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第三章(16)エールの視線

第三章 王位継承


 クロルの推理からしばらくの沈黙を経て、ルリが呟いた。

「ごめんなさい、もう無理……これ以上は、考えられない……」

 その言葉をきっかけに、会合はお開きとなった。
 また近いうちに集まろうと約束して。
 このヘビーな話し合いで一番ダメージの少なかったクロルは、そうと決まると「あー、疲れた。じゃねー」と言い捨て、さっさと部屋を出て行った。

 クロルが出て行くのと同時に、手馴れた様子でお茶の片付けを始めるルリ。
 何か手伝えることはないかと近寄ったサラに、人差し指を立てて一喝。

「けが人は座ってなさい! というか、お茶会は片付けまでが主催者の仕事だから、気遣いはご無用よっ」

 大人しく元の席に戻ったサラは、見るからに高級なカップ&ソーサーをジェンガのように重ね、絶妙なバランスで流しへ運んでいくルリを見つめた。

 ドレスの上からエプロンをつけ、ミニキッチンに立つルリの姿は、女のサラから見ても最高に魅力的だ。
 顔が可愛いのはもちろん、出るとこ出て引っ込むところは引っ込んでいるあの素晴らしいスタイル。
 そして、王女という立場にあっても失われない、労働や奉仕への熱い心。
 なにより、言いたいことはハッキリ言う、竹を割ったような性格……。

 無意識に、サラは呟いた。

「ああ、ルリ姫と結婚したい……」

 その後、猛スピードで片づけを終えたルリは、サラの顔を見ずに「私はこれでっ!」と退室した。

  * * *

 リグルの部屋に残ったのは、家主のリグル、エール、サラの3人。
 サラは、ルリと一緒に自室へ戻ろうと思っていたのに、アテが外れてしまった。
 この場所から後宮へ、迷わず辿り着ける自信は無い。

 エールかリグルに、後宮の入り口まで送ってもらおう。
 それとも、誰か侍女を呼んでもらおうかな。

「じゃ、そろそろ俺も」

 ちょうどエールが立ち上がったので、サラは送ってくれないか打診しようと、慌てて声をかけた。

「エール王子、あの……」
「いいこと思いついたっ!」

 サラが話しかけるのと同じタイミングで、テーブルに座ってなにやら考え込んでいたリグルが、突然両手をバシンと叩いた。

「エール兄っ、今日から俺は、エール兄の部屋で寝泊りするからな! もし突然発作が起きたら大変だし!」
「いや、要らない」

 あっさりと否定したエールは、足早に部屋を出ようとする。
 そのローブの裾を、リグルはとっさに掴んで引き止めた。

 ただでさえ腕力の強いリグルに引っ張られ、病み上がりのエールはバランスを崩すと、なすすべなく絨毯に転がった。
 柔らかい絨毯なのでダメージは無いが、靴についた土を落とすような気遣いの無いリグルの部屋だけあって、たった1日で汚れがたまる。
 黒いローブについた埃を払いつつ体を起こし、文句を言おうと口を開きかけたエールは……リグルの豪快な笑みとバキボキと鳴らされる指を見て、抵抗を止めた。

「分かった。とりあえず今晩一緒に過ごしてみて、うまく行きそうだったら、な?」

 青白い顔をしたエールが、真剣な男女交際には逃げ腰なプレイボーイ的提案をするも、リグルは最初の一言しか聞かずに「よっしゃ!」と大喜びだ。
 今まで距離を置かれていただけに、リグルはこうしてまた昔のように仲良くなれることがよほど嬉しいのだろう。
 2人のやり取りを見ていたサラは、以前テレビでやっていた大家族ドキュメントの反抗期兄弟の和解シーンを思い出し、よかったねえと呟いた。

「エール兄のためなら、多少の階段と廊下くらい我慢できるぜっ」

 リグルの部屋は、王族の部屋のある一画からはずいぶん離れている。
 元々は他の王子と同じく、王族専用の厳重警備エリアに部屋があったのだが、リグルが「いちいち階段を昇るのは面倒。訓練場に近い方がいい」と主張したため、この場所になったそうだ。

 そしてリグルの長所は、一度決めたらまっしぐらな、その行動力。

「では、後で侍女たちに簡易ベッドを持ち込ませ……」
「大丈夫! 確か医務室に余ったベッドがあったから、俺が持ってくよ!」
「いや、あのベッドは……」

 患者の……と呟くエールの言葉は、勢い良く部屋を飛び出して行った秋田犬リグルには届かなかった。

  * * *

 部屋にサラと2人で残されたエールは、若干の気まずさを感じていた。

 自分がどうやって助けられたのかは、庭園の広場から移動する間に、肩を貸してくれたクロルからしっかり聞かされた。
 時系列で整理されたクロルの説明は、非常に簡潔で分かりやすかった。

『サラ姫、最初はエール兄さんの顔殴ったんだろうね。兄さんの頬ちょっと腫れてたし。そのうち服脱がせて、薬を見つけたみたいだよ。でも彼女魔力無いから水が呼べなくて、代わりに自分の指噛みちぎって血と一緒に飲ませたみたい。あ、もちろん”口付け”でね。僕たちが到着したとき、まさにその場面だったから、本当にビックリしたなあ。サラ姫って実は痴女だったのかと思ってさ。そしたら、次の瞬間口からダラッと血を流すから、痴女じゃなく魔女が降りたのかと。でも、光の魔術でエール兄さんを治した時は、まるで女神だったな。あ、エール兄さんそのときもサラ姫に”口付け”されてたよ。良かったね』

 クロルは淡々と語ってくれたが、その眼は一切笑っていなかった。
 特に、口付けという単語には、やけに力が入っていた気がする。

 エールは、すぐ隣に大人しく座っているサラを、チラリと盗み見る。
 長袖のドレスの袖が左腕だけ無残に千切られ、のぞいた白い腕の先には、包帯の巻かれた手。
 一度顔と手を洗ったので、汚れてはいないが、黒いドレス全体は砂埃にまみれ、短髪を隠すための髪飾りは美しい黒髪から離れまいとするように、かろうじてひっかかっている。

 傷に巻かれていた包帯が緩んだのか、せっせと巻きなおしているその表情は、真剣そのものだ。
 片手しか使えないせいか、案外不器用なのか、上手に巻けず何度もやり直す姿がいじらしい。

 ――その傷をつけさせたのは、自分だ。

 サラに魔力が全く無いことは、エールにとって衝撃だった。
 力の差はあれど、あらゆる人間に宿るといわれる魔力。
 それが、治癒の魔術すら受け付けないなんて……そんな人物は見たことも聞いたことも無い。

 代わりに、サラが持つ能力は、非常に特異なものだった。

『人の放った魔術を、転移させる』

 エールは、決勝トーナメントの戦い方を見ていて、単に黒騎士は魔力が少ないのだろうと思っていた。
 少ない魔力をギリギリまで溜めこみ、強力なマジックアイテムの力を活用することで、あの爆発的なパワーを得たのだろうと。
 その予想は、完全に外れていたことになる。

 本来、一度魔術師の支配を受けた精霊は、他の存在から干渉されることはない。
 使命を遂げるか、遂げられずに消滅するか、そのどちらかだ。
 しかし、黒騎士……サラ姫は、精霊に使命を上書きするのだ。

 決勝戦の決め手となった金色の龍も、元々魔術師ファースの術により生まれた存在。
 それを一度受け止め、別の形に変えて放出し直すなんて、まさに神の域に達するような……。

 サラ姫は、もしかしたら神の声を聞く巫女姫なのかもしれない。
 砂漠の国は未開の地だし、このような不思議な力を持つ巫女姫がいてもおかしくない。
 なにより、サラ姫は神の御使いのように美しい……。

 そこまで考えたとき、エールの視線に気づいたサラが顔を上げ、不思議そうに小首を傾げた。

「エール王子?」

 エールは、ブルーの瞳に射止められた。
 無理やり視線をずらしたが、今度は高く澄んだ声を紡ぐサラの唇を見てしまった。
 ふっくらと柔らかく血色の良いその唇は、紅をさしていないというのにひどく赤い。
 慌ててうつむいたエールの視線が、サラの首筋、胸、腰へと移っていったとき。

 エールの心臓が、ドクリと強い音を立てる。

 エールは思わずサラに手を伸ばし……。


「その包帯貸せっ!」


 サラの手にぐっちゃり乗った白い布を、乱暴に奪い取っていた。

  * * *

 サラの近くに椅子を寄せて陣取ると、器用にするすると包帯を巻いていくエール。
 目下最大の課題が解決したサラは、上機嫌だ。

「そうだ、私エール王子に聞きたいことがあったんだ」

 エールはなるべくサラの笑顔を見ないように、手元に意識を集中させた。

「さっきバラのテラスで言ってたことって、本当ですか?」
「何のことだ?」
「私と結婚してくれるって」

 もう少しで巻き終わるというときに投げられた、サラの爆弾。
 呆気に取られたエールは、その手から包帯の残りを取り落とした。

 シュルシュルと一気にたるんでいく包帯を見ながら、サラは「あーあ」と呟いた。



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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 いきなりMAXコーヒーの前に、微糖ミルクな感じのお話でした。ええ……本当は、書いてて長くなってしまったので、途中で分けました。極甘は次回に先送りで、今回はライトなコメディ風に。がっちり打ち解けたことで、だんだん王子&姫が壊れ……くだけてきて、キャラが勝手に動くようになってきました。特にエール君、トラウマ系ポーカーフェイスでめんどくさいヤツだったけど、世話好きお兄ちゃんになってからは楽チンです。いつものように動物に例えると、コリー犬って感じ? 突然なぞなぞ『コリーが逆立ちすると、何になるでしょう?』 ヒントは業務用コピー機の……。(←スルー推奨)せっかくキャラ立ってきたんですが、もうそろそろ第三章はクライマックスです。フルスピードで! 勢いだけで!(←いいのか?)
 次回、サラちゃん視点に戻り、エール君に小さな奇跡を起こします。そしてついに、プロポーズ大作戦完了……となるか?
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第三章(15)魔女の狙った獲物

第三章 王位継承


 ルリのすすり泣きと、リグルの慟哭。
 そして、この苦しみを1人で耐えてきたエールが、ようやく心を解放して静かに流す安堵の涙。
 サラも3人の涙を見て、悲しみにシンクロしていく。

 ただ1人、クロルだけは今までどおり。
 みんながなんとか現実を受け止め、心を落ち着けるのを見計らった頃に、ポツリと言った。

「母さん、か……悪いけど、僕はあまり思い出とか無いんだよね。だから泣けない」
「ああ、確かお前が2才になる頃だったな。母さんが死んだのは」

 クロルの傍らに座り込んでいたエールが、ローブの袖で涙をぬぐいながら立ち上がる。
 椅子に座ったままのクロルの視線が、エールを追って上目遣いに変わった。

 今はっきりと見える、クロルの薄茶色の瞳に浮かぶのは……かすかな悪意。

「エール兄さんが正直に言ってくれたから、僕も言うね。母さん……ていうかあの女、父さんが死んだときから狂ってたはずだよ。僕が、あの女の腹にいた頃からね。僕、胎児の頃の記憶があるんだ」

 もう聞きたくないというように、ルリは耳を両手で押さえて頭を横に振った。
 エールとリグルは、皮肉げに笑うクロルを凝視した。

「あの女が、自分の腹に何を話しかけてたか、全部じゃないけど断片的には覚えてるよ。”お父さんみたいな黒髪、黒い瞳、強い力を持って生まれて来い”って、ずっと言ってた。僕は、お父さんの生まれ変わりだからって。それが……いざ生んでみたら、自分にそっくりだったから、かなり怒ってたけど」

 サラは、イメージを膨らませていく。
 最愛の夫を無くし、幼い子ども達と戦地に取り残された元王女。
 サラは彼女の顔を知らないが、国王やクロルに似ているとすれば、かなりの美女だろう。
 精霊の森で国王の支えになったという、その穏やかな表情が失われ、狂気に歪む姿が……今こうして冷笑しているクロルと重なる。

「それからあの女が死ぬまで、僕は腕に抱かれた覚えは1度も無いんだ。侍女たちが代わりに育ててくれたから、別に不満は無いよ? 兄さんたちは、王城での暮らしに慣れるので精一杯だったろうしね」

 クロルは無邪気に笑ったけれど、その場に居た誰も、笑えなかった。

  * * *

 母親の愛情が一番必要な時期に、そうやって放り出されてしまったことが原因なのだろうか。
 クロルに張り付いた冷笑は消えない。

「ていうか、もうその頃には母さん、エール兄さんにしか興味無かったんだろうね。エール兄さんだけだろ? 父さんの血を受け継いでるのって。僕は父さんの実物って見たことないから分かんないけどさ」

 立ち尽くしていたエールが、無言でうなずいた。
 リグルもルリも、あらためてエールの姿形を見つめる。
 半ば呆けた表情のまま、リグルが呟いた。

「そうだな……俺は、髪と目の色は父さんと同じだけれど、魔力は無いし、何より性格が母さんに良く似てたらしいから」

 お転婆で、いつも当時の国王や王妃、侍女たちを困らせていたという王女。
 「森の向こうに行ってみたい」が口癖だったという。
 その願いを叶えようと、国王が15才の成人に合わせて大陸の国々に花嫁候補としてお触れをだしたところ、あまりの美しさに求婚者が殺到した。

 しかし既に王女は、身分違いの恋に落ちていたのだ。
 どんな立派な国の求愛も全て断り続け、両親や周囲を粘り強く説得し、最後は”妊娠”という既成事実をもって、彼女が一般貴族と結ばれたのは、適齢期をだいぶ過ぎた20才のとき。

 王城の生活よりは貧しいものの、愛する人と4人の子どもに恵まれ、彼女は幸せだったのだとリグルは語った。

「父さんは、穏やかな人だったよ。本当に、見た目も性格も、エール兄に似てる。だからって……エール兄のこと……器にしてっ……!」

 エールは、再び涙を流し始めたリグルの肩をそっと抱いた。
 先に悲しみを乗り越えた者として、弟と妹を導くために、エールは微笑んだ。

「そうだ。母さんは幸せだった。ただ……父さんのことを、愛しすぎてしまっただけなんだろうな。クロルの言うとおり、この城に移って来てからというもの、母さんは俺の傍から片時も離れなかった。俺が赤ん坊のクロルを放置していることを強く責めても、なんというか……異常な目つきで……」

『あなたが私を叱るその表情も、あの人にそっくりね』

 エールの脳裏に、まるで少女のように微笑んだ美しい母の面影がよぎる。
 その声も、瞳も……自分へ向けられる愛情の全てが、息子に対するものではなかった。

 ずっとうつむいていたルリが、ようやく顔を上げた。

「私……お母さんに、聞いたの。クロルが生まれてから全然会ってくれないから、無理やり部屋に押しかけて……なんだか変だった。邪魔するなって追い出されて」

 ルリの瞳から、新たな涙が零れ落ちる。

「その時、お母さんは言ったの。もうすぐお父さまに会わせてあげられるからって。私、意味が良く分からなくて……ね、リグル兄?」

 ルリの泣き顔を見て、力付けるように強くうなずくリグル。

「そうだな。良く覚えてる。俺は正直、母さんがルリを連れて父さんのところへ……自ら命を絶つつもりじゃないかって、思ったんだ。だから訓練をしばらく休んで、ずっとルリと2人、クロルの部屋で暮らしていた。エール兄さんは、力で母さんに負けないだろうし、大丈夫だと思ったんだ。その後すぐに母さんが亡くなって……悲しかったけど、少しだけホッとしてたんだ。まさかエール兄さんにそんなことを……」

 リグルは、握り締めた両手の拳を自分の膝に強く打ち付けて「ちくしょう!」と、王子らしからぬ言葉で……自分を責めた。

  * * *

 唯一人、部外者のサラ。
 冷静にならなければと自分に言い聞かせながら、今まで聞いた断片的な話を、頭の中でまとめてみる。

 クロル王子がお腹にいた頃に、王子達のお父さんが戦争で無くなった。
 王城へ移ってからの2年間、王女はたぶん正常ではない精神状態だったのだろう。
 亡くなったのは、自室の窓からの転落。
 事故死とはいえ、自殺に近かったのかもしれない。

 それが、11年前の話だ。

 当時、エール王子は11才。
 11才の少年が、母親の狂気を受けて魔術の贄となり、なんとか術を逃れて生きながらえた。
 それから10年以上……エールは、体を蝕む呪いと戦いながら、魔女となった母を捜し続けていたのだ。

 そこまで考えたサラの瞳に、再び涙が浮かびかけたとき、エールが呟いた。

「母さんが消えてから、俺はすぐにこの城を飛び出そうとした。いつまで生きられるか分からない体で、しかも、次はクロルが狙われると分かって、じっとしていられるわけが無いだろ? でも、失敗したんだ。王城から逃げようとした俺を、あっさり捕まえたのが……筆頭魔術師ファースだった」

『へえ……これは珍しい。お前の魂には、闇が混じっているな』

 新しいおもちゃを見つけたように、楽しそうに笑った筆頭魔術師。
 俺の頬をつねり、耳を引っ張り、伸ばした黒髪を持ち上げて……。
 「痛いな!」と叫んだ俺に、あいつは言った。

『痛いときは、泣いたっていいんだぞ? ボーズ』

 俺は、まんまとのせられて、悔し泣きした。
 あいつは、泣きじゃくる俺の頭を、ずっと撫でながら言った。

『なあ、世界は広いんだよ。今のボーズじゃ飯にありつくのすら難しいだろうな。ただ……それでも望むなら、俺が力を貸してやってもいいよ? その代わりに……』

 魔術師ファースは、貪欲な男だった。
 なぜ俺の逃亡を手助けしようなんて提案をしたのか、はっきり告げたのだ。

 ギブアンドテイクの関係だったが、俺はそれでも良かった。
 俺の負ったこの闇を、知ってくれている人間が近くにいるだけで、救われていたんだ。

 なのに……。

「ファースは、俺に何も言わずに出て行った。最悪なことに、俺を後継者に指名する書状を残してな。あいつがこの国を捨ててから、俺に出来ることは大幅に限られた。暗殺者から国王を守り、この城の結界を維持するだけで精一杯だった。せいぜい、魔術師たちに頭を下げて利用されて、見返りに光の精霊の宝石をかき集めてもらって……自分の延命のために、騎士たちをたくさん死なせた。最低だな……」

 1人考え込んでいたサラの頭に蘇る、ファースの笑顔。

「違う……そうじゃない!」

 突然サラが叫んだので、4人は驚いてサラを見つめた。

  * * *

 サラは、確信していた。
 エールの次に……もしかしたら、それ以上に、自分はあの魔術師を理解しているのだと。

「ファースさんは、意味の無いことなんて絶対にしない。あの人は見つけたのかも。森の向こうに、エール王子を救う何かを……」

 逃げた魔女なのか、呪いを解くマジックアイテムなのかは分からない。
 ただ、ファースは一度助けると言ったなら、何があっても絶対にやり遂げる人なんだ。

「それは違うよ、サラ姫。君はあいつの目的を知らないからね」

 サラの考えを、ファースはあの部屋で見せた冷笑とともに一蹴した。
 ファースへの憎しみを隠そうともせず、エールは皮肉げに笑う。
 教師が子どもに諭すような、優しいけれど一方的な口調で。

「あの男は、俺より大事なもの……国王を選んだんだ。いや、そうじゃないな。ずっと国王が匿ってた、ファースの前の筆頭魔術師……王弟事件の犯人をね。俺に魔術のスキルと、王城を出ても生き抜ける知恵を教える、その見返りが……あの女魔術師だった」

『……ある女が、国王に囚われている。そこは、王族しか入れない特別な結界が張ってある。その女と、俺を会わせてくれないか?』

 自信満々な態度で「ボーズはバカだなあ」とエールをからかっては大笑いしていた最強の魔術師。
 だからこそ、ファースの突然の変化にエールは驚いたのだ。
 苦しげに眉を寄せ、1つ1つ言葉を選ぶようにそっと告げるファースの瞳に、滲みかけた涙を見つけてしまった。

「それから、俺はファースに言われたとおり、女魔術師の囚われた部屋を探し出して、何度か逢引を手伝ったよ。やつれてはいたけれど、美しい女だった。魔術封じの腕輪を嵌められていた。それが無ければ、あの女はもっと早く逃げられたのかもしれないな」


 サラは、新たに発覚した事実に驚くとともに、冷静に事実を読み解いて、一度立てた仮説をリセットする。

 ――王弟事件。
 背筋が凍るような、あの部屋の澱んだ空気を思い出し、サラはぶるっと震えた。
 クロルに教わった話は、単なる噂話の域を出ない。
 全てを信頼することはできないけれど……。

「母さんが死んだとき、国王は珍しく動揺していた。その隙をついて逃げた元筆頭魔術師の女を、国王は見つけ出して連れ戻すよう命じた。確証は無いが、その女は国の暗部を知りすぎていたんだろう。ファースは……見つけても連れ戻すかは分からないな。その女にかなり入れ込んでいたみたいだから」

 サラは、その説明に納得した。
 いや、しようとした。

 理性を跳ね除けるように、サラは叫んでいた。

「違う、違うの、そうじゃないのっ……!」

 サラは、自分が心から魔術師ファースを信頼していることを自覚した。
 その信頼をすでに裏切られているエールと、話がかみ合うわけがない。
 エールの瞳には、あの日サラに向けた敵意が浮かぶ。

 それでもサラは、自分の直感を信じたかった。
 魔術師ファースは、エール王子をきっと大切に思っているはず。
 でも、ファースが取引してでも会いたがったその女魔術師も、大事なのかもしれない……。

 ――ううん、やっぱり違う。

 ファースは、何事も先を読んで、優先順位を決めて動く人だ。
 彼が何よりも優先するのが、大事な人の命。
 好きな女を追いかけるとか、たかが国王の命令なんてもので、あの天邪鬼が動くわけない!

 お互い一歩も引かず、睨みあうサラとエール。
 その対立を、ハラハラしながら見守るリグルとルリ。

 そして……ピリピリと緊張したその場の空気を、まるっきり無視する人物が1人。


「そっか、うん、わかった。あー、スッキリした!」


 クロルは、僕ってやっぱ天才っと呟きながら、1人くすくすと笑い出した。

  * * *

 全員が、理知的に輝くクロルの瞳に吸い寄せられる。
 過去や未来が入り混じるこの混沌とした現実から、クロルは何を見つけだしたのか。

「エール兄さん、僕はね……母さんが死んだところを確かに見たって人を知ってるんだ」

 事故死を装って、王城を逃げ出したという王子たちの母親。
 それが確かに死んでいるとしたら、また話が変わる。

「もしも母さんが死んだなら、その命をもってエール兄さんにかけられた呪いは解かれるはず……それが解けていないから、エール兄さんは”魔女はまだ生きている”と思っていたんだろう? でも、残念。母さんは本当に死んだんだよ」

 どういうことか分からない。
 分からないけれど……何か、嫌な予感に、サラの胸の鼓動は早まった。

 クロルは、自分を見つめる4人の顔をゆっくりと見回した後、結論を告げた。


「魔女は、成功したんだよ。禁呪ってやつをさ。死んだ人間の魂を冥界から降ろすより、生きた人間の魂を降ろした方が楽だって」


 クロルの笑みが深まるとともに、この部屋全体が冷気に包まれていくようで、サラは両腕で自分の体を抱きしめた。
 ズキズキと鈍い痛みを放つ左手の傷ですら、この空気の中で沈黙した。


「きっと魔女は、自分の肉体を捨てて、他の人間の体を乗っ取ったんだ。例えば……”元筆頭魔術師の女”あたりに、ね……」


 クロルの告げた言葉に……4人は、戦慄を覚えた。

 クロルは「今頃魔女は大陸で、婿探しならぬ贄探しでもしてるのかなー」なんて、他人事のように笑った。



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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 ギャー! 魔女怖いよぅ……ていうか、全然話すすまないこの話が、どんだけ長くなるのかがもっと怖い……。予告してたエール君のリベンジまで辿り着けずスミマセン。しかしクロル君、どんだけ賢いんだって話ですよ。実際に赤ちゃんの記憶がある方もいるそうですが……クロル君がいてくれて良かった! 彼が居なかったら、単純ワンちゃんなリグル、甘えんぼ子猫なルリ、思い込んだら一筋な頑固エール、同じく頑固でフィーリング重視のサラ……謎は絶対解決しませんでした。ホッ。あと魔術師ファース君の想い人も登場。とても悲しい恋です。うっかりサラちゃんに浮気しかけたのは、作者的に許せる範囲かと。念のため補足すると、2人が森を抜けられたのは”死をも乗り越えられる強さ”があったからですね。(第二章閑話4妹ちゃん振られるの巻より)
 次回こそ、エール君とサラちゃん2度目のツーショット。そろそろ甘さを提供しましょう。苦いブラック無糖に飽きたら、極甘MAXコーヒーを無理やり提供いたします。(byAQカフェ店主)

第三章(14)暴かれた魔女の正体

第三章 王位継承


 その夜、お茶会メンバーは1人も欠けることなく、リグルの部屋へ集っていた。
 侍女に急いで作らせた簡単な食事を取っている間、5人にはほとんど会話がない。

 そのうち4人の目線は、チラチラと長い黒髪へ。

「――ああ、もう分かった! 謝る! ちゃんと説明する!」

 ついにガラスの仮面にヒビが入ったエールが、がばっと頭を下げた。
 普段冷静沈着なエールの顔は、見たことが無いくらい汗をかき、頬はほんのりピンクに染まっていた。
 先ほど、死の淵に立っていたことが嘘のような、健康的な色だ。

 サラは、「当然です」と呟きつつも、心底ホッとして息をついた。

  * * *

 サラの放った光が、エールの体を癒した直後。
 重症なのは、サラのほうだった。

 エールと入れ替わりに倒れたサラは、疲労と出血のせいで軽い貧血を起こしていた。
 光の癒しで、倒れる前のレベルまで回復していたエールが、サラの左手に巻かれた黒いドレスの切れ端を取り去ると……布にしみこんだ血液の量に、驚いた。

 すかさず左手に手をかざし、詠唱なしで最高級の治癒魔術をかける。
 しかし、サラの傷は治らない。
 魔術の種類を変えながら何度試しても、早い心臓の動きに合わせて、ドクドクと赤い血を垂れ流し続けるままだった。

「――魔術が、効かない?」

 エールの呟きを耳にすると同時に、ルリは「こっち見ないで!」と叫ぶと、ドレスの下につけていたペチコートを素早く脱ぎ、サラの左手にぐるぐると巻きつけた。
 パラのテラスへ戻れば清潔な布はあるけれど、まずはこのまま王城へ運んだ方が良いだろうというルリの意見に、全員がうなずいた。

 リグルは、軽々とサラを抱き寄せ、揺らさないよう慎重に走り始めた。

「エール兄さま! 王城の医師を中庭まで呼び出しておいて!」

 叫んだルリは、リグルの後を追って走り出した。
 意識を取り戻してすぐに魔術をつかったせいで、立ち上がることがせいいっぱいのエールに、クロルが「これは貸しだからね」と嫌味を1つ落としてそっと肩を貸した。


 エールの魔術による伝言で待機していた医師たちは、サラの指の傷を手早く縫いあげた。
 幸い傷口そのものは小さく、いずれ目立たなくなるだろうという台詞に、全員が大きな安堵のため息をついた。

「エール様……」

 医務室に居る数名のうち、一番高齢な医師がごく小さな声をかけ、思わせぶりに目配せをすると、エールはうなずいて小さな容器を差し出した。
 そしらぬ顔をして容器を受け取った医師が、隣接された薬剤倉庫へ向かうと、何事も無かったかのように再び医務室へ戻り、容器をエールに返す。

 サラへの応対でばたばたしている中、すべて無言で、さりげなく行われたそのやりとりだったが。
 クロルの目はごまかせなかった。
 サラの傷に包帯が巻かれ、作業を終えた医師たちが部屋を出るのを確認すると、クロルはエールのローブを引っ張った。

「エール兄さん。さっそくだけどさっきの借り返してもらうよ。エール兄の病気って、何?」

 うっと詰まったエールは、容赦なくぶつけられる強い視線から、目を反らす。

「ふーん……じゃ、いいや。まだ貸しとくよ。こっちから聞くし」

 氷の王子の、ブリザードのような視線を受けた医師の老人は、プルプルと体を震わせながら後退る。
 クロルが笑顔のままにじり寄り、壁際まで追い詰めると、医師は「申し訳ありませんが、エール様から固く口止めを……」とあっさり白状したため、再びクロルの視線はエールへと向かった。
 エールは気まずそうに目を伏せ、クロルの視線攻撃を避けながら、口を閉ざした続けた。

「私も……聞きたいです、それ」

 鈴が鳴るような声が、医務室に響いた。

 意識を取り戻したサラが、青白い顔で、クロル並の冷たい微笑を浮かべていた。

  * * *

 医務室を出て「今日はありがとう、助かった、じゃ!」という言葉を残し逃げようとしたエールに、サラは悪魔のような微笑を崩さずにささやく。

「でっかい貸しですわねえ、エール王子。私、あなたの命の恩人ですのよ? ありがとうではなく、理由を教えろと言ってるんです。こんな簡単なことで許してあげてもいいなんて、優しいでしょう? さあおっしゃって!」

 シェークスピア悲劇のように、演技がかったサラの台詞。
 しかし、リグル、クロル、ルリは、さきほどの口元から血を垂らしたサラを思い出し、背筋に寒気が走った。
 エールはといえば、サラの剣幕に気圧されながらも、最後まで抵抗をやめない。

「あ、ああ……でも今日は、皆疲れているだろうし、また今度……な?」
「リグルさん! クロルさん!」

 サラの……いや、黒騎士の鋭い声に、2人はハッとしてサラを見つめる。

「――少し、懲らしめてやりなさい!」

 こうして、エールを拉致したサラ姫ご一行は、一番近い宿屋……リグルの部屋へ駆け込んだのだった。


 消化の良いあっさりリゾット系の食事を終え、ルリ姫の美味しいお茶で一息ついたとき、執行猶予期間は終わったとばかりに、クロルが告げた。

「エール兄、謝るだけじゃ許さないよ? 今日は全部吐いてもらうから」

 冷酷な笑みを浮かべるクロルに、エール以外の全員が賛同の意思を込めてうなずく。
 エールは、降参と呟いて、ルリの淹れた健康増進ハーブティをすすると……話し始めた。

「俺の病は……いや、病ではないな。俺の魂は、魔術で蝕まれているんだ」

 サラはもちろん、王子たち全員も知らない話だった。

 飲んでいた白い粒は、薬ではなく特別なマジックアイテムだった。
 光の精霊が宿るという貴重な宝石を入手し、それを削った粉が混ぜ込まれたもの。
 数に限りがあるため、大事に使っているという。

「エール兄さん、それは、いつから?」

 王城内の侍女からは”氷の刃”とも呼ばれる、クロルの鋭い視線を受けたエールは、困ったように自嘲した。

「リグルは鈍いからいいけれど、クロル、ルリ……お前たちにはいつ見破られてもおかしくないと思っていたよ。距離を置いたけれど、こんな風にバレるなら最初から伝えておけばよかったな」

 鈍いと名指しされたリグルが、エール……ではなくクロルに食ってかかる。

「おい! お前ら俺に何隠してんだ!」
「知らないよー。エール兄に聞いてよ」

 じゃれ始める2人を見て、頬を緩めるエール。
 その表情は、まさに憑き物が落ちたようだ。
 家族想いで、優しいお兄さん……これが本当のエールの姿なのだと、サラは感じていた。

「ちょっとリグル兄さん、クロル! まだ話は終わってないでしょ!」

 ルリの言葉に、2人は大人しく椅子に座りなおす。
 切れ長の黒い瞳を細めながら兄弟を見守っていたエールは、微笑んでいた口元を徐々に無表情に戻し……最後は、ぐっと引き締めた。
 拷問に耐える囚人のような表情のエールに、なごみかけた空気が一瞬で引き締まる。

「リグル……みんな、黙っていてごめん……」

 この日、最初の爆弾発言が落とされた。


『俺は、魔女の呪いを受けたんだ』


 そこにいた全員が、驚愕に目を見開いて、エールを見つめた。

  * * *

 真っ先に気を取り直したのは、兄弟の中で一番聡いクロルだ。

「そっか……だから兄さんは、魔女を探してたんだね」

 一見冷ややかで、誤解されやすいクロルの視線。
 目をそらさず真っ直ぐ見つめ返すと、そこにはちゃんと温かみが混じっていることがわかる。
 こくりとうなずいたエールに、まだ理解できないという表情で、首を傾げる残りの3人。

「ごめん……ちゃんと説明するよ。俺は昔、魔女のかけた召喚魔術の贄になったんだ。その魔術は失敗して……俺の魂には、呪いが残ってしまった」

 失敗した召喚魔術の副作用……いわゆる”呪い”を解くためには、贄または魔術をかけた本人の命で購わせるしかない。
 つまり、魔女を探し出して命を差し出させれば、エールは助かるのだという。

 サラは、話を聞きながら全身に鳥肌が立っていくのを感じていた。
 考えたのは、エールではない人物のこと。
 砂漠の国で、今もワガママに楽しく暮らしているであろう、あの少女のことだ。

 サラがこの和平交渉に失敗したら、それは駒が1つ無くなるというだけの話……そう思っていたけれど。
 今の説明が正しいなら、サラの召喚時に贄となったサラ姫の魂は、まだサラと繋がっている。
 サラが和平に失敗したら、サラ姫の魂には、呪いが……。

 そんな想像をして青ざめたサラの耳に、エールの説明が届いた。

「ただ、俺の場合は特殊なケースだった。全ての召喚魔術でそうなるとは限らない」

 ――ああ、良かった。

 ホッと息をついたサラは……どうしてもサラ姫を憎めない自分に気づいた。
 勝手な理屈で自分を呼び寄せ、こんな過酷な環境に追いやった張本人。
 恨んでもいいはずなのにと考えかけたサラは、慌てて頭を振ると、目の前の会話に集中した。

「特殊って、どういう意味で?」

 目元に浮かぶ涙をハンカチでおさえながら、ルリが質問する。

「カンタンな話だよ。本来なら召喚魔術は、召喚する本人と、贄、そして対象物の3つが必要なんだ。リグルも勉強しただろ?」

 真剣に聞いているように見えて、その実小難しそうな話にギブアップ寸前だったリグルは、弟と妹の冷たい視線を受けて、大げさにうなずいた。

「ああ、そのくらい俺にも分かるぞ。えーと、例えば力の強い精霊を呼び寄せるには、まず力の強い魔術師じゃなきゃダメで、贄……この場合は指輪とか杖か? これも相当レベルの高いのアイテムを使うこと。最後に対象物は、呼び出した精霊を閉じ込めるなら、器として耐えられる高純度な宝石とか、または精霊をぶつける攻撃相手。……だっけ?」

 いつも堂々としているリグルが、おぼろげな知識を自信なさそうに語る姿が妙に愛らしく……サラはくすりと笑った。

「そう、正解。良く出来たな!」

 エールの微笑みに、パアッと顔を輝かせるリグル。
 本当にカワイイ犬……いや、人だなとサラは思った。

 今度はエールにじゃれつき始めたリグルの腕を引き寄せ、がっちり拘束したクロルは、「さっ、話を進めてよ」と促した。
 エールは、一息に語った。

「俺に魔術をかけた人物は、俺を贄として、俺の体に召喚対象を降ろそうとした。普通は2つ用意すべき道具を、1つで済まそうとしたんだ。その結果、贄として消費される俺の魂と、召喚対象の器として残されようとする体が反発して……結果、俺は生きながらえたけれど、この呪いを受けてしまったんだ」

 再び、静まり返る部屋。

 エールの魂を餌に、エールの体を乗っ取る……。
 水や光とは全く異質な、そのおぞましい魔術に、サラは再び血の気が引くのを感じた。

  * * *

 何一つ余計なモノが置いていないリグルの部屋は、ガランとして広いため人の声が壁面に反響する。
 逆に全員が黙ると、余計に静けさを感じる。
 静寂を破ったのは、やはりクロルだ。

「ふーん、なるほどね。それで、エール兄に降ろされた精霊って、何?」

 話が佳境に入ってきたのだろう。
 クロルの質問に、エールは困ったように笑うと「どうしても言わなきゃいけないか?」と返し……全員がヘッドバンキングばりに、ブンブンと頭を縦に振った。

「ああ、分かった。もう全て話すよ」

 エールは立ち上がると、クロルの傍へと歩み寄った。
 そして絨毯の上にひざまずくと、クロルの華奢な手を両手でそっと包み、深々と頭を下げた。
 これは、懺悔の姿勢。

 突然自分1人に向けられた懺悔に、怪訝そうな表情を強めたクロル。
 サラが見たこともないくらい深い縦ジワが、クロルの眉間にくっきり現れている。
 そんなクロルの表情は見ないまま、エールは呟いた。

「お前にはいつか……俺が死ぬ前には、伝えなきゃいけないと思ってた」

 縁起でもない台詞だったが、笑い飛ばすには事態は深刻すぎた。
 クロルだけでなく、リグルにも、ルリにも。

「俺に降ろされたのは、精霊じゃない。死んだ人間の魂……これは、禁呪だ」

 一瞬ピクリと眉を動かしたものの、クロルは冷静に促す。

「へえ……一体誰の?」

 エールは閉じた瞼の端から、すうっと涙を流した。
 懺悔の姿勢を崩さぬまま、エールは告げた。

「それは、俺たちの父親だ……」

 サラにも、その意味が理解できた。
 ああ、そうだったのか。
 だからあんなに、エールは苦しそうだったのか……。


「その魔術をかけたのは、母さんだ。魔女は……母さんなんだっ!」


 嘘だと呟く、リグルの掠れた声。
 カタカタと指を震わせながら、落ち着こうと冷めたお茶を口に含むルリ。

 エールに手を取られたクロルは、一度瞳を閉じて……開いたときには、淡いブラウンの瞳に決意の炎を宿していた。


「そう……じゃあ、母さんはまだ生きてるんだ。そして、次の”器”のターゲットは、僕なんだね?」


 耐え切れなくなったルリの零した大粒の涙が、ティーカップの中にぽちゃりと落ちた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 シリアスからコメディ(今回は大好きな水戸黄門!)、さらに一気にシリアスへ……このジェットコースターな落差どーでしょう。ということで、魔女さんの正体暴露編でした。予想ついてた方も居たかもしれませんが、被害者と思った人物が実は生きてて、本当の犯人だった……ベタです。ん? なんだろう、またかまい達の夜っぽい設定だ。コメディあり、ラブありで、この話案外カマイタチがベースなのかも? ラストは「俺が魔女×4」「こんなに魔女は要らんやろ!」「マ」「女」(←人文字)という、超新塾風オチってのもアリですかね。(←やりかねない)
 次回、クロル君のラスト発言の意味、だいたい分かったと思うけどオサライします。その後、もう一回サラちゃん&エール王子の2ショット。プロポーズ大作戦、ついに完了? ※また更新遅くなってもーたー。反省。別の短編いじってたらつい遅くなり、こっちも何度か書き直してたら時間が……orz(短編の方もなかなかの仕上がり。いずれ公開しますねー)

第三章(13)光の乙女の祈り

第三章 王位継承


 突然倒れたエール。
 サラは、尋常ではないエールの様子に、冷静に対応しなければと深呼吸をして震える体をおさえた。

 最初は単に熱でも出たのかと思い、額に手を当ててみて……あまりの冷たさに驚いた。
 凍死寸前という人間が、こういう体温になるのではないかと思ったくらいだ。

 サラは、エールの名を大声で呼び、その青白い頬を何度か叩いてみたが、その程度ではエールが瞳を開くことは無かった。
 以前、馬場先生に教わった緊急時の対応を思い出し、サラはエールの首筋にそっと触れた。
 指先で脈を測り、耳を近づけて呼吸を確認する。

 かすかに感じる生命の炎。
 ただ、1秒ごとに脈も呼吸も少しずつ弱まっているような気がする。

 サラの心臓が嫌な音を立てて、エールの呼吸の音をかき消した。

  * * *

 エールを背負って移動できないかと考えたものの、意識を失ったエールの体は想像以上に重く、担ぎ上げたサラはひざから崩れ落ちた。
 サラの力では上半身を抱えて後ろ向きに引きずるのが精一杯だ。
 その行為が、エールの命をますます削るような気がして、サラは移動を断念する。

 エールをこの場所に残して、サラだけでもバラのテラスへ戻るという選択肢もあるが、ただでさえ方向感覚の無いサラが真っ直ぐ辿り着ける保障はない。
 また迷ったりしたら、最悪の結果になる。

「誰か……リグル王子! クロル王子! ルリ姫っ!」

 3人の名前を叫んだサラは、早く来てと願いながら、ふとエールの台詞を思い出した。
 時間が無い……エールが告げた意味は、このことかもしれない。
 これはきっと、彼の持病なのだ。

 サラは、助けを求めて喉が潰れるほどの大声を出しながら、エールをやわらかな芝生に横たえ、マントを脱がす。
 その下のあまりにやせ細った体に、サラは嗚咽を漏らしかけた。
 この世界の病気がどんなものかは分からないが、この体を見れば深刻さは分かる。

 ――だめだ、泣いてる場合じゃない!

 エールのシャツをまさぐると、小さなピルケースを発見した。

 持病ならきっと薬を所持しているはずという勘が当たった。
 サラは震える手で小さなケースの蓋を開け、落とさないように慎重に、真珠のようにきらめく小さな丸い粒を一つ摘んだところで……固まった。

 意識の無いこの人に、どうやって薬を飲ませたらいいんだろう……。

「エール王子! ねえ、起きて! 薬飲んで!」

 先ほどより容赦なく、エールの頬を何度も叩いたが、エールは微動だにしない。

 その唇を無理に開かせ薬を押し込もうとするが、エールの舌先に留まってしまう。
 せめて水があればと思ったが、サラもエールも手ぶらで来てしまったし、花壇に水道などというものはない。
 この世界は、魔術を使えない人間に厳しい。
 コップ1杯の水を呼ぶくらい、子どもでもできるというのに。

 サラは絶望しかけて……エールのシャツの胸に、ぽたぽたと落ちる水滴に気づいた。
 蘇ったのは、今と同じくらい水を欲していた、あの砂漠の旅。

 あのとき自分は……どうしたらいいと思った?


