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第三章 閑話2 ~妄想乙女コーティの恋人~

第三章 王位継承


 王城一階、医務室前。
 サラがそっとドアを開けると、ベッドの上に人影が見える。
 ベッドから上半身を起こし、出窓から差し込む光を受けて輝くのは、マットで美しいブロンドヘア。
 後方に「起きてるみたい」とささやくと、サラはあらためてドアをノックし、室内に入った。

「サラ姫さま! デリスさま……」

 コーティは、生きていた。
 事件の翌日だというのに、体を起こし笑顔を見せられるのは、まさに奇跡の回復力。
 やつれた表情の中にも、力強い生気を宿した瞳で微笑んでいるその姿に、サラは安堵の溜息をついた。
 昨夜と今朝は軽い食事を取り、本物の薬も飲んだということで、あとはゆっくり静養して落ちた体力が回復するのを待つばかりだ。

「わざわざいらしていただいて、ありがとうございます!」
「ううん……あの、これお見舞い」

 サラが用意したのは、コーティの心の傷を癒すべく考え抜いたもの。
 薄っぺらい紙包みを渡すと、コーティは不思議そうに首を傾げつつも、丁寧に紙を開き……。

「なんということでしょう……!」

 見事、完全復活した。

 それは、サラがちょっぴり仲良くなった魔術師長に頼み込んで入手したもの。
 転写イラスト集『魔術師ファースの全て~レジェンドオブファース~』のボツ作品たち。
 もちろん、非公開の一点ものばかりだ。

「ねえ、サラ姫さまもご覧になって! このナチュラルな表情! 本当はこんな顔が見たかったんです! ああ、半開きの口元からヨダレの垂れた寝顔……素敵すぎます……」

 呟くコーティの口も半開きになり、ヨダレがキラリとのぞく。
 放っておけば永遠に続きそうな妄想波状攻撃に飲み込まれつつも、これぞコーティ、良かった良かったとうなずくサラ。
 普段は辛口なデリスも、悲惨な事件から生還したばかりのコーティの元気な様子に、涙を堪えながら優しく見守っている。

 サラは、キリの良いところで話しかけた。
 今日の目的を達成するために。

「あの、コーティ? ちょっと聞いてもいいかな?」

 デリスが横に居るのは、証人代わり。
 ドアを隔てた廊下には、警備隊長以下、騎士や魔術師たちがずらりと並んでいる。
 この事件のために、昨夜結成された調査部隊だ。
 騎士たちはもちろん、集められた魔術師たちも、薬とは無関係の者ばかり。
 彼らはふくよかな体とおおらかな人柄を併せ持ち、今まで激しく対立してきた騎士たちとも、それなりに打ち解けているようだ。

 あの地獄の中でどんなことがあったのか……。
 同じことを聞き出すならば、男性よりは女性の方が良いだろうという魔術師長の配慮から、全ての事情を知っており、コーティとなんだかんだ一番仲が良かったサラが選ばれた。
 王城におけるコーティの母であり、サラの警護係として抜擢したデリスも。

「わかりました。例の件、ですね……」

 思慮深いコーティは、サラが具体的な言葉を口にする前に、自ら語り始めた。

  * * *

「私は、思い出してしまったんです。あの夜のことを……」

 コーティは、淡々と語った。
 一昨日の夜、体を操られる前に彼女の部屋を訪れたのが、誰だったのかを。

「侍従長様は、音も無く私の部屋に入ってきました。そして言いました。また少し体を借りる、と」

 先に事情聴取を受けたエールは、一昨日の夜に侍従長と会った記憶は無いと言っていた。
 それは単純に、薬への依存度の違いだったのかもしれない。

 薬漬けが一番ひどかったのが、エール。
 その次が、魔術師長と医師長。
 ただし後者の二人は、その薬の正体にうすうす気付いていたようだが……。

「侍従長に、恐ろしい魔術をかけられたと気付いた私は、朝一番で侍従長を訪ねました」

 ぶるりと体を震わせて、自分の腕で自分を抱きしめるコーティ。
 サラが痩せた背をさすると、コーティは「ありがとうございます」と笑みを浮かべる。
 コーティが必死で紡ぐ言葉を聞き漏らすまいと、サラは集中した。

「侍従長は、ひどく疲れた顔をしていらっしゃいました。まるで物語に出てくる幽鬼のように暗い表情で、私に近づいてきたのです。私は不思議な魔術で束縛され、強引に薬をたくさん飲まされて……意識を失いました」

 そこから、コーティがどんな目にあったのかは、サラとデリスの方が詳しい。
 コーティが連れて行かれたのは、三つの塔のうちの一つ、審判の塔の隠し通路の中。
 クロルが「行き止まり」と告げたその先には、見えない扉があったのだ。

 その扉が開かれるとき、空間はゆがみ、広場へと転送される一本の道が現れるという。
 道を開き人を誘うのは、闇の精霊。
 あの花畑は、単なる結界ではなく、闇の精霊が集う小さな“精霊の森”だった。

「気付いた時には、私は暗闇の中でした。闇の中で、ずっと戦っていました……私の、兄と」

 サラにとっては、初めて聞く話だった。
 コーティが、実の兄から暴力を受けて育ったこと。
 魔術師ファースが、兄を5年前の武道大会で死なせたこと。
 兄が死んでからも、心の傷がなかなか癒えなかったこと。

「この王城へ勤める際に、私は聞かれました。何か体調は悪くないか、悩み事は無いかと……そのときに、兄の話は正直に伝えました。採用が決まってすぐ、あの薬を処方されて、何の疑いも無く飲んでいました」

 面談をしたのは、魔術師長と数名の魔術師、そして……月巫女。

「まさか自分が……別の誰かに乗り移られるなんて、私には、想像もつかなくて……」

 口篭ったコーティの背を優しくさすりながら、サラは「もう充分。ありがと」と声をかけた。

  * * *

 昨日の昼、王城に戻ってすぐ医師長が全てを白状した。
 エールが『光の宝石を練りこんだ』として飲まされていたあの薬も、コーティや他の魔術師たち、また数名の文官や侍女が飲まされていたものも、全ては同じ原料が使われていた。

 それは、月巫女の髪。

 サラの髪と同じく、精霊に好かれる美しい銀の髪。
 ただし、月巫女の髪は、闇の精霊を呼び寄せるもの。
 コーティたちが飲まされていたのは、心に巣食う闇を少しずつ増やしていく、悪魔の薬……。

「――だけど私、分かったんです!」

 突然明るい声を出したコーティ。
 キッパリと顔を上げ、魔力を滲ませる力強い瞳でサラとデリスを見て。
 少しだけ涙ぐみながらも、心からの笑顔を作った。

「兄との経験があったからこそ、今の私が居るって。兄がいたおかげで、こんなにもファース様を好きになれたこと……私は、本当に幸せだと思っているんです」

 感無量といった表情でお土産をギュッと抱きしめ、「やだ、シワが入っちゃう!」と慌てて手のひらを当てる。
 紙のシワを復元するなど、魔力の強いコーティにはお手の物。
 唇を尖らせて、フーフーと息を吹きつける姿が、なんとも愛らしい。
 元通りになったお土産を、慎重な手つきで枕元にどけながら、コーティは夢見るように呟く。

「ファース様は、私を現実の兄から救ってくださった……」

 とろけそうに甘い、極上の笑みを浮かべるコーティ。
 同じ女性同士なのに、見ているだけでドキドキするほどの、恋する瞳だった。
 少し赤くなりながら、コーティに魅入っていたサラは……次の台詞で一気に目が覚めた。

「そして、私を兄の亡霊から救ってくれたのは、緑の瞳の……」
「――ワアアアッ!」

 サラは、病み上がりのコーティに容赦なく飛び掛り、至近距離で睨みつけながら「あのひとのことは忘れてっ!」と叫んだ。

「いいえ、忘れられません! 彼は私の、新たな心の恋人ですからっ」
「ヤダ! それだけはダメっ!」

 顔をリンゴのように赤くしながら、ムキになって否定するサラがあまりにも可愛くて、コーティはくすくす笑い出す。
 2人のやり取りを見ていたデリスは、「最後の話は、聞かなかったことにしておきましょう」と苦笑した。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 基本ほのぼのエピローグでした。コーティちゃん、これでようやくトラウマ吹っ切れて、幸せな妄想乙女ライフへまっしぐらです。しかし、リアル男子とお付き合いできるかは……そのうち考えます。お相手候補は何人か考えてるんだけどねー。というか、アノヒトがいいかなと思ってるんだけど……このネタは最終章あたりでまた。お薬の中身は月巫女さんの髪でした。闇の魔術の、転送ってかテレポーテーションについては、もうちょい分かりやすい伏線作っとけば良かったかなー……そのうち加筆修正するかもです。各魔術でどんなことができるかリストとかあれば便利かも? 侍従長と月巫女さんについてなど、もうちょい細かい話は次回クロル君に説明させようと思います。
 次回、クロル君と最後のデート。やっぱ2回分くらいになっちゃいます。補足説明が多すぎる……はー。
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第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(9)~

第三章 王位継承


 突然の発光は、凄まじい勢いで、その場にいた全てを白一色の世界へ飲み込んだ。

 発光した瞬間、運良く目を閉じていたサラ。
 完全に視界を奪われずにすんだため、ごくわずかに目を開け、自分の前に伸びていた影すらも消えるほどの光に息を呑んだ。
 幼い頃、母親にくっついて撮影スタジオへ行ったときに見た、撮影物の影を消すための強力なライトを思い出しかけて、軽く首を横に振る。

 いや、そんなものじゃない。
 この光は……。

 サラは、一つの映像を思い浮かべていた。
 真昼の空に輝く、光のリング。
 そのとき閉じ込められた光は、闇の影でこんな風に暴れ狂っているのかもしれないと。

  * * *

 サラの、ギリギリまで細められた瞳が、淡いブルーや緑を捉え始めた。
 視界の中に、少しずつ色が加わっていく。

 光が弱まるタイミングを計りながら、サラはそっと目を開いた。
 真っ先に飛び込んで来たのは、倒れた侍従長を抱きかかえる国王。
 目が利かないのか、鳶色の瞳はしっかりと閉じながらも、片手は侍従長の頭を支え、片手で痩せた体をさすり続けている。
 国王の周囲に群がる医師たちは、手や腕で顔を覆いながら、ぼんやりと立ち尽くしている。

 その奥に見えたのは、薬を飲まされた被害者たち。
 光源の方を向いていただけに、ダメージは大きかったようで、皆幽鬼のように佇んでいる。
 長い黒髪を持つエールと魔術師長が寄り添いながら、必死で目をこすっているのが見える。

 視線をくるりと反転させ、すぐ隣へ。
 ルリを守るように抱きかかえるリグルと、リグルとルリの二人を抱くデリスが見えた。
 三人の表情に、驚きはあれど痛みは無い。
 その他の人たちも、特に倒れたり怪我をしている者はいないようだった。
 皆少し時間が経てば、視力は戻るだろう。

 もしこの光が何者かの攻撃魔術だったら……と考えていたサラが、ひとまず息をついたとき。
 背後から、軽く肩を叩かれた。

「……サラ姫、見てごらん?」

 誰もが目を伏せる中、一人悠々自適と動いている少年がいた。
 全てを飲み込むような純白の光の中で、薄茶色の髪は金色に染まり、その肌は白磁のように艶めいている。
 それは、物見の塔でサラが見つめた……天使。

 白い厚手の上着はいつのまにか脱ぎ捨てられ、薄いシルク地の長袖シャツの腕が、サラの後方へと伸びている。
 少年らしくひょろりと長い華奢な腕の先、伸ばされた指先の向こうを見ようと、サラは眉の上に手のひらをかざしながらゆっくりと振り返った。

 そこには、サラの想像を絶する、奇妙な光景が広がっていた。

「花がっ……」

 酔うほどに強い花の香りは、完全に消えていた。
 香りだけでなく、存在そのものが。

  * * *

 花畑の代わりに現れたのは、水気が無く荒れ果てた砂地だった。
 きめ細かい砂漠の砂とは違い、粒度の大きい小石を敷き詰めたような、小さな庭。
 ところどころに、白や黄色の小さな花の群れが残り、そこが“同じ場所”だと告げていた。

 砂地は、静かだった。
 緑溢れるオアシスの中にぽつりと落ちた、白いペンキの染みのよう。
 砂の中には、風雨に晒された白い木の枝が転がり、ときおり吹く風にカサリと音を立てる。

 ……ここは、嫌な場所だ。

 思わず視線を逸らしかけたサラの瞳が、一点で固まる。
 白い砂の中に紛れ込む、別の色を見つけたから。
 それは、くすんだブロンド。

「――コーティ!」

 サラの叫び声に、真っ先に反応したのは魔術師長だった。
 ほとんど目が利かないにも関わらず、エールの体を離し、サラとクロルの脇をすり抜けるようにして、砂地の中へ飛び込んでいく。
 下半身を砂に沈めかけていたコーティは、魔術師長の生み出す強い魔術で一気に引き上げられた。

 抱きかかえられても、力なくぶらりと垂れた腕。
 黒いローブは薄い鼠色へ変わり、美しかった髪は砂にまみれ、肌はかさつき、瞳は固く閉ざされ……血の気のうせた青紫の唇からは、生命力を感じとれない。
 サラは、口元を手で覆った。
 胃の奥から、酸っぱい唾液が上がってくる。

「エール王子! 治癒の魔術を、早くっ!」

 その叫び声は、人々の目を覚ました。
 砂地から芝生へと運び出されたコーティに、魔術師長とエール、そして治癒魔術が使えるほぼ全ての魔術師たちによる治癒が始まった。
 魔術師たちのローブに隠されながらも、誰かが叫んだ「生きてる」の声がサラの耳に漏れ聞こえた。

 詠唱の声がレクイエムのように響く中、必死で声を上げるもう一つの集団があった。
 国王の指揮の下、侍従長に群がる医師たちだ。
 国王が魔術で水を呼び、大量に飲ませては吐き出させるの繰り返し。

 喧騒の中で、役割を見失ったサラ、クロル、リグル、ルリ……その他取り残された者たちは、ぼんやりと砂の中を見つめていた。

 サラは、地面から突き出た木の枝の先が五つに分かれ、そのうちの一つにくすんだ指輪が引っかかっているの見つけた。
 木の枝に見えるものは、人間の成れの果てだ。
 ついさっきまで、赤い花に見えていたもの、全てが。
 花の好きな自分が、美しいと思いながらも、なぜ近づいたり手折ろうとしなかったのか……サラはその理由を悟った。

 何人もの屈強な騎士が、座り込んで嘔吐する。
 文官や侍女の中には、意識を失いかけ倒れる者もいた。

 その中で気丈に振舞ったのは、一人の老女。
 震えるルリの肩を抱きしめていたデリスは、「お気を確かに」とささやくと、ルリの傍から離れ、ゆっくりと砂地へ近寄っていく。
 黒いスカートが汚れるのも気にせず、砂地の縁にぺたりと座り込むと、サラが見ていたあの枝から指輪を抜き取った。
 手のひらで指輪をこすり、砂を落として、そっと光にかざす。


「そうなの……みんな、こんなに近くに居たのね……見つけてあげられなくて、ごめんね……」


 ようやく再会できた可愛い娘たちへ、祈りの代わりに涙を捧げるデリス。
 ふらりと立ち上がっては、屈みこんで何かを拾うその姿は、まるで有名な絵画のよう。
 色鮮やかな楽園が、サラの目にはもうセピア色にしか見えなかった。

  * * *

 コーティの周りも、そして侍従長の周りも……既に、喧騒は止んでいた。
 皆が見つめるのは、砂地の中を歩く一人の老女。
 海岸でキレイな貝殻を拾い集める少女のように、嬉しそうに笑う。
 それなのに、デリスの小さな瞳からは大粒の涙が止まらない。

 人々は、現実を受け入れ始めた。
 誰かの名前を叫びながら、砂地の中へ飛び込んでいく騎士。
 泣き崩れ、地面を叩く魔術師。
 大きく首を横に振りながら、慟哭する侍女。

 阿鼻叫喚……その中で、斜に構えたような少年の声が聞こえた。

「これで、僕の役目はオシマイ」

 クロルの呟きは、すぐ傍にいたサラにしか聞こえないくらい微かな声だった。
 サラが見つめる中、クロルは手のひらに握り締めたものを、空へと解き放った。
 それは、細かく千切れた数本の黒髪。
 侍従長の仕掛けた闇の魔術は、彼の命をもって破れた。

「本当はずっと、分かってたんだ。こうなることが」

 それは、贖罪の言葉。
 誰かに聞かせるのではなく、自分へと聞かせるために漏らしたもの。

 クロルの耳には、あの日の侍従長の声が蘇っていた。

『なんと可愛らしい! 国王様に瓜二つな王子……私が命に代えてでも、お守り申し上げますぞ!』

 それは、クロルが生まれた日の記憶。
 まだふくよかで、皺も無く、若かった侍従長が上げた歓喜の声。

 「何卒、お母様を恨まれませぬように」と何度もささやいた、少ししわがれた優しい声。
 「国王様には、本当の家族が必要……私では、無理なのです」と呟き、小さなクロルの頬に落ちた滴。
 もみじのような手のひらを伸ばしたクロルに、「小さな王子に慰められるとは、お恥ずかしい」と苦笑する、しわくちゃな顔。

 赤ん坊だったクロルの、育ての母はデリス。
 そして、父は……侍従長だった。

「僕は、逃げてたんだよね。だからこれは僕の罪……」

 横で耳を傾けていたサラには、その言葉の深い意味は分からなかった。
 ただ、クロルの頬が濡れていることに驚いて……いつもクロルがしてくるように、手のひらをそっと握った。
 触れた手がやけに熱い。
 そういえば、いつも冷たいクロルの手が、今日はずっと熱かった。

 一瞬ピクリと眉を動かしたものの、クロルは無表情のまま砂地を見ている。
 ペタンコの靴だと、クロルの顔はサラの少し上にある。
 普段と少し角度が違うせいか、その横顔はやけに大人びて見えた。

 子どものように泣きじゃくれない代わりに、静かに流れ続ける涙が、柔らかな頬に透明な光の筋を作る。
 サラは、クロルの涙がもっと流れればいいと思った。
 枯れ果てるまで、流れてしまえばいい。
 そうしたら……この国は、生まれ変わるんだ。

 透明な滴がポタポタと落ちる靴先には、力強く咲き誇る雑草の花。
 サラのすぐ隣には、しっかりと手を繋ぎあい、クロルと同じように涙を流すリグルとルリがいる。
 土に座り込み、侍従長の頭を抱きしめたままの国王も、泣いていた。
 涙を流していない者は、誰一人居なかった。

 サラが、新たな決意を胸に、再び視線を砂地へと戻そうとしたとき……ふと気付いた違和感。
 この中にたった一人だけ、涼やかな顔をした人物がいる。


 ――月巫女。


『私はあの女を、絶対に許さない』


 あの日、デリスが叫んだ言葉が、サラの心の中に木霊していた。


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 ようやくシリアスモード終了です。あー、しんどかった……バトルよりラブより、一番しんどいかも。悩みまくりで迷走しつつ、こんな感じで落ち着きました。この閑話のテーマは、謎解きというよりはクロル君の贖罪でした。大人の汚いとこ(壊れてくとこ)を見ても『関係無いねっ』と柴田キョウヘイ氏のように(←危ない刑事ネタ)ひねて無視してたことが、最後は雪だるま式に大きくなって……これは自分の人生でも良くあることです。見ない振りはイカンです。あと、クロル君を泣かせたかったんですよね。これが彼の人生初涙です。考えたイメージは『流れよ我が涙、と警官は言った』という好きな小説のタイトルです。常に自分を客観視する彼にピッタリだなと。侍従長、スマン。彼と赤ちゃんクロル君の楽しい話も、番外編候補棚にポイッと。
 次回は、この話のエピローグ風に。ようやく明るい雰囲気になります。補足しなきゃいけないこといっぱいあるし、二話分くらいを目安に。

第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(8)~

第三章 王位継承


 左耳の耳たぶから下、約10cm。
 今朝鏡で何度もチェックした、赤くなっているであろう場所をいったりきたり、指先でなぞるサラ。
 その正面では、魔術師長に支えられたエールが、何かを求めるように自分の左胸に手を当てている。
 サラはエールから視線を外し、右手を包帯の上へ移した。

 包帯は、ずいぶん薄汚れてしまった。
 戻ったらすぐに取り替えなきゃ。
 砂埃にまみれたこのドレスも着替えて、足にできた豆に絆創膏を貼ろう。
 先にお風呂に入らせてもらった方がいいかもしれない。

「……っく……」

 すぐ隣から、うつむき肩を震わせ、小さくしゃくりあげるルリの声が聞こえる。
 ルリの悲しみが伝播したのか、サラの胸も自然と熱くなる。

 自分がこの手を痛めて、無我夢中で飲み込ませたあの白い粒を……クロルは“毒”だと言った。
 なぜ、気付かなかったんだろう。
 あの白い粒を手にしたとき、なぜ……。

 きつく握り締めた左手の傷が悲鳴をあげても、サラは右手の力を抜かなかった。

  * * *

 広場は、沈黙に包まれていた。
 葉ずれの音も、小鳥の鳴き声も聞こえない。
 ときおりしゃくりあげる、ルリの声だけが唯一の音。

「ルリ……」

 サラとルリの間に立つリグルが、片腕で肩を支え、もう片方の手で髪を撫でる。
 固く無骨な手のひらでルリの頭をぐりぐりと。
 そのたびに、ルリのシニョンがどんどん崩れていくけれど、リグルの手は容赦無い。
 見ているだけで、その手の温もりが伝わってくるようだ。

 微笑ましい光景に心を満たしたサラは、再び正面のエールを見た。
 エールの隣へ、手前に座り込む人物へと、視線を移していく。

 魔女を見つけたかった、エール。
 エールに協力しようとした、魔術師長。
 偽の薬を渡した、医師長。
 偽の薬を作らせた、侍従長。

 彼らは闇の魔術の被害者でもあり、闇を確かに広げていく加害者でもあった。
 自分や、自分のテリトリーのことしか考えない……そんな彼らがこの国を動かしていたのだ。
 やはりこの国は、想像以上に病んでいるのだと、サラは悟った。
 だから、砂漠の国になかなか勝てない。

 砂漠の民が憧れてやまないオアシスには、水も緑も溢れているというのに……。
 足りないのは、闇をかき消す強い光。

「――ルリ! 泣くな!」

 突然、リグルが叫んだ。
 目の中に入れても痛くないほど可愛がっている妹に、初めて浴びせた叱責。
 息を呑んだルリは、驚きを隠さないまま、自分の肩を抱く大好きな兄を見上げた。
 降りてくる鋭い視線と、肩に込められる強い力に、声を失い瞬きさえも忘れる。

「お前も、王族だろう。しっかり見るんだ。そして、考えろ」

 ルリの瞳にまとわりついていた涙が、淡いピンクの袖で拭われた。
 横に居たデリスに「ありがとう、もう平気よ」とささやくと、ルリは少し足を開き、ヒールの踵で土を踏みしめて立った。
 エールの代わりに誰かが呼び起こした風の精霊が、ルリの結わえた髪の後れ毛をなびかせ、スカートの裾をはためかせる。
 口紅もお化粧も取れてしまったけれど、その姿は充分可憐で、眩しかった。

「すまん、クロル。続けてくれ」

 ルリの肩を離したリグルが、太い両腕を胸の前で組みながら、クロルに言う。
 二人の顔をチラッと横目に見たクロルは、軽く手を上げて応えると、再び目の前の標的を捉えた。

「……では、侍従長。あなたに贖罪のチャンスを与えよう。ああ、そこにいる医師長もね?」

 クロルの声に、高齢の医師長はヒィッと細い叫び声をあげた。
 彼は、エールに特別な薬を処方していた人物。
 侍従長の隣に座り込むと、神の審判を待つがごとく、両手を組み合わせ額に押し当てた。

「君たちが悪いのか、それとも他に誰か」
「――私です!」

 侍従長が顔をあげ、となりに座り込む医師団長をかばうように腕を広げたそのとき。
 ザクリ、ザクリと、土を踏みしめる音。
 音のする方向へ視線をさまよわせる侍従長は、泥に汚れた黒いブーツの靴先を見つける。
 そのまま視線をゆっくりと上げ……歩み寄る人物と視線が絡む。

「何をしたのか、言え」

 一切飾ることの無い、冷徹さを露にした声。
 クロルの脇に立ち、自分を見下ろすのは、彼が愛してやまない偉大な英雄王だった。

  * * *

 侍従長は堰を切ったように嗚咽を漏らし、両目から涙を溢れさせた。

「国王様……どうか、私をお裁きください」

 侍従長は胸をかきむしるようなしぐさをし、嗚咽を堪えながら途切れ途切れに語る。

「私はただ、あなたの世の栄華を、いつまでも見守っていたかったのです……本当に、馬鹿なことをしました」

 侍従長の手が、国王の足元へと伸ばされかけ……自嘲と共に引かれる。
 今にも指輪が落ちそうなほど、皺が寄りやせ細った指。
 まるで汚らわしいものを見るように、自分の手を見つめると、侍従長は笑った。
 それは、確かな……狂気。

「全ては私の判断……責任は、全て私に!」
「――待てっ!」

 国王が叫ぶより一瞬先に、侍従長は自らの手に嵌めていた指輪の宝石を飲み込んだ。
 うめき声1つ立てず、グラリと体を横に傾け、土の上に倒れ伏す。
 青い芝生の上に、侍従長の口から漏れ出した体液が広がっていく。
 とっさに駆け寄った国王が侍従長の体を強く揺すりながら、目の前で呆然と立ち尽くす医師長に「早く解毒剤を!」と怒鳴りつけたとき。

 彼らの背後から、天高く昇る太陽とは違う、もう一つの眩しい光が差し込んだ。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 またヒキを作ってしまいました。すみません。この話は次回でひと段落です。犯人懺悔で自害……ベタです。この話の中に、何個ベタは入れられるのだろうか。できればシチュエーションは崖の上が良かったのですが。関係ないけど、弾丸ジャ○キーという芸人さんの『崖の上のホリョ』というネタが好きです。それにしても、今回は一切楽しい展開が無かったなー。ルリちゃんとリグル君を、ちょっとだけ成長させてみたくらいでしょうか。泣いてあやしてという依存関係から、それぞれ殻破って大人の階段ちょっとずつ上ってく……そんな描写がもうちょっと上手く書ける人になりたいです。今は勘弁してください。改稿時にはもうちょいマシに……と言いつつ、書き終わったら力尽きる気も。
 次回、一応クライマックスというか、ひと段落です。その後に後日談があって、第四章へ入っていきます。クロル君にもちょっぴり成長してもらわねば。

第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(7)~

第三章 王位継承


 今、サラのグループと、エールのグループの間には、2人の男が立ち尽くしている。

 一人は、魔術師長。
 もう一人は、医師長。
 二人は対照的な表情で、クロルを見つめていた。
 強気に睨み付ける魔術師長と、落ち窪んだ瞳に陰を落とした医師長。

 クロルは、その二人からあっけなく視線を外すと、エールたちが居るグループへ声をかけた。

「皆にもう1つ聞くけど、その大して効かない薬を飲むようになったきっかけは、特定の人物に勧められたから……これはどう?」
「――黙れっ!」

 耐え切れずに叫んだのは、魔術師長だ。
 憤怒で顔を赤黒く染め、握り締めた両手をぶるぶると震わせている。

「あなたは何をおっしゃりたいんですか! 確かに私は彼らの悩みを聞いてきましたよ。体調が悪いなら薬や栄養剤も勧めました。それはあくまで、彼らのことを考えて……」
「うん、そうだと思ってたよ。だから、魔術師長はそちら側にいるんだよね……自分自身も、薬を飲まされた側に」

 クロルの視線は、徐々に鋭くなる。
 美しい花さえも凍るような、氷の微笑。

「魔術師長、あなたにも悩みがあったんですよね? だから薬を飲んでいた。それであなた自身は、自分の悩みを誰に相談したのかな?」
「それは……」

 言いよどんだ魔術師長は、頭にかぶったフードを取り去った。
 サラよりも背が低く、どちらかというと生真面目で普段は大人しいであろう魔術師長。
 エールの次に魔術に長けている人物だけあり、瞳の力は強い。
 フードを脱ぎ、日の光に照らされた瞳は、ギラギラと猛獣のように輝いて見える。

 魔術師長は、強い光を放つその瞳を、ゆっくりと動かしていく。
 自分の最も頼りにする人物を求めて……。

 その目が捕らえたのは、国王の傍に佇む、1人の人物。


「――侍従長殿! この茶番はいったい何なんですか!」


 疲れ果てた砂漠の旅人のような足取りで、侍従長がふらりと前へ歩み出た。

  * * *

 自己申告では『体調は悪くない』と主張し、サラたちのグループに残った侍従長。
 今こうして明るい日差しの下に立つと、今にも倒れそうなくらいひどい顔色をしているのが分かる。
 それでも侍従長は顔をあげ、背筋を伸ばし、クロルを正面から見上げた。
 一度歯を食いしばり、会議開始の号令を告げるかのように、張りのある声で問いかける。

「確かに私は、魔術師長の相談に乗ってきました。そこに何の問題が?」

 クロルは、魔術師長に「ありがとう、あなたはもういいや」と告げると、侍従長に真っ直ぐ向き直った。
 侍従長は、彫りの深い顔立ちを歪めるような、老獪な笑みをクロルに向ける。
 斜め上から見下ろすクロルは、そんな笑みさえも鼻で笑い飛ばすような、いつもの冷笑を浮かべている。
 先に戦いの口火を切ったのは、クロルだった。

「侍従長、あなたが魔術師長たちに、薬を飲むように勧めたんだね?」
「ええ、気持ちを落ち着かせるにも、病を治すにも、薬草の力を直接取り込むことは良い事ですから」
「では、こんなことも言ったのかな?」


『王城の宝物庫に、光の精霊を閉じ込めた宝石がある』


 サラの近くに立つ文官長が、ニヤリと笑った。
 エールの傍へと下がった魔術師長も、さすがに反発する雰囲気ではないと察したのか、クロルの発言を肯定するように軽くうなずく。
 侍従長の黒い瞳が、一気に色を失くす。

「それは……」
「この国に、そんなモノがあったなんて、僕は知らなかったよ。誰がどうやって入手したのかなあ」

 古くくすんだ木のベンチから、ぴょこんと飛び降りるクロル。
 彼の行動に、一歩二歩と後退っていく侍従長。
 その脇には、真剣な表情の魔術師長と……明らかな怯えを見せ、目を瞑る医師長。
 三人を見つめる多数の目。

 彼らの様子を黙って見ていたエールが、耐えかねたように声をかけた。

「クロル!」
「エール兄は、もうちょっと黙ってて?」

 ヒラヒラと片手を振り、にべも無くあしらうと、クロルは静かに侍従長へと近づいていく。

「もう1つ。あなたは今朝、会議が始まる前にどこで何をしていた?」

 うつむいて立ち尽くす侍従長の肩に、そっと手を触れる。
 見るものの心を射竦め、石に変えてしまう悪魔のような眼光で。

「最後の質問。あなたは昨夜、いったいどこで何をしていたのかな……?」

 侍従長は、そこで屈した。
 クロルから離れようとしてよろめき、両膝を折り、そのまま土の上に崩れ落ちた。

  * * *

 見ていた者は、何も動けなかった。
 侍従長とは旧知の仲である国王ですら、驚愕に目を見開いて事態を見守るだけだ。
 クロルの推理……いや、確信に満ちた瞳で告げられたその“事実”は、誰も覆すことができなかった。

「あなたが、ずいぶん前から三つの塔の封印を破っていたのは知っていました。特に、図書館塔の五階から、禁呪に関する書物を盗み出したのは、ずいぶん昔のことのようですね……」

 まあ、善良なあなたが独りで発案したとは思いませんが、と笑顔で続ける。
 サラは、空っぽの図書館五階フロアを思い出した。
 あの場所には、本来誰も見てはならない本が置いてあったのだろう。

「あなたは、禁呪を学んだ。忌まわしい闇の魔術に手を染めた。自らの魂を体から切り離し、人の肉体を乗っ取る……そんな危険な魔術を」

 これも、魔女の呪いなのだろうか?

