喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第二章 王城攻略


第二章(22)敗北の予感

2009.05.02  *Edit 

お互いの指輪を預けた後、試合は始まった。
好感度の高い2人の対戦に、会場の興奮は一気に高まったが、その後潮が引くように静まり返ることとなる。

広いコロセウムに響くのは、ただ、剣のぶつかり合う音のみ。
鋭い金属音が、途切れることない音楽のように、会場を包み込んでいく。
聴く者の心臓を鷲掴みにするその音は、命のやり取りの音。

刹那的で美しい音楽を奏でる2人から、誰一人、一瞬たりとも目が離せなかった。

 * * *

緑の瞳の騎士は、サラが今まで戦った誰とも違った。
その太刀筋は、どこまでもまっすぐだ。
まさに太陽のような正確さでのぼり、落ちる。

少し癖のある、人を引っ掛けるようなフェイントをするアレク。
師匠がおらず、すべて自己流で剣を学んだというカリム。
その2人とはまったく違う、力強く正しい打ち筋は、なぜかサラの心を怯ませた。

騎士の剣を、教科書のような剣と批判する人間もいるかもしれない。
しかし、教科書がなぜ教科書たるのかを考えれば、その批判が的外れと分かるだろう。

または、こうしてリアルに剣を向け合って見ればいいのだ。
どんな角度から剣を繰り出しても、強く正しく真っ直ぐ返してくる。
拮抗する状況を変えようと、無理にトリッキーな動きをしようものなら、自滅への近道となるだろう。

サラの全身は、試合開始からいくらも経たないうちに、汗でびっしょりになった。
もしかしたらこれは、冷や汗かもしれない。

……この人、強い!

久しぶりに感じた、対戦相手への恐怖だった。
剣闘士に追い詰められたときすら、恐怖など感じなかったのに。

サラは、黒剣を強く握り締めた。
あのときは、自分に寄り添い、支えてくれていた黒剣。
今はその気持ちが分からなくなっていた。

うっすらと敗北を予感しはじめたサラ。
その心を感じ取り、黒剣は勝手にその剣先を動かし始めた。
騎士を敵とみなした黒剣は、尋常ではない速さで切りかかっていく。
相手の致命傷となるだろう箇所へ向かって。

試合前に、騎士とかわしたあの約束通りに。

 * * *

騎士は、サラの剣が変化しつつあるのを感じていた。

先ほどの試合でもそうだった。
この少年は、戦いの途中で”進化”する。

騎士は決して手を抜いていたわけではないが、しばし様子を見ていたのも事実。
序盤の少年は、騎士の剣を受けるのがせいいっぱいだった。

ところが、今はどうだ?

元々表情のまったく見えない、不気味な変装をしているが、その奥に潜んだ魂は熱くしなやかな少年と見えた。
しかし今の少年からは、一切の感情がそぎ落とされたようだ。

瞬きする間も与えられないほど、早い打ち筋。
致命傷になる箇所へと次々繰り出される少年の剣を、騎士はかろうじて受け止めていく。
受けるたびに、自分の腕の骨がみしりと音を立てるのを感じた。

最初は見た目の通り軽い剣だし、たいしたダメージにはならないと思ったが、いかんせん打ち付けられる数が多すぎる。
長引くほど、不利になる。

しかしこの剣を受け止めきれなければ、己がこの場に立つ意味はない。
戦場を捨ててきた自分には、これしかないのだから。


騎士が戦地で感じたのは、苦しさというより空しさだった。
敵は、狡賢い魔術師と、何も知らない農民ばかり。
戦うたびに、何かを失っていく自分がいた。

力のある相手とあいまみえたいと、ただそれだけを強く願っていた。
その欲求が抑えられず、ギリギリで戦場を飛び出した。
自分が腕を認めた好敵手と、お互いの剣を持って、正々堂々戦いたかった。

そんな夢が今、叶ったというのに。

くそっ!
あんな挑発、しなきゃ良かったな……

闘技場の端に追い詰められながら、騎士は必死で逆転のチャンスを待った。

 * * *

小柄な少年に力で押され、じりじりと後退する騎士。
予想外の展開に、観客たちは椅子に座ったまま身じろぎ一つできなかった。
勝利を掴みかけているように見えるサラを、焦りと共に鋭いまなざしで観ているのは、アレクだけだ。

「サラ、そのままでは、勝てないぞ……」

しかし、アレクの呟きがサラに届くことは無い。


騎士を確実に追い詰めながら、サラは絶望的な心境で、剣の望むままに体を差し出していた。

この人は強い。
だからこそ、私は冷静にならなきゃいけないのに。
臆病な心が、不安に震える腕が、抑えきれない。

サラの体には、明らかに自分の肉体の限界を超えてきている兆候が現れはじめた。
徐々に痺れを感じはじめた両腕を、サラはわずかな理性と気力で支え続ける。

今なら、まだ間に合うはず。
騎士の体に、一太刀でも入れられれば勝負は決まる。
それがサラ自身の力ではなく、サラの恐怖を受けて暴走する黒剣の力だったとしても、勝ちは勝ちなんだから。

サラの支配が緩むのを感じた黒剣のスピードは、もう一段階増した。
人間離れしたその剣は、訓練ですら見せたことの無いものだった。
しかし、目の前の騎士はすべて受けきってしまう。

その緑の瞳に感じるのは、戦慄。

黒剣を受けるタイミングが一瞬でもずれたら、この人は死ぬだろう。
なのに、ギブアップなんて絶対にしてくれない。
あと何分持つか分からないが、サラの体は限界に近づいている。

だめだ!
このままじゃ、私は負ける!

