喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第三章 王位継承


第三章(5)エール王子を覆う影

2009.05.20  *Edit 

 図書館の壁にかけてある時計を見ると、夕食の時間まではまだ少し余裕があるようだ。
 エール王子と会えるなら、早めに会ってしまおう。

 サラは、図書館入り口近くの壁に寄りかかり、本を読みながら待っていたコーティに声をかけた。

「コーティ、お待たせ!」

 よほどその本に夢中になっていたのか、コーティはサラの声に飛び上がって驚いた後、恥ずかしそうに顔を赤らめながら本を背の後ろに隠した。
 その落ち着きの無い態度が今までとは違いすぎて、サラは気になった。

「ん? 何の本を読んでたの?」
「いえ……サラ姫様にお見せするようなものでは……」
「あっ、怪しいなあー。見せて見せて!」
「サラ姫様、これは、本当にちょっと……」

 いくら力の強い魔術師でも、黒騎士サラのスピードに勝てるわけがない。
 逃げようとするコーティの前に立ちふさがり、フェイントをかけて背中側にくるりと回りこんだサラは、その本の表紙を見て……一気に脱力した。

 コーティの指の間から見えたのは、サラの良く知る人物。

 非常にうさんくさい、その笑顔は……


「ゴメンナサイ、私……ファース様のファンなんですっ!」


 どうやら、転写イラスト集『魔術師ファースのすべて~レジェンド・オブ・ファース~』は、この図書館でも人気の1冊らしい。
 コーティは「決勝戦では、サラ姫様のこと応援できませんでした、申し訳ありません!」と、まったく必要の無い懺悔をした。

 * * *

 今向かっているのは、国王の居るフロアにある執務室。
 警備の騎士や魔術師に、いちいち微笑んで王女な会釈をしつつ、サラたちは進んだ。
 ファースのことをカミングアウトしたコーティは、何か吹っ切れたようだ。
 今までの控えめな態度とうってかわって、サラに積極的に話しかけてきた。

「あのファース様と”互角”に戦ったサラ姫様のことは、本当に尊敬しております」

 あくまでも、サラが勝利したということは認めたくない口ぶりだ。
 彼女も実は、大会に出場していたそうだ。
 残念ながら予選で敗退してしまったが、良い経験になったとコーティははにかんだ。

「予選の試合から、ファース様は他の参加者とは違いました。あの軽やかな身のこなしは天翔る神馬のごとく……」

 その後も延々と続くのは、いかに魔術師ファースが強くて、優しくて、カッコイイか……。
 サラが乙女の妄想でお腹いっぱいになった頃、2人は目的地に到着した。

「私はまた、こちらの廊下でお待ちしておりますね。お仕事中ですので、その点ご配慮くださいませ」

 サラはうなずくと、重厚なドアを開けた。
 すぐ近くには王の間があるこの部屋で、1人政務をこなしているのは、第一王子エールだ。
 風の魔術で、サラが来ることは知らされていたらしい。
 サラがひょっこり顔を覗かせると、エールは無表情ながら「どうぞ」と声をかけてきた。

 執務室と聞いて、サラはジュートの部屋を思い出していた。
 薄暗く雑然とモノが置かれた棚。
 大きなデスクに、うず高く積まれた書類。
 そのイメージは、エールの部屋でガラガラと崩れ去った。

「ずいぶん広くて、キレイな部屋ですねえ」

 きょろきょろと、好奇心いっぱいで明るい部屋の中を見渡すサラ。
 自分に与えられた客間よりひとまわり小さい程度の広さで、人1人が作業をするには充分なスペースだった。

 壁に並ぶのは、ファイルに閉じられ番号をふられた膨大な書類。
 デスクの上には、小さなファイルケースが置いてあるものの、その他には何も無い。
 デスクとは背の低いパーテーションで仕切られた向こうには、商談用スペースだろうか、ソファーとローテーブルが見える。
 窓辺に飾られた細身の一輪挿しと花も、シンプルでセンスが良い。

 ジュートの部屋と違って、隙が無い部屋だ。
 この部屋は、エール王子の性格を現しているのかもしれない。
 そうだとしたら……手強いかも。

 エールは、手にしていた羽ペンをデスクに転がすと、落ち着きのないサラにソファへ座るよう促した。
 ドレスのシワを気にしつつ、サラはソファに腰掛ける。
 エールが正面に座ると同時に、カップ&ソーサーがふわふわと飛んできて、サラとエール王子の前に舞い降りた。
 中には当然、熱々の紅茶が入っている。

 やっぱり魔術ってすごいと、サラは感動した。
 ナチルは「お食事やお茶は手を動かしてこそ心がこもるのです」と、サラの前でこの手の魔術らしい魔術を見せてくれなかったが、これぞ地球人サラの思い描く魔術だった。

