喉ニ小骨ガ

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「砂漠に降る花」
第二章 王城攻略


第二章(2)黒剣の騎士

2009.04.13  *Edit 

4人がトリウムの城下町に到着したのは、ほぼ予定通り、20日後の夕方だった。
『軟弱スプーン男』とリコがこっそりあだ名をつけた、旅の案内役リーズは、3人を一応満足させるだけの結果は残していた。

リーズは歩きがてら、オアシスの国トリウムの情勢から、地域の風土、住民の生活環境、この先3人が街についたあとの注意点などを、わかりやすく角度を変えながら説明してくれた。
また、柄の悪い人間がうろつくような危険なエリアをうまく避けつつ、愛想よく国境の警備隊検問を通り抜け、清潔な宿と美味しい食事処を見つけ、途中からはカリムとともにサラやリコの荷物をシェアしてくれた。

旅が終わる頃「こいつは、軟弱だけれど貧弱ではないわね」と、リコはあまりフォローにならないことを思った。
不意に、リーズの胸ポケットのスプーンが揺れて、ガチャガチャと音を立てる。
リーズは長い首をぐいっと下に傾けると、スプーンに向かってブツブツと独り言を言い始めた。

旅の間、何度この不気味な光景を見たことだろう。


仕事をこなすという点では多少認めたものの、スプーン男のヘンタイ度は100%のままだった。

 * * *

城下町へ辿り着いたとき、サラは思わず女の子気分で歓声をあげそうになった。
日本の女の子なら、誰しも浴衣やお祭りが大好きだが、この世界の女の子も同じだろう。
サラはもちろん、生まれて初めて”大きな街”という場所に来たリコも、興奮した様子を隠せない。

王城へと続く一本道と、それを横切る何本もの横道は、碁盤の目のように整っている。
それらの道の中でも、市場大通りと呼ばれる十字の道は、街路樹が並んだ美しい通りで、幅が広いため街路樹脇には様々な店がぎっしりと並ぶ。

ネルギの王宮近くに広げられた市場の、何十倍もの人の波。
街道沿いは、カラフルな布を売る店や、香ばしい匂いを漂わせる露店、竹トンボのようなおもちゃを実演する店など、多くの露店で賑わっていた。

その道のずいぶん奥、少し小高い丘の上には、中世の城を小ぶりにしたような、白く平たい王城。
城の周囲の高台には、小さいながらも小奇麗な、低層の住宅がひしめき合う。
砂漠の国にはない、異国情緒溢れる光景にサラは目を輝かせ、きょろきょろさせていた。
何度かこの城下町に来たことがあるというリーズは、サラとリコのために、少し歩くペースを落とした。

好奇心いっぱいのサラが、一番注目したのは、街を歩く女性たちだ。

女性たちが着ている衣装は、薄く白い長そでのワンピース。
胸元の布をドレープのようにたるませ、胸の谷間が見えそうなくらい開いたタイプの、オアシス住民の定番スタイル。
特に若い女性は、腰を皮ひもでシェイプしたり、太めの帯でしばってリボン結びしたりと、ささやかなオシャレを愉しんでいるようだ。

夕食の食材を買いに来たであろうか細い女性たちが、みな頭の上に大きなカゴを乗せ、オアシスのフルーツをてんこ盛りにしてもバランスよく歩き去るのを、サラは口をぽかんと開けて眺めた。
裾が長く歩きにくい服だというのに、あの裾を踏んでつまづいて、頭の上の荷物を転がすようなドジは居ないようだ。


颯爽と行きかう、オアシスの街の女たちを見て、サラはふっと空想をする。
もしサラの母がここにいたら、まずカゴを頭に乗せるというステップでつまづくだろう。
でもきっと「大丈夫、100回やってだめなら、1000回トライすればいいんだからね!」と笑って、またカゴを落っことすはず。

そのうちパパたちがやってきて、カゴを支えたり、母の腕の位置を直したり、またはカゴの形状を改良したりしはじめる。
もし成功したら、パパたちに甘やかされたことなどすっかり忘れて、まるで1人でできたとばかりに、得意げに笑うのだ。

『ハナを見ていると、小さなことにくよくよして、立ち止まってしまうのが馬鹿らしくなるよ』

何事にもそんな調子の母を見て、パパたちはよくそう言ていったが、サラも同感だった。

天使のような、母の笑顔を思い描きながら、ふとサラは気付く。
この世界に来てから今までずっと、サラは母のことを思い出すことがなかった。
パパたちのことも、サラ姫の嫌がらせでプレゼントを失ってから、ほとんど思い出していない。
初めてジュートを見たとき、ちらっと馬場先生に似てるなと思ったくらいだ。

私は案外、薄情な人間なのだろうか?
でも本当に、思い出す余裕なんてなかったの。

今まで起こってきたことは、サラの想像のはるか上を行っていたから。

 * * *

ようやく旅がひと段落して、ホームシックになる余裕ができたのだろうか。
一度思い出してしまったことで、サラの心の堤防は、あっけなく崩れ落ちた。

15年積み重ねてきた、母やパパたちとの思い出が、サラのこころに波紋のように広がり、頭の中を支配していく。
風が吹いて木の葉が揺れる様を見ただけでも、母の栗色の髪がふんわりとなびく姿が彷彿とさせられる。
サラの青い瞳に、うっすらと涙が浮かびかけた、そのとき。