 サラの正面に見えるのは、あの日の発作のように苦しげに眉根を寄せ、浅い呼吸を繰り返すエール。
 魔術師長が傍に寄り添い、エールを支えている。
 治癒の魔術も与えているのか、二人の体の間には水の膜がゆらゆらと舞っている。

 サラの隣にいるルリも、つぶらな瞳から透明な涙を流していた。
 デリスがルリの腰へと手を回し、その反対側からはリグルが肩を抱いている。
 そしてサラの肩には、今までほとんど接点の無かった文官長の手が置かれていた。

「もちろん、誰もがそんな禁呪にかかるわけじゃない。だから、それをやりやすくするための“毒”をばら撒いた」

 サラは再びエールを気にしたが、うつむいていてその表情は分からない。
 視線をその手前に移すと……座り込んだ侍従長の背中に、くっきりと背骨が浮いているのが見えた。
 この中の誰よりも、彼は痩せている。
 いつも背筋をしゃんと伸ばし、だぶついた服を着て声を張り上げているから、気がつかないだけ。
 彼の心もまた、闇に囚われているのだ。

「まあ、中には操られたことにも気付かない、根っからのお人好しも居るみたいだけどね?」

 微笑みながら、うつむき震えるエールへと視線を投げるクロル。
 サラは、無意識に手のひらを首元へ這わせる。
 虫刺されのような、赤い跡が残る場所へ。

 この小さな赤い花を残したのが誰なのか、もうサラには充分わかっていた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 だいぶ解明されてきました、王城に巣食う魔女の影……いろんな意味でキツイ話です。作者の苦悩が、お分かりいただけましたでしょうか。(←大げさ)この暗いクラーイ話の中で、救いはアロハじーちゃんこと文官長様です。もうちょっと彼のことをちゃんと書きたかったけど、今はいっぱいいっぱいさー。ああ、ギャグが書きたい……ギャグ……。では、究極の選択。エール味の侍従長(オッサン)と、侍従長味のエール、皆さんはどっちがいいですか? サラちゃんが襲われたのはエール味の方だったけど、そこに「俺が本当のエールだ!」と、オッサン侍従長が飛び込んできたら……俺がアイツでアイツが俺で。作者は見た目若い方がイイと思ってしまう愚か者です。今夜は眠ります。金と銀のコップに酒入れて街を走ります。(←マッチの歌から妄想中)
 次回は、侍従長様懺悔の回。いろんな意味でしんどい話、もうちょい続きます。ご辛抱くださいませ。

第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(6)~

第三章 王位継承


 むせかえるような花の香りが消えた広場。
 誰もが、息を呑んで彼女の伸ばされる人差し指の行く先を見守っていた。
 3cmほど伸ばされ、光沢のあるマニキュアで装飾された爪の先が、ゆらりと迷うように一度振れる。
 ダイスが転がったときの、何倍もの緊張が漂う中。

 月巫女が指したのは、彼女のすぐ近くに居た人物。

「――俺、か?」

 彼女に唯一、感情を与えることの出来る……国王その人だった。

  * * *

 月巫女は、絶対に嘘をつかない。
 それは、この場に居る重鎮たちの誰もが知っている。

「俺は、知らんぞ……?」

 国王は整えられた御髪をぐちゃりとかき混ぜた後、右手をあごに添えながら、考える人のようなポーズを取る。
 そんなしぐさも、クロルと似ているかもしれないと、サラが思ったとき。 
 月巫女は、泉に小石を落としたような、ゆるやかに広がる波紋のような不思議な音色で、ささやいた。

「あなたさまは、私をお連れになる際に、この花を踏みしだいていらっしゃいました」

 その台詞で、誰もが察した。
 この花は、精霊の森に咲く花なのだと。
 しかし、森を彷徨う中でその花を見ているはずの国王は、あっさり即答。

「残念ながら、記憶に無いな。あの時は、無我夢中で……足元に咲く花を見ている余裕など一切無かったからな」

 そうですか、と呟いた月巫女は、無表情のまま再び国王の影に隠れた。
 雲の切れ間から差し込む月光が再び雲に隠れた……そんな、瞬きする間のやりとり。
 月巫女の声を聞いたのは初めて、という人間も居たかもしれない。

 腕組みをし、そのやりとりを高みから見下ろしていたクロルは、と笑った。
 サラが『危険』と認識する、あの笑み。

「ふーん……そういうこと。まあ、構わないよ。まだカードは残ってるからね」

 クロルは、くしゃりと乱暴に前髪をかきあげる。
 十三才の少年とは思えないような、艶のあるしぐさと目つきだった。
 隠れた月の代わりに現れた、闇夜を照らすかがり火のような熱い視線に、再び全員が注視する。

 一人、サラの心はまだ赤い花にとらわれていた。
 首から上だけ左右に動かして、視界をくるりと一周させる。
 歩いて来た小道側の城内と、逆側の城門方面……建物部分の奥に、均等な感覚でそびえ立つ3本の塔が見える。
 赤い花は、闇の魔術が行われた証に咲く花なのだろうか……。

「では、話を少し戻そうか……サラ姫!」
「ファイッ!」

 突然の指名に、舌を噛みつつ返事したサラ。
 思わず額にビシリと手を当てる『敬礼』のポーズが飛び出てしまったのは、警察官である遠藤パパによるしつけの賜物だ。
 クロルは、そんなサラのリアクションに思わず噴出しかけるものの、とっさに口元を覆って我慢した。

「あー……さっきの話の続きね。エール兄が倒れたとき、飲ませた薬って覚えてる?」

 そろりと手を下ろしたサラは、右手の人差し指と親指で小さな輪を作ってみせた。

「これっくらいの、白くて丸い玉だったよ?」
「それの説明簡単にしてもらえる? 原料が何でできてるかを、ね」

 サラは、そんな大事なことを言っていいものかと、思わずクロルとエールの間へ視線を行ったりきたりさせる。
 エールがしばし逡巡したのち、苦笑しつつうなずいてくれたので、サラは言った。

「光の精霊を閉じ込めた宝石があると……それを磨り潰して混ぜたものだと聞きました」
「ありがと。じゃあ、次は文官長!」

 花畑側の集団から「ちょっと失礼」と言いつつ、小柄な男が歩み出てきた。

  * * *

 騎士たちと比べれば、高さも横幅も半分しかないような、猫背の老人。
 他のメンバーが、それなりにパリッとした衣装に身を包む中、彼は異質にも『アロハシャツ』に近いような、派手な色の薄手のシャツ一枚。
 確か、さっきの会議ではそれなりに見られる姿をしていた気がするので、会場を出るときに上着を脱いできたのかもしれない。

「昨日調べてもらったこと、言ってくれる?」

 クロルの視線が、再び鋭さを増すものの、その口調はやわらかい。
 文官長も、にいっと笑い返す。
 いたずらを企む、じーさんと孫のよう。

「まあ、簡単に言いますとな。この国……森の向こうはさておき、この半島内には“光の精霊を閉じ込めた宝石”なんてものは」

 一人の男が、叫んだ。

「――クロル王子! この茶番は何なんですかっ!」

 クロルを苦手としている……いや、そのレベルを通り越したような罵声。
 あからさまな敵意を込めて睨むのは、魔術師長だった。
 口の端を吊り上げるような、皮肉げな笑みを浮かべると、クロルは告げた。

「魔術師長殿……あなたは黙っていてくださいね? ていうか、邪魔するな」

 どうやら魔術師長は、虎の尾を踏んでしまったらしい。
 もはや隙というものを完全に消し去ったクロルは、テキパキと情報整理を進めていく。

「まず話は、先日僕たちが偶然この広場を訪れたところから始まる――」

 クロルの上げた『違和感』は、3つ。
 荒れ果てた茨の道の先に、美しい花が咲いていること。
 その花が、庭師も知らず、図書館の図鑑にも出ていないものであること。
 ここに到着した直後、エールの体調が突然崩れたこと。

「赤い花が“禁呪”がらみだってことは、すぐに分かったよ。となると、僕より何百倍も魔力が強くてネチコ……繊細なエール兄が気付かないのはおかしいなって」

 エールは、食い入るような眼差しでクロルを見つめている。
 エールの傍に居る魔術師長も、その脇に並ぶ魔術師たちも。

「おかしいことはもう1つ。同じ魔術師でも、この“闇の花”に反応する人と、そうでない人がいる……この違いは何だと思う?」

 エールも含め、誰もが顔を見合わせるだけで答えようとしない。
 『闇の花』という物を、見るのも聞くのも初めてなのだから、それは仕方の無いこと。
 そんなことを考えているのだろうか?
 彼らの表情には、覇気が無い。

 しばし答えを待っていたクロルだが、そのうち腕組みし、つま先をトントンと打ち鳴らし始めた。
 ヒントを与えられても沈黙を続けるグループに対し、クロルが溜息混じりに告げた。

「もう時間が無いし、答えは出てるからハッキリ言うね? 君たちは、エール兄と同じく何らかの薬を飲んでいる……違うかい?」

  * * *

 小道側に立つ魔術師たちは全員、自分の持つピルケースをまさぐった。
 それは、効果を信じて疑わず、当たり前のように頼っていたアイテム。
 そのしぐさだけで、クロルの推理が正しかったことが分かる。

 サラも、エールの飲んでいた薬を思い出した。
 特殊な宝石を練りこんだという、あの真珠のように輝く白い粒……。
 サラは思わず、自分の唇を指先で触った。
 まさか、と。

「その薬を飲んで、体調が改善した人って、どのくらいいるの? 居たら手を上げて?」

 エールも含め、誰一人手を上げるものはいなかった。
 ほぼ全員が呆然として、クロルを見詰め返す。
 魔術師長だけが苦々しい表情で、クロルを睨みつけていた。

 集団の奥に潜んでいた医師長が、周囲から押し出されるように、ゆっくりと前に歩み出た。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 またもや、ギリギリで改稿してしまいました。ダメだー。展開もたもたしてまう……。この辺は来月またちょっとずつ過去テキスト修正するときにチェックしなおしますわ。ついでに、前に書いたとこでデッカイ設定ミスを見つけてしまい、サクリと修正いたしました。長い話書いてたら、こんなこともあろーて……ゴメンナサイ。とりあえずこの後書きも、また後日追加するかもです。
 次回は、お薬の話とそろそろ本当に佳境。今度こそ。

第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(5-2)~

第三章 王位継承


 氷の王子クロルがねめつけるという緊張感の中、クーリッシュで氷結な生ビームをダイレクトに受けてしまった庭師の男が、おずおずと手をあげる。
 と同時に、もう1人つ手が上がった。

「クロル、俺も実は少し、気分が優れない……」

 サラのすぐ傍にいたエールが手を上げながら、クロルに近づこうと歩き出した。
 とっさにその腕を掴んだサラに、心配無いというように、エールは心臓の位置を軽くトントンと叩いて笑みを向ける。
 あの時とは違う、強がりや自嘲ではない……しなやかな強さを感じる笑みだった。
 サラは、右手の力を抜いた。

  * * *

 結局この探検には、広間に集まっていた臣下たちの半分近くがついてきてしまったので、誰がどこにいるやらさっぱり分からない。
 それでも、人の頭越しに指輪のついた細い手ばかりが見えれば、違和感は強まる。
 パラパラと手が上がるのは……ほとんどが、魔術師だった。

「じゃあ、気分が悪い人たち、こっちに集まってー。元気な人はこっちね!」

 クロルは、まるで夏恒例の高校生クイズ大会のように、この団体を2つに分けた。

 お花畑側にいるのが、健康グループ。
 通り道側にいるのが、不健康グループ。

 もちろん、健康グループの中にはサラも含まれている。
 サラの両隣には、リグルとルリ姫、その隣にはデリス。
 国王と月巫女も、クロルの立つ高台から一番離れてはいるものの、健康な側に来ているようだ。

 時は午の刻。鶴翼の陣。
 向かい合う敵の軍……ではなく、不健康グループの顔ぶれを、サラはじっと観察した。
 人数的には、今回のお散歩ツアー全体の1/4程度だろうか?
 魔術師達の黒っぽいローブで占められる中に、文官や医師、侍女がチラホラと混じる。
 さすがに屈強な騎士たちは1人も居ないようだ。

 一匹狼のように、1人だけ群れから離れたクロルは、高みから全員を見渡す。
 整然と並び対峙する2つのグループの片方に、クロルは次の質問を投げた。

「じゃあ、元気な皆さん、彼らをみて何か気づくことはあるかな?」

 サラの隣に居たリグルが、声を上げた。

「そりゃ、すぐに分かるぜ? あいつら痩せすぎだ。もっと食って運動しないとダメだ!」

 この先もし俺が国王になったら……と演説を始めかけるリグルをまあまあと宥めて、クロルはくるりと逆側を向く。
 エールたちの居るグループに、もう1つ質問を。

「気分の悪いところで、考えさせて申し訳ないけど……君たち、いつからそんなに痩せ始めたの?」

 痩せ細った魔術師たちは、隣近所と相談しはじめる。
 内気な人物が多いのか、ヒソヒソと意味を成さない声が漏れるだけで、誰も意見を言わない。
 エールは自分の中で回答を得ているようだが、やはり理由を慮っているのか、眉根を寄せて口をつぐんでいる。
 どうやらクロルのことが相当苦手らしい魔術師長も、憮然とした表情で黙り込んだままだ。

 サラは、先ほどまでの楽しいお散歩タイムを思い出していた。
 強まる日差し、やわらかい土の匂い、そして芳しい花の香り、そして……人いきれと、緊張。
 楽園の姿は、まったく変わらないのに。
 ほんの少しの時間で、なぜこんなにも雰囲気が変わってしまったのだろうか……と。

  * * *

 ジリジリとした日差しに目をやり、額に浮いた汗を拭いながら、クロルは唐突に叫んだ。

「サラ姫っ!」
「――ハイッ!」

 いきなり矛先を向けられ、先ほどのリグルよりも早く鋭く、手を上げながら返事をするサラ。
 クロルは、ビビリまくりなサラのリアクションにニヤつきつつ、話を先へ進めていく。

「この前、サラ姫がエール兄と2人でここに来たときのこと……前半は、覚えてるよね?」
「うっ……うん」

 後半は、覚えていない。
 いや、思い出したくない……。
 サラは、なんとなく左手がズクンと痛みを放ったように思えて、胸の前で両手を重ねた。
 まるで無垢な乙女が祈りを捧げているかのようなサラの姿に、周囲の緊張は少し和らぐ。

「エール兄が、体調を崩す前に、何かキッカケは無かった?」

 サーモンピンク色の妄想に陥りかけるサラを、かろうじて現世に留める質問。
 思い出したくない部分をごっそり削って、サラは唇を尖らせながら思案する。
 サラの視線は、記憶をたどるようにクロルの元へ移っていく。

 あのときは、2人でまずあのベンチへ座ったんだ。
 少し会話して、そのときはまだそれほど……発作の兆候のようなものは無かったように思う。
 エール王子が倒れたのは、その後すぐだった。
 確か、あれは私が……。

「エール王子が、私がうっかり足から飛ばした靴を拾ってくれて……」

 高台の上から、見事に転がって行ったシンデレラの靴。
 冷徹な仮面をかぶった王子さまが、心底愉快そうに笑いながら拾って、わざわざ履かせてくれた。
 でも、まさか……。

「私の、足のニオイがっ?」
「飛ばしたって、どこに?」

 サラの推理にかぶさった、クロルの冷静な質問。
 青ざめかけたサラは、一気に赤くなりながら自分の足元を見やる。

「ちょうど、このへんかなあ」

 サラは、今まさに自分が立つ花畑の傍を指した。
 ありがとうと笑うクロルは、満足気にうんうんと何度もうなずいた。

「――エール兄、みんなを楽にしてあげて?」

 もう全て分かったというように、エールは一度鋭い目つきをすると、無詠唱で魔術を発動した。
 全員が、思わず顔を背けるほどの……強風。
 城の側から吹き付ける風は、充満していた花の香りを吹き飛ばしてしまった。

  * * *

 赤い花がゆらりと風に揺れ、重そうに頭を垂れる。
 エールは、手のひらを真っ直ぐサラたちの方へ伸ばしたまま、日差しの熱を奪い去らない程度の微風を送り続けている。
 このくらいの魔術なら楽勝なのか、花の香りが消えたせいか、青白かった顔には生気が戻っていた。
 ホッと息を漏らしたサラは、再びクロルの行動に注目する。

「ところで、庭師に聞きたいんだけど、この赤い花……なんて花?」

 サラも含め、全員の視線が花畑へ向けられた。
 サラ自身は、この世界の花に詳しくないので当然分からないが、特別目立つような特徴は無さそうな花だ。
 形や大きさとしては、チューリップに近いのだけれど、より花弁が多く平たい。
 赤く大ぶりの花の合間に見える白や黄色は、別の種類の花で、もっと1つ1つが小さく群れている。

 例えるならば、赤いドレスの派手な女豹集団と、その影に隠れるワンピースの少女たち……。
 もしくは、貴族婦人の集うパーティと、その合間でせっせと働く多数の侍女。

「あの、オレ……ワタクシにも、良くわからないのですが……」

 遠慮がちに答えるのは、背中を丸めた初老の庭師。
 白や黄色の小さな花は、この国でよく見かける雑草の一種だと言った。
 サラに向けたのと同じように、ありがとうと笑ったクロルに、庭師の男は汗だくでうなずく。
 きっと彼が女性だとしたら、墓場まで大事に抱えていくだろう、完璧王子なキラキラ笑顔。

 庭師でさえも知らない、不思議な花……。
 サラが再び斜め後の花を見つめようとしたとき、クロルの低い声が響いた。

「この中に、誰かいるんじゃないかなー。この花が何だか知ってる人。さ、正直に手を上げて……?」

 それまでとは違う、地の底から発せられるような、凄みのある声色だった。
 言葉に込められた悪意が、その場の温度を下げ、全員の心を瞬時に凍らせるような。
 それでも、名乗り出る者は現れない。

 クロルの視線は、ある一点に向けられる。
 花畑の右隅、クロルからもっとも遠い場所に居る、1人の人物を。

「あなたには、もう分かってるよね……月巫女さん?」

 サラも含め、ここに居る全員が一斉に彼女を見た。
 国王の立派な体躯に隠れるように佇む、儚げな1人の美女。
 銀色の美しい髪は、太陽の光に負けているためか、純白に近い色に見える。

 彼女は、人の心を持たない女神。
 クロルの問いかけにも、強すぎる視線にも、我関せずとばかりに透明な視線を投げ返すだけ。
 そこに人の色を加えられるのは、たった1人の人物。

「――月巫女」

 国王が、斜め後ろの月巫女を見下ろしながら、ただ一度名前を呼ぶ。
 その瞬間、彼女の体がぴくりと震えるのが分かった。
 ローブに包まれた彼女のか弱い腕が滑らかに持ち上がり、力なくしおれた手のひらは何かを指し示すように人差し指が立ち上がっていく。

 これから、審判の時が来るのだ。
 サラは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 ゴクリ……と、また変にヒキを作ってしまいスミマセン。とりあえず赤い花の秘密はちょっとだけ解明。予告通りとはいえ、チマチマ進んでおりまする……。サラちゃんの小ボケでなんとか空気を軽くしつつも、どよんとよどんでいる広場。そのうちスッキリ靄が晴れますので、もう少々お待ちを。分かりにくいとこ補足です。午の刻は、お昼12時のことです。鶴翼の陣は、文字通り鶴が翼を広げたような形。戦国シュミレーションゲーム好きにはお馴染みの陣形ですが、作者はこの手のゲームで全国統一できたためしがありません。どんな陣でも負けます。戦闘中に武将がどんどん「討ち死に!」って報告されて、総大将ほうほうのていでピューと逃げるの繰り返し。人生全てそんな感じですが、細々と生きております。
 次回は、赤い花の謎解明編……つか、いろんな謎をジャンジャンバリバリ解明していきたいです。

第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(5-1)~

第三章 王位継承


 愉快な散歩道は、それほど長くは続かなかった。
 すぐ脇で繰り広げられるバカ騒ぎも耳に入らないのか、うつむきながら額に手を当てるテレビドラマの警部ポーズで歩いていクロルが、サラの右手をクイッとひっぱった。

「そろそろ、目的地に着くよ。ほら、見えてきた」

 先頭集団の瞳が、鮮やかな赤を捕らえた。

  * * *

 木漏れ日の当たる小道が途切れ、突然目の前に広がったのは、明るい日差しと赤い花を中心に様々な花が溢れる広場。
 しゃべりながら来たせいもあるが、本当にあっという間だった。
 時間にすれば5分もかかっていないように思える。
 中庭に出るとき、楽チンなぺたんこ靴に履き替えたサラは、用意してくれたデリスにあらためて感謝した。

 大きく深呼吸するサラの隣で、あの日はパニック状態だったルリがほぅっと吐息をつく。

「すごい、花の香りね……」

 小道の途切れた先は、ほんの少しなだらかな芝生、そのの突き当たりには、強い香りを放つ小ぢんまりとした花畑、左手には木のベンチと古いブランコの置かれた小さな高台がある。

 陽だまりの中で、咲き誇る花々。
 遠くには小鳥のさえずる声と、葉ずれの音。
 サラはまるで楽園のようだなと、あの日も、そして今も思った。

 続々と到着する同行者たちも「こんな場所があったとは」と驚きの声を上げる。
 そんな中、デリスがぽつりと呟いた。

「ここは……まだ、残っていたんですね」

 筋張った手のひらで口元を覆い、懐かしむような悲しむような表情で立ち尽くすデリス。
 サラが質問しようとしたとき、クロルは「じゃあ、そろそろいいかなー」と言いながら、サラの手をポイッと離した。
 相変わらず気まぐれで考えの読めないクロルは「皆もっとこっちに来て」とヒラヒラ手を振りながら、ツアコンのように全員を広場の中まで先導する。

 サラはもちろん、王子や重鎮たち、しんがりを守っていたらしい国王もついていく。
 全員が広場におさまると、かなりギュウギュウだ。
 その集団から1人飛び出したクロルは、サラとエールがほんの少し語り合った、少し小高いベンチのある場所へ進んでいく。
 泥で汚れた靴のまま、遠慮なく椅子の上に飛び乗ると、全員の表情を見渡した。

「父様も……うん、全員揃ったよね?」

 じゃあこれから皆に問題を出すからと、クロルは笑顔で告げた。
 明るい日差しを受ける美少年……なのだが、どことなく違和感があるのは、きっと瞳が一切笑っていないからだろう。
 
「まずは、最近この場所に来たことある人ー?」

 クロルが「あ、僕たちは別だよ」というと、ビシッと手を上げたリグルが「先に言えよ!」と恥ずかしそうに引っ込める。
 リグルの遠吠えを聞き流すように、クロルは顔を王城側へ向ける。

「庭師サンは?」

 小道の出口に、遠慮がちに立っていた小柄な男が、クロルの鋭い視線を受けて、怯えたようにブンブンと首を横に振った。

「ふーん、来てないんだ。ま、そーだろうね。あの茨の道、久しぶりに人が通るって感じだったし」

 庭師と呼ばれた初老の男は、重鎮たちに注目される中、日に焼けた顔を真っ青にしている。
 サラの居る場所から見ると、その男は国王と月巫女のすぐ脇にいる……そのせいもあるのかもしれない。

「じゃあ、気分が悪くなった人、吐きそうな人、いたら正直に手を挙げてー!」

 またまたツアコン風に、高らかに声を上げたクロル。
 全員が、その意図のカケラすら推し量ることができず、ただクロルの微笑を見上げていた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 ごめんなさい、今回の話ギリギリで続き書き直すことにしました。短くてスミマセン。なんか、話がどんどん説明調になってしまい……頭が溶けてるせいもあると思います。祝100回のはずが、呪100回に……キ○コさんが行列でこないだそんなベタなマチガイをしたと言って、シンスケにボコボコにされていた、あれを笑った呪いだと思います。
 次回は、ちゃんとしっかりクロル君の質問編です。すみませんー。

第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(4)~

第三章 王位継承


 黄泉への塔、頂上近く。
 クロルは、3人を手招きすると、その窓から身を乗り出した。
 風に煽られて、薄茶色の前髪がふわりと浮き上がる。
 形の良いおでこは、リグルにピンピン弾かれたせいか、少し赤くなっているようだ。

 クロルは、昼寝から起きて伸びをする猫のように、気持ち良さげに目を細めながら空をみやる。

「みんな、見てみなよ。3つの塔からつながる、三角錐の頂点に何があるのか」

 窓辺からクロルがぴょんと飛び退いたので、3人は顔を見合わせると、おずおずと前に進んだ。
 ある程度近づくと、石の枠で切り取られた額縁の内側、ちょうど左右の端に煙突のようにそびえ立つ2本の塔が見えてきた。

 石が抜かれただけのシンプルな窓は、3人横並びになるとぎりぎりくらいの幅だったが、それでも充分すぎるほどに景色は堪能できる。
 三角錐の頂点を探す3人の中で、1人口を開けて空を見上げたリグルに、エールは「バカ、闇の魔術なら下だろう」と諭す。
 「そんなの分かってるよっ」というリグルの負け惜しみな遠吠え。

 普段なら大いに笑うだろうそのやりとりも、真剣なサラと1人考え事の続きをしているクロルは、右から左へ受け流す。

 2つの塔の中心に、真っ直ぐ線を引いてみると、ぶつかるのは中庭の森だ。
 その森はいびつな楕円形に広がっている。
 今度は、今自分が居る場所との距離を測り……。

 視力が良いサラが目を凝らすと、架空の線上に何か小さな赤色が見えた気がした。
 サラは、もう少し、と石の上に身を乗り出す。
 隣にいたリグルが、慌ててサラの腰のあたりを支える。
 くすぐったがりのサラも、黒騎士モード並に集中しているため気づかない。

 その瞳に飛び込んで来たのは、赤い色の……花。

 お茶会をしたバラ園のバラは、赤くなかった。
 ルリ姫は、パステルカラーが好きだから、白、黄色、ピンクのバラで埋め尽くされていた。
 だとしたら、あの赤は……。

「エール王子の、隠れ家……?」

 呟いたサラに、クロルはもう何度目かの「さすが僕の嫁!」という決め台詞を言った。

  * * *

 サラたちは、いったん会議の行われたホールへ戻った。
 城内にある塔はさておき、中庭に出るには一応国王の許可を取った方がいいだろうと、エールが提案したためだ。
 便乗するように「ついでに連れていかなきゃいけない人も居るしね」と、クロルは頭の後ろで手を組みながら、楽しそうに言った。


 ホールに戻ると、そこにはまだ会議参加者ほぼ全員が揃っていた。
 とっくに解散していると思った4人が呆気に取られると、国王があっさり答えた。

「クロル、お前が何かやらかすだろうと思って、皆を待機させていた。さて、今度はどんなショーを見せてくれるんだ?」

 洞察の鋭さに、クロルはお手上げのポーズをする。

「さすがに全員連れてくのは無理。各部門長と、力の強い騎士と、魔術師……は、防御系が強い者。あとは医師長と医師数名、デリスと古参の侍女が数名……ああ、当然父様と、そこに隠れてる国王の守り手サマもね?」

 舞台の袖に立っていた、無表情の月巫女を見ながら、クロルはギラリと瞳を光らせる。
 あからさまな侮蔑を込めた目線に、サラたちは焦り、国王は渋い表情をする。
 当然月巫女は意に介さず、長い髪を揺らしながら「わかりました」と頭を下げた。

 全員が、何事かと不審げにささやき合いつつも、クロルに付き従う。
 その理由は、先ほどの会議で感じた王者の風格からだろうか。

 サラは、皆の先頭を歩くクロルの隣で、その整いすぎた顔を観察した。
 クロルが国王に似ているなら、やっぱり彼自身が王になるよりも、リグルのサポートが向いているように思った。
 クロルは誤解されやすいから、人当たりのよいリグルが表に立つなら、悪いようにはならないだろう。

 賢いクロルは、1人で何でもできるように見えて、本当はそうじゃない。
 国王が月巫女に頼ったように、彼にはきっと傍に居てくれる、絶対的な信頼を寄せられる誰かが必要なのだ。
 そして、いくら望まれても、自分が一緒に居てあげることはできない……。
 当たり前のように握られた右手の熱さを思いながら、サラは小さなため息をついた。


 クロルの先導に従い、王族と重鎮ご一行さまは中庭へとたどり着いた。

「さ、ついたよ。とりあえず皆が楽に通れるくらい、木々に退いてもらえるように言ってくれない? この方角にね」

 声をかけられた魔術師長は、あからさまに無視。
 エールが「俺からも頼む」と言うと、苦い表情で部下達に指示を出した。
 すぐに、数名の魔術師による詠唱が始まる。
 心地よい風に乗るハーモニーに、サラは思わず聞き惚れた。

 魔術師ファースの呪文もそうだった。
 サラは、魔術を少しは感じ取ることができる。
 それが風や木の魔術だと、なんだか心地よく感じるようだ。

 目を閉じて詠唱を堪能していたサラ。
 気づくと、目の前の森にはまっすぐな一本道ができあがっていた。
 生えていた木々は一度別の場所へ移され、また元通り復元されるという。

 2人並べば窮屈だけれど、それでもあの迷路よりは全然マシだ。
 サラが迷いに迷ったくねくね小道は、人為的に作ったものではなく、さまざまな木々が増えていったら自然とああなったみたいよと、ルリは言っていた。
 きっと建て増しを続けた、田舎の温泉旅館のようなものなのだろう。

 この小さな森の地図を持っているのは、ルリ姫と1人の庭師だけ。
 ナイショの密会場所を見つかりたくないという、ルリの可愛らしいわがままによって、この森はほとんど人が立ち入らない、自然の溢れるオアシスとなっていた。

 そして、ルリのバラ園は、その庭師が定期的に管理しているという。
 そこまでの道のりも、最低限は整備されるようになった。
 ただし、エールの隠れ家は、その奥に埋もれてしまった。

  * * *

 先頭を歩くサラの隣、右手を繋いで楽しそうに鼻歌を歌いながら歩くクロル。
 サラたちのすぐ後には、仲良し兄弟のエールとリグル。
 その後ろは、ルリ姫とデリス。
 侍女たちは適度に散らばっているため、デリスの後ろには名前も知らない魔術師のローブがチラリと見える。

 国王はずいぶん離れた場所に居るようで、サラが目を凝らしても、その姿はまったく見えない。
 きっと、月巫女あたりと歩いているのだろう。
 クロルやデリスがここに居るから、なるべく近づけないように配慮したのかもしれない。

 きょろきょろと後方を気にしつつ歩いていたサラは、うっかり木の根っ子につまづきそうになり、クロルの手に助けられた。
 「ありがと」と言っても「あー、うん」と、意識を飛ばして思案中のクロル。
 やはりコイツは反射神経が良いな……と、黒騎士サラは眉をキリリと吊り上げた。

 慎重に木の根を避けながら歩きつつ、あの荒れ果てた茨の道を思い出したサラ。

「こんなことが魔術でできるなら、エール王子もあの茨の道でやってくれれば良かったのに」

 くるりと頭だけで後ろを向くと、ちょっとしたイヤミを言った。

「いや、すまなかった。元々俺は補助系魔術が苦手だし、あの時は体調が悪くて……」
「けっこう元気に見えたわよ? エール兄。サラ姫を奪うように連れて行ったから、ビックリしちゃった」

 後方からルリが会話に加わってきて、エールの旗色は悪くなる。

「そう、だよな。どうかしてたな、俺は……」
「ありゃあ確かにエール兄らしくなかったよ。ずっとサラ姫にそっけない態度取ってたのに、いきなり小脇に抱えて走り去ったからビックリしたよ」

 便乗してきたリグルが、あの日のエールの態度を3割増しくらいで語る。

「しかも、そのあとサラ姫にくち」
「リグル!」
「わあーっ!」

 エールとサラは、同時に叫んだ。
 むっつり膨れたリグルが、昔埋めた宝物を必死で掘り返す犬のように「あのときのエール兄はズルイ」と騒ぎ始める。

「何がズルイんですか? リグル様」

 垂れ下がった瞼の奥に隠れたつぶらな瞳をギラギラさせる、情報屋ばーちゃんことデリス。
 サラとエールは一瞬顔を見合わせると、「なんでもないから!」と同時に叫び、ハッピーアイスクリーム。

 2人の頬がじわじわとピンクに染まっていくのを見ながら、デリスは「そういえば、私にもそんな時代がありました」と意味深な感想を述べた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 尺の問題で中途半端なとこで切れてしまいました。スミマセン。前半で、塔の謎解明。後半はしょーもない(いつもの?)コメディとなりました。なんかエール君イマイチ地味っぽいけど、長男ってそんなものではないかと思う作者。1人美味しい思いしたし、このくらいでちょうどいいのかも。そしてリグル君は、この閑話中は完璧な犬です。ゴメンよ。でも息抜き係に重宝……。デリスばーちゃんにも、昔は頬を染め合う相手がいたようです。それは番外編で……って、この話いつ終わるかもわからんのに、番外編のネタばかりがたまります。今回の補足懐かしネタは『ハッピーアイスクリーム』って、ご存知の方は何才くらいまでかなあ? タイミング良く同じ台詞を言ったら、すぐ『ハッピーアイスクリーム』と言うと、先に言った方がアイスをおごってもらえるというゲームです。ちなみに作者は、アイスをおごってもらったことはありません……。
 次回は、エール君の隠れ家編。今回大人しかったクロル君ですが、到着してからはエラソーに仕切りまくり予定です。あっ、次は記念すべき100回目! でも内容はいたって地味……。

第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(3)~

第三章 王位継承


 行きとは違い、帰りはゆっくり歩くクロル。
 目的を達したからというよりは、何やら深く考え込んでいるようで「どーしよっかなあ」という独り言が飛び出す。
 あわや階段を転げ落ちるのではないかと思うほど足取りがおぼつかないので、リグルとエールが前後を挟む。
 1人仕事の無くなったサラは『行きはよいよい帰りはこわい~』と、童謡を口ずさんでいた。

 そんな中、リグルは課題として与えられていた質問の答えを導き出そうとしていた。

「魔術の現れる場所、だったよな……確か、三角形の……」
「うん、もういいやリグル兄。僕から話すよ。時間無いし」
「あっ、てめー、俺が今まさに芸術的な解答を言おうとしたときに!」

 クロルが「ちょっとここで待って」と足を止めたのは、物見の塔の、ちょうど4階と5階の中間にある、窓際の踊り場だった。
 サラは「この高さから落ちたら、さすがに……」と思いつつ、あまり下を覗き込まないように遠くの風景だけを見た。
 円形の塔の窓は、あらゆる方向へと開けられているが、今サラたちがいる角度だとちょうど広い中庭が目に入る。

 サラは、汗ばんだ体を冷たい風に当てながら、漠然とした不安を感じていた。
 この先何か、悪いことが起こるのではないかと。

  * * *

 ビルに換算すれば、10階建てくらいだろうか?
 あれだけ広く感じた森も、小ぢんまりとした深緑色の塊に見える。
 森をじぃっと見ていたサラは、自然とその中で何があったかも思い出した。

 サラはさりげなく、エールの顔を盗み見た。
 高く形の良い鼻と、案外長い睫に目が留まる。
 吹き込む風に目を細め、煽られた黒髪をかきあげるその姿は、なんともセクシーだ。
 普段は不健康極まりないと感じる肌の白さも、こうして黒いローブを脱いで明るい光の下で見るなら、あまり気にならない。

 月光を浴びていた昨夜は……。
 いや、あまり思い出さない方がいいかも……。

 今朝、リコから「虫刺されですか?」と無邪気に訪ねられた首元に手を当てたサラに、「ねえ、聞いてる?」とクロルの冷静な声が飛んだ。

「サラ姫は、なーんにも知らないだろうから、簡単に言うよ?」

 クロルの台詞に、サラは『気をつけ』の姿勢をとり、授業へ集中する子どもと化す。

「魔術に必要なアイテムのことは、この前話したよね。詠唱をする魔術師が居て、精霊を呼び出す贄があって、精霊をぶつける対象物がある」

 より分かりやすくなるよう、クロルは自分の唇と、指先の指輪を示し、手のひらから小さな炎を出した。

「この3点を、線で結ぶと何ができる?」

クロルの唇、指輪、指輪の位置より少しクロル寄りにフワリと浮いている炎……。

「正三角形?」
「そう、正解。これでリグル兄と同じ学年に飛び級だね」

 さりげなく嫌味を混ぜ込みつつも、怒るリグルをかわしてクロルは説明を続ける。

「じゃあ、もしもこの形を崩さずに、この炎をもっと高い位置に出したいと思ったら、どうすればいいかな?」

 三角形の一辺が伸びれば、正三角形は崩れてしまう。
 だったら……。

「分かった! 杖を使えばいいのね? 杖の先から炎を出せば、より高くまで飛ばせるから」
「うん、それも当たり。さすがサラ姫、僕の嫁っ!」

 褒められて喜ぶサラは、いちいち語尾につけられた言葉に引っかかるものの、クロルの説明が続いたのでそのままスルーした。

「ちょっと補足すると、遠くに出すってことは、その分威力が弱くなっちゃう。だから杖より指輪の方を好む魔術師も多いね。自分の手元に一度出してから、どこかへ動かすのが一般的かな。あとは風の魔術とか、呼び出しちゃえば勝手に動いていくものもあるね」

 ふーん、とうなずきながら、サラはクロルの出した炎がゆるゆると窓の外へ飛んでいき、壊れて消えるのを見守った。

「あ、力のある魔術師は別なんだ。召喚の言葉が届く距離までは、どんな角度にでも魔術を伸ばせる。あの魔術師ファースなんかは、召喚の声そのものを風の魔術に乗せて飛ばすことができるから、恐ろしい規模の魔術が生み出せる……らしい」

 確認するようチラリと視線を送るクロルに、エールは「ああ、そうだ」と掠れ声で告げた。
 魔女の正体が分かってからというもの、師匠への誤解もとけたようで、少しバツが悪そうに頬を膨らませる。
 いつも大人びて見えたエールの少年っぽさに触れて、サラはおばあちゃん気分で目を細めた。

「では、リグル兄に出した問題ね。今僕が出している炎の魔術だけど、精霊はいったいどこから出てくるでしょうか?」

 クロルは、「ヒント」と言ってもう一度自分の手のひらから、小さな炎を出してみせた。
 サラは、明るい日差しの下で揺れるオレンジの塊に目を凝らした。

「手のひら、じゃないの?」

 残念、と笑うクロル。
 リグルはうーんと唸り声を上げたあと、ぱあっと明るい笑顔を作った。

「俺、分かった! ここだよ、ここ!」

 リグルが指したのは、何も無い空間。
 サラが首を傾げると、クロルは驚いたように「リグル兄、頭使おうと思えば使えるんだね」と言ったので、2度目のデコピンを食らった。

  * * *

 痛いよと涙目になりつつも、クロルはサラにきっちり説明する。

「この三角形を、立体にした頂点、正しくは魔術師の見つめた点から精霊は出現する。ちょうど正三角錐の形になると、魔術は最大限の力を発揮するんだ。この形が崩れると、威力は減っちゃうんだよね」

 そういえば、リコやナチルたちが魔術を発現させるとき、どこか空を見ているように思ったけれど、それは正三角錐を作っていたのだろう。
 サラは、目に見えない魔術のカラクリを知って、感心のため息をついた。

 魔術については、砂漠の王宮で浅く広く教わったけれど、所詮は時がたてば忘れてしまう程度の知識でしかなかった。
 こうして実体験が伴わなければ、知識とは身につかないし、役に立たないものなのだ。
 実際地球の知識も、お腹が減ったときの料理レシピやら、朝日で体内時計リセットやら、おばあちゃんの知恵袋的発想しか活かされないし……。

 クロルなら、魔術じゃなく、科学とか電気を利用した地球の生活について、すごく関心を持ってくれそうな気がする。

 今度話してみようかな。
 私がホームシックになるのを心配して、自分からは聞きだせないだろうし。
 でも、一度話すとものすごーくしつこくまとわりつかれそうな気も……。

 サラの思惑など知らず、ふざけた口調や笑みを消したクロルの説明は、佳境へと向かう。

「この法則を応用した魔術もいくつかあってね。ま、たいていは禁呪と呼ばれるやつなんだけど」

 そこまで言うと、クロルは不意に3人から視線を移した。
 吸い寄せられるように、クロルの見つめる先を追う。

「例えば、本来精霊を出現させるべき場所に、逆に人間の魂を送り込んだり、閉じ込めたりできる……それも禁呪の1つ」

 広がる青空と降り注ぐ太陽に、窓辺に立つクロルの髪は薄茶色を通り越して金色に見える。
 クロルは、手が汚れるのも構わず、その窓に両手をついて少し爪先立ちする。
 そのまま羽が生えて飛んでいきそうだなと、サラは思った。

「暗闇の塔、閉ざされた塔、黄泉への塔……どうしてこの城には、同じ距離に、同じ高さの塔が3つあるのかな」

 ポツリと呟くクロル。
 クロルの横顔に見とれていたサラの体に、ゾワリと悪寒が走った。
 3つの塔の最上部から、何かを拾い集めていたクロル。
 先ほど、サラがチラリと見てしまったものは……。

「髪の毛……」

 それは、呪いのワラ人形に詰め込むもの。
 心の中で、サラが密かに恐れるアイテム。
 強い魔力の象徴であり、体から離れれば魔術の媒介にもなることは、この国へ来て初めて知った。

 サラの漏らした言葉から、何かを察したエールが、震える声で呟く。

「まさかこの塔を使って、禁呪が……?」

 オカルトが心底苦手らしいリグルは、再びエールの腕にしがみついた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 魔術の設定、だんだんヤヤコシヤーって感じになってきました。ゴメンナサイ。三角錐って単語使ったの、考えてみたら学生以来でした。幼少期から100%文系の作者でしたが、算数がこんなところで役に立つとは! 学生の皆さーん、興味ないことでも勉強しておくと、後々何かの役に立ちますわよー……というコメントと、文中でサラちゃんが言ってることは矛盾? そして、この物語をガッツリ読んでくれてる方には「これを読んでも、将来何一つ役に立たないかもしれない」という覚悟で、あくまで自己責任で読まれるようお願いいたします。昭和ギャグは、オッサンとの円滑なコミュニケーションにお役立てください。サラちゃんが歌ってる『とおりゃんせ』は、一番怖い童謡だと思う作者……帰り道は注意せなアカンという『高名の木登り』(徒然草)程度の意図です。
 次回、禁呪の話はオシマイで、4人はようやく会議室へ戻ります。今度はこの国の重鎮達をみんな巻き込んでの後半戦。

第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(2)~

第三章 王位継承


 サラの手が触れた瞬間、その黒ずんだ壁には光の亀裂が入った。
 亀裂が形作ったのは、ちょうどひと1人が腰を屈めてくぐれるほどの、小さなドア。

「ああ、やっぱりね」

 再び瞳を輝かせるクロルと、目を丸くしてドアを見つめるエール、何が何だか分からないといった表情のリグル。
 サラは、会議中に飲んだお茶が一気に下腹部へ集まるのを感じたが、おトイレに行きたいなんていえる雰囲気ではない。
 授業中にもじもじする内気な生徒を心の中で蹴飛ばして、サラは下っ腹から気を逸らすように言った。

「これって、魔術の封印?」
「うん。このしかけを最初に作った魔術師は、かなりの力があったんじゃないかと思うよ。元々壁だったところに、魔術のみで細工したみたいだから」

 ありがとうと言いながら、サラの手を一瞬キュッと握ったクロルは、当たり前のようにそのドアを押し開けた。
 ドアの先に続いていたのは……階段。
 ただし、石で岩を削ったような、緩やかなスロープのような小道で、人が1人通り抜けるのがやっとという狭さだ。

 クロルを先頭に、サラ、エール、リグルの順で、薄暗い通路の中を体を縮めながら上っていく。
 魔術に関する話を聞けば聞くほど、魔力も魂も持たない相手を操作することが難しいのだと分かる。
 だからこそ、魔術のみでこの洞穴の道を掘り進んだとしたら、かなり恐ろしい。
 誰かの血液や生命……そんなものを、贄として使ったのではないだろうか?