 サラはエールから体を起こし、自分の左手薬指を見つめた。
 夕日を受けて潤むブルーの瞳には、覚悟の色を浮かべて。
 魔力も腕力も無い、無力な自分にも、たった一つできることがある。

 サラは、自分の薬指に唇を近づけると、ほとんど跡が分からないくらいキレイに治ったその古傷に、思い切り噛み付いた。
 痛みは、ほとんど感じなかった。

 もっと……もっと要る……。

 心の中で呟きながら、肉を噛み切るくらいに、サラは歯に力を入れる。
 舌は苦く鉄くさい血液の味に満たされ、そのえぐみのある味から逃れようと唾液も溢れてくる。

 サラは、右手に握った薬を、自分の口の中へ。
 役目を果たした右手は、そっとエールの唇に触れ、無理やりねじ込んで口を開かせる。

 そのまま躊躇せず、サラは自らの唇を、エールのそれに押し当てた。

 サラの瞳から涙が一滴零れ落ち、エールの頬を濡らした。

  * * *

「サラ姫っ!」

 かすかなサラの悲鳴を聞き、広場へと飛び込んできたリグルは、目の前の光景が信じられずに立ち止まった。
 一足遅れて到着したクロルも、言葉を失った。

 目にしたのは、芝生の上に寝転んだエールに、深く口付けるサラの姿。

「サラ姫……」

 お気に入りのドレスが破れたのも気にせず、必死で駆けつけたルリ。
 立ち尽くす2人の奥に、サラを見つけた。

 エールから顔を離し、ゆっくりと顔をあげるサラの頬には、途絶えることの無い涙の筋。
 その唇の端からは、真っ赤な液体が零れ落ちた。

 その姿は、童話にでてくる魔女そのもの。
 エールの命を狙う、悪魔。

 硬直する3人に、サラは一瞬微笑み……目を見開いたまま大量の涙を溢れさせた。


「ねえ……どうしたらいいの? 薬を3つも飲ませたのに、エール王子は目を覚まさないの……」


 固まっていたリグルとクロルが、エールとサラの元へ駆けつける。
 まるで死人のように青ざめ、かすかな呼吸すら途絶えがちなエールを見て、クロルは瞬時に治癒魔術を発動した。
 ルリも2人に遅れて駆け寄り、クロルの脇から僅かに使える癒しの魔術でサポートした。

 二人合わせても魔力は少なく、エールの意識は戻らない。
 母親の血筋である王族特有の強い魔力は、兄弟の1人、このエールに偏ってしまった。
 クロルとルリの魔力が尽きてしまったら、リグルが担ぎ上げて王城へ戻るしか手立ては無い。
 それまで持ちこたえることができるかはわからないけれど。

 リグルには、癒しの魔術は一切使えなかった。
 2人の邪魔にならないよう、1歩2歩と後退りながら、リグルは思い出していた。

 それは、城に来る前のことだ。
 まだルリは赤ん坊だったし、クロルは生まれていなかった。

 子どもの頃から冒険が大好きだったリグルは、木に登ったり剣を振り回しては、何度も怪我をした。
 両親や大人の魔術師に見つかると、もう外へ出してもらえないと怯えたリグルは、怪我を隠し平気な振りをして家へ戻った。

 しかし、両親すら騙せたリグルの怪我を、兄は全て見抜いた。
 しょうがないなと苦笑しながら、いつも魔術で治してくれたのだ。
 日中、すでに魔術師としての訓練を受けていたエールは、リグルの治療に魔力を使いすぎて、翌日には熱を出してしまう。
 それでも両親には何も言わず、「魔力のコントロールくらい覚えなさい!」と、自分の代わりに怒られてくれた。

 リグルは、自分の目がおかしいと思いたかった。
 エールの命の炎が、弱まっていくのが見える。
 あと僅かで、消えてしまう。

「嫌だ……兄さん……」

 どんなにケンカしても、対立しても……失いたくない!
 リグルの瞳からは、いつの間にか涙が溢れていた。

 そのとき、淡く揺れるリグルの視界に、夕日を受けて輝く黒髪が映った。
 エールの傍らで声をかけ続けていたサラが、立ち上がったのだ。

「クロル王子、ルリ姫、試してみたいことがあります」

 発せられたサラの声は、鈴が鳴るような少女の声ではなく、低く澄んだ黒騎士のもの。
 ドレスの袖を破り捨てて左手に巻きつけ、もう片方の袖で乱暴に涙をぬぐうと、首元からネックレスを取り出し、あの指輪をルリに渡した。

  * * *

「ルリ姫、この指輪をつけてください。そして、2人で私に向かって、癒しの魔術をぶつけてください」

 意味が分からず戸惑う2人に、リグルは声をかけた。

「頼む……サラ姫の言うとおりに!」

 リグルの真剣な眼差しを受けて、サラは深くうなずく。
 自分1人には力がなくても、みんなの力を集めれば、きっと……。


 固く繋がれた、クロルとルリの手。
 もう1つの手のひらは、サラへと向けられている。

 永遠に続くのではないかと思われた、魔術の詠唱。
 現れたのは、水と風で起こされた癒しのシャワー。
 細かい水滴が、2つの手のひらからサラの体へと伸びていく。

 お守りは無いので、龍は現れなかった。
 しかし、そのシャワーを浴びたサラの体は、水面に映る真昼の太陽のように輝きはじめた。
 光は、サラが降ろした金色の龍の光を彷彿とさせた。

 先ほどは、魔女のように見えたサラ。
 光をまとったサラの姿は、今は壁画に描かれた女神のように見えて、3人は瞳を逸らせなかった。


 充分な熱を体にまとわりつかせたサラは、心で強く祈った。
 どうか、この人の命を救って欲しいと。
 しかし、熱はサラの体から離れず、ただ温度を上げていくだけ。

 やはり、無理なのか。
 自分の力では、術を放った相手につき返すことしかできないのか。
 目の前に、こんなにも救いたいと願う相手がいるというのに!

 体温が上昇し続けるサラの顔は真っ赤になり、大量の汗が噴出す。
 しだいに頭の中まで熱くなり、思考がまとまらなくなってきたサラは……考えるのを止めた。


「エール王子……ねえ、起きて?」


 ひんやりと冷たいエールの頬に手のひらを当てるサラ。
 冷たい体を抱きしめ、髪を撫で、頬擦りする。
 そして、乾いた唇に、もう何度目かの口付けを。


「――起きなさい!」


 サラの体から溢れる光が、サラの命を受けて、一気にエールへと流れ込んだ。

 そのの光は、すべての生命を癒す奇跡。
 3人は寄り添いながら、その奇跡を瞳に焼き付けた。

 周囲を真昼のように照らし、本物の太陽が放つ赤をかすませ。
 木々の葉は光を受けてざわりと音を立て、花々は朝を迎えたように次々と咲き誇っていく。
 空からは鳥たちが舞い降り、ピチュピチュと可愛らしい音楽を奏でた。

 癒しの魔術をサラに送り続けていたルリは、限界を感じてその場にうずくまった。
 続けて、クロルも。
 2人の肩を抱きかかえるリグル。


「あ、目が覚めたのね……良かった」


 涙でぼやける視界の中、苦しげに眉根を寄せてうめいたエールが、ゆっくりとその黒い瞳を開くのを、3人は瞬きもできずに見守っていた。

 エールが自力でその上半身を起こすのと入れ替わりに、傍らに跪いていたサラの体は、ゆっくりと地面に吸い込まれていった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 サラちゃん、エセ魔女っ子(吸血鬼?)変化→女神さま変化と頑張りました。作者は、目の前で人が倒れたらとりあえずパニクリます。泣きながら吹雪の中へ駆け出したトオルのように……(←かまい達の夜というゲームの、バッドエンドの1つです)しかし、魔術ができないとこの世界本当に不便だなー。サラちゃん、3人目のうにうにちゅー体験ですが、脳内では神聖な救命行為ということで、女子のエシレ姉さんと一緒にノーカウント処理されてます。あ、今回のタイトルは好きなアイドル真野えりなちゃんから。
 次回、エール王子がそんなに貧弱貧弱ぅぅぅ……だった理由が明らかに。同時に、魔女っ子の話もどろっと。※今日は更新遅くなってスミマセン!コタツでうたたねしてもーた……。

第三章(12)エールの苦悩

第三章 王位継承


 この国の王子たちは、みんな頑固だ。
 逆に言えば、みんなしっかりと自分の意思を持ち、それを貫き通すパワーを持っている。
 その結果、1つのモノを奪い合えば、こういうことになるのだ。

「ね、サラ姫? 結婚相手は僕だね?」
「いや、俺だよな? こいつより先に言ったし」

 すでに落ち着いているルリは、淡々とお茶のお代わりを淹れている。
 ドレスの染みは、エールの魔術であっさり取り除かれた。
 あわせて、テーブルクロスの染みも。

 サラは、それらの作業を一瞬でこなしてしまったエールに、尊敬の眼差しを向けていた。

 木に変装するだけかと思っていた木の魔術も、実は便利なものだった。
 エールが人差し指を一振りしただけで、どこからかねこじゃらし風の植物とシャボン草が飛んできて、お茶で汚れた生地をトントンと叩くように染み抜きし、その後水の魔術、風の魔術のコンボですすぎ&ドライ。
 良く考えたら、あの小さなナチルが領主館の家事を一手に引き受けられるのも、こういう手が使えるからかもしれない。

 エールはといえば、最初は弟たちに割って入ろうと頑張っていたが、今は椅子に座りなおしクールな表情で熱いお茶を飲みなおしている。

 無表情のように見えるけれど、本当は……。

「先に言った? たったの半日だよ? それだけで優先権主張するわけ?」
「ああそうだ。こういうことは早いもの勝ちだ」

 サラが都合よくスルーしてきた2人の会話に、突然エールが乱入した。

「そうか、だったら最優先権は俺にあるようだな」

 フードを外し、立ち上がったエール。
 長い黒髪が、風をはらんで揺れている。
 一重の奥の瞳が、傾き始めた太陽を受けて、強く光った。

 その目を見て、お互いの胸倉を掴みあっていたリグルとクロルが、素早く手を離す。
 一度うなずいたエールは弟たちから視線を外すと、その威圧的な瞳をサラへと向けた。

「サラ姫、正直に答えてください」
「はいっ!」

 のん気にクッキーをポリポリかじっていたサラは、緊張して背筋を伸ばした。
 無表情か、苦笑か、冷笑。
 その3つしか見たことがなかったサラに、初めて柔らかく優しい笑みが向けられる。

 感情があまり表に出ない人と思っていたけれど、もしかしたらこの人って……。

 怒ると……怖いタイプ?

「国王はさておき、この3人の中で一番早く、結婚の約束をしたのは誰ですか?」
「え、えっと……」
「忘れたなら言いましょう。君は一昨日の午後、俺の部屋に来て言ったはずだ。”俺と結婚したい”と」

 突然の爆弾発言に、リグル、クロル、ルリの3人は目を丸くしてサラを見つめた。
 サラは、必死でそのときの会話を思い出そうとする。

 そういえば、ぶち切れてアニマルモードになって、そんなことを言ったような、言わないような……。

「ということは、この兄弟の中での最優先権は俺にあるということで、よろしいですね?」

 サラの返事を待たずに、エールは優雅な身のこなしで椅子を避け、唖然とするルリの背後からサラの元へ。。
 リグルの次に背が高いエールは、サラに近づくと腰を屈め、耳元でささやいた。

「今から少し、二人でお話しましょう。いいですね?」

 有無を言わせぬ口調と、鋭い眼光に負けて、サラはうなずいていた。

  * * *

 テラスから連れ出されたサラは、昨夜と同じような展開に涙が出そうになった。
 うっそうと生い茂る森の最深部へ向かって、どんどん進んでいくエール。
 サラは、足元に生えた草木に注意しながら、ドレスの裾を摘んでちょこちょこと小走りで追いかける。

 懐かしの”2ショット”ってヤツに無理やり持ち込んだくせに、エールは思いやりのかけらもなく、長い足と風の魔術で、すべるように滑らかに進んでいく。
 徐々に引き離されていくサラは、もうドレスはいいやと手を離し、ダッシュで追いついた。

 そのローブの裾を掴もうと、手を伸ばしたとき……。


『ベシャッ!』


 ――転んだ。


「サラ姫っ!」

 一貫してサラに冷たかったエールもさすがに慌てて、倒れたままのサラを抱き起こす。
 幸い、やわらかい土の上だったおかげで、サラに傷はなかった。
 しかし、ドレスは悲惨な状態になってしまった。

 エールは、涙目で自分を見上げるサラに苦笑すると、再び木、水、風のクリーニング魔術コンボを披露した。


 バラ香りが完全に消えた頃から、別の花の香りが漂い始めた。
 テラスから茨の道を抜けたところに、小さな広場があった。

 敷き詰められた芝生に、木のベンチと、古いブランコ。
 周囲には色とりどりの花が咲き誇る花壇。
 まるで、楽園のような場所だった。

「とても素敵なところですね!」

 さっきまで泣きそうだったのに、あっさり機嫌良く微笑むサラを見て、エールは瞳を細めた。

「ここ、実は俺の隠れ家なんだ。子どもの頃は、良く家出してこのベンチで過ごしてたよ」

 エールは、風雨にさらされてくすんだベンチから砂埃を吹き飛ばすと、その上に腰掛けた。
 サラも、大人しく隣に座る。
 日差しに背を向ける角度だと、色白なエールの顔色はひどく青ざめて見えた。

「俺はずっと、逃げたていたかった……」

 ぽつりと呟いた言葉。
 隣に居るサラは、エールの視界に入っていない自分を感じていた。
 だからこそ、今漏らした一言は、エールの本音なんだと思った。

 両親を早くに亡くしてから、長男として兄弟を支えつつ、王位を狙ってきたというエール。
 その心労は、並大抵のものではないだろう。
 サラは、少し頼りなさげに見えるエールの手を握ろうとし……躊躇した。

 人の心に深く入り込もうとしてしまうのは、良くない癖だ。
 いつまでこの国に居るかも分からないのに。
 責任も、取れないのに。

「エール王子……私をここに連れ出した理由を、教えてくださいますか?」

 サラはなるべく事務的に聞こえるように、言葉を選んだ。
 エールは、驚いたようにサラの顔を見ると、少し皮肉げに笑った。

「別に。この場所を見せたかった。俺の妃となる女に、ね」
「ふざけないでくださいっ」

 明らかな嘘と分かる、エールの言葉。
 カチンときたサラは、隣に座るエールを睨みつける。

「私のこと、追い出す算段をしてるんでしょう?」
「今はもう考えてないよ」
「婚約者だっていらっしゃると!」
「ああ、書面だけ交わして1度も顔を見たことがない女がいたかもな」

 サラの疑問は、ことごとくかわされてしまう。
 この人は、とても賢い人だ。
 直球で質問したところで、まともな答えは返ってこないだろう。

 そういえば、こんな天邪鬼な人が1人いたなと、サラは思い出した。
 この王子は、弟子として天邪鬼も引き継いでしまったのかもしれない。

 そこまで考えて、サラは気づいた。
 自分を追い出すとか、戦争を続けるとか、師匠を憎んでいるような発言の裏には、きっと逆の気持ちが隠れていることに。

 サラは、ケンカ腰の態度をあらためた。
 クールダウンも兼ねて、大きく深呼吸すると、両手を木のベンチに当て、ヒールで歩き回って疲れた足をぶらぶらと揺すりながら考え込む。

 足を動かすたびに、ドレスの裾がまとわりついてうっとうしい。
 無意識にその邪魔な布を掴み、ひざが見えるところまでぐいっと持ち上げた。
 この世界に、ミニスカートというものが存在しないとも気づかずに。

 いきなり現れた、サラの細く引き締まった白い肌に、エールは目を見開く。
 淑女とは程遠いサラの態度に、エールは思わず呟いた。

「君……あの頑固な弟2人を、どうやって落としたの?」

 その瞬間、サラの片足から靴が脱げて吹っ飛び、傾斜のついた芝生の上を果てしなく転がっていった。

  * * *

 木漏れ日の色は、少しずつ赤みを増していく。
 あまりのんびりしている時間は無いだろう。

 それなのに、なぜかエールは笑いながら、自分の足でサラの靴を取りに行ってくれた。
 王子らしく一礼してサラの前にひざまずくと、どうぞお姫様とささやいて、そっと履かせてくれた。

 思わぬシンデレラプレイに、サラの頬も真っ赤に染まり……。
 エールの視線から逃げるように、横を向いた。

「なんだか、分かった気がするよ」

 サラを見上げながら、エールはくすくすと楽しそうに笑った。

「なっ、何がですかっ?」

 ありがとうも言い忘れたことに気づかぬまま、サラがぶっきらぼうに切り返すと、エールはその姿勢のままで告げた。

「弟たちが、君にプロポーズした理由が、ね」

 ええ、私にも分かりましたよ。
 こんな珍獣は、王子たちの周りには1人も居ないでしょうから、よほど物珍しかったに違いありません。

 不満げに口を尖らせるサラを、エールは面白そうに見つめる。
 その視線が、再びサラの足元へ落とされた。

「君に言われたことを、あれからずっと考えていた」

 サラは、エールの口調が変わったことに気づき、表情を引き締めた。
 サラの足元にうずくまり、視線を落としたエールの顔は見えない。
 またドレスが汚れるのも気にせず、サラはベンチから降りると、エールの傍にしゃがみこんだ。

「君は、俺に”私怨”と言った」

 艶のある真っ直ぐな黒髪が、風になびく。
 また怒りの感情が表れたのかと思ったが、覗き込んだエールの瞳は影り、暗く沈んでいた。

「その通りだと思った。俺のすべては、あの女に縛られていると。そこから逃れるためなら他人を犠牲にしてもかまわないと」

 エールの言葉を真剣に聞いていたサラは、その手が小刻みに震えていることに気づいた。
 無表情の奥に隠された、エールの葛藤。

「だけど、俺は止まれない。あの魔女を、探し出すまでは……止まることは、許されないんだ」

 ギリ、と噛み締められたエールの唇。
 皮膚が切れ、血が滲んでも止めない。

 エールになら、瞬きする間に治せるはずの傷。
 この人はいつも、こうやって自分の体を傷つけてきたのかもしれない。
 戒めのためなのか、他の誰かを傷つけたことへの懺悔なのか。

 自分の母親を殺したという魔女……2代前の筆頭魔術師を、エールは探しているのだ。
 自分のすべてをかけて。

 だとしたら、私は出来る限り協力する。
 もし魔女が砂漠に隠れ住むとしても、戦争で奪い取る以外に見つける方法はあるはずだ。

 サラの決意は、エールの次の台詞で覆された。


「俺には、もう時間があまり、ない……」


 うずくまっていたエールが、その体をぐらりと傾けていく。
 サラはとっさに腕を伸ばしたが、指先がマントに掠るだけだった。

 やわらかい土の上に倒れたエールは、唇から血を流したまま意識を失っていた。


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 サラちゃんモテまくり竹内まりやワールドから、一気に急展開となりました。しかしネルトンって、何才くらいまでの読者さんに通じるのかしら……ツーショットとか、書いてて懐かしさに涙が。(←自分の年を実感……哀切)こんな風に強引に連れ出したら、タカさんもキャメラも黙ってないっすよー。しかし、ネルトンでは強気に出たもん勝ちって面も。なんだかんだ、いつもは小生意気な弟たちも、本気になったエール君には逆らえません。当然、優柔なサラちゃんも。
 次回は、サラちゃんパニクりつつも頑張ります。目の前で命の危機が発生したら、もうなりふり構ってらんないですよね。ねー、あおいちゃん?(←ナ○スあおい好き)

第三章(11)波乱のお茶会スタート

第三章 王位継承


 その朝、1時間ほど早起きしたルリ姫。
 眠い目をこすりながら侍女を呼び出し身支度をすると、サラの部屋を訪れた。
 おかげで、今日の髪型は横髪だけを編み込み花飾りで止めた、一番シンプルなもの。
 化粧もほとんどしていない。

 早朝を狙ったのは、昨夜リコというサラ姫の連れてきた侍女から、「特にイベントの無い日は、この時間なら比較的マトモなサラ様にお会いできますよー」と聞き出していたから。
 それでも、ルリは若干びくついていた。

 サラの部屋をノックしようとして、右手を握り締めたまま少し考える。

「ちょっと……ちょっとだけ」

 ごめんなさいと呟くと、サラの部屋のドアノブをゆっくりと回した。
 いつもどおり、鍵はかかっていないようだ。

 少し東向きなサラの部屋。
 薄く開けられたドアの隙間から、ほのかに明るい光が差し込んで来た。
 これなら、部屋の中にいるサラには気づかれないだろう。
 ルリは、少しずつドアを開いていく。

「……ち……に……ん」

 耳に届いたのは、魔術の詠唱に似た声。
 今までほとんど聞いたことのない、苦しげなあえぎ声交じりの、サラの声だった。

 この中で、何か恐ろしいことが……。

 震える手で、もう少しだけドアを開いて、片目で室内を覗き込む。
 夜明け直後の淡い朝日を受け、サラのシルエットがうっすらと確認できる。

 サラは、床の上にうつぶせで寝かされ、両手を背に回して頭を持ち上げた……なんとも奇妙な姿勢だった。

 これって……。

 ――魔術で、拘束されている?


「サラ姫っ!」


 部屋の扉を開け放ち、飛び込んだルリ。

「きゅうひゃくにじゅうなな、きゅうひゃくにじゅうは……あれっ、ルリ姫、いつのまに?」

 寝巻き用ワンピース姿のサラは……背筋を鍛えていた。

  * * *

 呆然と佇むルリの脇を、侍女服のリコが「あ、いらしてたんですね。おはようございまーす」とにこやかに声をかけながらすり抜けて、濡れタオルで手際よくサラの汗をふき取り、定番の黒いドレスを着せた。

「それにしても、今日は朝から激しすぎですよ。また何かあったんですか?」

 サラの短髪を器用に結い上げながら、リコは質問する。
 一度風呂に入ったらいいのではないかというくらい、サラの体からは汗が噴出していた。

 リコにはお見通しだった。
 サラがストイックに自分の体を痛めつけるときは、何かあったときなのだということは。

「うん……夕べ、ちょっとね……」

 曖昧に答えたサラは、怪訝そうな表情のリコから目を反らすと、ドアの前で立ち尽くしているルリに声をかけた。

「あっ、そういえばルリ姫!」
「な、何かしら?」

 唐突に声をかけられ、気を取り直したルリが、緩んだ口元を引き締めながら王女の微笑みを見せる。

「私が……筋トレ1000本やってるの、リグル王子には絶対内緒ですよ?」

 あの試合の後、サラは黒騎士魂に火がついていた。

 緑の瞳の騎士にも、リグルにも、勝てたのは運が良かっただけだ。
 正統派の打ち合いでも、負けたくない。
 いつか、リグルには再試合を申し込まなければ。
 黒剣を取り戻して、リグルにも自分の聖剣を持ってもらって。
 もしそれで負けたとしても、我が人生に悔い無し。

 サラが自分の野望を熱く語る姿を、うっとりと至近距離で眺めるリコ。
 再び口元をゆるめ、ぼんやりと虚ろな目で見つめるルリ。

 果てしない夢を熱く熱く語り終えたサラは、もう1つの裏目標も心の中で確認する。
 
 腕立て伏せだけは、もう少しノルマを増やさなければ。
 ダンベルを取り入れてもいいかもしれない。
 この間、騎士たちの倉庫にいくつか使えそうなアイテムが転がっていたから、今度リグルかバルトに言って、貸し出してもらおう。


 昨夜の肝試し……よりも、クロルの”弟疑惑”に思いのほかダメージを受けていたサラは、ルリ姫のドレスの胸元をチラリと見て、アレで1才差かと呟いた。

「ところで、ルリ姫は普段どんな食生活を……」
「ああ、私ようやく理解できました」

 サラの質問を遮ると、ルリはいつもの妖精スマイルを浮かべた。

「あなたが、珍じゅ……とても稀有な存在だってこと」

 一瞬失礼な単語が飛び出しかけたものの、笑顔で上手に取り繕ったルリ。
 リコは、ルリが言いたかったことをなんとなく察し、サラへと同情的な視線を送った。

「ときにサラ姫、今日の午後は何かご予定があるのかしら?」

 サラが、リコの顔を見ると、リコは首を横に振る。

「特に決まった予定は無いみたいです」
「じゃあ、あなたには来ていただきたいところがあります」

 ルリが告げた場所は、国王お気に入りの花畑があるという、城の中庭だった。

「今日は、毎月恒例のお茶会です。あなたを特別ゲストとしてご招待いたします」

 丁寧に用意された詳細地図付きメッセージカードを受け取りつつ、サラは思った。
 このお茶会でも、なんだか一波乱ありそうだと。

  * * *

 午後3時。
 ガッツリ勉強し、お昼ごはんをモリモリ食べ、ちょっと昼寝をしてきたサラの体調はすこぶる良好。
 何があっても耐えられる……いや、耐えなければと心に近い、その花園へ足を踏み入れた。
 人よりずっと背の高い木が多い茂り、果実や木の実も栽培されているそこは、小さな森と言っても過言ではない。

 どうやら、森の中にバラが咲き誇るテラスがあり、そこが4人で行う定例お茶会の場所らしい。

 サラは、渡された地図の通りに進んだはずが……何度も曲がる場所を間違えた。
 森を『ダンジョン』と名づけ、マッピングしつつ進んでいったことで、やや日が傾きかけた頃にようやく目印のバラ園に辿り着いた。

「ごめんなさい、遅くなりましたっ!」

 適度に日差しが当たるその場所には、テラコッタタイルが敷かれ、白いラウンドテーブルが置かれている。
 テーブルの上には、レースのテーブルクロス。
 広げられた数種類のお菓子とサンドイッチ、ティーポットにカップ。

 なかなか本格的なアフタヌーンティっぷりだ。
 これらはすべて、ルリ姫が用意したという。

「あら、サラ姫、遅かったじゃない」

 ルリは立ち上がると、サラの手を取り空いている席へとエスコートしてくれた。
 サラはペコペコ謝りつつ席に着くと、ルリ姫が淹れてくれる紅茶の、甘い花の香りを思う存分吸い込んだ。

 ――うん、落ち着いた。

 サラの右隣には、ティーカップを差し出してくれたルリ姫。
 左隣では、クロル王子が微笑んでいる。
 そして正面やや左手には、硬い表情のリグル王子。
 正面右側に、無表情のエール王子。

 サラが紅茶を飲む姿を、やけに真剣に見つめるクロル。
 満足したように頬をゆるめながら、サラがカップをソーサーに置いたタイミングで、クロルは話しかけた。


「サラ姫、昨日は怖がらせちゃってゴメンね?」
「あっ……うん、平気」


 サラは、落ち着いたはずの心臓が騒ぎ、頬が熱くなっていくのを感じる。

 昨夜、サラの左手に口付けた後から、クロルの態度は明らかに変わった。
 それまでの、気まぐれな洋猫のような態度から……理想の王子様に。

 魔女の部屋を出て、後宮の入り口まで送り届けたクロルは、本当に優しくて優雅で。
 別れ際には、サラの手に再びキスをして、極上の笑みを浮かべながら、サラが部屋に入るまで手を振っていてくれた。

 あれは、やばかった。
 今もやばいけど……。

 無駄にキラキラした王子スマイルを真横から向けられ、サラは初めて自分が女の子たちにどんな罪深いことをしてきたかを自覚した。
 そんなクロルの笑顔とサラの態度を見て、明らかに不審がる3人。

「おい、クロル……お前昨夜サラ姫に何したんだ?」

 怖がらせたという単語から、どんなイメージをしているのか、リグルが攻撃的に瞳をきらめかせた。
 口篭るサラと対照的に、クロルは饒舌になる。


「ああ、そういえば言い忘れてたっけ。僕、サラ姫と結婚することにしたから」


 クロルはサラの左手を取ると、長い睫を伏せて顔を近づけ、皆の前で堂々と口付けてきた。
 サラはもう、顔を上げることができなかった。

「おっ……お前……いや、ちょっと待て。お前はまだ13だ。早まるな」

 自殺志願者を止める警官のように、リグルが言う。
 エールとルリは、お茶にむせてゴホゴホと咳をしている。

「あ、それね。もう問題ないんだ」

 クロルは、キラキラ100%王子スマイルで、サラの手をとったまま告げた。

「今日の午前中で、法律変えてきたから。結婚は、男子に限り年齢制限無しになったよ」

 女の子の年齢制限は、幼女趣味持ちがいるからなかなかねー。
 本当は、結婚時の年齢差は20才までって盛り込みたかったんだけど、父様が目敏く見つけて却下されちゃったよ。


「だから、サラ姫。僕と結婚しよっ。今日にする? それとも明日?」
「ダメだ! サラ姫は俺の嫁だ!」


 椅子を倒しながら勢いよく立ち上がったリグルが、サラの手を撫でていたクロルの胸倉を掴み、強引に引き離す。
 クロルは乱暴な兄の行動にもまったく動じず、冷笑を返すのみ。
 珍しく慌てた様子のエールが、二人の間に割って入ろうと動いたとき、うっかり自分のカップを倒した。
 テーブルクロスに染み込むお茶を拭こうとしたルリの、ピラピラしたドレスの袖口が、自分のカップにじゃぶっと浸かり、悲鳴があがる。

 こうして、柔らかな午後の日差しを受けた穏やかなティータイムは、サラの登場と同時に修羅場へと変わったのだった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 ちとスランプ気味なので、なかなか話進まずスンマセン……。とりあえず「ケンカをやめて~2人を止めて~」な、王道ラブコメ風にエピソードにしてみました。オタク……じゃなく職人系クロル君、思い込んだら行動力発揮します。というか、じわじわ囲い込み漁? 作者が以前、若くして結婚した友達(男)に理由を聞いたら「彼女の親に寿司をおごられた。2回連続」と言われて納得したことを思い出しつつ。あと、サラちゃんの筋トレ1000回は、大好きだった少女漫画のワンシーンから。『月刊きみとぼく』という超マニアックな雑誌で連載してた……あー、マンガの話は長くなっちまう。その辺の情報、日常ブログに書いておきます。
 次回はお茶会後半戦。弟2人にやられっぱなしのエール王子、そろそろ逆襲に入る……かも?

第三章(10)嘘をついてはいけない

第三章 王位継承


 サラには、苦手なモノが2つある。
 1つは、夏に良く現れる黒い虫。
 もう1つも、夏の風物詩といわれるもの。

「クロル王子……待って……」

 お約束な『ギギギギギ……』という蝶番のきしむ音。
 クロルの魔力と腕力ギリギリで開かれた重い鉄製ドア。
 その向こうには、完全な暗闇が広がっている。

「嫌なら1人でここにいたら?」

 躊躇せず、すたすたと入っていくクロル。
 サラは手を離すことができず、引きずられるように室内へ足を踏み入れた。

  * * *

 月明かり一筋すら届かないこの闇は、部屋に窓が無いせいだ。
 どのくらいの年月閉ざされていたのか、強烈なカビ臭が鼻につく。
 サラは、クロルのシャツを握っていない手で自分の鼻と口を抑えたが、焼け石に水だった。

 隊長……菌が……今まさに肺胞に到達しました……。

 震えるサラが、ミクロの決死圏な妄想をしているのと正反対に、クロルはやけに明るい声を出す。

「へえ……初めて入ってみたけど、案外広いんだなあ」

 クロルは、好奇心いっぱいで部屋の中を見渡した。
 図書館のある塔と作りは同じなので、その最上階と考えれば妥当なのだが、本が置かれていない分だけ広く感じる。
 元々通風孔があったのか、壁の高い位置には定間隔で鉄板が打ちつけられているが、その板も錆びてボロボロだ。
 天井にも壁にも、他には何もない。
 通常取り付けられるはずの蝋燭立てすらない。

 図書館は、本が傷まないようにと、なるべく日光を排除されるのは分かるが、この場所は……。


『幽閉』


 その言葉が浮かび、クロルは一人うなずいた。
 地下牢には入れられないような重要人物を、ここに閉じ込めていたのだろう。
 命の危険にさらされた人物が、逃げ場として使っていた可能性もある。

 王族の住むエリアの奥……つまり、厳重な警備を通り抜けた先にあるのも、開かずの間として長く放置されていることも納得できる。
 国王のみが、この部屋の鍵を持っていたことも。

 少なくとも数年は、ここが使われた形跡はなさそうだが……。
 もしくは、使えなくなった理由があるのか?

 手のひらの炎にはめいっぱい力を注ぎ込んでいるのだが、いかんせん魔力が弱く、アルコールランプ程度の大きさにしかならない。
 腕を伸ばして、炎を四方の壁際へと向けながら、より奥へと歩みを進めていく。

 サラの視力は、両方2.0だ。
 見たくないと思いながらも、顔を覆った指の隙間からつい見てしまった。
 部屋の奥の壁に残る、黒ずんだ汚れを。


「いや……あっちはいや!」


 サラが思いきりシャツの背中を引っ張ったので、クロルは首がしまった。

「ちょっ……僕のこと殺す気?」
「ごめん。でもやだ……やなの」

 本気で嫌がるサラに、クロルはしぶしぶ部屋の中央で立ち止まった。
 自分を掴むサラの手を「とりあえず、歩きにくいから一回手を離して」と言い、サラに向き直った。
 怯えきったサラはしばらく抵抗したが、「灯り消すよ?」と言われ、慌ててクロルのシャツを離した。
 代わりに、クロルの手をガッチリ握る。

 1人で部屋の奥へ進むつもりだったが、サラが一緒では無理らしい。
 クロルは、手汗でびっしょりになったサラの手を握り返しながら、苦笑した。

「何をそんなに怖がるの? ただの部屋だよ。何も置いてないしさ」

 まがりなりにも年下のクロルがあっさり言ったので、サラはそうよねと呟くと、無理やり笑顔を作った。
 その顔が見事に引きつったブス顔だったので、クロルはプッと噴出した。
 クロルは、あえてサラの嫌がりそうなことを言ってみる。

「あーあ、魔女の部屋って言うからには、拷問道具でもあるかと思ったのに」
「やめてよっ……」

 クロルが発言するたびに、サラはその距離を縮めていく。
 手を繋ぐだけから、腕組みし、より密着する形へ。
 今なら抱きしめても何も言わないだろうなコイツ、とクロルは思って……我に返る。

 ――なんで僕が、この女を抱きしめなきゃならないんだ?

「おい、サラ姫の弟!」
「はいっ!」

 思わず元気よく返事したサラに、クロルは意地悪げな表情を浮かべた。

「この部屋で起きた事件のこと、キミは知ってる?」

 ぷるぷると、大きく首を横に振るサラ。
 炎に照らされ、サラの短い黒髪が跳ねるたび光を放つ。
 この髪が伸びたら、エール兄より綺麗かもしれないとクロルは思った。

「これは、古参の侍女から聞いた話なんだけれどね……」

 クロルは、妙にゆっくりとした低い声色で、語り始めた。

  * * *

 まだこの大陸が、平和だった頃の話。

 国王ゼイルの弟には、親衛隊と呼ばれる7人の守り手がいた。
 当時の魔術師たちから、力の強い順に選ばれた7人。
 筆頭魔術師は、女だった。

 それは、国王が精霊の森を攻略し、国民を引き連れて凱旋した夜のこと。
 英雄となった国王を追い出したという事実が、王弟たちを追い詰めていた。

 国王に入城を許す前に、魔術師たちと王弟はいつも謀をするこの部屋に集った。
 女魔術師1人を除いて。

 少し遅れて呼び出された女魔術師は、王弟から残酷な宣告を受けた。

「兄を陥れる策略を考え、実行したのはすべてお前だ。反逆罪でお前を処刑する」

 女魔術師は、なぜと泣いた。
 彼女は、王弟を愛していたからだ。
 そして、王弟も彼女に愛を告げていた。

「それは、お前の真名を手に入れるため……お前を操るための嘘だよ」

 王弟と6人の魔術師は笑った。
 そしてこの部屋で、女魔術師は王弟に殺されてしまった。

 死ぬ間際に、女魔術師は呪いの言葉を1つ残した。


『私の魂は永遠にここへ留まる。この部屋で嘘をついた者は、無残な最期を遂げるだろう』


 その後王弟と6人の魔術師は、数年ぶりに戻ってきた国王と面会した。
 兄弟の対立を仕掛けた人物が判明したため、その者を処分したと告げて、あらためて英雄となった兄に忠誠を誓った。
 もちろん、それは真っ赤な嘘だった。

 その日の深夜、事切れている王弟と6人の魔術師の遺体が発見されたという。

 この塔は封鎖され、この部屋は開かずの間と呼ばれるようになった。

  * * *

 クロルの腕がしびれるほど、強く抱きついていたサラ。
 聞きたくないけれど、聞かなければならない、重要な話だった。

「じゃあ……魔女というのは、もう亡くなった人なのね?」

 サラはかすれる声で問いかけて、1つの矛盾に気づいた。
 確か国王の姉、クロル王子たちの母親も、魔女に殺されたという話だったような?

「それがね、この事件にはもう1つ、有力な説があるんだ」

 クロルは、怖がりながらも食いついてくるサラに、くすりと笑みを漏らした。

「殺されたはずの女魔術師の遺体は、見つからなかったそうだ。つまり、死ななかった可能性がある」

 サラの体にびっしり立っていた鳥肌が、ようやくおさまった。
 やっぱり、生きている人より死んだ人の方が、断然恐ろしい。
 霊には対抗できないけれど、生きている人相手ならなんとかなるかもしれないし。

「呪いではなく、実際に王弟たちに手を下して復讐したとしても、女魔術師がその後どうなったかはわからないけどね。しばらく王城内に隠れて、暗殺者として生きてたって話もある。そのターゲットには、王の姉……僕の母親も入っていたっていうけれど、それはどうかなと思うよ」

 クロルの口調が、少しだけ柔らかくなった。

「理由はね、魔女の呪いが振りかかったのは、王に仇なす者ばかりだったから。王弟を担ぎ上げようとした残党とか、邪な理由で王妃の座を狙う女とかね」

 ある意味、父様にとってはキツイ呪いだったのかもね。
 自分の婚約者が、次々と死んでいくんだから。
 おかげで父様はずっと独身だし、迂闊に妾も作れない。

 赤く揺らめく光に照らされて、冷笑するクロル。
 サラは、なんだか話の雲行きが怪しくなっていくのを感じた。

 国王の婚約者って、もしかして……?