「エール王子、スゴイです! お茶美味しいっ」

 ごくごく簡単な魔術に興奮するサラのことを、エールは軽く珍獣を見るような目つきで見つめた。

 * * *

 サラがお茶のお代わりをねだると、エールは軽く引き受けてくれた。
 その間、会話は一切無い。
 いつの間にかエールは、机の上に転がしたはずの羽ペンと書類を魔術で取り寄せ、サラにまるっきり気を使わずに、難しそうな表情でペンを走らせている。

 サラは、自分がこの人物からあまり好印象をもたれず、むしろ警戒されていることを感じていた。
 状況を打開するには、自分から話しかけなければならないが、いったい何を話せばよいやら。

 日本でよくやるように、お天気の話でもしてみるか。
 しかし、この国では暑さ寒さもあまり変わらず、時々雨が降る程度だし。
 突然「今日もこの国は良い天気ですね」と言ったところで、変人扱いされそうだ。

 頭を悩ませたサラは、1つ良いことに気が付いた。
 さっきお腹いっぱいにさせられた、あの話。

「あの、エール王子は、この国の筆頭魔術師と伺いましたが……」

 ようやく顔を上げたエールは、涼やかな一重瞼の瞳でサラを見つめた。
 長い黒髪の後れ毛が、はらりと頬に落ちる。
 クロル王子やルリ姫のように特別な美形でもなく、リグル王子のように愛嬌も無いけれど、なぜか惹きつけられる瞳だった。

 瞳の魅力は、リコやコーティ、そしてグレーの瞳の魔術師にも感じたもの。
 これが、力のある魔術師の証拠なのだろうか。
 だとしたら、ジュートの緑の瞳は……。

 ピンク色の思い出に浸りかけたサラは、目の前の射抜くような視線に背筋を伸ばす。

 そうだ。
 ぼんやりしている場合じゃない。

「私が対戦した魔術師ファースさんとは、面識があるんでしょうか?」

 どうやらサラは、地雷を踏んだらしい。
 エールはサラの言葉に、明らかに苛立ちの表情を浮かべた。

「サラ姫は、この国の魔術師のことを、何も知らないようですね」

 昨日から言われまくっている、その台詞。
 なんだかサラは、自分が単細胞生物のように思えてきた。
 サラが正直に「知りません、教えてください」と言って頭を下げると、エールは敬語を止めて言った。

「筆頭魔術師とは、指名制だ。彼は、俺の魔術の師だった。国民なら誰もが知っていることだ」

 言葉尻に滲む、ほんのりと温かい感情に気づき、サラはエールの瞳を見つめる。
 それはあのお別れの日、魔術師ファースに見た郷愁とも通ずる感情。
 もしかしたらこの2人は、相当仲が良かったのかもしれない。

 しかし、次の言葉でエールの雰囲気は180度変わった。

「だが……彼は俺を裏切った」

 ギリッと奥歯をかみ締める音が聞こえた気がした。

 * * *

 あまりにも苦しげなエールの声色に、サラは思わず尋ねていた。

「一体、何があったんですか?」
「それは、君には言えない」

 エールが、強い感情をあらわにしたのはその時だけ。
 その後は、サラの苦手な”うわっつらの笑顔”を貼り付けた人形のような顔に戻ってしまった。
 サラがどんなに話しかけても「さあ」とか「へえ」しか言わなくなり、最後は「そろそろ仕事に戻りたいんだが」と言った。

 サラは、仕方なく立ち上がった。

「また、会いに来ますよ……」

 社交辞令の才能が無いサラは、かなりネガティブな態度が出てしまったのかもしれない。
 しかし、それは仲良くなりたかったのに失敗したという意味の落胆だ。
 対して、エールから返って来たのは、サラ以上に社交性のカケラも無い言葉だった。

「もう来ないでいい」

 さすがにカチンと来たサラは、座ったままのエール王子を見下ろし、強気に睨みつけた。

「私と仲良くしなければ、あなたは国王になれないっていうのに?」
「君に頼らなくても国王にはなれるさ。君を追い出せばいい」

 サラには、エール王子の途切れた言葉の続きが聞こえた気がした。


 和平など要らない。
 ネルギを滅ぼすのは時間の問題だ。


 深く暗い影を落としたエールの瞳は、何か邪悪な魔物に取り付かれているように澱んでいる。
 サラは、エール王子の胸倉を掴み、強引に立ち上がらせた。
 あまりにも乱暴なその行為に、エール王子は瞳を見開き、サラを凝視した。

