喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第三章 王位継承


第三章(25)つかの間の逢瀬(前編)

2009.06.09  *Edit 

 夢を見ているのではないかと思った。
 自分にとって都合の良すぎる、幸せな夢を。

 サラは一度目を閉じ、再び開ける。
 大丈夫、まだ感覚は残っている。
 小さなランプの灯りだけが頼りだが、この室内で起こっていることを把握するくらいならできる。

 ――あの人が、ここにいる。

 涙でぼやける視界の中に、閃光が走ったような気がした。
 サラにも見えるくらい強い、光の精霊の束。
 盗賊の砦で見た、あの光だ。

 どさりと何かが床に落ちるような音と同時に、光は消えた。
 再びサラの視界は暗く霞み、かすかな灯りに頼らざるを得なくなる。
 唯一通常の感覚が残っている両耳が、心地よい音色を拾い上げた。

「よお、サラ。危ないとこだったな」
「バカ……」

 嬉しいのか、悲しいのか、悔しいのか、サラにも分からなかった。
 ただ、溢れる涙が止まらなかった。

  * * *

 ジュートのことで心が埋め尽くされる前に、サラは確認しておかなければと、懸命に言葉を発した。

「ね……2人は、だいじょぶ……?」

 高さのあるベッドに寝転んだサラからは、床に倒れているであろう2人の姿は見えない。

「ああ、ちょっと気を失わせただけだから、すぐに起きるだろ」

 ジュートの言う”ちょっと”がどの程度なのか分からないが、命に別状は無いだろう。
 ホッと息をつくサラの瞳に、深く澄んだ緑色が飛び込んできた。

 いきなり、至近距離っ!

 その瞬間、サラの心拍数は、三分間走直後を越えた。
 もしも体が動かせるなら、ベッドの端までゴロゴロと転がって、壁と床の隙間に落ちていたかもしれない。
 ジュートはベッドに寝転んだサラの脇に腰掛けると、斜め上からサラを見下ろしている。

「サラ、お前何もされてねーだろうな?」

 そう、この瞳だ。

 闇の中でもくっきりと光輝く深い緑。
 切れ長の目にかかる、瞳と同じ色の柔らかい前髪。
 少し日に焼けた精悍な表情に張り付いた、皮肉げな笑み。

「うん……ジュート……私は、大丈夫」
「つかお前、簡単に俺の名前呼んでんじゃねーぞ?」

 その台詞に、サラの顔からは血の気が引いていく。

 ジュートの名前は、特別な名前。
 サラだけが教えてもらった……。

「ごめんっ……」
「バーカ、嘘だよ。もっと早く呼べっつーの。罰としてお前しばらくこのままね」

 えっと呟くサラの唇は、もう1つの唇で強引に塞がれた。

  * * *

 柔らかいベッドの上で、両腕を拘束されたまま、サラはただ目を閉じていた。
 淡いランプの灯りの中、聞こえるのは2つのかすかな吐息。
 ときおりギシリと鳴るベッドのスプリング。
 サラの服と、ジュートの服がこすれあう衣擦れの音。

 サラの短い髪を、細い首筋を、骨ばった背中を撫でていく、大きな手のひら。
 そして、唇からは、絶え間なく流れ込み続ける情熱。

 サラは、目を開けてしまうのが怖いと思った。
 これがもし夢だったら、神様は残酷だ。
 もしも夢だとしたら、どうか醒めないで。

「サラ……」

 低く掠れた声に呼ばれ、サラは恐る恐る瞳を開いた。
 睫に絡みついた涙が雫になって、こめかみの脇を流れ落ちていく。
 その涙を、少しかさついた熱い唇が掬い取る。
 そのままこめかみへ、頬へ、そして先ほどエールに痕をつけられた部分へと、唇は移動していく。

 皮膚感覚が少しずつ戻ってきたサラは、くすぐったさに少し微笑んだ。
 笑顔のサラを見つけて、ジュートも微笑む。

「ジュート……会いたかった……」

 声を振り絞ったけれど、麻痺した体では小さなささやきがやっとだ。
 でも、こんなに近くにいるこの人は、ちゃんとその声を拾ってくれる。

「ああ、俺もだ」

 その視線は、とろけるように甘くて。
 サラの思考は先ほどまでと裏返り、もう瞬き一つしたくないと思った。
 この手が動くなら深い緑の髪をかきあげて、この瞳をもっと近くで見つめたいのに……麻痺した体がもどかしい。

 サラは、ささやかなお願いを伝える。

「腕の紐……解いてもらえる……?」
「おっと、そろそろ時間かな」

 ――なにいっ!

「残念だけど、そう長居もできなさそうだ。お前の顔見れられて良かったよ。じゃなー」
「ちょっ……待って!」

 サラは、火事場の馬鹿力というものを、生まれて初めて発揮した。
 拘束されたままの手と違って、自由に動く足の片方がドライブシュート並にうねり、ベッドから降りようと背を向けたジュートのお尻にヒット。

「いてえ……」

 不機嫌そうにサラを睨みかけたジュートだったが……少し腰を屈めると、ニヤッと笑った。
 薬のせいで鉛化した足は、蹴り上げた角度のまま戻って来ない。
 サラのワンピースは、太ももまでめくりあげられ……。

「ふーん。お前いっちょまえに、黒い下着なんてつけ」
「バカァッ!」

 サラのスカートの中を覗き込んだジュートの顔に、もう片方の足がタイガーショット並の強さでクリティカルヒットした。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 うなぎは関東風に、一度ふっくら蒸してから炭火でじっくり焼き上げてと……。あっ、うなぎの肝吸いね! おまちどおさん! うん、苦い。今までで最強の苦さ。でもさっきまでベタベタに甘いミカン缶汁飲んでたから、中和されてちょうどいい……はー。一切話の進まない回でした。というか、ジュート君はサラちゃんのピンチを助けて、ちゅーして、役得すぎです。もっと蹴り入れてもいいくらいか。補足ですが、ドライブシュート&タイガーショットとは、キャプ○ン翼という昔のサッカー漫画の必殺技です。たぶんかなり痛いと思う。あとサラちゃんが履いてた下着は、例の”必殺下着人シリーズ”の1人……1枚です。もちろんヒモパンです。「シュリンッ!」と音も無く紐が解かれる日は……来ません。この話R指定NGですから。
 次回、ジュート君とのつかの間の逢瀬終了。次に会えるのは……いつかなー。(作者遠い目)可哀想なマリオネット・エール君もそろそろ起こさねば。



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