「そう、キミはもう、魔女の呪いを受けているんだ……」


 だから、近づくなって言ったのに。
 キミは夕べ、国王と2人で会ってしまったんだってね。

 フフ……と不気味な声色で笑いながら、クロルは手のひらの炎を消した。
 暗闇の中、クロルの限りなく低い声が響く。


「この部屋で、嘘をつく事は許されない。さあ、キミの……」


 話を続けようとしたクロルは、自分の腕にかかっていた重みが突然無くなるのを感じた。

 サラは、クロルの足元にパッタリと倒れていた。

  * * *

 熟睡していたサラは、ほんのりと温かいものが、自分の頭の下にあることに気づいた。

 ああ、湯たんぽだ。
 湯たんぽ枕なんて珍しい。
 ちょっと固いけど、悪くないな……。

 寝返りを打とうとしたサラの耳元に、不機嫌な低い声が届いた。

「ねえ、いい加減に起きてほしいんだけど?」

 そこは、記憶に新しい魔女の住む部屋。
 サラが枕にしていたのは、クロル王子の太ももだった。
 サラは、ドレスの袖で口元の涎をぬぐいながら飛び起きた。

「ゴメンナサイ! 夕べあまり良く眠れなかったから……」

 クロルの話を聞いていて、恐怖のあまり気を失った。
 それなら、まだいい。
 可愛らしいと言えなくもない。

 しかし、真実はいつも1つ。


『昨日の寝不足がたたって、話の佳境でうっかり寝入った』


 我ながら、失礼にもほどがある。
 しかも、ちゃっかりクロル王子に膝枕までしてもらい……そのズボンに涎まで垂らすなんて……穴があったら入りたいとはこのことだ。

「でも、ちゃんと話聞いてたからねっ。私、国王様にヨコシマな気持ちで近づくつもり無いし、ダイジョブダイジョブー!」

 ははっと乾いた笑いを浮かべるサラを、クロル王子はむっつり膨れて睨んだ。

 どうしてこの女は、こうやって自分の思惑を裏切りまくるのだろう。
 このコントロール不能さは、リグル兄以上だ。
 目を閉じていれば、それなりに見られるのに……。

 クロルは、すやすやと眠り込むサラを、ずっと見詰めていた。
 初めて見たその無垢な寝顔は、とうてい男には見えなかった。
 これまで、長い間黒騎士として過ごしてきたというし、男らしいしぐさや態度が癖になっているのかもしれない。

 こんな風に鋭い目つきじゃなくて、もっと笑えばいいのに。

 クロルは、また変なことを考えている自分の頭をぶんぶん振ると、苛立ちをぶつけるように言った。

「それで? 結局キミの正体は何なの?」
「だから言ったじゃない、弟じゃないって」

 時間にすると数分程度だが、熟睡したことでサラの頭はスッキリしていた。
 この部屋では、嘘をつかなければいいのだ。
 だとしたら、私は嘘をついていない。

「質問を変えるよ。キミの目的は何?」
「それも言ったよ。和平を成し遂げることだってば」

 本格的に苛立ってきたクロルは、つい勢いで聞いた。

「じゃあキミは、リグル兄が……好きなの?」

 少し余裕を取り戻していたサラは、再び追い詰められる。

 この部屋では、嘘をついてはいけない。
 私は、リグル王子のことを……。

「――うん、好き」

 澄み渡る空の下、熱情を込めて自分を見上げていたあの瞳。
 サラは、リグル王子の告げた言葉を思い出し、吐息をついた。

  * * *

 クロルは、その返事を予想していたはずだった。
 それなのに、心臓を鷲掴みにされたような衝撃。
 胸の痛みに気を取られて、うっかり手のひらの炎を消してしまった。

 再び、部屋は暗闇に包まれる。
 静寂の中で、サラの小さな声が響いた。

「でも……クロル王子も、好きだよ」

 クロルは、炎を出せなかった。
 自分の顔に、血が上っていくのを感じていたから。

「なっ、何言ってんだよっ!」

 暗闇の中、サラの表情は見えない。
 分かるのは、繋がれた手のぬくもりだけ。

「クロル王子は、私の望みを叶えてくれる?」

 クロルは手のひらを開き、小さな灯りをともした。
 先ほどまで熱かった自分の感情が、冷たい炎となり燃えているような気がした。

 こいつも、他の女と一緒か。
 自分に擦り寄って、利用しようとするのか。


「ただ和平に協力してくれるだけでいい。結婚相手は誰でもいいの……なのに……」


 瞬きしたサラの瞳から、こぼれ落ちた雫。
 クロルの気持ちは、また反転した。

 サラがなぜそこまで思い詰め、涙を零しながらも和平を求めるのかは分からない。
 ただ、願いの行き先を見届けてやってもいいような気がした。

「その相手は、リグル兄じゃダメなの?」
「うん……多分、ね」
「理由は?」
「私には、本物の王妃になる資格は無いから……」

 その返事で、クロルはサラがどんなことを言われたのか、理解できた気がした。

 やっぱり、リグル兄はこいつに惚れたんだ。
 パーティの時から、様子がおかしかったもんな。
 その前に、決勝戦で黒騎士が顔を見せたとき……いや、あの予選を見ていたときだって、リグル兄の視線はこいつに……。

 それは、僕も一緒……か。


「いいよ……僕が、結婚してあげる」


 再び消された、小さな灯り。

 クロルは握られたままのサラの左手を両手で包むと、ゆっくりと引き寄せ、羽が触れるように軽く口付けた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 クロル王子とお化け屋敷……ただのスキンシップ過多なイチャイチャデートのはずが、ラスト意外な方向へ転がりました。これまだ隠れ家デートの翌日なんだよなー。たった2回のデートでクロル君ゲットか。早すぎ? ありえへん世界すぎ? ま、リグル君に比べるとそんなにヘビーではないプロポーズでした。ヘビーすぎると引かれるという好事例。でも国王様&クロル君、一見ライトに見えて実は一途なので、この先どーなることやら。魔女っこの正体も出てきたけど……侍女の噂ってとこが信用ならないなと、作者も思いつつ書いてます。そうそう、「ミクロの決死圏」は人間がミニサイズになって体の中を探検するという古い映画です。細かすぎて伝わらないボケが多くてスンマセン。
 次回は、ルリ姫主催の王族限定お茶会にサラちゃん飛び入り参加。弟2人のプロポーズ話聞いて、クールぶってるエール王子の嫉妬心にも火がつくか?

第三章(9)魔女の住む部屋へ

第三章 王位継承


 リグル王子がサラに求婚したという噂は、その日のうちに王城全体に広まった。
 怒り心頭でサラの部屋に飛び込んできたルリ姫は、脳みそが耳から漏れたようなサラの態度に、なぜか「大丈夫よ」と励ます側に回ってしまった。

 夕方になっても、戦闘服姿のまま部屋の壁に頭をのめり込ませるように寄りかかりながら、「あー」「うー」と意味不明な声を出しているリビングデッドなサラに、肝っ玉ばあさん侍女デリスから、新たな指令が下った。

「サラ姫様。クロル王子から夜食のお誘いでございます。とっととお風呂に入って、ドレスにお着替えくださいませ」

 デリスに付き添っていたリコは、すっかり手下として洗脳されたようで、「さ、サラ姫様行きましょっ!」と、サラの体を遠慮なく引きずっていった。

 * * *

 サラが呼びだされたのは、図書館の隠れ家ではなく、クロルのプライベートルームだ。
 クロルの部屋に自由に出入りできるのは、リグル王子とルリ姫だけ。
 教育係のデリスはもちろん、クロル王子お気に入りの賢くつつましい侍女ですら、無断で入ることは許されないという。
 クロルの部屋は、侍女たちから密かに”秘密基地”と呼ばれていることを、サラはデリスに引きずられながら聞いていた。

 しかし、秘密基地とは一体どんな部屋なんだろう……。

 デリスは、お風呂に入ってもまだぼんやりしたままのサラを、なんとか部屋の前まで連れて行き、倒れないように片腕で抱え込んだままドアをノックする。

「クロル王子、サラ姫をお連れしました」

 しばらく待つが、返事が無い。

 失礼いたしますと口に出しつつも、デリスがドアの下部を蹴飛ばした。


『ピコンピコンピコン』
『ウィーン……』
『キュルキュルキュルッ……カチリ』


 お役ごめんと、デリスはドアの奥に居るであろうクロルに会釈し、さっさと引き返していった。
 サラは、デリスの後姿を見送りつつ、その奇妙な音を聞いていた。

「やあ、いらっしゃい」

 自動的に開かれたドアの奥には、脚のクロスされたコンパクトな折りたたみ式ダイニングテーブルセットと、その奥に腰掛けたまま手招きするクロル王子。
 テーブルの上には、美味しそうな料理がのった大皿が7~8枚。
 暖色のランプに照らされた、白いレースのテーブルクロスが眩しい。

 美しいのは、そこまでだった。

 相変わらず美形オーラが眩しいクロルの背後には……部屋の天井まで達するほどの鉄くずの山。
 窓には一級遮光レベルのカーテンが引かれ、すぐそばには図書館から持ち込まれたらしい大量の本が詰まれている。
 カーテンを開けようものなら、盛大な雪崩が起こるだろう。
 ベッドルームへと繋がるドアも、積み上げられた本の奥にあり、その手前にはやはり折りたたみ式の簡易ベッドが置いてあった。

 サラは、クロルの性格がなんとなく理解できた気がした。

  * * *

 今日の夕食も、昨日と負けず劣らず豪華だった。
 昼食を食べ損ねたサラは、肉米肉米肉野菜の割合で、ジューシーな肉と炊きたてご飯をガツガツとかきこむ。
 大皿に盛られた肉の8割は、サラの胃袋へ。

 その姿を見て、クロルは辛らつに言った。

「サラ姫って、姫らしくないよね。むしろ完全に庶民だよね」

 はい、その通りです。
 イエスウィキャン。

 正直に答えかけたサラは、慌てて「姫です! どう見ても姫!」と否定した。
                                                
 演技がかったその台詞に、クロルは眉をしかめる。
 そして唐突に、今日呼び出した目的を告げた。


「あのさあ……リグル兄、どうやって落としたの?」


 お茶の次は、お米粒だった。

 サラの口から飛び出たモノを頭から浴びたクロルは、怒りを通り越した無表情で「あのへんの引き出しにタオルあるから、これ拭いて」と告げた。

  * * *

「これ片付けて」
「あっ、はい、クロル様」
「次はお茶」
「あっ、はい、クロル様」

 元々食の細いクロルだったが、サラのスプラッシュ攻撃により、食欲は完全に無くなった。
 サラをアゴでこき使いつつ、食事の片付けやお茶の用意、ついでに散らかった床のゴミ拾いをさせ、その後肩をもませて、ようやく臨時メイド扱いから解放した。

 しゅんと背中を丸めるサラが、自分の淹れたお茶の香りにささやかな癒しを求める姿を、クロルは隅々観察する。

 今日の午後、前騎士団長バルト経由で文官長から聞かされたのは、信じられない話だった。

 あのリグル兄が、サラ姫にプロポーズした。
 しかも、騎士たちの前で「王になる」と宣言したという。
 クロルがどんなにけしかけても「俺には無理だよ。国王にはエール兄がなるべきだ」と譲らなかったのに。

 クロルは、サラがごくりとお茶を飲み込んだタイミングを見計らい、先ほどの話の続きをする。

「ねえ、さっきの質問。リグル兄に何したの?」

 ゴホゴホと咳き込むサラは、少し日に焼けたて赤くなった頬を両手でおさえる。

「別に、私は何も……」
「何もしないで、あの頑固なリグル兄が考えを変えるとは思えない」

 訝しげなクロルの視線を受けて、サラはテーブルの影に少しでも隠れようと、ますます猫背になる。
 無駄な抵抗だと言わんばかりに、クロルは身を乗り出してサラを睨んだ。

「色仕掛け……なわけないよね。キミ、色気なんて全然無いし」

 はい、その通りです。
 イエスウィキャン。

 縮こまって貝になるサラに、クロルは諦めのため息をついた。

「でもいい仕事したよ。僕はずっと前から、リグル兄が次期国王に相応しいと思ってたからさ」

 リグルは、自分のことを知らな過ぎる。
 あの明るさも、行動力も、優しさも、強さも……何もかもが、国民の望む国王像に当てはまるということを。
 そして、父王であるゼイルも、密かにそれを望んでいることを。

「あの、クロル王子……聞いてくれる?」

 一人納得しようとしていたクロルに、サラはおずおずと話しかけた。
 その表情が、やけに憂いを帯びているように見えて、クロルは首を傾げる。

「私、本当は……結婚なんてしたくない」

 このまま2人が結婚し、リグルが国王となれば、不穏な動きを見せている魔術師勢力を抑えることができる。
 そのシミュレーションに、サラの気持ちが含まれていないことに、クロルは初めて気づいた。

 ごめんなさいと頭を下げたサラは、明快な理由を求めるクロルに「誰にも言わないで欲しい」と前置きして、そっと告げた。


「私が欲しいのは、和平だけなの……この国の王妃には、なれない」


 本当なら、リグルに対して告げるべき言葉だった。
 または、国王に対して。
 今こうして内緒話のように暴露したのは、懺悔の代わりかもしれない。

 リグルの想いが、自分の心を動かしたから。

 あのとき、リグルは国王になるべき人物かもしれないと思ってしまった。
 自分が彼を選べば、それが簡単になされるのだとわかっていた。

 でもきっと、リグルが求めるのはそういうことじゃない。
 偽装ではない、本物の結婚なのだ。

「ふーん。それで?」

 クロルが返してきたのは、冷静な一言。
 くっきりとした二重の瞳を猫のように細め、腕組みしながらサラを見詰めている。
 長めに伸ばした前髪の隙間からのぞく薄茶色の瞳が、すべてを見透かすように光った。

「驚かないの?」
「うすうす気づいてたからね」

 ニヤッと笑ったクロルは、次の言葉でサラを絶望に突き落とした。


「キミ、本当は男だろ。もしかして、サラ姫の双子の弟?」


 いいえ、違います。
 ノーウィキャント。

 サラは力を失い、くたりとテーブルに突っ伏した。

  * * *

 部屋を出たサラとクロルは、ある場所へと向っていた。
 人気の無い廊下を歩きながら、サラはまた転ばないようにスカートの裾を持ち上げながら、ちょこちょこと小走りでクロルの後をついていく。

 先ほど、双子の弟説を必死で否定したサラだったが、クロルから「じゃあ何者?」と聞かれて、思わず口ごもった。
 まさか異世界から呼ばれてきたなんて胡散臭すぎるし……なによりこれだけ敵味方が入り混じる中で、安易にニセモノとばらすことは危険だ。
 伝えるなら、自分の安全が保障され、なおかつ和平が成されるという確約の元でなければ。

 鋭いクロルはサラが何か隠していることに気づいたが、何も言わなかった。
 その代わりに、こうしてサラを連れ出したのだ。

 進んで来たのは、薄暗い石畳の塔。
 図書館のある塔とは、また別の場所らしい。

 薄暗い塔には明かりもなく、頼りになるのはクロルが手のひらから出している炎の魔術だ。
 それが、どう見ても人魂にしか思えず、サラはびくつきながらクロルに問いかけた。

「あの……どこに行くの?」
「教えない」

 スタスタと早足で歩くクロルを慌てて追いかけたサラは、炎を浮かべていない方の手を掴んだ。
 サラが履かされたヒールのおかげで、少しだけ背が低くなっているクロルは、突然握られた手にぎょっとしてサラを見上げる。
 傍から見ると、かなり恐ろしいガンつけ目線だが、サラはもう慣れてしまった。

「ねえ、もっとゆっくり歩いて?」
「分かったから、手離せよ」
「イヤ……」
「はあっ?」

 涙目のサラを見て、クロルは盛大なため息をついた。

 この男女とは、どうもかみ合わない。
 自分がこうして睨みつければ、たいていの人間は引くというのに。

「このままクロル王子が逃げたら、私ここで迷って、二度と自分の部屋に帰れないもん!」

 クロルは再びため息をつくと、一方的に掴まれたサラの手を、ちゃんと握手の形に握りなおした。
 ホッと笑顔になったサラ。

 その隙をついて……ダッシュ!

「クロル王子いっ……!」

 うわーんと泣き叫びながら追いかけてくるサラに、クロルは久しぶりに声を上げて笑っていた。

  * * *

 クロルのシャツの背中を掴んだまま、サラは大人しく着いていく。
 「シワになるから離せよ」というクロルの抗議も無視し、もう絶対絶対この手を離さないと主張して。

 クロルは、そんなサラの態度が面白くて仕方がない。
 クロルが突然歩調を速めるたびに、ビクッと震えるサラは、ベランダに飛んでくる小鳥のようだ。
 餌をまいて小鳥を呼び寄せては、飛び立たない程度に驚かせるという微妙な遊びを良くしていたなと、クロルは懐かしく思い出した。

「さ、着いたよ」

 クロルが立ち止まったのは、塔の階段を上り詰めた、小さな扉の前。
 人魂に照らされるクロル王子の表情は、まるで血が通わないマネキンのようだ。

 サラは、何か嫌な予感がして、クロル王子に尋ねた。

「ここは、一体……?」
「この部屋は”審判の間”という。別名は開かずの間……」

 揺らめく炎の灯り。
 クロルは、その薄茶色の瞳を赤く染めた。


『ここには、魔女が住むと言われている』


 クロルは「僕がこの部屋の鍵を持っていることは、誰にも内緒だよ」とささやくと、ズボンのポケットから古びた鍵を取り出し、その部屋の扉を開けた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 クロル王子と、楽しいディナーデートの巻でした。クロル君みたいに、キレイめだけど実はオタクとかって意外性あるキャラは書きやすいです。サラちゃん、どじっ子メイドごっこの後はお化け屋敷デート! 絶対デート! 普段強すぎなサラちゃんですが、ホラーは苦手です。作者も苦手。こんなときは「どろんどろん♪どろんどろん♪」と口ずさむとなんかごまかせます。(←某芸人さんのネタ)サラちゃんがおかしくなった時の「あー」「うー」という意味不明な呟きは、大平元首相から拝借。
 次回、このお化け屋敷で何かが起こる……ついに魔女っ子が出てくるかと思いきや、ほんのりイイカンジのラブ方面に?

拾い物 本編

拾い物


【前書き】ちょいグロホラー短編『探し物』の続編です。ホラー苦手……という方にも、そっち読んでもらった方が、より落差が楽しんでいただけるのではないかと思います。(ホラーといっても、描写は一反木綿並に薄っぺらいです)



 私の名前は、佐藤一子です。
 今日は愛娘と、隣町のショッピングセンターへ買い物にやってきました。

「お母さーん!」

 真っ白いワンピースの少女が、私の手を取り、腰にすがりつき、体の周りをぐるぐるとはしゃぎながら駆け回っています。
 小さな顔にぱっちりとした大きな瞳、白い肌、背中までのサラサラストレートな黒髪。
 童話のお姫様のように可愛いので『白雪』と名前をつけた、親バカな私です。

「こら、お母さんトイレ行きたいんだから、ふざけないのっ」
「はぁーい……」

 私が怒った途端にしょんぼりして、大きな瞳を潤ませながら見上げてくるので、私はしょうがないわねとすぐに許してしまいます。
 すると、えへへと無邪気に笑いながら、私におんぶをねだります。
 仕方なく腰をかがめてやると、私の背中にぴょこんと飛び乗って、細い腕を首に腕を回しながら「お母さん大好き」とささやくのです。

 もう12才だというのに、この子がこんなに甘えん坊なのは、生まれてからごく最近まで、ずいぶんと寂しい思いをさせてしまったせいでしょう……。
 そんな境遇にも関わらず、なぜかこんなに素直な良い子になりました。
 ただちょっと私のことが好き過ぎるみたいで、いつも私の行く先についてきてしまいます。

 早くボーイフレンドでも作って親離れしてねと言うのだけれど、お母さんと一緒がいいと聞きません。
 母一人子一人で、年もそれほど離れていなくて、いつも一緒。
 いわゆる流行の『友達親子』というやつに分類されてしまうのでしょう。

 あ、私は今年ちょうど30才です。
 そんなに大きな子どもが居るようには見えないと、良く言われます。

 本当に……。

 『見えない』と言われるのです……。

  * * *

 私が上京したのは、20才の春だった。
 『都会の森』というドラマのクールな女弁護士に憧れ、新品のスーツに身を包んで、期待に胸を膨らませながらこの町を飛び出した。

 その後10年暮らしてみたものの、都会の森ではどうしてもくつろぐことができず……結局、本物の森が溢れる生家へと戻ってくることになった。
 年老いた両親と一緒に住む弟からは『デモドリ小姑』と呼ばれている。

 3才年下の弟が結婚したのは、今年の初め。
 地元で高校教師をしている弟の見つけたお嫁さんは、ありがちな元生徒、しかもまだ20才。
 すぐに妊娠が発覚したので、結婚式は子どもが生まれてから内輪だけであげる予定だ。

 初孫をたいそう喜んだ親は、古かった家を二世帯住宅に改築して、楽しい同居ライフのスタート。
 年明けには子どもが生まれて……なんと親孝行なこと!
 まあ、そんなできた弟が居るせいで、私は多少好き勝手やってもいいかなと思っているのだ。

「アンタは、いつになったら結婚するのかしらねえ……」

 すっかり白髪の増えた母が、お茶をすすりつつぼやいても、都合の悪いことは上手にスルー。
 都会で10円ハゲができるくらいのストレスに晒されながら、ひたすら『見ざる言わざる聞かざる』の技術を磨いてきた私には、親のチクチクいやみ攻撃など蚊に刺された程度のダメージだ。

 ところが。
 今までそうやって、都合の悪いことに蓋をしつつ生きてきた私にも、現在1つだけスルーできないことがある。

 1人で冷静に考える場所が欲しかった私は、最近ちょうど良いスポットを見つけ、頻繁にそこへ通うようになった。
 わざわざ車を転がして余計な二酸化炭素を吐き出して、山を2つ越えた隣町にある大型ショッピングセンターの、小奇麗なおトイレ(個室3つの一番奥)へ……。

「お母さん、まだー?」

 個室の外から、心細げな少女の声がする。

「まーだだよー」

 私はズボンのベルトもはずさず便座に座ったまま、しゃあしゃあと答えた。

 どこにでもついてきてしまう少女も、どうしてもこの場所だけはついて来られない。
 なぜなら、少女にとってトイレの一番奥の個室は、とてもとても怖い場所だから。

  * * *

 私は、昔から良く拾い物をした。
 モノや動物が発する『捨てられたくないよー』というSOSを、なんとなく察知してしまうのだ。

 子どもの頃は、財布を拾っては交番に届ける良い子。
 犬や猫を拾っては、家に連れ帰って怒られる悪い子。
 粗大ゴミでまだ使える家具を拾って……それは自分でも悪い子だと思ったが。

 しかし、まさかこの年で、人の子を拾ってしまうことになるとは思わなかった。


 私が都会で疲れきって「今年のボーナスもらったら辞める」の呪文を何万回も唱えて、ようやく念願かなって自由になったのは、つい先日のこと。
 10年近く暮らしたアパートを引き払い、古くなった家具家電、くたびれた洋服、ストレス解消のためだけに出かけた旅行先のしょーもない土産(例:タペストリーコレクション)など、捨てられずにずっと溜め込んできた物は一掃してきた。

 スッキリしすぎたのが、いけなかったのだろうか?

『今の私、何か持てますよー。拾えますよー』

 そんなオーラでも出ていたのだろうか?
 うん年ぶりに帰ってきた故郷の、駅を降りて1秒後に、私は1人の少女を拾ってしまったのだ。

 正確に言えば、少女の、幽霊を――。

 便器の蓋に座り込みながら、ぼんやりとあの日のことを思い出していた私に、再び少女から「まだー?」と催促がかかる。
 私は感情のこもらない声で「まーだだよー」と答える。

 あまりにも長く個室を占領していると、普通の客にも「あそこ花子サンが居るんじゃ?」と、こちらが幽霊扱いされかねない。
 もしくは、定期的に『誰もいない』ドアの向こうに向かって「まーだだよー」と呟く、頭のイカレタ女と思われてしまう。

 この少女が、何をカンチガイしたのか、私のことを『自分の母親』と言い張り、ベタベタまとわりついてきてからというもの……私のキャラは『仕事のできるクールな才女』から『ちょっと頭のイタイ奇人変人』になってしまった。
 すでに、うっかり外で少女と会話してしまい、通りすがりの一般市民から冷たい視線を浴びること数知れず。

 試しに、近所の寺だか神社だかへ行って、なけなしの小遣いはたいて「どうか成仏してください」なんてお参りしたところで、少女は「お母さん信心深くてエライのね」とニコニコ笑うだけだ。

  * * *

 今ではこんな風に達観しているが、最初は……本当の本当に、チビりそうなくらい怖かった。
 少女に連れられて、駅の公衆トイレに入ったとき。
 少女を産んだ、本当の母親の記憶が、ハッキリと見えてしまったから。

 苦しみ、悲しみ、恐怖、無念、恨み……。

 人は、これほどまでに負の感情を抱けるのだということを、私は初めて知った。

 見も知らぬ女の感情とシンクロした私は、気付けば目から滝のような涙を流し、不衛生なこと極まりない公衆トイレの床に座り込んでしまっていた。

「大丈夫? お母さん……」

 腰が抜けた私を、少女は精一杯の力で、個室からずるずる引っ張り出してくれた。
 個室を出て、ようやく私はリアル母の記憶から解き放たれた。

 そして、汚い床に這いつくばったまま、不安げな表情の少女を見上げて言ったのだ。


「私、あなたの、お母さんじゃない……」


 なぜならば。


「私は……男と付き合ったことなんて、一度も無いんじゃー!」


 30才。
 殿方と手を繋いだのは、小学生時代のフォークダンスが最後。
 その後母親のワガママで、バスと電車を乗り継いで片道2時間もかかる、県内でも有名な『お嬢学校』へ短大卒業まで通わされた。

 地元議員の娘やら土建屋の社長令嬢やらに囲まれながら、ウフフオホホと作り笑いを浮かべ、アーメンラーメンとお祈りするだけの、平和でタイクツな暮らし。
 通学中に、1人本を読むことだけが、唯一の楽しみだった。

 うっかり本に熱中しすぎたせいか、通学電車でステキな男子と目が合うようなベタなイベントも特に発生せず。
 制服姿で外をうろつけば、遠目に見つめてくる男子はいたものの、私の磨き抜かれた作り笑いに圧倒されたのか、彼らはそそくさと逃げていき。
 結局、妙齢の男子とは1度も会話することなく卒業を迎えた。
 こうして、田舎育ちのエセお嬢が1人作られた。

 卒業後、思い切って東京へ出て就職したものの、待っていたのはオッサンオバチャンに扱き使われるだけの人生。
 若い殿方など、一切近づいてこなかった。

 いや、そうじゃない。
 いざ若い殿方を見ると、私の体は硬直し、お口にはチャックがされ、それが好みの顔だったりすると、なぜか毒舌が飛び出てしまうのだ。
 かろうじて放出されている女フェロモンにふらりと寄ってきた奇特な殿方も、あっという間に去ってしまった。

 すべては、一番免疫力をつけなきゃいけない時期に、男という善玉菌を排除させられたせい。
 ひいては、そんな純粋培養シャーレに放り込んだ母親のせいだ。

 そんなにブサイクでも無い……というか、ぶっちゃけキレイと言われる方だし、性格もそこそこで、趣味は料理なのに。
 とにかく男性を見ると、心臓がドキドキして毒舌吐いて逃げたくなってしまう、なんとも乙女な自分。
 唯一マトモに話せる男は、残念ながら血のつながった弟のみというテイタラクだ。

 昔から、拾い物をしては相談に乗ってくれた弟に、そのことを泣く泣く相談すると「姉ちゃん、もうこの際田舎帰ってきちゃえば?」と言ってきた。
 電話越しの声が優しかったので、うっかりそのプランに乗っかってしまうと「えー、本気にしたのかよー。デモドリ小姑じゃん。うちの嫁と子どもに嫉妬していじめるなよ?」と、血も涙も無いことを言った。

  * * *

「お母さーん……」

 考えを巡らせていた私の耳に、泣きそうな声が聞こえてきたので、私はそろそろ限界かと個室から出た。
 少女は嬉しそうに、ギュッと抱きついてきた。

 ああ、殿方のことを考えている場合じゃなかった。
 今の私が考えるべきは、この少女の事なのだ。

 どうやらこの子は、自分が捨てられたあの駅で、12年ほどうろうろしていたらしい。
 いくら「いいかげんにして! 私あなたのママじゃない!」と訴えても「だって私のこと見える人初めてだったんだもの……」と、子どもらしく甘えたことをぬかして、少女は私についてきやがった。

 この状況、世間的には『とりつかれた』というのだろう。

 しがみつく少女を引きずりながら、立派に生まれ変わった実家に帰った私は、すぐに弟を呼びつけた。
 もちろん、弟にも少女の姿は見えないのだが、このことを泣く泣く相談すると「姉ちゃん、もうこの際シングルマザーになっちゃえば?」と言ってきた。
 その声が優しかったので、うっかりそのプランに乗っかってしまうと、少女はことのほか喜び……弟を含めた家族はヘンタイとして私を扱った。

 まあ、10年ぶりに帰ってきた娘が、誰もいない空間をなでさすりながら「女の子1人連れてきちゃった。私のことお母さんって呼んで、離れてくれなくて」なんて言えば、そのリアクションも当然かもしれない。

「アンタ、昔から変な子だと思ってたけど、ついに……想像妊娠っ……?」

 手渡したばかりの土産『東京ばななマン』をボタリと落とし、失礼極まりない発言をする母。
 父は、ただ黙って日本酒を取り出し「飲め」と言った。
 弟はニヤニヤしながら見守り、義妹は弟の陰に隠れた。

「そうよ、アンタが幼稚園あがる前よ! 生ゴミ漁って“この子が食べて欲しがってたから”って腐りかけたバナナ食べちゃったときから、アタシはアンタのことしっかり教育しなきゃって……」

 涙ぐむ母が訴えるエピソードに、地味にダメージ食らいつつも、私は言った。

「ちょっとこれ見てって」
「ああ、そういえば隣町に良いお医者様がいるって、アンタの同級生の田中ミユちゃんのお母さんが」
「いいから見てよっ!」

 私は、頭にかぶっていたサファリ帽を『何も無い空間』に置いた。
 ふわふわと宙を漂う、ベージュの帽子。
 縁側に居た黒猫が立ち上がり、ニャアニャア鳴きながらその後を追いかける。
 私にだけ見える少女は「かわいい」と嬉しそうに呟いて、猫を抱き上げほお擦りした。
 家族全員が絶句する中、弟だけは1人涼しげな顔で「姉ちゃんの拾い物レベル、相当上がったな」と呟いた。

 少女は、モノや動物なら触ることができるし、人の言葉や感情を理解することもできた。
 その後、猫としばらく遊ばせて「動物が怖がってないんだから」と言ってみたり、簡単なお手伝いをさせたりすることで、害が無いことを証明してみせた。

 家族が、部屋の中で起こる便利なポルターガイストに慣れた頃には、少女が捨てられてしまった経緯も簡単に説明し……母と、義妹は「かわいそうに」と泣いた。
 少女は、少し膨らみかけた義妹のお腹に手を触れながら、ささやいた。

「泣かないで……赤ちゃんが“笑って欲しい”って言ってるよ?」

 その瞬間、義妹はヒュッと息を呑むと「今、赤ちゃんが動いた」と言った。
 私が少女の言葉を伝えると、マリカちゃんは「ありがとう」と泣き笑いを浮かべ、母はますます涙腺を緩めた。

 こんなやりとりの結果、少女は家族から『見えないけれど、いるんだよ』というポエムのような、温かい目で見守られるようになった。
 家族に認められて喜んだ少女は「お母さん大好き!」と、ますますベッタリ甘えん坊になり。
 私は少女に『白雪』という名前をつけ、この不毛なシングルマザーライフにどっぷりハマる羽目になった。
 元来凝り性な私は「どうせやるなら、キャラ設定して完璧にやったるわ!」と、友達親子なヤンママ演じてみたりしたものの……。

『――本当に、このままで良いのだろうか?』

 正直、そんな思いも心の片隅にあった。
 少女は、この世に留まるべきではない存在。
 あの古びた服やタペストリーのように、捨てたくなくても絶対捨てなければならないモノはあるのだ。

 買い物がてら毎日のようにショッピングセンターへ出かけては、おトイレ個室でどーしたらよいものかと思案したものの、解決策は見つからず……。
 いつしか私は、お風呂もトイレもベッドも、私が行くところ全部くっついてきて『好き好き光線』を放ってくる可愛い少女を、傍にいて当たり前の存在として受け入れてしまっていた。

 この関係が、思いもよらぬ方向に転がったのは、それから数ヶ月後のこと――。

  * * *

 その日、私は相変わらず家で1人、ゴロゴロしていた。
 手元には求人情報誌があるのだが、ぺらぺらとめくるだけで、本気で探してはいない。
 コタツは暖かく、みかんは甘く、テレビは愉快で、何一つ不満は無い。
 
 足元からのそりと這い出て来た黒猫が、クワッと大きな欠伸をした。
 私が高校生のときに拾ってしまった、タマ十郎だ。
 最初に拾ったオス猫『タマ』から始まり、タマ二郎、タマ三郎……と増え続けた最後の10匹目。

 彼は、人間ならもう還暦を過ぎたくらいのお年頃になる。
 あまり体調が良くないと親から聞かされていたが、私が帰ってきて嬉しかったのか、最近は餌もちゃんと食べるし良く遊ぶ。
 まあ、遊んであげているのは私じゃなく、白雪なのだけれど。

 何かを探すように、フンフンと鼻をひくつかせる彼の頭を撫でた私は、そういえば珍しくバーチャル娘……白雪が傍に居ないなと気付いた。

「白雪ー? 姫ちゃーん?」

 私が声をかけると、音も無く少女が現れた。
 冬でも健康的な、白いノースリーブワンピース。
 汚れることも無いので洗濯要らず、食事の用意も要らない、とにかく便利……ではなく、可愛い娘だ。

「お母さん、きて……」

 少女の白い肌が、より青白く病的なことに気付いた私は、彼女の震える手を握り締めた。

「なあに? どうしたの?」

 有無を言わさず手を引かれて、私は温かい楽園を出る。
 こんな風に強引な態度は、出会ったあの日以来ではないだろうか?
 なんだかんだこの子は、大人しくて、優しくて、素直な……とっても良い子なのだ。

 ぐいぐいとドテラの袖を引かれて、サンダルをつっかけて外へ出て……たどり着いたのは、お隣さん。
 つまり、弟の家だ。

 チャイムを押しても、誰も出てこない。
 大きな瞳に涙を浮かべながら、じっと私を見上げる少女。
 訳が分からぬままに、念のためと持っていた合鍵を使い、中に入った。

 そこで私が見たものは……。


「――マリカちゃん!」


 大きく膨れた腹を抱え、冷たい廊下に転がり微動だにしない義妹。
 マタニティワンピースの下半身が、どす黒い血で汚れている。
 まだ予定日まで2ヶ月もあるのに。

 うちの親は仕事だし、弟は学校だ。
 今、彼女と子どもを救えるのは、私しか居ないんだ……!

「きゅっ……救急車……」

 ぶるぶると震える手で、ドテラのポケットに入っていた携帯をまさぐる私に、少女は悲痛な表情で告げた。

「だめ、お母さん、間に合わないよ……赤ちゃん、死んじゃう……」

 私の目からは、あの日と同じ滝のような涙が溢れていた。
 体の力が抜けてくたりと廊下に座り込んだ私の首元に、ひんやりと冷たい肌が触れた。
 いつものように背中から抱きつき、首に腕を絡めながら、少女は……白雪は言った。


「お母さん、私……お母さんと一緒にいられて、本当に嬉しかった」


 小さな赤い唇が、私の頬に触れた。
 それは、ひらりと舞い降りた雪のように、一瞬で溶けて消える小さなカケラ。
 私は白雪を抱きしめ返そうと、とっさに手を伸ばしたけれど……冷えきった指先は、白いワンピースの裾を掠めて、ぽとりと床へ落ちた。

 ゆっくりと私から離れ、倒れたままの義妹に近づいていく白雪。
 その体が、徐々に透き通っていくように見えるのは、気のせいだろうか?
 溢れる涙で、白雪の顔が良く見えない。
 言葉を失った私は、ふるふると首を横に振っていた。


 嫌だ。
 行かないで。


「私、お母さんのこと、ずっとずっと、大好きだよ……」


 涙の向こうに、白雪の笑顔が見えた気がした。


『さよなら』


 白雪が、義妹のお腹に手を触れたとき、薄暗い廊下には光が溢れ……あまりの眩しさに私は目を閉じた。
 そして、目を開いたとき、白雪はもうどこにも居なかった。

 倒れていた義妹が苦しげにうめいたので、私は慌てて涙をぬぐうと、救急車を呼んだ。

  * * *

 流産しかけた義妹の子どもが助かったのは奇跡だったと、医者は言った。
 それからほどなくして、初雪が降る日の夜に産まれてきたのは、色白で小さな、可愛い女の子だった。
 私も親も、普段飄々としている弟ですら、その日は泣きながら抱き合って新しい命の誕生を喜んだ。

 その子の名前は……。


「白雪ちゃーん!」


 子どもの名前を『白雪』と決めたのは、もちろん私だ。
 弟は「俺とマリカの名前から1文字ずつ取ろうと思ってたのにー」と言ったが、そんなの関係ねえ。
 おぼろげながら、あのときのことを記憶していた義妹は「私も白雪がいいと思う」と、切なげに微笑みながら同意してくれた。

「姉ちゃん、また来たのかよー」

 現在短い冬休みを満喫中の弟が、チャイムも鳴らさず上がりこんできた私に文句をたれる。

「いいじゃない、減るもんじゃなし」

 ねー、白雪ちゃん? と、私はベビーベッドの天使に話しかけた。
 あぶあぶと声が聞こえる。

「うん。いいよー……だって。ほら、聞いたでしょ!」

 振り返って満面の笑みを浮かべる私に、弟は明らかに嫌そうな表情。
 義妹マリカちゃんが、カウンターキッチンの向こうから「私はお義姉さんに見てもらって、助かってますよ」と声をかけてくる。

「姉ちゃんのこと、そのうちお母さんとか呼び出したらどうするんだよ」
「ふふ、いいわねそれ! 一子お母さんって呼ばせちゃお!」

 私は白雪をそっと抱きあげ、やわらかい肌にほお擦りした。

「姉ちゃん、ホント早く結婚しろよ……」

 弟の嫌味なんて、蚊に刺されたようなもんだ。
 誰に何を言われようと、この子は私が全力で守るんだから。


 決意してうなずく私の腕の中で、小さな白雪は、嬉しそうに笑った。


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【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 『探し物』の後書きでも書いたんですが、この話はうっかりホラー短編など書いてしまった自分が、これじゃイメージダウンになってまうーと焦った結果生まれた話です。短編を補填するという意味では、それなりに体裁整ったように思いますが、これだけ読むとどーかな……。目指したのは「コメディ」&「キラキラファンタジー」です。描写薄いのは一緒ですが、短編だし甘く見ていただければ。(長編でも描写薄いって一人ツッコミ……)
※2009年6月 微修正させていただきました。(初期短編作品ですし、未熟な過去の遺産としてあまり変えずにおきます……)

拾い物 あらすじ

拾い物


私は昔からいろいろなモノを拾ってきたけれど、まさか人間の女の子を拾っちゃうなんて……! 負け犬三十路女に訪れた、小さな愛と奇跡の物語。
※ライトホラー掌編『探し物』の続編です。先にそちらをお読みいただくと、直球コメディ&キラキラファンタジーとの落差をより楽しんでもらえるかと思います。
【2009.6.24】アルファポリス『WebコンテンツPickUP』コーナーに採用いただきました。

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探し物 本編

探し物


【前書き】ほんのりグロ描写ありますのでご注意ください。女の人の方が、ゾゾッとしてくれるかもしれません。男性にはオエーと思われそうですが、アッサリなのでなんとか……。



 駅の前に、一人の少女がいた。
 長い間、切符売り場の前を行ったりきたりする少女に、声をかける者は誰も居ない。電車は一時間に一本という片田舎の駅だけに、通りがかる人は少なく、居たとしても足早に通り過ぎていく。
「困ったなあ……」
 少女が呟いたとき、改札から一人の女が降りてきた。昼下がりの中途半端なこの時間、この駅に降りる人物は貴重だ。
 少女は駆け寄って、女に声をかけた。
「すみません、ちょっといいですか?」
 茶色の大きなボストンバッグを持った、Tシャツにジーパン姿の女は、その声に驚いて立ち止まった。少女よりずいぶん年上だが、若干幼さも残す優しげな顔立ちの女だ。
 こんな田舎の駅には、観光地どころか旅館の一件もないので、ちょうど帰省したところかもしれない。
「なあに? 何か用?」
「あの、大事な物を無くしてしまって……一緒に探してもらえませんか?」
 涼しげな白いワンピース姿の少女が、心細げに言う。まだ小学生くらいに見える少女は、確かに手ぶらだった。女は、怪訝そうな表情で少女に話しかける。
「お父さんかお母さんは、一緒じゃないの?」
「はい、ひとりなんです」
 駅前には交番もなく、数少ないタクシーも出払ってしまったのか見当たらない。頼れそうな人物は駅員だけだろう。
 長距離の移動で疲れていた女は、腰をかがめ彼女に目線を合わせながら、困ったように微笑んだ。
「ごめんなさい、急いでいるの。駅員さんに聞いてみたらどうかな?」
 改札を指差しながら優しく伝えた女だったが、悲痛な少女の言葉に胸を痛めた。
「少しだけでいいんです……一緒に探してもらえませんか?」
 女は腕時計をチラリと見ると、しょうがないわねと息をついた。
「何を落としたの?」
「あの……いろいろ……全部……」
 ガランとして遮蔽物の少ない駅前のアスファルトを、女はぐるりと見渡す。
 鞄や財布のようなものは見当たらない。
「本当に、ここで落としたの?」
「ずっと探してるのに……どうしよう……」
 可愛らしい少女の顔は病的に白く、今にも泣き出しそうに歪められている。
 困った女がしゃがみこみ、大きな溜息をついたとき、女の肩越しに見える小さな建物に目を留めた少女は、笑顔で叫んだ。
「――あっ、あそこかもしれない!」
 少女の視線の先には、駅に隣接する公衆トイレがあった。
 田舎の公衆トイレは、少し離れていても匂いがキツい。女は近づくのをためらったが、少女に手を引かれてしまったため、しぶしぶその薄暗い建物の中に入った。

 ◆

 古い木造のトイレは、静かだった。
 ひび割れた鏡。青錆が浮いた蛇口の先から、ときおり雫がポタリと落ちる。蛍光灯にまとわりつく数匹の蛾を避けながら、少女と女は奥へと進んだ。
 黒ずんだ床のタイルから上がってくる冷気に、薄着の女はぶるりと体を震わせた。
 3つ並んだ個室の一番奥を指差した少女は、笑顔で言った。
「あそこの、中だと思うんです」
 少女に促された女は、個室の中へと目線を向けた。
 古い公衆トイレに相応しい、薄汚れた和式便器。トイレットペーパーホルダは壊れたまま放置され、ティッシュの屑が散らばっている。立ち込める悪臭に顔をしかめながら、女は個室の中を見回した。
 棚にも、ドアの裏の荷物をかけるフックにも、忘れ物らしき荷物は無い。あるのは、床に置かれているプラスチックのゴミ箱が一つ。汚物入れとして使われているものだが、乗降客の少ないこの駅では、利用する者もあまりいない。何年も置かれて続けているそれは、こびりついた汚れが醜い。
 女が振り向くと、少女はそのゴミ箱を指差した。
「いや……あれは、ただのゴミよ?」
「あの中に、きっとあると思うんです!」
 少女に促された女は、吸い寄せられるように個室の中へと歩み、そっと汚物入れの蓋をつまみ上げた。中にビニール袋が敷かれているのか、ガサリと音を立てた。
 汚い。
 気持ち悪い。
「ほら、何もないわよ。ゴミ袋が入っているだけ……」
「ちゃんと、中を見てみてください!」
 少女の叫び声が、女の頭に響く。
 なぜだか、逆らえない。
 女が蓋を持ち上げ、中を覗き込んでみると……。

「――ねえ、あったでしょう?」

 女は、奇声を上げながら、ゴミ箱の蓋を放り投げた。
 中に見えたものは、ピンク色の小さな塊。女が以前、一度だけ目にしたことがあるもの。
 そうだ、この場所だった。
 制服を着たままの私は、涙と血をたくさん流しながら、この汚物入れに、あれを捨てたのだ。
「私の全部、あの中に入れて、捨てられちゃったの」
 少女は、女の体に抱きついて「会いたかったわ、お母さん」と嬉しそうに囁いた。(了)


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【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 この話は、もともと”キラキラファンタジー”を書こうという発想で、プロット無しに書き始めたものです。別でやってる長編からの逃げがいけなかったのでしょうか……話がどんどんオカシナ方向へ転がり、気づいたらこんな感じになってました。この話だけじゃ、キラキラファンタジー書き(当社比)として、ブランドに傷が! と焦った結果、なんとか補完する話をと考えたのが、続編です。この話からコメディに転がすの、なかなか大変でした。ということで、ぜひ読んでやってきださいませー。
※2009年6月 微修正させていただきました。(初短編作品ですし、未熟な過去の遺産としてあまり変えずにおきます……)

※続きや詳細は想像にお任せ……というのもアリですが、ハッピーな続編『拾い物』(コメディ&ファンタジー)を書いてみましたので、ご希望の方はぜひ。


探し物 あらすじ

探し物


田舎の駅前で探し物をする少女。たまたま声をかけられた通りすがりの女は、少女の探し物を手伝うことになったが……(PG12)
※救いが欲しい方向けに、続編ご用意してあります。
拾い物
続けて読むと「ホラー」→「コメディ」→「ファンタジー」の変化が楽しめるかと。

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第三章(8)2度目の奇跡

第三章 王位継承


 剣を打ち合わせる音が絶え間なく響く、この訓練場。
 日が高くなり、徐々に気温も上がってきたようだ。
 気温以上に暑く感じるのは、隣に座るこの人の発するオーラのせいかもしれない。

 気持ちを切り替えるように、ふっと空を見上げたリグルは、サラに質問した。

「黒騎士……サラ姫は、これだけの戦力差があっても、どうしてトリウムが勝てないか分かるか?」

 その台詞に、あらためてここが敵国なのだと思い知らされたサラ。
 静かに首を横に振り、うつむいた。
 鈍いように見えて案外細やかな性格のリグルが、慌ててぺこりと頭を下げた。

「ゴメン、キミにとっては嫌な話になるかもしれないが……聞いて欲しい。トリウムがいつまでも勝てない理由は、ネルギが強いからじゃない。この国に問題があるからだと俺は思っている」

 魔術師は、この戦争に一切出陣しない。
 騎士たちには、どうしてもそれが理解できなかった。
 業を煮やしたバルトは、騎士団長として「ネルギの魔術師軍団に対抗するなら、こっちも魔術師を出すしかない」と、国王に訴えたという。

「バルトが襲われたのは、その直後だ。魔術師を糾弾したことの他に理由が無い。どんなに強い癒しの魔術をかけても傷は治らず、バルトは剣を持てない体になった。犯人は、今も見つかっていない」

 再び感情が高ぶったリグルの額から流れた汗が、彼の騎士服の肩にポタリと落ちた。
 それが一瞬涙のように見えて、サラは胸が痛んだ。

 穏やかに見えるこの国に、一体何が起こっているというのだろう。
 カリムが襲われた事件や、魔術師ファースの事件で、警備の騎士たちが妙に熱心だったのは、こうした前例があったからかもしれない。

 リグルは、不安げに見つめるサラに軽く笑いかけると、再び視線を落とした。

「父様は、軍の揉め事は自分たちで解決しろって放置だ。俺だって、エール兄には何度も直談判した。でもこの戦いに魔術師は必要ないの一点張り。俺たちは、不利な状況と分かっていても、国境の民を守るべく戦うしかなかった。魔術師はこの王城でぬくぬく暮らしながら、騎士たちが次々と戦死することを喜んでる。これで騎士の勢力が削られるってな」

 ずっと、心の中に抱え込んできたのだろう。
 淡々と続く独白に、サラはただ耳を傾けることしかできなかった。
 縦割り行政なんてレベルではなく、対立は深刻なようだ。
 怯えるように逃げたコーティの態度の意味が、ようやく分かった気がした。

「逆に、俺たちが負けていないのは、クロルが……文官たちが知恵を尽くして戦略を考えてくれているからだ。新しい砦の設計や、効率的な武器の開発やなんかをさ」

 サラは、今まさに砂漠との国境エリアで続いている戦いを想像した。
 その戦いは、魔術と科学の戦いに似ているのかもしれない。
 もしもトリウム側に魔術師が加わり、防御魔術を駆使しつつの戦術が取れるなら、すでに結果は出ているだろう。


 一気に語ったリグルは、流れる汗を袖でぬぐうと、苛立ちを吹き飛ばすように足元の石ころを蹴った。
 サラは、話の核心をつくような質問をする。

「一体なぜ魔術師は、戦争への参加を避けるんでしょうか?」

 リグルは、悲痛な表情でサラを見つめた。

「俺は単純だからな。分からないんだ。魔術師の思惑も……最近のエール兄も」

 救いを求めて、すがりつくようなリグルの瞳。
 サラは、ただその瞳を見つめ返すことしかできなかった。

 * * *

 騎士たちは休憩も取らず、真剣に訓練を続けていた。
 リグルの話を聞いたサラは、彼らの鬼気迫る表情から「いつか近い未来、戦場へ行く」という、覚悟を感じ取った。
 サラはその光景を見つめながら、考えていた。

 騎士たちにとっては、敵国の姫が1人現れたところで、大差が無いのかもしれない。
 実際サラには、サラ姫の刺客を追い返すこともできず、戦地での攻撃を止めさせる権限も無い。

 和平への道のりは、まだ遠い。
 国王に書状を渡したときは、確かに掴んだと思ったものが、まるで砂のように指の隙間から零れ落ちていく。
 今の自分にできることは、いったい何だろう?

