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チビ犬とムツゴロウの恋愛事件簿 あらすじ

チビ犬とムツゴロウの恋愛事件簿


「アイツのこと、キライ!」(なのに……気になるのは、ナンデ?)
百五十センチ弱の身長と、大きな目がコンプレックスの私、相川千夜子。隣のクラスのオレサマ系男子・サヤマには、『チビ犬』扱いでからかわれる毎日。そんな私に突然起こった、小さな事件……犯人は、いったい誰? クラス中を巻き込む、サヤマの推理が始まった!
(ライトな謎解きをベースに進む、ミステリ要素ありのベタ甘ラブコメです。犯人探し&どんでん返しをお楽しみ下さいませ)
【2009.7】アルファポリス・ミステリ小説大賞参戦。十四位フィニッシュと大健闘でした。
【2010.3.19】魔法のiらんど版を企画に投稿。それに合わせて、内容大幅に改稿しました。(ストーリー展開は変わっていません。ミステリ的なアラを減らしました)
【2010.7.10】突然ですが一次公開停止に。数ヵ月後に再開予定です。orz

<主な登場人物>
相川千夜子(チビ子):主人公。高校一年生。外見も性格も小型犬。
佐山悠太(サヤマ):隣のクラスの男子。行動力があり賢い。
ユカ:千夜子の親友。高身長のモデル系美少女。バレー部所属。
佐山先輩:悠太の兄。バレー部キャプテン。

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第三章(18)国王の狙い

第三章 王位継承


 どんなにくたびれていても、どんなに寝不足でも、朝はやってくる。

「サラ様っ!」

 ドアをガンガンと叩いた後、勝手にドアを開けて飛び込んできたリコは、そのまま勢い良くサラのふかふか天蓋付きベッドへ飛び乗った。
 正確には、ふかふかベッドの布団の下に丸まっている、サラの上に。

「グエッ!」
「やだもう、朝からカエルの真似なんてして、サラ様ったらお茶目なんだからっ」

 ええ、そうです。
 現在カエルは季節外れの冬眠中です。
 どうか起こさないでください。

「サラ様、早く起きないと……大変なことになりますよ……」

 突然声色を変えたリコに、サラはびくりとして目を開けた。
 リコは、寝起きの悪いサラの正しい起こし方をマスターしていた。


 瞼がずしっと重いのは、昨日たくさん泣いてしまったせい。
 枕元には溶けきった氷嚢が転がって、枕をしっとり濡らしている。
 軽く指で触れると、ものすごく腫れているというわけではないが、きっとひどい顔をしているだろう。

 あくびの出たサラは、うっすら涙の浮かんだ目をこすろうとして、リコに「ダメです! こすったらひどくなりますよ」と止められた。
 ため息をつくサラに比べ、この王城が敵国とは思えないほどのびのび暮らしているリコは、肌つやも良く笑顔が眩しい。

「もー、眠いよー。昨日あんまり眠れなかったのにー」
「はい、さっさと着替えましょうね。今日は朝から大事な予定が入りましたので」

 サラは、容赦なく差し込む朝日と、明け方まで続けられた筋トレの筋肉痛に表情を歪めつつ、上半身を起こした。
 うっかりベッドの縁についた左手が、ズキリと痛む。
 一応プロに縫ってもらったし、薬も効いているので、我慢できないことはないのだが……。

 サラは、その包帯の白を見つめると、右手の指で髪の毛を摘んだ。
 エール王子の黒髪よりは細く柔らかいものの、艶やかで滑るような手触りだ。
 ショートカットにしてから、髪がからまることもなくなり、ますます健康的になっている気がする。

 この黒髪から龍やらホタルやらが飛び出すなんて、ここは本当に不思議な世界だ。

 おのずとサラの思考は、昨夜の出来事をなぞっていった。

  * * *

 昨夜、突然のプロポーズをきっかけに、張り詰めていた気持ちが緩んで大泣きしたサラ。
 泣きやまないサラに困り果てたエールは、簡単な魔術を使ったマジックショーを見せてくれたが、サラはその気遣いと優しさに、ますます涙が止まらなくなってしまった。

 ちょうどそのとき、医務室からリグルが戻ってきた。
 片手に大きなベッド枠、もう片方の手に大きなベッドマット、頭の上には折りたたまれた布団がでろーんと崩れかけた状態で乗っていた。
 しかも、口には作りたての氷嚢が咥えられている。