「――むぎゃっ!」

 考えながら歩いていたサラは、鼻の先をクロルのお尻にぶつけた。
 涙目で覗き込んだ先にあったのは、行き止まりだった。

 そこでもクロルは「あった」というと、何かを拾って再びもとの部屋へ。
 振り向くのが難しい狭さなので、後ろ歩きになりながら慎重に……と思った矢先に、帰り道先頭になったリグルが豪快に転んだ。

  * * *

 ここまで来ると、さすがに察しがついたのか、エールは言った。

「次は“物見の塔”か……?」
「うん、正解!」

 クロルは笑う。
 エールは……開かずの間に着いたとき以上に、顔色を悪くしている。
 1人着いていけないリグルは、不機嫌そうに叫んだ。

「早く俺にも分かるように説明しろって!」
「あ、リグル兄は、さっきの問題まだ答えてないよね。それが分かったら教えてあげる」

 勢いを削がれたリグルが「さっき? 問題? 魔術が……なんだっけ?」と呟く中で、4人は最後の場所へと走った。
 王城に来たばかりのサラにも、うすうす分かってきた。

 この城には3つの塔がある。
 城門を正面にして、右手には図書館塔。
 一番奥には、開かずの間のある閉ざされた塔。
 左手には、エールの言う“物見の塔”があるはず。

 3つの塔の最上階が、サラの力を使わなければ開かないくらい強い結界に守られているということは、これから行く塔でも同じことがあるのだろう。
 エールの顔色の悪さを気にしつつも、サラは全力で走った。


 物見の塔には、部屋は無いようだ。
 吹き抜けになった円形の塔の壁には、ただぐるぐると渦を巻くように、らせん状の階段が続いている。
 壁からはガッシリとした鉄板が突き出し、細い手すりがついただけのシンプルな階段はスカスカで、高所恐怖症の人間には耐えられないだろう。
 幸いサラは、ジェットコースターなど、この手の怖さは大好きだ。

 カンカンと乾いた音をさせながら、4人は階段を昇っていった。
 サラの右手は、クロルにつながれたまま。
 2人並ぶのはキツイ幅なので、斜め後から引っ張られるようにして歩く。

「ここに来るのは初めて? サラ姫」

 すぐ後にはリグルが居て、少しワクワクしたように声のトーンをあげながら話しかけてくる。
 サラがうなずくと、リグルは「俺、ここお気に入りなんだ」と言った。

 壁はランダムに石を抜いてあり、いわゆる“物見”をするための穴が開いていて、その窓の手前だけはちょっとした踊り場的なスペースが作られている。
 単調な階段は辛いけれど、次々と違う景色が見えてくるので、上っていて飽きない。
 リグルと同じく単純なサラは、なかなか素敵な場所だなと思った。

 物見の塔の階段を昇りながら、リグルはクロルに向かって「お前、そーいやこの間ここでサボってたなあ」と言った。
 クロルは首から上だけ振り返って、サラを見つめると、「もう少し進んだら説明するよ」と言ってウインクした。

 4階分の長い階段を上り詰めた頃から、視界を遮るものは無くなり、展望台のように素晴らしい景色が広がり始めた。
 かなりの風雨にさらされるため、石は薄汚れ苔むしているが、なにより差し込む太陽が心地よい。

「ここから下の方、のぞいてごらん?」

 不意に、クロルが足を止めた。
 サラがざらつく石壁に手をつきながら、少し身を乗り出して下を向くと、そこにはサラたちが予選を行った訓練場があった。
 あの予選がずいぶん昔のことのように感じて、サラが懐かしさに目を細めると、リグルが言った。

「こいつ、授業サボってここから予選見物してやがったんだよ」
「えー、リグル兄だって後から来て、一緒に見てたじゃん」
「バカ、俺はオトナだからいいんだよっ。つーかお前、いつまでサラ姫の手握ってんだよ!」

 やつあたりーと呟くクロルのおでこを太い人差し指で弾くと、クロルはずっと握り締めていたサラの手を離した。
 手のひらにひんやりと冷気を感じるのは、びっしょりと汗ばんでいたから。
 その汗が、いったいどちらの手から出たものだろうと思いつつ、サラは黒いスカートのレース部分で乱暴にぬぐった。

「しかし、あの時の少年騎士は、ずるい……じゃなくて、賢い戦法を使うなと思ってたんだよ」

 眼下の風景に目を奪われていたリグルは、あらためてサラへと尊敬の眼差しを向ける。

「ここから見ていても、魔術防御を使うヤツラの背中に隠れて、逃げ回っているようにしか見えなかった。本当は、奴らの魔術障壁を消していたんだな……すまなかった!」
「いや、謝られるようなことでは」
「あっ! あいつら、まだ誰も訓練してねーじゃねえか! 何サボってんだ!」

 コロコロと変わる、リグルの感情。
 きっと1度に1つのことしか考えられないタチなのだろう。
 思わず微笑んだサラの耳に、かすかな震える声が届いた。

「リグル……ここがどこなのか、お前、分かってるのか?」

 3人が振り向くと、そこには今にも泣き出しそうなほどに顔を歪め、唇を強く噛んだエールがいた。

  * * *

 「さ、休憩はおしまい」と、エールの言葉を無視して、先に進もうとするクロル。
 サラは、足を止めていた。
 サラが行かなければ、クロルの目的は達成しないと分かっていたから。

「エール王子に、ちゃんと説明してあげて!」

 クロルは舌打ちして、エールを睨んだ。
 先ほどまでクロルにつながれていたサラの右手が、今はエールの白い上着の袖を掴む。
 採寸したときよりずいぶん痩せたのか、腕周りの生地はぶかぶかだ。
 包帯を巻いた方の手も、労わるようにそっとエールの背に置かれた。

「お、おい……なんだよこの空気」

 2人の間に挟まれたリグルは、きょろきょろと兄弟の間に視線をさまよわせる。

「リグル兄は黙ってて。ていうか、この先も楽しく“物見”したかったら、耳を塞いでた方がいいよ?」
「お前も知っておけ、リグル」

 クロルの言葉を打ち消す、長兄の強い言葉。
 降参といったように、ふうっと大げさなため息をついクロルは、壁際へと体をもたれかけた。
 サラとリグルが真剣に見守る中、エールは言った。

「ここの別名は“黄泉への塔”……母さんが、飛び降りた場所だ」

 口をあんぐり開けて固まるリグルに、クロルが冷静に補足する。

「対外的には、母さんは別の場所で死んだことになってるけどね。この王城内で王姉が自殺したなんて醜聞を隠すために、ごまかしたヤツがいるみたいだよ?」

 さりげなく近づいていたクロルが、「隙アリ!」とサラの手を奪い返した。

「ちょっ……クロル王子っ!」
「サラ姫を返して欲しかったら、着いてきて!」

 強引に腕を引っ張られながら、階段を昇り切った行き止まりの壁に、サラの手のひらが触れた。
 現れたのは、先ほどと同じ隠し扉。
 ただし、サイズは随分と小さい。

 ゆっくりと開いたドアの先には、大型の金庫ほどの空間があった。
 体育座りした子どもが1人おさまる程度の広さだ。
 そこから、1つなにか摘み上げたクロル。
 明るい光の差し込むこの塔で、サラはようやくクロルが集めていたものが何かを知った。

「よし。これで証拠集め完了!」

 「ここには母さんの亡霊がいる……俺には見える……」と、今にもチビりそうに震えながらまとわりつくリグルを引きずりつつ、ようやくサラたちの元へたどり着いたエールは、「後でちゃんと説明しろよ?」と苦笑した。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 塔の探索完了です。内容スカスカしておりますが、ちっちゃいことは気にすんなー……と言いたいとこですが、書いた端から改稿宣言。「お前が読むに~至る前に~言っておきたい~ことがある~」(←さだまさーしーさんです)高いところや物理的に理解できることは平気、でも目に見えないものや使えない魔法は苦手という意味で、サラちゃんとリグル君の傾向は似ています。東京タワーの展望台に行くと、あの床が一部透明な部分(わかる?)に嬉々として乗っかるだろう2人。クロル君も全然平気。エール君は高いところ苦手。実は国王様も苦手です。しかし、リグル君の豹変っぷりはやりすぎ? 最近ライトノベルについて研究中なので、こういうオーバーリアクションなキャラになっちまいますが、ご勘弁を。
 次回、リグル君に出された問題の解答編。魔術のカラクリをご説明するという地味な回ですが、最後にちょっとした謎解きを。

第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(1)~

第三章 王位継承


 魔術であっさり痛みをデリートしたオトナの国王と違い、王子たち3名はまだ床にうずくまったままだ。
 熱血リグルが「この腹の痛みを俺は自力で克服する」と言い出したものだから、頑固な兄弟3人で我慢比べ中。

 そんな3人とは一線を画し、1人手のひらの白いバラを見つめながら、大きくため息をつくルリだった。

  * * *

 壇上からフロアへと降りたサラの前には、3名の部門長が集っていた。
 戦地の情報と和平への道のりを探るため、しっかり情報交換が必要だろうと、国王が指示したためだ。

 一番仲の良い騎士団長バルトは、何やら気まずそうに頭をかいている。
 悪人ではないらしいと若干印象を変えた魔術師長も、サラを前に言葉をかけあぐねている様子。
 文官長は最も高齢だが、あのクロル王子と仕事をしている人物とあって、何を考えているかまったく読めない……まさに、ちりめん問屋のご隠居的ジーサン。

 サラは、ひとまず気になっていたことを聞いてみた。

「あのー、魔術師長?」
「はいっ!」

 小柄で気の弱そうな魔術師長が、小学生のような元気良い返事をしたことに、サラはくすっと笑った。

「今日は、コーティ来てなかったみたいだけれど、お休みかしら?」

 細い指をあごに当て、少し唇を尖らせる思案顔のサラ。
 先ほどまでの風格漂う黒騎士とのギャップに、魔術師長は戸惑いつつ返答する。

「コーティは、本日会議に参加するよう伝えておりましたが、なぜか来なかったようで……」
「本当? 部屋で倒れていたりしないの?」
「はい、会議前呼びに行った者より、室内はもぬけの殻だったとの報告が」

 そのとき、壇上でうめいていた1人の男が立ち上がった。

「エール兄、僕を治して!」

 クロルだった。
 フザケ半分でじゃれていた先ほどまでとは違う、殺気を感じるほどの真剣な瞳。
 エールは請われるがままに、無詠唱でクロルの痛みを消去する。

「ありがと! 2人はそのままそこに居てもいいよ」

 舞台から身軽に飛び降りると、サラたちの方へ駆け出すクロル。
 一瞬目を見合わせたエールとリグルも、何事かと慌てて後を追った。

「今の話って、本当っ?」

 突然乱入したクロルに、魔術師長は戸惑いを通り越して困惑の表情でうなずく。

「サラ姫!」
「はいっ!」

 今度は、サラが小学生のような返事をする番。

「昨夜のことは、エール兄から聞いてる。さあ、一緒に行こう!」

 クロルはサラの右手をしっかり握ると、会場から逃げるように走り去った。
 またもや必死で追いかける、エールとリグル。

 その様子を壇上から見守っていた国王が、ふむと言いながらあごひげをしゃくった。

  * * *

「クロル王子、どこへ行くのっ?」

 はあはあと息を切らせながら、廊下を駆け抜けていくサラ。
 中庭に小さな森を抱えるほどの広い城内を、端から端までダッシュは、お姫さまスタイルのサラにもキツイ。
 特に、フカフカのカーペットにヒールの踵が取られ、確実に3割はスピードはダウンする。

「説明は後でねっ!」

 方向音痴のサラにも行き先が分かったのは、2度ほど往復した道だから。
 到着したのは、クロルの隠れ家がある図書館塔だった。
 風の魔術を使ったエールと、元々脚力があるリグルも追いついたため、4人はひとかたまりになり階段を昇る。

「クロル、どういうことだ?」

 あれだけの距離をダッシュしたというのに、涼しげな表情のエールが問いかける。
 乱れた呼吸を整えつつ、魔術とはやはり便利なものだと、エールを恨めしく思うサラ。
 勝手にライバル意識を膨らませるサラに、クロルが呑気な口調で話しかけてきた。

「実は前から、サラ姫に試してもらいたいことがあったんだよねー」

 クロルは、図書館塔の階段を4階まで上り詰め、いつもの隠れ家を通り過ぎ……。

「おい、クロル! この先はダメだ!」

 後方から伸ばされるエールの手を、バスケのフェイントのように軽く避けると、クロルはそのまま上へと昇っていく。

「リグル兄、エール兄をおさえてて?」
「お、おう」

 図書館塔そのものが初めて訪れるというように、きょろきょろと建物を見渡していたリグルは、クロルの命令に大人しく従った。

「クロル!」
「本当にエール兄は、隠し事が多いよね。今度全部キッチリ吐いてもらうから」

 サラの右手を引っ張りながら階段を昇りつめ、5階を封鎖しているドアの前までたどり着いた。
 何の前フリもなく、サラの手はそのドアへと伸ばされる。
 触れた瞬間、静電気が走るような、ピリッとした感覚。
 思わず手を引いたサラは、クロルのキラキラ光る瞳を見つけた。

「やった! 封印解除! さすがサラ姫、僕の嫁っ!」
「てめーの嫁じゃねえ!」

 暴れるエールを拘束しているため、リグルはクロルへ足でツッコミを入れたが、クロルは縄跳びのようにぴょこんと飛んで楽々クリア。
 もしかしたら、クロルはかなり運動神経が良いのかもしれないと、サラは思った。
 単にメンドクサイという理由で鍛錬を怠っているとしたら、お仕置きが必要かもしれない。

「まあ、入ってみようよ」

 ニッと微笑んだクロルは、その閉ざされた扉を開けた。

  * * *

 何十年、何百年もの間、閉ざされていたという図書館塔5階。
 そこにあるのは……。

「――何も、無い?」

 エールの戸惑う声が、室内に反響する。

 そこには、ガランとした空間が広がっていた。
 大きさも部屋の作りも、開かずの間と同じだ。
 窓の無い密室は、薄暗く息苦しいため、ドアは開放したまま進む。
 エールが炎の魔術で隅々まで明るく照らしてくれるので、視界は鮮明だ。

 一番奥の壁際へ進み、ふとしゃがみこんだクロルは、床に落ちている何かを摘むと、ズボンのポケットに入れた。

「よし、ここは終了! 次行こう!」

 サラたちは、再びダッシュでの移動を開始した。
 またもや広い王城を、隅から隅へと駆け抜ける間に、サラの足は豆ができてじくじくと痛む。
 それでもクロルはサラの手を掴んだまま、離してくれない。
 サラも、なぜかその手を離そうとは思わなかった。

 まるで気まぐれな猫のような行動を取るクロル。
 しかし、好奇心に輝くその瞳からは、人を魅了するような光線が出ていた。

「クロル、せめて目的を教えてくれよっ」

 1人体力が有り余っているのか、猛ダッシュしているというのに軽いジョギング感覚のリグルが話しかけてくる。
 さすがに息が切れてきたのか、クロルが細切れに呟く。

「リグル兄、元気なら……魔術のしくみ、サラ姫に、説明を……」
「んん?」
「魔術師、贄、対象物が……揃ったときに、精霊は、どこから現れるか……」

 リグル王子の思考が迷路をさまよっている間に、サラ達は2番目の目的地にたどり着いた。
 そこは、サラも一度行ったことがある場所。

「まさかと思ったが、クロル……お前ってやつはっ」

 頭が痛いというように、骨ばった指でこめかみを押さえるエール。
 新陳代謝が良く汗だくのリグルは、白い上着の袖で額をぬぐう。
 クロルはまだ余裕があるのか、その笑みを崩さない。

 ズボンのポケットから取り出したのは『開かずの間』の鍵。

「せっかく僕の部屋から一番近いのに、ここに来るのはまだ3回目」

 サラと2人で行った後に、もう一度訪れていたことをさりげなく暴露しつつ、気楽なお散歩のように告げると、クロルはあっさりその扉を解き放った。
 ツンと鼻につくカビ臭は、初めて足を踏み入れたときと同じ。
 こういう場所が苦手なのか、リグルは尻尾を丸めながら「は、はやく灯りつけてくれ、エール兄……」と呟く。
 リグル以上に動揺したサラは、無意識にクロルの手を強く握り締めていた。

 嫌……あそこは嫌。

 サラが心底行きたくないと思った場所へ、クロルは容赦なく足を勧める。
 どす黒い痕の残る、最奥の壁へ……。


「はい、サラ姫。ここもよろしく!」


 黒ずんだ壁に、手のひらをペタリと押し付けられ、サラは悲鳴を飲み込んだ。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 この閑話は、クロル君が第三章の置き土産……あちこちから拾ってくれるという話です。こんなにばら撒いてタンスか! と思っても、後の祭り。サラちゃんと2人でも良かったんだけど、アクセントに兄2人も連れてきてしまいました。しかし、拾っても拾ってもまだ落ちている……まるでこの話の誤字脱字のよう。あとここでまた宣言しておきます。1つ、人より力持ち(←いなかっぺ大将)……じゃなくて、1つ、伏線は拾い切れませんので、一部次章へ持ち越します。2つ、文章とにかく手抜きします。描写は限界ラバーズ(←ショーヤ)……じゃなくて、限界まで削らせていただきます。3つ、8月中には過去の分も含めて、読み直し&変なトコ直します。はあー……。
 次回は、塔の探索の続きです。いろんな意味で、細かいとこはスルーお願いします……。

第三章 エピローグ2 ~竜と虎を飼いならせ!~

第三章 王位継承


 会議終了の号令は、まだ出されない。
 一般の臣下たちは、呆けたような表情半分、ニヤつき半分で、舞台上を見守っていた。

  * * * 

 ひとしきり笑ってスッキリしたのか、しゃがみこんで腹を抱えたなんとも情けない姿勢のまま、国王はサラを見上げた。

「それにしても、腹が痛いな……さすがはサラ姫、いや黒騎士か」

 「それは単に笑いすぎただけでは?」と思う臣下たちだったが、当然何も言わない。
 だんだんと、この状況が面白くなってきてしまったのもある。

 今まで神と恐れていた国王をはじめ、天使だ悪魔だ妖精だと噂し、遠巻きに見つめてきた王族たちが、初めて同じ人間として素の表情を見せているのだから。
 内心「このまま今日の仕事が流れたら楽だな」と思っているフトドキモノもいたとかいないとか。

「そんなの、さっさと魔術でどーにかしたらいいだろ……」

 1人、癒しの魔術を使えないリグルは、悔しそうに呟いた。
 今、目の前の3人の誰かに「腹を治してくれ」とは言いたくない。
 ライバルに塩を送らせるなど、騎士道に反する。

 それにしても、とリグルはあらためて自分の腹を見つめた。
 本当に、涙が滲むほどの痛みだ。
 さすがにここで上着を脱ぎ、シャツをめくるわけにはいかないが、きっとその奥にはひどい痣ができていることだろう。
 あの日、訓練場で剣をかわし合ったときと同じ……いや、それ以上に容赦ない攻撃だった。

「この痛み……サラ姫の愛情の重さとして、俺は受け止めよう」

 リグルがぽつりと言ったその言葉は、騎士たちのバイブルである『騎士道~その愛と精神~』の一節をもじったもの。
 その台詞が、残りの3人の心に火をつけた。

「悪いが一番痛いのは俺だ。この痛み、あえて青痣として残す覚悟だ」

 本当はもうちょっぴり癒しの魔術を使いかけていたエールが、さも痛くて堪らないといったていで、奥歯を噛み締めてみせる。

「一番痛いのは、僕だってば。普段お腹なんて鍛えてな……いや、サラ姫の愛が相当こめられてたしねっ」

 サラ姫は僕の嫁だし、という決め台詞と共に「イテテテ」と唸るクロル。

 張り合う3人の息子たちを見て、冷静さを取り戻した国王は、さりげなく手のひらを3人に突き出した。
 国王の無骨な指にはめられた指輪が、空の蒼を映し出すように色を深める。
 次の瞬間、巨大な水球が発生し、3人の王子へと襲い掛かった。

 それは無詠唱で発せられた、強力な癒しの魔術。
 エールの中で、尊敬してやまなかった偉大な人物が、年甲斐も無く張り合ってくるオッサンへと変貌した。

「くっ……させてたまるか!」

 とっさに手のひらを突き出し返すエール。
 うっすらと冷気の煙をまとう、消して解けない氷の盾が現れて、水球をブロックする。
 氷の盾は、水の膜を張る防御魔術の最終進化形だ。
 目の前の水球に押されつつも、決して穴を開けることは無い。

 ほぼ同等の力でぶつかり合った魔術は、しばしの膠着を経て、パシンと乾いた音を立てながら消えた。

「エール、この俺にはむかうとは……覚悟はいいな?」
「ああ、今のあなたは、もう国王じゃない……ただの幼女趣味のオッサンだ!」

 ひくり、と口の端を引きつらせた国王。
 捕まえかけたサラをまんまと逃がしてしまった、あの夜の失態を思い出す。

「お前が犯人だったのか……許さん!」

 丁寧に櫛で整えられた焦茶色の髪が、ゆるゆると宙に浮かんでいく。
 その体から放出される魔力の量が、膨大な数値へと跳ね上がった。

 何のことか分からないエールは、一瞬眉をひそめたものの、すぐに素早く呼吸を整える。
 いつの間にか立膝でそろりと自分の背後に回った弟たちが「エール兄、殺れっ!」「エール兄さんガンバレー」と、柔と剛を織り交ぜた声援を送る。

 互いの手のひらが触れ合うギリギリの距離で繰り広げられる攻防は、熾烈を極めた。
 その圧倒的な力を見せ付けられ、臣下たちはやはり彼らが神の域にいる存在なのだと知る。
 襲い掛かる国王の水球は竜のようにうねり、受け止めるエールの盾は虎のように吠える。

 まさに、竜虎の戦い。
 息を呑む臣下たちの前で、国王とエールは同時に瞳を輝かせた。


 ――これが、最後だ!


 双方、持てる限りの魔力を注ぎ込む、最後の魔術。
 生み出された水色の光は、太陽光をも蹴散らし、その場を青く染めた……。

 と思いきや。

 するりと伸ばされた、細い腕が2本。


「……遊びはここで、終りにしようぜ?」


 黒騎士の声と共に、固い豆が残るその細い指先が、2種類の水に触れる。
 同時に、何もかもが消え去った。

 魔力を使いすぎたせいで、靄がかかる目を凝らして、2人はその手の先にあるものへと視線を移す。
 見つけたのは……悪魔の微笑み。

 じりじりと膝で後退していく国王たちに、「息の根止めて……」と詰め寄りかけた黒騎士サラは、ハッとしたように瞳を見開く。
 その白く細い両手を、2人に向けて伸ばしたまま、取り繕うようにお姫さまスマイルを浮かべた。


「すとっぷ・魔力の無駄遣い!」


 両手を広げて笑みを浮かべるサラは、まるで神殿に飾られる壁画の女神のよう。
 争っていた2人だけでなく、見守っていた全員、胸のドキドキが止まらない。
 「これが吊橋効果ってヤツなのかな?」と、トキメク胸をおさえながら、クロルは呟いた。


 その後、再び侍従長火山が噴火し「ゴメンナサイ」と頭を下げる4人。
 竜虎の戦いは、こうして決着したのだった。

 臣下たちの1人、サラのキノコ姿を描いた騎士は、後に『竜と虎を従える女神』のイラストを描いた。
 そのイラストが予想外の人気を博し、王城内のタテワリ解消に一役かったのはナイショの話。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 予告に反して、バカバカしいネタをもう1個。本当はこのシーン、3行だったのに……。どうやらアホな話を書きたいという欲求が、予想以上に溜まっていたようです。ストーリー進行妨げて、申し訳ありません。第三章スタート時は、大黒柱4本がこんなにアホなキャラになるとは思わなかったです。でも良く考えたら、国王様は若い頃やんちゃな下町暮らしだし、クロル君以外はみんな田舎育ちだし、そのクロル君も兄の影響受けまくりだし……こんなもんでしょう。ここで宣言しますが、これ以上重要キャラ増やしません! なぜなら、書き分けに限界を感じているため……この件は全て無謀なチャレンジの結果として、真摯に受け止めさせていただきます。今回のネタ補足「遊びはここで終りに~息の根止めて」の台詞ですが、爆竹というミュージシャンの歌から。あの曲、衝撃的でした。
 次回こそ、クロル君主役の短編スタートです。このやり取りの直後から。もう本当にお笑いはナシ……いや、極力ナシで進めますので……。

第三章 エピローグ ~責任を取るのは誰?~

第三章 王位継承


 会議直後。
 解散の号令は、まだない。
 一般の臣下たちは、一様に呆けたような表情で、舞台上を見守っていた。

  * * *

 言いたい事を全て吐き出し、スッキリしたサラ。

 ふと我に返ると、なんだか視界の下方ギリギリに、もぞもぞとうごめく動物が4匹。
 嫌な予感に、つうっと冷や汗が垂れる。

 サラが恐る恐る視線を下げていくと……。
 そこには、あっけなく倒壊した、この国の大黒柱が4本あった。

 驚愕に目を見開き、その白くこんもりとした包帯の手で、口元を覆うサラ。


「ひどい……いったい、誰が!」


 臣下たちは、「それはあなたですよ」と思ったが、誰も言葉を発することができなかった。


 床に膝をつき、腹をおさえてうずくまる4人。
 サラが駆け寄ろうとしたとき、後方から聞こえた……まるで地の底から湧き上がるような低い声。

「此度のような乱れた会議は、私の人生において……否、我が国の歴史においても初めてです……」

 しわが深く刻まれた顔を、よりしわくちゃにした表情は、まさに夜叉。
 ひっと首をすくめるサラの脇で、侍従長の溜まりに溜まっていた怒りが、火山のように爆発した。

「この責任はいったいどなたがっ!」

 その言葉は、まさに溶岩流。
 灼熱の怒りが、サラもろとも4本の大黒柱を飲み込んだ。

「相変わらず、頭が固いやつよ……」

 ずっと顔を伏せていた国王、実は痛みではなく笑いを噛み殺していたようだ。
 ついに堪えきれなくなったのか、腹を抱えて笑い出しては「痛い」と呟くの繰り返し。
 らっきょうが転がっても笑うだろう国王の態度に、ますます顔色をドス赤く染めていく侍従長。

 国王は、鳶色の瞳に浮かんだ涙をぬぐいながら、「そのように怒ってばかりいると、ますます毛が抜けるぞ」と余計なことを言って、夜叉の怒りをマックスまで増幅させたところで……逃げた。

「まあ、引退した俺はただの一般市民だし、責任は……次期国王だろう?」

 突然矛先を向けられた次期国王リグルは、頼りになる弟へとノールックパスを出す。

「いや、俺はまだ王冠もらってないし……この責任は、王冠を持つお前にある」

 不機嫌そうに見えるが、内心楽しくて仕方ないクロルは、出されたパスを華麗なヘッドで落とす。

「えー、僕じゃないよー。ここは連帯責任……っていうか、長男責任だよね?」

 オフサイドの笛は鳴らず、飛び込んできたエールが豪快なボレーシュートを放つ。

「待て、今回俺は一番何もしてないだろうが……なあ、サラ姫?」

 突然のカウンター攻撃に、頭がついていけなかったゴールキーパーサラは、思わず言った。


「――皆さん全員、ちゃんと侍従長に謝りなさいっ!」


 カーペットに膝をついたままの4人は、ゴメンナサイとぺこり頭を下げた。
 まるでペンギンの親子のように揃ったしぐさが微笑ましく、サラは腕組みをしながらうんうんとうなずいた。

 侍従長が、「サラ姫、ご助力いたみいります」と頭を下げたので、サラは「いえ、私は特に……」と頬を染めながら謙遜する。


 そんな様子を見ていた臣下たちは、「あなたも謝る側ですよ」と思ったが、当然誰も何も言わなかった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 予告通りの短さ、そして吹っ切れたようなアホさでお送りしました。ああ、男子4名もいるとこで、全員に会話させるの難しい……本当は台詞4つ並べたいとこですが「誰が何しゃべってるの?」と混乱しないように、あえてパス回しをさせてみました。さすがにもうそろそろ、混乱しないかな? 作者はカタカナ名が覚えられないチキンヘッドなので、海外文庫とか読むときは大変です。罪と罰なんてもう暗号としか思えん……。国王の名前はゼイルさんなんだけど、結局ほとんど使わずじまい。もう国王引退しちゃうから次章からは出さなくちゃ。ちなみに「らっきょうが転がっても」の台詞は、昭和の有名カレーCMから。当時の伊代ちゃんはまだ16才でした。
 次回から、第三章であちこちに落っことしてしまった伏線を拾っていきます。ほぼクロル君主役の閑話です。ちょっと長く、ややシリアス風になります。(そして細切れで進みます。スミマセン……)

第三章(終)旅立ちの決意

第三章 王位継承


 本格的に泣き出してしまう前に、なんとか自力で涙を止めたサラ。
 今後は顔筋トレーニングも加えよう、特に目元は徹底的にと思いつつ、水玉模様になった国王の腕をそっと押し返した。

 斜め上から心配そうに覗き込む鳶色の瞳に、サラは「もう大丈夫です」と微笑みかける。
 国王は「そうか」と言って、サラを支えていた腕を外したが、代わりに大きな手のひらがサラの肩に置かれた。

 サラは、その手の重みを受け止めながら、背筋を伸ばして立った。
 自分を見つめる数百の瞳へと笑顔を返し、深く一礼する。
 姫として仕立て上げられた、優雅な礼を。

 今からは、サラ姫の姉か妹として振舞わなければならない。
 そうでなければ、自分をかばってくれたクロルの好意を無駄にしてしまう。
 悲嘆にくれている暇は無い。

 一度、クロルとアイコンタクトを取ったサラが見つけたのは、人差し指を立てた知的な少年。
 シィーッという、子どもにも分かる『しゃべったらダメ』のポーズ。
 そのとき、大きな瞳の片方がパチリと閉じられたので、サラは任せたというように笑みを浮かべた。

  * * *

「……さて、国王様。これから、どのように動かれますか?」

 クロルのあからさまな挑発に、国王は思わず破顔した。
 パーティの日とは、完全に立場が逆転してしまった。
 あの日は、自分に似ていると言われるこの生意気な末っ子が、本気で動揺している姿を見たのが収穫だったのに。

 完敗だった。
 敗因は、リサーチ不足。

 忙しい公務の中、サラ姫とはできるだけ会う時間を取ってきたつもりだった。
 それなのに、クロルとはこんなにも差がついてしまった。
 彼女の心を、掴み切れなかった。

「まったく……お前には脱帽だ」

 国王は苦笑いしつつ、自らの頭の上に片手を伸ばす。
 もちろん、サラの肩を抱いた腕はそのままに。

 いつもとは違う、戴冠式で着用する国宝の王冠は、それなりの重量がある。
 今朝からずっと、首が凝っていた。

 ……俺にはもう、こんなものは要らない。

 目の前で勝利の笑みを浮かべる、小生意気な少年。
 国王は小さなボールを投げるように、それを軽々と放り投げた。
 慌てて手を伸ばすクロルが、ポーカーフェイスを崩すところを見て、少しだけ溜飲を下げる。

「とりあえず、それはお前にやる。お前が、次の国王を選べ」
「父様っ! そういう大事なこと、たらい回しにしないで!」

 手の中で光る王位を、やっかいもののように見つめながら、口を尖らせるクロル。
 豪快に笑いながら、国王は再び寄り添ったままの少女を思った。

 彼女が心の奥に秘めた想いを、自分は聞き出せなかった。
 もちろん当初は、サラ姫が本物かどうか……身代わりの姫ではないかという懸念はあったのだ。
 それなのに、いつのまに信じ込んでしまったのだろう?
 この澄み切った、ブルーの瞳のせいだろうか……。

「俺の目は、節穴だったのかもしれんな……」

 こうして月巫女の毒が回りきった自分は、真実を見極める目が濁っていたのかもしれない。
 いや、その前からもうずっと……。

「……クロルと、皆の言うとおりにする。和平の件は一旦白紙だ」

 サラが和平を強く望んでいることだけは、良く分かっていた。
 それでも告げなければならない台詞に、国王の表情は曇る。

 一度中腰になり、サラと視線の高さを合わせながら、顔を覗きこんでくる国王。

「いいな、サラ姫……と、そう呼んでもいいのかな?」

 初めて『ネルギの姫』ではなく『ただのサラ』という少女を見つめるような、戸惑い混じりの瞳。
 サラが見つめ返すと、なにやら照れたように頬を赤らめ、視線を逸らした。
 つい先ほど、自信満々でサラの頬に何度もキスを落とした人とは思えない。

 態度が変わった理由は、きっと重たいものを放り出したせい。
 今の私と、同じかもね。

 サラはコクリとうなずくと「今までどおり、私のことはサラとお呼びください」と、少しすましたお姫さまの笑顔を返した。

  * * *

 サラの背後に寄り添っていた国王は、ようやくサラを解放した。
 サラの隣に立ったまま、あごひげをしゃくりながら何かを考え込んでいる。
 エールも、リグルも、ルリも……きっとまだこの展開に頭が追いつかないようで、ぼんやりと椅子に座り込んでいる。
 クロル1人が、飄々とした表情で会場を見渡している。

「ちょっと、クールダウンした方がいいかもね……デリス! 皆にお茶でも配って!」

 クロルの指示で、この事態を固唾を呑んで見守っていた侍女たちがバタバタと動き出す。
 全員に冷たいお茶が配られ、ほとんどの人間がそれを一気に飲み干した。

 サラも、そのお茶をいただいた。
 温かいものより少し香りは落ちるものの、冷たいお茶が喉を通り抜けていく爽快感に、心が晴れた。

 空になった美しいグラスに、サラは包帯からはみ出した指の先を滑らせる。
 湿度の高いこの国では、グラスの側面はすぐに汗をかいてしまう。
 水滴が集まり濡れた指先を見つめながら、サラは1杯の清潔な水を得ることもできずにいる、砂漠の民のことを思った。

 侍女たちが速やかにグラスを回収すると、再び会場は静寂に包まれる。
 サラは、壇上から臣下たちの表情を1人1人確認するように、ゆっくりと眺めた。

 胸に湧き上がるのは、黒騎士として戦いの場に立ったときとは違う感情。
 あのときは、自分のために強くなりたい……そう思った。
 でも、本当に強くなるには、自分以外の誰かが必要なんだ。

 私は、この世界が好き。
 大好きな人たちが暮らしている世界を、簡単に捨ててしまえるわけがない。

 ――逃げるなんて、自分らしくない!