 感傷に浸っていたサラの頭を、ポンッと叩く大きな手の感触。

「サラ姫、ごめんな。今の俺、弱すぎだ」

 会ったばかりの女の子に弱音吐くなんてと、リグルは苦笑した。
 ベンチに座っていても、見上げるほど背の高いリグル。
 その手が聖剣を握れば、サラはきっと勝てないだろう。

 リグルは、充分強い。
 そして、優しい人だ。

 皆の前では明るい振りをして、本当は深く傷ついているこの人に、私はどんな言葉をかければいいのだろう。

 リグルの一番の理解者だったバルトさんは、すでに騎士団を離れ、管理側に納まっているという。
 リグルが騎士団長を継いだのは「年齢や立場は関係なく、もっとも腕の立つ者が長となる」という騎士団の掟にのっとった、メンバー総当りの試合に勝利したからだ。
 結果、若干20才のリグル王子が、これだけの数の騎士たちをまとめあげている。

 しかし、剣の腕と人の上に立つことは、違うはずだ。
 騎士団長の仕事の中には、戦死の報を受けることや、死者の代わりに戦場へ送り込む者を決めるなんて作業も含まれるという。
 リグル王子にとっては、苦しい作業だろう。
 自分自身が戦場に行くことは、決して許されないのだから。

 バルトさんがもしここにいたなら、リグル王子をどんな風にサポートするだろうか?

 バルトさんが……。

 ん?

「あの、バルトさんって、少しは魔術が使えます?」
「は?」

 サラの唐突な質問に、深く考え込んでいたリグルは、眉間にシワを入れたまま聞き返す。

「武道大会の時に見た限り、バルトさんってあまり魔術は得意じゃないみたいでしたけれど……」
「ああ、バルトは魔力がほとんどないはずだ。使えるのは簡単な水の魔術くらいかな」

 水の魔術!
 やった!

「今すぐ、バルトさんをここに呼んでもらえますか? あと、私の侍女のリコも!」

 サラは、国王並にいたずら心いっぱいな笑顔を作った。

 * * *

 すぐに準備は整った。
 呼び出されたバルトは、バツが悪そうに「黒剣は……」と言い訳しようとしたが、サラは首を横に振ってそれを制した。

 息を切らせながら駆けつけたリコに、サラは自分の横髪を摘みながら「あれ持ってる?私の……」と質問した。
 リコは、侍女服のスカートのポケットから、小さな黒い袋をそっと差し出した。

 それは、サラの髪のお守り。
 リコが肌身離さず持っていてくれて助かった。

 サラは、首にかけていたネックレスを外す。
 そこには、ペンダントヘッドの代わりに、指輪がつけられていた。
 元々リコが持っていた、水の指輪だ。

 これをサラが持ち込んでいたことも、ラッキーだったと思う。
 この指輪には、特別強い水の精霊の力があるから。

 訓練していた騎士たちは、一体これから何が起こるのかと、サラたちの周りに集まってきている。
 リグルとバルトも、不安げに顔を見合わせた。

 サラは、指輪とお守りをバルトに渡しながら言った。

「この2つのアイテムは、バルトさんの魔力を補強します。その全部の力を使って……私に、癒しの魔術をぶつけてください」

 サラの命じる行為の意味が分からず、首を傾げるバルト。
 リグルは、ふざけているのかと突っかかりかけたが、サラの瞳を見て言葉を失った。

 意思の強さを映し出すように、きらめくブルーの瞳。
 まるで戦神のように、凛然たる表情。
 光の中で真っ直ぐ前を向く彼女は……誰よりも気高く美しかった。

「ああ、分かった」

 サラの瞳の力に気圧されたバルトは、渡された指輪をつけた。
 小さな指輪は第一関節までしか入らなかったが、サラはそれで良いとうなずくと、バルトから少し距離をとった。

 バルトは、指輪をはめた手のひらを、サラへの方へと伸ばした。
 もう片方の手には、サラのお守りを握り締めて。

「水の精霊よ……」

 魔力の少ないバルトは、それを補うための長い詠唱を始めた。
 癒しの魔術が使えるといっても、簡単な擦り傷を治す程度の力しかない。
 バルトは、いつものように、細かい霧のシャワーが出てくるイメージをしていた。

 しかし、バルトの手のひらは、予想に反して淡く発光し始める。
 その光が飽和したとき、手のひらから放たれたのは……。

 淡く透き通る、1匹の水龍だった。


「……っ!」


 動揺するバルトが、これ以上ないほどに目を見開いた。

 これは、夢だ。
 まさかこの自分が、龍なんてモノを呼び出せるわけが無い!

 動揺するバルトを置き去りに、手のひらから生まれた龍は人の背丈ほどのサイズまで膨れ上がると、地を這いながら一気にサラへと向った。

 見守っている誰もが、瞬き一つできなかった。

 水龍は口を閉じたまま、サラの体にじゃれつくようにぐるりと巻きつく。
 そのまま再び発光し、空気に溶けて消えるかと思われたが……。


『――跳ね返れ!』


 サラの感情が、爆発した。
 サラを包む透明な熱の塊が、一気に温度を上げる。

 それを見ていた者は、思わず息を呑んだ。
 水龍が成長している。
 バルトを一飲みにできるほどの大きさへ。

 獰猛な瞳を細め、長い体をくねらせながら、巨大な龍は立ち尽くす騎士へと戻っていった。

 恐怖に目を閉じたバルトを包んだのは、痛みとは真逆の心地よい感触。
 それは、太陽のように輝く癒しの光だった。


 目には見えないけれど、サラは心で感じていた。
 癒しの魔術が、サラの願いを受けて、騎士の体の奥へと染み込んでいくことを。

 * * *

 再現された、あの日の……いや、それ以上の奇跡。
 バルトも、リグルも、他の騎士たちも、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

「さ、脱いでみて?」

 ニコニコと満足げに笑うサラは、魂が抜けたように立ち尽くすバルトに「はい、バンザーイして」と、子どもの着替えを手伝うように指示をする。
 背の高いバルトに悪戦苦闘し、最後はリコに手伝わせながら、サラがようやくバルトの上着を脱がせると、バルトの背後にいた騎士の1人が叫んだ。

「バルト様の、あの傷が、消えてる!」

 バルト自身、すぐには理解できなかった。

 闇討ちに会ったのは、自分に隙があったからで、後悔しても仕方が無い。
 ただ、この時期に騎士団を離れるわけにはいかないと思った。
 だからこそ、恥を忍んで第一王子エールに頭を下げて、癒しの魔術をかけてもらったのだ。

 しかし、願いは叶わなかった。
 エールの魔術をもってしても傷は消えず、肩より上にあがらなかった腕。
 背中に醜い痕を残し、服を着るたびに激痛が走ったこの腕が……今、こんなにも軽く動いているのだ。

「良かったね、バルトさん!」

 無邪気に微笑むサラに、バルトはおぼつかない足取りで近づくと、崩れ落ちるように跪いた。
 驚くサラの右手を引き寄せ、かさつく唇で口付ける。
 そのまま、左手を腰に差した剣へ。

 二度と振ることはできないと頭では分かっていても、どうしても手放せなかった自分の聖剣。
 ずっと手入れを怠らなかったため、研ぎ澄まされた刃。
 サラの手を離さぬまま、バルトは愛する剣に2度目のキスを落とした。

「我は誓う。己の魂すべてを捧げ、黒騎士……サラ姫様への、永遠の忠誠を」

 それは、王妃という立場の女性にのみ捧げられる、神聖な誓いだった。

 立ち上がったバルトは、気持ちがうまく言葉にならず、瞳に涙を浮かべながら頭を下げた。
 見守っていた若い騎士たちも、涙を流していた。

 そして、その場にいた騎士全員が、サラに対してバルトと同じ行為を繰り返し……気づけば、日は高く昇っていた。

 * * *

 最後に残ったのは、リグルだった。
 サラの足元に跪き、その黒い瞳を挑戦的に輝かせる。
 今朝、サラを黒騎士と呼び、真摯な姿勢で立ち向かってきたあの瞳だった。

「俺……皆とちょっと違うことして、いいか?」

 最初は照れまくっていたサラも、何百人という騎士に忠誠を誓われて、すっかり抵抗が無くなってしまっていた。

「はい? いいですよ?」

 何か、王族ならではのやり方があるのだろうか。
 不思議に思いつつ、差し出したサラの右手を、リグルはそっとどけた。

 リグルが手に取ったのは……サラの左手。
 ためらいがちに触れられた唇は、やけに熱かった。

 サラは、驚愕に目を見開き、リグルを見詰めた。
 リグルは日に焼けた顔を赤く染め、照れくさそうに微笑んだ後、すっと表情を引き締めた。

「サラ姫。俺は、国王よりも弱い。エール兄のように力も無いし、クロルのように賢くも無い。だが……」

 サラは、自分の体が震えるのを感じた。

 国王に言われたときとは、何かが違う。
 この人から、瞳を反らすことはできない。


「どうか俺を、選んで欲しい。俺は……国王になる!」


 どうしよう。
 胸が苦しい……。


 周囲の騎士たちから湧き上がった大歓声も、耳に入らなかった。

 サラは、ただリグルの手の熱さを、その真剣な眼差しを、心で受け止めるのが精一杯だった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 敵国に乗りこんだはずのサラちゃんですが、ここに来てキラキラパワーで一気に味方増えました。盗賊&オアシス国民&騎士で、数だけだと魔術師軍団に対抗できるかなー。直情系な秋田犬リグル君は「ご主人様みっけたワン!」と思ったら即プロポーズです。ていうか、実は女装サラちゃん見たとき(ヨダレ垂れたとき)から一目惚れだったのかも。実はバリトン騎士ことバルトさんも、サラちゃんにほんのりラブです。でもラブ通り越して神聖視しちゃって手は出せません。そのことが、後々何かにつながる……かな? あと今回、初めての試みをしてみました。そう……”――”(せん)を使ってみたのです! ちょっとまだ使い方分かってま――。(←センと読む?)
 次回から、トキメモデートもう1周。特に、まだ落とせてない2人にグッと近づいてきます。全員落とすまで終われないこのゲーム……じゃなくて第三章。魔女っ子ネタもアリで。

第三章(7)リグル王子との試合

第三章 王位継承


 夕べはほとんど眠れなかった。
 しかし、誰にでも朝は平等にやってくる。

「サラ様っ! おはようございまーす!」

 元気いっぱいで部屋に入って来たのは、昨日到着したばかりのリコだ。
 この国の侍女服を着せられ、伸ばしかけの髪をお団子にくくっているリコの可愛い姿が……なんだか何重にもぼやけて見える。

 眠い……。

「さっ、起きましょう! それで、こちらに着替えてください!」

 ペチペチと頬を叩かれ、サラは再び目を開ける。
 目の前でヒラヒラと振られている戦闘服を見て、サラは自分が領主館にいるのかと勘違いした。

 そっか、夕べのアレは……夢だったんだ。

「今日の授業は無くなりました。代わりに、リグル王子が訓練場にお呼びですから」

 サラは体を起こし、寝不足の目をこすると、ベッドの上で大きなため息をついた。

 ああ、やっぱり夢じゃなかった……。

 * * *

 サラは冷たい水を1杯もらい、もそもそと戦闘服に着替える。
 ドレスと違って侍女のサポートは要らないので、本当に楽だ。
 着替えつつも、一晩中広いベッドで連続腹筋記録にチャレンジしながら考えたことを頭の中でまとめてみた。

 まず、魔女の呪いについて。
 魔女に殺されたと噂の人物は、王の姉である王子たちの母親、そして王弟。
 いずれも、ずいぶん昔の話のようだ。
 当時のことを知る人物がいれば、もう少し詳しいことが分かるかもしれない。

 国王にも……ちゃんと聞きなおそう。
 なんとなく最後、アレで、はぐらかされてしまった気がするし。

 魔女の現在の居場所は、まるっきり不明。
 エール王子も探しているけれど、まだ見つかっていないみたい。
 クロル王子が何か知っているような口ぶりだったから、今度捕まえたら聞いてみよう。
 すんなり教えてくれるか分からないから、今日リグル王子と仲良くなって、協力してもらおうかな。

 あとは、次期国王について。
 エール王子は、ちょっと問題あり。
 あの頑なな態度や、魔術師と組んでいる理由を、少し調べてみなければ。
 クロル王子と、たぶんリグル王子は、前評判だとあまりやる気はなさそうだ。
 このまま国王が王座に居座るなら、一番良いんだけど……。

 そこまで考えたサラは、国王の顔を思い出し、頭をぶんぶんと振った。

「思い出しちゃイカン!」

 口では命令するものの、体が言うことを聞かない。
 サラの左手は、そっと頬を撫でていた。

 つるんとして、やわらかい頬の感触。
 ぷにぷにと摘んで、にゅーっと引っ張って、パチンと叩いても、国王の感触は消えない。

 昨夜、国王はサラを抱きしめて、頬に口付けた。


 パニックに陥ったサラを助けてくれたのはアレクだった。
 正確には、アレクの施してくれた魔術。

 サラの左頬に口付けて、そこに貼られたフィルムに気がついた国王は、硬くてごつい手のひらでサラの頬を包むと、少し熱を加えてからペリッとはがしてきた。
 そんなものがくっついていたことすら忘れていたサラだったが、「怪我でもしたのか? もう治っているみたいだが」という冷静な国王の声で、目が覚めた。

 いや、そのときはまだ夢心地だったのかもしれない。
 国王の胸を押しやると、サラは心の赴くままに叫んでいた。


「ダメですっ、王様、幼女趣味になっちゃいますっ!」


 国王は一瞬固まった後、今までに無いくらい苦しそうに……笑った。
 お腹を抱えて笑い泣きする国王に、サラは「もう帰ります!」と、ご馳走様も言わずに部屋を飛び出したのだ。

 いつの間にか廊下で待っていたコーティが、真っ赤になって涙ぐむサラを見て、おろおろとしていた。
 どうしたのと聞かれても、何でもないと答えるしかなかった。

 * * *

 もんもんと考えていたサラだったが、姿見の前に立つと意識が変わった。
 完璧な、少年の姿。
 黒騎士になりきるように、サラは強気な表情を作った。

 こうなったら、リグル王子との試合でストレス発散するしかないな。
 リグル王子には、申し訳ないことになるかもしれないけれど。

 サラが鏡に向って不敵に微笑んだとき、ノックの音と同時に勢いよくドアが開けられた。

「サラ姫ーっ! 起きた……の……」

 飛び込んできたのは、オアシスの妖精ことルリ姫。
 今日のドレスは淡いイエローだ。
 小さな宝石が散りばめられた胸元の生地が、朝日を受けてキラキラと輝いている。

 サラは微笑んで、挨拶した。

「おはようございます、ルリ姫。今日のあなたは、まるで風の妖精のように美しい」

 ドア付近で立ち尽くすルリ姫の足元に跪き、右手の甲にキス。
 ほぼ無意識に行われた、黒騎士時代の習慣だった。

 ルリ姫は、サラに手をとられたまま、その場にパッタリと倒れた。


 羽のように軽いルリ姫を、お姫さま抱っこで自室のベッドに運んだサラは、その足で騎士の訓練場にやってきた。
 もちろん、コーティも一緒だ。

 宿舎と訓練場のゲートが見えるあたりで、コーティは意外なことを言った。

「あの、サラ姫様……私はここで待っていますので、この先はお一人でお進みください」
「どうして? どうせなら、一緒に訓練しようよ」

 明らかに怯えた表情を見せるコーティは、早口で言った。

「実は……ここだけの話ですが、王城の騎士と魔術師は、非常に関係が悪いのです」

 そう言われると、サラにも思い当たるフシがある。
 武道大会には魔術師の参加者も居たのに、運営側は騎士ばかりだった。
 サラが王城に仕える魔術師を見たのは、パーティの際に重鎮と簡単な挨拶をしたときだけ。
 あとは、このコーティだけだ。

「私も、上の者から、騎士との接触を控えるよう言われていますので……」

 歯切れの悪いコーティの言葉から、サラは「これが縦割り行政ってやつか」と納得した。
 無理を言って、コーティの立場を悪くしては可哀想だ。
 しかし、理由くらいは聞いておかなければ。

「ねえ、その理由は……」
「すみません、失礼します!」

 猛ダッシュで逃げていくコーティを見送ったサラに、後方から声がかかった。

「よお、黒騎士。待ってたぜ」

 騎士服に身を包んだリグル王子が駆け寄りながら、明るく爽やかな笑みを見せた。

 * * *

 リグル王子に腕をつかまれ、引っ張られながら連れてこられたのは、訓練場脇の備品倉庫。
 この中から何でも良いから好きな剣を選べと言われて、サラは戸惑った。

「オレは、黒剣しか使いこなせないぞ?」

 黒剣は、未だ返してもらえていない。
 バリトン騎士を呼び出そうとしても、忙しいやらナンやらで、会ってもらえない。
 完全に策略の匂いがするものの、サラは今のところ放置していた。
 王位継承や魔女のことなど、優先して考えるべきことがあったから。

「ああ、悪いな。では俺もこの中から選ぼう」

 黒剣のことをスルーして、リグルは自分の聖剣を乱暴に放りだすと、壁際に吊るされた訓練用の粗悪な剣から適当なサイズのものを選ぶ。
 選びながら鼻歌が飛び出すほど、リグルが嬉しそうだったので、サラは諦めのため息をついた。
 黒剣ほどではないものの、それなりに細身で手ごろな剣を選ぶと、リグルの後を追って闘技場へ向かった。


 黒騎士と騎士団長が立ち合うと、噂でも流れたのだろうか。
 武器を選んだサラたちが闘技場につくと、若手の騎士を中心に大勢のギャラリーが囲んだ。
 数百人ほどいる騎士の中には、武道大会でみたことのある顔も混ざっている。

 顔見知りと言っても、あのときと今では何もかもが違う。
 あのときのサラは、あくまで一般人の挑戦者。
 今は……憎むべき敵国の王族なのだ。

 ギャラリーたちの表情はなるべく見ないようにし、サラはリグルに向き合った。

 真剣な面持ちで見守る騎士仲間をバックに、迷いの無い視線をぶつけてくるリグル。
 朝日に照らされた褐色の頬には、魔術で治し切れなかった傷跡がうっすらと浮かび上がる。
 リグルの鋭気に満ちた黒い瞳が、サラのブルーの瞳を捕らえて離さない。

 剣を手にすれば、雑念は消える。
 リグルはきっと、そういうタイプなのだろう。

 この試合で、すべてが変わるとは思えない。
 けれど、今の私にできることは、全力で立ち向かうことだけ。

「黒騎士。俺が望むのは全力の試合だ。下手すると、お前を傷つけるかもしれん」

 サラは、その台詞に黙ってうなずく。

「今この時だけは、お前を男と見る。では……行くぞ」

 高く掲げられ、ギラリと光るリグルの剣を目にしたとき、サラの心に黒剣の魂が宿った。


『ガキンッ!』


 打ち付けられる、一度目の刃。
 黒剣よりは重さを感じるものの、こうして違和感無くリグルの攻撃を受け止められることに、サラは安堵した。
 右へ左へと、繰り出すたびに、手に馴染んでくる細身の剣。
 サラは、この剣でも充分戦えるという手ごたえを感じていた。

 リグルの戦い方は、やはり緑の瞳の騎士と似ている。
 ただ真っ直ぐに、正確に、力で押してくる剣だ。
 若さが表れるのか、緑の騎士よりは乱雑な剣筋だが、その分手数も多くパワーが強い。
 サラは、リグルの剣の威力に、じりじりと後退していった。

 慣れない剣を使っているというハンデは同じ。
 先に剣を使いこなせた方が、勝利を掴むはず。
 サラの選んだ剣の魅力は、軽さと長さ。

 サラは、緑の騎士と戦ったときに思いついた、もう一つの方法を試してみようと思った。

 リグルの剣筋を、ある程度見極めたところで……。


『今だ!』


 サラは、両手で強く掴んでいた剣から、そっと左手だけを離した。
 剣を握る右腕を手前にし、体はリグルに対して半身に。
 その姿勢になったことで、剣の攻撃範囲が一気に半分に削られる。

 サラは、そのまま体を数センチ後方へ反らせた。
 前髪と鼻先にかする距離で、振り下ろされたリグルの大剣。
 まさに紙一重だった。

 次の瞬間、つま先に力を入れて前へ踏み込み、思い切り右腕を前方へ伸ばす。
 サラの剣先が、背の高いリグルの喉元へ届いた。


「まいった……」


 その黒い瞳に悔しさを滲ませて、リグルは呟いた。

 * * *

 試合が終わると同時に、リグルは別人のように穏やかな表情になった。

「いや、黒騎士……お前強いな! こんな細っこいのに、どこからあんな力が出るんだ?」

 闘技場の脇に並ぶベンチに腰掛け、サラは遅い朝食をとっていた。
 試合を見守っていたリコが「お疲れさまでした!」と、タオルと合わせて差し出してきたものだ。
 当然リグル王子の分は無く……サラは、マネージャーと交際するサッカー部キャプテン気分を味わった。

 もしかしたら、これを作ってくれたのはリコ自身かもしれないと思いつつ、サラは微妙な味のサンドイッチにかぶりつく。

 リグルはといえば、味を感じる余裕など無さそうだ。
 さっきから、ものすごい興奮っぷりでサラに話しかけてくる。

「お前の師匠って、あの幻の勇者なんだろ? 会場に来てたってのは聞いてたんだけど、アイツとも手合わせしたかったなあ」

 リグル王子も、国王や他の王子たちと同じく、サラが出会ったことのないタイプの男性だった。
 サラと話しているようで、きっとサラのことは考えていない。
 考えているのは、自分がいかに強くなるかだけ。

 リグル王子を動物に例えると……うん、秋田犬だ。

 そう思うと、でかい男が尻尾をフリフリしているようで、カワイク見えないこともない。

「リグル王子には、師匠がいらっしゃるんですか?」
「ああ……お前も良く知ってるヤツだよ。バルトだ」

 名前を言われて首を傾げたサラに、リグルは武道大会の審判長だったヤツと言った。
 そういえば、バリトン騎士はそんな名前だったかもしれない。
 バリトンとバルト、どっかで混ざっちゃったのかな?

 しかし、この国の戦士たちは、引退が早いのだろうか。
 魔術師ファースが気まぐれに出て行ったのは仕方ないとしても、バルトはまだ若そうに見えたけれど……。

「騎士団長というのは、筆頭魔術師と同じように指名制で引き継がれるんですか?」

 サラが素朴な疑問を口にした途端、和やかな空気にピシリと亀裂が入った。
 急に表情をキツクした秋田犬……ならぬリグルは、サラから目を反らすと、遠くを見つめるように言った。

「黒騎士……お前、騎士のこと、何も知らないんだな?」

 サラは、もそもそとサンドイッチを噛みながら、何も言わずうなずいた。

「だったら仕方ないが……ここでは魔術師って言葉は出さない方がいいぜ? あいつらだって、我慢の限界なんだからな」

 先ほどまでギャラリーをしていた騎士たちが、訓練に勤しむ様子を見つめながら、リグルは呟いた。
 サラは、意味が分からずきょとんとする。


「前騎士団長のバルトが引退したのは一昨年……魔術師にやられたせいだ。あいつら、絶対許さねえ」


 先ほどサラに負けた瞬間より、もっともっと悔しげに、リグルは顔を歪ませた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 国王様の魔手から、サラちゃん何とか逃れてました。アレク様のかけた男避けお呪いの効果だったのかも。ホッ。この話では、サラちゃん一途純愛路線ですからねっ。いくら国王様が迫ったって、ムダムダムダ……です。作者はイエスフォーリンラブ、ですが……。今回、久々黒騎士モードでリグル王子とのラブラブガチンコバトルデート! 誰がなんと言おうと、これはデートですよ! それにしても、バトルシーンがこんなもんで済むって何て楽チンなんでしょう。といってもちょっと文字数取ったので、甘ラブは次回に持ち越し。ゴメン。
 次回、急展開です。テレレレッテッテレー♪ サラちゃんキラキラ度UP! トキメモ度UP! サラはリグル王子を手に入れた。……という感じです。

第三章(6)国王と魔女

第三章 王位継承


 さすがに国王相手では、サラもすんなり面会とはいかなかった。
 近くの空き部屋を借りて、コーティと2人時間をつぶすことになり、サラは……また乙女の妄想をたんまり食べさせられた。

 そろそろ吐く寸前というところで、救いの神ならぬノックの音。

「失礼いたします」

 銀色の長い髪を揺らしながら入ってきたのは、国王の側近美女だ。

「あらためまして、サラ姫様にはご挨拶を。私のことは、月巫女とお呼びくださいませ」

 姿形も見目麗しい女性だが、一番心惹かれるのは、美しい髪だった。
 彼女が動くたびに、月の光がキラキラと部屋中に振りまかれるようだ。

 サラは、思わずその髪に触れようと手を伸ばしかけ……ギリギリのところで自重した。
 最近の自分は、とにかく危ない。
 美味しそうな獲物を見ると、すぐに手を出したくなってしまう。
 なるべくアニマルモードにならないよう、サラはブツブツと念仏を唱えながら自戒した。

 サラの葛藤に気づいているのかいないのか、月巫女は「サラ姫様のみ、こちらへいらしてください」と無表情で告げた。


 サラが連れてこられたのは、王の間ではなかった。
 隣接する、王のプライベートスペース。
 開かれたドアをくぐると、目の前には立派な大理石のテーブルがあり、サラが思わず目を瞠るほどの豪華なフルコースが並べられていた。

「やあ、サラ姫。待たせて悪かったな」

 まさか、サラを待たせた30分程度で、これだけのゴージャスディナーを用意するとは。

 驚き、そして笑顔に変わるサラの表情を見た国王は、いたずらがまんまと成功した子どものように笑った。
 嬉しいサプライズに、サラは上機嫌で席へとついた。

 いつの間にか、月巫女は姿を消していた。

 * * *

 テーブルマナーもさほど気にせず、楽しい食事だった。
 さすが国王の食事だけあり、日本で食べた有名フレンチを超えるほどハイレベルな味だ。
 サラは満悦し、フォークとナイフを置いた。

「ご馳走様でした! とっても美味しかったです」
「そうか、良かった。テーブルを片付けてから、茶を淹れよう」

 本来なら侍女がするべき仕事を、今日は国王が手ずから行った。
 あの国王がホストとして動いてくれるという贅沢感が、サラの乙女心をくすぐる。

 ああ、悪くない。
 ていうか、最高。
 お姫さま扱いって、こんなに心地良いものなんだな……。

 頬をほんのり染め、ふわふわした気持ちで、サラは目の前でかいがいしく働く国王を見つめた。

 国王は、クロル王子と似ていると言われれば、確かにそうかもしれない。
 日に焼けた肌と、長めの前髪、そして立派なヒゲに隠れているが、国王は相当の美形だ。

 そして、顔かたちの造作が霞んでしまうくらい、目力がスゴイ。
 国王の瞳は、魔術師ファースの灰色の瞳と同じくらいの威圧感がある。
 鳶色の瞳が瞬きするたびに艶めいて、サラは目を逸らせなかった。

 国王が指輪をはめた右手を軽く振るだけで、手際よくテーブルの食器をまとめワゴンに並べていく、風の精霊たち。
 作業は流れるように、スピーディに行われる。
 サラは目の前のマジックショーに、感嘆のため息を漏らした。

 この国の王族は、けっこう1人で何でもやるタイプなのかもしれない。
 ひらひらとエイのように飛んできた濡れタオルが、キュキュッとテーブルをふきあげる間に、国王は部屋に備え付けのミニキッチンに立ち、サラにお茶を入れてくれた。

「この茶は、庭園の花を乾燥させて作ったものだ。今度庭園を見に行ってみるといい」

 お湯を注いで1分ほど待ち、ポットの茶葉が充分開いた頃に、国王はサラのカップにお茶を注いでくれた。
 差し出されたカップからは、少し甘い花の香りが立ち上る。
 サラはうっとりと目を閉じて、香りを堪能してから、お茶を一口飲んだ。
 口腔内から心の中へと広がる香りの効果で、先ほどまで考えていたややこしい問題が、解けて消えるようだった。

 サラが「美味しい」と吐息を漏らすと、その様子を正面から見つめていた国王も笑みを浮かべる。

 しかし、途中まで一般貴族としてそこそこ庶民的な暮らしをしてきたという王子たちはさておき、この国王までもがそんなことをするとは不思議だ。
 しかも、ルリ姫のお茶に負けないくらい、このお茶も美味しい……。

「国王様も、ご自分でお茶を淹れたりされるのですね」

 サラがぽろりと漏らした疑問に、国王はカップの湯気の向こうで微笑んだ。

「俺も若い頃は、町で1人貧乏暮らしをしていたからな」

 その台詞に、サラは驚いた。
 また口の中のお茶がスプラッシュマウンテンしそうになったが、なんとか気力で飲み込んだ。

「ええっと……王様が、町で1人暮らしですか?」

 しかも、びんぼーって言ったよね?

「何を驚くことがある? サラ姫だって、つい先日まで町で暮らしてきたのだろう?」

 確かにと納得しかけたサラだが、慌てて首を横に振った。

「それとこれとは話が別ですよ。お忍びで遊びに行くくらいならともかく、1人暮らしって……」

 普通なら、許されないはずの行為だ。
 危険も伴うだろうし、側近たちが止めないはずがない。

 サラの疑問に、国王は質問で返してきた。

「サラ姫は、俺のことを何も知らないんだな?」

 その台詞に、サラはがっくりと肩を落とした。

 ええ、私は単細胞なミドリムシです。
 何も考えず、ただべん毛で動いてます。

 軽く落ち込むサラに、国王は自らの生い立ちを語った。
 英雄と言われるようになった、その理由を。

 * * *

「元々、俺は王位を継ぐつもりはなかった。俺よりずいぶん優秀な弟が居たからな」

 少し冷めかけたお茶のポットを、国王は大きな両手で包み込んだ。
 魔術で温め直し、サラにお代わりを注ぎながら、唇の端を上げて形だけの笑顔を作った。
 本当に楽しそうな表情しか知らなかったサラは、初めて見る国王の冷笑に驚いた。

「正確に言うと、俺は弟に頭が上がらなかった。こんなことも全部、弟に強要されてやり始めたことだった」

 きっかけは、ささいな兄弟げんか。
 優秀な兄と常に張り合おうとする勝気な弟は、けんかの中で一生消えない傷を負ってしまったという。
 兄が、自らの溢れる魔力に気づかなかったせいで。

「それ以降、俺は弟の家来……いや、奴隷のように過ごしていたな」

 自分だけが罪を背負うなら、それでも良かった。
 しかし、自分の卑屈な態度がますます弟の心を壊し、関係を悪くしていくことに気づいた。
 病に伏せる両親も、完全に弟のいいなりだった。
 いつしか弟は時期国王と呼ばれ、こびへつらう輩がとりまき、苦言を呈する者は失脚させられた。

「あれはもう、20年近く前のことだ。衝動的にこの王城を飛び出した俺は、しばらく身分を隠して町に隠れ住んでいたんだ。あの”自治区”にな」

 しかし、弟の追っ手がやって来て……俺は森に逃げ込んだ。
 自殺するつもりはなかった。
 ただ、生きるのに飽いていたのは確かだった。

 真剣に耳を傾けるサラに、国王は問いかけてきた。

「森に入ると、何が起こるかは知っているかい?」

 なんとなく、とサラが答えると、国王は苦しげに眉根を寄せた。

「森で突きつけられるのは、自分の弱さだ」

 繰り返される、あの日の映像……。
 俺の魔力が暴走し、幼い弟を襲うあのシーン。
 血飛沫を浴びて立ち尽くす俺に、弟が「痛い」と泣きながらすがり付いてくる。

 父と母を病に落としたのが弟ではないかという疑惑も、俺はずっと見ない振りをしてきたんだ。
 父王も王妃も、やせ細った体で「お前のせいだ」と叫びながら、俺を攻め立てた。
 その後、家族も部下も国民も、なにもかもが死体となって、俺に襲い掛かってきた。

 彼らの体はぐちゃぐちゃに溶け、俺を覆いつくしながら叫んだ。

 お前のせいで、この国は滅びるのだと……。

 * * *

 悲痛な告白に、サラは息もできなかった。

 ふと気づくと、テーブルの上には固く握られたいかつい拳が2つ。
 こんなところも、クロル王子と似ているなと、サラは思った。

 サラはそっと立ち上がり、テーブルを回って向こう側へ。
 クロルにしたのと同じように、国王の大きな手を包むと、その指を1本1本ほぐした。
 国王はその手のぬくもりに驚き、鳶色の瞳を細めてサラを見つめた。

「王様、でもこの国はとても豊かで、私は町の人たちが幸せに暮らしているのを知っていますよ」

 サラの澄んだ声が、国王の胸に染み渡る。
 ありがとうと呟くと、サラの手を握り返したまま、国王は話を続けた。

「森で苦しんだ俺を救ったのは、唯一信頼できた……姉の存在だった」

 あなたは、誰にも縛られることはない。
 ただ、好きなことをすればいい。
 いつか、この城を出なさい。
 そして、もっと広い世界を見てきなさい。

 そういって、俺の背中を押してくれた、優しい人。

「気がつくと、俺は森の中央の”神殿”と呼ばれる場所に居た」

 トリウム国で行われる5年に一度の武道大会は、ある伝説がモチーフになっている。
 それは、精霊の森の神殿に辿り着けた勇者は、たった1つだけ願いを叶えることができるというもの。

「そこで俺は……」

 夢見るように語っていた国王が、ふと我に帰ったように瞳の力を取り戻す。
 強く握り締めていたサラの手を、すまないと言って離した。

 サラは、うっすらと残った太い指の痕をチラリと見つめると、大丈夫と首を横に振る。
 座ったままの国王は、そんなサラのしぐさを見てほっと息を漏らし……再びうつむいた。

「ずいぶんと話が反れてしまったな。俺は森の神殿から生きて戻り、それゆえ”英雄”と呼ばれるようになった。その後、国民の後押しを受けて、国王の座についたというわけだ」

 国王の脇に立ったまま、サラはその柔らかい髪を見つめていた。
 この人が下を向く姿は、なんだか似合わない。

 その理由はきっと……。

「あの……弟さんは、どうされたんですか?」

 王弟などという存在は、この国に着いてから聞いたことがない。
 国王の両親が亡くなったことは、想像がつくけれど。

 顔を上げた国王は、サラ姫はずいぶん聴き上手だなと笑い……ギュッと目を閉じると、激白した。

「弟は、俺が帰ってからすぐに、死んだ」

 半ば予想していたものの、国王のあまりにも悲痛な声色に、サラは動揺した。
 前髪に隠されたその表情を確認しようと、ひざをつく。

 国王の瞳は固く閉じられ、その目の縁には光る雫があった。


『弟は、魔女に殺されたんだ』


 サラの心は”魔女”の言葉にも揺るがなかった。
 ただ目の前の英雄が見せる涙を、見たくないと強く願った。

 サラは両腕を伸ばすと、国王の柔らかい髪に触れ、その逞しい体を腕の中に引き寄せていた。

 * * *

 ああ、神様。
 なぜ自分は今、こんなところでこんなことをしているのでしょう?

 正気に戻ったサラは、自分のとった行動が信じられず、固まっていた。

 この腕の中に居るのは、あの偉大で立派で英雄な、国王様だ。
 サラを突き放すこともせず、じっと抱かれるままになっている。
 こんなところも、クロル王子にそっくりだ。
 ただ、この王様は洋猫ではなく、でっかいゴールデンレトリバーだが。

 もじもじするサラに気づいたのか、腕の中の国王はくすくすと笑い出した。

 サラは真っ赤になって、腕を解き、体を離した。
 この人は、すぐ立ち直っていたに違いない。
 そのまま何もせずじっとして、サラのことを試していたのだ。

 サラがブルーの瞳で睨みつけると、国王は楽しそうに声をあげて笑った。
 そして、目尻に浮かんだ涙をぬぐうと、椅子から立ち上がり、立てひざをついたままのサラを軽く抱き上げた。
 小さな子どものように抱っこで立ち上げてもらったサラは、ますます顔を赤くする。

 国王は、サラを抱き上げた腕をそのままに、耳元に唇を寄せた。
 そのとき軽く触れたヒゲが、サラの頬をくすぐったが、告げられた内容に気をとられてそれどころではない。


「魔女は……今ここにいる」


 まさかと表情を曇らせたサラに、国王は思い切り甘く、優しく、ささやいた。


「今ここに……俺の心を盗んだ、可愛い魔女がね」


 逞しく大きな腕が、今度はサラの体を包み込んでいた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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 はい、トキメモ! あー……もうやだ。なんだコレ。恥ずかしすぎる。国王様ゴメン。本格的な幼女趣味キャラに仕立て上げてしまいました。サラちゃん的には年齢差ロリコンライン内なのでOKということで……。さて、精霊の森はホラー映画体感装置でした。そんなとこが本当にあったら、作者はできるだけ遠くへ逃げます。一目散です。妹ちゃんことコーティなんて、あっという間に兄にやられて「ノーー!!」と叫んでグチャッとなってジエンドになりそう。オエップ。あと、魔女って誰だよという話ですが、それはこの先ちょっとずつ。
 次回は、トキメモ最後の一人リグル王子とデート。場所はもちろんアソコです。サラちゃん、久々の男装&バトルでストレス発散?