 あまりにも王子らしからぬその姿に、サラはようやく笑顔を取り戻したのだった。

 その後、サラは2人に付き添われて後宮へ。
 布団だけ持ってあげたエールは、「そんなに感動するマジックがあるなら、俺にも見せて」とリグルにバウワウ詰め寄られ、クールな視線を送っていた。
 サラに向ける、特別甘い視線とは対照的で……サラはなるべくエールを見ないように端っこを歩いた。

 エールは、昨日で変わったのだと思う。
 魔女に呪いをかけられる前の、本当のエールに。
 兄の態度の変化にギャンギャン噛み付きつつも、嬉しそうなリグルを見ていて、サラはほっとしていた。


「サラ様、またぼんやりして! はい、お水飲んでくださいっ」

 朝日のシャワーと冷たい水で、いつもならスッキリ目が覚めるはずのサラだったが、今日は魂が口から半分飛び出たままだ。

「サラ様っ! 今から、ここに大事な方が……」

 言いかけたリコが、ピクリと体を緊張させた。

「ああっ、もう来ちゃったかも!」

 耳の良いリコが、何者かの足音をキャッチした瞬間、リコは手ずからサラの身支度をすることを断念。
魔術でチンして作ったホットタオルが飛んできてサラの顔を強引にぬぐい、猫じゃらし歯ブラシがサラの口の中をもぞもぞと動き回る。
 同時に、風の魔術がサラの髪を梳かしつつ、ドレスを棚から呼び寄せて、秒速でサラの身支度を整えた。

 サラの体そのものには魔術は効かないが、サラが立ち上がったり口を開けたりすれば、そこに適切な魔術がやってくる。
 普段は見られない便利な魔法のオンパレードに興奮したサラは、ようやく目を覚ました。

「リコったら、また侍女魔術レベルアップしたねえ……」

 至れり尽くせりで着替えを終えたサラが、お姫さま気分でのんびりと飲みかけの水に口をつける。
 そのとき、ノックの音と共にデリスの声がした。

「サラ姫様、今から大事なお話があります。お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
「いや、もう少し……」
「はーい、どうぞー」

 慌てるリコの掠れる声にかぶさった、のん気な声。
 声量でサラが勝った結果、部屋のドアが開かれる。

 そこに居たのは……。

「おや、サラ姫。今日はとても可愛らしい寝癖だな」

 立派なヒゲが美しく整えられた、国王様だった。
 サラは手にしたコップを見つめると、危機一髪でキケンを回避した自分を褒めた。

  * * *

 目配せ1つでリコを追い出した国王は、サラのベッドサイドにあるテーブルセットに落ち着いた。
 いつかルリ姫とお茶をした、少し小ぶりなラウンドテーブルに、アールデコ調の白い椅子。
 今日は仰々しいマントをつけていないというのに、その椅子に大柄な国王が座ると、まるで子ども用サイズに見える。

 サラは、寝癖がピョンと立ったところに、手探りで髪飾りを刺してごまかすと、国王の正面に腰掛けた。
 朝食の用意を整え、そっと無言で下がろうとしたデリスに、国王が隣の椅子を引きながら声をかける。

「今日は、お前もここに……デリス」
「はい、国王様」

 サラは、3名腰掛けるならと、少し椅子の位置をずらした。
 そのとき、またうっかり左手を使おうとしてしまい、薬指の傷がズキッと痛む。

「……つっ!」

 思わず顔をしかめたサラに、国王が声をかけてきた。

「昨日はエールが迷惑をかけたようだな。その手の怪我のこと、親として謝罪しなければと。すまなかった」

 サラを見るとき、今まではうっすらと口元に笑みを浮かべていた国王。
 今日は強く引き結ばれ、口角が下がっている。
 ただそれだけで、国王の威厳は増し、近寄りがたい空気をまとう。

「あの、これは大丈夫です。ただ、国王様は、いったいどこまでご存知で……」

 おずおずと尋ねるサラに、国王はようやくいつもどおりの微笑を浮かべた。
 鳶色の瞳が少しだけ細められ、サラの部屋の窓から差し込む眩しい朝日を反射する。
 浅黒く張りのある肌に、少しだけ寄った目尻のシワが貫禄を感じさせる国王。

 オアシスの神と崇められるこの人物を、ついこの間の夜、私は……。

 あれ?
 この間っていつだっけ?