 サラは、一度大きく深呼吸した。
 自分の運命を、一歩前へと進めるために。

 思案を続けている国王に向き合うと、サラはありったけの力で、声を張り上げた。

「国王、謀るような真似をして、申し訳ありませんでした!」

 あっけに取られ、目を丸くする国王。
 サラは気にせず、続けて王子たちへ、そして臣下たちへと丁寧に頭を下げた。
 床に手をつき、か細く震える声で謝罪の言葉を告げたときとは、まるで別人のように。

 顔をあげたサラから漂うのは、一国の王女の風格。
 近くでその表情を見ていた王子たちはもちろん、その場にいる全員が心を奪われてしまう。

 その美しい姿に。
 なにより、瞳から放たれる意思の強さに。
 
「もし許していただけるなら、私にも、手伝わせてもらえませんか? どうしたら、この世界が平和になるのかを……」

 その言葉を口にしながら、サラは思った。
 もう、あの台詞を言うしかないのだと。

 目を閉じたサラの脳裏に、一瞬緑の瞳が現れる。


『サラ……お前の夢、叶えろよ』


 さも簡単なことのように告げた、精霊王。
 臆病な自分の背中をいつも押してくれる、ハスキーな声。

 小さく微笑んだサラは、次の瞬間、心の中で黒剣をふるった。
 一薙ぎで、甘い幻想は消える。

 黒剣を胸に抱いたまま、サラは低い声で告げた。

「国王、皆さん……私に1つ提案があります」

 徐々に日差しが強くなる、オアシスの国。
 会議室の天窓から、鮮やかな光が差し込んだ。
 天から降るその一筋の光は、少女の黒い髪をくぐり、ブルーの瞳を煌めかせる。

 あまりの美しさに、誰もが目を奪われかけたとき。


「私は、戦場に行く……ネルギ軍は、私の力で止めてみせます!」


 力なく座り込むなよやかな姫は、もう居なかった。
 そこに立つのは、幾度もの戦いを乗り越えてきた、1人の戦士。

 黒騎士となったサラに誰もが魅入られる中、ただ1人クロルだけが、「僕に任せろって言ったのに」と呆れたようなため息をついた。

  * * *

 どのくらいの時間が経ったのだろう。
 静まり返る会場に、クロルの人を小馬鹿にしたような声が響いた。

「あのさー、こんなか弱い女の子が、戦場に行くっていうんだよ?」

 サラを見つめることしかできなかった臣下たちは、ハッとしたように顔を上げ、姿勢を正す。
 クロルは、そんな彼らの反応をチラリと見やると、興味なさげに顔を戻した。
 長い睫に縁取られたその大きな瞳は、次のターゲットとして2人の兄へ。

「筆頭魔術師サマ、次期国王サマ、どーするの?」

 2人は、ガタリと椅子を鳴らして立ち上がる。
 クロルとの間に、目には見えない火花が散った。

 するりと視線をかわしたクロルは、今度はサラの隣の国王へ。
 お茶の時間に近くの椅子へ置いた、王冠を指差す。

「この国は僕たちに、戦争はサラ姫に押し付けて……それでも○○に○○○ついてるんですか?」

 自治区の若者が良く使う、強烈なスラング。
 あの街で暮らしていた、国王とサラだけが分かった。

 先ほどまではサラの肩に優しく乗せられていた国王の手が、強く握り締められる。
 その表情は……見なくても分かる。

 あまりの毒舌に放心状態のサラは、クロルの凍えるような視線を、真正面から受け止めてしまった。

「さて、サラ姫サマ? 覚悟はいいかい?」

 クロルは、どこか吹っ切れたような笑顔で、サラに近づいてくる。
 いつか見たことのある、完璧な王子スマイルを向けて。
 昔の国王は、きっとこんな男の子だったのではないかと思わされる、良く似た表情と口調でささやきかけながら。

「サラ姫ってば、僕の言うこと、大人しく聞いてくれなかったから、仕方ない……決めたよ」

 サラの心臓は、トキメキとはまた別の音を発する。
 耳の奥に、警鐘が鳴り響く。

 こんな笑顔のクロルは……危険だ。

 怯えて一歩身を引くサラの手を取ると、目にも留まらぬ早業で、クロルはふわりと口付けた。
 当然のように、包帯のある方へ。
 上目遣いでサラを覗き込むクロルは、本日最大の爆弾を落とした。


「――戦場には、僕も行く!」


 サラはもちろん、会場にいた全員がパニック寸前だった。
 クロルは無邪気に笑うと、サラの右手も取って『せっせっせのよいよいよい』の動作で、ブンブンと両手を縦に振る。

「だってサラ姫は、僕の嫁だしね! それに、前から実際の戦場ってのを見ておきたかったし!」

 口から魂がでろんと飛び出して、なすがままにされるサラ。
 チャンス到来とばかりに、クロルは力強い男の腕で引き寄せ……。

 3本の腕に止められた。

 1本目の太くたくましい腕は、リグル王子。

「ちょっと待て……一緒に行くなら俺だ。俺は騎士団長だ!」
「えー、リグル兄、騎士団長はバルトに返上したんじゃ」
「じゃあなんでもいい! 俺は1人の男として、サラ姫を守る!」

 お前こそ待てよと突っ込まれたのは、久しぶりにローブを脱いで正装した、エールの華奢な腕。

「お前は、次期国王だろう。ここに居ろ。クロルも戦場では役立たずだ。行くべきは筆頭魔術師の俺だ」
「エール兄、病み上がりのくせに、でしゃばるんじゃねえっ!」
「ほう……お前、いつから俺にそんな口をきけるようになったんだ……?」

 まあ待てと3人を引き剥がしたのは、一番太い国王の腕。

「お前ら、最初の話を忘れたのか? サラ姫は俺のモノだ。砂漠に行くも戦場に行くも変わらん。俺が行く」

 「なあ、サラ姫?」と、鳶色の瞳を細めながら同意を求める国王。
 氷の微笑を浮かべつつ「僕だよね?」とささやくクロル。
 逞しい胸を張りながら「俺だろっ」と叫ぶリグル。
 手のひらに魔術の炎を浮かべ「俺しかいないな」と呟くエール。

 4人の男から、殺気のこもった視線をぶつけられ……。
 サラの頭は、真っ白を通り越して、透明になった。

 そして……。

 サラの体は、勝手に動いた。

  * * *

 その光景を見た臣下たちは、あのシーンを彷彿とさせられた。

 それは、決勝トーナメント第二試合。
 屈強な剣闘士と対等に戦う、小柄な少年。

 少年がまるで風のように舞うとき、男たちは……ただ崩れ落ちるのみ。


 サラは、自分に詰め寄る4人の男のみぞおちに、拳を1発ずつねじ込んでいた。
 細身なエールとクロルはもちろん、それなりに鍛えているはずの国王とリグルも、不意打ちと的確な急所への打撃に、唸りながら膝をつく。

 黒騎士サラは、くるりと後方を振り返った。

「ルリ姫!」
「は……はいっ!」

 目の前の光景にパニック状態のルリは、サラの放った低い声にビクリと震える。

「あなたは、強い男が好きだと伺いましたが……この中で一番強いのは、誰だと思いますか?」

 ルリの目には、サラのドレスは一切映っていなかった。
 このホールも、あの日のコロセウムに見える。

 ブルーの瞳に吸い込まれるように見入り、心を奪われながら、ルリは言った。

「それは、黒騎士様、です……」
「ありがとう」

 サラは、颯爽とルリに歩み寄り、その右手に感謝のキスを落とす。
 白い肌をピンクに染めたルリに微笑むと、自分の髪に刺さっている白いバラの髪飾りを抜き取り、ルリの手に握らせた。

 軽くなった髪をバサリと豪快にかきあげながら、サラは再び壇上の真ん中に進む。
 まだ立ち上がれない国王と王子を横目に仁王立ちし、その場にいる臣下たち全員を見据えて、叫んだ。


「オレは、1人で行く……オレを止められる者がいるなら、かかってこい!」


 そのとき、ようやく上りきった太陽が、厚い雲を押しやった。
 天窓から差し込む光の筋が、まるで黄金の龍のように輝きながら舞い降り、黒騎士の体を照らす。

 戦場だろうがどこだろうが、関係ない。
 この少女は、きっと何かを成し遂げる……。

 そんな予感に胸を震わせながら、誰もが息を止め、光に包まれる黒騎士を眩しげに見つめていた。

(第三章 完)


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 本当に長かった第三章最終話……お付き合いいただき感謝です! トキメモ結果としては4人とも振られるというオチでしたが、スッキリしていただけましたでしょうか? やっぱり男は強くなくちゃねというのが、サラちゃん&ルリ姫の結論でした。というか、サラちゃんは並みの男より男前に! 男に頼って守られて満足するようなキャラにはしたくなかったのです。これヤンデレってやつかしら。 4人の中で一番イイセン行ったのは、やっぱクロル君かな? 国王様は何気に一歩引いてたし、エール君は愛というより感謝、リグル君は初恋ワンコなので直球のみ。ま、強さで言ったら頭領君ダントツなのでどっちにしろ望みは無く……最終章では皆幸せにしてあげる予定ですが。一応次章は『女神降臨』、その次が最終章『砂漠に降る花』となる予定です。もうしばらく一緒に旅してくださると嬉しいです。
 次回、エピローグ……は簡単に。この話の直後からスタートです。その後の閑話が、若干ボリューム多目になりますので。


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第三章(32)サラの涙

第三章 王位継承


 クロルの謝罪は、この展開を意味していたのだとサラはようやく気づいた。

 怒りを露にする国王の指示により、挙手をした4人の部門長から一言ずつ釈明があった。
 それぞれ立場は違えど、その主張はほぼ同じものだった。


『ネルギは、信用できない』


 サラは、その言葉を耳の奥で受け止めながら、力なく椅子にもたれかかった。
 腰が滑らずに留まれるのは、隣のルリが椅子を寄せて、ずっと肩を抱いていてくれたから。

 ネルギが信用できないということは、サラが信用できないということ。
 彼らにとっては、和平など机上の空論でしかない。

「もう、帰れない……」

 すぐ傍にいるルリにも聞こえないくらいの、かすれた声が漏れた。

 クロルだけが知っている、サラの秘密。
 和平が成されない限り、サラはこの世界に留まり続ける。

 サラの望みではなく、クロルはこの国の未来を選んだ。

  * * *

 視界が曇っていくのは、涙が浮かんできたせい。
 止まってと命令しても、勝手に出てきてしまう。

 サラは、結局元の世界を捨てきれずにいた自分を、ようやく自覚した。

 元の世界に帰りたいという気持ちは、あの夜確かに封印したはずなのに。
 自分はいったい、この会議に何を期待していたのだろう?
 目の前で確かに道が閉ざされない限り、希望や可能性というものは捨てきれないんだ……。

 虚ろな瞳でぼんやりと座り込むサラに、クロルが話しかけた。

「……ねえ、サラ姫?」

 声に滲んだのは、罪悪感。
 サラに近づこうとして一歩足を踏み出し、躊躇したように立ち止まる。
 クロルは、サラと同じく泣きそうな顔をしていた。

「僕はね、君のことが好きだよ。だけど少し、君は楽観的過ぎる。見たくないものを見ないようにしている……そんな気がするんだ」

 サラは、小さくうなずいた。

 この人のこと、やっぱり好きだ。
 そんなことは、他の誰も言ってくれなかった。
 クロルは、サラのことを真剣に考えてくれる、そして言いにくいことを伝えてくれる、かけがえの無い大切な人。

 その指摘が正しいからって、泣いたら失礼だ。
 言ってくれたこの人だって、きっと傷ついているから。

 サラは眉根を寄せて、必死で涙を止める。
 サラの瞳に再び生気が宿るのを見て、クロルは微笑む。
 いつものからかうような皮肉げな笑みに、サラも感謝の気持ちを込めて微笑み返した。

「サラ姫に、聞きたいんだけどさ。もし君が”この国”を出たら……ネルギは、何をすると思う?」

 クロルの言いたいことは、サラだけに伝わる隠喩。
 もしもサラが和平を成し遂げて『この世界』を出るとしたら。
 残された世界で、ネルギはきっと……。

 サラは真っ直ぐに顔を上げ、クロルを見つめた。

  * * *

 その表情は、黒騎士のもの。
 戦いに挑む者の瞳。

 問いかけたクロルも、見守る者たちも、彼女の姿に釘付けとなる。
 横一線に結ばれた鮮やかな紅色の唇から、少年のような低い声が漏れた。

「もしも私が、ここから消えたら……ネルギは、いずれ和平を反故にするでしょう」
「サラ姫!」

 立ち上がって叫んだのは、リグルだった。
 その隣には、興奮する弟の腕をつかみ、サラを労わるような声色で「続けて」と告げるエール。
 サラは、2人に一度うなずいてみせた。

 大丈夫。
 私は絶対に、諦めない。

 強く肩を抱いてくれていたルリに、ありがとうと笑いかけると、サラはその温かい手に守られた場所から立ち上がった。
 何か思案しているのか、しきりにあごひげをしゃくる国王と、沈痛な面持ちのクロルへと近づいていく。
 心の中に、黒い剣を抱いて。

 サラは、ドレスの裾を手のひらで撫でながら、ゆっくりと両膝を折り、赤いカーペットの敷かれた床に座り込んだ。

「国王、皆さん、ごめんなさい……」

 全員の手を取り謝罪することはできないので、そのまま両手を床に付き、低く頭を下げた。
 いつも髪につけられる花の髪飾りが、床とこすれてカサリと音を立てる。
 今日は特別な日だからと選ばれた、華やかな白いバラの花。

 本当の自分は、こんな風に着飾って、お姫さまなんて待遇を受けるべき人間ではない。
 国王や王子たちから大事にされて、ましてや求婚を受ける資格なんて無いんだ。

「私はネルギにとって、1つの駒でしかありません」

 サラの脳裏に「バカね」とあざ笑うサラ姫の顔が浮かぶ。
 そうかもねと、サラは心の中で返事をした。
 それでも、成し遂げたいと思ったから……。

 サラは、土下座の姿勢のまま、顔だけを上げて叫んだ。

「私はっ……!」
「サラ姫はねー」

 涙混じりの声に重なった、少年の声。
 サラが声の方へと顔を向けると、クロルがいつも通りのクールな視線を向けてきた。
 冷たいように見えて、本当は優しい、あの視線。

「本当は、僕らと一緒なんだよ。隠された王女……ネルギ国王の落し胤。その秘密を、僕にだけ打ち明けてくれたんだ」

 そうだろ? とウインクするクロル。
 言葉を失ったサラは、クロルの愛情に満ちたその瞳を、ただ見つめ返すしかできなかった。

  * * *

 事の成り行きを見守っていた国王が、サラの体を強引に抱き起こす。

「サラ姫、今の話は本当か?」

 サラは、その眼力に魅入られるままに、うなずいていた。
 国王は鳶色の瞳を見開き、絶句した。
 それでも、サラを支える腕の力は緩まない。

 クロルは、自分を守るギリギリの嘘をついてくれたのだ。
 国王の落胤であれば、和平の条件である『王族』の枠にギリギリ入る。

 もしも赤の他人と分かれば、サラは罪人となるだろう。
 国王の書状はあるが、あれが偽造ではないかと疑われたら、証明する手段は無い。
 改めてネルギ国に身の上の保障を求めたところで、サラ姫が守ってくれるはずがないのだ。
 サラ姫の名を騙った者として、切り捨てられるに決まっている。

 かといって、サラ姫に召喚されたのだと正直に言ったところで、ここにいる全員が説得するとは思えない。
 サラ姫の手先として、この国を騙したことには変わりないから。
 むしろ、身代わりを立てるなんて、巧妙な罠を仕掛けたネルギへの憎悪も膨らむはず。

 せっかく抱き起こしてもらっても、サラの体には力が入らなかった。
 そのまま国王の腕にもたれかかりながら、サラはふっと自嘲した。

 なぜ自分は、和平が成ると信じていたんだろう。
 こんなにも危うい立場で……。

『君は、見たくないものを見ないようにしている』

 今言われたばかりの、クロルの言葉が胸に蘇る。

 そう、きっと見たくなかったんだ。
 私が欲しかったのは、偽装結婚と、表面上の和平締結。
 望んでいたのは、自分がこの世界から解放されることだけ。

 だから自業自得だ。
 クロル王子の言うとおり、見たいものだけ見て、信じたいことだけ信じていれば、不安は消えた。
 私の心にも、不安という名の確かな闇があったのに。
 それをしっかり見つめていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに……。

 今にも泣き出しそうなサラを見つめていたクロルが、そっと歩み寄る。

「サラ姫、僕の質問に答えて?」

 国王の腕に抱かれたまま、サラは無条件にうなずいた。

「本物のサラ姫は、今もネルギ国王宮に居る……そうだね?」
「はい、そうです」

 サラの返答に、会場はざわつく。
 向けられる数百の視線は、驚きから非難へと変わる。
 国王は、崩れ落ちそうになるサラの体を支えながらも、冷酷な瞳を崩さない。
 サラは国王からも、優しく問いかけるクロルからも、目を逸らした。

「ではもう1つ質問。和平を成立させたいという、君の気持ちは本当なの?」

 折れかけていたサラの心に、再び黒騎士の魂が蘇った。
 今にも零れ落ちそうな涙を目の縁に留め、サラは声の限りに叫んだ。


「もちろんですっ! 私は、そのためだけにっ……!」


 そのとき、サラの言葉には、魔力に似た何かが宿った。

  * * *

 少女の叫びは、会場にいた全員の心を飲み込んだ。
 ざわめきは消え、サラに向けられた疑惑と敵意の目は、同情へと変化していく。

 彼らは、その目で見てきたのだ。
 砂漠を越え、男として戦い抜き、国王への面会権を勝ち取り……たった1つだけ『和平』という望みを打ち明けたこの少女を。


「だったら僕は、君に協力する。君の望みを、叶えてあげるよ」


 サラが涙をいっぱいに溜めた瞳でうなずくと、堰を切ったように溢れた雫が頬を伝った。
 雫はサラの頬を通り抜け、国王の袖へポタリと落ちる。

 その瞬間、サラの体を支えている国王の腕に、力が込められた気がした。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 会議も佳境に入ってきました。だからシリアスのみ! はー、しんど。サラちゃん伝家の宝刀を抜きましたが、さすがに土下座で切り抜けられる内容ではなく……そのピンチを救ってくれたクロル君。良い子です。最初からそういうことで口裏合わせとけば良かったのにと思った方、ゴメンナサイ。こういうぶっつけ本番な勝負どころで臨機応変に対応するためには、事前のすり合わせが邪魔になることもあるのです。作者がサラちゃん泣かせたかったということではありませんよ……。しかしクロル君、何気にサラちゃんに迫りまくり? 可愛いフリしてあの子割とやるもんだねーと思いつつ。(←待つわ)国王様もかなりイラついてます。もちろん、大人しくしてるエール君、リグル君も……。
 次回、第三章ラストです。さっさと進めるはずが、結局第二章より長くなりましたが……トキメモ編と銘打ったからにはそれらしい結末をご用意しました。どうぞ皆さま、サラちゃんの底力にご期待ください。

第三章(31)閉ざされた未来

第三章 王位継承


 現在、サラの目の前には、2つの物体がある。

 1つは、国王様の顔。
 不愉快そうに眉が寄せられ、その下のパッチリした二重瞼の奥……鳶色の瞳には怒りが浮いている。
 口ひげが良く似合う厚い唇も、先ほどまでと違って富士山の裾野のように口角が下がっている。
 よほど気持ちが高ぶったのか、顔色はうっすら赤く、立派な鼻の頭には汗が浮きあがり、こめかみには青筋が立って……。

 あまりにも怖いので、サラは少し首を縮めて、国王の視線を遮ってくれる物体を見つめた。

 その遮蔽物は、白い厚手の布地に包まれた、まっすぐなもの。
 正確に言うと、クロル王子の腕である。
 緑も良いけれど白も似合う……どちらも捨てがたい美少年の衣装選びは、侍女達もそれはウキウキだろう。
 まさかこんな風に目隠しとして使われるとは、思ってもみなかっただろうけれど。

 そして、腕の先にはクロルの柔らかい猫ッ毛。
 髪を伸ばしかけなのか、少し襟足が長い。
 もちろん顔は見えないが、サラにはなんとなく想像がついた。

 ああ、クロルが国王の方を向いていてくれてよかった。
 もしこちらを見られたらきっと、液体窒素を浴びせかけられたように、自分の体は固まるだろう。

「とりあえず、サラ姫は座って?」

 肩越しにくるりと後ろを向いたクロルは、笑っていた。
 ふわっとして少し癖のある薄茶色の髪が、額に浮いた汗に張り付いている。
 整いすぎた顔と、詰襟金ボタンの王子衣装が、これほどまでにマッチして……。

 まさに王子。
 パーフェクトだ。
 それなのに……笑った顔が、怒った顔より怖いなんて。

 2人の体格は違えど、こうして見ると本当にそっくりだった。
 以前2人を犬猫に似ていると思ったけれど、今は2頭の猛獣親子にしか見えない。

「ああ、とりあえずサラ姫には、下がっていてもらおうか」

 獲物であるか弱い自分には、逆らうすべもなく、サラはよろりと椅子へ座り込んだ。
 クロルの行動に毒気を抜かれたリグルと、リグルを押さえ込んでいたエールも、気まずそうに元の位置へ戻る。

 そして、あまりにも驚いたのか、大きな目をまん丸にしピンクの唇をぽっかり開いたルリ。
 睨みあう2人を見上げたまま、サラの横で「まさかクロルが父様に逆らうなんて……反抗期? 私の育て方がいけなかったの?」と、積み木を崩された母親のようなことを呟いた。

  * * *

 国王とクロルが壇上で睨み合う間、どよめいていた臣下達はようやく落ち着いてきた。
 落ち着くというよりは、緊迫した雰囲気に呑まれていったという方が正しいだろうか。
 その場にいた全員が、2人の行動に神経を集中する。

 最初に動いたのは、クロルだった。

「父様……いや、国王様に問いたい。この国には、もうあなたの力は必要無いとでも?」

 大げさに両手を上にあげて観客の方を向き、同意を促すクロル。
 もちろん、大多数の臣下たちは大きくうなずいた。
 リグル、エール、ルリも。

 しかし、国王は譲らない。

「別に俺は、この国を捨てるわけじゃない。リグルだけでは至らないこともあるだろうが、エールとクロル、お前達のサポートがあれば大丈夫だと信じているんだよ?」

 やわらかく、子どもを諭すような声色。
 しかし、心がまだ怒りに燃えていることは、その表情を見れば分かる。

「国王様が、一刻も早くこの国を離れたいことは分かる。何かを探していることもね……でも、サラ姫を利用するのは卑怯だよ?」

 突然自分の名前が出て、椅子からずり落ちそうになるサラ。
 今日のドレスはやけにツルツルした生地なので、同じくツルツルのペチコートとの摩擦係数が低く、気を抜くと公衆の面前でズッコケてしまう。
 サラが体勢を戻したとき、クロルの視線は大いなる敵に戻されていた。

「和平の条件が、サラ姫と王族の結婚……それは悪くないと思う。ただ、国王様がなぜ砂漠の国へわざわざ出向くのかが分からない」
「簡単なことだろう。和平を成立させるなら、調印が必要だ。向こうの国王が生きている間に済ませるなら、こちらから人員が出向かざるをえない。行くならばサラ姫を得たものが行くのは当然だ」

 サラの頭は、突然クリアになる。
 自分を巡って、どんな話がされているのかを察したから。
 先ほど国王は、サラにこんなことを問いかけたのだ。


『自分と結婚してくれるならば、すぐにでも砂漠の国へ和平の調印に出向くが、どうだ?』


 こんなにも大事な質問を、ぼんやりして適当にうなずいてしまったなんて……!

 顔面蒼白になるサラと対照的に、ヒートアップしてきたクロル王子の白い肌は、徐々に赤く染まっていく。

「そんなバカな計画を立てるなんて、常に冷静沈着な国王様らしくない……いや、昔は違ったんでしょうね。英雄王、と呼ばれるようになる前は」

 クロルの言葉は、氷の刃となって国王の胸を切り裂き、見守る全員の心にも突き刺さった。
 特に、古参の臣下たちは苦い顔だ。
 昔は散々苦労させられたのだというように。

「僕はずっと、国王様に似ていると言われてきましたけれど、今日で良く分かりました。あなたはとても頑固で、一度決めたことを曲げない。何年経っても……夢を諦められないんだ。違いますか?」

 呆然と立ち尽くす国王の脇をするりと抜け、クロルは踵を鳴らしながら、サラへと近づいてきた。
 緊張して背筋を伸ばすサラに、クロルはこれ以上ないくらい優しく微笑みかけた。
 サラの前にひざまずき、その手を差し出され、サラは吸い寄せられるようにそっと手を乗せる。

 無意識に、まだ包帯の取れない左手を差し出したのは……クロルがサラの手に口付けると思ったから。
 国王や、他の王子たちに対抗して、クロルも皆の前で名乗りを上げるのだと思った。

 それが思い上がりだったことに、すぐ気づくのだが。

「サラ姫、ごめんね?」

 クロルはサラの左手を、両手でそっと包み、深々と頭を下げた。
 それは、懺悔を表す行為。

 ゆっくりと顔を上げたクロルは、サラの瞳を見上げると……誰にも分からないくらい素早く、一瞬だけ笑った。

『僕のこと信じて』

 口には出さないけれど、そう言ってくれたようで、サラの緊張は少し緩んだ。

 ――うん、あなたのこと信じるよ。

 サラは、再び国王と対峙するクロルを、リラックスしつつ見送る。
 クロルの、次の台詞を聞くまでは。


「この際だからはっきり言いますね? 僕は、この和平には反対です!」


 サラのドレスのお尻はつるっと滑り、見事にサラは壇上のレッドカーペットに転がり落ちた。

  * * *

 ネルギの姫が、たった1人で和平の書状を届けにきた。
 それだけで、和平に進むことは確定と考えていた大多数の臣下たちは、クロルの意見に思わず顔を見合わせた。
 先ほどより大きくどよめく会議室の中に、国王の静かな声が響く。

「ほう……サラ姫の誠意ある行動と提案を、お前は無下に断るというのか? そもそも”王族を寄こせ”と指定したのはこちらなのに?」

 最もだとうなずく臣下たち。
 ルリ姫に抱き起こされたサラは、その言葉に冷静さを取り戻し、大人しく席へと戻る。

 クロルは、そんな彼らを鼻で笑った。

「……では、確認してみましょうか?」
「何をだ?」

 その直後、まだ声変わりを迎えていない、少年の澄んだ声が会場を通り抜けた。
 魔力も込められていないというのに、すさまじい威力を持って。

「――侍従長! 魔術師長! 騎士団長! 文官長!」

 名指しされた4名は、びくりと体を震わせると、1歩前に進み出た。
 唯一壇上に居る侍従長を除く3名に、クロルは氷の視線を送る。

「正直に答えて欲しい。この国にとって、戦争を終結させる最も良い方法を……ネルギを、このまま許してもいいと思う?」

 クロルの言いたいことを、臣下たちには瞬時に察した。
 不安げに仲間同士ささやきあっていた者たちが、全員自分達の上司に注目する。
 クロルは前へ出た3人をもう一度見つめ、背後に居た侍従長の表情を確認してから、再び声を張り上げた。


「国王の提言である”ネルギ国との和平推進”に反対の者は、挙手を!」


 シンと静まり返る会議室。

 祈るように両手を組んだサラは、信じられないものを見た。
 1人、1人……手が上がっていく。
 一度サラの顔を見た後で、バルトは視線を落とし、ゆっくりと手を挙げた。
 かつて、肩より上にはあがらなかったという、その右手を。

 サラがとっさに背後の侍従長を見やると、表情は苦しげに歪められ……その手のひらが、顔の脇へと移動した。

「へえ……珍しい。いつもはタテワリの癖に、この件は全員一致だったね。これで和平案は、却下だ」

 すべて計画通りとでもいうように、皮肉げに笑うクロル。
 顔を真っ赤にして、クロルを睨みつける国王。

 唖然としてその2人を眺める、エール、リグル、ルリ……そして、会場に集った臣下たち。

 サラは、自分の未来が闇に覆われるのを感じていた。


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 さて、前回ナイショにしてしまった国王様の台詞、皆さまの推測当たってましたでしょうか? もっと甘い事言われてたと思った方、どーもスミマセン。クロル王子の腹黒なとこ出してみました。国王様より若い分、ナイフみたいに尖ってます。サラちゃん裏切られてショック……。もちろん、反抗期受けた上に臣下にも裏切られた国王様もショック。重鎮3人以上の反対で国王の案却下というなんちゃって法律系のネタフリ、デリスばあちゃんにさせてたんだけど、覚えてますでしょうか? 今回の分かりにくいボケは、ルリ姫の呟きの「積み木崩し」ですかね。我が子が不良になっちゃってさあ大変という親御さんの苦労話(?)です。作者は不良バンバン出てくる大映ドラマ系大好きなので、またそのうちこの手のネタ出てくるかもしれません。
 次回は、サラちゃんどん底……クロル君の手のひらで転がっていく、会議の結末は? 第三章クライマックス、ラスト2!