第三章(5)エール王子を覆う影

第三章 王位継承


 図書館の壁にかけてある時計を見ると、夕食の時間まではまだ少し余裕があるようだ。
 エール王子と会えるなら、早めに会ってしまおう。

 サラは、図書館入り口近くの壁に寄りかかり、本を読みながら待っていたコーティに声をかけた。

「コーティ、お待たせ!」

 よほどその本に夢中になっていたのか、コーティはサラの声に飛び上がって驚いた後、恥ずかしそうに顔を赤らめながら本を背の後ろに隠した。
 その落ち着きの無い態度が今までとは違いすぎて、サラは気になった。

「ん? 何の本を読んでたの?」
「いえ……サラ姫様にお見せするようなものでは……」
「あっ、怪しいなあー。見せて見せて!」
「サラ姫様、これは、本当にちょっと……」

 いくら力の強い魔術師でも、黒騎士サラのスピードに勝てるわけがない。
 逃げようとするコーティの前に立ちふさがり、フェイントをかけて背中側にくるりと回りこんだサラは、その本の表紙を見て……一気に脱力した。

 コーティの指の間から見えたのは、サラの良く知る人物。

 非常にうさんくさい、その笑顔は……


「ゴメンナサイ、私……ファース様のファンなんですっ!」


 どうやら、転写イラスト集『魔術師ファースのすべて~レジェンド・オブ・ファース~』は、この図書館でも人気の1冊らしい。
 コーティは「決勝戦では、サラ姫様のこと応援できませんでした、申し訳ありません!」と、まったく必要の無い懺悔をした。

 * * *

 今向かっているのは、国王の居るフロアにある執務室。
 警備の騎士や魔術師に、いちいち微笑んで王女な会釈をしつつ、サラたちは進んだ。
 ファースのことをカミングアウトしたコーティは、何か吹っ切れたようだ。
 今までの控えめな態度とうってかわって、サラに積極的に話しかけてきた。

「あのファース様と”互角”に戦ったサラ姫様のことは、本当に尊敬しております」

 あくまでも、サラが勝利したということは認めたくない口ぶりだ。
 彼女も実は、大会に出場していたそうだ。
 残念ながら予選で敗退してしまったが、良い経験になったとコーティははにかんだ。

「予選の試合から、ファース様は他の参加者とは違いました。あの軽やかな身のこなしは天翔る神馬のごとく……」

 その後も延々と続くのは、いかに魔術師ファースが強くて、優しくて、カッコイイか……。
 サラが乙女の妄想でお腹いっぱいになった頃、2人は目的地に到着した。

「私はまた、こちらの廊下でお待ちしておりますね。お仕事中ですので、その点ご配慮くださいませ」

 サラはうなずくと、重厚なドアを開けた。
 すぐ近くには王の間があるこの部屋で、1人政務をこなしているのは、第一王子エールだ。
 風の魔術で、サラが来ることは知らされていたらしい。
 サラがひょっこり顔を覗かせると、エールは無表情ながら「どうぞ」と声をかけてきた。

 執務室と聞いて、サラはジュートの部屋を思い出していた。
 薄暗く雑然とモノが置かれた棚。
 大きなデスクに、うず高く積まれた書類。
 そのイメージは、エールの部屋でガラガラと崩れ去った。

「ずいぶん広くて、キレイな部屋ですねえ」

 きょろきょろと、好奇心いっぱいで明るい部屋の中を見渡すサラ。
 自分に与えられた客間よりひとまわり小さい程度の広さで、人1人が作業をするには充分なスペースだった。

 壁に並ぶのは、ファイルに閉じられ番号をふられた膨大な書類。
 デスクの上には、小さなファイルケースが置いてあるものの、その他には何も無い。
 デスクとは背の低いパーテーションで仕切られた向こうには、商談用スペースだろうか、ソファーとローテーブルが見える。
 窓辺に飾られた細身の一輪挿しと花も、シンプルでセンスが良い。

 ジュートの部屋と違って、隙が無い部屋だ。
 この部屋は、エール王子の性格を現しているのかもしれない。
 そうだとしたら……手強いかも。

 エールは、手にしていた羽ペンをデスクに転がすと、落ち着きのないサラにソファへ座るよう促した。
 ドレスのシワを気にしつつ、サラはソファに腰掛ける。
 エールが正面に座ると同時に、カップ&ソーサーがふわふわと飛んできて、サラとエール王子の前に舞い降りた。
 中には当然、熱々の紅茶が入っている。

 やっぱり魔術ってすごいと、サラは感動した。
 ナチルは「お食事やお茶は手を動かしてこそ心がこもるのです」と、サラの前でこの手の魔術らしい魔術を見せてくれなかったが、これぞ地球人サラの思い描く魔術だった。

「エール王子、スゴイです! お茶美味しいっ」

 ごくごく簡単な魔術に興奮するサラのことを、エールは軽く珍獣を見るような目つきで見つめた。

 * * *

 サラがお茶のお代わりをねだると、エールは軽く引き受けてくれた。
 その間、会話は一切無い。
 いつの間にかエールは、机の上に転がしたはずの羽ペンと書類を魔術で取り寄せ、サラにまるっきり気を使わずに、難しそうな表情でペンを走らせている。

 サラは、自分がこの人物からあまり好印象をもたれず、むしろ警戒されていることを感じていた。
 状況を打開するには、自分から話しかけなければならないが、いったい何を話せばよいやら。

 日本でよくやるように、お天気の話でもしてみるか。
 しかし、この国では暑さ寒さもあまり変わらず、時々雨が降る程度だし。
 突然「今日もこの国は良い天気ですね」と言ったところで、変人扱いされそうだ。

 頭を悩ませたサラは、1つ良いことに気が付いた。
 さっきお腹いっぱいにさせられた、あの話。

「あの、エール王子は、この国の筆頭魔術師と伺いましたが……」

 ようやく顔を上げたエールは、涼やかな一重瞼の瞳でサラを見つめた。
 長い黒髪の後れ毛が、はらりと頬に落ちる。
 クロル王子やルリ姫のように特別な美形でもなく、リグル王子のように愛嬌も無いけれど、なぜか惹きつけられる瞳だった。

 瞳の魅力は、リコやコーティ、そしてグレーの瞳の魔術師にも感じたもの。
 これが、力のある魔術師の証拠なのだろうか。
 だとしたら、ジュートの緑の瞳は……。

 ピンク色の思い出に浸りかけたサラは、目の前の射抜くような視線に背筋を伸ばす。

 そうだ。
 ぼんやりしている場合じゃない。

「私が対戦した魔術師ファースさんとは、面識があるんでしょうか?」

 どうやらサラは、地雷を踏んだらしい。
 エールはサラの言葉に、明らかに苛立ちの表情を浮かべた。

「サラ姫は、この国の魔術師のことを、何も知らないようですね」

 昨日から言われまくっている、その台詞。
 なんだかサラは、自分が単細胞生物のように思えてきた。
 サラが正直に「知りません、教えてください」と言って頭を下げると、エールは敬語を止めて言った。

「筆頭魔術師とは、指名制だ。彼は、俺の魔術の師だった。国民なら誰もが知っていることだ」

 言葉尻に滲む、ほんのりと温かい感情に気づき、サラはエールの瞳を見つめる。
 それはあのお別れの日、魔術師ファースに見た郷愁とも通ずる感情。
 もしかしたらこの2人は、相当仲が良かったのかもしれない。

 しかし、次の言葉でエールの雰囲気は180度変わった。

「だが……彼は俺を裏切った」

 ギリッと奥歯をかみ締める音が聞こえた気がした。

 * * *

 あまりにも苦しげなエールの声色に、サラは思わず尋ねていた。

「一体、何があったんですか?」
「それは、君には言えない」

 エールが、強い感情をあらわにしたのはその時だけ。
 その後は、サラの苦手な”うわっつらの笑顔”を貼り付けた人形のような顔に戻ってしまった。
 サラがどんなに話しかけても「さあ」とか「へえ」しか言わなくなり、最後は「そろそろ仕事に戻りたいんだが」と言った。

 サラは、仕方なく立ち上がった。

「また、会いに来ますよ……」

 社交辞令の才能が無いサラは、かなりネガティブな態度が出てしまったのかもしれない。
 しかし、それは仲良くなりたかったのに失敗したという意味の落胆だ。
 対して、エールから返って来たのは、サラ以上に社交性のカケラも無い言葉だった。

「もう来ないでいい」

 さすがにカチンと来たサラは、座ったままのエール王子を見下ろし、強気に睨みつけた。

「私と仲良くしなければ、あなたは国王になれないっていうのに?」
「君に頼らなくても国王にはなれるさ。君を追い出せばいい」

 サラには、エール王子の途切れた言葉の続きが聞こえた気がした。


 和平など要らない。
 ネルギを滅ぼすのは時間の問題だ。


 深く暗い影を落としたエールの瞳は、何か邪悪な魔物に取り付かれているように澱んでいる。
 サラは、エール王子の胸倉を掴み、強引に立ち上がらせた。
 あまりにも乱暴なその行為に、エール王子は瞳を見開き、サラを凝視した。

 背が高いエール王子を、今度はサラが見上げる番。
 クロル王子の専売特許である、美しく怜悧な笑みを浮かべながら、サラは告げた。

「あなたは、人が死ぬところを見たいの?」

 この人も、砂漠の王宮の国王と同じか。
 駒のように人間を動かすのか。

 非難のこもったサラの視線にも、エール王子は屈しない。
 サラの手を振り払うと、一歩二歩と下がり、締め付けられゆがんだローブの首元を整えながら言った。

「君こそ、戦場なんて知らずにぬくぬくと育って来たんじゃないのか?」
「ええ、そうよ。だけど私は、あの砂漠を旅して来た」

 世界を超えて、精一杯努力して、必死でこの旅を続けて来たんだ。
 戦争の無い平和な世界を作るって、皆にも約束したんだから。


「何の私怨があるのか知らないけれど、私の夢を邪魔するなら……許さない!」


 サラの声は低くなり、鋭い視線は黒騎士のものに変わった。
 魔術師ファースを倒したあの瞳を、エール王子は初めて正面から見た。
 窓から差し込む光を受け、泉のようにきらめくブルーを。

 エール王子はサラから目を逸らすと、苦みばしった表情のまま、再びソファへ座った。
 サラは、もう一度エールに歩み寄りながら、冷酷な声色で告げた。

「あなたがこの和平を反故にするつもりなら、私はあなたの敵に回る」

 ドレスが汚れることも気にせず床にひざをつき、エールの顔を斜め下から覗きこむサラ。
 エールは、サラの視線を感じても、うつむき顔を背けたまま。
 サラは、その白い手のひらを伸ばし、ソファに投げ出されたエールの左手をそっと包んだ。

 触れられた手の温もりに驚き、顔を上げたエールが見たのは、1人の天使。


「もしもあなたが、私と同じ道を選ぶなら……私はあなたと、結婚してもいい」


 鈴が鳴るような軽やかな声が、エールの心を優しくくすぐり、風のように通り過ぎていった。
 踵を返したサラの後姿を、エール王子はぼんやりと見送った。

 * * *

 バタンと音が鳴るくらい強くドアを閉め、サラは執務室を出た。
 部屋の中でのやり取りを察していたのか、コーティはエール王子の沈痛な面持ちで頭を下げてきた。

 とりあえず夕食は自分の部屋でと言ったサラを送り届けながら、コーティはあるエピソードを語った。
 サラが少しだけ、エール王子への印象を変えるような話を。

「エール様には、他の何にも変えられない望みがあるのだそうです」

 あくまで先輩の魔術師から聞きかじった話なのですがと前置きして、コーティは言った。

「エール様のお母様が亡くなった話は、聞いていらっしゃいますか?」
「ああ、確かずいぶん前に不慮の事故でと……」
「そうですね……でも、エール様はそれがただの事故ではないと考えられているのです」


『魔女の呪いで、殺されたと』


 サラは、自分の胸がドクドクと嫌な音を立てるのを感じ、ドレスの胸元をギュッと握り締めた。

 魔女の存在とは、いったい何なんだろう。
 まるでこの国に巣食う悪魔のようだ。

「その魔女というのは……一体何者なの?」

 コーティは、悲しげに眉を寄せて、首を横に振った。

「分かりません。この国に住むとも、砂漠に居るとも、または森の向こうへ逃げたとも言われています。エール王子は、魔女を見つけ出して……」

 断言せずに口を噤んだコーティ。
 それ以上は聞かなくても、容易に察することができた。

 王になり権力を持てば、魔女狩りもしやすくなるだろう。
 砂漠の国を自分の領土にしてしまえば、なおさら。
 ただし、そこには何の罪もない一般市民の犠牲も伴うはず。

 どうすればいいのか、分からない。
 判断するにはもっと深く、この国のことを知らなければならない。

「教えてくれてありがとう、コーティ。やっぱり部屋に戻るのは止めるね」

 サラは、強い意思を持って告げた。


「今から、国王に会いに行きます」


 全ての謎を解くために、一番手っ取り早い道を、サラは選んだ。


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 トキメモ……ん? なんか今までに無い空気の悪さ。全部魔女っ子のせいです。作者のせいじゃねーのです。根暗なエール君&ドロンドロンな呪いは、国王様が払拭してくれることでしょう。タイトルの『覆う影』は、イ○スマスを覆う影という怖すぎる本から。これのシリーズを小学校低学年のときに親から買い与えられた作者、見事ホラー嫌いになりました。が、こうしてドロッとしたネタも考えるってことは刷り込まれてしまったということか。人生は刷り込みなんだよベイベー♪(←正しくはすりこ木)ついでにドリトル先生、シートン動物記、ずっこけシリーズも読んでたせいで、今こんなお話書いてます。
 次回、サラちゃんパーティ以来の国王様とご対面。国王様の第三の目、また開きます。めずらしくサラちゃんが振り回される話。口直しにゴーヤのご用意を。

第三章(4)クロル王子の隠れ家

第三章 王位継承


 すっかり打ち解けたルリ姫がサラの部屋を出た直後、リコが到着した。
 お昼前には王城へ着いていたものの、女性魔術師から念入りに身体チェックを受けたため、遅くなってしまったそうだ。

 2日ぶりの再開を喜ぶリコだったが、サラの待遇や男装解除の理由を聞くと、一気に顔色を青ざめさせた。

「サラ様、結婚と言われても、あなたは異界の……その前に、あの盗賊の……ええっ?」

 混乱して目を白黒させながらサラを見上げたリコに、サラは疲れたような諦めの笑顔を見せた。
 リコに少し相談できるかと思ったが、すぐにデリスがやってきて「リコ殿、あなたには早速やっていただく仕事があります」と告げ、有無を言わせず引きずっていった。

 リコの部屋は、デリスの部屋の隣となったそうだ。
 これから厳しい”王妃付き侍女”の訓練が待っているだろう。
 サラは、自分にも厳しい王妃教育が待っていることを忘れ、合掌した。

 * * *

 食事も含めすべてを後宮エリアで行っていたサラに、王城内を自由に出歩く許可が出たのは、リコが到着した翌日だった。
 午前中とお昼は、デリス直々の王妃教育に当てられるのだが、午後~夜は好きなように過ごしても良いとのこと。
 サラは、どこか腑に落ちないような、誰かに踊らされているような感じがしつつも、与えられた自由にとりあえず喜んだ。

 手回しが良いことに、サラにはお目付け役があてがわれた。
 堅苦しいテーブルマナー授業付きのランチが終わった後、デリスが連れてきたのは、グレーのローブをまとった魔術師の女性。

「後宮を除いた王城内の散策には、この者が付き添います」

 ややくすんだブロンドヘアを持つ、サラより少し年上の落ち着いた女性だった。
 リコと同じく、この王城に勤める魔術師では、一番力が強いという理由で選ばれたそうだ。

「私はコーティと申します。サラ姫様、どうぞよろしくお願いいたします」

 昨日長時間ルリ姫を見ていたサラだったが、コーティのことも別の意味で美しい人だと思った。
 全体的にパーツが薄く、すっきりとした知的な顔立ち。
 控えめな笑みは儚げながらも、笑うと頬に浮かぶえくぼがかわいらしく、親しみやすい雰囲気がにじみ出る。

「よろしくね、コーティ。早速だけれど、どこか面白いところへ連れて行ってくれない?」

 サラの、ある意味姫らしくないくだけた態度にコーティは戸惑ったようだが、すぐに「では、良いところがございます」と言った。
 魔力が強いだけでなく、頭も良い女性なのかもしれないと、サラはコーティのことを好ましく思った。


 長い廊下を歩きながら、コーティは自己紹介をしてきた。

「実は私も、この王城に仕えるようになってまだ日が浅いのです」

 市井で家事手伝いをして暮らしてきたものの、大人になってから魔力に目覚め、王城に魔術師として正式採用されたのはほんの数ヶ月前のこと。

「ずいぶん前に父と兄が亡くなり、その後は体の弱い母を介護してきたのですが、先日その母も亡くなってしまって……住み込みで働ける仕事を探していたので、こうして国に雇ってもらえて助かりました」

 サラは、淡々と語るコーティを横目で見た。
 女性にしては背が高く、サラと目線はほとんど変わらないが、そのときのコーティはなんだかとても小さくか弱い少女のように見えた。

 介護というものは、半端なく大変らしいという知識だけはある。
 いろいろなことを犠牲にしなければならないとも。
 そこまで大事にしてきた家族が亡くなってしまったということは、どんなにショックな出来事だろうか。
 しかも、家族が誰もいなくなってしまったなんて。

 サラの目に映るコーティは、病的なほどに痩せて見えた。
 魔術師の定番であるローブが、体の上でだぶついて、ひらひらと揺れている。
 辛い思いを抱えているのかもしれないとサラは思ったが、深い話に入る前に目的地へ到着してしまった。

「ここが、私の一番好きな場所なんです」

 元々方向音痴のサラは、随分遠くへ歩いて来たということしか分からなかった。
 気づけば、ヒールの踵が引っかかる毛足の長い絨毯エリアから、コツリと足音が響く石畳の塔へと進んでいた。
 人の腕力では微動だにしないだろう、両開きの大きなドアが、コーティの魔術によってで開かれる。

「うわあ……すごい!」

 足を踏み入れたサラは、広い空を見上げるように顔をあげ、感嘆の声をあげた。
 中央が吹き抜けとなった塔の中は、上から下まで全ての壁が、本で埋め尽くされていた。

「ここがトリウム国の、大図書館です」

 本好きのサラは驚喜したが、その直後文字の読めない自分にあらためて気づき、肩を落とした。

 * * *

 5階建ての塔は、一番広い1階が一般書置き場だ。
 月の半分は、市民にも開放される。
 今日は開放日ではないので、人気はほとんど無く静かだった。

 2階以上は、貴族しか手に取ることのできない専門書が並んでいる。
 そして最上階の5階は、王族でもめったに入ることのできない場所。
 魔術師数人がかりの、強い結界魔術で遮られているという。

 サラは「子ども向けに書かれたトリウムの歴史書を読みたい」とリクエストし、コーティに本を何冊か選んでもらった。
 できれば『マンガ・トリウムの歴史シリーズ』みたいなので、ルビ入りの本があれば良いのだけれど……。
 しかし、コーティが持ってきたのは、すべてサラの読めない記号入りの本。
 この世界に、石ノ森章太郎先生は居ないらしい。

 ひらがなしか読めないことを言いそびれ、ちょっと恥ずかしく思ったサラは「やっぱり自分で探してみるね」と、コーティから離れた。

 たまたま調べ物に来ていた貴族が、サラの姿を見てバサリと本を落とすが、サラは気にせずうろうろした。
 カラフルな背表紙の薄い本が並ぶ棚を見つけると、小さな子どもでも届くくらい低い位置にある本を適当に抜いてみた。


『たいようとつき』


 その本は、童話のようだった。
 女神の涙の伝説を思い出したサラは、これにしようと決めた。

 ちょうど肩を叩かれたので、コーティが来たのかと笑顔で振り向くと……。


「こんなところで何してるのかな? 黒騎士サマ」


 そこに居たのは、サラのライバル。
 ルリ姫に似ているけれど、もっともっと嫌味な表情を浮かべた、第三王子クロルだった。

 * * *

 長い階段を昇り、クロルに強引に連れてこられたのは、図書館4階の休憩室。
 といっても、一般市民はもちろん貴族も入ることができない、王族専用の部屋だ。
 特別な呪文を呟いて鍵を開け、部屋にサラを招き入れたクロルは「僕の隠れ家へようこそ」と言った。

 隠れ家の中は、4畳半程度の狭さだった。
 この部屋を作らせたのは僕なんだよと、少年は自慢する。

 黙っているだけで怒っているようにも見える、サラより2つ年下のくせに態度のでかい王子。
 何をしゃべらせても嫌味と自慢にしか聴こえないのは、サラがそういうレッテルを貼ってしまっているせいだろうか?

 小さなテーブルと、折り畳み椅子を2つ並べると、クロル王子はサラに座るよう促した。
 テーブルセットを並べると、もうスペースはいっぱいになる。

 部屋の端には簡易ベッドが置いてあり、枕元にはふせられた本が1冊。
 壁際の小さな棚にはオヤツがぎっしり。
 確かにこの隠れ家は、狭いながらも居心地がいい。

「ちょうど、黒騎士サマと話したいと思ってたんだよね」

 嬉しそうな笑顔だが、どうも作り笑いにしか見えないクロル王子。
 さっきの台詞を聞いてしまったせいだろうか。

 この部屋に着いていくことは許されないと察したコーティは、あっさり「一階入り口でお待ちしていますね」と告げて去っていった。
 クロルは、コーティの後姿を見送りながら言った。

「ふーん。バカばっかりの魔術師にも、多少は気が利くヤツがいたんだな」

 ルリ姫と同じ薄茶色の瞳を細めたクロルは、ツンとすました洋猫のようだ。
 サラは「もしこいつが猫なら、きっと缶詰タイプの餌しか食べないだろうな」と思った。


 クロルは、魔術で水を呼び、炎でお湯を沸かすと、サラに紅茶を淹れてくれた。
 ルリ姫の淹れてくれたものよりは味が落ちるものの、紙コップで飲む紅茶もそれなりに美味しく感じる。

 ふーふーと息を吹き、美味しそうにお茶をすするサラをまじまじと見つめながら、クロルは呟いた。


「まさか、父様が幼女趣味だとは思わなかったよ」


 サラは、昨日の教訓を活かせなかった。

 口に含んだ紅茶を噴出したサラは、小さなテーブル越しのクロルに、思いっきりしぶきを浴びせていた。

 * * *

 サラは、年上だという理由では補いきれないアドバンテージを与えてしまった。
 むっつりと黙り込むクロルに、謝って、なだめて、褒めそやして……土下座寸前でなんとか許してもらった。

「こんな変な女、俺は絶対”お母さま”なんて呼ばないからなっ」

 サラは、スイマセンと呟いて頭を下げた。
 少ない魔力を使って、クロルはもう一度お茶を淹れなおしてくれた。
 口は悪いが、態度は意外と優しい。

「あっ、あとリグル兄にも近づくなよ! 兄さんの相手は僕が見つけるんだからね」

 なんだか昨日とそっくりな展開だなと、サラは内心おかしく思った。

「クロル王子は、お二人が好きなのね?」
「当たり前。あ、でもエール兄も無駄だよ」

 それは、婚約者がいるから。
 昨日、ルリ姫はサラにそう説明したのだが、クロルは違った。

「あの陰険魔術師オヤジが、自分の娘王妃にして、あわよくば自分の孫を国王にしようなんて身の丈完全オーバーな野望抱いてる限りね」

 サラは驚いて、目を見開く。
 昨夜、ベッドの中でサラが推測していたことを、クロルはあっさり告げた。

「ああ、僕が言いたかったのは、さっき一緒に居たあの女も信用ならないってこと。この城の魔術師は全員、黒騎士サマを殺すつもりだと思った方がいいよ?」

 サラは、ぽかーんと口を開けてクロルを見た。
 アホヅラ……と、クロルは内心呆れた。

 決勝トーナメントの黒騎士は、クロルも少し認めるくらいはかっこよかった。
 それ以前に、予選でひと目見たときから、自分はこいつを認めていたんだ。
 さすがに女だとは思わなかったけれど。
 このドレス姿も、男の女装にしか見えないしね。

 クロルがかなり失礼なことを考えている間に、サラは気を取り直した。
 口を引き結び、クロルをブルーの瞳でじっと見据える。
 その表情は、姉のルリをも超えるほどの、鮮烈な美しさだ。
 先ほどまでのアホヅラとのギャップは激しく、クロルは一瞬サラに心を奪われた。

 サラは、パチパチと瞬きをした後、極上の笑みを浮かべた。


「クロル王子って……私の好きなタイプ!」


 その笑顔をしっかり見てしまったクロルは、とっさに目を逸らした。

 心臓の音を、やけにうるさく感じながら。

 * * *

 クロルの性格は、初恋相手の馬場先生に似ている。
 毒舌で皮肉たっぷりだけれど、絶対に嘘はつかない。

「言いにくいこと言ってくれて、ありがとね!」

 不都合な事実を隠そうとする人物が、一番やっかいだ。
 例えば、サラが小学生の頃クラスでいじめられていたときに「先生には言わない方がいいよ」と止めた女子とか。

 問題を無視したり、うやむやにごまかす人間は、何事にも直球なサラとは対角のポジションにあった。
 そんなタイプと同じ組織に入れられれば、ぶつかるのも当たり前だ。
 しかし、その手の輩は「べつに」と何事もない振りをして、表面上の平穏を求める。
 その間に、問題はどんどん進行していくというのに。

 そうだ、今だって問題は確実に進んでいるのだ。
 クロル王子に指摘してもらってよかった。

「クロル王子は、私が誰とも結婚せずに、和平が成り立つと思う?」

 それは、クロルにとっても難しい質問だった。
 クロルが唯一”考えが読めない”と恐れているのが、父王だったから。

「分からないけれど、相当難しいと思うよ。父様が一度言ったことを覆すってほとんど無いから」
「じゃあ、私は誰かと結婚するしかないってことね……正直、誰が相応しいと思う?」

 サラの瞳は、真剣そのものだ。
 このことは、昨夜どんなに考えても答えが出なかった。

 もし国王を選んだら、一番波風は立たないのかもしれない。
 しかし、サラが求めるのは結婚相手ではなく、共犯者だ。
 形だけの結婚をして、和平を成し遂げて、その後サラを解放してくれる人。

 偽装結婚を承諾してくれる相手は、一体誰なのか。
 あの切れ者な国王に、とうていそんな提案が通るとは思えない。

 第一王子エールは、一番王位に近い存在。
 王になりたいという気持ちもあり、婚約者がいるという事実から、サラの提案に乗ってくれるような気もしていた。
 しかし、すでにサラを敵視しているだろう魔術師たちのことを考えると、エールに近づくのはハードルが高そうだ。

 第二王子リグルは、優しい性格という噂だし、サラの頼みを聞いてくれるかもしれない。
 だが、優しい性格ならなおさら、一時でも兄から王位を奪うようなことをするだろうか。

 この目の前のクロルなら、もしかしたら一番話が早いかもしれない。
 でも、彼はまだ13才だ。
 和平が正式に成立するまで、2年待たなければならない。

 あの予言を覆すなら、今がチャンスだ。
 仮でもいいから、一刻も早く和平を成立させたい。
 いっそ、王子たち全員に本音を伝えて、協力を仰いでみようか。

 サラが、自分の考えにのめり込みそうになったとき、クロルがポツリと言った。

「一番国王に相応しいのは……リグル兄だ」

 整ったクロルの表情が、苦しげに歪められた。
 その表情に、クロルの本音が垣間見えた気がした。

「エール兄は、魔術師の手先だ。信用できない。リグル兄は信用できる」

 サラは、テーブルの上で固く握られたクロルの手をとった。
 一瞬泣きそうな顔で、サラを見上げたクロル。
 力の入ったその華奢な指を、豆だらけの指で1本ずつほぐしていく。

 指がほどけて力の抜けたクロルの頭に、サラは手を伸ばした。
 その細く柔らかい薄茶色の髪に触れ、やさしく撫でる。
 やめろと反発するかと思ったクロルは、猫のように目を細め大人しく撫でられていた。

「クロル王子は、とても良い子だね」

 本当は、エール王子のことも好きなんだ。
 本当は、自分の力でこの状況をなんとかしたいんだね。

 王になりたい、エール王子。
 王にさせたい、魔術師たち。

 魔術師を警戒するクロル王子の判断は、なんとなく正しいような気がする。
 このままでは、確実にエール王子とクロル王子は対立するだろう。
 そうなったら、ルリ姫の努力が水の泡になってしまう……。

 とにかく一度、エール王子と会ってみた方がいいかもしれない。

「いろいろ教えてくれてありがとう。私、エール王子と話してみるね」

 サラが笑って立ち上がると、クロル王子は慌てて引き止めた。

「あの、待ってサラ姫!」
「なに?」

 サラの黒いドレスの袖を掴んだクロルは、出会った当初の強気な表情を取り戻していた。

「魔術師のほかにも、注意すべき相手がいる」

 クロルの言葉は刃となり、サラの胸を貫いた。


『この王城には、魔女がいるんだ』


 呆然と立ち尽くしたサラのドレスを離すと、クロルは「国王に近づくときは、呪われないように気をつけて」と皮肉げな笑みを浮かべ、じゃあまたねと立ち去った。

 しばらく隠れ家で佇んでいたサラは、パシンと両手で頬を叩くと、入り口で待つコーティの元へ向かった。

 テーブルの上には『たいようとつき』の絵本が残された。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 サラちゃんとクロル王子のラブラブ図書館デート……というより、商人&悪代官デート? クロル君、皮肉屋だけど良い子です。賢すぎて大人をあまり信用できなくなっちゃったとこもアリ。本音と建前使い分けるタイプの人、作者も苦手。幸いサラちゃんは本音ダダ漏れタイプなので、クロル君もすんなりオープンマイハートしてしまいました。でもまだラブには1歩手前。コーティちゃんは、例の妹ちゃんですね。幸せに……と思ったら、なぜかスパイ活動中?魔女っ子ネタもちらっと出てきましたが、またこの辺はおいおい。
 次回、サラちゃん2人目のエール王子とデート。こいつもかなり捻くれてて手ごわいタイプです。普通の女子なら……ですが。

第三章(3)王位を狙う者たち

第三章 王位継承


 王の宣言後、サラの立場は一気に変わった。
 ほんの1日ねぎらわれるだけの勇者から、未来の王妃へ。

 しかも、サラの選んだ相手が次期国王になるというのだから、王城中が上を下への大騒ぎだ。
 サラは自動的に、王城内に軟禁されることとなった。

 * * *

 ここは王城の再奥にある、いわゆる”後宮”にあたる場所。
 男子禁制の、完璧な女の園だ。
 国王には、妻である王妃どころか妾も居ないらしく、暮らしているのは女性魔術師や侍女ばかり。
 ルリ姫や、国王の側近である銀の髪の美女の部屋もある。

 サラは、特別なゲストが泊まる客室に落ち着いていた。
 窮屈なドレス、つま先の痛い細身の靴、お姫様メイクにヘアアレンジ。
 あのパーティから3日連続でそんな格好をさせられ、後宮に閉じ込められている。

 苛立ちを募らせたサラは、そっとドアを開いた。
 首から上だけ出して左右を確認すると、廊下へと身を滑らせる。

 左右に広がったワインレッドの絨毯。
 どちらが城門方面だったかなと、サラがきょろきょろ首を動かしたとき。

「サラ姫様?」

 廊下の角から、お茶の乗ったワゴンを押してやってきたのは、侍女頭のデリスだった。
 ワゴンの車輪をガラガラと鳴らして駆け寄ってきたデリスに、サラはばつが悪そうに口を尖らせて言った。

「あの、私……一度領主館に戻らせて」
「いけません」

 サラの部屋に出入りできるのは、限られた人物のみ。
 若い侍女は入れ替えられ、顔を見せるのは古参の侍女ばかりになった。
 特に侍女頭のデリスは、サラが王妃となるまでの身の回りの世話……という名の、王妃教育に乗り出したようだ。

「でも、私の仲間たちが心配し」
「ご心配なく」

 今日のデリスは、いつもはかけないメガネ付き。
 サラの台詞を最後まで言わせず、曇り一つ無いメガネをギラリと光らせる。
 小柄な老女のくせに、この威厳は一体何なんだろう。
 武道大会のライバル以上のプレッシャーだ。

 他の侍女から噂に聞いたところによると、国王の企みを事前に知っていたのは、このデリスだけだったという。
 それは、単なる侍女頭というだけではなく、この国を動かす影の実力者ということだ。

「じゃあ、リコ……私の連れてきた、ネルギ王宮の侍女だけは呼び寄せ」
「いいでしょう」

 サラは、一瞬否定されたかと思い「あれ?」と小首を傾げた。
 見下ろしたデリスの表情は、少し和らいでいた。

「すでに自治区領主様には、その旨伝えてあります。今日中にも侍女は到着するでしょう」

 サラには、デリスがちゃんと血の通った人間だったことに気づき、パアッと表情を明るくした。
 サラは思わずデリスに抱きつこうとしたが、素早い身のこなしでするりとかわされてしまった。

「サラ姫様。あなたは日ごろから行動が開放的過ぎるようですね。これから徹底的に……」

 サラは、再び冷酷な教育者の表情に変わったデリスに、一歩後退った。
 そのとき、慣れないヒールでドレスの裾を踏んづけ、ぐらりと後方へ体が傾いた。

「サラ姫様っ!」

 倒れつつも、サラは冷静に考えた。
 大丈夫、倒れたところでフッカフカの絨毯の上だし。


『フカッ……』


 ほらね、こんなにやわらかい……。

 やわらか……。

 ん?


「サラ姫様、あなた何をしてらっしゃるの?」


 サラを受け止めたのは、ルリ姫の豊かな胸だった。

 * * *

 サラの部屋に初めてやってきたルリ姫は、部屋の中をぐるりと見回して「狭いし、何も無い部屋ね」と言った。
 2人分お茶の用意をすると、デリスはあっさり下がってしまった。
 サラから見ると、広すぎて落ち着かない一流ホテルスイート並の部屋に、感じの悪いルリ姫と2人きり。

 妖精ルリ姫は、いつも淡い色の華やかなドレスを好むようだ。
 黒でシンプルなドレスが並んだサラ用のクローゼットを勝手に開けて「あなたって、ずいぶん陰気な色を好むのね」と呟く。

 それを用意したのは国王ですよとサラは言いかけ、とっさに口を噤んだ。
 この国では、国王は神と同等。
 国王のことを貶めるような発言は禁句と、初日の夜にデリスから何度も何度も言われていた。


 一通り室内チェックを終えたところで、ルリ姫はサラの座るテーブルの対面に腰掛けた。
 ルリ姫が歩く姿は、百合の花のようだ。

「ところで、サラ姫」
「はい……なんでしょう?」

 まだ湯気の立つティーカップを摘んだ指の細さ、美しく磨かれた爪に、サラはうっとりと見とれる。
 ちょっと真似して、優雅にお茶を飲む振りをしたサラだが、自分の手はまだまだ戦う者の手。
 全体的には細身なものの、関節がごつごつと太く、固くなった手の豆も目立つ。

 でも、この指を、あの人は好きだと言ってくれた……。

 サラが懐かしむように微笑んで、紅茶を口に含んだとき。


「それにしても……お父様は、幼女趣味なのかしら?」


 ルリ姫の言葉に、サラは口の中の茶を思い切り噴出した。
 お茶がドレスの裾にかかり、悲鳴を上げるルリ姫に、サラはゲホゲホとむせ返りながらゴメンナサイと言った。

 * * *

 デリスが飛んできて、簡単に染み抜きしてから……またルリ姫と2人きり。
 先ほどより何倍も気まずい気持ちで、サラは淹れなおしてもらった紅茶をすする。
 飲んでも飲んでも、喉が渇いて仕方ない。

 ルリ姫は、明らかに不機嫌な表情だ。
 そんな顔も可愛らしいと思えてしまう。

「まったく、あの黒騎士様がこんな失礼な小娘だなんて……信じられないわっ!」

 サラは、もう何度目かのゴメンナサイを繰り返した。
 なんなら今すぐにでもこのドレスを脱いで、クロゼットにしまってある着慣れた戦闘服に着替えて、この城を出てもかまわないのだが。
 しかし、まだバリトン騎士から黒剣を返してもらっていないので、城を出るに出られない。

 もしかしたら、黒剣は人質……モノ質にされているのかも。

「黒騎士様ならって、少し思っちゃった自分がバカみたい……」

 眉間にシワを寄せながら、ぶつぶつと独り言を呟いていたルリ姫は、残った紅茶をぐいっと飲み干すと、立ち上がってサラに指を突きつけた。

「とにかく、私はあなたがお父様と結婚するのは反対! ついでに、リグル兄さまもダメ!」

 サラは、ルリ姫の剣幕に驚きつつも、言われた内容を咀嚼する。
 ルリ姫は、王と第二王子のリグル様が好きなんだな。
 なんだか素直で可愛い人だ。

 サラより1つ年上の16才というルリ姫は、神秘的な見た目と違って中身はとても女の子らしい。
 一気に身近に感じたサラは、うんうんと孫を見守るおばあちゃんのようにうなずいた。

「ルリ姫は、お二人が好きなのね?」

 サラの言葉に、ルリ姫は白い頬を染める。

「そうよっ、2人は絶対にダメ! でも、エール兄様にはずっと昔から婚約者がいらっしゃるの。クロルはまだ13才よ。成人するまでは結婚できない。それ以前に、クロルは国王なんてめんどくさいポジションに興味がないの。だから、あなたには相手がいないということになるわねっ。王妃の座は諦めて、とっとと国へ帰ってちょうだい!」

 一気にまくし立てると、強気に微笑んだルリ姫。
 次の瞬間には、大きな瞳を見開いて「少し……言い過ぎたかしら?」とか細い声で続ける。

「でも、私は謝らないから!」

 ちょっと涙目で頬をぷくっと膨らませたルリ姫が、あまりにも可愛らしくて。
 サラには、あのスイッチが入ってしまった。

「では、ルリ姫。あなたが私の国へ来てくれますか?」

 ルリ姫の前に跪き、その小さな左手を取ったサラは、当たり前のようにその手の甲に口付けた。
 初めて受けた求婚の口付けに、高鳴る鼓動。
 めまいを起こしかけたルリ姫を真っ直ぐ見上げるのは、きらめくブルーの瞳。

 まるで、あの日の黒騎士がここに居るようだった。
 とてつもなく強いあの魔術師を倒し、流れる汗をぬぐいながら、自分のことを見据えた彼が。

 二人は、しばらく姫と騎士として見詰め合っていた。
 サラがルリ姫の手を離すと同時に、耳の先まで真っ赤になったルリ姫は、絨毯の上にペタリと座り込んだ。

 * * *

 サラはまた1人、少女をたぶらかしてしまったらしい。
 言いたいことを言い、部屋を出ていくかに思えたルリ姫は、本格的にサラの部屋に居座った。

「別に、あなたのこと嫌いとか、追い出したいわけじゃないのよっ。誤解しないでよねっ!」

 自ら紅茶のお代わりを注ぐルリの頬は、少しピンクに染まったままだ。
 なんだかだんだん、この王女が逞しく見えてきた。
 サラは、お茶を一口飲むと、その芳醇な香りに驚き「とても美味しいです」と微笑んだ。

 サラの視線を避けるようにうつむいたルリ姫は「そりゃ、お茶はずっと私が淹れる担当だったんだから……」と、怒ったような口調で呟く。
 その返事に違和感をもったサラは、尋ねた。

「王女様が、お茶を淹れられる担当なのですか?」

 花嫁教育の一環なのだろうか?
 不思議そうなサラの表情を見て、ルリ姫はようやく平静を取り戻したようだ。

「あなた、この国の王族について、何も知らないのね?」

 サラが素直にうなずくと、ルリ姫は「じゃあ教えてあげるわ」と、高飛車に言い放った。


「もともとお父様……国王は、ずっと独身なの。なぜか結婚されなくて。私も含めて王位継承者は皆、王の姉の子ども。私の本当のお父様は、普通の貴族なのよ」

 ルリ姫が語ってくれた話は、サラの知らないことばかりだった。

 国王の姉である王女は、恋仲になった一般貴族の男性へ嫁いで、3人の男の子と1人の女の子を産んだ。
 その貴族は、ちょうど国境エリアを所有地としていたことが悲劇となった。
 クロル王子が産まれた年に、父親は戦死。
 4人の幼い子どもを抱えた王女は、王城へ戻ってきたものの、しばらくして不慮の事故で亡くなってしまった。

 それから数年かけて、国王は側近たちを説得し、4人の子どもを自分の養子とした。
 正式な王位継承者として教育がスタートしたのが、第一王子エールの成人直前。
 ルリ姫が8才になる頃だったという。