 サラは、毎日大変なことが起こりすぎて、曜日感覚がまったく無くなっている自分に気づいた。

 赤くなったり青くなったり、ころころ変わるサラの表情を見ていた国王は、定番のいたずらっこ的な笑みとともに瞳を輝かせる。
 少ししゃがれた渋い声で……あっさりと白状した。

「昨夜、クロルが俺の部屋を訪ねてきた。全て聞いたよ。エールだけでなく、うちの子ども達全員、サラ姫には世話をかけっぱなしのようだな?」

 そのとき、サラの心には寒風が吹きすさび、枯葉の舞い散る音がした。
 クロル王子なら、きっとあのクールでコールドな冷笑とともに、全てを包み隠さず打ち明けたに違いない。

「ついでに、今朝はエールが来て、同じようなことを聞かされた。より情熱的にな」

 サラの心には、何かが終わった音がした。
 例えるなら、晩秋の柿の木……舞い落ちる最後の一粒がボタリと落ちた音。

「そういえば、一昨日の夜はリグルが来て、エール以上に情熱的な話をしていったな」

 ううっ……。
 もう、勘弁してください。

 サラは顔を真っ赤にし、小柄なデリスよりも小さく縮こまった。

  * * *

 国王に勧められて、サラは用意された簡単な朝食に手をつけた。

 オレンジジュースを豪快に飲み干した国王は、大きな手のひらで口元をぬぐう。
 国王の隣で背筋をシャンと伸ばし、身じろぎもせず黙って腰掛けていたデリスが、「国王様、はしたない。ナプキンをお使いくださいませ」と発言すると、国王は「すまん」と苦笑する。
 まるで親子のようなやり取りに、サラは少し気が紛れた。

 朝食がひと段落する頃、国王は独り言のように呟いた。

「正直なところ、これだけ早く3人が決めるとは思わなかった。すべてサラ姫のおかげか……」

 片付けのために席を立ったデリスをチラリと見やると、国王は椅子から立ち上り、サラの方へとまわってきた。
 サラの傍らにひざまずき、白い包帯の眩しい左手を手にとりながら、強気な瞳でサラを見上げた。

「エール、リグル、クロル……全員俺にとってはかわいい息子だ。サラ姫、誰を選ぶ?」

 国王の瞳は、あのパーティで突然プロポーズされたときと同じ。
 表面上は、情熱的に見える。

 ――でも、3人の王子たちとは違う。

「国王、あなたは私を利用した」

 サラは、黒騎士の声で告げ、冷ややかな瞳で国王を見下ろしながら、その手を振り払った。
 指がズキリと痛んだが、サラの心の痛みよりはマシだ。

 きっと、この人のなかで、最初から結論は出ていたのだ。

「あなたは……ただ、選んで欲しかったんですね? 王子たちに、自らの意思で……」

 魔術師に強要されて、時期国王を目指していたエール。
 エールを気遣って、辞退していたリグル。
 クロルは最初から決めていたみたいだけれど……。

 何もかもを予期して、こんな馬鹿げた賭けを企んだとしたら……。
 この人は、ずるい人だ。


 サラの言葉に、国王はいたずらが大成功した少年のような、得意満面な笑みを浮かべた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 王様の仕掛けたゲームに、やっと気づいたサラちゃんでした。王様のゲーム……王様ゲー……いや、なんでもありません。なんか、奥様方がPTA会長を決めるときのやり取りを彷彿とさせられますなあ。総理大臣決めるときも一緒かも。派閥と資質の戦いって感じですわね。この話では、ちょうどサラちゃんという餌がやってきて、うまく3人を引っ掻き回してくれたので、王様が満足する結果になりました。肝心の嫁取りはさておき、王位継承者は無事決定です。魔術師団は「キーッ、なによ!」と悔しがることでしょう。
 次回は、怒り心頭のサラちゃんに追い討ちをかけるように、王様の黒いとこぶつけていきます。見た目だけでなく中身もクロル君と似ているという……。

第三章(17)包帯に舞い降りた小鳥

第三章 王位継承


 包帯を巻き終わるまで黙っていろとエールに言われ、大人しくそのしぐさを見つめるサラ。
 至近距離で見るエールの髪は、艶やかでコシがあって、まるでシャンプーのCMに出てくるアジアン女優のようだ。
 
 サラの傷を押さない程度のちょうど良い圧力で、美しく均一に巻かれていく包帯。
 一重瞼の細い瞳は、真剣そのものだ。
 パーティで初めて挨拶したときは、無表情すぎて血の通わない人物という印象だったが、もうそんなことはない。
 エールの手は、こんなにも温かいと知ったから。