第三章(30)会議スタート

第三章 王位継承


 前夜の事件のせいでだいぶ疲れていたのか、その朝サラはリコに殴られて目が覚めた。

「さっ、早く起きてください! 今日は大事な日なんですからね!」

 いつものように豪快にサラを着替えさせながら、リコはふと白いテーブルの脇に目を留めた。

「あら? サラ様、夕べどなたか訪ねてきました?」

 ワゴンの上に残された、2つのカップとフルーツエード。
 飲むと”マヒ”状態になって戦闘不能になるアイテム。
 美味しかったのに、もったいない……。

 サラは、リコに「ねー、”キアリク”って言ってみて?」とお願いしたが、「今日は遊んでる暇無いんですよっ!」と一蹴された。
 そのうち例の侍女魔術コンボが展開され、しぶしぶ着替えと身支度に協力するサラに、リコは言った。

「そうだ、伝言を預かってました! クロル王子から」


『今日は何が起こっても、全部僕に任せて』


 リコの言葉を聴きながら、クロルの氷の微笑を思い出したサラは、なぜかザワワと背筋に悪寒が走った。
 サラの頭に髪飾りを刺しながら「このお城にも、頼りになる人が居て良かったですね」と、リコは嬉しそうに笑った。

  * * *

 王城内の大広間。
 つい数日前に、サラが始めて男装解除姿を披露した、記念すべき場所だ。

 その後は毎日ドレス暮らしなので、足をもつれさせる細身の靴や、スピーディな歩行を阻害するズルズル長いスカートにも慣れた。
 ただ1点、ドレスのお腹がキツくなるから、あまりご飯を食べられないことが悔しい。
 腹12分目くらいは楽勝なのに、9分目で満足しなければならない。

 王族はもちろん、魔術師、騎士、文官たちが3ブロックに分かれて整列している中で、サラは広間の左側に居並ぶ魔術師たちをチラリと横目に見た。

 魔術師の着ている服なら、どんなに食べても大丈夫そうだ。
 そんなラッキーな制服を支給されているというのに、魔術師には痩せている人が多いから不思議だ。
 時々でっぷりと太った魔術師を見かけると、つい”魔人ブウ”とあだ名をつけたくなってしまう。

「コーティは……いない、か」

 さすがに大きな会議だし、力があるとはいえ下っ端のコーティは参加できないのだろう。
 元気な姿を見て安心したかったが、仕方ない。
 後でデリスあたりに聞いてみよう。

 魔術師の隣には、騎士たちがいる。
 騎士集団も、ある程度の人数が警備に割かれているようだ。
 先頭に立つバルトと目があったサラは、軽く微笑んだ。
 バルトは一瞬慌てた様子で視線をさまよわせると、軽い会釈を返してくれた。

 文官に目を移してみたものの、サラの知り合いは居ない。
 全員がほぼ中年のオジサンで占められているのは、若者たちにあまり人気が無い職業だから……らしい。
 怪我をしたり、才能を見限ったりと、魔術や剣の道から外れた人たちの受け皿として機能している。
 だからこそ、若くして「文官になる」と宣言したクロルは、可愛がられているのかもしれない。

 彼らを束ねるのが、侍従長。
 国王と彼らの間に立ち、クッションの役割をする。

 簡単な仕事はエール王子や各部門長に振り分け、魔術師と騎士の対立を仲裁したり、その他揉め事は全て侍従長に持ち込まれるらしい。
 よほどストレスが溜まるのだろう、彼の眉間に刻まれたシワは消えることがない。
 60代後半かと思いきや、実年齢がまだ50才と聞いて、サラは内心ショックを受けた。

 壁際には、数名の侍女達が控えている。
 その中にはデリスの姿を見つけたが、サラは挨拶を控える代わりに、ピシリと背筋を伸ばした。

 残りのメンバーは全員、サラの隣に居る。
 パーティの時と同じく、豪華な衣装に身を包んだ、国王、3人の王子、姫、そして……あの女も。

 初めて見たときのように、国王の背を守る月巫女。
 魔術師ファースと同じグレーのローブをまとい、無表情で存在感を消しながら佇んでいる。
 フードの裾から零れる銀髪を、あれだけ美しいと思ったのに、今日はまったく心が動かない。

 ……今はまだ、そのときじゃない。
 クロル王子が、きっと何か考えているだろうから。

 サラが目の端で月巫女を観察している間に、侍従長が壇上に上がってきた。
 パーティの時と同じく、しわがれた力強い声が響いた。

「ただいまより、トリウム国の――」

 しかし、国王はすぐにそれを制する。

「あー、よいよい。堅苦しい挨拶は抜きだ」
「こっ、国王様……」

 泡を吹いて倒れんばかりに動揺する侍従長。
 国王は玉座から立ち上がると、左手を横へ伸ばした。

 それが下がれという合図だったのか、侍従長は苦虫を噛み潰したような表情で、左手後方へ移動する。
 国王を挟んで、月巫女と線対称の位置に落ち着いた。

  * * *

「本日は、臨時の召集に応えてくれて、感謝する」

 息を詰めて国王の言葉を待っていた臣下たちは、ねぎらいの言葉を受け取ると、少しだけ表情を和らげた。
 一部には、何らか問題が発生したため、今回の会議の規模が大きくなったのではないかという懸念が広がっていたからだ。

 そんな彼らに、国王の次の言葉が届くと、空気が変わった。

「さて……皆に集まってもらったのは、他でもない」

 ほんの少しだけ、低められた声色。
 眩しげに細められた二重の瞳には、冷徹な光が宿る。
 その瞳が、会場全体をぐるりと見渡すと、その視線を受けた誰もが壇上から目を逸らせない。
 サラは、そんな国王の横顔を、王子たちの姿の影から見守っていたが、その視線はついつい隣に立つ人物へ移ってしまう。

 国王のすぐ隣には、エールが居る。
 真剣な面持ちで国王を見ているエールは、顔色も悪くないし、むしろ調子が良さそうに見える。
 先ほどサラと顔を合わせたときも、珍しく照れたように笑いながら、そっと耳元で「昨日はすまなかった。あのことは誰にも言わないから」とささやいてくれた。

 あのこと……。

 それを思い出した瞬間、サラの視界からは、国王もエールも、ましてや自分達を注目する数百人の人々も消えた。
 心を支配するのは、あの緑の瞳。
 少しハスキーな声。
 生まれて初めて、男の人から告げられた言葉。

 昨夜は、腰が抜けるほどびっくりした。
 あんな風に言い逃げされたのはしゃくだけれど……悪くない。

 サラがニヤつきながら、うんうんと首を縦に振ったとき。


『オオー!』


 会場全体が、どよめいた。

「サラ姫っ! 本当かっ!」

 まるで野犬のような荒々しい形相でサラに詰め寄ろうとするリグルと、それを必死で止めるエール。
 国王は、なぜか驚いたように目を見開いて、サラを凝視している。
 戸惑うサラの視線は、すぐ隣で顔を真っ赤にしているルリへと向けられた。

「あの、今何か……?」
「私、やっぱりイヤよ……自分より年下のお母様なんて……」

 それだけ呟くと、白魚のような指で顔を覆い、うつむいてしまったルリ。
 ルリの台詞の意味が分からず、半ばパニックに陥りかけたサラに、国王が颯爽と歩み寄ってきた。
 サラが少しだけ心惹かれる、あのいたずらを企む少年の笑みを浮かべて。

  * * *

 国王が目の前に立つと、女子としては決して小柄ではないサラも、すっぽり隠されてしまう。
 壇上に居る者はともかく、臣下たちからはサラの姿は見えなくなった。
 国王の背中を覆う鮮やかな緋色のマントが翻り、純白の上着の袖がサラへと伸びていく……その動作から、何が行われているのかをイメージするしかない。

 サラの細い両肩は、がっしりとした国王の両手で掴まれていた。
 かわいらしいパフスリーブの膨らみが潰れてしまうが、それどころではない。

 国王はサラの体をくいっと引き寄せると、厚い唇をサラの白い両頬に、2回軽くタッチ。
 ヒゲをチクリとやられて、思わずサラが身をすくめると、ほんのかすかな……しかし、冷静極まりない声が届いた。

「サラ姫、どうやら覚悟はできたようだな?」

 ならば幸せにしてやると告げられ、もう一度左ほほの隅へとキスが落とされる。
 くるりと巻かれた後れ毛のあたりが、たくさんの固く太い毛でチクチクする。
 くすぐったいのは苦手だ。
 そのせいで、頭がうまく回らない……。

 覚悟って……幸せって、何……?


「――ちょっと待った!」


 完全に放心状態のサラと、狙った獲物の喉笛に噛み付きかけた国王の間に割って入った勇者は。

 氷を通り越して、ドライアイス並の冷気を発する、クロルだった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 国王様、暴走の巻でした。彼はこんなチャンス逃さないお方ですので。具体的になんて言ったのかは、読者さまのご想像にお任せ……といいつつ補足すると、ぼんやりしてるお魚サラちゃんに釣り針投げてみたところ、逃げるかと思ったら食いついてきたので一瞬ビックリ。でもラッキー……的な展開だったようです。野球で例えるなら牽制球アウトってとこですね。「ちょっと待った」コールはネルトンです。あと、最後サラちゃんに「幸せってなんだっけなんだっけ」と言わせようと思ったのはボツ。「おじちゃんのおひげが痛いの~」(←あーみん)もボツ。「キアリク」はドラクエの毒消し魔法ですね。※現在分かりにくいボケは止める&解説入れていきますキャンペーン中。
 次回から、国王様VSクロル王子です。新旧似たもの対決……あまり激しくなりすぎないように注意します。当然ぼよよんな主人公は蚊帳の外です。

第三章(29)闇を克服するために(後編)

第三章 王位継承


 不遜な態度の男から「いつまで床に座り込んでるんだ?」と言われ、エールとコーティはテーブルへ移った。
 コーティは、上司の前に置かれたティーセットを、ワゴンの方へとさりげなく片付ける。
 まだ体がだるいサラは、ベッドの上にちょこんと座ったまま、3人のやり取りを見守っている。

 輝く水を死ぬほど飲まされ、ようやく体の力を取り戻したコーティは、緑の髪の男に目を奪われ……そして、心も奪われていた。
 コーティに凝視されていることなどまったく意に介さず、窓辺にもたれかかったまま、長い足を組み返すジュート。

「お前ら、自分が何をされたか、分かってるんだろうな?」

 まだ意識が混濁しているのか「これはやっぱり夢? こんなステキな方が存在するわけない……やっぱり目を閉じた方が現実?」と、ブツブツ呟いているコーティ。
 淡い月明かりを受け、瞳にほの暗い光を宿したエールは、ジュートの言葉にしっかりとうなずいた。

 人の心に踏み込み、恐怖を増幅させ、あまつさえ意識を完全に奪った上でその体を操る……それが、闇の魔術の一種。
 当然、禁呪である。
 まさかこうして、自分自身がかけられることになろうとは……。

「とりあえず、俺もできる限りのことはしてやる。お前ら、そこでしばらく大人しくしてろよ?」

 ジュートが手のひらをひらりと仰ぐように動かすと、月明かりの角度が変わった。
 捻じ曲げられた光のラインは、エールとコーティの2派に分かれて2人の体を包み込む。
 光を受けて、エールの胸の小さな灯りも嬉しそうに発光し返す。

 その光のやわらかさは、まさに世の理を外れるもの。
 大いなる女神に抱かれているようだと、エールは目を細めた。
 隣のコーティはといえば、再び意識を飛ばしかねないほど恍惚の表情を浮かべている。

「今こうして俺が光を与えても、お前らの心の闇は消せない。理由は……分かるな?」

 ハッと我に返り、緩んだ表情を引き締めるコーティ。
 焦燥を顔に出し、苦しげに息をつくエール。

 闇の魔術は、光の魔術でも消すことはできない。
 なぜなら、この闇はすでに魂と一体化しているから。

 いくら外から照らしてもらっても、闇はその裏側に隠れて生き延びる。
 月の見えない夜のように、自分の心が陰るとき、闇は再び表へと滲み出すだろう。

 「お前らは、何度でも使える便利な傀儡扱いだ」という、ジュートの言葉が胸に刺さった。

  * * *

 エールの右手は、自然と胸のポケットに添えられていた。
 俺はここに、希望の光をもらったはずだった。
 サラ姫のことを、命の限り守っていきたいと決意したはずだったのに。

「守護者殿……どうすればいい? 俺はもう、彼女を傷つけるようなことは、絶対にしたくないんだ」

 一見すると、自分とさほど年も変わらない、目の前の男。
 しかし、長く接するほど、彼が”異端”なのだということが分かる。
 見上げた先にあるのは、悠久の時を生き抜いてきたような、全てを見透かすような瞳だった。
 彼に比べて、今の自分はどんなに情けない顔をしているのだろうと、エールは心の中で自嘲した。

「お前の場合は、母親か……」

 唐突に告げられた言葉に、エールの体は硬直する。
 ついでのように「お前は兄だな?」とコーティに確認するジュートは、コーティの瞳に浮かんだ涙には気づかない。
 ジュートはゆるやかに歩み寄ると、2人の座るテーブルに両手をつく。
 腰を曲げ、2人と視線の高さを合わせながら、心の奥まで届くような低く掠れた声でゆっくりと告げた。

「いいか? 人の心は、変えられるんだ。お前たちの中の、闇に打ち勝て。それができなければ、お前ら……死ぬぞ?」

 2人の心に、嵐が起こった。

 愛する魔術師ファースを越えるほどの強烈な眼力を受け、ただその瞳を見つめ返すことしかできないコーティ。
 その瞳にじわりと浮かびかけた涙を、目の縁で必死に留める。

 蘇るのは、人生でたった一度だけ、本物のファースを捕まえたあの日のこと。
 まるで子どものように嗚咽を漏らしながら、日が暮れるまで泣いたというのに、その後自分はいったい何を変えたのだろう……。

 そう、泣いただけだ。
 兄が荒れた日の夜のように。
 先ほどまで見ていた悪夢のように。

 ――もう、泣くのは嫌だ。

 コーティは、新たに見つけた心の恋人に、決意と熱意を込めた視線を送り返した。

  * * *

 ジュートを真っ直ぐ見つめ返すブラウンの瞳とは対照的に、反らされたのは黒い瞳。

 自分は近いうちに死ぬ。
 そう覚悟して生きてきた10年だった。

 生への執着を少しずつ削ぎ取ってきたことが、エールの心を闇に捕らえる新たな枷。
 鎖に繋がれる生き方に慣れた動物が、突然自由を与えられたからといって、そこからすぐには逃げ出さない……むしろ、自ら鎖を求めてしまう。
 エールはそんな自分を自覚し、愕然とする。

 ようやく、魔女の飼い犬……傀儡として利用される人生から抜け出すチャンスが来たのだ。
 それなのに、エールは逃げた。

 しかし、逃げた先には……涙をたたえながら揺らめく、ブルーの瞳が待っていた。

「……お願い、エール王子」

 サラは、その整った顔をくしゃくしゃにしながら、慟哭した。

「私、あなたを助けたいの……お願い、生きて……!」

 サラの言葉に反応するように、エールの左胸が強く激しく輝いた。
 自分が一生を捧げると誓った女に、生きて欲しいと望まれている。
 それ以外に、どんな理由が必要なのだろう?

 ――俺は、生きる。

 エールは何も言わず、ただ一度うなずいてみせた。


 2人のやりとりを見て、あからさまに不機嫌そうな表情になったジュートは、野生の狼のように唸った。
 その苛立ちを察して、2人が瞬時に身を引いたと同時に……あまり頑丈ではなさそうなデザインのテーブルに、男のゲンコツが落とされた。
 ミシミシと嫌な音がしたが、さすがにその一発で崩壊までは至らず、エールは「腕力だけならリグルが上か」と、かるく安堵した。

「話は終わりだ。お前らもう出て行け! 俺とサラの逢瀬を邪魔すんな!」

 その台詞を最後まで聞くか聞かないかというタイミングで、ジュートの強力な魔術が放たれた。
 次の瞬間には、強制的に部屋を追い出されていた、エールとコーティ。

 目の前で勢い良く閉まった扉を見つめながらと、「サラ姫様の恋人でしたか……」と呟きがっくりと肩を落とすコーティ。
 エールは、長い前髪をかきあげながら、「まったく、ワガママな侵入者だな」と苦笑した。

  * * *

 再びジュートと2人きりになったサラ。
 先ほどまでは、うにうに星人でお口と心がいっぱいだったが、今は違う。
 暗い闇に囚われた2人のことを考えて、サラの頭はフル回転していた。

 サラの中に、恨みや憎しみという負の感情はほとんど無い。
 心の奥深くにはあるのかもしれないが、彼らのように明らかな闇は抱えていない。
 だから、解決策など見当も付かない。

 せめて、もっと食事を取らせて太らせることくらいしか……。
 ついでに自分の髪の毛も混ぜ込んでみるかと、サラは本格的な坊主への覚悟を決めた。

「ねえ、ジュート……もし私が坊主になっても、私のこと嫌いにならないよね?」
「はぁっ?」

 ジュートは額に手を当てながら、大きなため息をついた。

「相変わらずお前、意味わかんねーな……」

 サラは、ふふっと笑いながら立ち上がった。
 今更ながら、まだこの相手とはたった2回しか会っていないことを思い出して。

 僅かな時間だからこそ、大切にしなきゃいけないんだ。
 迷っている暇なんてない。

 サラは、ずっと疑問に思っていた言葉を、ついに口に出した。

「あの……ジュートには、本当に救えないの? 闇に囚われた人のこと……」

 光をあれだけ操るというのに。
 この世界で、最も魔力が強い存在なのに。

 そんな気持ちのこもったサラの問いかけに、ジュートは寂しげに笑った。

「悪いな。残念ながら今の俺には、できないことの方が多いんだ」

 サラは、ジュートが”今の俺”と言ったことが引っかかった。
 それは昔のジュートならできたかもしれないということ。
 なぜ……と言いかけたサラの耳に、ジュートの呟きが届いた。

「光の当たるその裏には、必ず闇ができる。闇を完全に消すことは……誰にもできないんだ」

 か細い声。
 陰りを帯びた瞳。
 ジュートも、何か心に抱えている闇があるのだろうか?

 常に自信満々な人だからこそ、そんな姿はやけに胸を締め付ける。
 サラは抱きしめてあげたくて、必死で手を伸ばした。

 ジュートは、おぼつかない足取りで歩み寄ろうとするサラを笑顔で出迎え、その腕の中に閉じ込めた。
 この腕の中にいることにずいぶん慣れたサラは、あたりまえのようにその広い背中へ腕を回す。
 白いラウンドテーブルには、1つの大きな影が映し出された。

  * * *

「これで、またしばらくお別れだな。サラ……お前の夢、叶えろよ」

 少し汗のにおいがするそのシャツに顔を埋めながら、サラは小さくうなずくと、瞳を閉じた。
 そのとき、サラの心の中に、1つのキーワードが浮かび上がった。


『光と闇』


 先ほどジュートが呟いたその言葉が、サラの頭の中で強く警鐘を鳴らす。
 その意味を求めて思考を深めていくと……サラの脳裏にある映像が現れた。

 それは、光のリング。
 真昼の太陽を覆う、暗闇。

「皆既日食……」

 以前テレビのニュースで見たことがあるだけの、その現象。
 いつも光の裏側へと隠れている闇が、ほんの一瞬だけ逆転する日。

「うん?」

 サラの呟きは、パズルのピースのようにばら撒かれる。
 自分自身も、何を口走っているのか分からず、サラは心に現れては消えるイメージの断片を拾っていった。

「砂漠の、砂嵐の中に、私がいる……女の人の、涙と……ジュート」

 映像の中のサラは、その場所に横たわっていた。
 見も知らぬその場所に、なぜ自分がいるのかは分からない。
 ただ、寝転んでいると分かるのは、砂を踏みしめながら近づいてくるジュートの足が、90度傾いて見えるから。

 履き潰しかけの薄汚れた革靴、細く引き締まった足首、強い脚力を支える足、麻を黒く染めた膝丈のズボン。
 立ち止まり、腰を屈めるジュートのズボンの裾から、角ばった大きな膝が現れる。
 そして、風を受けてはためく白いシャツの裾、適当に留められた胸のボタン、はだけた胸元からのぞく胸筋とキレイな鎖骨……。

 カメラのファインダーをのぞくように、少しずつ移ってゆく風景。
 太い首、シャープな顎のライン、薄い唇、形の良い鼻……そして、ずっと会いたいと願っていたその緑の瞳を見つけたとき……。

「光……ジュートに、光が降りて……」
「サラ?」

 サラは、ジュートのシャツの背中に回した腕を、そっと外した。
 サラを捕まえていたジュートも、腕を外す。
 冷たい月明かりの中で、2人は視線を絡め合った。

 無意識に、サラは微笑んでいた。
 まるで別人のように、凄艶な笑み。
 陶器のような白い肌の中に咲いた赤い唇が、月明かりの中で艶めいている。

「1つだけ、お願いがあるの……」

 その唇が紡いだ言葉には、確かな力が込められていた。
 サラの声は光の精霊へと変化し、ジュートの心を支配した。

「真昼の太陽が、闇に隠れるその時に……戦場に来て……私待ってる」

 言葉の意味は、分からなかった。
 だが、ジュートは「ああ、必ず」と言った。
 サラが「よかった」と呟き、いつも通り無邪気な笑顔を見せたことに、ホッと吐息をついた。

 ――もう、行かなければ。

 ジュートは一度窓の向こうをみやる。
 その行為に別れを察したサラが、笑顔を泣き顔に変えかけるのを、ジュートはやさしいキスで止めた。

 唇を離して、ささやいた言葉は。


「じゃあな、サラ……愛してるよ」


 一瞬、強く吹き抜ける風。
 力が抜け、その場に崩れ落ちても、もう抱きとめてくれる腕はなかった。

 窓枠に飛び乗ったジュートは、ふわりと窓の外へ消えていった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 今日は週末記念でちょい長め……もう言い訳しません。これもひとえに作者の頭が(←言い訳)ということで、魔王様強制退場です。この捨て台詞みたいな告白、ひどすぎる。どいひー。サラちゃんに好き連呼されたときから、言わせよう言わせようと思ってたんですが、タイミングを逸し続けてこの場所に。たくさんの「好き」より一回の「愛してる」の方が10倍界王拳だと思う作者。ん? 意味ワカラン? んじゃ、歩兵10枚よりと金1枚……って、最近自分の使う比喩が年配のエリアだというショックな指摘があり……10個のケータイストラップより、1個のソフトバンクでか犬ストラップ! どーだ!(←すぐ古くなるネタ)サラちゃんの予言への流れは、唐突だけど仕方なく……これ以上話長くしてらんないので、ここはご都合主義万歳ってことで勘弁です。
 次回、ついに会議スタート。第三章クライマックス突入。主役はもちろん主人公……じゃなくて、賢いあの人?

第三章(28)闇を克服するために(中編)

第三章 王位継承


 無抵抗のサラをようやく解放したジュート。
 外側に大きく開かれたままの窓枠にもたれかかり、月光を背に受けながら、不敵に微笑んだ。
 長くのびた影が、座り込んだエールの体に覆いかぶさって、僅かな視界を狭める。

「……というわけだ。分かったか?」

 事態を見守るしかなかったエールの心も、靄がかかったように暗い。
 目を閉じ口を半開きにして、まるで人形のようにぐったり転がっているサラの横顔。
 そして、先ほどまで繰り広げられていたあの行為……。

 自分の唇も、確かにああなったのだとクロルに言われても、とうてい信じられなかった。
 意識が無かったときの話であり、他人事のように思っていた。

 こんな風に見せ付けられて、今更気づくなんて……。

 エールの心に、熱い炎のような感情が生まれる。
 湧き上がる激情。

 ――これは、嫉妬か?

 自覚すると同時に、そのような感情を抱く自分に戸惑い、持て余しかけたとき。

「ところでお前、そろそろ結界戻した方がいいんじゃねーの?」

 何のことかと一瞬首を傾げ……エールは勢い良く立ち上がる。
 両手を強く握り締め、その手のひらを地へ向かって突き出した。
 はめられた指輪からは、大地の精霊達が歓喜の声をあげながら床を伝い壁を駆け上り、城壁全体を包み込んでいく。

 横でこの得体の知れない男が「へー、やるじゃん」と呟く言葉がやけに耳に付く。
 なんだか首元が、むずがゆい。

 エールは集中しなければと、痛みを感じるくらい強く唇を噛んだ。

  * * *

 先ほど嫌というほど飲まされた輝く水のおかげだろうか。
 エールの体調は、すっかり回復していた。
 自分の調子が良いときの証拠に、エールの耳には城の隅々へと行き渡った精霊達の声がはっきりと聞こえてくる。
 どうやらこの城に異変はなさそうだ。

 エールは、自分の失策だったにせよ、何事も無かったことに安堵のため息をつく。
 脱力した体は、再び床の上へ崩れ落ちた。

「お前……こういうことは、よくあるのか? 記憶に無いことやらかすような」

 気遣うような声色で投げられた問いに、エールは逆光の中に佇む男を見上げた。
 さきほどまでの激情が嘘のように、心は静かだった。
 少し考えた後、業務について話すときのように、エールは冷静に答える。

「意識を失うことは、たびたびある。しかし、こんな場所で目覚めるなんて初めてで、正直戸惑っている」
「それは、俺が無理やり術を断ち切ったからだろう。この魔術師女も、何も覚えちゃいないだろうな」

 緑の瞳が示した先には、床に倒れて微動だにしないコーティがいた。
 エールはコーティの存在を、初めてしっかり認識した。
 とっさに駆け寄り抱き起こすと、口元に耳を寄せた。

 呼吸を確認するつもりが、エールは別のことに意識を奪われた。
 コーティは、呼吸の奥で何かを呟いていた。
 エールは、コーティの微かな呟きを聞き取ろうと集中した。

 その言葉は……。

「……お兄様……許して……」

 決して終わらない、繰り返される謝罪。
 どんな夢を見ているのか分からないが、コーティの心は闇に支配されかけているのだろう。
 迫り来る闇を拒絶するために、強く意識を閉じているように思える。

 そう感じたのは、自分もついさっきまで、コーティと同じ状態だったから……。

「ま、死ぬほどのことじゃねーよ。そのうち自然に起きるだろうけど、起こしたいなら言ってくれ」
「彼女を、早く起こしてやって欲しい……頼む!」

 ジュートはふんと鼻で笑った後、人差し指を立てて、指の先をくるりと回した。
 月明かりの筋からふわりと離れた光の粒が、その指の動きに合わせて舞い踊り、最後はコーティの体の奥へと消えていく。
 うめき声をあげ、ゆっくりとその瞳を開いていくコーティ。

「ん……頭、いたい……」

 ピリピリとこめかみあたりが痛むのは、もう慣れっこだ。
 兄が暴れた後、部屋で一晩中泣いて……泣きつかれて眠ってしまった後、必ずコーティはこの痛みを覚えていた。
 兄がいなくなっても、悪夢はたびたび現れ、コーティの頭に痛みを残した。
 ここ半年ほどは、落ち着いていたと思ったのに……。

 悪夢の余韻から抜け出そうと、コーティはパチパチ瞬きを繰りかえしてみる。

「暗い、真っ暗、暗い、真っ暗……暗い方が現実よね……それとも真っ暗が現実……?」
「……おい、コーティ?」

 その声を聞いて、自分が寝ているのは部屋の固いベッドではなく、誰かのやわらかい腕の中ということに気づいた。
 一瞬兄の顔が思い浮かび、コーティは体を強張らせる。
 それが、単なる悪夢の残像だったということは、次に降ってきた優しげな声で分かった。

「――大丈夫か?」

 コーティの視界に飛び込んできた、黒く理知的な瞳……。
 細く切れ上がった瞼の奥に湛えられた、膨大な魔力。

 この人は、まさか……。

「え……エール、王子?」

 それは、特別な会議の日に、魔術師仲間たちと遠目で見つめるだけの、まさに雲の上の人物だった。

  * * *

 今まで豆粒サイズ……頑張っても手のひらサイズでしか見たことが無かった人物。
 その人から、抱きかかえられている。
 その上、相手が心配げに自分を見つめてくる。

 想定外すぎる状況に、一人パニックに陥りかけるコーティは、このとんでもない事態の理由を探ろうと、記憶の海へダイブした。

 確か自分は、1人で部屋に居たのだ。
 今日の業務報告書と昨日の業務報告書と一昨日と……とにかく、溜め込んでしまった宿題を、泣く泣く片付けていたはず。
 壁際で微笑むファース様のお顔を一行ごとに見つめていたせいで、作業はちっとも進まず……そのうち夢の中へと入りかけて。
 部屋をノックする音で、目が覚めた。

 そうだ、誰かが私の部屋を訪ねてきたんだ。
 ただ、それが誰かまでは分からない。

 ゴクリ、とコーティは生唾を飲み込む。
 憧れたエール王子の艶やかな黒髪が、手を伸ばせば触れられるくらいの距離にある。
 なにより、この涼やかな黒い瞳が、私だけを映しているのだ。

 もしかして、この方は……。
 私に……夜這いを……?

 バクバクと動く心臓が、これは夢ではないと伝えている。

「気分はどうだ? 痛いところは無いか?」

 エールは、できる限りやさしい声で話しかける。
 目をぱちくりさせ、意味不明な言葉を呟いたかと思えば、顔を真っ青にしたり、真っ赤にしたり。
 普段彼女と関わることは無いが、常に取り澄ましたような薄い笑顔を貼り付けている、冷静で淡白な女という印象だった。

 コロコロ変わるその表情を見ながら、エールが不審げに眉を寄せたとき。
 ようやくうにうにショックから解放されたのか、ベッドの上で体を起こしたサラが「とりあえず、水をあげて」と声をかけた。

 同時に、コーティの心にも水がバシャッとかけられ、妄想の炎はあっさり鎮火した。


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 いや、すみません! 調子に乗って加筆してたらかなりの長さに……作者の頭の中がオカシクなってるということで、情状酌量の余地残してくださいませ。おかげでコーティちゃんが徐々に壊れてきてます。兄エフェクトからの解放を目指している中で、本来の自分を着実に取り戻しつつあるのでしょう。本来の自分は、控えめキレイめオトナめ美女……ではなかったようです。軟禁生活のお楽しみは妄想のみですから……しかも、あのヘンタイファース様ラブと言ってる時点で、こうなることは分かっていたような。でも、なんとなく幸せになってきたでしょ? ダメ? エール王子の方はそんなに単純じゃなく、むしろ複雑です。畏敬と嫉妬のバランスがシーソーゲーム中。あと、初めて男からキスされて実はパニクってるのがベースに。
 次回こそ、ジュート君退場です。ここまでひっぱるのは魔王の呪いか……。サラちゃんもようやくパニック脱出です。一度に何人も出て来て濃い話させると、視点変わりまくりで危険な回。

エロマゲドン 本編

エロマゲドン


 とある夏の日の昼下がり。
 小さな子どもを含む大勢の市民が教会に集まり、若く清純なシスターのありがたい教えに耳を傾けていた。

「……ということで、神はこの星の中央に美しい森と泉を作られました。しかし、この星の美しさに惹かれ、我が物にしようと狙う邪神が現れたのです。そこで神は、この星にある物を授けてくださいました。さあ、何だか分かる方はいますか?」

 シスターの話に夢中になっていた少年少女たちが、「ハイハイハイ!」と叫びながら一斉に手を挙げる。

「じゃあ、皆さん一緒に答えましょう……せーの!」

『ヒモパンですっ!』

 笑顔で答える市民達は、全員ヒモパンを履いている。
 今日のような暑い日には、スカートやズボンなど、聖なるヒモパンを隠すような衣類は身に着けないのがこの星の流儀だ。

「そう、ヒモパンですね!」

 唯一服を着ていたシスターが、床まで届くほど長いスカートをガバッと捲った。
 中から現れたのは、もちろんヒモパンだ。
 輝く金糸で織られた黄金色の生地、森を覆うレースの絶妙な透け具合、ヒモへと向かう切れ込みの角度……。
 一般には決して出回らない美麗なるそのヒモパンに、市民たちは静かに頭を垂れるのだった。

  * * *

 ここは、いつからか“ヒモパン星”と呼ばれるようになった、小さな星。
 この星を外敵から守るように覆う三角形の青いドーム……それが“ヒモパン”だ。

 過去、ドームの形状を分析することに命をかけた科学者たちがいた。
 数百年もの歳月をかけ、ついに科学者たちはドームの縮尺模型を作り上げた。
 当時の国王が、そのミニチュアを手にしたとき、感激のあまり自らの最も大事な部分を覆ったことがきっかけとなり、ヒモパン装着は神への信仰の象徴として全国民へと広まった。

 長い間、人々はヒモパンに護られ、穏やかな暮らしを送ってきた。
 ヒモパン星の美しさを耳にし、いてもたってもいられなくなった野蛮な侵略者は後を絶たなかったが、全て鉄壁のヒモパンガードに跳ね返された。

 人々は、平和な暮らしに慣れ切っていた。
 だから、今までとは違う狡猾な敵が近づいてきたことに気づくのが遅れた。

『緊急速報です! 侵略者の飛行艇は森の上空を通過し、そのまま“世界の端”へと移動していきました。攻撃を諦めたかと思われましたが、どうやら敵は“ヒモ”を狙ったようです!』

 狡猾な侵略者は、ヒモパンがヒモパンたる要……その結び目に攻撃を仕掛けたのだ。
 ヒモパンのヒモが解ければどうなるかなど、小さな子どもでも知っている。

 人類滅亡へのカウントダウンが始まった。
 人々は生活の全てを放り出し、持てる限りのヒモパンを握り締めて教会へと集うようになった。
 泣きじゃくる子どもたちを抱きしめながら、シスターは「神に祈りましょう」とささやくことしかできない。

 絶望の中で、国営放送は侵略者の行動を淡々と中継し続けた。
 飛行艇から伸びた二本のアームがヒモパンのヒモをがっしりと挟み、そのエンジンが火を噴く。
 ヒモパン星の防衛軍が応戦するものの、広大な宇宙の果てからやってきたその飛行艇には歯が立たない。
 少しずつ緩んでいく結び目を見ながら、誰も何もできなかった。

『耐えがたきを耐え……』

 国王による敗北宣言とも思える放送が始まったとき。
 シスターは、黄金のヒモパンで涙をぬぐうと、テレビのスイッチを消した。

「このまま終焉を待つくらいなら、最後まで抵抗しましょう……諦めたら、そこで試合終了ですよ!」

 シスターの言葉がこの星の隅々に伝わるまで、そう時間はかからなかった。
 人類は、ヒモパンを手に立ち上がった。

  * * *

 ――ヒモパン星、最後の日。

 飛行艇のアームに必死の摩擦抵抗を続けていたヒモは……ついに解けた。
 ふわりと浮かび上がり、宇宙にただよう聖三角形。
 神秘のベールにつつまれた、美しい森と泉を一目見ようと、侵略者たちは飛行艇の窓から身を乗り出し、生唾を飲み込む。

 そこに見えたのは……。

「いいですね! 皆さん、絶対に手を離さないで!」
「おおっ!」

 ヒモパン星の住民たちが、残された僅かな時間で行ったこと。
 森の木を全て切り倒し、その跡地から泉の水の湧き上がる地面の裂け目にかけて……全員が手を繋ぎ、体をめいっぱい広げるようにうつぶせになり、自らの体で覆いつくした。

『ミ、見エナイ……』

 長時間ヒモと戦い続けた飛行艇の燃料は、尽きかけていた。
 侵略者は、去った。

 奇跡を導いたシスターの名は、モザイク。
 彼女の名は、ヒモパン星の歴史に永遠に刻まれたのだった。


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【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
「なんで〜こんなに〜くだらないのかよ〜♪ エロと〜言う名の〜宝物〜♪」
……この作品は、長編(キラキラ王道恋愛ファンタジー)に煮詰まったときに、主人公にうっかりはかせたヒモパンから発案。「あー、ヒモパンって、正統派SFには絶対出てこないアイテムだよなー」と呟いたとき、なぜか自分のハートに火がついたのです。『出ないなら、出させてやろう、ホトトギス!』そこから小一時間で書いてみましたが、このアホっぷりが周りに好評だったので、勇気を出して後悔……公開してみました。繰り返しますが、本来はピュアでトゥルーなラブファンタジーを書く人です。こんなことばかり考えている人ではないのです……たぶん。
※余談ですが、タイトルがなかなか思いつかず、最初のタイトルは『誰も見てはならぬ』(トゥーランドットより拝借)でした。なんかホラーっぽくて、これはこれで別作品も書けそうな?

エロマゲドン あらすじ

エロマゲドン


美しい森と泉のある平和なこの星。侵略者が絶えないものの、星を守る『ドーム』が敵を撃退していた。そのドームの弱点が、ついに侵略者に見破られ……世界最後の日、一人のシスターが立ち上がった!
※本格派風SF+ありえないエロの融合を狙った作品です。ひたすらアホ・シモ・B級……ご注意ください。(PG12)

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第三章(27)闇を克服するために(前編)

第三章 王位継承


 目を覚ましたエールは、自分がまだ深い思考の海に溺れているのではないかと思った。
 薄闇の中で自分を覗き込む、見たことも無いような深い緑色の瞳が、そう思わせた。

 ――どこからか聞こえる、あの優しい声。

『精霊の森には、深い深い緑色の、まるで木漏れ日を映しとったような光る泉があるの。そこには、傷ついた動物達が集うのよ。その泉の水に触れると、どんな病気も治ってしまうんですって』

 さ、このお茶を飲みなさい。
 お母さんが、森へ行って汲んできたの。
 全部飲んだら、きっとお熱も下がるわよ。

 濃い緑色をしたそのお茶は、薬草が溶かされていて……ひどく苦かった。
 思わず顔をしかめたエールの瞳を覗き込みながら、彼女は良い子ねと、頭を撫でてくれた。

「母さん……」

 あの魔女のことは、一切思い出さないようにしていたのに……今、こうして記憶が鮮明に蘇るのはなぜだろうか。

「おい、寝ぼけてないでこの水飲め。お前の体から毒抜けるからよ」

 低く唸るような男の声に、エールは浅い夢から醒めた。
 至近距離で自分を見つめるその人物に、見覚えは無い。
 とっさに離れようとする体を、リグル並の腕力で捕まえられてしまった。

「いいからさっさと飲めっつーの!」

 猫の子のように首根っこを掴まれたエールは、目の前の男の突き出したコップから、無理やり大量の水を飲まされた。
 少しだけ光を帯びて見えるその水を飲み干すと、あの日飲まされた薬湯のように、エールの体は不思議と楽になった。

「ジュ……頭領、もうちょっと優しく……」

 もうだいぶ聞きなれた、鈴が鳴るような声を聞いて、エールは初めて自分の置かれた立場を理解した。

  * * *

 エールとサラは、ジュートが光の魔術をかけた水をしこたま飲まされた。
 部屋の隅には、コーティが寝かされたまま放置されている。

 エールには、即効性があったらしく、ジュートに抵抗するそぶりをみせるほど元気だ。
 サラは、先ほどの毒が多少薄まったような気がしたが、まだぐったりとベッドに横たわったまま。
 そんなサラを見つめると、悲痛な表情でエールは土下座した。

「サラ姫、すまない。俺は何も覚えていないんだ。この部屋に来たことも、君に何をしてしまったかも……」

 サラは「顔をあげて」とささやいたが、ゲンコツ饅頭を作ったジュートは、エールの後頭部を木魚のようにポクポクと叩いた。

「俺が間に合ったからいいけどなあ……あの紐が解かれてたら、てめえの命は無かったぞ」

 ……紐?