 背が高いエール王子を、今度はサラが見上げる番。
 クロル王子の専売特許である、美しく怜悧な笑みを浮かべながら、サラは告げた。

「あなたは、人が死ぬところを見たいの?」

 この人も、砂漠の王宮の国王と同じか。
 駒のように人間を動かすのか。

 非難のこもったサラの視線にも、エール王子は屈しない。
 サラの手を振り払うと、一歩二歩と下がり、締め付けられゆがんだローブの首元を整えながら言った。

「君こそ、戦場なんて知らずにぬくぬくと育って来たんじゃないのか?」
「ええ、そうよ。だけど私は、あの砂漠を旅して来た」

 世界を超えて、精一杯努力して、必死でこの旅を続けて来たんだ。
 戦争の無い平和な世界を作るって、皆にも約束したんだから。


「何の私怨があるのか知らないけれど、私の夢を邪魔するなら……許さない!」


 サラの声は低くなり、鋭い視線は黒騎士のものに変わった。
 魔術師ファースを倒したあの瞳を、エール王子は初めて正面から見た。
 窓から差し込む光を受け、泉のようにきらめくブルーを。

 エール王子はサラから目を逸らすと、苦みばしった表情のまま、再びソファへ座った。
 サラは、もう一度エールに歩み寄りながら、冷酷な声色で告げた。

「あなたがこの和平を反故にするつもりなら、私はあなたの敵に回る」

 ドレスが汚れることも気にせず床にひざをつき、エールの顔を斜め下から覗きこむサラ。
 エールは、サラの視線を感じても、うつむき顔を背けたまま。
 サラは、その白い手のひらを伸ばし、ソファに投げ出されたエールの左手をそっと包んだ。

 触れられた手の温もりに驚き、顔を上げたエールが見たのは、1人の天使。


「もしもあなたが、私と同じ道を選ぶなら……私はあなたと、結婚してもいい」


 鈴が鳴るような軽やかな声が、エールの心を優しくくすぐり、風のように通り過ぎていった。
 踵を返したサラの後姿を、エール王子はぼんやりと見送った。

 * * *

 バタンと音が鳴るくらい強くドアを閉め、サラは執務室を出た。
 部屋の中でのやり取りを察していたのか、コーティはエール王子の沈痛な面持ちで頭を下げてきた。

 とりあえず夕食は自分の部屋でと言ったサラを送り届けながら、コーティはあるエピソードを語った。
 サラが少しだけ、エール王子への印象を変えるような話を。

「エール様には、他の何にも変えられない望みがあるのだそうです」

 あくまで先輩の魔術師から聞きかじった話なのですがと前置きして、コーティは言った。

「エール様のお母様が亡くなった話は、聞いていらっしゃいますか?」
「ああ、確かずいぶん前に不慮の事故でと……」
「そうですね……でも、エール様はそれがただの事故ではないと考えられているのです」


『魔女の呪いで、殺されたと』


 サラは、自分の胸がドクドクと嫌な音を立てるのを感じ、ドレスの胸元をギュッと握り締めた。

 魔女の存在とは、いったい何なんだろう。
 まるでこの国に巣食う悪魔のようだ。

「その魔女というのは……一体何者なの?」

 コーティは、悲しげに眉を寄せて、首を横に振った。

「分かりません。この国に住むとも、砂漠に居るとも、または森の向こうへ逃げたとも言われています。エール王子は、魔女を見つけ出して……」

 断言せずに口を噤んだコーティ。
 それ以上は聞かなくても、容易に察することができた。

 王になり権力を持てば、魔女狩りもしやすくなるだろう。
 砂漠の国を自分の領土にしてしまえば、なおさら。
 ただし、そこには何の罪もない一般市民の犠牲も伴うはず。

 どうすればいいのか、分からない。
 判断するにはもっと深く、この国のことを知らなければならない。

「教えてくれてありがとう、コーティ。やっぱり部屋に戻るのは止めるね」

 サラは、強い意思を持って告げた。


「今から、国王に会いに行きます」


 全ての謎を解くために、一番手っ取り早い道を、サラは選んだ。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 トキメモ……ん? なんか今までに無い空気の悪さ。全部魔女っ子のせいです。作者のせいじゃねーのです。根暗なエール君&ドロンドロンな呪いは、国王様が払拭してくれることでしょう。タイトルの『覆う影』は、イ○スマスを覆う影という怖すぎる本から。これのシリーズを小学校低学年のときに親から買い与えられた作者、見事ホラー嫌いになりました。が、こうしてドロッとしたネタも考えるってことは刷り込まれてしまったということか。人生は刷り込みなんだよベイベー♪(←正しくはすりこ木)ついでにドリトル先生、シートン動物記、ずっこけシリーズも読んでたせいで、今こんなお話書いてます。
 次回、サラちゃんパーティ以来の国王様とご対面。国王様の第三の目、また開きます。めずらしくサラちゃんが振り回される話。口直しにゴーヤのご用意を。



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