 精巧なプラモデルを組み立てるように、緻密な動きをみせる長い指は、とても細く骨ばっている。
 指先が動くたびに、手の甲にはくっきりと5本のラインが浮かび、しなびて張り付いた皮膚が影を作る。
 その手を見つめていたサラは、エールのマントに隠された尋常ではないくらい痩せた体を思い出し、一刻も早く解決策を考えねばと痛切に感じた。

  * * *

 サラは頭の中で、先ほどの話し合いで判明した事実を並べ、取り組むべき課題に優先順位をつけてみた。

 まず、最優先すべきはエール王子の体調だ。
 今は薬で抑えているというが、何度もあんな発作が起きては、体力は削られるばかりだろう。
 しかも、その薬も残り僅かだという。

 通常なら、触れれば消えるサラの能力も、エールには通じない。
 エールの魂には、魔女の作った見えない時限爆弾がセットされているのだ。
 それを外すことは、魔女にしかできない。

 魔女の操る禁呪について、エールはこう言っていた。

『別名、闇の魔術』

 火、水、木、風、土、光……6つしかないと思っていた魔術の7番目。
 人の心や魂を操り、時には穢すもの。

 サラ姫にかけられたあの洗脳魔術は、たぶん闇の魔術だろう。
 魔術師ファースが生み出した幻の龍も、水龍という話だったが、幻にするという点で闇の魔術をミックスしたものかもしれない。
 アレクの言っていた『七色のオーラ』という言葉もしっくりおさまるし。

 手のひらで直接触れなければ、魔術を無力化できないサラにとっては、闇の魔術は脅威だ。
 魔女は、特に恐ろしい。
 サラ姫のように人を操るくらいならまだしも、人の肉体を奪って乗り移るなんて……まるでホラーだ。

 幽閉されていた元筆頭魔術師に乗り移ったという、元王女。
 大陸へ逃げた後も、より魔力の強い人間、より若い人間の魂へと、次々取り付いていくだろうことは想像に難くない。
 そうやって生き延びて、いつか強力な力を持つ”贄”を見つけたなら、魔女は再びこの国へ舞い戻り、クロルの元へやってくる。

 最愛の人の血を引くクロルに、死者の魂を降ろすことができたなら。
 魔女は再び、恋をするのだろう。
 もしも魂というものに寿命が無いのなら、2人の魂は器を取り替えながら、永遠の時を生きる。
 他人の命や、我が子の命まで踏みにじりながら、愛を貫いていく……。

 ――そんなの、絶対に認めない!

 サラはほんの一瞬、緑の瞳を思い出して……そっと瞳を閉じた。

  * * *

 いつのまにか、考えが横道へ反れてしまった。
 サラは、再びエールの命を救う方法を考え始めた。

 確かに、闇の魔術は恐ろしい。
 ただ光だけが、唯一闇を抑えることができる……。

 サラは、できたら明日朝一番で、リコからお守りを借りようと思った。
 あれは光のマジックアイテムだというし、エールも持っているだけで少しは楽になるかもしれない。

 お守りの利用だけでは、効果は限られるだろう。
 できれば、光の魔術もかけてあげたい。

 呪いを受けてからというもの、エールは光の魔術がまったく使えなくなってしまったと言っていたし、いつものような増幅反射はできない。
 今日やったみたいに、別の人から魔術を受けて、それを自分で光に変換して、エールに……。

 ……あれ?
 なんだか突然、胸が苦しくなってきたような?

 サラは直感で、この方法を考えるのは後回しにしようと思った。


 あとは、エールの薬も補充しなければ。
 内面が侵されているなら、やはり内服できるアイテムの方が効果も高いのだろう。
 ただ、光の精霊系アイテムは貴重で、ほとんど存在していないとヒゲ盗賊もアレクも言っていた。
 今はエールに協力している魔術師達も、必死で探して見つからないというし。

 そんな、あるかどうかも分からないお宝を探すくらいならば……。

 空いている右手の指で、自分の前髪を摘んだサラ。
 そろそろ伸びて来たし、前髪切ってすりつぶして飲ませてみるか。
 もしそれが成功したら、いっそ丸坊主になっても構わない。
 髪の毛なんてどうせすぐ伸びるし、むしろ究極のエコ入浴を体験してみたいという気も……。