 サラは、手首を縛っていた紐のことを思い出して、文脈的に違うと心の中で打ち消し……。

「あっ……あんた、どこ見てんのよっ!」

 サラの手は、脳内ではスピーディに、実際はのそりと、ワンピースの裾へ移動した。
 先ほどスカートの中を覗かれたときに、きっとサラの太ももの脇にチラリと、2本の紐を見つけたに違いない。

「これは、エシレがっ、リコがっ!」

 パニックになってわめくサラをスルーして、ジュートは再びエールのローブの首根っこを掴む。
 無理やり顔を持ち上げさせると、その青ざめた顔に薄い唇を近づけて……。

 首筋に、強く口付けた。

「――っ!」

 慌てて、ジュートから離れようともがくエール。
 ジュートは薄い唇をぺろりとひと舐めし、笑った。

「おい、これでお前のしたことはチャラにしてやる。サラ、お前は真似すんなよ?」
「真似するかっ!」

 叫んだサラは、首を捻じ曲げてエールを見た。
 強烈なショックを受けたであろうエールは、熟れる前のトマトのような、赤いんだか青いんだか分からない、不思議な顔色をしていた。

 ああ、頭が痛い……。

 先ほどまで、ぐんぐんと回復の兆しを見せていたサラが、再び脱力して布団に顔を埋める。
 やっぱり、この頭領あっての、あの盗賊たちなのだ。
 目には目を、歯には歯を、拳には拳を、キスにはキスを……。

 首筋を手のひらで押さえていたエールは、わなわなと体を震わせたかと思うと、目の前のシャープな顔を睨みつけた。

「サラ姫には、すまないと思う……でも、お前はいったい何者だ!」

 真っ先に出てきてもおかしくないだろう疑問。
 サラが、なんと説明しようかと思考を巡らせる間に、エールを離したジュートが仁王立ちに腕組みした王様ポーズで答えていた。


「俺は、この女の――守護者だ」


 鋭い眼光が、エールの胸を貫いた。

 はるかな高みから見下ろされていると、エールは思った。
 こんな気持ちになったのは、初めて国王に面会したとき……いや、それ以上の圧倒的な存在感だった。

 深い緑の髪と、緑の瞳。
 月明かりの中でも、男の全身が光り輝いているのが分かる。
 この男に揺り起こされたときから、そのことは分かっていたのに。

 エールの体は、今更ながらカタカタと震え出した。

  * * *

 ネルギ国の巫女姫、サラ。
 彼女を守る守護者とは、もしや聖獣のたぐいではないだろうか。

 体つきは若干リグルより華奢な、ただの人間の男にしか見えない。
 しかし、その引き締まった体からにじみ出るのは、黄金の龍を超えるほどの恐ろしい魔力。
 エールは、その緑の瞳に魅入られ、言葉を失っていた。

 ジュートは放心状態のエールに笑みを向けると、その逞しい腕を伸ばし、エールのローブの襟元を掴んだ。
 先ほど痕をつけられた首筋が、かすかな痛みを放つ。
 思わず瞳を閉じたエールの耳元に、低くハスキーな声が響いた。

「もっと率直に言えば、この女は”俺のモノ”だ。今後近づいたら、ぶっ殺す」

 呆気に取られたエールは、サラの部屋の柔らかな絨毯にへたりこんだまま、その光景を見つめていた。
 しつこくねちこく、クロルにささやかれ続けた、あのシーン。
 確かにこれを間近で見せられたら、愚痴の一つも言いたくなるだろう。


 うにうにうにうに……。


 力で抵抗できないサラは、なすがまま。
 放心状態のライバルを横目に見ながら、ジュートはその甘い果実のような唇を、思う存分堪能した。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 はい、桃缶ジュースな回でした。ジュート君、やりたい放題です。王道っぽく”守護者”って言わせたかったんだけど……どっちかっつーと魔王っぽくなってきたような。今まで出番少なかったしまいっか。エール君&優しかった頃のママンエピソード、そのうち番外編でちゃんと書いてあげたいなあ。パピィ&マミィ(←心配性風に変えてみた)の身分差ラブ話でもいいかも。あっ、やっぱラブはしばらくイイっす! うっぷす。ところで皆さま、ヒモパンはお好きですか? ヒモパンについて、熟考の良い機会をお作りしました。日記の方で呟いてた壮大スペクタクルSF短編が(小一時間で)完成! ……モノカキ仲間に内容見てもらって案外好評だったのでUPします。ああ、これでまた作者のブランドイメージが、アホ方面へググッと移動してしまふ……まいっか言っとけマイッカー。
 次回、そろそろ魔王ジュート君退場。サラちゃん、次の逢瀬への伝言残します。そして怒涛のご都合主義クライマックスへ……。

第三章(26)つかの間の逢瀬(後編)

第三章 王位継承


「ったく、俺の顔を足蹴にした女は、お前が初めてだぞ」
「靴、履いてなかっただけ、マシ……」
「かわいくねーなっ」

 ぼやきつつも、もう少し一緒に居たいというサラのわがままを叶えてくれたジュート。
 おかげで床に倒れている2人は、追加で一撃ずつ光の攻撃を食らって、すやすやと良くお休みになっている。

「かわいいこと言わねーと、その手解いてやんねーぞ?」
「あっ、ごめんなさい、神様仏様、ジュート様っ!」

 手首をきつく縛っていた紐を、微妙なおねだりで解いてもらったサラだったが、手が自由になったところで、ぐったりとベッドに横たわったまま動けない。
 ジュートが抱き起こしても、くたりと倒れこんでしまう。
 もちろん、治癒系の魔術も効かないので、自然とこの毒が消えるのを待つしかない。

 本来なら医者を呼びたいところだが、ジュートどころか倒れたエール王子たちもいるし、怪しまれること確実なシチュエーションだ。
 サラは、自分の体のことは無視して、ジュートとの逢瀬を楽しむことにした。

「ねえ、どうして、来てくれたの……?」

 久しぶりに会えた、恋しい相手。
 少しでも多く会話をしようと、サラは必死で口を動かす。
 歯医者で麻酔をかけられたときのように、うまく口が回らないけれど、気にしない。

 ベッドに腰掛け、サラの頬や髪を撫でながら、ジュートは苦虫を噛み潰したような表情をする。

「どうしてって……そりゃ、お前がエシレに変な伝言頼んだからだろ?」
「……変な?」

 うまく頭の働かないサラに、ジュートは忘れられないあの迷台詞を告げた。


『トリウムの王子にアタシの○○を奪われそうだから、今すぐココへ来て○○して』


 ――女の直感恐るべし。

 サラは、次に会ったらエシレのことを”師匠”と呼ばなければと心に誓った。

  * * *

 エシレの伝言を風の魔術で受け取ってから、ジュートは着の身着のまま砦を飛び出したという。
 サラ達が徒歩で20日かかった距離。
 そこを、ジュートは魔術を駆使して、ほんの3日ほどで駆けつけてきた。

「あの女……すっかり忘れてたなんてぬかしやがって。おかげでギリギリだったじゃねーか……」

 サラは、今更ながらジュートが来なかったらどうなっていただろうと、顔を青ざめさせた。
 ジュートのシャープな顎のラインを見つめながら、蹴飛ばしてゴメン……と、サラは心の中で殊勝に謝った。

「お前が抜けてんのは分かってた。ただ、男装だしアレクも居ると思って舐めてたら、なんでこんなことになってんだ?」

 話しながら、ジュートはみるみる不機嫌そうに眉をひそめ、唇を尖らせていく。
 サラの頬を優しく撫でていたはずの指が、いつの間にかムニッと摘んで引っ張っている。
 さすがに痛覚が刺激され、サラは「いひゃい」と言ったが、ジュートは聞いちゃいない。

「お前に近づく男はぶっ殺す……と思ったけど、さすがにこの国の王子じゃそうもいかねえな。アレクあたりなら遠慮しねーんだが……なんなら○○潰して再起不能に」

 サラには見えない角度の、床の一点を睨みつけたジュートが、緑の瞳に苛立ちを滲ませて立ち上がる。

「ちょっ、待ってっ」

 ジュートを止めようと伸ばしたサラの手は、半そでのシャツから伸びた筋肉質な腕をかすり、スルリと落ちる。

「お願い、この人には、何もしないで」
「なんだよ……お前、こいつのことまさか」
「好き……」

 吐息混じりのサラの声に、ジュートはびくりと体を硬直させる。
 サラは、めいっぱいの力で叫んだ。

「ジュートが、好き……好きなの……あなただけが、好き……!」

 ベッドの縁にぽたりと落ちたサラの手に、大きくて硬い手のひらが重なる。
 サラは、その手を握り返した。
 まるで唇を重ねたときのように、サラの心臓が早鐘を打つ。

 サラのブルーの瞳に、ようやく止まったはずの涙の泉が再び湧きあがる。
 涙腺を緩ませる理由が目の前に迫ってきて、サラの瞳からは透明な雫が筋になって流れ落ちた。
 ジュートの瞳からは険が取れ、珍しく困ったように眉尻が下がっている。

 どんなときも、あなたが好き。
 だから、信じて欲しい。

「好き……ジュートだけ……分かって……」
「ああ、分かったよ」

 サラの両方の瞼に、涙を止めるスイッチ代わりに優しくキスが落とされる。
 今更ながら、伝えてしまった台詞の恥ずかしさに、サラの頬は真っ赤になった。
 言われたジュートも、もしかしたら少し照れていたのかもしれない。

「さすがに、そろそろ行かなきゃな」

 サラからふいっと目を逸らすと、ジュートは乱暴に緑の髪をかきあげ、今度こそ本当に立ち上がった。
 月明かりに照らされたジュートの後ろ姿は、光をまとった野生の狼のように見える。
 サラの前髪が長くなったのと同じように、ジュートも後ろ髪が少し長くなった。

 離れていたのは、たった3ヶ月。
 次に会えるのは、いつなんだろう?

 もう少し一緒に……と口にしかけたサラに、容赦なく現実が突きつけられた。

「ところで、この城の結界張ってたのこいつだろ? 今この城完全無防備なんだけど」

 ――ええっ?

「ま、こいつの結界が消えたから、俺もすんなり入って来られたんだけどな」
「それ、マズイよっ」

 サラが冷や汗びっしょりになりながら「早く、エール王子起こしてっ」と叫んだけれど、ジュートは腕組みしつつサラと床に倒れたエールを見比べる。

「こいつが目覚めたら、俺のこと知られるけど……それ、いいのか? お前の体が戻ってから起こした方がいいんじゃねえ?」

 サラは、寝転んだまま、体のあちこちを動かしてみた。
 先ほどよりはだいぶマシになっているとはいえ、まだ自分の体はしびれたままだ。

 正直、今ジュートが居なくなって、また同じ目にあったら怖い。
 それ以上に、サラの体が回復するまでの間に、この城に何かあっては困るし。

「お願い。ジュートが良かったら、彼を起こして。私から、ちゃんと説明する」

 ジュートは大きく息をつきながら「分かった」と呟くと、倒れたエールに向かってしなやかな腕を伸ばし、手のひらから癒しの光を当てた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 サラちゃん、ガンガン告白するの巻……。今度はパイナップルの缶詰ジュース風味。ああ、甘い……。もう甘いのはイイっす。久々に頭領君書いてるけど、こんな性格で良かったっけか? 男子キャラ多すぎて書き分けできてるか不安だ。どっちにしろ、真面目カタブツ系のエール君と話が合わないのは間違いないでしょう。コーティちゃんはすっかり存在忘れられてます。てか、ジュート君の中では石ころボウシ扱いです。(←ドラ○もん秘密道具。居るのに見えなくなるグッズ)補足ですが「神様仏様~」の台詞、本当は最後「稲尾様」です。分からない方はお父さんor野球ファンに聞いてください。サラちゃんは、パパたちの誰かに習ったということで。作者の年齢なんて、ちっちゃいことは気にすんなー。
 次回、目が覚めたエール王子、自分の失態ショックで凹みます。そりゃそーだよなー。ついでにジュート君に快心の一撃食らいTKO。残念。 ※語彙間違い修正しました! ご指摘いただいた匿名さま、感謝です!

第三章(25)つかの間の逢瀬(前編)

第三章 王位継承


 夢を見ているのではないかと思った。
 自分にとって都合の良すぎる、幸せな夢を。

 サラは一度目を閉じ、再び開ける。
 大丈夫、まだ感覚は残っている。
 小さなランプの灯りだけが頼りだが、この室内で起こっていることを把握するくらいならできる。

 ――あの人が、ここにいる。

 涙でぼやける視界の中に、閃光が走ったような気がした。
 サラにも見えるくらい強い、光の精霊の束。
 盗賊の砦で見た、あの光だ。

 どさりと何かが床に落ちるような音と同時に、光は消えた。
 再びサラの視界は暗く霞み、かすかな灯りに頼らざるを得なくなる。
 唯一通常の感覚が残っている両耳が、心地よい音色を拾い上げた。

「よお、サラ。危ないとこだったな」
「バカ……」

 嬉しいのか、悲しいのか、悔しいのか、サラにも分からなかった。
 ただ、溢れる涙が止まらなかった。

  * * *

 ジュートのことで心が埋め尽くされる前に、サラは確認しておかなければと、懸命に言葉を発した。

「ね……2人は、だいじょぶ……?」

 高さのあるベッドに寝転んだサラからは、床に倒れているであろう2人の姿は見えない。

「ああ、ちょっと気を失わせただけだから、すぐに起きるだろ」

 ジュートの言う”ちょっと”がどの程度なのか分からないが、命に別状は無いだろう。
 ホッと息をつくサラの瞳に、深く澄んだ緑色が飛び込んできた。

 いきなり、至近距離っ!

 その瞬間、サラの心拍数は、三分間走直後を越えた。
 もしも体が動かせるなら、ベッドの端までゴロゴロと転がって、壁と床の隙間に落ちていたかもしれない。
 ジュートはベッドに寝転んだサラの脇に腰掛けると、斜め上からサラを見下ろしている。

「サラ、お前何もされてねーだろうな?」

 そう、この瞳だ。

 闇の中でもくっきりと光輝く深い緑。
 切れ長の目にかかる、瞳と同じ色の柔らかい前髪。
 少し日に焼けた精悍な表情に張り付いた、皮肉げな笑み。

「うん……ジュート……私は、大丈夫」
「つかお前、簡単に俺の名前呼んでんじゃねーぞ?」

 その台詞に、サラの顔からは血の気が引いていく。

 ジュートの名前は、特別な名前。
 サラだけが教えてもらった……。

「ごめんっ……」
「バーカ、嘘だよ。もっと早く呼べっつーの。罰としてお前しばらくこのままね」

 えっと呟くサラの唇は、もう1つの唇で強引に塞がれた。

  * * *

 柔らかいベッドの上で、両腕を拘束されたまま、サラはただ目を閉じていた。
 淡いランプの灯りの中、聞こえるのは2つのかすかな吐息。
 ときおりギシリと鳴るベッドのスプリング。
 サラの服と、ジュートの服がこすれあう衣擦れの音。

 サラの短い髪を、細い首筋を、骨ばった背中を撫でていく、大きな手のひら。
 そして、唇からは、絶え間なく流れ込み続ける情熱。

 サラは、目を開けてしまうのが怖いと思った。
 これがもし夢だったら、神様は残酷だ。
 もしも夢だとしたら、どうか醒めないで。

「サラ……」

 低く掠れた声に呼ばれ、サラは恐る恐る瞳を開いた。
 睫に絡みついた涙が雫になって、こめかみの脇を流れ落ちていく。
 その涙を、少しかさついた熱い唇が掬い取る。
 そのままこめかみへ、頬へ、そして先ほどエールに痕をつけられた部分へと、唇は移動していく。

 皮膚感覚が少しずつ戻ってきたサラは、くすぐったさに少し微笑んだ。
 笑顔のサラを見つけて、ジュートも微笑む。

「ジュート……会いたかった……」

 声を振り絞ったけれど、麻痺した体では小さなささやきがやっとだ。
 でも、こんなに近くにいるこの人は、ちゃんとその声を拾ってくれる。

「ああ、俺もだ」

 その視線は、とろけるように甘くて。
 サラの思考は先ほどまでと裏返り、もう瞬き一つしたくないと思った。
 この手が動くなら深い緑の髪をかきあげて、この瞳をもっと近くで見つめたいのに……麻痺した体がもどかしい。

 サラは、ささやかなお願いを伝える。

「腕の紐……解いてもらえる……?」
「おっと、そろそろ時間かな」

 ――なにいっ!

「残念だけど、そう長居もできなさそうだ。お前の顔見れられて良かったよ。じゃなー」
「ちょっ……待って!」

 サラは、火事場の馬鹿力というものを、生まれて初めて発揮した。
 拘束されたままの手と違って、自由に動く足の片方がドライブシュート並にうねり、ベッドから降りようと背を向けたジュートのお尻にヒット。

「いてえ……」

 不機嫌そうにサラを睨みかけたジュートだったが……少し腰を屈めると、ニヤッと笑った。
 薬のせいで鉛化した足は、蹴り上げた角度のまま戻って来ない。
 サラのワンピースは、太ももまでめくりあげられ……。

「ふーん。お前いっちょまえに、黒い下着なんてつけ」
「バカァッ!」

 サラのスカートの中を覗き込んだジュートの顔に、もう片方の足がタイガーショット並の強さでクリティカルヒットした。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 うなぎは関東風に、一度ふっくら蒸してから炭火でじっくり焼き上げてと……。あっ、うなぎの肝吸いね! おまちどおさん! うん、苦い。今までで最強の苦さ。でもさっきまでベタベタに甘いミカン缶汁飲んでたから、中和されてちょうどいい……はー。一切話の進まない回でした。というか、ジュート君はサラちゃんのピンチを助けて、ちゅーして、役得すぎです。もっと蹴り入れてもいいくらいか。補足ですが、ドライブシュート&タイガーショットとは、キャプ○ン翼という昔のサッカー漫画の必殺技です。たぶんかなり痛いと思う。あとサラちゃんが履いてた下着は、例の”必殺下着人シリーズ”の1人……1枚です。もちろんヒモパンです。「シュリンッ!」と音も無く紐が解かれる日は……来ません。この話R指定NGですから。
 次回、ジュート君とのつかの間の逢瀬終了。次に会えるのは……いつかなー。(作者遠い目)可哀想なマリオネット・エール君もそろそろ起こさねば。

第三章(24)闇に囚われた者

第三章 王位継承


 明日に備えて早めに風呂と夕食を済ませたサラは、部屋で1人考えを巡らせていた。
 テーブルに置いたランプより少しは明るい、月明かりの当たる窓辺にもたれかかって。
 窓を開け放つと、夜になって冷気をはらんだ風が吹き込み気持ちが良い。

「ベランダがあればいいんだけれどな」

 不審者の侵入を阻止するため、この城は低層階の部屋にしかベランダは無く、サラは体を窓枠から乗り出すようにして、月明かりと星空を堪能した。

「とうとう、明日か……」

 サラは、薄闇に向かって呟くと、遠く見える星と自分の未来に思いを馳せた。

  * * *

 まず、最優先の課題だったエールの問題が、会議前に片付いたことは大きい。

 今日リーズを呼び出したのは、エールのためだった。
 リーズが飼っているスプーン猫には、強い光の力があることを思い出したから。

 2人を引き合わせたとき、エールはかなりのショックを受けていたようだ。

 突然現れた、自分より背の高いペンキまみれのつなぎを着た大工風の男。
 この城にそぐわない……むしろ怪しすぎるその男が、胸ポケットから可愛い猫型ワンピースを着せられたスプーンを取り出したときには、明らかに逃げ腰になっていた。

 サラは、エールの腕を掴みながら「大丈夫、怖くないから」と、注射を嫌がる子どもを宥めるようにキッチリ押さえつけた。
 その次の瞬間……サラにはまったく分からないのが悔しいが、かなり強い発光が起こったという。

『ごめん、ダーリン。あたしたちでも、さすがに魂の奥までは照らせないにゃー』
『でも体の表面に染み出してる闇は消しといたから、しばらくは大丈夫かにゃ?』

 光って喋るスプーン猫に強烈なショックを受けたエールだったが、すぐに気を取り直し、自分の体を見たり触ったり、手足を曲げ伸ばしする。
 その後、リーズとなにやら会話すると、ガッチリと硬い握手を交わした。

 リーズは、エール専属の呪い治療医師として、定期的に王城を訪れる約束をしたそうだ。
 帰り際に「今度、兄のアレクも一緒に連れて来ていいですか?」と聞いていたのが、サラの涙を誘った。


 エールに会ったついでに、サラは国王、リグル、クロルとも顔を合わせた。
 一言ずつしか話せなかったが、明日はサラにとって悪い結果にはならないという空気を感じて、サラは安心した。
 特に、クロルが「任せといて」と笑ってくれたので、サラの心はだいぶ落ち着いた。
 国王の背後には月巫女もいたけれど、サラと視線を合わせることはなかった。

 明日は、リグルが次期国王に任命される。
 それだけで、国中は大騒ぎになるだろう。
 和平の話や、ましてサラが誰と結婚するかなど、ひとまず忘れ去られるかもしれない。
 その間に、あの賢いクロルが、サラにとってもこの世界にとっても完璧ハッピーなプランを考えてくれるに違いない。

 もう、今日はゆっくり眠ってしまおう。

 サラは、窓辺から差し込む月の光を見上げ、女神様に「どうかよろしく」と心の中で呟くと、拍手を打った。

『パンパン!』
『コンコン!』

 サラの手が鳴る音にぴったり重なった、ドアをノックする音。
 サラは一瞬、キモを冷やした。

「誰っ?」
「私です。コーティです」

 寝間着の上からガウンを羽織り、急いでドアを開けると、見慣れたブロンド美女が微笑んでいた。

  * * *

 コーティを部屋に招き入れると、サラはラウンドテーブルに乗せたランプの灯りを強くした。
 てっきりコーティが炎の魔術で部屋を明るくしてくれるかと思ったが、コーティは微笑みながらサラのことを見つめているだけだった。

「どうぞ、座って?」
「ありがとうございます」

 コーティの手には、ティーポットが1つ。

「フルーツエードを作ってみたんです。サラ姫様はフルーツがお好きと伺ったので」
「へえー、それ飲んだこと無いかも……美味しいの?」
「ええ。季節のフルーツを数種類お水で割って煮詰めて、フルーツの甘みと風味を生かしたホットドリンクです。温まりますし、ぐっすり眠れますよ」

 サラは、ミニキッチン脇のワゴンから、ティーカップを2つ取り出して、テーブルにセットする。
 コーティの細い指が重そうなティーポットを難なく摘みあげ、ティーカップにフルーツエードを注ぐと同時に、爽やかな香りが鼻腔をくすぐった。

 一口飲むと、イチゴ、オレンジ、バナナ、リンゴ……ミックスジュースとフルーツティの中間のような、さっぱりとした甘みと酸味が広がる。
 なにより、舌の上から鼻の先へ抜けていくフルーツの香りが素晴らしかった。

「ありがと、すごく美味しい……。でも、いきなり訪ねて来るなんてどうしたの?」
「すみません。ひとつお聞きしたいことがあったので……」

 コーティの瞳が、赤いランプの灯を反射して揺らめく。
 いつも昼間に会うことが多かったが、夜のコーティはなかなか妖艶だ。
 恋人はとくに居ないと言っていたが、心の恋人・魔術師ファースのことを諦めれば、素敵な人がすぐに現れるに違いない。

「サラ姫様は……もし明日、王族の誰かを選べと言われたら、どなたをお選びになりますか?」

 唐突な質問に、サラは動揺して視線を落とす。
 羽織ったガウンの奥の肌が、じっとりと汗ばんでいく。

「な、なによ急に……」
「ずっとお聞きしたかったんです。教えてください」

 サラが顔をあげると、相変わらずコーティは微笑んだままだ。
 穏やかな表情とは裏腹に、その目は一切笑っていない。

 こんな表情を、どこかで見たことがあるような……。

「国王様、ですか?」
「えっ……」
「私は、エール王子が良いと思うんです」
「あの、コーティ……?」

 サラは何か嫌な気配を察して、椅子から立ち上がる。
 コーティも立ち上がり、白いテーブルをまわってサラに近づくと、その左手を掴み上げた。

「――痛っ!」
「ああ、ごめんなさい。怪我をされていたんでしたね?」


『死に損ないの、エール王子のために』


 サラの全身に、鳥肌が立つ。
 手の痛みは、恐怖にかき消されて感覚を失った。

「コーティ! 離してっ!」
「離しません。あと、叫んでも無駄ですよ。この部屋全体に結界を張らせていただきましたから」
「嘘! 私が触れると結界は消えるんだから!」
「ええ、知っていますよ。だから……」

 ギィ……と、ゆっくりドアの開く音がした。

 サラが首を捻じ曲げてドアを向くと、そこには。


「エール……王子……」


 暗く瞳を濁らせ、薄く微笑んだエールが「こんばんは、サラ姫」とささやいた。

  * * *

 エールが部屋の中に入り、ドアの鍵を閉める。
 ガチンという鍵のかかる音を合図に、コーティの手がサラから離れた。
 逃げるチャンスだと頭の中に警鐘が鳴り響くが、強張った体はその場に縫いとめられたように動かない。

 ドアの前にはエールが居る。
 窓は開け放たれているが、そこから落ちれば大怪我は免れない。
 他に逃げられるような場所は無い。

 戸惑うサラは、長い足をゆっくりと動かしながら自分に近づいてくるエールを見つめた。
 コーティと入れ替わりに、エールの長い腕がサラを捉える。
 スッと体を引いたコーティが、涼やかな声で告げた。

「今、私が結界を張りなおしました。私に触れない限り、助けは呼べませんね」
「どうして……何のつもり……?」

 エールは、サラの腕を後ろ手にひねり上げた。
 容赦ない締め付けに、うめき声をあげるサラの背を押して歩かせ、エールはサラをベッドの上へ押し倒した。
 うつぶせのサラを仰向けに転がすと、サラの羽織ったガウンの腰紐をほどき、サラの両手を上に持ちあげて手首を縛りあげる。

 それは荷物を取り扱うような、手馴れた作業だった。
 暴れるサラの足からは靴が脱げて、絨毯の上に転がった。

「何するの……エール王子っ!」
「うるさいわね……質問に答えるまで口を塞ぐわけにもいかないし、困ったわ……」
「コーティ! 一体何なの!」
「まあいいわ。とりあえず、あなたが国王様のものにならなければいいの……。エール王子でも構わないでしょう? あなたが怪我を負ってまで救いたいと想った相手なんだし」

 クスクスと笑うコーティは、その手を口元にあてた。
 上品なしぐさ。
 ローブの袖口がひじまで落ちるほど、白く細い腕。

 今、サラを上から押さえつけているこの手も、同じくらい細い。

 まさか……。

「闇の、魔術……?」

 サラの脳裏に浮かんだのは、死臭が漂う朱色の部屋。
 心の奥の大事な部分を壊すような、サラ姫の低い声。
 笑っているのに笑っていないあの黒い瞳が、月明かりに照らされるコーティのブラウンの瞳と重なった。

「どうでもいいじゃない、そんなこと。さあ、エール王子を選ぶと言いなさい。そして、この国を出ていくと」

 窓辺にもたれかかるコーティは、その白い頬をより青白く光らせながら微笑む。
 こんなことを、コーティが言うわけがない。
 こんなことを言う人は、1人しかいない。

「月巫女……」

 サラの呟きに、コーティの姿をした女は、不愉快そうに眉根を寄せた。
 微笑を消した分、痩せこけた頬がくっきりと影を作っているのが分かる。

 あのとき……コーティが痩せすぎていると感じたとき、何かすれば良かったんだ。
 クロルからも、散々忠告されていたのに。
 いつも明るくて、ファースを好きだと熱弁を振るうコーティが愛らしくて、私は見ない振りをしてしまった。

「コーティ……ごめん……」

 サラは、柔らかいベッドの上で寝転がり、窓辺に立つコーティを横目に見つめながら涙を零した。

「……エール!」

 苦しげに顔をしかめたコーティが叫ぶと、エールは感情の見えない瞳を細めて、サラを見つめた。

「サラ姫、私のものになると、言ってくれ」
「嫌っ!」

 これは、エールなんかじゃない。
 エールはこんなに冷たい目をしていない。
 なにより、サラのことを守りたいと言ってくれたエールが……こんなことをするわけがない。

「ならば、いたしかたない」

 エールは縛り上げたサラの腕を片手で押さえ、もう片方の手はガウンを引き剥がす。
 その下に着ているのは、薄手のワンピースと下着だけだ。

 エールの手が、そのままサラの胸元に伸びる。
 嵌めている指輪が落ちそうなほど、やせ細った指。
 それでも、この薄い布を引き裂くことなどたやすいはず。

「いや……やめて……」

 先ほどの飲み物に何か入っていたのだろう。
 鍛え上げられたはずのサラの体が、自分の意思に反してまったく動いてくれない。
 精一杯腕や足を動かそうとするが、鉛のように重い。
 気を抜けば、瞼も勝手に閉じようとする。

「やめて……お願い……」

 エールの指が、サラの首筋をゆっくりとなぞり、その胸を覆う布へと近づく。
 ひとくくりにされたエールの長い黒髪が肩越しに揺れ、サラの体へと落ちてきた。
 皮膚の感覚も鈍くなっているのか、エールの髪の毛先が皮膚に触れても、何も感じない。
 いつもなら、くすぐったがりのサラが黙っていられるわけがないのに。

 こんなのは、嫌……。
 嫌なのに、体も、心も、動かないの。

「……いや……」

 サラは涙を流しながら、ゆっくりと目を閉じた。

  * * *

 意識を失ってしまったのか、瞼を閉じてぐったりと横たわるサラ。
 エールはサラを拘束していた手の力を緩めると、一度その柔らかな頬を撫で、首を傾けてサラの首筋にキスを落とした。
 強く吸われたその部分は、チクリと痛みを訴える。

 ほんの一瞬だけ、サラの意識は戻った。

「助けて……ジュート……」

 呟いた言葉は、女神に届いたのだろうか。


「ああ、まかせろ」


 薄目を開けたサラの瞳に、幾度と無く夢見たあの緑色が、ぼんやりと見えた気がした。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 はい、また王道でました。味方だと思ってた人が敵に操られちゃって、主人公大ピンチ! で、タイミング良く現れるヒーロー……はっ、恥ずかしい……。もうこの作品のことは『砂漠に降るベタ』とでも呼んでください。フルーツエードは、現在作者が飲みたいドリンク第一位です。ミックスジュース好きなのですがホットは飲んだこと無くて。新富町のフルーツパーラーで飲めるそうです。(アド街でやってた)ああ、フルーツエードどころか、ミカンの缶詰シロップの海に脳みそ溺れてます。いままでシチめんどくさい謎解きとか暗い話ばっかだったし、たまにはいいよね? OKまたは「ミカンの缶詰シロップは全部飲む」という方は、パチパチ拍手でもください……。
 次回は、久々サラちゃんダーリンとの逢瀬です。第三章で最大のご褒美タイム。苦いけど滋養強壮に良いうなぎの肝吸いでもすすりながら読んでください。

第三章(23)サラ姫の役割

第三章 王位継承


 どうやらサラが”サラ姫”ではないことは、とっくの昔に気づかれていたらしい。

「君、自分の行動振り返ってみなよ。どこをどう見たら姫なの?」

 クロルの毒舌に、サラはその通りですと呟く。

「とりあえず、全部吐いてもらうからね」

 誰にも言わないという条件を念押しした後、サラはクロルに簡単な身の上話をした。

 サラ姫のそっくりさんとして、異世界から召喚されたこと。
 召喚の贄として、サラ姫の命が使われたこと。
 召喚条件である和平を実現しない限り、サラは元の世界へ帰れないこと。

 異世界召喚の話になったときこそ、クロルはぴくりと眉を動かしたが、それ以外は冷静だった。
 サラを見つめたまま、腕組みをして真剣に耳を傾けている。
 その頭脳は、きっとフル回転していることだろう。

「異世界から召喚された……か。なるほどね」

 話を聞き終わったクロルは、厚手の上着を脱いだ。
 後方へと乱暴に放り投げられるそれを、サラは似合っていたのにもったいないと思いつつ見送る。

「面白いな……うん、ようやく分かった。黒騎士の強さの秘密が」

 クロルの発見した秘密は、鋭い言葉の矢となって、サラの心に突き刺さった。

「君は、死ぬことが怖くないんだろう? 例えばこの世界の死が、元の世界へ戻るきっかけになると思ってる」

  * * *

 命を投げ出すような戦い方で掴んだ、紙一重の勝利。
 サラ自身は、気づかなかった。
 精一杯戦っていたつもりだったから。
 客観的に、冷静に見ていたクロルだったからこそ気づいた、サラの慢心。

 違うと否定したいけれど、できない。
 サラ姫にも、月巫女にも……何をされても平気と思ってしまうのは、クロルの指摘通りだった。
 この世界の全てから、自分は一歩距離を置いている。
 いつか無事に解放されるだろうと、根拠の無い自信を持っている。

 だからこそ余裕があったのだ。
 普通なら、発狂してもおかしくないような、この過酷な状況の中で。

「あ、責めてるわけじゃないよ? いきなりそんな状況になって、大人しく従ってこんなところまで辿り着いたこと、本当に尊敬するよ。むしろ、惚れ直したかも」

 クロルは無邪気に笑って、サラの包帯に、軽くキスを落とす。
 頭がうまく働かないサラは、クロルの刺激的な行為にもノーリアクションだ。

「てっきり、ネルギか大陸の方から連れてこられたのかと思ってたけれど、異世界か……どうしようかな。父様もまさか、そこまでは考えてなかっただろうなあ」

 サラの手元にある冷えてしまった紙コップのお茶を取り替えながら、クロルはぶつぶつと呟いている。

 サラの瞳に映るのは、空中から水球が現れ、炎に包まれて熱湯になるという、ごく簡単な魔術。
 こんなもの1つだって、本当なら死ぬほど驚くはずなのに。
 やけに順応性が高いと思っていたけれど、そうじゃなかった。

「私にとって、この世界で起こることは、全部夢でしかない……」

 呟いた言葉尻に、涙が滲む。

「目覚めれば、全部消えてなくなる、ただの幻……おかしいよね。みんなここで必死に生きてるのに」

 明るく言おうとした声は震え、笑顔は泣き顔に変わった。
 浅く吐息をつき、両手で顔を覆うサラ。

 クロルは、お茶を注ごうと魔術を繰り出していた手を止めた。
 パシャリと音を立てて、床に飛び散る生温いお湯を気にせず、サラの震える肩を静かに抱き寄せた。

「ごめんね。泣かせるつもりじゃなかった」

 クロルの胸のリボンタイが、ちょうど良いハンカチ代わりになって、サラの涙を吸い取っていく。
 抱き寄せられる腕の先が、サラの背中を優しく撫でてくれるのが心地よい。
 この手が、夢だなんて……そんなことがあるわけない。

「君が元の世界に帰りたいなら、僕は……協力するよ」

 思わず顔を上げたサラ。
 涙でぐしゃぐしゃになったその表情を見て、クロルは苦笑する。

「まずはさっさと和平を達成して、君にかけられた変な縛りを取っ払おう。ね?」
「クロル……王子っ……」

 サラの声は、しゃくりあげる喉につられて裏返る。
 クロルはサラの顔を見つめながら「ブサイク」と呟くと、涙の流れ落ちるその頬に、小さくキスをした。

  * * *

 クロル王子の隠れ家で、気が済むまで泣いて。
 その後、おろおろするコーティに連れられて部屋に戻ってから……一晩かけて、考えたくないことを乗せていた棚の上を整理した。

 私は、この世界を舐めてた。
 それを率直に反省して、この世界の全ての生命に土下座。

 長時間の土下座から立ち上がると、しびれる足で部屋の窓辺に歩み寄る。
 目の前に広がる、朝焼けの空と緑の大地見つめながら、サラは呟いた。

「決めた……もう、地球には戻らない……」

 戻れたら、それはそれで良し。
 戻れなくても構わない。

 ――私は、この世界で生きていくんだ。

 握りこぶしを作ったサラに、ドンドンとドアを叩く音とともに「サラ様、朝ですよー」と、リコの声が聞こえた。


 決戦前日。
 サラは普段よりいっそう気合の入った衣装を着せられ、デリスの付き添いの元でいろいろな人物と面会した。

 侍従長、魔術師長、文官長、そして騎士団長に返り咲くことが内定したバルト。
 彼らが、それぞれの取り巻きを連れて会いにきた理由は……。

『どうかサラ姫様は、○○様をお相手に選んでいただきますよう……』

 その○○様というのが、立場によって変わる。

 侍従長は、国王様。
 魔術師長は、エール様。
 文官長は、クロル様。

 唯一、騎士団長バルトだけは「リグ……いや、サラ姫様の選ばれる相手なら……」と、お茶を濁した。

「デリス……国王は、あの話無かったことにしてくれたんじゃないの?」

 白いラウンドテーブルにぐったりと体をもたれかけながら、サラはいそいそとお茶の用意をするデリスに問いかけた。

「国王様は、一度やると言ったことはやる方ですので、お疑いになりませんように。ただ……彼らは考えたのでしょう。次期国王にどなたが選ばれるかだけでなく、サラ姫様が選ばれる方も大事だと」

 デリスの言いたいことが分からず、サラは首を傾げる。

「つまり、サラ姫様と結ばれた方との間にできたお子様が、次の次のお世継ぎとして……」
「ちょっと待った!」

 想定外の話に、興奮して立ち上がったサラ。

「どうしてそんな話に……」

 デリスは、お茶を淹れる手を止めない。
 やわらかい湯気と、芳醇な花の香りが立ち込める。
 その香りを嗅いで、少し落ち着いたサラは、再び椅子に腰掛けた。

「簡単にご説明いたしましょう」

 サラの部屋に定番化しつつある、スコーンをつまみながら、サラはデリスの話を聞いた。

「この国の次期国王は、現国王の指名によって決まります。次期国王は、直系や実子に限らず、能力があると国王に見初められた者が選ばれるのです」

 もし、国王が見知らぬ誰かを連れてきて『この人物に国王を譲る』といえば、それは通ってしまう。
 そのくらい、国王の権限は強いのだ。
 「サラが選んだ者を、次期国王に」というふざけたルールが通ってしまうのも、国王の権力の強さゆえ。

 ただし、国王の決定に不服がある場合、部下達からストップをかけることもできる。
 今日訪れた4名の各部門長は、1人1票の拒否権を持ち、4名中2名の合意で再検討を促し、3名以上の合意が得られれば、国王の決定は覆せるという。

 しかし、その権利が使われることはほとんど無い。

「歴代国王は聡明な方ばかりで、異論を挟むような余地はありませんでした。もしも……亡くなった王弟が国王となっていたら、分かりませんでしたが……」

 現国王ゼイルは、その点抜かりない。
 姉の子どもである王子たちを、わざわざ養子に迎え入れるくらい、根回しはキッチリ行うタイプだ。

 そんな国王だからこそ、次期国王決定権をサラに投げたことも、何らかの意図があるはずと部下達は考えたようだ。
 国王自身は、単にエール王子と魔術師長を揺さぶるのが目的と言っていたが、深読みしようと思えばキリがない。
 しかも、会議前日にその条件を撤回するとなれば、部下達が混乱するのもあたりまえだろう。

「そこで、彼らは考えたのでしょう。サラ姫様のような稀有な力を持つ方のお子様が、次代のお世継ぎとなるならば、この国にとってプラスになると」

 口の端からボロリとスコーンのかけらが零れたが、気にする余裕も無い。
 サラは、再びぐったりとテーブルにつっぷした。

「もう一つ付け加えるなら……サラ姫様を”ネルギ国そのもの”と見る方もいるのではないかと。つまり、サラ姫様を得る方は、一国を得ると」

 ずいぶんきな臭いことを、淡々と告げるデリス。

「バカなことを……私には、そんな力は無いのに……」

 思わず呟いたサラだったが、ありえない話ではないなと思いなおす。

 サラが棚の上にあげていたことの1つが、具体的な和平案の中身だった。
 そのあたりは、明日以降、国王や文官たちと話し合えば良いと思っていたのだが……。

 オアシスの国から水を分けてもらう代わりに、砂漠の国はいったい何を差し出さなければならないのだろうか?