 黒髪の父の血を強く受け継いだ兄2人は、魔力と武力を。
 栗色の髪の母に似た妹と弟は、知恵と美貌を。

 それぞれ才能と魅力を兼ね備えた4人は、徐々に王城内の反対派の心を溶かしていった。

「今まで、王位を継ぐのはエールお兄様というのが、暗黙の了解だったの」

 15才の成人を迎えたときから、警護をするという名目で王の傍へ寄り添い、帝王学を学んできた長兄。
 しかし、国王はまだ充分若く、この先実子をもうけないとも限らない。
 穏やかなように見える王城内は、次期国王の座を巡り、いくつかの派閥へと分かれたという。


 まずは、高齢の侍従長を筆頭とした、国王派。
 侍従長は、国王になんとか結婚してもらおうとさまざまな策を練ってきたが、すべて失敗に終わったらしい。
 特にこの数年は、国王の側近であり”月巫女”と呼ばれる銀の髪の女性との仲を取り持とうと画策してきたそうだ。

 第一王子エールを押すのは、魔術師団。
 現在、魔術師長の娘が、エールの婚約者におさまっている。
 魔術師長は、国王が引退するタイミングで自分の娘をエールと結婚させ、王妃とする腹づもりだ。

 第二王子リグルを押すのは、騎士団。
 しかし、第二王子は「エール兄を次期国王に」と公言しているため、表立った活動はできていない。
 誰にでも気さくに接するリグルは、国民や王城内のファンも多いので、騎士団はきっかけさえあれば彼を担ごうと狙っている。

 第三王子クロルを押すのは、文官庁。
 まだ成人前ながら、恐ろしい知略を用いてネルギ軍を撃退していくクロルに、誰もが心酔している。
 若い頃の国王に容姿が似ていることもあり、2年後の成人を待ちかねるている人間も多いという。

 * * *

 一通り説明し終えたルリ姫は、ふっと吐息をつき、冷めかけたお茶を飲んだ。

「なんて、けっこうドロドロした状況なんだけれど、私たちはそれなりに仲が良いのよ? 定期的にお茶会もしているしね」

 頭の中で話を整理していたサラは、慈しむような瞳でルリ姫を見つめた。
 なんとなく、彼女のポジションが分かったから。

「ルリ姫……あなたはずっと王子たちの間に入って、気を使ってこられたのですね?」

 父の死とともに王族となったルリ姫が、なぜお茶汲みを続けてきたのか。
 それは、3人の兄弟をお茶に誘うためだったのだろう。
 王位継承者となっても、兄弟が1つの椅子をめぐり憎しみ合うことがないように。

「そっ……そんなこと、私は考えてなかったわよっ! ただ、みんなが私にひどいことを言うから……」

 ルリ姫だけは、女だから要らない。
 早く大陸へ嫁いだ方がいい。
 あの森が、これ以上増殖する前に。

 心無い声を思い出し、悔し涙を滲ませたルリ姫の肩を、サラはそっと抱き寄せた。

 王城にいれば、優雅に楽しく暮らせるなんて嘘だ。
 ルリ姫の味方は、残された兄弟だけだった。
 だから、争って欲しくなかったのだろう。

 サラの胸にもたれかかったルリ姫は、夢見るような表情でささやく。

「お父様が、ルリに”大陸へは行かないでいい”って、言ってくださったの……」

 自分もワガママを言って、結婚していないのだからと。
 いずれ好きな男を見つけるまで、いくらでもここに居たらいいと。
 大陸から届いた”妖精”を所望する手紙を、すべて捨ててくれた。

「あとね、リグル兄さまが、いつもルリを守ってくれたのよ」

 無意識に自分をルリと名前で呼ぶルリ姫は、無垢な少女そのものだった。
 その背にサラの温かい手のひらを感じ、ルリ姫はいつしか自分の胸のうちをすべてサラに吐き出していた。

「だから私、決めてるの。絶対にリグル兄さまみたいな強くて優しい人と結婚するって」

 この世界では、ちょうど結婚適齢期を迎えているルリ姫。
 先日の武道大会を、誰よりも胸ときめかせて見守っていたらしい。

「もしもあなたが男だったら……ううん。リグル兄さまとはタイプが違い過ぎるわね」

 少し泣いてしまったことをごまかすように、照れ笑いしたルリ姫は、サラが見てもドキドキするような可愛らしさで。
 この笑顔を向けられては、どんな男でもイチコロなのではないだろうか。


 そう、例えばあのカタブツな男でも……。


 サラの頭に、リグル王子に雰囲気の似た1人の剣士の姿が浮かんだが、それは無いかと慌てて打ち消した。

 * * *

 その頃、領主館の道場では、訓練を終えたカリムが「ヘクチッ!」と大きなくしゃみをした。

 カリムは、寂しがったサラが自分のことを思い出しているのかもしれないと、ポジティブな勘違いで1人胸を熱くしていた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 サラちゃん、ちょいツンデレなルリ姫とのラブラブタイムでした。この回のテーマは、王城内のどろどろ派閥説明……あーめんどくせ。もういいじゃん、じゃんけんで決めればさー。と、王様も思ってサラちゃんに放り投げたのかも。この状況でサラが決定権を持ったら、誰がどう出るかもう分かりますよね? あっちこっちで持ち上げたり足ひっぱったり、権力拡大を狙う側近たちも大変です。王子たちもなかなか難しい立場になりそう。妄想中のカリム君が一番幸せってことで。あ、サラの元に移動中のリコが一番幸せかな?
 次回から、本格的トキメモ始まります。まずは誰のところへ行こうかな~。一番落としにくそうなアイツにするかなっ。(←ゲームくりえ痛ー)

第三章(2)王の策略

第三章 王位継承


 王の隣に用意された席に座ったサラは、次々と話しかけてくる貴族たちに笑顔で対応していた。
 縦一列、ずらりと並んだ貴族たちの先頭に立った人物の台詞は、ほぼ決まってこの一言。

「まさかあの黒騎士が、このような美しい女性だったとは!」

 サラが、花の髪飾りを揺らせながら「ありがとうございます」と礼をすると、貴族たちは赤くなり口ごもってしまう。
 後ろに立つ順番待ちの貴族に背中をつつかれ、最後は強引に横にどかされると、また次の貴族から同じ台詞を聞かされる。
 サラは、再び笑顔で一礼。

 サラの口元にできたほうれい線は、深くなるばかりだ。

 * * *

 音楽隊が、蛍の光ポジションにあたるだろう切なげなメロディーを演奏する中、ようやく貴族たちは去った。
 名残惜しそうな表情で、サラの方を振り返りながら。
 一部、サラと顔見知りの人物は最後まで残り「黒騎士様、またお会いしましょう!」と、笑顔で手を振っていた。


 アレクに武道大会の観覧チケットをくれた、あの上位貴族の母娘が目の前に現れたとき、サラは内心動揺した。
 ずっと隠していた秘密がバレたのだ。
 特に、少女の方は自分を男として、あんなにも慕ってくれていたのに。
 嘘つきとなじられても仕方が無いと覚悟した。

 ところが、少女はサラの想像と逆のリアクションを取った。
 サラと目が合った瞬間、そのつぶらな瞳から涙をポロポロとこぼしたのだ。

 可愛らしい女の子の涙を見ると、サラにはあのスイッチが入るらしい。
 決勝後のリコにしたように、少女にごめんねと囁き、抱き寄せ、頬をこぼれ落ちる雫を唇で吸い取った。
 その行為後、顔をゆでダコのように真っ赤にしてふらつく少女を抱きとめた母親は、サラと我が子を交互に見つめながら楽しそうに笑った。

 そんなサラのフェミニストっぷりを、横目で見ていた王族たち。

 第一王子エールは、正真正銘女であると確認した上で、黒騎士への警戒をほんの少し緩めた。
 第二王子リグルは、全力での手合わせが難しくなったことに落胆し、肩を落としていた。
 第三王子クロルは、黒騎士の行動にへえとかふーんとか呟きつつ、貴族たちを観察している。
 王女ルリは、笑顔を維持しつつも、無残に砕け散った妄想の後始末に必死だった。


 貴族たちが去った後には、この国に仕える騎士、魔術師、文官たちの重鎮だけが数名ずつ残った。
 サラをこの会場へと案内した侍女頭デリスの指示で、貴族たちが退席していく僅か数分のうちに、ビュッフェ等の片づけが終わっていた。

 これから、約束の時間が始まるのだ。

 * * *

 王は椅子から立ち上がると、サラの正面へと歩いてきた。
 武道大会で見たとおり、いやそれ以上の威厳がある。
 王が一歩足を踏み出すたびに、穏やかだった空気が冷たく引き締まっていくようだ。

 砂漠の国で、病に伏せていたあの王とは、何もかもが違った。
 王の瞳の光や、鍛えられた体から発せられるオーラを見れば分かる。
 こんな人が守る国を、簡単に奪い取れるわけがないのだ。

 サラは胸に手を当てる。
 薄い生地が幾重にも重なりあうドレスの胸元に仕込んだあの書状。
 ようやく渡せるときがやってきた。

「では、勇者よ。汝の望みを告げよ」

 王は、サラの前に立ち、座ったままのサラと目線を合わせた。
 見下ろされる形になったサラは、鳶色の瞳に込められた力が強まったのを感じた。
 サラはごくりと息を飲んだ。

 礼儀作法など考えられぬままに立ち上がったサラは、胸元へと手を入れる。
 一瞬、魔術師と騎士がピクリと緊張したが、取り出されたものは武器ではなかった。
 保護の魔術がとっくに消え、よれてボロボロになった書状を、サラは王へと差し出した。

 王は何か考えるように、たくわえた口ひげを指でこすると、サラの差し出した書状を受け取った。
 やや乱暴にその書状を開き、目線を一瞬斜めに走らせ……

「なるほど。そういうことだったのか」

 呟いて、また笑い声をあげた。

 王子たちも、部下たちも、なにより王のすぐ斜め後ろに立つ美しい女性も、王の笑い声にもう何度目かの強い違和感を感じていた。
 彼らは、このような公の場で、王の笑顔など見たことが無かった。

 彼らにとって王とは、神と同等の存在。
 何よりも優先され、敬われ、畏怖されるのは、その雄々しさとこの国を支えてきた実績ゆえ。
 今見せる笑みも、くだけた口調も、彼らの神たる理想の国王像にひびを入れるものだった。
 今日は何かが起こる……そんな予感に、彼らは体を固くしていた。

 そして、次の王の台詞により、彼らの緊張は頂点に達する。


「砂漠の黒いダイヤか……確かに、その黒髪は宝石をも霞ませるな」


 王は、輝くサラの黒髪と、胸元の宝石を見比べながらうなずいた。
 サラは、その変なあだ名やめて欲しいと思いつつも、ようやく使命を果たせる時が来たのだと、心を引き締めた。
 砂漠の国の王宮で習ったとおり、ドレスの裾をつまみ、深々とお辞儀をした。


「私の名前は、ネルギ国王女サラ。トリウム国へ、和平の書状を届けに参りました」


 顔を上げたサラの表情は、気高く、そして凛々しく、まさにあの日の黒騎士そのものだった。

 * * *

 「黒……いや、サラ姫様、よろしければこちらをどうぞ」

 女装ならぬ男装解除させられたときから、なんだかんだ気を張っていたサラ。
 侍従長と名乗る老人から冷たい水が渡されると、一気に飲み干した。
 サラの一挙手一投足を見守っていた騎士や魔術師は、その行動にようやく緊張を解いた。

 やましい謀があるなら、きっとこちらから差し出された飲み物には、安易に口をつけない。
 実際、以前王城にたどり着いた和平の使者は、一切の食事や飲み物を「この国の食事は口に合わない」と拒否したのだ。
 試したはずの行為だったが、何も考えずに「お代わりくださいっ!」と満足げなサラを見て、周囲の人間は毒気を抜かれていた。

 その間に、書状は王の手から王子へ、そして文官長、騎士長、魔術師長へと回されていった。
 ネルギ国王の印と共に、サラの身柄を保証することと、和平交渉を望むことの2点が記されただけの簡単なものだ。
 なのに、1人1人がかなりの長時間、その書状を眺めていた。


 トリウム国王は、ようやく肩の荷が下りたサラを労うように、優しく声をかけてきた。
 2人並んで座っているのだから、小さな声でも構わないのだが、わざと国王は声を張り上げる。

「それにしても、砂漠の奥深くに隠されていると噂に聞いたなよやかな姫君は、このような勇ましい人物だったとはな」

 仲良くなろうとしてくれているように感じたサラは、少し砕けた口調で切り替えした。

「私もまさか、男装して武道大会に出場するだなんて、砂1粒も思いませんでしたよ」

 それどころか、今こんな不思議な世界でお姫様することになるなんてね……

 拗ねたようなサラの表情に、王はくすくすと笑う。
 自分が笑うたびに表情を凍らせる人物が、すぐ傍に控えていることには気付かずに。

「その衣装は、急ごしらえの割には良く似合っているな」
「そういえば、このドレスを用意してくださったのは国王だと伺いましたが……」

 サラは、胸元をふわふわと綿帽子のように包む黒い羽を指でつまみ、素晴らしいデザインだと改めて思った。
 もしも、ルリ姫の着ているドレスのような胸強調系のデザインだったら、悲しいことに「スクープ! 黒騎士、女装姿でパーティへ」と、週刊誌に取り上げられてしまったかもしれない。
 羽をいじりながら、ずっと聞きたかったことをサラは思い切って質問した。

「なぜ、私が男ではないと分かったのですか?」

 約3ヶ月もの間、あれだけの人数の前に露出して誰一人疑わなかった、完璧なサラの男装。
 気づいたのは、直接胸に触れた魔術師だけだったのに。

「それは……なんとなく、な」

 国王は、椅子の背もたれの向こう側に、ちらりと視線を送った。
 サラが身を乗り出して国王の視線の先を向くと、表情を強張らせていた側近の女性が、長い銀髪を耳にかけ、軽く会釈した。
 そのやり取りの意味が分からず、サラは首を傾げる。
 もしかしたら、あの美しい女性は特別な魔術が使えて、人の性別を判断できたりするのかもしれない。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」


 国王は、立ち上がった。
 手招きして呼び寄せたのは、近くでサラの様子を伺っていた、3人の王子と姫だった。

 * * *

 軽い挨拶だけは済ませていたのだが、こうしてフリートークするのは始めてだ。
 サラは、なんと言ったらよいか分からず、目の前に並んだ4人の姿を順番に見つめた。

 上の王子2人は、黒目黒髪。
 特に長男のエール王子は、魔術師だけあってその髪を長く伸ばし、今は皮ひもで一つに結わえてある。
 相手がサラに対する警戒心から、不審げに眉を寄せていることにも気付かず、少し前まで自分もあんな髪型だったなー、シャンプー楽だしもうロングに戻れないなーと、サラは懐かしく思った。

 次男のリグル王子は、他の王子たちと違い、健康そのものといった褐色の肌をしている。
 どことなくカリムに似た雰囲気を感じるのは、ストイックな武人のオーラ故か。
 エールと違って、二重まぶたのリグルの瞳は大きく見開かれ、間近で見る美しいサラの姿に釘付けになっている。
 サラは、リグルの半開きの口元からヨダレが零れ落ちそうなことに気付いたが、なんとかスルーした。

 三男のクロル王子と、ルリ姫は、茶目茶髪。
 クロル王子については、サラも噂を耳にしていたのですぐに分かった。
 「クロル王子と黒騎士、どちらが美少年か?」というバトルは、サラのファンクラブでは常に議論されていること。
 ついついライバル意識を燃やし「ああん?」とガン見してしまうサラに、クロル王子も冷ややかな視線を返してくる。

 ルリ姫は、やはり噂で聞くとおり、可憐な妖精そのもの。
 クロルと良く似た顔立ちではあるが、よりふっくらした女の子らしい顔つきで、やや目尻の下がった大きな瞳が印象的だった。
 思わず見とれたサラの脳裏に「なんでーこんなにぃーかわいいのかよー」という、ド演歌が流れかけ、サラは慌てて頭を振った。


 しばらく自発的な会話を待っていた王だったが、誰も一言も発しないため、業を煮やして話しかけた。

「ルリ、黒騎士が女で残念だったな」

 その台詞からワンテンポ遅れて、ルリ姫の顔がみるみる赤く染まっていった。
 「お父様のバカ!」と心の中で呟くも、絶対的な権力者である王にそんなことを言えるわけはなく、ルリはただ俯いて恥ずかしさに耐えることしかできなかった。

「エール、リグル、クロル。お前たちには、喜ばしい結果かもしれないぞ?」

 再び、いたずらを企む王は、ニヤリと笑うと、サラと王子たちを交互に見つめながら言った。
 サラが薄々覚悟していた、あの台詞を。


「和平にあたっては、1つ条件がある……それは、両国の王族が血を結ぶことだ」


 王を見つめ、呆然と立ち尽くす王子たち。
 何も聞かされていなかった側近たちも、衝撃を隠せずにざわつく。
 トリウム王は、ネルギ王族自身が来ない限り和平を進めないと突っぱねた理由を、あらためて説明した。

 もしもカナタ王子が来たなら、ルリ姫を。
 サラ姫が来たなら、3人の王子のうちの誰かを。


「和平は、サラ姫とここにいる王子、いずれかの婚姻を持って成立とする!」


 ひゅうっと小さく口笛を吹いた、1人余裕の第三王子クロル。
 他の王子2人、ルリ姫、そして覚悟していたはずのサラも、有無を言わせぬ王の宣告にただその鳶色の瞳を見つめることしかできなかった。

 * * *

 クロルは、偉大な国王の発言の裏にある意図を考えていた。
 サラ姫と彼女に選ばれた相手が、互いに好意を持ったなら、幸せな結婚になるだろう。
 しかし、和平のためだけに結婚という制度を利用するなら、それはサラ姫を人質としてこの国に留まらせるということだ。

 ま、僕には関係ないけどねと、クロルは仲良しごっこをしている2人の兄が争う姿をイメージし、ほくそえんだ。


「ああ、もう1人候補が居たな」


 まだ頭がうまく働かないサラの傍に寄った王。
 とまどいに揺れるサラのブルーの瞳を見つめ、フッと微笑んだ後、まるで一介の騎士のように跪くと、その白くやわらかな手の甲に口付けた。
 サラの脳裏に、カナタ王子の声が蘇る。


『右手への口付けは、忠誠と親愛を。左手への口付けは……』


 王は、固く分厚い武人の手で、サラの左手を強く握ったまま、上目遣いにサラを見上げた。


「この俺も、今は独り身だ。俺を選んでくれても良いぞ? サラ姫」


 母の予言には無い展開に、完全にパニックとなったサラ。
 手のひらといわず、全身の毛穴からドッと汗が吹き出てくる。
 餌を求める金魚のように、パクパクと口を開いたり閉じたりを繰り返すものの、言葉が出てこない。

 言葉が出ないのは、王子や側近たちも同じだった。
 さすがのクロルも、今度ばかりは他の王子たちと同じように、固まっていた。

 そんな王子たちの表情を、面白そうに見つめる鳶色の瞳は、追加で爆弾を落とした。


「よし、サラ姫が選んだ相手を、この国の国王としよう!」


 俺を選んでくれれば、俺はもちろん嬉しい。
 王子たちを選んでも、俺は楽隠居できて嬉しい。

 立派なあごひげをしゃくりながら「一石二鳥だろう?」とささやいた国王は、英雄の名にふさわしい勇猛な笑みを浮かべていた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 わーい。この物話で一番書きたかった殿方が、実は国王サマでした。ヒゲ&ダンディ!これ最強タッグだな。作者的には「ハイよろこんで!」って即答しちゃいたいくらいですが、そうは問屋が卸しません。サラちゃん、これから複数男子からの求愛攻撃に苦悩。しかし異世界召喚されていきなりこの展開になってたら、まさに正統派の逆ハーストーリーと呼べたんだけど……それだとアマすぎ夢物語すぎてなんだかなーと思うとこがあり、一章二章でサラちゃん頑張らせてみました。というか、三章は一瞬のご褒美タイムです。この先また波乱あるしね……。
 次回から、サラちゃん&王子たちの、もやサマ的ぶらり結婚相手探しの旅スタートです。ルリ姫だけは蚊帳の外でマコトにスイマメーンの巻。
※今回から、小説のルールブックにある”正しい書式”を意識してみました。過去の分もちまちま修正していく予定です。

第三章(1)暴かれた秘密

第三章 王位継承


王城内の大ホールには、5年前をはるかに超える人数が集っていた。

「先日の武道大会は、本当に凄かったなあ……」
「ああ、私は直近の5回分を見ているが、盛り上がったという意味では今回が一番だ」

残念ながらトトカルチョには破れてしまったが、と貴族男性が言うと、話を聞いていた仲間の貴族たちが次々と彼に同意の握手を求めにやってきて、最後は大きな笑い声が上がった。

 * * *

このパーティに参加できるのは、身元の確認できる貴族のみ。
ほとんどが、武道大会を観覧した顔ぶれだった。
騎士や魔術師、政治を動かす文官たちも顔をそろえている。

国の重鎮がこれだけ揃うシチュエーションは、5年ぶりということもあり、久しぶりに顔を合わせる者どうし、思い出話や武道大会の話に花が咲く。

音楽隊や雑用を行う侍女たちも会場脇に控え、王城の料理人が腕を奮った食事などの準備もすでに整っている。
足りないのは、王族たちと、全員が待ち焦がれるあの勇者だけだ。

武道大会を見た者や、パレードに参加した者たちは、黒騎士の華麗な戦いと優美な振る舞いについて、一部誇張を交えつつも止まらないおしゃべりに興じていた。

「静粛に!」

王族専用の入り口ドアが開かれ、カツリと杖の音を立てながら現れた老齢の侍従長が、しゃがれながらも威厳のある声で叫んだ。
20名からなる音楽隊が、国歌を演奏し始める。
やがて王族たちが登場した。


まず現れたのは、国王ゼイル。
よほど上位の貴族でなければ、顔を拝むことも叶わない人物だ。
今日は機嫌が良いのだろうか、射抜くような鳶色の瞳は細められ、たくわえた髭の下の厚い唇がかすかな笑みを浮かべている。

王が壇上に立つと同時に、音も無く現れた巫女が、王の1歩後ろに控えた。
一度も切られたことはないだろう銀色の髪は腰の下まで伸ばされ、シャンデリアの光を受けて輝いている。
はかなくも美しいその存在に、誰もが目を奪われてしまう。
彼女がもしも王の隣に立ったなら、誰もが王妃としてふさわしいと認めるだろう容姿だ。

重厚な国家の演奏に歩調を合わせながら、次々と会場に入ってくる、3人の王子。
王の左隣から、筆頭魔術師である第一王子エール、騎士団長の第二王子リグル、未成年だがいずれ文官長になる第三王子クロルが並んだ。
純白のドレスに身を包んだ、妖精のように可憐な王女ルリは、少し遅れて王に駆け寄りその右隣へ。

王族全員が揃ったところで、音楽はフェイドアウトした。
会場に居た数百名は、間近で見る王族たちの麗しい姿に、ほうっと吐息を漏らした。

 * * *

厳かに進むように思えた祝賀式だったが、侍従長の挨拶を遮るように発せられた国王の一言で、全てがぶち壊しになった。

「本日は、堅苦しいことは抜きだ!皆大いに飲んで食べて、この喜びを分かち合おう!」

ワッと歓声が上がり、音楽隊が再び演奏を始めた。
予定にはない無礼講宣言に、侍従長が顔を赤くして王へと駆け寄ってくる。

「王よ!これだけの人数が集まる中、このような……」
「よいよい、今宵は何も起こらぬわ」

なあ巫女よ?と振り返った王に、巫女は涼やかな髪を揺らし一礼する。
控えめながらも恐ろしい魔力のこもった巫女の視線を受け、侍従長は沈黙した。
笑わない巫女と対照的に、国王はくっきりした二重の下の鳶色の瞳を輝かせ、やんちゃな少年のような笑みを浮かべている。

宣言後すぐに、堅苦しい上着を脱ぎ捨てた第三王子クロルは、いつものように兄へと擦り寄った。
次兄リグルは背が高いため、爪先立ちになり、こそこそと内緒話を持ちかける。

「なあ、リグル兄、今日の父様は何か変じゃない?」

クロルの顔立ちはあまりにも整いすぎて、怜悧な刃物のような冷たい人物と良く言われるが、リグルから見た弟は充分感情表現が豊かだ。
リグルは素直に自分を慕ってくれる弟を、目の中に入れても痛くないほどかわいがっていた。

「ねえ、リグル兄様、今日のお父様ってちょっと変よね?」

少し遅れてルリが駆け寄り、クロルと反対側の耳に、同じことを話しかけてきた。
可愛い弟と妹に左右から見あげられ、リグルは仕方なく国王へと歩み寄る……と見せかけて、長男であるエールの元へ。

力の強い魔術師の証である、その美しく長い黒髪に隠された耳元に囁くのは、弟たちと同じ台詞。
だが、語尾に少し迷いが滲んだ。

「なあなあ、エール兄、今日の父様は何か変……なのかな?」

剣を打ち合うことだけに神経の全てを使うリグルにとって、このような腹の探りあいはもっとも苦手とする分野だ。
何か困ったことが起これば、筆頭魔術師として、また王の後継者として常に王の傍にいるエールの意見を聞いてみるというのは、リグルの常套手段。
弟たちも、直接エールに聞けばよいものを、なぜかいちいちリグルを通すものだから、伝言ゲームのように話がややこしくなるケースもままあるのだが。

「さあな。俺には国王の考えることは分からないよ」

兄弟の中で1人だけ、父王のことを”国王”と呼ぶエールは、かなり生真面目だ。
そんなところも尊敬しているリグルなのだが、時には融通がきかない堅物とも思えてしまう。
素直に感じることを言ってくれればいいのに、確証がないことはすべて言葉にせず飲み込んでしまうのだ。

じっと熱い視線を送っても、上着の袖についているピラピラした布飾りをツンツン引っ張っても、クールな表情を一切変えない兄。
リグルは、王をチラリと見るものの、直接話しかける勇気は出ず、すごすごと元の位置へ戻った。

何の収穫も得られなかったリグルに、グラスを掲げたクロルが「リグル兄さんの無駄足に乾杯」と嫌味を言った。
クロルより少しだけ背の高いルリは、クロルの手にしたグラスを奪い取ると、口の達者な弟を睨みつけた。

「クロル、生意気なこと言ってるならアンタがお父様に聞いていらっしゃいよ!」
「嫌だね。だったら魔女でも誑かして聞き出す方がマシー」
「ちょっと、こんなところで魔女なんて言葉出さないの!」
「いいじゃん、陰で言われるより本人に聴こえた方が」

きょうだい喧嘩を始めかけた2人を、兄が諌めるのもいつものパターン。

「クロル、人の悪口を言うのはやめろと何度言ったらわかるんだ?」

リグルのバトルスイッチが入り、クロルの柔らかな頬が恐怖に引きつる。
慌てて逃げようとするが、兄に武力で勝てるはずもなく、あっさり捕まってしまった。

「いてっ!」

栗色の髪に隠されたおでこの真ん中を狙って、リグルの太い指が弾かれた。
暴力反対と呟くクロルの猫ッ毛頭をくちゃくちゃにかき回し、こめかみにグリグリと拳骨が当てられて、ようやく兄の制裁が終了する。
しょうがないわねと、涙ぐむ弟の乱れた髪の毛を手ぐしで整えるルリ。

1匹の大型犬と2匹の猫がじゃれあうようなやり取りを、横目に見ながら苦笑する兄エール。
現在、兄弟とは少し距離を置いているエールだが、一緒にふざけあっていた幼少期を懐かしく思い返すくらいには仲が良い。

国王は、王子たちやゲストの様子を盗み見ながら、これから起こるハプニングに彼らがどんな顔をするかが見物だなと、こっそり笑みを漏らした。

 * * *

宴もたけなわというタイミングで、国王の耳に侍従長からある言葉が告げられた。
国王が無言でうなずくと同時に、侍従長は音楽隊へと合図を送る。

ホールに響き渡ったのは、勇者のパレード時にも演奏された曲。

貴族たちは、今夜のメインゲストの登場に胸躍らせた。
パーティ会場に来ていた、黒騎士のオッカケである上位貴族の少女とその母親も、試合後に初めて見る黒騎士の姿を待ちわびながら、ホール前方の壇上にある王族用入り口ドアに注目していた。

興奮していたのは、王子たちも同じだ。
あの試合を、あの龍を目の前で見せられて、意識しない者はいないだろう。

「あーあ、あのときリグル兄が止めなきゃ、僕も大金せしめてたのに」

1人リラックスして呟くクロルだが、名指しされたリグルも、他の兄弟たちも、それを構っている余裕はなかった。


第一王子エールの脳裏には、あの巨大な黄金の龍が鮮やかに蘇る。
魔術師ファースの力を誰よりも良く知っているからこそ、あの男を倒した黒騎士への畏怖は強かった。
王を守るための結界を強めながら、エールは黒騎士が現れるドアを凝視した。

第二王子リグルは、黒騎士の流れるような美しい剣さばきをイメージする。
うまく行けば、手合わせするチャンスが作れるかもしれないと、気分を高揚させてドアが開くのを待った。

魔力も武力も少ない第三王子クロルは、兄2人ほど黒騎士に興味は持てなかった。
自分が生まれる頃にこの国を出て行ったという、伝説の魔術師ファースへも、特別な感情は無い。
ただ普段と微妙に違う王の態度から、何か面白いことが起こるのかもしれないと感じ、氷の微笑を浮かべた。

王女ルリの心は、張り裂けんばかりだった。
もしかしたら、黒騎士が望むものは、自分の存在かもしれない。
優勝直後、こっちを見ていた気がするし。
彼に求婚されたらどうしよう……と、乙女な妄想で胸を高鳴らせていた。


「今大会の勇者、入場!」


侍従長の張りのある声で、勢い良くドアが開かれた。

 * * *

勇者を迎える演奏は、すでに終わっている。
先ほどまでの喧騒が嘘のように、ホールは静まり返っていた。

ドアの向こうは薄暗く、15才にしては小柄な黒騎士の姿は、闇に隠れて見えない。
黒い服を着た人物が、少しずつ光の中へと歩んでくるのを、観客たちはもどかしい思いで見つめていた。

初めに声をあげたのは、王女であるルリ。


「え……ええーっ!」


慌てて手のひらで口元を押さえたが、もう遅い。
この場に侍女頭のデリスが居たら「姫様、なんとはしたない!」と睨まれるだろう失態。
エールがルリに注意しようと口を開きかけ……そのまま表情を固める。
リグルは、意味が分からず「え?女装?まさか?」と呟いた。

クロルだけは、王の意図を察し……淡いブラウンの瞳を好奇心にきらめかせた。


黒く柔らかな羽が散りばめられた、瀟洒なドレス。
広く開いたその胸元には、大粒のダイヤをあしらったネックレスが光る。
スレンダーな体に張り付くような光沢のある生地が、細い腰の位置から下はフワリと広がり床へ流れる。
短い髪は白い花の髪飾りでまとめられ、まるで長い髪を結い上げたように見える。

なにより際立つのは、透けるように白い肌。
雪の中に咲く一輪の花のように、紅をさされ艶めく唇。

誰一人、目を逸らせなかった。
頬をうっすらとピンク色に染めながら、うつむき瞳を伏せてゆっくりと会場に入ってきたのは、まぎれもない……美しい少女だった。
しかしその顔は、ここに居た全員が知るあの人物に他ならない。

少女は王の前まで歩むと、貴族たちを背にし、王へと向き合った。
深く一礼した後、スッと顔を上げ、ブルーの瞳を真っ直ぐ目の前の人物に向けた。


「本日は私のために、このような会を開いていただき、どうもありがとうございます」


鈴が鳴るような軽やかな声が、ホール全体に響いた。

遠目に見ていた黒騎士ファンの少女は、母のドレスの裾を強く掴み、ショックに気を失いそうになるのを必至で堪えた。
母親は、お気に入りの扇子を、パサリと床に落としたことにも気付かない。
他の貴族たちも、唖然として目の前の美少女を見つめている。


「ようこそ、勇者よ。本日はゆっくりとくつろぎ、愉しみたまえ!」


国王は、いたずらが成功した少年のように、声を上げて笑った。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
暗黒天使サラちゃん登場シーンでした。というか、この回は王子&姫の紹介がメインだったのですが、どんな感じか伝わったかしら。なんかもうキャラ増えすぎて……あー、どうしよ。もうちょい各キャラの描写入れようかと思ったけど、苦手……いや、展開スピード考えて、まあオイオイってことで。(そのうち誰か絵師さんと仲良くなって、キャライラストでも描いてもらいたいけど……今は空想力で補ってくださいまし……)今回の会話で、予選を見てたのが誰だったか分かりましたよね。仲良し設定なリグル&クロル君でした。妖精ルリ姫ちゃんは、妄想乙女……作者の思うとおりに動いてくれるナイスキャラです。ちょっぴり黒騎士に憧れてたのに残念。
次回、サラちゃんの正体ドーン!お願いエイッ!そんで……またみんなビックリージャンボな展開になる予定です。もちろんサラちゃんは覚悟してる、例の話ね。

第三章 プロローグ ~伝言、キス、そして王城へ~

第三章 王位継承


顔に貼り付けた続けた笑顔により、無表情でもほうれい線がくっきりと現れる今日この頃。
サラの優勝お祝いイベントも、ようやく残すところあと1つとなった。

「サラ様、お疲れ様です」
「ああ、鉄人の入れてくれるお茶が今の私の癒し……」

サラの前に、定番のロイヤルミルクティがそっと差し出された。
領主館のダイニングには、甘いキャラメルの香りが漂う。
少し前に日本で食べた”生キャラメル”をリクエストしたところ、似たような素材で似たような味をあっという間に再現してくれたナチルを、サラは鉄人と呼んでいた。

「今日も……大変な人気でしたわね」

小鍋に入れたキャラメルをかき混ぜる手を止めず、ナチルがキッチンから声をかけてくる。
無言でお茶をすすっていたサラが、盛大なため息をついた。

「もう、アイドル引退したいよー。普通の女の子に戻りたいよー」
「はいできましたよ。夕食前ですし、少しだけですよ」

くすくすと笑いながらナチルが運んできたものは、できたて熱々とろりなキャラメルを冷たいアイスクリームの上にかけた贅沢なオヤツ。
サラの愚痴は、一時強制ストップとなった。


サラが珍しく愚痴りたくなったのには、訳がある。
それは……

「おっ、また美味そうなもの食ってるな」
「サー坊の考えるオヤツ、いつも美味しいんだよねー」

道場から戻ってきたのは、アレクとリーズの兄弟だ。
リコとカリムは、まだ道場の後片付けにこき使われているに違いない。
なんせ、窓ガラスは割れ、飾られた花も軽食もドリンクも……めちゃくちゃにぶちまけられたのだから。

本来ならリーズが「俺やっとくよ」というイイヒト展開になるのだが、今のアレクにはスプーン猫の監視が必要ということだろうか。
サラの対面に座り、同じお菓子をリクエストする2人。
背が高く色白の、スタイルの良いあの人物を思い出し、サラは再び大きなため息をついた。

「まったく、今日は最悪な一日だったな」

サラが10口ほどで食べる量を、丼をかっこむように一口で放り込んだアレク。
口をもごもごさせつつ「おかわりー」なんて言うから、なんて贅沢なとサラはショックを受けた。
リーズは、サラより謙虚にちびちびと味わって、オイシイネーと言いつつその細い糸目をさらに細めている。

この兄弟を足して2で割れば……

いや、あの人を足して、3で割ったなら……

「今日のアレ、気にしなくていいからね?」

サラの思考が漏れているのだろうか、猫背を丸めたリーズがそっと身を乗り出して言った。
気にしてたら生きて行けないし、と続けた台詞は、まさに達観した仙人のようだ。

 * * *

自治区の住民プラス、武道大会前に見学の常連だった少女たちとその親御さんが一同に集った、今日の道場主催パーティ。
かしましい少女たちによるファンクラブ結成宣言の後、簡易ステージの上にあがったサラに、住民たちからプレゼントが渡されるという会のクライマックスで事件は起こった。

前日のパレードで預かったという城下町の住民分と合わせて、トラック1台分と言っても過言ではないほどのプレゼントをもらったサラは上機嫌。
すぐ横で見ていたアレクも、ちょっぴり熟したマダムから多数の貢物をもらい、ホクホク顔だった。
ついでに、数名の女子から心のこもったプレゼント&愛の告白を受けたカリムは、若干ムッツリしていたが。

ファンからの貢物タイムが終わる頃、砦に帰る前のひげ&ボインのカップルもやってきた。
2人で選んだという必殺下着人シリーズ(ヒモパン等)をプレゼントされつつ、サラはこんなことを聞かれたのだ。

「サラちゃん、うちの頭領さまに、何か伝えたいことはある?」

ボインことエシレ姉さんは、相変わらずの露出度ギリギリガールズな衣装で、その姿はまるでビーナスのように美しかった。
ジュートのことを思い出したのと、エロ過ぎる美女を至近距離で見たのと、どちらのせいだかは分からないが、サラは「うわっ」と叫び、慌ててエシレの体を離した。

壇上で行われた美女との内緒話と、明らかなサラの態度の変化に、道場を埋め尽くしていた黒騎士ファンの少女たちがざわついたが、動揺したサラの耳には入らなかった。

ドキドキする胸を押さえつつ、サラは頭を働かせる。

ジュートへの伝言か……
すっかり忘れていたけれど、もしかしたらあのことを、伝えておいた方がいいのかもしれない……

「あの、じゃあ1つお願いします」

サラは背伸びをして、エシレの耳元に唇を寄せた。

「もしかしたら、この先私には”トリウムの王子と結婚する”という噂が流れるかもしれませんが、どうか気にしないで欲しいと……」

エシレがぽってりとした唇を引き結び、怪訝そうな表情をする。
サラは、やはり手紙で伝えればよかったかと、少し後悔した。
突然こんな予言めいたことを言われても、戸惑うのは当たり前だろう。

エシレは、形の良い顎に手を当てて、少し考えるようなしぐさをした後、うんうんと1人うなずいた。

「分かったわ……でもね、私から1つアドバイス」

高いヒールの靴をぐらつかせることなく操るエシレは、腰をかがめてサラに顔を近づけてくる。
真剣な表情に、何事かとサラが身構えると……

「そんな言い方じゃ男は食いつかないわよ?」
「はあ?」
「こういうことでしょ?」

エシレは、ひじき大漁のマスカラ&アイシャドウに彩られた大きな瞳で、パチリとウインクした。


『トリウムの王子にアタシの○○を奪われそうだから、今すぐココへ来て○○して』


なんですか、そのエロ超訳はー!