「おい、終わったぞ」

 サラは思考の奥深くに潜り込みすぎ、若干アニマル化していた。
 理性のストッパーが外れ、思いついたことをそのまま口にしはじめる。

「ありがとう。私、エール王子のために、坊主になるね!」
「……は?」
「ねえ、侍女のリコ呼んでもらっていい? 善は急げってことで、今から断髪式しましょう!」
「おい」
「本当に効くかは分かんないけど、一か八かってことで!」
「こら」
「もし効いたら、エール王子もう陰険な魔術師にペコペコしなくてすむし!」

 サラは瞳をキラキラさせながら身を乗り出して、閃いたばかりのプランを伝えた。
 しかし、サラの思惑に反して、エールはまったくそのプランに乗ってこない。
 むしろ、突然出くわした珍獣から身を守るように、じりじりと椅子を引き、サラから離れようとする。

 不満に頬を膨らませたサラは、論より証拠とばかりに、自分の前髪のツンと跳ねた1本を摘み、プチッと引き抜いた。
 リコは毎朝サラを起こした後、枕元や室内に抜け落ちたサラの髪をせっせと集めているようだし、魔力の強いエールになら何か伝わるだろう。

 サラの行動の全てが意味不明で困惑するエールに、サラは抜いた前髪を「はい、お宝」と言って差し出した。
 反射的に、手のひらをサラへ伸ばしたエール。

 あらゆる魔力を消去するサラの指から解き放たれた、1本の黒い髪の毛。

 それはエールの手のひらに触れると同時に……眩い光を放った。

  * * *

 目の前で見せ付けられた小さな奇跡に、エールが動揺して叫ぶ。

「――なんだ、これはっ!」

 当然、サラには何も見えない。
 ただ1本の黒い髪が、エールの手のひらにちょこんと乗っているだけ。

「なんだと言われても……私の髪ですが?」
「なぜ光る! なぜ金色なんだ!」
「どうやら、私の髪は光の精霊に好かれるらしいんです。あ、私には一切見えませんが」

 二の句がつけず、口を半開きに開けたまま硬直するエール。
 なんとか気力を振り絞り、質問する。

「じゃあ……これが、見えないのか?」
「はい、まったく見えません」

 エールは感極まったのか、ぶるぶると肩を震わせたかと思うと、耐えかねたように……大爆笑した。

 初めて聞くエールの心底おかしそうな笑い声。
 あの広場で、靴が転げたときの比ではない。
 驚くサラに、エールは目の端に浮かんだ涙をぬぐいながら尋ねた。

「サラ姫の国には、こんな虫がいるのか?」
「虫、ですか?」
「ああ、黒くて、爪の先くらいの大きさで、細い足が6本、羽があって空を飛び、体の一部が発光する」
「たぶん……ホタル、ですねえ」

 エールは笑いが止まらなくなったのか、自分の人差し指の先を見つめながら、くすくすと笑い続ける。
 そうか、ホタルというのかお前はと呟くと、怪訝そうな表情のサラに解説した。

「今、サラ姫の髪が光ったと思ったら、そこからホタルが飛び出してきたんだ。とても美しい光を放つ可愛い虫だ。大陸の奥にそんな生き物が存在すると噂には聞いていたが、砂漠の国にもいるとは知らなかった」

 サラは、エールの視線を追う。
 目に見えないホタルが、エールの人差し指の先から手のひらへとテクテク下りると、軽く飛んで鼻の先へ。
 くすぐったいなと笑うエールが鼻先に指を差し出すと、大人しくしたがったホタルは再び指の先へ……。

 小学生のとき読んだ演劇マンガで、小鳥を探すという演技をさせられた主人公が「タンスの上から小鳥が降りて来ないの……」と嘆くシーンを、サラは思い出した。

「これ、俺に懐いてるみたいだけど……俺がもらってもいいのか?」
「はあ。欲しいというなら、いいですよ? 何度も言いますが、私にはまったく見えないですし」

 エールは、サラから受け取った1本の黒髪と、その見えない虫を、大事そうにマントの中のピルケースにしまった。

「ありがとう。なんだか、生きる勇気が出てきたよ……」

 服の上からでも伝わる、胸の奥に灯る小さな光。
 10年間、迫り来る闇に抗うだけで精一杯だった自分に、初めて灯った希望の光だ。

 魔術師たちは、せっかく弱みを握り取り入った傀儡に死なれては困るとやっきになっている。
 戦争などそっちのけで、光の魔術が使える人間や、光の精霊アイテム探しに夢中だ。
 しかし、光の精霊は貴重で、簡単には見つからない。