  * * *

 思い悩むサラの邪魔をするように、ドンドンと激しくドアをノックする音が響いた。
 それは、毎朝サラが耳にする音。
 「どうぞ」と答えると同時に、飛び切り明るいリコの笑顔が飛び込んできた。

「サラ様! あっ……デリス様、すみません。お客さまをご案内して参りました」

 また新たな重鎮が来たのかと、居住まいを正したサラ。
 ドアの隙間から、きょろりと顔をのぞかせたのは、なんとも懐かしい糸目の男だった。

「おっす、サー坊! いや、サラ姫様っ」
「リーズっ!」
「サラ姫様、はしたない!」

 キツイお叱りの声をスルーして、サラは邪魔なドレスの裾を豪快に持ち上げながら、リーズに駆け寄った。

「すげーな、サー坊がお姫さまに見えるや」

 えへへと笑うサラの頭を、よしよしと撫でるリーズ。
 隣に居るリコも、嬉しそうにリーズの糸目を見上げている。

 王城に来るというのに、いつもどおりの小汚い大工スタイル。
 腰につけたウエストバッグのポケットがスカスカなのは、大工道具を全て武器として取り上げられてしまったのだろう。

「今朝いきなり呼び出されて、ビックリしたよ。どしたの? サー坊?」

 どうも姫様という言葉が言いにくいらしく、リーズの口調は自治区に居た当時に戻っている。
 そんなところも、サラにとっては心地良かった。

「あれ? リーズに来て欲しいって伝言頼んだの、一昨日だったような……」

 サラが呟くと、隣に居たリコがそっと顔を反らす。

「リコ?」

 背の高いリーズが、腰を屈めてリコの顔を覗きこむと、リコは顔を真っ赤にしながら懺悔した。

「あの……アレクも一緒に、呼び出したんです。ちょっと顔が見たいなって……でも、許可が下りなかったみたいで……手間取らせちゃったんです、ゴメンナサイッ!」

 サラは、恋する乙女なリコのいたずらに「カワイイ!」と叫んでリコを抱きしめ……リーズは、胸ポケットのスプーン猫ズに「ドンマイ」と慰められていた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 いろんな話がちょこちょこと……幕の内弁当みたいな回になってしまいました。まずは、クロル王子とデートのシメ。キツイこと言わせて泣かせて、どさくさで抱きしめてホッペにちゅーさせてみました。なんとなくSなにほひ……まいっか。デリスばーちゃんとは、政治&戦後処理の話を少し。本当は王様とガッツリ話すはずだったけど、第三章ではこのくらいにしておきます。サラちゃんには、少しずつこの世界で生きていく覚悟をさせつつ。最後は、大好きな癒しキャラのリーズ君登場です。あー、一気になごむ……筆進む……という中途半端なところで、次回に続く。
 次回は、リーズ君ちょっぴり活躍の後、決戦前夜のサラちゃんを訪ねてくる怪しい人物が。ドキドキ。ロマンチック夜這いモード?

第三章(22)クロルの洞察

第三章 王位継承


 心労のせいか、疲労のせいか、それとも怪我のせいなのか。
 はたまた、国王の爆弾発言にやられたのか。

 寝不足続きのサラは、ふらりとベッドに倒れこみ……目が覚めたとき、部屋には眩しい朝焼けの光が差し込んでいた。

「あれ……国王が訪ねてきたのって……夢?」

 体を起こすと、ベッドの端からずり落ちかけていた毛布がどさりと床に落ちた。
 誰かが気を使って毛布をかけてくれたらしい。

 自分の姿は、窮屈な黒いドレスのまま。
 節々が痛いのは、きっと無茶な体勢で寝ていたせいだろう。

 きょろりと視線を動かすと、白いラウンドテーブルの上には、スコーンと小瓶に入ったフルーツジャムが並んでいる。
 1枚のメモが、ジャム瓶の下に挟まっていた。

『サラ姫様へ。気に入られたようですのでお作りいたしました。デリス』

 夜中に目覚めたときのためにと、置いてくれたのだろう。
 サラを起こさないように毛布をかけてくれたのも、きっとデリスに違いない。

 急におなかが鳴ったサラは、少し固くなったけれど充分美味しいスコーンにかぶりついた。

  * * *

 口の中の水分がなくなるこのモサモサ感がたまらんと、好みストライクど真ん中なスコーンをかじりつつ、サラは考える。

 うっかり寝込んでしまったせいで、与えられた猶予は残り2日。
 和平の成立に向けて、全力を尽くさなければならない。

 もし和平が成立しなければ、サラは戦場に送られるだろう。
 予言の力が、サラを戦地へ導くというなら、それでも構わない。
 けれど、あの結末だけは……ひっくり返してみせる!

「よし、まずは優先順位の確認からねっ」

 サラは、昨日クラッシュした脳内のデータベースを復旧させはじめた。
 ぐっすり眠れたおかげか、早朝の割りに頭の働きは悪くない。

「やっぱり一番気になるのは……エール王子のこと、かな」

 エールの体調については、当面はなんとかなるだろう。
 いざとなれば、サラが坊主になれば良いことだ。
 実際は、坊主にならなくても大丈夫そうな方法もありそうだし……。

 次に狙われているクロルのことも含め、根本的な問題解決は、やはり逃げた魔女を見つけることしかない。
 その点については、残念ながら魔術師ファース頼みだ。
 国王も、無事王位をリグルに譲った暁には、魔女探しに参戦するつもりだろう。

 私も、和平が成立した後なら、森の向こうへ行ってもいい。
 地球への帰還が多少遅れてもかまわない。

 というか……私は、本当に帰りたいのだろうか?

 地球には、お母さんも、パパたちも、友達もいる。
 けれど私はこの世界にも、たくさんの大事な人を見つけてしまった。
 どちらかを選べと言われたら……。

「うん……ひとまずこの問題は、棚の上に置いておこう」

 スコーンの隣に置かれた”女神の水差し”から、サラはぬるくなった水をグラスに移す。
 水差しが気に入ったサラの気持ちを汲み取り、国王がサラ用にと譲ってくれた。

 この水は、奇跡の水……。
 そう信じる気持ちが、きっと奇跡を呼び寄せるんだ。

 まるでビールをあおるように、奇跡の水を飲み干して、サラは独り言を続ける。

「さて、次の問題は……この国の王妃選び?」

 サラは、その問題も棚の上に置こうとして……なんとか踏みとどまる。

 国王が本気だということは、昨日の話で良く分かった。
 国王にとってみれば、月巫女は捨てるに捨てられない恩のある人物……つまり、姑のようなものだ。
 普通の嫁候補は、脅していびって近寄らせない。
 そんな鬼姑に抵抗できる図太い女が、この私。

 例え話で良く言われる「無人島で○○君と2人きりになったらどーする?」の通り。
 国王にとって、愛のある無しは二の次なのだ。
 その相手が多少年下だろうが、少年体型だろうが、珍獣だろうが、関係ない。

「……やっぱり無理だ」

 いくら国王が本気でも、王子たちが望んでくれたとしても、私は結婚なんてできない。
 それこそ、嘘をつくことになる。
 月巫女にも、国王を本当に好きだった女性にも、失礼なことだ。

 なんとか、結婚せずに和平を成立させる方法は無いものか……。

 スコーンが無くなって、ジャムが空になっても、サラの結論は出なかった。

  * * *

 その後、朝っぱらからお風呂に入り、リコの手伝いで身支度を整えたサラを呼びに来たのは、ブロンドヘアの美しい知的な美女コーティだった。

「今日は、図書館でファースさ……クロル王子がお呼びですよっ」

 久しぶりの再会だったはずが、まともに挨拶もせず、サラを図書館へと引きずっていくコーティ。
 図書館塔の入り口につくと、重いドアを片手で楽々と開いた。

「あ、私はここでファース様と”お話”していますので、サラ姫様もごゆっくり」

 恥ずかしそうに笑ったコーティに「ほどほどにね」と声をかけると、サラは重い足取りで階段へと向かった。


 4階に到着すると、クロルは隠れ家の前で腕組みして待っていた。

「ああ、サラ姫。遅かったね」

 仁王立ちするクロルは、サラと身長が変わらないというのに、やたら大きく見える。
 今日呼び出された理由をなんとなく察していたサラは、なるべく猫背になり、伸びかけの前髪の隙間からクロルを見上げた。

 普段は、柄の無いシンプルな白いシャツに、やはり動きやすさ最優先のハーフパンツ。
 それでも王子に見える気品たっぷりなクロルだが……。

「あれ? クロル王子、今日はなんだか……王子っぽいね?」

 ヘアワックスできっちり整えられた髪。
 襟の詰まったシャツには、ふんわり揺れる純白のリボンタイ。
 ダークグリーンのジャケットと、少し色の薄い膝上丈のズボンの裾には、レースの縁取り。
 少し踵のある黒い革靴で、足元はすっきりとまとまっている。

「これは……侍女にやられた」

 照れ隠しのためか、頬を膨らませてサラから視線を外すクロルは、珍しく年相応に見えて可愛らしい。

「すごく似合ってるよ! ステキ……童話に出てくる王子様みたいっ」

 白い頬を赤く染めたクロルが、はしゃぐサラの腕を掴み、ぶっきらぼうに隠れ家へと押し込んだ。
 すでに用意されていた折りたたみ椅子にサラを座らせると、クロルはサラを上から睨みつける。

「ところで……昨日は父様と、いろいろ楽しい話をしたみたいだねえ」

 正統派王子なクロルに、ロマンチック浮かれモード中のサラは、睨まれてもまったく気にせず。

「やっぱりクロル王子、そういう格好すると王様に似てるかも。まだヒゲ生えないの? それとも剃ってるの?」
「サラ姫、あのさあ」
「ていうか、クロル王子ってお肌めちゃめちゃキレイ……毛穴全然見えないし、ファンデーション使ってるみたいね」
「えっと、僕の話……」
「ちょっと触ってみていい? ダメ?」
「待って……うわっ!」

『ガタンッ!』

 椅子の倒れる音とともに、我に返ったサラ。

 自分の下に押し倒されているのは、まごうことなき美少年のクロル。
 そっと頬に触れた手のひらから、剥きたまごのようなつるつるの肌触り。

 慌てて飛びのいたサラは、この城に来て初めて、伝家の宝刀”土下座”を抜いた。

  * * *

「……僕、女に襲われたの初めてなんだけど」

 椅子に大人しく座り小さく縮こまるサラ。
 小さなテーブルを挟んで、仏頂面のクロルが見える。
 その鋭い視線を避けるようにうつむいて、サラは熱々のお茶をすすった。

「まあいいや。僕の嫁になる相手だしね……」

 その台詞に、口からお茶がピュッと出そうになり、サラは慌てて飲み込んだ。
 喉がヤケドしそうに熱く、ちょっぴり涙目になる。

「父様には悪いけど、僕って意外としつこいんだよね。だから……覚悟してよね?」

 にっこり笑う王子なクロルは、見た目どころか行動まで国王にそっくりだ。
 ヒリヒリする喉を手のひらで押さえながら、サラは思った。

 なんだろう、だんだんこの国から逃げられなくなってきたような……。

「ところで、本題に入っていいかな? 昨日のことなんだけどさ」

 亀が甲羅から首を伸ばすように、丸めていた背筋をピンと伸ばしたサラ。
 サラがチクってしまった、あのことを責められるかと思いきや。

「僕はね、ずっとあの月巫女が魔女だと思ってたんだ。別にそれは隠してなかったし、父様も知ってる……知ってて見ない振りしてる。馬鹿だよね」

 あ、僕が馬鹿って言ったことだけはチクらないでねと、クロルは笑った。

「クロル王子は、どこまで知ってるの? 昨日私が国王と話したこと……」
「うん、全部知ってるよ。サラ姫がただの水を飲むのに、やたらビビってたってことも」

 クロル王子の余計な一言が、サラに着実なダメージを与えていく。
 凹みかけたサラに、クロルはからくりを説明した。

「昨日のことも、他のことも、教えてくれたのは全部デリスなんだ。逆に僕のことも、デリスは父様に逐一報告してるみたいだけどね」

 どうやら、デリスは親子二代に渡って、幼少期から教育係として関わってきたらしい。
 単に教育というだけでなく、侍女という立場から細かい情報を拾って国王に届けることも、彼女の隠された使命。
 国王だけでなく、有益な情報は王子へも……。

「デリスは、僕に次期国王になってもらいたかったみたい。僕にはその気なかったんだけどね。あ、もちろん今はリグル兄を立てるってことで合意してるよ。別に彼女は仲間割れさせたいわけじゃないから」

 デリスはただ、この国を守りたいだけ。
 国王を、早く呪いから解放してあげたいだけ。

「僕は……デリスの希望も叶えたいんだ。デリスが父様の幸せを願うのは、彼女自身の夢だろうなって思うから」

 デリスは、王弟事件の生き証人だ。
 元筆頭魔術師の女を匿い、月巫女から呪いを受けながらも屈しない、強い女性。
 彼女の夢を叶えるために、協力できることがあるなら、やってあげたい。
 サラは、今朝食べた甘いジャムの香りを思い出しながら、切実に思った。

 ただ……。

「私も、デリスの話を聞いて思ったの。このままじゃ、国王も、月巫女も……幸せになれないって」
「サラ姫……」

 つぶらな目を丸くして、サラを凝視するクロル。
 てっきり、サラに同意の握手でも求めてくるかと思ったのに。

 クロルは、明らかにサラを馬鹿にしたような表情で、フッと笑った。

「君って、本当にお人よしだね。あの魔女相手にそんなんじゃ、足元すくわれるよ? 僕の忠告忘れたわけじゃないだろ?」

 クロルの冷笑攻撃をまともにくらって、サラは悔しさに歯軋りした。

 だって、月巫女は国王のこと好きなんでしょ?
 だからってライバルを呪ったりするのはオカシイけれど……。

 サラが反論しようと勢い良く顔をあげたとき、耳にかけていた横髪のおくれ毛が、ハラリと落ちた。
 頬をかさかさとくすぐる自分の黒髪に苛立ち、払いのけようとしたサラに、ある台詞が思い浮かぶ。


『ねえ、私の黒髪、キレイでしょう……あなたも、褒めてくれたわよね……』


 それは、サラのトラウマなホラー漫画『わたしの黒髪は良い黒髪』のワンシーン。
 好きな男に横恋慕し、相手を呪い殺した女の、悲惨な末路……。

「そうだね……同情の余地無し、ていうか、いつか報いが来るのかもね」

 ポツリと呟いたサラに、クロルはまったくと言ってうなずいた。

  * * *

 相手のことを深く知ると、つい心が寄り添ってしまうのは、サラの悪い癖だ。
 小学生のとき自分のことを苛めた男子も、後から片親同士ということが分かったとたんに、サラの怒りは消えた。
 同じ片親なのに堂々としているサラが羨ましかったのだと正直に告白されて、サラはあっさりと許した。

 物事には、必ず理由がある。
 それが納得できる理由なら、どんなことが起こっても仕方が無いと受け入れてしまう。

 サラをこの世界に召喚したサラ姫についても、あれだけ至れり尽くせりのお姫さま育ちだから仕方が無いと思った。
 月巫女のことだって……。
 理由があるから何でも許されるのかといえば、そんなことはないのに。

 自分が耐えられることなら、耐えてしまえばいいと思う。
 もしもサラが、砂漠でのたれ死んでも、月巫女に呪い殺されても、それはそれで仕方の無いこと。
 サラ姫や月巫女を恨むことはない。

 ……そう思うのは、理不尽な死を体験していないからだ。

 カリムが襲われた日のことを思い出して、サラは身震いした。
 もしもあのままカリムが死んでしまったら、こんな考え方はしていないだろう。
 どんな理由があろうとも、犯人のことを一生許さなかったはず。

 同じ気持ちを、デリスも抱いているのに。
 月巫女には、安易に同情しちゃいけない。
 罪は罪で、裁かれなければならないんだ。

「クロル王子は、月巫女のこと、どう思っているの?」

 おずおずと切り出したサラに、クロルは軽く答えた。

「諸悪の根源。あの女がいなくても、父様はこの国を変えられたと思うから。そもそも自分が絶対正しいと思い込んで、女神様気取りなとこが痛いね」

 そうかもしれないと、サラは心の中でうなずく。
 かすかに灯る月巫女への同情心を振り払って、サラは言った。

「じゃあ……彼女が、自分の罪を認めて、償うためには、どうすればいいと思う?」
「国王が君と結婚して、この国の世継ぎでも作ればいい」

 目の前で、自分の好きな男が、別の女と幸せな家庭を築く。
 確かに、それ以上辛いことは無いだろう。

「そんなこと……ダメ。できない」
「うん、僕もさせないよ」

 いつの間にか近づいていたクロルの手が、サラの右手をそっと握っていた。

「父様は、リグル兄に王位を譲った後、大陸へ向かうだろうね。月巫女はそれを追うはず。もしかしたらエール兄も行くかもね。サラ姫はこの国に残って、僕と結婚する。王妃って縛りが無ければ、この城に住まなくてもいい。砂漠に近い場所に別宅を建てて、たまには里帰りさせてあげる。どう?」

 自信に満ち溢れて、輝きを放つクロルの瞳。
 薄く笑んだ口元を打ち消すような、真剣そのものの眼差し。

 いつの間に、クロルはこんな表情を覚えたのだろう。
 可愛くてちょっと生意気な年下の男の子で、弟のようだと思っていたのに。
 触れられた手がやけに熱い。

「駄目……私は、帰らなきゃいけない……」

 クロルの手を振り払おうとして、強く掴みなおされる。
 痛みに眉を寄せるサラに、クロルはその整った顔を近づけながらささやく。

「正直に言おうね……君は、何を隠してる?」

 サラは咄嗟に身を引こうとするが、クロルに腕を掴まれて逃げられない。

「別に、何も……」
「言わないとキスするよ?」
「分かった! 言う! 言いますっ!」

 サラが叫ぶと、クロルは舌打ちしつつその手を離した。
 まだ鈍い痛みの残る左手で、サラは掴まれていた右手をさすった。
 
 もう、仕方が無い。
 クロル王子には、この際完全な共犯者になってもらおう。

「クロル王子……あの……驚かないでくださいね?」
「うん、ようやく白状する気になった?」


『君が本物のサラ姫じゃないってこと』


 にこにこと微笑むクロルに、サラは「参りました」と頭を下げた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 ようやくラブラブデートモード復活……でも大変でしたー。あちこち削ったんだけど、長くなってもーた。スタートダッシュで出遅れたクロル王子ですが、だんだん追い込みかけてきました。精霊王君が居なかったら、けっこうイイ線いってたかもしれないのに残念。そもそも単純直球なサラちゃんが、クロル君みたいな人に隠し事をできるわけが無いのです。国王様は……どーかな? ちなみにエール君、リグル君は、自分の気持ちでいっぱいいっぱいなので気づいてません。『私の黒髪~』が、まさかここでも出てくるとは! まったく伏線のつもりも無かったけど、いい塩梅に。この連載終わったらちゃんと書かなきゃ呪われそうだな……。
 次回は、ついに会議の前日。サラちゃんの身に何かが起こる……。第三章クライマックスの足音ヒタヒタ来てます。

第三章(21)消える王妃候補

第三章 王位継承


 サラの頭に、謎として残ったままだった、いくつかのキーワードが並べられた。

 固く閉ざされた、魔女の住む部屋。
 クロルがこっそり入手した、古い鍵。
 決して嘘をついてはいけない、審判の間。

 それらはすべて、魔女の呪いなんかじゃない。

「月巫女は、真実を映す鏡だ。俺は、目の前にいる人物が、自分を裏切るかもしれないと思えば、躊躇無くその鏡を掲げた。自分が正義だと言い聞かせながら……」

 拷問は、必要なかった。
 ただあの部屋に連れて行き、質問を1つ投げかけるだけでよかった。
 罪や偽りを自覚する者は、勝手に狂い死ぬ。

 人を裁いたとか、殺めたという罪の意識も無く、何人もの人間を”審判の間”へ送り込んだ。

「たび重なる裏切りの中で、俺は孤独だった。月巫女の能力は、確かに俺を救ったんだ。まるで”奇跡の水”のように……」

 サラは、先ほどの例えをようやく理解した。
 砂漠の旅人が水へと手を伸ばすように、圧倒的な孤独の中で、国王は月巫女に助けを求めたのだ。
 自分が生き延びるための貪欲さは、決して責められない。

 月巫女のおかげで、国王の下には信頼できる人材のみが残り、その結果戦時下というのに市民たちは穏やかに暮らしていられるのだから。

「月巫女に頼りすぎると、何か問題が……?」

 喉が渇ききり、掠れた声で先を促すサラに、よりしわがれた声が答えた。

「そこから先は、私がお話しましょう」

 ずっと震え続けていたデリスが、落ち窪んだ瞼の奥の瞳に決意を宿して、サラへと向き合った。
 
  * * *

 デリスに引き継がれた月巫女の話は、静かに始まった。

「国王様は、気づかなかったのです。国王様のためだけに動いていた月巫女が、自分の意思を持ち始めたことに……だから、私が審判の間へ行ったことも、国王様は一切ご存知でなかった」

 デリスは魔術師に拘束され、審判の間へと連れ去られた。
 当然そこには月巫女が居て、デリスは問われたのだ。


『王弟一派の生き残り、元筆頭魔術師の女がどこに居るか……あなたは知っていますね?』


「王弟事件……あの惨劇を発見したのは、当時侍女頭になったばかりの私でした。国王様とともに、王弟を探していて……」

 そこで一度、デリスは口篭った。
 何か嫌な記憶を振り払うように一度瞳をゆっくりと閉じ、深く息をつくと、再び話し出した。

「王弟の遺体の側には、まだ息の残っていた女魔術師が倒れていました。私は心の壊れたあの女を、憐れに思ったのです。国王様にもその話をし、匿っていただきました」

 しかし、月巫女は探し当ててしまった。
 精霊の森を出て、故郷の国を捨て、手を汚してきたのは、全て国王のため。
 その国王が、自分に嘘をついていることを。

「女魔術師の居場所を聞かれ、私は黙りました。すると、あの日亡くなった王弟や魔術師たちが、恐ろしい形相で襲い掛かって来ました。気がふれそうになった私を救ってくれたのは、国王様の存在でした。そして、私の大事な娘たち……」

 デリスは、独身を貫いている。
 娘というのはきっと、リコや他の侍女たちを指すのだろう。
 侍女たち本人には決して使わないだろうその愛称に、サラはデリスの想いを感じて、胸が熱くなった。

「私は、月巫女の呪いに打ち勝ちました。私を解放した月巫女は、その後も何事も無かったように国王様の側近として裁きを続けました。私はその出来事を、悪い夢と思いしばらく自分の胸に閉まっていたのです。月巫女は、国王様に必要な方なのだと」

 デリスは、礼儀作法の説明をするように、淡々と説明していく。
 うつむいている国王の表情は見えないけれど、何かを堪えるように強く拳を握り締めている。

「王弟派が一掃され、長く患っていた国王のご両親が亡くなった頃から、国は落ち着きを取り戻していきました。それなのに……私の周囲では、次々と恐ろしい事件が起こりはじめました」

 始まりは、1人の侍女の失踪。
 その侍女は、デリスの良く知る人物だったという。

 侍女達の多くは、地方に住む貴族や力のある商人の娘たちだ。
 礼儀作法や花嫁修業の一環として、この王城に短期間勤める。
 侍女の仕事を辞めるのは、決められた期間が過ぎて家へ戻るか、結婚をするとき。

 デリスを”お母さん”と呼んでいたその侍女は、身寄りのない下級貴族の娘だった。
 良く気のきく明るい侍女は、王城に勤める男性たちからの人気も高かったという。

 20才を超えても結婚を拒んでいた可愛い娘が、密かに国王へ好意を寄せていると知ったのは、失踪事件の少し前だった。
 もうそろそろ一人前だからと、国王へのお茶出しを任せたことが、彼女の運命を変えた。

「彼女は、国王様に声をかけられたとはしゃいでいました。お茶が美味しかったから、また来てくれと。私は、国王様が明るい彼女に興味を持ってくれたことを、喜びました。身分の差など関係なく、国王様には人を愛して、幸せになって欲しかったのです。なのに……彼女は消えました。どこへ行ったかは、未だにわかりません」

 普段は鈍いサラも、さすがに察することができた。
 きっと、お茶の支度をする侍女は、月巫女と会ったのだ。

 そして……国王への特別な感情を、悟られてしまった。


「それからというもの、侍女、女魔術師、貴族の娘……国王様の相手となるはずだった女性達が、次々と消えたのです。国王様の知らぬところで……」


 激情を抑えきれなくなったデリスが、再び肩を震わせる。
 国王は「もう良い、ありがとう」とデリスの背中を撫でた。

  * * *

 クロルが話してくれた噂話は、大部分が正しかったようだ。
 亡くなった侍女たちの行方は、恐ろしい噂として広まり、いつしかあの部屋は”開かずの間”と呼ばれるようになった。
 国王に対して少しでも邪な考えを持てば、冷酷な魔女に裁かれる部屋。

 不意に、1枚のタロットカードが思い浮かび、サラの体はぶるりと震えた。

 『ジャッジメント(審判)』

 カード意味は、復活、再生。
 翼の生えた大天使が、嘘をつかなかった7名の死者を蘇らせるというシーンが描かれたカード。
 しかし、逆位置になると意味は変わり……嘘をついた者の魂は、地獄へ落とされる。

 月巫女は、死と再生を司る、美しくも残酷な神。
 その審判からは、誰もが逃れられない。

 ――そうだ、人事ではないのだ。
 サラ自身も、すでに魔女の呪いを受けてしまったのだから。

「私も……試されたんですね。あの夜、国王の部屋へ呼ばれたときに……」

 あの日の月巫女は、本当に美しかった。
 サラは、月の光を映しこんだような、彼女の銀色の髪ばかり見つめていた。
 人形のような感情を見せない態度の裏で、彼女は冷酷に審判を下していたのだろうか。

 考えてみれば、パーティの時もそうだ。
 国王の傍らで、存在感を消すようにして、じっとサラを見つめていた月巫女。
 サラはあのときも、ただ純粋に和平だけを願っていた。

「私は、月巫女に認められたのでしょうか。邪な気持ちはないと……」

 暗殺者でも、王妃の座を狙う者でもない。
 そんなジャッジが下ったから、サラは今ここに居られるのかもしれない。

 しかし、その推測は国王の言葉によって覆される。

「サラ姫は、特別だ。魔力が無いと知って納得した。月巫女が黒騎士を見たときに”読めない”と言ったんだ。彼女が読めない相手がいるなんてと驚いたけれど……そういうことだったのかと」

 サラの脳裏に、決勝戦直後の国王の台詞が蘇る。

『勇者よ、お前は、何者だ?』

 その質問に何の疑問も抱かず、黒騎士と答えたサラ。
 国王の質問には、月巫女の過去見を手助けする意図があったのだろう。
 しかし、月巫女には読めなかった。

「君が女性だと気づいたのは、このデリスだよ。さすがに何人ものチビっ子をレディに仕立て上げてきただけある」

 国王様、とたしなめるデリスは、国王にとっても母のような存在なのだろう。
 ビジネスライクな月巫女との関係とは違い、温かみの感じられるやりとりに、サラはほっとした。

 得体の知れない黒騎士を、この城内に入れるかどうか。
 相談した国王に、デリスは一喝したという。
 「あの試合を見て、国王様の心には何も残らなかったのですか!」と。

「それでも……申し訳ないが、最初は君の事を警戒していた。デリスや他の侍女達を通じて、君の行動はほぼすべて見させてもらった。王子たちとどんなことがあったのかも。小賢しいまねをしたことを、許して欲しい」

 国王は、サラに対して深く頭を下げた。

 この城に来てから、サラはいろいろな意味で試されていたのだ。
 こうして穏やかに会話できている状況はそれこそ奇跡のようだと、サラは吐息を漏らした。

  * * *

 喉が渇いたサラは、目の前に置かれたままの”奇跡の水”をグラスに注ぐ。
 「本当にたくさん飲んで大丈夫ですね?」と念を押すサラに、国王もデリスも、口元を綻ばせた。

 冷たい水が喉から胃の腑へと落ちていくのを心地よく感じながら、サラは思った。

 昨日から今日にかけて、本当にいろいろな事実が分かった。
 ルリ姫じゃないけれど、頭がパンクしそうだ。

 疲れた表情のサラを気遣うように、国王は一気に語った。

「話の結論を言おう。デリスの忠告で、俺は暴走している月巫女に気づいた。すぐに審判の間を閉ざして、もう勝手に人を裁くなと言い聞かせた。それ以降、侍女や妃候補の失踪は止まった……俺自身、不用意に女を近寄らせないよう注意した」

 今、月巫女の視線は、身内ではなく外へと向けられている。
 主な役割は、ネルギからの刺客を捕らえること。
 商人や侍女、魔術師見習いとして、この城の結界を越えてくる人物は、必ず月巫女のチェックを通すという。
 その話だけ聞くと、まるで嘘発見器のようで便利だ。

「今では、嘘をついている者を捕らえても、すぐさま呪い……闇の魔術を放つことも控えさせている。月巫女は、俺の言うことだけは絶対に守るし、俺を裏切らない。どうしても……手放せないんだ」

 サラは、手のひらのグラスを握り締め、半分ほど残った水をちゃぽんと揺らした。
 水の揺らぎを見つめながら、サラは思い出す。

 さっき自分は、国王の問いになんて答えた?

