろう緑の瞳の侵入者についてはキレイに省きつつ。

「というわけで、王城は再び平和を取り戻しましたとさ。おしまい!」

 話が終わったクロルが、サラの頭をよしよしと撫でながら着席する。
 シシト将軍も、騎士たちも、自分たちの世界とは次元の違う『戦い』の物語に、黙りこくっていた。
 バルトの怪我が治ったエピソードでは驚き、自分たちが願いを託したリグル王子が次期国王に決まったシーンでは歓喜の笑みを浮かべ、赤い花の真実と侍従長、月巫女の末路に吐息を漏らした。

 サラは、自分に集まる勇猛な騎士たちの視線に耐え切れず、顔を真っ赤にしてうつむいていた。
 あらためて人から聞かされると、いかに自分が危ない橋を渡ってきたかを自覚させられる。
 足を踏みつけられてもそ知らぬ顔をしていたカリムが、話が佳境に入るにつれてみるみる眉を吊り上げていき……最後は、サラの足を容赦なく踏み返してきたけれど、サラはその足の痛みを享受した。

「あっ、今聞いたことは内緒ねっ。特に、サラ姫が身代わりの姫だってことは」

 思い出したように付け足したクロルの声に、サラを凝視していたシシト将軍が動いた。
 静かに椅子を引き立ち上がると、サラの心を見透かすような強烈な眼光で、サラを睨みつけた。

「使者殿……いや、サラ姫」
「ハイッ!」

 立ち上がろうとしたサラを、大きな手のひらで制する。

「あなたのその左手の包帯は、魔術で傷が治せないからなのですね?」

 意外な質問に、サラは戸惑いつつも小さくうなずいた。
 無意識に、薬指だけに薄く巻きつけられた包帯をさする。
 すでに傷はほとんど塞がり、痛みも感じない。
 しかし、突っ込みどころ満載の話を聞いた後でそこに食いつくとは……やはりシシト将軍は目の付け所が違うなと、サラは妙に感心した。

「分かりました」

 シシト将軍は騎士たちの後ろを通り過ぎ、サラの元へ歩み寄った。
 間近で見るシシト将軍の肌は荒れ、目の下には黒いクマが現れている。
 疲れた顔……素の表情を、初めて見せた気がした。

 砦の外壁には触れないようにと、入城前にクロルから念を押されていたことを、サラはなんとなく思い出した。
 甚大な魔力を持つエールと違って、騎士であるシシト将軍が張り続けている結界はもろく、サラの手で消えてしまう可能性があるという。

 シシト将軍は、サラの椅子の背もたれに手をかけ、片手で簡単に百八十度回す。
 サラと向かい合う形になると、その前に跪いた。
 瞬きする間に、かさついた大きな唇が右手へ触れて……サラの心に不敵な笑みの残像を残すと、何も言わず元の席に戻ってしまった。
 頑固で意地っ張りな将軍なりの謝罪だった。

 クロルがぶーぶー文句を垂れる中、サラは次々訪れる騎士たちに、右手を貸し出し続けた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 やばい。予定の半分しか進まなかった……。出だしはお下品でスミマセン。いや、下品なんかじゃなく大事なことですから! ちなみにおトイレは男子用ですが、個室だったのでOKでした。その後はサラちゃん武勇伝披露の巻。本当はもっと各エピソード並べたかったけど、それだけでかなりのボリュームになっちゃうのでガッツリ削りました。説明要員としてクロル君連れてきて良かったー。しかし第三章、五十話分か……。この間にサラちゃんはずいぶん成長しましたが、作者はほぼ変わりなし。もう今年が半分過ぎたってことに衝撃。書き始めたのは、うららかな春の日じゃった……夏中には絶対終わらせるっ!
 次回は、サラちゃん今度こそ活躍します。クロル君の忘れ物ネタも。あまりギャグで遊ばず進めなければー。



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