「姐さ……じゃなくてサー坊、はいこれ」

散々打ち合わせしてきた”弟バージョン”の呼び方を忘れかけつつも、にこにこと害のなさそうな笑みを浮かべて、リーズが小ぶりのカゴを手渡してきた。
「とっとと返しておくれよー」と、街道沿いの果物屋の店主が叫んでいる。
きょとんと青い瞳を丸くして見返したサラに、リーズは少しだけ日に焼けた顔ではにかんだ。

「なんだか、やってみたそうだったから借りてきちゃったよー」

リーズの口もとからのぞく白い歯と、胸ポケットから頭を出したトレードマークのスプーンが、まるでタイミングを合わせたように、キラリと輝いた。
プッと噴出したサラは、OKと店主に手で合図を送ってから、邪魔な漆黒のマントのフードを取り外し、リコに手渡した。

だいぶ日が落ちてきたせいか、汗に濡れた前髪に当たる風がひんやりと冷たい。
リコは「サー坊気をつけてね」と、カリムは呆れたようにため息をつきながら、2人のやりとりを見守っている。

サラは、見た目よりずっと重い、木の枝を幾重にも組み合わせて編まれたカゴを両手で持ち上げて、頭のてっぺんに置いてみた。
手を離すことなど、とうてい無理な重さだ。
派手に落として、もしカゴを壊しては、店主に申し訳がたたない。
サラは、前髪の上にチラリと見える籠の底を、上目づかいにねめつけつつ、そおっと手を離した。

『ドサッ!』

案の定、落っことしてしまったカゴ。
相当頑丈にできているのか、ひしゃげることもなく、ただ土ぼこりをまとって転がっている。
「ああー」と、リコが残念そうな声を発した。

 * * *

人通りの多い街道の真ん中で立ち止まって、なにやら怪しい動きをしている旅人のグループに、通りすがりの者たちも、興味をひかれて足をとめる。
そこには、旅人定番のフード付きマントをまとった若者が3人。

1人は、やや無愛想な表情だが、彫が深く非常に整った顔をし、恵まれた体躯の剣士。
1人は、透きとおるような白い肌に、薄茶色のそばかすが愛らしい、小柄な魔術師の少女。
1人は、背が高くやせ形で、細い目がなんとも優しそうな雰囲気をかもしだす、商人風の青年。

その中心には、マントを脱いだ1人の少年。
手にしたカゴを、頭に乗せてはぐらりと傾け、時には落っことし……を繰り返している少年に、城下町の住人達は目を奪われた。

まるで、少女かと見まがうような、美少年だった。
160cm程度と、この街の男にしてみればやや小柄で華奢なその少年は、あどけない笑顔と相まって、まだ成人になる少し手前という年ごろに見える。

風に揺れる美しい黒髪と、意志の強そうなまなざし。
好奇心にきらめくブルーの瞳は、空の青をすくいとったように澄んでいる。
懐に差した黒い宝剣が、夕暮れの赤い光を受けて輝きを放つ。

少年は、細くしなやかな体を、右へ左へと上手に動かしながら、頭の上のカゴをバランスよく乗せ続ける。
女たちをマネて、カゴ運びをマスターしようと必死の少年の姿はあまりに愛らしく、立ち止まった街の住人たちも「いいぞー」「頑張れ」と声をかけた。

「よし!10秒キープ!」

道中リコと会話しながら訓練したおかげで、すっかり板についた少年そのものの低い声が、薄闇に包まれはじめたオアシスの街に響いた。
サラがガッツポーズし、頭の上のカゴを下ろしたと同時に、ワッと湧き上がる歓声。
サラの周りには、仲間3人のほかに、黒山の人だかりができていた。

カゴを貸してくれた果物屋の店主がしゃしゃり出て「よく頑張ったな坊主」と、サラの頭をなでたあと、甘く熟したモモのような果物を1つくれた。

 * * *

例の果物店のおやじが、抑揚をつけながら、大きな声をあげる。

「さて、こいつが黒騎士の頭に乗ったカゴだ!」

「キャー!」と湧き上がる、女の子たちの黄色い声。

サラがカゴ乗せをマスターしようと奮闘するその様子は、成人前のおませな女の子集団に見られていた。
彼女たちは少年を『黒剣の騎士様』と呼んで「この国で一番美しいと噂の第3王子クロル様と、どっちがカッコイイだろう?」と噂して回った。

その噂が噂を呼び、城下町東側の大通り市場には『黒い宝剣の美しい少年騎士』を一目見てみたいという若い女の子が殺到した。
もちろん、サラがそこに来るとは限らないのだが、暗く沈みがちな戦時下、突然現れた”手近な王子様”の存在は、少女たちのストレス解消に最適だった。

「この桃を黒騎士は食べてったんだ。お嬢ちゃんたちも1つどうだい?」

『黒騎士の食べた桃』の張り紙とともに、少年の美貌を讃える口上が好評を博し、果物店の売上は何倍にも膨れ上がったのである。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
自覚なし天使サー坊の活躍その1でした。もっとカッコイイことさせようとも思ったんだけど、果物屋のオヤジが先に思いついちゃってねー。寅さんさせたくなっちゃって。あんなアホなことしてても目立つサー坊はすごいってことで。しかしリーズ君は本当に空気の読める良い子です。が、彼にはさらなる受難が待ってます。
次回、第二章で1人目の強烈キャラ登場です。エロ男爵系メガネ男子1人放り込みますんで、お楽しみに&お気をつけて。



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