今の弱気な自分と、目の前の騎士との違いは、決意だ。
全力で戦うこと、そして散ることを恐れない決意。
それこそが、戦場で培われる魂のようなものなのだろうか?

……私は、どうすればいい?

観客たちの目に追えないほどの速さで、流れ続ける黒い聖剣。
美しい剣舞のような、その太刀筋。

しかし、サラの心も体も、限界へと近づいていた。

 * * *

追い詰められながらも、騎士はサラの剣の変化を再び感じていた。
剣のスピードやキレは変わらない。
しかし、少しずつ、受け止める自分の腕の衝撃が、軽くなってきている気がする。

所詮、少年騎士。
いかに剣の腕が立とうとも、スタミナが切れれば、攻撃を持続することは不可能だろう。
肉体的な限界が近づいているのかもしれない。

試しにと、騎士は思い切り強くサラの剣を跳ね返すと、サラは体を振られて後方へと飛びのいた。
開始の合図から鳴り続いていた音楽が、ようやく止まった。


サラは、汗で滑りそうになる黒剣の柄を握りなおすと、剣先をまっすぐ騎士に向けた。
握力が尽きかけていることは、自覚している。
腕も、もう上がらないかもしれない。
あと使える部分は、足と体だけだ。

騎士の方は、まだ余力が残っているようだ。
表情には、薄く笑みを浮かべる程度の余裕がある。
なにより、剣を握るその腕には力が宿り、緑の瞳には怯えも迷いも無い。

強烈な敗北感がサラの全身を毒し、力を失わせていく。

騎士の聖剣は、きっと魔力を秘めているのだろう。
もしもその手に指輪があれば、サラはここまで優勢に戦うことはできなかったはずだ。

ああ、そうだ。
元々対等に戦える相手なんかじゃなかったんだ……

騎士の剣が、守りでなく攻撃のために振り上げられるたびに、なんとか剣で応えるものの、怯える心はサラの足を一歩一歩後ろへと向かわせていく。
じりじりと後退していたサラだが、いつしか後が無くなっていた。
ついに、戦闘エリアの終わりを示す段差が見える位置まで、追い詰められてしまった。

これ以上、後ろに下がることはできない。
かといって、前へと打って出る勇気もない。
サラに協力してくれた人たちの顔が次々と浮かんで、サラは悔しさに涙をにじませた。

リコ、カリム、アレク……
ゴメン、みんな。
みんなのために、全力で向かったけれど、駄目だったよ。

ゆっくりと振り上げられる騎士の太い剣。
集中を失ったサラに、剣の打ち筋は読めない。

サラが、もうおしまいだと、瞳を閉じたかけたとき。

まるで暗闇に光が差し込むように、サラの脳裏にアレクの言葉が蘇った。


『いいか、サラ。チャンスは一度きりだ』


騎士にとって、剣は神への忠誠を誓った証。
誓いと共に口付けられた剣には、神の魂が宿るとされている。

その剣を、手放す騎士は絶対にいない。

だから。


『ガキィンッ!』


サラは最後の力を振り絞り、黒剣を突き出して、騎士の重い剣を受け止めた。
剣を打ち合わせクロスさせたまま、とっさに体を横にひねり、騎士の太刀筋から自分の体をずらす。

重なりあった剣の勢いを、殺さないまま。

サラは剣を手放し、空へと放り投げた。

 * * *

一瞬、何が起こったのかわからず、宙を舞う黒剣に見入った騎士。
力を受け止めてくれる相手がいなくなった騎士の聖剣が、ゆるやかに床へと向かう。
剣の勢いを止めようと伸ばした腕が、少年の肩に乗せられたと感じたときには、もう遅かった。

まるで少年の剣と同じように、自分の体がふわりと宙に浮き、景色が反転していくのを、騎士は信じられない思いで眺めていた。

サラは、剣を手放すと同時に、騎士の懐に飛び込み、そのまま一本背負いをかけていた。
ブチブチと鈍い音がして、サラが掴んだ騎士の胸元のボタンが飛び散り、闘技場の床の上を転がった。


硬い闘技場の縁から、草の生えた地面へ転がり落ちるボタンと共に、騎士の体も同じ場所へ投げ落とされていた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
はー。ようやくサラちゃん、決勝進出です。あー、しんどかった。なんともヘタレな展開で、泥臭い勝ち方になってしまいました。でも、人間そんなあっさり強くなんてなれまへん。アレク様のおまじないこと伏線風指示は、頭文字某の車のマンガから。ピンチひっぱってひっぱって負けそうなときに「そういえば涼○さんが……」って思い出して大逆転。あれ毎度ハマっちゃうんですよね。まさに王道。そして、創造とは模倣である。うむ。……ゴメンナサイ。ちょっとインスパイアされてリスペクトでフューチャリングしたっていうかぁ……もにょもにょ。とりあえず、サンプリング(丸パクり)だけは無いと断言しときます。
次回、決勝戦……の前に、アレク様とサラちゃんのシリアス&ちょいラブエピソード。アレク様の過去に迫っていきます。甘い匂いがぷい~んと。ファブリーズのご用意を。



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