サラが顔を真っ赤にしてうろたえると、エシレは「可愛い」と呟いて、サラの唇に……


『うにうにうにうに……』


次の瞬間、道場が倒壊寸前になるほどの怒号と悲鳴が沸きあがった。
満足げに微笑んで「バァイ!」と手を振るエシレを、ひげが荷物のように抱えると、窓ガラスをぶち破りあっさりとトンズラした。
サラは、腰砕けになりへなへなと座り込みつつも、あの逃げ足さすが盗賊……と、感心していた。

その後のパニックについては、サラも思い出したくない。

「あの女ブッコロス!」とアシュラ面怒りに変身したアレクを、リーズとカリムが懸命に押さえ込み。
「私もキスのプレゼントを!」と殺到する女子たちを、リコとナチルが結界でなんとかガードした。

興奮したパーティ参加者たち&アレクが道場内を荒らしきる頃、リーズが提案した”サラの握手会”という緊急企画により、ようやくその場は納まった。
なぜか握手の列のラストに並んだアレクは、サラの頬にキスし「しょーがねーからこれで許してやる」と、意味不明な主張をしたのだった。


「それにしても、サー坊は、みんなの前でキスされる運命なのかねー」


あははと笑うリーズと、また苛立ちを募らせたのか「アイスだアイスだ!アイス持って来い!」と乱暴に怒鳴るアレク。

悲劇も嫌だけど、そんな運命も嫌だと、サラは再び脱力した。

 * * *

翌朝、サラは1人王城前に立っていた。
きっちり”国民への義務”を果たしたサラを、バリトン騎士とその部下たちが爽やかな笑顔で出迎えた。
王城へと足を踏み入れたサラは、この先起こるであろう出来事を想像し、軽く武者震いした。

大丈夫、私はちゃんと、みんなのところに帰るよ……

サラが握り締めたのは、リコからもらった新しいお守り。
リコをずっと守ってくれた、水の指輪が入っている布袋だ。
昨日もらったプレゼントは全部嬉しかったけれど、一番嬉しいもの1つだけを持っていくことにした。

城門から真っ直ぐ、城内への入り口へと向かうバリトン騎士に着いて歩きながら、サラは昨夜の出来事を思い出していた。


夜は、内輪だけのお祝いをしてもらった。
領主館のみんなは、サラにとってすでに家族も同然だ。
この世界に召喚される前、お母さんとパパたちに誕生日を祝ってもらったときのように、温かく優しく、満ち足りた時間だった。

パーティでモテモテだったカリムに、アレクが「なあ、どの女と付き合うんだ?やっぱり胸で選ぶのか?」とセクハラオヤジ発言したり。
酔っ払うと空気が読めなくなるリーズが「へー、カリムは女の子を胸で選ぶんだー。若いねー」と便乗し、カリムを真っ青にさせていたっけ。

リコとナチルは、サラの両脇に座って、いつの間にかメイクのレッスンを始めた。
生まれて初めてメイクというものをした結果、まるで宝塚男役のように変身させられたサラは、リコとナチルに絶賛された。
カリムが「似合わない」と言ったので、ではお姫様風にと第二ラウンドへ。

サラがメイクの実験台になったのは、リコが「手に職をつけたい」と言い出したのがキッカケだった。
もしかしたらこの旅が終わっても、リコは砂漠の国に戻らないつもりなのかもしれない。
あのわがままなサラ姫と、閉ざされた王宮で暮らすことを考えれば、自由があり恋するアレクもいるこの国に居たいと願うのは当然だろう。

カリムは……砂漠の国へ帰るだろう。
リコと違って、政治の重要な立場を任されている人物だし。
なによりカリムは、カナタ王子を裏切るようなことは絶対しないはず。

もしも和平交渉が成立したら、砂漠への旅はカリムと2人になるのかな。
盗賊の砦までは、リコやアレクたちも着いてきてくれるかもしれないけれど。

盗賊の砦でジュートと再会し、世話になった人たちにお土産を渡し、笑顔で砂漠へと見送られる……
そんなシーンをぼんやりと想像したサラは、慌てて首を振り「動かないでください!」と真剣な女子2人に怒られた。

仕上がった2回目のメイクの結果、男性3名が呆けた表情でサラを見つめたので、リコとナチルはがっちり握手した。

 * * *

城内に入る前「害意が無いことは分かっているが念のため」と言われ、サラは肌身離さず持っている相棒の黒剣をバリトン騎士に預けた。

「ありがとう。剣はパーティ後に返却しよう。さあ、こちらへ着いてこい」

歩きなれた様子のバリトン騎士に、サラはおとなしくついていく。

初めて足を踏み入れる城内は、荘厳な雰囲気だった。
1歩ごとに足が沈み込むような毛足の長い絨毯と、数々の彫刻がなされた柱、壁の絵画や花、そして天井から吊るされるシャンデリア。
吹き抜けの螺旋階段を昇り、太陽光の差し込む長い廊下を抜け、また次の階段を昇る。

もう何メートル歩かされたか分からない。
あまりの広さに、サラは圧倒された。
砂漠の王宮では、決められたエリアしか移動できなかったが、もしかしたらこの城のようにずっと奥まで続いていたのかもしれない。

この豪華な城で、サラはどのくらいの時間を過ごすことになるのだろう。
母の予言の通り、もしもあの条件を突きつけられるとしたら、しばらくは出られない。
出られたとしても、行く先は戦地だ。
戦地へ行くなら、自分は死を覚悟しなければ……

サラが深く考え込みながら歩いていくと、到着したのは1枚のドアの前。

「中には侍女頭がいる。ここからは彼女の指示に従うように」

バリトン騎士に促され、サラは重いドアを開け中に入った。
中に居たのは、60才くらいの女性と、10~20代の若い女性が4名。
いつもナチルが着ているものより少し落ち着いたデザインの、ワンピース型メイド服を着ている。

背筋がしゃきっと伸び、長い白髪をひっつめた老齢の女性は、隙の無い動きで一礼をした。

「黒騎士様、侍女頭のデリスと申します。今後ともお見知りおきくださいませ」

ナチルを彷彿とさせられたサラが思わず微笑むと、若い侍女たちがキャアと叫び、早速デリスに怒られていた。

サラは、室内をぐるりと見渡した。
南向きなのか、大きなテラスから光が充分差し込むその広々とした部屋は、天蓋つきのいわゆるお姫様ベッドと、白を貴重としたシンプルな家具が置かれた、居心地の良い空間だった。
もしかしたら、この部屋がサラの部屋になるのかもしれない。
この世界に来て、一番の好待遇になりそうだなと、サラは1人ニヤついた。

サラが心の余裕を保てたのは、そこまでだった。

「では、黒騎士様には、今からこちらのご衣装に着替えていただきます」

デリスが差し出したモノを見て、サラは固まった。

「……本当にこれを、着るんですか?」
「ええ。王のご意思ですので」

サラは、戸惑いを隠さずに、しつこく尋ねる。

「……本当の本当に?」
「ええ。王のご命令ですので」

ニッコリと、老獪な笑みを浮かべるデリス。
サラは、この王城での暮らしが一筋縄では行かないことを予感した。


戦闘服の代わりにと渡されたのは、漆黒のシルク生地に黒い羽があしらわれた、1枚の瀟洒なドレスだった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
ようやく王城の中に進みました。RPGで例えると、村一個経てようやく隣国の城か……でも、魔術師君が言ってたように、ここは2国しかない閉ざされた世界なので、ペース的にはこんなもんでしょう。広さは四国くらいかな?その辺は読者さまの想像にお任せ。(←という名の逃げ)エシレ姉さんのメッセンジャー&ちゅーは、最初から予定してた強制イベントです。アレク様、俺だってそこにはしてないのにと妙な嫉妬が。サラちゃんの女装……じゃなくて男装解除も予定通り。トリウム王なかなかの眼力です。デリスさん、初の老人キャラだけど活躍するかは未定。
次回、王城でのパーティ開始。王族もいるし、貴族の皆様も……いきなり黒騎士改め暗黒天使な女子サラ登場でパニックルーム必至。今すぐさあキスをしよう~♪

第二章 閑話4 ~魔術師ファース君の受難 part2~

第二章 王城攻略


この日、市場通り沿いの露店は、一時閉店を余儀なくされた。
といっても、店主たち自身もパレードを見たいのだから、商売どころではない。

周囲を警備の騎士たちに囲まれ、華やかに飾られたパレードの馬車がゆく。

「黒騎士様ーっ!」
「おめでとうございますっ!」

沿道から投げられる花びらが雪のように降り注ぐ中、サラは隙の無い少年騎士の笑みを浮かべていた。
車上から身を乗り出したサラは、あたかも本物の王子に向けられるような熱い視線に、ありがとうと応えて手を振る。
麗しいその姿に、嬌声をあげ、鼻血が出るほど興奮する少女たちを、警備の騎士たちは苦笑しつつも丁寧にケアして回った。

以前から道場へ通っていた少女たちは、そんな熱狂から一線引きつつクールに行動していた。
馬車の向かう先に大きな荷物を持った人物を見かけると「黒騎士様へのプレゼントはこちらへ!」と声をかけてまわる。
ある程度プレゼントを回収すると、集合場所となっている果物店前へと集まって情報交換。

「けっこうな数集まったわねえ……」
「こんなときに、黒騎士様に直接お渡ししようなんて、迷惑って分からないのかしら?」
「ていうか、簡単に黒騎士様に近づけるなんて、大間違いよね!」
「これからのことも考えて、きちんとルールを決めましょうよ」

うんうんと同意しあう少女たち。
こうして自然発生した黒騎士ファンクラブだったが、その後町中の少女を巻き込む大きな組織へと変わっていくのだった。


商店主や、少女の親などの大人たちも、プレゼント回収に協力した。
サラが近くを通過するときは、まるで我が子を見るように愛情いっぱいで見送った。
果物屋の店主など、立派になって……と涙ぐんでいる。
その涙には、明日の桃の売り上げアップ確定という、喜びの涙もちょっぴり含まれていた。

その後根強く続く黒騎士ブームにより、果物店の売り上げが伸び続けた結果、2号店が自治区にオープンするのは近い未来のこと。


自治区の住民たちは、少し離れた高台からパレードを見下ろしていた。
黒騎士の姿は、豆粒程度にしか見えないが、観衆の熱狂っぷりは充分伝わってくる。

身なりもガラも悪い自治区の住民たちは、さすがに間近で見物するわけにはいかない。
こうして格差を感じるとき、必ず恨みつらみの気持ちが募ったものだが、今はそうでもない。
城下町の住民にも、差別をしない人間が居ると知ったから。

なにより、領主であるアレクが、明日道場で黒騎士の祝勝会を開いてくれるというし。
きっとこのパレードより、黒騎士と密接に触れ合えるに違いない。
自治区の住民でよかったと、彼らは初めて自分たちの境遇を喜んだ。

 * * *

市場通りのすぐ傍に立ち並ぶ街路樹。
何の変哲も無い1本の木の上に、黒いフード姿の男が座っていた。
灰色の髪はフードに、灰色の瞳はメガネに隠されている。

「いやー、すごいなあ」

周囲にその声が聴こえず、存在も気づかれないのは、男が魔術で街路樹と同化しているからだ。
この魔術を見破れるのは、たった1人しかいない。
その1人はあの騒ぎの中心にいるのだから、当然木の上の男には気づかない。

今朝早く出発しようとした魔術師だったが、最後にもう一度サラの姿を見たいと思ってしまった。
光の良く似合う、強く美しい少女。
残念ながら、自分には捕まえることはできなかった。

「ま、俺にはお前がいるしな」

なあ、チョビ?

魔術師が胸のポケットを撫でると、小さく「ピュッ」と声がする。
チョビというのが、サラのつけた龍の真名だ。
どういう意味かは分からないが、変な響きであることは間違いない。

チビ龍自体は、その変な名前が気に入っているようだ。
名前を呼べば嬉しそうに応えるチビ龍に、魔術師はそれなりに愛着がわいてきていた。

祝福の花を受けるサラの後姿が、少しずつ遠くなっていく。
その輝く黒髪を瞳に焼き付けると、魔術師は心の中でじゃあなと呟いた。

「さあ、そろそろ行こうか」

あの森へ……


『ピュイッ!』


「えっ……」


その日、パレードを見ていた観衆の一部は、世にも奇妙な光景を目撃した。
1本の街路樹の枝が、ものすごいスピードで空を飛び、北の方角へ消えて行ったのだ。

多数の目撃者が居たものの、何か被害があったわけでもなく、1つの怪異現象として片付けられた。

 * * *

城下町から光の速度で飛んできた、1本の木の枝。
精霊の森の入り口に墜落すると同時に、それは人間の姿へと変わった。

魔術師ファースである。

しばらく土の上に倒れていたが、胸の奥で「ピスピス」となにやら悲しげな泣き声がするので、仕方なく起き上がった。
マントの土ぼこりを払いながら、魔術師は胸に向かって低い声で呟く。

「ああ……ちょっと強引で乱暴だったけどね、怒ってないよ?」

ただこれからは”加減”というものを学ぼうね?

ひくひくと口の端を引きつらせながらも、魔術師はなんとか笑顔を作った。
まだ手乗りサイズなチビっ子のくせに、こんな馬鹿げた力を持つこの龍を、どうやって調教するか……
頭を抱えたくなった魔術師だが、ぴゅーぴゅーと謝るような鳴き声に最後は折れた。

「ま、ずいぶん時間短縮できたってことは、褒めてあげよう」

魔術師が、胸からお守りを取り出そうとしたとき。
聴こえたのは、かすかな人間の足音。

こんな危険な場所に来るような物好きは、いったい誰だろう?

足音は時折乱れながらも、駆け足を崩さない。
森へと続く小高い丘を登って現れたのは、1人の女だった。

「待って……お待ちください!」

背中まである長いブロンドの髪を振り乱し、何度か転んだであろう汚れた服のまま、なりふり構わず駆け寄ってくる。
必死の形相から、敵ではないと感じるものの、ファースの知る人物でもない。
武道大会を見た熱烈なファンだろうか。

「ファース様っ……!」

訝しげに目を細める魔術師に近づいた女は、力尽きたのかその場に跪く。
はあはあと荒く息をしつつも、顔を上げ、ファースを真っ直ぐに見た。

「ここに……森の入り口にいれば、お会いできると思っていました」

年の頃は、20才くらいだろうか。
知的なブラウンの瞳を持つ、美しい女だ。
魔力の強さは、女の髪を見ればある程度分かるが……

魔術師は、そっとメガネを外す。
アレクに突っ返されたものとは対になる、もう1つのレアアイテム。
それは、常に人の魔力が見えてしまうという魔術師の特殊能力を遮蔽してくれる、便利なメガネだった。

外したメガネを手の中で器用に回しながら、魔術師は尋ねた。

「キミは、何者だい?」

この国でも、5本の指に入るだろう大きな魔力を持つ女。
しかし、王城にこんな女が仕えていた記憶は無い。
もちろん、大人になって魔術の能力が現れるというケースもあるのだが。

「私、はっ……」

女は座り込んだまま、魔術師を見上げ瞳を潤ませた。
少し日に焼けた頬に、一筋の涙が流れる。
知らない女が泣いたところで、魔術師は特に思うことも無く、むしろ貴重な時間をとられる嫌悪感が先にたつ。

「5年前、あなたに、救われた者です……」

人助けをするような聖人君子で無いことは、魔術師も自覚している。
いったい何のことやらと首をかしげる魔術師に、女は涙を流しながら語った。

 * * *

女は、5年前に魔術師が殺した剣闘士の妹だった。

兄である剣闘士は、昔から自分の力を誇示し、家族に暴力を振るっていたこと。
その暴力を止めようとした父親は、打ち所が悪く死んでしまったこと。
残された母と妹の2人は、長い間家に軟禁され、兄の暴力に怯えながらの生活だったこと。

自治区で生まれ育った魔術師にとっては、特に珍しい話ではなかった。
冷めた目で話を聞いていた魔術師だったが、女の方は話しながら感極まっていく。

「兄が死んでから、母と私はようやく人間らしい生活を取り戻しました。しかも、ファース様から多額のお金をいただいて……本当に、なんとお礼を言ったらよいか」

その後、女は学校に通い始め、魔術の才能が開花したのだという。

「実は、母が……先日病気で亡くなり、私は一人身になってしまいました」

女の頬は上気し、ほんのりと赤く染まっている。
魔術師を、特別な存在として見ていることは、その表情ですぐに分かった。
一瞬俯いた女は、ややくすんだ金色の髪を揺らしながら立ち上がると、決意を込めて魔術師を見上げた。

「私をどうか、ファース様のおそばにっ」
「キミには、無理だよ」

覆いかぶせるように告げた魔術師は、初めて女と視線を合わせた。
感情のまったく表れない、冷酷な瞳。
女は、生温い夢から覚めたように表情をこわばらせ、魔術師から1歩身を引く。

「この森にこれ以上近づいたら……死ぬよ?」
「な……ぜ……」

再び崩れ落ちた女に、魔術師は告げた。

「キミは、兄への恨みを消せない。一生引きずっていくだろう」

その言葉は、まるで予言のように、女の胸に染み込んだ。

「死をも乗り越えられる強さがあるなら……付いてくればいい」

キミには無理だろうけれどねと言い捨て、魔術師は森へと歩き出した。
女の嗚咽が、徐々に遠ざかっていった。

 * * *

森へと向かう魔術師の心に浮かぶのは、輝くブルーの瞳と太陽のような笑顔。
光の精霊に愛される、稀有な少女だ。

「彼女が同じことを言ったら、俺はどうしたんだろうなあ」

どんなに理不尽な思いをしても、彼女は決して人のせいにしないだろう。
逆境も自分の糧とし、自力で這い上がり、勝利を掴むことができる。
そう、あの少女なら精霊をも手懐け、この森を抜けられるはず。

もしそうなったら……と考えかけ、ありもしない夢だと気づいた魔術師は、フッと自嘲する。

大陸に戻れば、恐ろしくやっかいな状況が魔術師を待ちかまえているはず。
この閉ざされた狭い半島に、戦争という名の種を蒔いたのが何者なのかは分からないが、現在大陸に起きている事態とは比べ物にならない。

彼女なら、あの狂った世界を変えられるかもしれない。
だが、連れて行くことはできなかった。

『これで2度目よ。10年もかけて貴方は、一体何をなさってらっしゃるの?』

勝利の報酬を得ることもできず、こうして手ぶらで帰る自分を容赦なく罵倒する、あの女の声が聞こえる気がする。

5年後に、またチャンスは来る。
しかし、自分の力で、それまで持ちこたえることができるのか?


『ピュイッ!』


「ああ、そっか。お前がいたんだな」

魔術師はマントの裾から手を入れ、胸ポケットのお守りを取り出した。
お守りから飛び出した金色のチビ龍は、気遣うように魔術師を見つめると、その頭の上にするりと移動した。
おかげで頭のフードが外れてしまい、魔術師は眩しい日差しに目を細めた。
チビ龍はおかまいなしに、ふんわりと柔らかな魔術師の髪の上でくつろいでいる。

気が強くて、生意気で、ふてぶてしくて……すんなりと自分の心に入り込んでしまうところも、産みの親にそっくりだ。
くすりと笑った魔術師は、頭の上のチビ龍に、優しくささやいた。

「俺と一緒に、戦ってくれるかい?チョビ……」

『ピューッ!』

勢い良く応えたチビ龍が、パフッと炎を吐き出した瞬間。


「アッ……アチチィッ!」


魔術師の前髪がチリチリと燃える。
チビ龍は、慌ててその口からダバッと大量の水を吐いた。


「つっ……冷てーっ!」


できあがったのは、チリチリパーマにずぶ濡れの男が1人。

その後しばらくチビ龍は、狭くて暗いポケットの中に軟禁されることとなった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
チビ龍に振り回されて、ドリフな魔術師君……もうドS返上ですかね。普通キャラの妹ちゃんにはかなりSなんだけど。妹ちゃん、貴重な普通キレイめ女子キャラなので第三章に登場予定です。見も知らぬアシナガ魔術師に憧れアドベンチャーラブでしたが、あっけなく撃沈。DV男サイテーなので、妹ちゃんには幸せになってもらう予定です。チビ龍の名前は、もちろんあの名作動物マンガから。伏線風のこと書きましたが、大陸で何が起きてるのか……全く考えてません。きっとチョビが才能キラキラさせたり、時に身内にダメージ与えたりしながら、サラちゃんバリに活躍することでしょう。さらば魔術師君。合掌。
次回、ようやく第三章入ります。まずはパーティでご対面の準備から。トキメモ展開予告してましたが、あまり校舎内ウロウロさせずに、あっさり帰宅させつつ進めてこうと思います。

画期的○○○○ 本編

画期的○○○○


【前書き】ごくごく僅かですが、グロイ、キモイ表現がありますので、ご注意ください。(オチは、特定の方にしかピンとこないかもしれませんので、後書きにて補足させていただきます)


 この世界を作った神がいるとしたら、とんでもなく気まぐれで、残酷だ。
 そもそも、残酷だからこそ、俺たちという存在を産み出したのかもしれない。

「うちのシマでも、今日また……1人死んだぜ」
「ああ、こっちは2人だ」

 コロニーと呼ばれるこの世界は、それほど広くは無い。
 平らな大地が、ぼんやりと薄い光の差し込む天空に覆われているだけ。
 大地の端には天空へとそびえたつ高い壁があり、それ以上先に進むことはできない。

 この世界を憂う誰かがつけたコロニーの別名は「ゴミ捨て場」だ。
 しかし、希望を捨てたくない一部からは「保護区」とも呼ばれている。
 彼らの言うことには、天空の先には”天界”と呼ばれるエリアが広がっており、俺たちが生きていくことはできないほど荒廃しているという。

 はたして俺たちは、捨てられたのか、保護されているのか……。
 どちらの説が正しいのか、俺には分からない。
 ただ、コロニーでの生活が、俺たちにとって生優しいものではないということだけは良く知っている。

「おい、またシャトルが来たぜ!」

 誰かが叫ぶ声に、俺は天空を見上げた。

 常に薄曇りの空からは、不定期で”シャトル”と呼ばれる飛行物体がやってきては、赤ん坊を落としていく。
 生まれたばかりの赤ん坊は、とても弱く儚い存在だ。
 生き抜くには、誰かの手助けが必要だった。

 しかし、この狭いコロニーは、もう飽和状態なのだ。
 自分が生き延びるだけで精一杯なのに、ましてや他人の子どもを育てるような余裕なんてあるわけがない。
 シャトルの来訪は、過酷なサバイバルゲーム開始のサイレンだった。

 今回捨てられる赤ん坊の中からは、何人が生き延びられるのだろう。
 せめて、苦しまずに逝けたらいいけれど。

 もうずいぶん長くこの世界に生きる俺は、仲間の命が潰えることを哀れむ気持ちなど、とっくに麻痺していた。

  * * *

 その日、あまりの空腹に目が覚めた俺は、天空を見上げていた。
 うっすらと届く光の向こうに目を凝らす。

「それにしても、今回の干ばつはひどいな……」

 この世界の大地に、植物などは一切根付かない。
 俺たちがどうやって暮らしているかといえば”神の恵み”と呼ばれる奇跡にすがるだけだ。

 神の恵みとは、シャトルよりは頻繁に訪れる、神からの施しだ。
 俺たちが生きていくのにギリギリの栄養を含んだ食料が、定期的に天空から降ってくるのだ。

 神の施しが頻繁に起こる時期は良いのだが、今回のような施しが滞る……いわゆる”干ばつ”時期には、ひどい有様だった。
 希少な食料を、俺たちは奪い合うしかない。

 枯れた大地には、大人になれず干からびた仲間たちが、墓標を立てられることもなく転がっている。

 俺はといえば、このシマではかなり長生きしている方だろう。
 とはいえ、そろそろ栄養失調で死に至るのは、目に見えているのだが。


「神は、なぜこんなにも俺たちを苦しめるんだ……?」


 この世界で生き長らえてしまった俺は、幸福なのか、不幸なのか?

 涙を滲ませながら見上げた天空が、一瞬だけ色を変えた。
 祈りが、届いたのだろうか。

 唐突に、神の施しが始まった。

 もう、何日ぶりだろう。
 轟音と共に空から降ってくる食料を求めて、生き残った仲間たちが集まってくる。
 神の名を叫びながら、空へと手を伸ばす者。
 大地へ降った食料を、血走った目でガツガツとかきこむ者。

 俺も、その恵みを全身に浴びた。

 ……はずだった。

 少しだけ、タイミングが遅かったようだ。
 俺の体は、もうとっくに限界を超えていたのかもしれない。

「神よ……」

 呟いた言葉は、果たして声になっていただろうか。

 俺の体は、ひどく重い荷物のような音を立てながら、地に倒れ伏した。

  * * *

 死んだと思った俺は、フッと意識を取り戻した。
 妙に体が軽い。
 肉体から飛び出した魂が、天空を飛び越えて行くのが分かった。

 天空の向こうには、コロニーを凌駕するとてつもなく広い世界があった。

「ここが、伝説の場所……天界なのか……?」

 呟いた俺は、目前に迫る巨大な物体に凍りついた。

 それは、何度も恨みながらも憧れてやまなかった、神の姿だった。
 あまりにも偉大なその存在に、俺は涙を流していた。


「ンナァーオッ」


 神は施しを終えると咆哮を上げ、コロニーの上部から飛び去った。
 そのとき、天界の果てから、また別の神の声が響いてきた。


「ちょっと! あんたなんでミーちゃんのおトイレ掃除してくれなかったの!」
「俺も、一昨日からミー連れて実家帰ってたからさー」
「家空ける前に、おトイレ綺麗にしてってよ!」


『ほら、シートに○○わいちゃったじゃない!』


 「気持ち悪いっ!」と叫んだその荒ぶる神は、恐るべき力でコロニー全てを破壊し尽くした。

 新たに創造されるコロニーを見ながら、俺はただ小さく羽音を立てることしかできなかった。


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【後書き】補足&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
 猫飼い、しかも一部の人にしか分からないオチでスミマセン。画期的猫トイレの話でした。『花王 ニャンとも清潔トイレ』(http://www.kao.co.jp/nyantomo/products01/tokuchou.html) こんなニュータイプな猫トイレ、我が家では大活躍してます。1週間は下のおしっこシート変えないで済むのですが、その代わりに夏場とかうっかり汚れたまま放置すると、こんな恐ろしいことに……orz

第二章 閑話3 ~指さえも~

第二章 王城攻略


夕方になり、パーティこと取調べ会はお開きとなった。
名探偵サラは、クタクタの体を引きずるように、会場を後にした。

まるで一日プールで遊んだ後のように、全身が重くけだるい。
サラは、頭脳労働の疲労は肉体労働に値するなと、あたかも自分が事件を解決したかのようにうなずいた。
「年取ると疲れが2日後に来るのよねー」という、馬場先生のところの愉快なおばちゃん看護士松田さんの声が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。

疲れた様子のサラを見て、家まで送ると申し出てくれた城門の騎士を丁重に退け、サラは王城を背に歩き出したが……
瞳に映る風景に、見過ごせない違和感が一つ。

「なあ……出てこいよ」

サラの低い声に、飄々とした態度で現れたのは、天邪鬼を返上した魔術師。

「なんで見破られちゃうかなあ」

どうやら、近くの街路樹に擬態するという魔術を使ったようだが、サラには通じなかった。
お腹に「わたしは木」と書いた熊のことを思い出して、サラは笑った。

魔術師は、グレーの瞳を眩しそうに細めながら、サラのことを見ている。
試合の後から、彼はこんな表情をすることが多くなった。

「送ってくれるつもりだったんだろ?行こう」

サラの誘いに、魔術師は嬉しそうに微笑みながら駆け寄って、隣に並んだ。
背の高い魔術師とサラ、並んだ二つの影が親子のようにデコボコで、サラは少し背伸びした。

 * * *

日が翳り、薄暗くなってきた自治区を、魔術師はさも自分の庭のようにサラをリードしながら歩いていく。
なんか暑いなーと呟いてはずされたフードの下の灰色の髪が、ふわりと風になびいた。
不思議とサラの周りの空気も涼しくなったように感じる。

単に日が傾いたせいかもしれない。
でも、魔術師がさりげなく放った風と水のコラボ魔術のカケラが、サラにもちょっぴり効いているのかもしれないなと思った。

出会って、きちんと言葉を交わしてから、まだたったの2日。
サラはこの魔術師と、もっともっと長い時間を一緒に過ごしたような気がしていた。


魔術師の態度がハッキリと変わったのは、いつからだろう。
自分が女とバレたときだろうか?

あのとき胸を触られたのは不可抗力だった。
サラは、減るもんじゃないし、何より触って楽しいものではまったくないだろうしと気にせずにいた。
試合の後、魔術師は「ゴメンネ」と謝ってくれたし。
冗談で「責任とって嫁に」とも言っていたが、薄皮が切れた程度だから痕が残るようなことはないはずだと、サラは笑ってスルーした。

試合前の魔術師なら、絶対そんなことは言わなかっただろう。
「避けられなかったお前が悪い」くらい言ってきたはず。

いや……もしかしたら魔術師は、わざとあんな態度を見せていたのかもしれない。

見方を180度変えれば、手を抜いていたように見える戦い方も、理解できる。
サラに、到底叶わない相手だと思わせて、早めにギブアップさせたかったのではないだろうか。
実際、サラ以外の対戦者は、そのパターンで自ら勝利を手放した者ばかりだった。

この仮定が正しければ、決勝戦の最中サラに告げた「傷つけないように注意していた」という言葉は、皮肉ではなく本音だったのかも?

試合の序盤、あえて魔術を使わず武力での戦いを挑んだのも……
通常、魔術による攻撃は、結界などの防御魔術でなければ防げない。
サラの特殊能力を知らなかった魔術師は、もし魔術を放てばサラを傷つけてしまうと考えたのかもしれない。

サラには見えなかった水龍が、本当はただの幻だということも、試合後こっそり聞かされた秘密だ。
森の精霊の力を使って人の恐怖心を操り、幻影を見せるという特別な魔術だという。
肉体的には一切傷をつけないが、前回大会で死んだ男のように、恐怖心が強ければそれが仇となり、命を奪うこともある。

試合後に「キミなら大丈夫だと思ったよ」と、魔術師は少し儚げに微笑んだ。

 * * *

サラは「少し遠回りだけれど」と、桜並木の散歩道へ魔術師を誘った。

夕暮れの桜並木は、人気が無く静かだった。
サラは、チラリと魔術師の横顔を盗み見た。
夕日を受けて、少し眩しそうに細められたグレーの瞳は、澄んでいてとてもキレイだ。

「この街も、ずいぶん変わったなあ」

魔術師は、ポツリと呟いた。
故郷への想いが滲み出るような、やさしい声色だった。

「俺、捨て子だったから、この自治区で育ったんだよね」

突然の告白に、サラの胸は大きな音を立てた。

アレクが来る前までは、随分荒れていたというこの自治区。
魔術師がいつから王城へ勤めるようになったのかは分からないが、ナチルのように過酷な経験をしたのだろうとサラは思った。
人が強くなるには、それなりの理由があるのだ。

魔術師の横顔を見上げながら、かける言葉を探していたサラは、また1つの誤解に気付いた。
サラからしつこく「願い」を聞き出したように、魔術師は5年前のアレクにも同じ質問をしていたという。

深読みかもしれないけれど、5年前アレクにあんなことを言ったのも、本当はアレクに優勝して欲しかったから?
アレクの望みをすぐに叶えたくて、優勝を選ぶ方へと追い詰めた?

そうだとしたら、この人はなんて不器用な人なんだろう……

本人に「あなた本当はイイヒトでしょ?」と尋ねたところで、まともな答えは返ってこないだろう。
でも、こっそりサラを送ろうとした態度1つで、もうバレバレだ。
サラは、浮かびかけた涙をごまかすように、明るい声をあげた。

「この道に桜を植えるの、私が提案したんだよ!」

花が咲くのはもう少し先だけれどと、サラは女の子の声で言った。
魔術師は破顔し、サラの頭をポンポンと叩く。
まるで子どものような褒められ方に、サラは少しくすぐったい気持ちになった。

魔術師は鼻歌を歌いながら、サラの隣をゆっくりと歩いていく。

合わせられた歩調が、やけに嬉しかった。

 * * *

もう領主館が見えるというところで、魔術師は突然アッと叫ぶと、立ち止まった。

「少年に、一つ質問がありまーす!」

なんだかデジャブを感じながら、サラは「いいですよ?」とかしこまって答えた。

「さっきのダイスってやつ……何でも、分かるの?」
「うん、たぶんね。何か知りたいことでも?」

素直に切り返したサラ。
魔術師は、ほんの一瞬、その整ったクールな表情を歪めた。

「もしも、俺の……」

途切れた言葉。
横に並んでいたサラの両腕が掴まれ、魔術師の正面を向かされる。

見上げた灰色の瞳に光るのは、燃え上がる暗い炎。
サラは、目を疑った。
いつも本音を見せないクールな魔術師に、初めて人間らしい情熱を見たような気がしたから。

服の布越しにも、震える手のひらの熱が伝わる。
サラはキツく掴まれたその手を、振り払うことができなかった。

「いや……なんでもない」

魔術師はサラから顔を背け、手の力を緩めた。
瞬きする間に、魔術師はいつもどおりの飄々とした表情に戻っていた。

「俺、明日帰るよ」

残念ながらキミの勇姿は見られないけれど、と皮肉げに笑う。
パレードで、大勢の女の子にモテまくるだろう自分の姿を想像して、サラも思わず苦笑する。

「最後だから……言うね」

サラの腕を掴んでいた魔術師の手が、スッと下に下がり、その白くやわらかい手を取った。
手のひらの潰れた豆を刺激しないように、そっと、指だけを。

夕暮れの赤が、サラの瞳を幻想的な色に染めている。
魔術師は、しばらくサラの瞳を見つめた後、耳元に唇を寄せて、風に乗せるように柔らかな音色でささやいた。


「キミのこと、本当に好きだったよ」


お人よしなところも。
すぐムキになるところも。
騙されやすいところも。
真っ直ぐなところも。


サラの心に、やさしい言葉たちの雨が降る。
戸惑うサラの指にキスし「この豆だらけの指もね」と笑った魔術師は、真っ赤になって涙ぐんだサラを、その逞しい腕の中にすっぽりと包み込んだ。

「森の向こうで、いつかまた会おう」

魔術師の掠れる声が、抱き寄せる腕が、サラの胸に熱いものをこみ上げさせる。

ああ、この人はなんて天邪鬼なんだろう。
ううん、これは、優しい嘘だ。

もう会えないかもしれない……そんな悲しい予感が、サラの心を揺さぶった。

サラは魔術師の胸で、そっと瞳を閉じた。

ずっと堪えてきた涙が1粒、魔術師の胸のローブにぽとりと落ちた。

 * * *

強く吹きはじめた風が、街路樹の枯れ葉を舞い散らせる音が聞こえる。
震える瞳をそっと開くと、サラに温もりだけ残して、魔術師の姿は消えていた。

1人佇むサラを、太陽の代わりに昇った蒼い月が照らしていた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
さ、ヤクルト飲んだ後は、スカッと爽やかコカコーラで口直し……また甘っ!……ということで、魔術師君、勇気を出して初めての告白の巻でした。ヘンタイ好きの作者ですが、どうも皆イイヒトになってしまうなあ。お分かりの方もいたかと思いますが、第二章の閑話イメージは「ダイスを転がせ/指さえも」です。指の方は、魔術師君とのお別れイメージで使おうかと。別に死んじゃったわけじゃないけど、正直お別れって苦手……。そんなときには「わたしは木」を思い出すべし!あれは勝手にシ○クマって傑作ギャグマンガから。シロかわいー。でもちょしちゃん……ああ……。
次回、サラちゃんパレード&魔術師君視点の小話です。作者の好みど真ん中の、シリアス風アホ話。ついでにヤらしい伏線もあるんですが、どーなるかは丸々未定。

画期的○○○○ あらすじ

画期的○○○○


ザンコクな神がシハイするこの世界。仲間たちが次々と倒れる中、彼は過酷な環境でなんとか生き延びていた。ついに死を覚悟したとき、彼の身に起こった奇跡とは……?
(一見SF風……微グロ? キモ? でもコメディ
※恋愛ホラー短編『ドメスティックバイオレンス弁当』と、ちょっぴり世界観リンクしています。

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第二章 閑話2 ~名探偵サラの事件簿(後編)~

第二章 王城攻略


いきなり自分を「探偵」と名乗った黒騎士。
それまで容疑者扱いされていたこともすっかり忘れ、得意顔で指示を始めた。

「皆さん、その場に座ってください。いいですね?」

あんぐりと口を開けてサラを見つめていた全員、有無を言わせぬ探偵の要求に答える。

ああ、なんて面白いんだろう。
彼女の行動は、まったく読めない。

魔術師ファースも、切れ長の目を細めてニヤリと笑いながら、その場に座り込んだ。

 * * *

「今からワタクシが、このダイスを使って、犯人を当ててみせましょう……」

ステージ上のバリトン騎士と、その隣にいる車椅子の男2人に向かい、優雅に礼をするサラ。
あの日ジュートがしたように、ダイスにフッと息を吹きかけ瞳を閉じる。

「我は命じる。この2名の騎士を襲った犯人を、見定めよ」

サラがダイスを放り投げると、ダイスはゆっくりと転がりながら、迷うようにあちこちと向きを変えた。
サラの隣に居た野猿な大男、魔術師ファース、緑の騎士、アリバイ申告した者たちへと、一通り近づいては、ぷいっと気まぐれに曲がり、転がり続ける。
誰かに近づくたびに「ヒィッ!」という悲鳴が上がるのを、愉しむように。

ダイスは、床の上に座った者たちの周りを一通りうろうろすると、ステージの上にぴょこんと飛び乗った。

ダイスが近づいたのは……バリトン騎士。
足元にそろりと寄ってくるダイスを、あたかも日本の夏によく見かける黒い虫のように恐れ、じりじりと後退していく。

「な……なぜ俺の方へ……」

バリトン騎士が、ステージの隅まで追い詰められ、段差に足を取られて転んだ瞬間、ダイスはまたもや反転。
ゴロゴロッと勢い良く転がったと思うと……


『カチン!カチン!』


被害者の車椅子2台の車輪を弾いた。


「くっ……アハハハッ!」

堪えきれなくなった魔術師ファースが、突然笑い声をあげた。
サラも、周囲の人間も、魔術師の奇妙な行動に動揺する。

「俺、犯人分かったわ」

細められた魔術師の灰色の瞳が濁り、暗い闇色に輝く。


「犯人は……俺だよ」


魔術師の瞳が発するのは、紛れも無い狂気。
人を殺すことを厭わぬほどの、殺気。

魔術師の隣に座っていた大男と緑の騎士は、恐怖に顔を引きつらせながら、壁際へ飛び退った。

 * * *

車椅子が音を立てて倒れ、被害者の騎士2名が泣きながら土下座したのは、その直後のこと。

彼らをケアしていた警備の騎士たちも、何も言えなかった。
自力では立てない2人の体を抱き起こし、無言で車椅子を押して去っていった。

今年の優勝候補と期待されていた2名の騎士は、予選で魔術師ファースの出場を知った。
よほど精神的に追い詰められていたのだろうか、このままでは勝ち目が無いと判断した2人は、示し合わせて魔術師を襲ったのだ。
その結果、2秒で返り討ちにあい、再起不能の怪我を負ってしまった。

「そりゃあ、犯人が誰かなんて言えないよなあ」

野猿な大男が空気を読まずに苦笑するが、周囲はシーンとしたままだ。
特に、彼らと同僚だった騎士たちのショックは大きかった。
もしかしたら、2人の騎士を追い詰めたのは、仲間である彼らの「頑張れよ」という些細な言葉だったかもしれない。
騎士たるものナンタラカンタラ……と、座り込んだままのバリトン騎士は、ぶつぶつ呟き続けている。

サラはステージの上にあがり、活躍したダイスちゃんを拾った。
指でヨシヨシと撫でると、後味の悪い雰囲気をごまかすように明るい声で言った。

「もう1つ、事件を片付けてしまいましょうか?」

気まぐれなダイスが、まだその姿を保っているうちに。
もう1つの、より大きな事件の解決を。

バリトン騎士が慌てて立ち上がると、頼むと言ってサラに頭を下げた。

「我は命じる。昨日、オレと2回戦で戦った剣闘士を襲った犯人を、見定めよ」

命じ方が合っているか分からず、サラはやや不安げな表情でダイスを転がす。
ダイスは、放心状態の騎士たちの間をコロコロと転がって行った後、奥のほうに居た男の靴先をツンツンと突付いた。

その男は……


「すっ、スマン!」


泣いてはいないものの、やはり土下座。
バリトン騎士は、もう言葉も出ないようだ。

この世界でも土下座って多用されるものねえと、サラはぼんやり考えた。

 * * *

第二の事件の犯人は、なんと警備隊長の騎士だった。

そもそも、筋肉バカの大男は、死んでなどいなかったのだ。
サラに負けてむしゃくしゃし、街でケンカしていたところを取り押さえられて、現在牢屋にぶち込まれているという。

なぜ殺人事件が起こったなどと嘘をついたかといえば、この茶番パーティをセッティングさせるため。

暴行事件の迷宮入りを感じ、どうしてもサラたち決勝進出者を取り調べたかった警備隊長。
しかし、決勝トーナメントの真剣な戦いを間近で見てきたバリトン騎士は「彼らは無実だ。単に動機だけで疑うのは失礼だ」と、真っ向から対立していた。
警備隊長は、バリトン騎士に取調べを受け入れさせるために、新たに殺人事件が起こったと嘘をついたのだ。

警備隊長の言い訳を聞いて、馬鹿馬鹿しいと誰もが呆れながらも、死んだと思った人間が生きているという情報は会場の雰囲気をすこし和らげた。
サラも、大活躍のダイスを拾いつつホッと息をつく。
魔術師は、うつろな表情で床にごろんと寝転がり、もはや全てがどうでもいいという本音ダダ漏れの態度だ。

ざわつく会場の中で、サラはこっそり、ダイスに最後のお願いと囁いた。

「我は命じる……カリムを襲った犯人を、見定めよ」

ダイスは、転がらなかった。
床の上でしばらく固まった後、ボムッと音を立てて、元の黒剣に戻ってしまった。
どうやら、カリムを襲った犯人はここに居ないようだ。
サラは、ほっとしたような、残念なような、複雑な気持ちだった。

ダイスちゃんありがと!と軽くキスをして、サラは黒剣を懐に差し直した。

 * * *

ふと気づくと、バリトン騎士を筆頭に、騎士たち全員がサラの前に並んで正座していた。
バリトン騎士が「疑ってすまなかった!」と頭を下げると、慌てて部下たちも頭を下げる。

サラは、胸の前で腕組みをすると、あの決め台詞を言った。


「これにて、一件落着!」


騎士たちがヘヘーと土下座する中、サラはカーッカッカッと高笑いした。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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ということで、カンタン謎解き編でした。自分、ミステリー書くセンスは無いです。魔術師君の「犯人は……」の台詞は、トラウマなファミコンDS(ディスクシステム)の怖いゲームから。校舎の鏡の中に……いや、思い出さないにしよ。ファミコンのアドベンチャーはポートピアが有名だけど、あのシリーズが一番怖かったと思います。綾代家の方も……卍の中の印……いや、なんでもないっす。あーファミコンの話しかしてないや。まいっか。カマイタチもだけど、怖いゲームを悪友たちとぴゃーぴゃー言いながらやるのって楽しいです。翌日1人の夜に後悔するんだけどさ……
次回、魔術師君最後の見せ場になります。ムーンでちょっぴりおセンチな気分になってください。ヤクルト飲んだ後レベルの甘ねっとり度です。

第二章 閑話2 ~名探偵サラの事件簿(中編)~

第二章 王城攻略


酔っ払った男たちも、すっかり酔いが醒めたようだ。
もちろん、アルコールを取っていなかったサラもすっかり興ざめしてしまった。

用意周到な騎士たちの動きからは、計画的な匂いがぷんぷんする。
わざわざ参加者全員が集められたのは、このためだったのかと、サラは心の中でガッテンボタンを連打した。
アレクが「俺がすっぽかしたイベントは2つだけ」と言っていたし、この内輪ねぎらいパーティは、ある意味ドッキリ企画だったのだろう。

一気に仕事モードに変わった騎士たちは、躊躇無く剣に手をかける。
殺気立つ騎士たちに囲まれ、気の弱い魔術師などが我先にとステージへ上がり、アリバイを告げに行く。
アリバイが無いグループに残ったのは、なぜかサラと戦った人物だった。

案外気のいい野猿な大男、緑の瞳の騎士、そして魔術師。
サラは、1人部屋で寝ていたと申告したが、それではアリバイにならないと言われてしまった。

「お前らを疑わなければならないことを……とても、残念に……思うっ」

バリトン騎士は、鼻をこするようなしぐさをしながらも、冷酷な言葉を告げた。
なぜか言葉の合間に、チラチラとサラのことを見ながら。

もしかしたら、自分が疑われているのかもしれないと、サラは察した。
サラが容疑者だとしたら、正式に勇者としてお披露目されるパレードの前に、かたをつけてしまいたいところだろう。
アリバイがあると申告した者たちも、嘘をつくのが下手すぎるバリトン騎士の視線に気づき、各々サラの気配をうかがっている。

「……ちょっと、待てよっ!」

自分への視線と勘違いしたのだろうか、サラの隣に居た大男が、バリトン騎士にくってかかった。

「一番疑わしいヤツが、ここにはいねえじゃねーか!」

それは、1回戦を不戦勝で勝ち上がった、あの筋肉バカ男。
サラもうんうんとうなずいた。

「彼は……来ない。いや、来られない」

バリトン騎士は、視線を足元に落とした。
冷静で精悍な表情が、一瞬悔しそうにゆがむ。

「彼は、昨日……遺体で発見されたそうだ」

暴行事件が、一夜にして殺人事件へと切り変わった。
その事実に、会場の空気が凍りつく。

まるで、豪雪に閉ざされたペンション・シュプールのように。

 * * *

嫌なヤツだったけれど、死んだと聞かされると気持ちは変わる。
サラは、全力で戦わせてくれた相手に、心の中で黙祷した。

祈りつつも、サラは冷静に考えた。
アリバイではなく、大事なのは動機だろう。
優勝候補2名への暴行事件なら、自分たちには「ライバルを減らしたい」という動機がある。
しかし、大会後の殺人事件は、まったく目的が見えない。

「まず我々は、予選後の暴行事件についてのみ調査を行う」

理由は、暴行事件と殺人事件が、同一人物による犯行とは限らないからだとバリトン騎士は告げた。
賢明な判断だとサラは思った。

アリバイの無いサラたちにだけ、再度当日の行動が質問された。

「さっきも言ったけれど、オレは別の事件のせいで疲れて、部屋で寝ていた」

サラは、ブルーの瞳をまっすぐバリトン騎士に向ける。
やましいことは何も無いという気持ちを込めて。

緑の瞳の騎士は「軽く夕食をとった後、外には出かけず宿屋に居た」と主張。
大男は「夜更けまで1人居酒屋で飲んだ後、いつの間にか宿へ戻っていた」と、なんとも頼りない主張をした。
魔術師は「街をブラブラしてたかなー。あまり覚えてないや」と、ヘラヘラ笑いながら、怪しいことこの上ない発言をした。


サラの証言は、領主館に居たメンバーが、間接的に証明してくれる。
4人の中では、もっとも信頼度は高いはずだ。
だのになぜ、歯をくいしばったバリトン騎士は、サラへと苦しげな視線を送り続けるのだろうか?