 この便利な水を……月巫女を、隠すか捨てろと言った。
 その結果、悪いことが起こったとしても、それは運命だと。
 ”人の心を覗き見る”なんて奇跡を使いこなすなら、それは単に国王の欲望を埋めるための道具だと。

 それは事実かもしれない。
 けれど、使われるだけの月巫女にも、ちゃんと心があるのだ。

「だから国王は、誰とも結婚しなかったんですね……?」

 なぜ月巫女が、国王に黙って王妃候補を狙ったのか、サラには分かった。
 国王も、デリスも、分かっているのだろう。

 月巫女は、国王が好きなんだ……。

 サラが言いたいことを汲み取ったのか、国王は苦しげに表情を歪めながら告げた。

「俺は、月巫女に感謝している。でも、それだけだ。彼女を選ぶことは、できない……」

 国王が月巫女を解放しない限り、呪いが終わることはないだろう。
 しかし、義理堅い国王が、散々利用してきた月巫女を”要らなくなったから”と放り出すこともできない。
 そうして、薬だったはずの水が、少しずつ毒になっていくのだ。

 突然、デリスが立ち上がった。

「私は、許しません! あの女を……絶対に許さない!」

 デリスの悲痛な叫び声が、サラの胸を打った。
 気持ちを落ち着かせるような魔術でも発しているのだろうか、国王がデリスの背中を優しくさすりながら言った。

「今日の話はこのくらいにしておこう。本当なら、王位継承の話をしなければならなかったのだが……とりあえず”サラ姫の選んだ相手を国王に”という条件は撤回しておく」

 国王は、今後のスケジュールを事務的に伝えた。

 次期国王の公表は、3日後の定例会議。
 実際の譲位については未定だが、国王はなるべく早くと考えているらしい。
 その際、和平についても話し合いの場がもたれるという。

 サラにとっては、決戦の日となるだろう。
 それまでに、インプットした膨大な情報を整理して、対策を練らなければ。

 武者震いを抑えながら、サラは力強くうなずいた。

 デリスの肩を抱きかかえて立ち上がりながら、国王は置き土産に爆弾を1つ。

「ああ、そうだ。これで分かっただろう? なぜ俺が、君にプロポーズしたのか……月巫女の魔術が効かないなんて稀有な女を、俺が逃すと思うか?」


『覚悟しておけよ?』


 サラの頭はその一言でフリーズし、入力された情報は一瞬でデリートされた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 暗い話……悩み悩み書きましたが、どーでしょう。月巫女さんが一方的に悪いわけではないけれど、人を裁くってことは大変なことで、時に私情が挟まってミスジャッジして、結果誰かの恨みをかうというあたりが、ちょっと社会派……風? とにかく難しかったです。はー。”審判の間”の謎解明にタロットを利用させてもらったんですが、分からない方にはかえって難しい比喩になってしまったかもしれません。一言でいえば『嘘ついたら地獄に落ちるわよ』ってことです。嘘八百な作者はもう行き先決定してます。賽の河原でひたすら小説を書いては消され、書いては消され……ううっ。ラストは、予定通りのチロルチョコ1粒。国王様のオトナなラブゲーム味。やっぱ苦いよりは甘い方がいいですねー。
 次回は、久々にクロル君と隠れ家でツーショット。来るべき決戦に備えて、戦略練ります。隠してきたサラちゃんの秘密もついに……。

第三章(20)月巫女

第三章 王位継承


 国王の「落ち着け、デリス」という言葉で、小さなため息をつき、何事も無かったかのように席へついたデリス。
 うまく隠しているようだが、良く見るとその体が小刻みに震えているのがわかる。
 デリスの細い肩を軽く叩くと、国王はサラに鋭い視線を向けた。

「魔女の呪い、か。サラ姫にそんな不謹慎なことを言うヤツは、1人しか思い浮かばないな……クロルだな?」

 国王の表情は、一切変わらない。
 変わらないのに……何故だろう、この業務用冷凍庫バリの寒さは。
 とりあえず、国王と別れたらすぐクロル王子に会いにいって、逃げろと忠告しなければ。

 怯えるサラが固まっている間に、国王は何事も無かったかのように立ち上がると、デリスが運んできたワゴンに乗せられたままの水差しを掴んだ。
 美しい女神と咲き誇る花々の模様が掘り込まれたガラスの水差しは、花弁1枚1枚の縁取りに宝石があしらわれた、特別なもの。
 中には7分目ほどの水が入っており、国王の手の動きに合わせて波のように水面を揺らす。

 その水差しをサラの目の前にかかげながら、国王は冷静な表情で告げた。

「サラ姫に問おう。今ここにある水は、1口飲めばどんな病をも治すという特別な水だ。目の前に、この水を欲している者がいるとしよう。さあ、この水を使うか? 捨てるか?」

  * * *

 唐突な謎かけに、話の流れが分からず混乱するサラ。
 国王の瞳に、何一つ陰りがないことを確認すると……じっとその水差しを見つめた。
 ちゃぷりと揺れる水は、窓から差し込む光を乱反射してきらめく。

 その光の向こうに浮かんだのは、先日倒れたエール。
 そして、病院のベッドで青くなっていたカリム。

 もしこの水が、本当にそんな不思議な効果を持つとしたら……。

「私なら、使います」

 国王は、サラの答えに静かな笑みを返す。

「では、もう1つ質問だ。この水を飲んで救われた者が、奇跡の水と呼ぶようになった。その人物は、これさえあればと頼り続けた。さあ、この水は必要だろうか?」

 問答の意味を考えずに、サラは素直に答えた。

「一度その水を隠すか、いっそ捨ててしまいます。世の中に起こる出来事には、良いことも悪いことも、すべて理由があると思うから……」

 サラは、水差しから目を逸らさず答える。
 この水がもし戦場や砂漠にもたらされたら、どのくらいの人が救われるのだろう。
 逆に一部の人だけがこの水を利用し、救われ続けるなら……。

「奇跡なんてものは、予想外に起こるからこそ奇跡なんです。その水が、本当に奇跡を望む者の手に渡らず、特定の人物のみに益をもたらすとしたら……単に所有者の欲望を埋めるための、便利な道具でしかありません」

 澱みなく答えるサラを凝視する国王。
 うつむいていたデリスも、いつしか顔を上げ、背筋を伸ばして真っ直ぐサラを見つめている。

「サラ姫のことを、クロルが気に入るわけだな……」

 国王の呟きに、サラは首を傾げる。
 水差しをそっとテーブルに戻すと、とってから手を離さないまま国王は言った。

「答えを言おう。今俺は、こうして奇跡の水を手にしている。すでに乱用していると言っても良いかもしれない。もちろん弊害もあるが、手放せずにいる……クロルの話はそういうことだ」

 まったくもって、意味が分からない。
 怪訝そうに眉をひそめるサラから、国王は少しばつが悪そうに唇を噛み締め、瞳を逸らした。

 サラは顎に手を当てて少し考えると、思いついたことをそのまま告げた。

「あの、1つお願いしていいですか?」
「なんだ?」

 サラは、自分のグラスに残っていたオレンジジュースを一気に飲み干すと、空になったそれを差し出した。

「私もそのお水、1口欲しいです。片手が使えないのって不便で……」

 無邪気におねだりするサラ。
 無言で顔を見合わせる、国王とデリス。

「あっ、もしかしてこの程度の怪我じゃ、ダメですか? これって乱用?」

 すみませんと慌てて謝るサラに、2人は……大爆笑した。

  * * *

 サラの勘違いにより、シリアスなムードはぶち壊しとなった。

「だいたい、王様が悪いんですよ! そんな分かりにくい例を使って、さも本当のことみたいに真剣に話すから……」

 白いナプキンで涙をぬぐいながら、国王はサラに「悪かった」と謝った。
 普段冷静沈着がウリのデリスも、このときばかりは笑いをかみ殺している。

「それで、その奇跡の水っていうのは、一体何のことなんですかっ! もう比喩は無しですよ!」

 赤っ恥をごまかすように、ぶっきらぼうに尋ねるサラ。
 ひとしきり笑ったおかげでスッキリしたのか、国王は軽く答えた。


「サラ姫もすでに会っているだろう……”月巫女”と呼ばれる女と」


 緩みきった雰囲気が、その単語を契機に、再び引き締まる。
 月巫女という言葉に、びくりと体を震わせとっさに目を伏せたデリス。
 サラは、豹変したデリスの態度を訝しく思いつつ、あの銀の髪が美しい女性を思い描いた。

 国王の部屋でディナーをいただいた日。
 初めて間近で見た月巫女は、美しすぎて……冷たい人形のような表情だった。
 会話しても、笑顔を作っていても、一切サラを見ていないような。

 クロルも、最初はそういう人物かと思った。
 でも、パーティで挨拶したとき、クロルはサラのガンつけに、侮蔑や挑発という人間味のある意思を返してきたのだ。

 見た目の美しさに目を奪われていたから、あまり気にならなかったけれど、月巫女は不思議な人だった。
 まるで目の前にある、この美しい水差しのような……。

 水差しの向こう、国王の手のひらがあごひげをしゃくるのが見えた。
 困ったり迷ったとき、国王はそんなしぐさをする。

「俺がかつて……精霊の森の神殿に辿り着いた話は、覚えているだろう?」

 サラは強くうなずくと、水差しの女神から視線を外し、目の前の国王に集中する。

「神殿に辿り着いた者には、褒美がつかわされる。俺は、何か1つだけ望むものを持ち帰って良いと言われた。宝石、宝剣、妖精がらみのマジックアイテム……数々の宝の中から、俺が選んだのが、あの”月巫女”だった。いや……本当は、強引に連れ帰ったんだ。精霊王が留守なのをいいことにな」

 国王は、だから罰が当たったのかもしれないなと、あの夜のように苦しげな表情で自嘲した。

  * * *

 月巫女は、もともと大陸のはるかかなたにある国の巫女姫だった。
 精霊を信仰するその国からは、定期的に巫女姫が遣わされ、一定期間森で暮らすのだという。
 森で多大な力を得てから、国へ戻った巫女姫は、その後国政の重要なポジションに就く。

 つまり国王は、他国の王女を攫ったようなものだ。
 それほどまでに望んだ、月巫女という女性は、いったい……。

「月巫女には、普通の魔術師には無い特別な能力がある。当時の俺には、確かに必要なものだった。それは”過去見”という……人の過去や記憶が読めるということ」

 その能力は、国王を数々の危険から守ったという。
 特に、王弟の残党がひしめく中、誰が本当の味方か分からないという状況で、信頼できる人間のみを選ぶために。

「もちろん、月巫女にも全てが読めるというわけではない。比較的読みやすいのは……言葉で告げられた嘘だ。特に、意図的につかれたもの」

 サラは、その言葉にピンと来た。

「じゃあ、私が女だとバレたのは……」
「そう、月巫女が読んだ……というのが、半分当たりだ。あの黒騎士はどう見ても少年だったから、本当に驚いたぞ」

 思い出したのか、国王は軽く笑む。
 一瞬明るさを取り戻した鳶色の瞳は、再び陰りを帯びた。

「軽い嘘、無害な嘘、善意の嘘……そういうものは、月巫女には読めない。もし読めたとしても、報復は受けない。彼女が捕えるのは、悪意のある嘘だ。王弟派の残党も、俺の命を狙う刺客も……捕らえたら、彼女は決して逃がさない」

 まるで漫画やドラマのような話だった。
 他人の考えていることが分かってしまう、特殊能力を持つ人物。
 人間の建前の奥に隠れた本音……見たくない人の暗闇を、いやおうなく見せ付けられるとしたら。

 あの人形のような表情になってしまうのも、理解できるかもしれない。

 ……ううん、問題はそこじゃない。


『報復』


 精霊の森と関わる者に、必ず降りかかる呪い。
 国王が森へ入ったときも、5年前に魔術師ファースの幻を受けて死んだという男も。

 自分自身の持つ暗闇に押しつぶされて……。


「――狂って、死ぬんですね?」


 国王は、サラの言葉に瞳を見開くと……深くうなずいた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 ずっとチラチラ出て気になる存在だった、月巫女さんの正体暴露編でした。べっぴんさんだけど、かなり怖い人です。でもお宝。ドラクエでいうと、呪い系アイテムみたいなもんか。能力数値高いけど自分にもダメージあり。それにしても暗いなー。もうちょっとこの暗い話続きます。本当はここに戦後処理の話も入れたかったんだけど、ますます暗い話になってしまってボツに。(いずれは触れなきゃなんないから、また後で)とにかく、ストーリー進行に関係無い話はなるたけカット! あ、明るくてくだらないボケ&ギャグはカットしません。むしろ入れ込みます。この話の前半にも無理やりコメディ入れてみたんですが……ちょっと苦しかったかも。ギャグは練らなければウケないという好事例でした。
 次回、月巫女ネタ後編。今度はデリスの告白メインです。ばーちゃんの愛がにじみ出る感じで。苦い話続きなので、ラストにチロルチョコ1個プレゼント。

第三章(19)魔術師の思惑

第三章 王位継承


 ドレス姿のサラと初めて顔を合わせた、あのパーティのときも、国王はこんな表情をしていた気がする。
 自分の思うとおりに事が進むという、絶対的な自信。

 なぜだろう、それを崩してやりたいと思ってしまうのは。
 3人の王子を騙した罰を与えてやりたい。
 そんなことする権利、私には無いと分かっているけれど……。

 サラは自分を見上げる国王から目を背け、悔しさに奥歯を噛み締める。
 その横顔をじっと見つめていた国王は、先ほど払いのけられたサラの左手へ再び指を伸ばした。

 包帯の上から、じわりと生温い熱を感じる。
 それは、国王の魔術の証。

「国王、私には魔術は……」
「いいんだ、俺がやりたいだけだから」

 優しい声色と困ったような笑顔に、今度はその手を振り払えなかった。
 謀ったこととはいえ、多少の罪悪感はあったのだろう。
 特に、まったくの部外者であるサラに対しては。

 サラは、ただ黙ってその熱を受け止めた。

 しばらくして気が済んだのか、国王はサラの手を離し立ち上がった。
 椅子に腰掛けるサラと、立ち上がった国王の身長差は、大人と子どものようだ。

「ひとつ、聞かせてくれないか?」

 天から降ってくるような、国王の低い声が響いた。
 小さな声がこの空間を支配し、サラの心の奥へも浸透していく。
 神様の声とはこんな音色なのではないかと、サラは思った。

 夢見るようにぼんやりと国王を見上げるサラに、降ってきたのは。

「サラ姫は、あの曲者ぞろいの王子たちを、いったいどうやって落としたんだ?」

 神様の問いに、サラはうまく答えることができなかった。

  * * *

 国王は、エールの事情を薄々感じていたという。

 母親の死、懐いていた魔術師ファースの失踪、そして近づく魔術師団。
 そもそも大人しく温厚なエールが、何かを諦めたような冷たい表情で「次期国王になる」と告げてから、国王もそれなりに悩んできたそうだ。

 しかし、国王としての命令も、父親としての言葉も、エールの心を動かすことはできなかった。
 サラが、この城にやってくるまでは、手立てがなかったのだ。
 その傷が癒えるのを待ちながら、エールの好きなようにさせてやることしか。

「本当に、ここまで面白……いや、うまく話が進むとは思わなかったんだ。俺が見たかったのは、魔術師長の反応だ。サラ姫の登場で、あっさり”婚約解消”の相談を持ちかけてきたときは、さすがの俺も笑いを堪え切れなかったぞ」

 いつも遠慮なく大笑いしているくせに……。
 
 どこまで本気か分からない国王の話を、サラはむっつり黙って聞いていた。

 国王はすでに自分の席に戻って、優雅にお茶を飲んでいる。
 その横には、相変わらず考えの読めない無表情のデリス。


 デリスが朝食を片付けて、戻ってきたのはつい先ほど。
 いつもガラゴロと引いているワゴンに乗っていたのは、焼きたてのスコーンと数種類の甘いジャムだった。

 サラは、国王の「冷めるぞ」の言葉に促され、しぶしぶとスコーンに手を伸ばした。
 何もつけずに一口かじり、香ばしい粉の香りと素朴な味にノックアウト。
 摘みたてフルーツを贅沢に使ったジャムを、次々と試していき、あっという間に全て平らげたサラの機嫌は、すっかり元通りだった。

 ああ、なんだか私、また謀られたかも……。

 節操の無い自分を軽く恥じつつ、サラは「ごちそうさまでした!」と国王に礼をする。
 その次に、デリスにも一礼。
 存在感を消すように、無言で椅子に腰掛けていたデリスが、かるく会釈を返す。

 30分でフルコースを用意することができる国王ならば、きっと話の流れを読んで、このタイミングで甘いものを出すようデリスに指示したに違いない。

 敗北感でうなだれるサラを見つめ、国王は笑みを漏らす。
 その柔らかい視線が、サラの口元で止まった。
 つい先ほどまでサラの左手に触れていた国王の逞しい腕が、今度はサラの頬へと伸ばされ……そっと、唇の脇をぬぐった。

「サラ姫、ジャムがついていたぞ」

 サラの前につきつけられた国王の指には、たぶんリンゴジャムと思われるゲル状物質がちょこんと乗っていた。
 恥ずかしさに、サラの頬はバラ色に染まる。

 言ってくれれば、自分で取るのにっ!

 サラが遅ればせながら、膝の上に広げたナプキンを使おうと意識を下に向けかけて……固まった。
 国王は、指についたものをペロリと舐め「うん、美味いな」と呟いた。

 すかさずデリスが「国王様、このようなことはワタクシが居ないときになさってください」と、不思議なツッコミを入れた。

  * * *

 続きがあるならワタクシはこれで……と立ち上がりかけたデリスを慌てて引き止めた国王。
 悪かったと呟くと、緩んだ表情を引き締めて、話の続きに戻った。

「サラ姫の活躍は、俺にとって嬉しい誤算だった。エールが目覚め、リグルが立つなら、もう俺は……お役御免だな」

 サラは、顔つきだけは真剣なものの、相変わらず軽い口調の国王を遠慮なく睨みつける。

 パーティで行ったサラへのプロポーズは、周囲に火をつけるためのパフォーマンスでしかなかった。
 サラが、あれだけ動揺させられたというのに。
 おかげで状況はずいぶん改善されたのだろうけれど、利用された側としては、やはり釈然としない。


 ともかく国王の狙いについては、理解できた。
 エールに取り付いた魔術師長を引き離すための、ちょっとした矛盾をつくってやっただけのこと。
 魔術師長には、サラを追い出すとか、殺すとかいう発想は無かったようだ。
 むしろ自分の娘を引っこめることで、エールを立て続けるという選択をした。

 サラの中で、大きく印象が変わった”魔術師”という存在。
 そもそも魔術師へのイメージを植えつけたのは、クロルだ。
 図書館の隠れ家で、クロルはサラにこんな言葉をぶつけたのだから。


『この城の魔術師は全員、黒騎士サマを殺すつもりだと思った方がいいよ?』


 魔術師長がそのつもりなら、婚約解消をする意味は無い。
 サラの存在を消してしまえば、すべて元通りになるのだから。

 魔術師長が、自分の娘を王妃にするという野望を諦めたのは、いったい何故なのか。
 エール王子の病状が悪化したためか。
 しかし、エールの命を危ぶんでいたとしても、現在戦争そっちのけで光の精霊アイテム探しにやっきになっているという話だし、まだ諦めてはいないはずだ。

 サラは、パーティで一度だけ顔を合わせ、にこやかに握手を交わした魔術師長を思い浮かべた。
 当時は先入観が無かったせいか、特に悪い印象は無い。
 侍従長ほどではないが、それなりに年がいっていて、小柄で大人しそうな人物だなと思った。

「国王、なぜ魔術師長は娘さんの婚約解消を選んだのでしょうか? エール王子の、病気のせいですか?」

 1人で悩んでも答えは出ない。
 サラは、思い切って質問してみた。

「魔術師長の娘は、まだ成人前だ。ずいぶん年が行った後にできた一人娘だからな……期待も大きかったのだろう。自分の後継者にと考えていた息子を、戦争で亡くしているから、なおさらな」

 国王の答えは簡潔だったが、サラはその言葉で魔術師長という人物がずいぶん理解できた。
 頑なに参戦を拒んだことも。
 思惑があるにせよ、エールの延命に尽力していることも。

 好戦的な騎士団と違って、この国の魔術師はそもそも穏やかな気性の人物が多いという。
 魔術師長も、防御系の魔術や、新たな魔術の研究などの成果が認められ、こつこつと上り詰めたそうだ。

 サラは、1つの結論を導いた。


『魔術師長は、サラの敵ではない』


 ではなぜ、クロルは『魔術師がサラの命を狙っている』と言ったのか。
 単にサラを怖がらせたかったのか、それとも……。

 クロルとのやり取りが、頭の中で詳細に再生されていく。
 サラの敵は魔術師だけではないと、クロルは言った。

 そして、クロルとの会話の中から、まだ解決されていない謎を見つけた。

「国王に近づくと……魔女に呪われる……?」

 ポツリと漏れたサラの言葉。
 反応したのは、国王ではなかった。


「サラ姫様、いけません!」


 突然立ち上がり、真っ青な顔で叫んだのは、デリスだった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 すみません、長くなったので中途半端なとこで切れました。というか、この先の展開を大きく書き直すことに……今回はちょっと不出来です。後で直すかも……。UP遅くなって本当にすみません。
 次回、国王様の暗部が明らかになります。どこまで明らかになるか……作者も悩み中。

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第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(7)~

2009.06.27【 第三章 王位継承

  今、サラのグループと、エールのグループの間には、2人の男が立ち尽くしている。 一人は、魔術師長。 もう一人は、医師長。 二人は対照的な表情で、クロルを見つめていた。 強気に睨み付ける魔術師長と、落ち窪んだ瞳に陰を落とした医師長。 クロルは、その二人からあっけなく視線を外すと、エールたちが居るグループへ声をかけた。「皆にもう1つ聞くけど、その大して効かない薬を飲むようになったきっかけは、特定の人物...全文を読む


第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(6)~

2009.06.26【 第三章 王位継承

  むせかえるような花の香りが消えた広場。 誰もが、息を呑んで彼女の伸ばされる人差し指の行く先を見守っていた。 3cmほど伸ばされ、光沢のあるマニキュアで装飾された爪の先が、ゆらりと迷うように一度振れる。 ダイスが転がったときの、何倍もの緊張が漂う中。 月巫女が指したのは、彼女のすぐ近くに居た人物。「――俺、か?」 彼女に唯一、感情を与えることの出来る……国王その人だった。  * * * ...全文を読む


第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(5-2)~

2009.06.25【 第三章 王位継承

  氷の王子クロルがねめつけるという緊張感の中、クーリッシュで氷結な生ビームをダイレクトに受けてしまった庭師の男が、おずおずと手をあげる。 と同時に、もう1人つ手が上がった。「クロル、俺も実は少し、気分が優れない……」 サラのすぐ傍にいたエールが手を上げながら、クロルに近づこうと歩き出した。 とっさにその腕を掴んだサラに、心配無いというように、エールは心臓の位置を軽くトントンと叩いて笑み...全文を読む


第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(5-1)~

2009.06.24【 第三章 王位継承

  愉快な散歩道は、それほど長くは続かなかった。 すぐ脇で繰り広げられるバカ騒ぎも耳に入らないのか、うつむきながら額に手を当てるテレビドラマの警部ポーズで歩いていクロルが、サラの右手をクイッとひっぱった。「そろそろ、目的地に着くよ。ほら、見えてきた」 先頭集団の瞳が、鮮やかな赤を捕らえた。  * * * 木漏れ日の当たる小道が途切れ、突然目の前に広がったのは、明るい日差しと赤い花を中心に様々な花が溢...全文を読む


第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(4)~

2009.06.23【 第三章 王位継承

  黄泉への塔、頂上近く。 クロルは、3人を手招きすると、その窓から身を乗り出した。 風に煽られて、薄茶色の前髪がふわりと浮き上がる。 形の良いおでこは、リグルにピンピン弾かれたせいか、少し赤くなっているようだ。 クロルは、昼寝から起きて伸びをする猫のように、気持ち良さげに目を細めながら空をみやる。「みんな、見てみなよ。3つの塔からつながる、三角錐の頂点に何があるのか」 窓辺からクロルがぴょんと飛び...全文を読む


第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(3)~

2009.06.22【 第三章 王位継承

  行きとは違い、帰りはゆっくり歩くクロル。 目的を達したからというよりは、何やら深く考え込んでいるようで「どーしよっかなあ」という独り言が飛び出す。 あわや階段を転げ落ちるのではないかと思うほど足取りがおぼつかないので、リグルとエールが前後を挟む。 1人仕事の無くなったサラは『行きはよいよい帰りはこわい~』と、童謡を口ずさんでいた。 そんな中、リグルは課題として与えられていた質問の答えを導き出そう...全文を読む


第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(2)~

2009.06.21【 第三章 王位継承

  サラの手が触れた瞬間、その黒ずんだ壁には光の亀裂が入った。 亀裂が形作ったのは、ちょうどひと1人が腰を屈めてくぐれるほどの、小さなドア。「ああ、やっぱりね」 再び瞳を輝かせるクロルと、目を丸くしてドアを見つめるエール、何が何だか分からないといった表情のリグル。 サラは、会議中に飲んだお茶が一気に下腹部へ集まるのを感じたが、おトイレに行きたいなんていえる雰囲気ではない。 授業中にもじもじする内気な...全文を読む


第三章 閑話 ~名探偵クロルの事件簿(1)~

2009.06.20【 第三章 王位継承

  魔術であっさり痛みをデリートしたオトナの国王と違い、王子たち3名はまだ床にうずくまったままだ。 熱血リグルが「この腹の痛みを俺は自力で克服する」と言い出したものだから、頑固な兄弟3人で我慢比べ中。 そんな3人とは一線を画し、1人手のひらの白いバラを見つめながら、大きくため息をつくルリだった。  * * * 壇上からフロアへと降りたサラの前には、3名の部門長が集っていた。 戦地の情報と和平への道の...全文を読む


第三章 エピローグ2 ~竜と虎を飼いならせ!~

2009.06.19【 第三章 王位継承

  会議終了の号令は、まだ出されない。 一般の臣下たちは、呆けたような表情半分、ニヤつき半分で、舞台上を見守っていた。  * * *  ひとしきり笑ってスッキリしたのか、しゃがみこんで腹を抱えたなんとも情けない姿勢のまま、国王はサラを見上げた。「それにしても、腹が痛いな……さすがはサラ姫、いや黒騎士か」 「それは単に笑いすぎただけでは?」と思う臣下たちだったが、当然何も言わない。 だんだ...全文を読む


第三章 エピローグ ~責任を取るのは誰?~

2009.06.18【 第三章 王位継承

  会議直後。 解散の号令は、まだない。 一般の臣下たちは、一様に呆けたような表情で、舞台上を見守っていた。  * * * 言いたい事を全て吐き出し、スッキリしたサラ。 ふと我に返ると、なんだか視界の下方ギリギリに、もぞもぞとうごめく動物が4匹。 嫌な予感に、つうっと冷や汗が垂れる。 サラが恐る恐る視線を下げていくと……。 そこには、あっけなく倒壊した、この国の大黒柱が4本あった。 驚愕...全文を読む


第三章(終)旅立ちの決意

2009.06.17【 第三章 王位継承

  本格的に泣き出してしまう前に、なんとか自力で涙を止めたサラ。 今後は顔筋トレーニングも加えよう、特に目元は徹底的にと思いつつ、水玉模様になった国王の腕をそっと押し返した。 斜め上から心配そうに覗き込む鳶色の瞳に、サラは「もう大丈夫です」と微笑みかける。 国王は「そうか」と言って、サラを支えていた腕を外したが、代わりに大きな手のひらがサラの肩に置かれた。 サラは、その手の重みを受け止めながら、背筋...全文を読む


第三章(32)サラの涙

2009.06.16【 第三章 王位継承

  クロルの謝罪は、この展開を意味していたのだとサラはようやく気づいた。 怒りを露にする国王の指示により、挙手をした4人の部門長から一言ずつ釈明があった。 それぞれ立場は違えど、その主張はほぼ同じものだった。『ネルギは、信用できない』 サラは、その言葉を耳の奥で受け止めながら、力なく椅子にもたれかかった。 腰が滑らずに留まれるのは、隣のルリが椅子を寄せて、ずっと肩を抱いていてくれたから。 ネルギが信...全文を読む


第三章(31)閉ざされた未来

2009.06.15【 第三章 王位継承

  現在、サラの目の前には、2つの物体がある。 1つは、国王様の顔。 不愉快そうに眉が寄せられ、その下のパッチリした二重瞼の奥……鳶色の瞳には怒りが浮いている。 口ひげが良く似合う厚い唇も、先ほどまでと違って富士山の裾野のように口角が下がっている。 よほど気持ちが高ぶったのか、顔色はうっすら赤く、立派な鼻の頭には汗が浮きあがり、こめかみには青筋が立って……。 あまりにも怖いの...全文を読む


第三章(30)会議スタート

2009.06.14【 第三章 王位継承

  前夜の事件のせいでだいぶ疲れていたのか、その朝サラはリコに殴られて目が覚めた。「さっ、早く起きてください! 今日は大事な日なんですからね!」 いつものように豪快にサラを着替えさせながら、リコはふと白いテーブルの脇に目を留めた。「あら? サラ様、夕べどなたか訪ねてきました?」 ワゴンの上に残された、2つのカップとフルーツエード。 飲むと”マヒ”状態になって戦闘不能になるアイテム。 美味し...全文を読む


第三章(29)闇を克服するために(後編)

2009.06.13【 第三章 王位継承

  不遜な態度の男から「いつまで床に座り込んでるんだ?」と言われ、エールとコーティはテーブルへ移った。 コーティは、上司の前に置かれたティーセットを、ワゴンの方へとさりげなく片付ける。 まだ体がだるいサラは、ベッドの上にちょこんと座ったまま、3人のやり取りを見守っている。 輝く水を死ぬほど飲まされ、ようやく体の力を取り戻したコーティは、緑の髪の男に目を奪われ……そして、心も奪われていた。...全文を読む


第三章(28)闇を克服するために(中編)

2009.06.12【 第三章 王位継承

  無抵抗のサラをようやく解放したジュート。 外側に大きく開かれたままの窓枠にもたれかかり、月光を背に受けながら、不敵に微笑んだ。 長くのびた影が、座り込んだエールの体に覆いかぶさって、僅かな視界を狭める。「……というわけだ。分かったか?」 事態を見守るしかなかったエールの心も、靄がかかったように暗い。 目を閉じ口を半開きにして、まるで人形のようにぐったり転がっているサラの横顔。 そして...全文を読む


エロマゲドン 本編

2009.06.11【 エロマゲドン

  とある夏の日の昼下がり。 小さな子どもを含む大勢の市民が教会に集まり、若く清純なシスターのありがたい教えに耳を傾けていた。「……ということで、神はこの星の中央に美しい森と泉を作られました。しかし、この星の美しさに惹かれ、我が物にしようと狙う邪神が現れたのです。そこで神は、この星にある物を授けてくださいました。さあ、何だか分かる方はいますか?」 シスターの話に夢中になっていた少年少女たちが、「ハイハ...全文を読む


エロマゲドン あらすじ

2009.06.11【 エロマゲドン

 美しい森と泉のある平和なこの星。侵略者が絶えないものの、星を守る『ドーム』が敵を撃退していた。そのドームの弱点が、ついに侵略者に見破られ……世界最後の日、一人のシスターが立ち上がった!※本格派風SF+ありえないエロの融合を狙った作品です。ひたすらアホ・シモ・B級……ご注意ください。(PG12)→ 【本編へ】 → 【Index(作品もくじ)へ】...全文を読む


第三章(27)闇を克服するために(前編)

2009.06.11【 第三章 王位継承

  目を覚ましたエールは、自分がまだ深い思考の海に溺れているのではないかと思った。 薄闇の中で自分を覗き込む、見たことも無いような深い緑色の瞳が、そう思わせた。 ――どこからか聞こえる、あの優しい声。『精霊の森には、深い深い緑色の、まるで木漏れ日を映しとったような光る泉があるの。そこには、傷ついた動物達が集うのよ。その泉の水に触れると、どんな病気も治ってしまうんですって』 さ、このお茶を飲みなさい。 ...全文を読む


第三章(26)つかの間の逢瀬(後編)

2009.06.10【 第三章 王位継承

 「ったく、俺の顔を足蹴にした女は、お前が初めてだぞ」「靴、履いてなかっただけ、マシ……」「かわいくねーなっ」 ぼやきつつも、もう少し一緒に居たいというサラのわがままを叶えてくれたジュート。 おかげで床に倒れている2人は、追加で一撃ずつ光の攻撃を食らって、すやすやと良くお休みになっている。「かわいいこと言わねーと、その手解いてやんねーぞ?」「あっ、ごめんなさい、神様仏様、ジュート様っ!」...全文を読む


第三章(25)つかの間の逢瀬(前編)

2009.06.09【 第三章 王位継承

  夢を見ているのではないかと思った。 自分にとって都合の良すぎる、幸せな夢を。 サラは一度目を閉じ、再び開ける。 大丈夫、まだ感覚は残っている。 小さなランプの灯りだけが頼りだが、この室内で起こっていることを把握するくらいならできる。 ――あの人が、ここにいる。 涙でぼやける視界の中に、閃光が走ったような気がした。 サラにも見えるくらい強い、光の精霊の束。 盗賊の砦で見た、あの光だ。 どさりと何かが...全文を読む


第三章(24)闇に囚われた者

2009.06.08【 第三章 王位継承

  明日に備えて早めに風呂と夕食を済ませたサラは、部屋で1人考えを巡らせていた。 テーブルに置いたランプより少しは明るい、月明かりの当たる窓辺にもたれかかって。 窓を開け放つと、夜になって冷気をはらんだ風が吹き込み気持ちが良い。「ベランダがあればいいんだけれどな」 不審者の侵入を阻止するため、この城は低層階の部屋にしかベランダは無く、サラは体を窓枠から乗り出すようにして、月明かりと星空を堪能した。「...全文を読む


第三章(23)サラ姫の役割

2009.06.07【 第三章 王位継承

  どうやらサラが”サラ姫”ではないことは、とっくの昔に気づかれていたらしい。「君、自分の行動振り返ってみなよ。どこをどう見たら姫なの?」 クロルの毒舌に、サラはその通りですと呟く。「とりあえず、全部吐いてもらうからね」 誰にも言わないという条件を念押しした後、サラはクロルに簡単な身の上話をした。 サラ姫のそっくりさんとして、異世界から召喚されたこと。 召喚の贄として、サラ姫の命が使われた...全文を読む


第三章(22)クロルの洞察

2009.06.06【 第三章 王位継承

  心労のせいか、疲労のせいか、それとも怪我のせいなのか。 はたまた、国王の爆弾発言にやられたのか。 寝不足続きのサラは、ふらりとベッドに倒れこみ……目が覚めたとき、部屋には眩しい朝焼けの光が差し込んでいた。「あれ……国王が訪ねてきたのって……夢?」 体を起こすと、ベッドの端からずり落ちかけていた毛布がどさりと床に落ちた。 誰かが気を使って毛布をかけてくれたらしい...全文を読む


第三章(21)消える王妃候補

2009.06.05【 第三章 王位継承

  サラの頭に、謎として残ったままだった、いくつかのキーワードが並べられた。 固く閉ざされた、魔女の住む部屋。 クロルがこっそり入手した、古い鍵。 決して嘘をついてはいけない、審判の間。 それらはすべて、魔女の呪いなんかじゃない。「月巫女は、真実を映す鏡だ。俺は、目の前にいる人物が、自分を裏切るかもしれないと思えば、躊躇無くその鏡を掲げた。自分が正義だと言い聞かせながら……」 拷問は、必...全文を読む


第三章(20)月巫女

2009.06.04【 第三章 王位継承

  国王の「落ち着け、デリス」という言葉で、小さなため息をつき、何事も無かったかのように席へついたデリス。 うまく隠しているようだが、良く見るとその体が小刻みに震えているのがわかる。 デリスの細い肩を軽く叩くと、国王はサラに鋭い視線を向けた。「魔女の呪い、か。サラ姫にそんな不謹慎なことを言うヤツは、1人しか思い浮かばないな……クロルだな?」 国王の表情は、一切変わらない。 変わらないのに...全文を読む


第三章(19)魔術師の思惑

2009.06.03【 第三章 王位継承

  ドレス姿のサラと初めて顔を合わせた、あのパーティのときも、国王はこんな表情をしていた気がする。 自分の思うとおりに事が進むという、絶対的な自信。 なぜだろう、それを崩してやりたいと思ってしまうのは。 3人の王子を騙した罰を与えてやりたい。 そんなことする権利、私には無いと分かっているけれど……。 サラは自分を見上げる国王から目を背け、悔しさに奥歯を噛み締める。 その横顔をじっと見つめ...全文を読む


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第二章 王城攻略 (37)
第三章 王位継承 (51)
第四章 女神降臨 (31)
第五章 砂漠に降る花 (52)
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