 今ある薬が無くなれば、もう自分の命は尽きるのだと思っていた。
 誰のことも愛さぬまま、魔女を恨み、大勢の人間を死に追いやって、冥府へ向かうはずだった自分の運命を……この少女は、簡単にひっくり返してしまった。

 エールは椅子から立ち上がると、1歩2歩とゆっくり進み、サラの傍へ。
 そのブルーの瞳を見つめると、一瞬儚げな笑みを浮かべ、流れるようなしぐさで一礼。
 うつむいたまま腰を落とし、足元へひざまずいた。

「サラ姫……」
「ハイッ!」

 顔をあげたエールは、涼しげなその瞳にうっすらと涙を浮かべて、サラを見上げた。
 これから起こることを察したのか、サラの頬はすでにバラ色に染まっている。


「残りの命が尽きるまで……俺の全てを、君に捧げる。君の望みを、俺は必ず叶えてみせる。国王の椅子なんて要らない。ただ、君を守る権利を……!」


 丁寧に巻きなおされた包帯の上に、そっと小鳥がとまるように、エールの口付けが落とされた。
 布に遮られているはずの手の甲に、エールの唇の熱が伝わる。

 サラの瞳はぎゅっと閉じられた。
 それを合図に、泉のように溢れ出した涙。

 涙の雨は、エールが優しい言葉をかければかけるほど、その勢いを増した。


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 さ、たっぷり加糖ミルク入りMAXコーヒーいかがでしたか? ……え、甘すぎる? ではまたブラック無糖を……。(←旨い物~菊正宗ループの法則)エール君のプロポーズは「ホタルゥー」という感じの北国系な愛です。命の恩人への無償の奉仕+ほんのり初恋。ある意味バルト先生と似てるかもしれません。しかし全力でお守りします的な愛は、意外と侮れないと思う作者。うっかりエール君に「俺は死にましぇん!」と言わせようとして、シリアスシリアス……と我慢したエライ子です。ということで、これでプロポーズ大作戦終了! みなさんは次のコマンドどーしますか? 1.王の間へ、2.図書館へ 3.訓練場へ 4.政務室へ。作者はもちろん……そう、久しぶりのあのお方の元へ。そだ、小鳥のくだりは愛読書・ガ○スの仮面より。いろんな意味で傑作です。
 次回、国王様にもう一度会っときます。魔女っ子に乗っ取られちゃった可哀想な女子のこと聞かなきゃねー。そろそろ腹割って行きましょう。

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チビ犬とムツゴロウの恋愛事件簿 あらすじ

2009.06.03【 チビ犬とムツゴロウの恋愛事件簿

 「アイツのこと、キライ!」(なのに……気になるのは、ナンデ?) 百五十センチ弱の身長と、大きな目がコンプレックスの私、相川千夜子。隣のクラスのオレサマ系男子・サヤマには、『チビ犬』扱いでからかわれる毎日。そんな私に突然起こった、小さな事件……犯人は、いったい誰? クラス中を巻き込む、サヤマの推理が始まった! (ライトな謎解きをベースに進む、ミステリ要素ありのベタ甘ラブコメです。犯人探し&どんでん返しをお...全文を読む


第三章(18)国王の狙い

2009.06.02【 第三章 王位継承

  どんなにくたびれていても、どんなに寝不足でも、朝はやってくる。「サラ様っ!」 ドアをガンガンと叩いた後、勝手にドアを開けて飛び込んできたリコは、そのまま勢い良くサラのふかふか天蓋付きベッドへ飛び乗った。 正確には、ふかふかベッドの布団の下に丸まっている、サラの上に。「グエッ!」「やだもう、朝からカエルの真似なんてして、サラ様ったらお茶目なんだからっ」 ええ、そうです。 現在カエルは季節外れの冬眠...全文を読む


第三章(17)包帯に舞い降りた小鳥

2009.06.01【 第三章 王位継承

  包帯を巻き終わるまで黙っていろとエールに言われ、大人しくそのしぐさを見つめるサラ。 至近距離で見るエールの髪は、艶やかでコシがあって、まるでシャンプーのCMに出てくるアジアン女優のようだ。  サラの傷を押さない程度のちょうど良い圧力で、美しく均一に巻かれていく包帯。 一重瞼の細い瞳は、真剣そのものだ。 パーティで初めて挨拶したときは、無表情すぎて血の通わない人物という印象だったが、もうそんなこと...全文を読む


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