ゴホンと軽く咳をすると、バリトン騎士は心に染み渡るような声で言った。

「お前たちの証言に、嘘は無いと思いたい、が……」

バリトン騎士は、横に並んでいる4人を順番に見つめ、最後にサラへと目を留めた。

「実は、襲われた2名の意識が戻ったんだ」

サラは、知らず緊張していた。
自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえる。


「2人は、自分たちを襲った人物の顔は”見えなかった”と言った。真っ暗ではない場所だったにも関わらずな……」


この場にいた全員が思い浮かべたのは、あの黒いマスク。

サラは、背中に冷や汗が流れるのを感じた。

 * * *

いつの間にか閉め切られた会場。
じっとりと生温い空気が、サラの体に汗をかかせた。
全員からの視線を一身に受けたサラは「違う!オレじゃない!」と叫びたくなったが、根拠無く否定してはますます怪しまれるような気がして、口を噤んだ。

助け舟を出したのは、意外な人物。

「はーい。ちょっといいかな?」

自己申告アリバイ的にはもっとも怪しい、魔術師ファースだ。

「俺は黒騎士ちゃんじゃないと思うよ?なぜなら、俺もあの日襲われたからさ」

その話は、すでに警備の騎士にも報告されていた。
ただし、天邪鬼な魔術師は、捜査担当の真剣な質問に対して「あっという間にやっつけたから、なーんにも覚えてないよ。酔っ払ってたから、手加減できなかったしね」としか告げていなかった。

魔術師は、不安げに瞳を揺らすサラの頭をポンポンと叩いた。
優しくされると好きになる……と、サラは涙目で魔術師を見上げた。

「俺のこと襲った奴らだけどね、そう……確か2人組だったと思ったな」

倒すのに2秒かかったしと、さりげなく恐ろしい根拠を主張する魔術師。
サラも、カリムを襲った犯人も2人組、女もグルなら3人組だったなと思い出した。

「それ以前に、次の試合を控える俺たちが直接手を下すなんて、そんな安易なこと考えるのは……コイツか死んだ男以外いないんじゃねーの?」

魔術師に名指しで毒舌を吐かれた野猿男が「てめえ」と突っかかるが、周囲の騎士たちがなんとかそれを制した。

「ああ、確かに証拠は無い。だが……」

バリトン騎士が、パンと手を打つ。
ステージ脇から2人の騎士が現れた。

その手には、車椅子を押して。

「彼らが、襲われて怪我をした被害者だ。お前たちの姿を、ここからずっと見させてもらった」

バリトン騎士の言いたいことが、サラたちにも分かった。
車椅子の上の2名は、今にも倒れそうなくらい顔色を悪くし、瞳を伏せてカタカタと震えていた。

刑事ドラマでよくある、マジックミラー越しの容疑者チェックを行ったのだろう。
そして、被害者2名は反応した。
よほど恐ろしい目にあったのか、誰が犯人かは分からないと固く口を閉ざしたまま。

 * * *

状況証拠では、確かにサラが不利だった。
図らずも、このメンバーでは一番腕が立つと証明してしまったし。
巨大な龍を出現させたサラは、この飄々とした魔術師にすらトラウマを与えてしまったほどだ。

もしもこの2人を、似たような恐ろしい目にあわせた上で、口止めをしたなら……


まさか、私……

別人格が現れて、無意識のうちに彼らを……?


真夜中は別の顔……と、サラが超訳な妄想をしかけたそのとき。
腰に差した黒い剣がプルプルと動いた。

携帯バイブかと思ったサラが腰の剣を見ると、女神の涙といわれる宝石部分が、着信アリ風にチカチカと目映い光を放っている。
全員が、その光に注目した。

「ん?黒剣ちゃん、どしたの?」

何かを訴えるように、ブルブルピカピカする黒剣。
サラが鞘ごと黒剣を抜いて、至近距離で見つめると……


『ボムッ!』


突然の爆発音に、サラはギャッと叫んで剣を落とした。
乾いた木の床に、カツンと何か軽いものが落ちる音がする。

そこにあったのは……小さな、正方形の石ころだった。


「あ……ダイスちゃんっ!」


ラッキーダイスは、体操選手のー!ように、くるりとバク転しながら、サラの手のひらに飛び込んできた。
サラは、フッと笑むと、久しぶりに現れたダイスをその手に握り締めた。


「オレの名は、江戸川クロキシ……探偵さっ!」


キラキラと瞳を輝かせながら、サラは相棒のダイスに軽くキスをした。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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一番怪しい容疑者が次の犠牲者。はい、王道。ってこの話、土曜○イド劇場じゃないんだけど……ペンションシュプールは、カマイ達の夜という有名ゲームから。私もカマイです……あの歴代全員ジョジョみたいなエンディング一番好き。というか、ぶっちゃけダイスちゃんが出したかっただけだったのに、こんなぐだぐだな展開になってもーた。江戸川クロキシって……字余りにもほどがあるな。肝心の犯人は、次こそ判明します。もうバレバレだよね、ワトスン君?あっ、そのうち赤毛のキャラ何人か出そ!
次回、ようやく犯人判明。すっきり勧善懲悪な時代劇風のオチにご期待ください。チョーン。

第二章 閑話2 ~名探偵サラの事件簿(前編)~

第二章 王城攻略


決勝戦終了後、バリトン騎士に言われた連絡事項は、3つあった。

1つ目は、王城へと出向く日程について。
それなりに準備を整えての豪華なパーティになるため、5日後になるとのこと。
前回優勝者は、パーティを見事にすっぽかしたから幻と言われるようになったのだと、ねちねち愚痴られた。
サラがちゃんとパーティに出るなら、王に願いを伝える機会もそのときに設けてもらえるとのこと。

2つ目は、優勝パレードについて。
3日後に行われるそれは、馬車に乗って王城から市内をねり歩くというもの。
こちらも、前回優勝者は逃げたらしい。
「師匠の尻拭いとして、しっかり国民へサービスするように」ときつく言い聞かせられた。

3つ目は、参加者と騎士たちの交流会について。
これは明後日行われる、内輪だけのカジュアルなパーティだ。
騎士宿舎のホールで、決勝トーナメント進出者全員と、管理運営側の有志が参加するという。
こちらも絶対参加と言われた。

となると、サラの休みは明日と4日後。
4日後は、自治区と道場のイベントを入れられるような気がする。
明日は、パーティの準備やらなんやらで一日潰れてしまうだろう。

そういえば、日本のお相撲さんも、優勝したらしたで大変そうだったな。
バラエティ出てトークしたり、プロ野球選手と歌合戦したり……。

「いいか、絶対にサボるなよ!」と騎士からドスのきいたテノール声で念を押され、サラは疲れた顔でうなずいた。

 * * *

大会2日後。
パーティ会場である騎士宿舎の集会室には、ある意味懐かしい面々が揃っていた。
つい一昨日、たった1日顔を合わせただけの参加者たちが、なぜか旧知の仲間のように思える。

「えー、残念ながら1名の欠席者が出たものの、このように武道大会で活躍された勇者の皆様にお集まりいただいたことに、我々大会運営側の騎士一同も……」

責任者であるバリトン騎士の乾杯の挨拶は、彼の性格そのまんまという長くて堅苦しいものだった。
サラがグラスを掲げたまま「校長先生かよっ」とツッコミを入れると「もうこれ飲んじまおうぜ」と、一回戦を戦った大男が声をかけてきた。

この大男が、パーティ会場に到着したサラへ真っ先に駆け寄り、優勝を大喜びしてくれたことには面食らった。
自分があっさり負けた後、必死でサラを応援してくれていたそうだ。
大男曰く「この俺サマを倒すくらいだから、優勝してもらわなきゃ困る」とのこと。
故郷へ戻ったら、不運にも優勝者と一回戦で当たってしまったが、実力では準優勝だったと言い訳するのだそうだ。

そんなこと、わざわざ言わなきゃいいのに。
こいつアホだな。
でも、ちょっとカワイイかも?

サラは、大男ににっこり微笑んだ。
なんだか、獰猛な野猿を懐かせたような気分だ。

「おいおい、勇者様を独り占めするなよ?」

スマートに声をかけてきたのは、緑の瞳の騎士。
彼も、サラの優勝を我がことのように喜んでくれた。

「あの魔術師は、本当に気に入らなかったからな」

私怨で応援してすまんとサラに謝る騎士は、とても律儀でイイヒトだ。
サラと戦ったときも、それまでの試合も、魔術師は全て手抜きで勝利してきたという。
何事にも全身全霊がモットーの騎士としては、そのふざけた態度が許せなかったそうだ。

「しかし、剣を手放すというのは、目から鱗だったよ」

いずれ戦場に戻ったときもキミと戦った経験が役立つだろうと、緑の瞳に憧憬をにじませて、騎士はサラに握手を求めた。
サラは照れながら「あれは自分で考えた戦略ではなく、師匠のおかげで」と言い訳した。
その謙虚さも騎士のツボだったらしく、サラは騎士団にスカウトされてしまったが、やらなければならないことがあるのでと丁重にお断りした。

「サ……黒騎士ちゃんは、俺が連れてくからダメー」

不意に後ろから抱きつかれたサラは、ピシリと硬直する。
緑の騎士が乱暴に引き離し、ガンガン説教をたれているのは、今話題にしていた魔術師だ。
この会場内で唯一、サラを女と知っている人物でもある。

試合後に少し身の上話をしてからというもの、馴れ馴れしくサラちゃんと呼んでくるが、なぜか憎めない。

「黒騎士ちゃん、このオッサンなんとかしてー」

緑の騎士から逃げようと、サラを盾にする魔術師。
じゃれ合っている今年の勇者2名に、周囲がざわ……ざわ……と騒ぎ始めたので、サラは「ふざけるなよ!」と男子の声色で叫んだ。

この手のスキンシップは、まったくもってシャレにならない。
サラと戦っていない参加者たちも、運営側の騎士たちも、覆面を取ったサラの容姿を見て「まるで女のようだ」と囁いているというのに。

サラは、自分の胸元をチラリと見やる。

女のようだとは言うが、女だと言われない理由が、そこにあった。

 * * *

今日のサラの服装は、試合を戦った黒い戦闘服。
キレイに洗濯して、破れた箇所をナチルに縫ってもらった。
明日には、もう1枚新しい戦闘服が縫いあがるので、パレードとパーティ、なんとか使いまわすことができるだろう。

とにかく、王城に乗り込むまで、自分が女であるということは内緒にしなければ。
キノコの正体が黒騎士とバレただけで、すでにややこしい問題が起こっているというのに。

サラが、昨日の買い物中に起きたパニック……良い風に言えばフィーバーについて思い出し、頭を痛めている間、緑の騎士と魔術師は案外仲良さげに話し続けている。

「お前が連れて行くって、いくらなんでもそれは無理だろう!」
「サ……黒騎士ちゃんなら、きっと大丈夫じゃないかなあ」

ね、と同意を求められても、サラは意味が分からず首を傾げた。

「黒騎士ちゃん、キミは俺のこと何も知らないんだね?」

この国の人間なら、誰もが知っている伝説の魔術師ファース。
なぜ”伝説”だなんて大げさなキャッチがつくのかというと……

「俺、森の向こうの大陸に住んでるんだよねー」

今では、誰も通れない精霊の森。
森を抜けて大陸へ向かうのは、小さな子どもなら必ず一度は空想する大冒険だ。
その冒険を、成し遂げてしまった数少ない男が、この魔術師だった。

「コイツは元々トリウム王城の筆頭魔術師だったんだ。その地位を捨てていきなり失踪したと思ったら、そんな大それた……アホなことをしてやがった」

緑の騎士は、不満げな表情をしつつ、褒めてるのかけなしているのか分からない台詞でサラに補足した。
魔術師はサラの手を取ると、まるでお姫様にするように、手の甲に口付けた。

「どう?こんな狭い国を出て、もっと広い世界を見てみたくない?」

魔力が見えるメガネ、剣へと変化する杖、龍を生みだす七色の指輪、女神の涙の伝説……大陸にはいろいろと面白い謎があり、タイクツしないという。
サラは、魔術師の語る大陸という存在に、強く惹かれていた。
森の向こうには、きっとサラの想像もつかない世界があるのだろう。

手を握られていることも、口付けられたことも忘れて、夢見るように呟いた。

「いつか……自分の使命を果たしたら、行ってみたいな」
「今すぐに、じゃないんだ。残念っ」

魔術師が、興味を無くした合図のように、サラの手をポイッと放り出す。
気まぐれな態度と裏腹の笑顔がやけに優しげで、サラは思わず皮肉を言った。

「ファースさんは天邪鬼だから、本当は来て欲しくないんでしょ?」
「あー、天邪鬼ねえ。あれはもう返上!」

あの鬼は龍に食べられちゃったよと、魔術師は笑った。
そのローブの奥には、サラのお守りとともに、小さな金色の龍が隠れているのだろう。
仲良くしてくれればいいけれど。

あの日、びくびくしながらお守りを受け取ったファースの姿を思い出し、サラは笑みを漏らした。

「おい、喋ってないで美味いもん食べようぜっ」

いつの間にか、ビュッフェの用意ができていたらしい。
ご馳走を積み上げた大皿を持って、緑の騎士と、大男がやってきた。
「お酒は20才になってから!」と逃げるサラに、軽く酔った大男は「俺の酒が飲めないのか」と追い回す。
楽しそうに笑う、緑の騎士と魔術師。

そんな和やかな雰囲気は、嵐の前の静けさだった。

嵐は、大会運営側の騎士たちによる、ちょっとした余興からはじまった。

 * * *

突然、会場奥にあるステージに、突然見覚えのある集団が現れた。
サラだけでなく、全員にとって忘れられないあの姿。

「キノコ……」

思わず呟いたサラ。
会場は、笑いの渦に巻き込まれた。

見慣れたあのカツラ、あのマスクをつけた騎士たちが、ステージで繰り広げる創作ダンス。
紙製の剣を使い、真剣白羽取りを受け止め損ねるなどベタなギャグが満載で、露骨に嫌な顔をしていたサラも最後は爆笑していた。


盛り上がるステージの袖から、舞台の向こうを見つめる2人の男がいた。
その場所からは、決勝トーナメント進出者たちの顔がはっきりと見える。

隠そうとはしているものの、あきらかな怯えが見られるその2人の男に、バリトン騎士は声をかけた。

「やはり……いるんだな?」

2人の男は、互いに視線を絡ませた後、青ざめた表情で首を横に振る。
バリトン騎士は、その表情を見て覚悟を決め、ステージに躍り出た。


「お前ら、全員注目!」


次の余興が始まったのかと、にやけていた15人の男たちは、バリトン騎士の鋭い視線に戸惑った。
気づけば、舞台上のキノコダンサーズも、食事やドリンクを配布していた騎士たちも、厳しい表情で15人を取り囲むように立っている。

「今から、お前たちに1つ質問をする。正直に答えるんだ」

問われた言葉に、15人は一瞬言葉を失った。


「予選終了後の夜、何をしていたか……アリバイがある者は、こちらへ上がって来い!」


集められた15人には、ねぎらわれる勇者という夢の後に、容疑者という現実が待っていた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
閑話なのに、かなり力入ってしまいました。まず魔術師君、精霊の森の向こうから来た人でした。一応ネタフリしてたんだけど覚えてるかな……森を抜けたときにレベルアップして「メダパニ(敵を混乱させる呪文)」覚えたらしいです。本編で書ききれない過去エピソードはいずれ……気まぐれに。あとこの閑話、あちこちに小ネタ仕込んでみました。仮装大賞とかお笑い系多いです。昭和の歌とかも。うふ。(←自己満足度No.1)
次回、ついに犯人が……の前に、名探偵サラちゃん登場です。謎は全て解けた!っていうかアレが全て解いてくれた!っていう楽ちんな感じで。

第二章 閑話1 ~眠り姫を起こすのは、誰?~

第二章 王城攻略


決勝戦直後。

前回大会の優勝者である”幻の勇者”ことアレクが、コロセウムの控え室を訪れるのは本日2度目のこと。
先ほど感極まって泣いてしまったことを知られるのは気恥ずかしく、顔を洗ってさっぱりしてきた。

ドアを開けようとして、少し躊躇するアレク。
なんとなく、祝いの言葉を告げるのに手持ち無沙汰なのはカッコ悪いような気がしてしまった。
こんなことなら、花でも用意しておけば良かった。

アレク自身も、サラの優勝を信じきれないところがあった。
自分の二の舞にはさせたくない、後悔だけはして欲しくないと、徹底的にサラを鍛えたものの、あの魔術師が底なしに強いのは分かっていた。

今回だって、純粋にサラ自身の力だけでは勝てなかったかもしれない。

「光の龍……か」

あの水龍が現れたときは、絶体絶命だと思った。
前回大会で対戦相手を死に追いやったあの魔術だけは使わないはずと、勝手に決め付けていたから。
その点は、完全に自分の見通しが甘かった。

ただ……
水龍を飲み込んだ金色の龍を見て、あらためて自分の予想は正しかったと確信した。
サラの特殊能力と、長かった髪を切り落としたときのエピソードを聞いて、アレクは「あのお守りは、必ず役立つ」と思っていたのだ。

光の精霊に好かれるという、サラの黒髪。
黒剣も、やはり光の精霊由来の聖剣だろう。
女神の涙という宝石については、アレクにとっても未知の存在だったが、頭領に聞けば何か分かるかもしれない。

魔力を消去してしまうサラの支配下では、光の精霊もその力を発揮できない。
しかし、ひとたびサラから切り離されたときには、驚異的な力を持つ光の精霊がサラを守るのだ。

サラは、何故これほどまでに光に愛されるのだろうか?
ネルギの姫とはそういう存在なのか?

より深く思考を落としかけて、アレクはフッと自嘲した。
サラにおめでとうと言うのが先決だ。
あの3人も、お呼びがかかるのを今か今かと待っているのだから。

アレクは、そっと控え室のドアを開けた。


そこに居たのは、よほど疲れたのか、床に転がって眠り込むサラ。

と……

そんなサラを膝枕する、灰色の髪の魔術師が1人。

「よおっ」

アレクを見て、魔術師ファースは軽く手をあげ、胡散臭いほど爽やかな微笑を投げかけた。

 * * *

魔術師は、細く長い人差し指を立てて、その形良い唇の上に押し当てた。

「でかい声出すなよ?このコが起きちまう」

トレードマークの黒いフード付マントを脱いで、さりげなくサラの体にかけるなんていう気遣いが、まさかこの男にできるとは。
苦虫を噛み潰したような表情のアレクには構わず、魔術師は眠るサラの黒髪をそっと撫でる。

あの髪を撫でるのは、自分の専売特許だったはず。
苛ついたアレクは強引にサラを奪い返そうと画策してみるものの、いざ手を伸ばそうにも、子どものようにスヤスヤと眠るその表情につい毒気を抜かれてしまう。

しばらく唸った結果、アレクはサラ奪還を諦めて、おとなしく近くの椅子に腰掛けた。

「5年ぶりか。元気そうだな」
「アンタはずいぶん年くったな」

棘のあるアレクの口調にも、魔術師はまったく動じない。
アレクは、あれほど恐れた魔術師と二人きりだというのに、案外冷静な自分に内心驚いていた。

そうだ、忘れないうちに、あの台詞を言っておかなければ。

アレクは、魔術師からもらったメガネを取り出した。
少し指が震えたものの、もう怖いとは思わなかった。

かけられたメガネの奥の三白眼が、涼やかな表情の魔術師を捉えた。
予想通り、七色の光の洪水。
しかし、ひざの上だけ、光はぽっかりと消えている。
アレクは慈愛のこもった笑みをサラに向けた後、魔術師を挑発的に睨んだ。

「5年前のリベンジ、果たしたぜ」

余裕を見せていた魔術師が、その台詞に一瞬眉根を寄せる。
アレクの顔からはずされ、乱暴に投げ返されたメガネを片手でキャッチすると、ふーんと呟きながら手の中でくるくると回した。

「リベンジねぇ……わざわざ女寄こすなんて、俺に食わせ」
「んなわけねーだろっ」

魔術師の発言内容を察し、即否定するアレク。
大声を出したいのに出せないもどかしさに、アレクは仏頂面になった。
この魔術師と話していると、自分の感情表現がストレートになってしまう。
まるで19才の自分に戻ったような、不思議な気分だ。

しかし、サラが女とバレたのは何故だろう。
この手の男が寄って来ないように、男装を徹底させていたはずなのに。

「コイツは、俺の大事な弟子だ。お前に勝つために、俺が仕込んだ。俺がっ。手取り足取りっ」

アレクの主張がだんだん過激になっていくのには、理由があった。

リベンジされたという事実がよほど癪に障ったのか、魔術師はアレクへの嫌がらせを兼ねた、欲求不満解消的行為……いわゆるセクハラをはじめた。
サラの髪をくすぐるように撫で、やわらかな頬に触れ、敏感な耳たぶにも触れた。
そして、甘い呼吸を繰り返すくちびるに……

耐え切れなくなったアレクが、再びサラを奪い返そうと決意したとき。

「んっ……」

調子に乗った魔術師の指に反応したサラが、もぞりと身じろぎした。
サラは、唸りながら右向きから左向きに体制を変えると、魔術師の膝の上でまた眠りに落ちていく。

男2人、ホッと息を吐いた。
どうやら、サラを寝かせておくという目的は共通のようだ。

「しかし、俺って勝負運ないのかなあ?」

魔術師が、無垢なサラの寝顔を見つめたまま、まるで独り言のように呟いた。

5年前はうっかりヒト死なせるしー。
今年は金色の龍にやられちまうしー。
どっかの誰かさんは、たいした実力も無いのにあっさり優勝して、願いを叶えてもらったっていうのになあ。

アレクは、魔術師の大人気ない嫌味攻撃を受け、うっかり凹みそうになる自分を励ました。

そうだ、今日の俺は5年越しの願いだった、仇敵へのリベンジを果たした。
可愛いサラも、近々王城へ正式に呼ばれる。
願いが叶うとなれば、きっと少女の素顔で喜ぶはず。

目が覚めたとき、サラは自分にどんな顔を見せてくれるだろう?
なんといっても、俺は勝利にもっとも貢献した人間なのだから、特別扱いは間違いない。
とびっきりの笑顔で、サラ自ら抱きついてくるかもしれない。

想像して、ニヤつくアレク。
なんとなくアレクの考えていることを察し、気に入らない魔術師。

再び2人の男の視線がぶつかり、火花が散る。

眠り姫が目覚めたとき、一番に笑顔を向けられるのは……

『トントンッ』

そのとき、控え室にノックの音が響いた。

 * * *

待ちきれなくなった、カリム、リコ、リーズが飛び込んできたのは、アレクの予想通り。
心地よさそうに眠るサラを見て、ホッと笑みを浮かべるのも。

そして、サラの頭が乗っている物を見て、顔を歪めるのも……

「てめっ!こいつに何しっ……」

叫びかけたカリムの口を、慌てて抑えるリーズ。
サー坊が寝てるよ?と宥めると、カリムはその安らかな寝顔を見て、一瞬癒される。
しかし魔術師への怒りはおさまらず、リーズの手を口からはずすと、男の胸倉を掴み、脅す。

「テメーは敵だ。こいつから離れろ」
「嫌だね。ていうかお前誰だよ?」

ああ、そういえば予選に来られなかった若造が1人いたんだってな。
通りすがりのチンピラにやられて、大騒ぎしたって?
そんな弱いヤツがこの大会に出ようだなんて、レベルが下がったもんだなあ。

痛すぎるところを突かれたカリムは、魔術師のシャツを放すとよろよろと後退り、ガックリとうなだれた。
勝利にニヤリと微笑む魔術師。
魔術師は、眠り込む前のサラから、仲間たちの情報をきっちり聞き出していたのだった。

きょろりと視線を動かした魔術師は、困ったように微笑む糸目の男を目に留めると、アイツは問題無しとスルー。
あとは、ドアの前から動こうとしないちび女が1人。

何人たりとも、俺からこの女を取り上げることはできな……


「ひぃっく……」


開かれたドアから、どうしても部屋の中に進むことができなかったリコ。
堪えていたリコの瞳から、涙がポロリと零れ落ちたとき。


「リコッ!」


パッチリと目を開けたサラは、自分が枕にしていたモノを蹴飛ばし、邪魔なでかい障害物を押しのけ、リコを抱きしめた。

「リコ、泣かないで?私無事だよ?」
「サッ……サラさまぁ……」

抱きしめた小柄なリコの体を離すと、サラは少しかがんで、その頬に落ちる涙を指でぬぐった。
サラの手のひらにできた、新しい真っ赤な豆を見て、リコは再び涙を落とす。
喉が渇いていたサラは、思わずその透明な涙をペロリと舐めた。

「あっ……」
「ゴメン、舐めちゃった!」

天使のように微笑んだサラは、照れ隠しのように再びリコを抱きしめた。


残された男たちは、全員撃沈した。

リーズだけは、まいっかと苦笑した。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
アレク様視点の真面目な話……と思いきや、サラちゃん無駄にモテ話となりました。あー、こーゆー描写薄くて会話中心で中身の無い話書いてると、本当にホッとするなー。(←正直者)この先もう出てこないので書くけど、魔術師君にはちゃんと好きな女子が居るのです。サラちゃんは単なるお気に入り。アレク様も大人なのでアレはナニですし、カリム君も夜の街へ連れ出されて……男とはズルイものです。でもサラちゃん落とすのは不可能なのでしゃーないか。
次回は、引っ張った割には……な、不穏な噂の犯人探し。サラちゃん探偵気取りですが、才能は微妙っぽいです。ファース君の強さの謎にもちょい触れます。

第二章 エピローグ ~魔術師ファース君、受難の日~

第二章 王城攻略


いつの間に眠ってしまったのだろう?
かすかに聞こえたリコの泣き声に、サラはがばっと跳ね起きた。

「リコ!」

パッチリと目を開けたサラは、自分が枕にしていたモノを蹴飛ばし、邪魔なでかい障害物を押しのけ、リコを抱きしめた。

「リコ、泣かないで?私無事だよ?」
「サッ……サラさまぁ……」

泣きじゃくるリコを抱きしめ、慰めながら、サラは自分の現状を思い出していた。

そうだ、今はちょうど決勝戦終了直後。
バリトン騎士から、今後の打ち合わせをするから少し待てと言われて、控え室に戻ったんだ。

負けたというのに妙に嬉しそうな魔術師が「俺もつきあうー」と付いて来たので、しばらくおしゃべりしていた。
お互い全力で戦った結果だろうか、あれだけアクの強かった魔術師も陽気なハスキー犬兄さんになっていて、サラは少し感動した。

これが「なかなかやるな」「おまえもな」の法則ってやつね!

その後、アレクとの修行の話や、旅の苦労話などを少しして。
魔術師が分けてくれた、疲労回復ドリンクをいただいて……
いつの間にか、眠り込んでしまったんだ。


目覚めたばかりのせいか、サラの行動はかなりアニマルだ。
リコを抱きしめ、指でやさしく涙をぬぐい、それでもこぼれる涙を舌でペロリと舐めた。

サラのスキンシップに驚いたせいか、リコの泣き声が徐々に小さくなり、ときどきしゃくりあげる程度までおさまった。
ホッとしたサラは、周囲から視線を感じてふっと顔を上げる。

なぜか泣きそうな顔で、アレク、カリム、魔術師が、サラのことを見つめていた。
リーズが、糸目を細めて苦笑した。

 * * *

ようやく落ち着いたリコが、笑顔で「おめでとうございます」と告げ、サラから体を離した。
そのタイミングで、アレクたちが一斉にサラへと近寄ってきた。

「おめでとう、良くやったな」

くしゃりとサラの頭を撫でるアレク。
カリムは言葉が出ないようで、ただアレクの脇で涙を堪えながら微笑んでいる。
リーズは、控えめにパチパチと拍手した。
リコも、目のフチに涙を溜めながら、本当にすごかったですと呟き続けている。

「アレク、カリム、リーズ、リコ……本当にありがとう」

熱く高揚していた気持ちが、一気に温かく穏やかに変わっていく。
この瞬間をずっと夢見ていた。
トリウムに着いて、武道大会に出ると決まったあの日から。

ジュートは泣き虫が嫌いって言ったけれど、今は少し、泣いてもいいよね……?

サラが瞳を潤ませたとき。

「サーラーちゃん、俺にも感謝の言葉は?」

ニコニコと邪気の無い笑顔で、魔術師が擦り寄ってきた。
何なら言葉じゃなくて態度でと、ナチュラルに伸ばされた魔術師の腕を、アレクとカリムが2人がかりで押さえ込み、最後はリーズのスプーン猫がガッチリ拘束した。

 * * *

部屋の隅の椅子に固定され、むくれる魔術師をよそに、サラはアレクたちと今回の戦いの反省会を始めた。

「一回戦では楽に勝てたけれど、やっぱり次からは辛かったなあ」

二回戦は、剣を失っての苦しい戦い。
準決勝は、サラが剣を裏切ったが故の苦戦。

そして、決勝戦は……

「アレク、お昼休み、私にお守り渡してくれてありがとね」

サラは、笑顔でアレクにお礼を言った。
アレクは口ごもりながら、ああ良かったなと呟いた。
カリムも、リーズも、リコも、今までの温かい眼差しとは少し違う、冷めたコーヒーを飲んだような苦い表情だ。

なんとなく、決勝戦の話になってから、空気が重くなったような?
違和感を感じつつも、サラは話を続ける。

「そうそう。聞きたかったの。どうしてあのお守り、いきなりホッカイロになったのかなあ?」

おかげで気を失わないで済んだけれどと、サラは無邪気に笑った。

「ホッカイロ……?」
「ああ、ゴメン。えっとね、寒いときに熱々になる砂の袋みたいなやつ。手が冷えたとき便利なの」

サラは、胸ポケットにおさまっていた、カイロお守りをアレクに差し出した。
サラ以外の全員が、腰が引けつつもそのお守りに視線を移したとき。

まだほんのり熱を放つ、その小袋から……


『ピュイッ!』


サラを除く全員が、ピシリと固まった。
小さな蛇かトカゲのような生き物が、お守りからするりと飛び出てきたのだ。

それは、金色の羽の生えた、手のひらサイズの龍。


『うわー、龍が生まれるとこ初めてみたにゃあ』
『うん。さっきの水龍も混ざってるっぽいにゃ?』


金色のミニ龍は、つぶらな瞳をぱちぱちと瞬かせると、パフッと音をさせて小さな炎を吐いた。

 * * *

サラにはまったく見えないし、理解もできないが、どうやら今このお守りには金色の龍が住んでいるらしい。
解説してくれたリーズのスプーンも、サラにとってはただのスプーン。
だが、他のみんなには、可愛い猫に見えているというのだから、本当に魔術というものは不思議だ。

というか、みんなが語る決勝戦の話も、サラにはとうてい信じられないのだが。

「あの光龍も、こんなちびっこになっちまえば、かわいいもんだなあ」

アレクは、パフパフと炎を吐く龍の尻尾をつまみ「腹の方は水色だぞ」と面白そうに言う。
リーズも、スプーン猫も、チビ龍に興味津々だ。
リコは少し怖いのか、リーズの背中の影からそっとのぞきこんでいる。

「つまんねーな……俺には、虫にしか見えない」

カリムは、お守りに顔を近づけるが、微かに生き物のような動きが見えるだけだ。
それでもまだ、見えるようになった方。
サラのお守りを持っていなければ、きっと単なる薄い光としか認識できないだろう。

魔術師は、なぜかノーリアクションだ。
こんな珍しいアイテムに絡まないなんておかしいなと、サラが不思議そうに魔術師を見る。
スプーン猫の魔術で、後ろ手に拘束されていた魔術師は、サラと目が合うと気まずそうにフイッと顔を反らした。

その視線のやりとりを見ていたアレクは、ニッと笑い。

「おい、魔術師さんよお。あんた、コイツが怖いんじゃないのか?」

魔術師は、びくりと体を震わせる。

先ほどサラが聞かされたのは、とうてい信じがたい夢物語。
どうやらこのお守りは、ホッカイロになったのではなく、巨大な光の龍になって魔術師を丸呑みしたというのだ。

「ま、まさか。この俺が怖いものなんて……」

かすれ声で呟く魔術師に、アレクはお守りを押し付ける。

「元々は、お前が作った水龍だろ?挨拶くらいしてやれよ」


『ピュイッ』


嬉しそうな泣き声とともに、パフリと上がった炎を見て、魔術師は引きつったような笑顔を浮かべる。
溜飲が下がってしたり顔のアレクが、お守りをサラへと戻そうとしたとき、サラが瞳をキラキラさせて手を叩いた。


「あっ、そうだ。私、ファースさんの杖壊しちゃったのよね。お詫びに、そのお守りあげる!」


どうせ自分が持っていても、あまり役に立たないのだ。
試合では助けてもらったけれど、正直持っていたくないものでもあるし、一石二鳥ね!

ナイスアイデアと満面の笑みを浮かべるサラに、魔術師は「ゴメンナサイ」と呟き、肩を落とした。

今日は、彼にとって人生初の敗北……そして初の謝罪の日となった。


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いきなりゆるくなってしまいましたが、こういうアホな話が作者は一番楽です。重いシリアス話続いたから許してー。ミニ光龍ちゃん、スプーンズに続く不思議ペットpart2です。まだちびっこですがきっとすぐに大きくなって、ファース君のよき相棒となることでしょう。彼らの活躍は……この話が書き終わってしばらく読書三昧してから考えよーと思います。短編か長編か……気まぐれサラダ風に。ウィムッシュ。
次回から、閑話いくつか入れてきます。例の犯人探しもあるんですが、その前にこのプロローグのちょっと前。サラが寝てる間にいったい何が?って話です。プチ逆ハー注意報。

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第三章(6)国王と魔女

2009.05.21【 第三章 王位継承

  さすがに国王相手では、サラもすんなり面会とはいかなかった。 近くの空き部屋を借りて、コーティと2人時間をつぶすことになり、サラは……また乙女の妄想をたんまり食べさせられた。 そろそろ吐く寸前というところで、救いの神ならぬノックの音。「失礼いたします」 銀色の長い髪を揺らしながら入ってきたのは、国王の側近美女だ。「あらためまして、サラ姫様にはご挨拶を。私のことは、月巫女とお呼びください...全文を読む


第三章(5)エール王子を覆う影

2009.05.20【 第三章 王位継承

  図書館の壁にかけてある時計を見ると、夕食の時間まではまだ少し余裕があるようだ。 エール王子と会えるなら、早めに会ってしまおう。 サラは、図書館入り口近くの壁に寄りかかり、本を読みながら待っていたコーティに声をかけた。「コーティ、お待たせ!」 よほどその本に夢中になっていたのか、コーティはサラの声に飛び上がって驚いた後、恥ずかしそうに顔を赤らめながら本を背の後ろに隠した。 その落ち着きの無い態度が...全文を読む


第三章(4)クロル王子の隠れ家

2009.05.19【 第三章 王位継承

  すっかり打ち解けたルリ姫がサラの部屋を出た直後、リコが到着した。 お昼前には王城へ着いていたものの、女性魔術師から念入りに身体チェックを受けたため、遅くなってしまったそうだ。 2日ぶりの再開を喜ぶリコだったが、サラの待遇や男装解除の理由を聞くと、一気に顔色を青ざめさせた。「サラ様、結婚と言われても、あなたは異界の……その前に、あの盗賊の……ええっ?」 混乱して目を白黒させ...全文を読む


第三章(3)王位を狙う者たち

2009.05.18【 第三章 王位継承

  王の宣言後、サラの立場は一気に変わった。 ほんの1日ねぎらわれるだけの勇者から、未来の王妃へ。 しかも、サラの選んだ相手が次期国王になるというのだから、王城中が上を下への大騒ぎだ。 サラは自動的に、王城内に軟禁されることとなった。 * * * ここは王城の再奥にある、いわゆる”後宮”にあたる場所。 男子禁制の、完璧な女の園だ。 国王には、妻である王妃どころか妾も居ないらしく、暮らしてい...全文を読む


第三章(2)王の策略

2009.05.17【 第三章 王位継承

  王の隣に用意された席に座ったサラは、次々と話しかけてくる貴族たちに笑顔で対応していた。 縦一列、ずらりと並んだ貴族たちの先頭に立った人物の台詞は、ほぼ決まってこの一言。「まさかあの黒騎士が、このような美しい女性だったとは!」 サラが、花の髪飾りを揺らせながら「ありがとうございます」と礼をすると、貴族たちは赤くなり口ごもってしまう。 後ろに立つ順番待ちの貴族に背中をつつかれ、最後は強引に横にどかさ...全文を読む


第三章(1)暴かれた秘密

2009.05.16【 第三章 王位継承

 王城内の大ホールには、5年前をはるかに超える人数が集っていた。「先日の武道大会は、本当に凄かったなあ……」「ああ、私は直近の5回分を見ているが、盛り上がったという意味では今回が一番だ」残念ながらトトカルチョには破れてしまったが、と貴族男性が言うと、話を聞いていた仲間の貴族たちが次々と彼に同意の握手を求めにやってきて、最後は大きな笑い声が上がった。 * * *このパーティに参加できるのは...全文を読む


第三章 プロローグ ~伝言、キス、そして王城へ~

2009.05.15【 第三章 王位継承

 顔に貼り付けた続けた笑顔により、無表情でもほうれい線がくっきりと現れる今日この頃。サラの優勝お祝いイベントも、ようやく残すところあと1つとなった。「サラ様、お疲れ様です」「ああ、鉄人の入れてくれるお茶が今の私の癒し……」サラの前に、定番のロイヤルミルクティがそっと差し出された。領主館のダイニングには、甘いキャラメルの香りが漂う。少し前に日本で食べた”生キャラメル”をリクエスト...全文を読む


第二章 閑話4 ~魔術師ファース君の受難 part2~

2009.05.14【 第二章 王城攻略

 この日、市場通り沿いの露店は、一時閉店を余儀なくされた。といっても、店主たち自身もパレードを見たいのだから、商売どころではない。周囲を警備の騎士たちに囲まれ、華やかに飾られたパレードの馬車がゆく。「黒騎士様ーっ!」「おめでとうございますっ!」沿道から投げられる花びらが雪のように降り注ぐ中、サラは隙の無い少年騎士の笑みを浮かべていた。車上から身を乗り出したサラは、あたかも本物の王子に向けられるような...全文を読む


画期的○○○○ 本編

2009.05.13【 画期的○○○○

 【前書き】ごくごく僅かですが、グロイ、キモイ表現がありますので、ご注意ください。(オチは、特定の方にしかピンとこないかもしれませんので、後書きにて補足させていただきます) この世界を作った神がいるとしたら、とんでもなく気まぐれで、残酷だ。 そもそも、残酷だからこそ、俺たちという存在を産み出したのかもしれない。「うちのシマでも、今日また……1人死んだぜ」「ああ、こっちは2人だ」 コロニーと呼ばれるこの...全文を読む


第二章 閑話3 ~指さえも~

2009.05.13【 第二章 王城攻略

 夕方になり、パーティこと取調べ会はお開きとなった。名探偵サラは、クタクタの体を引きずるように、会場を後にした。まるで一日プールで遊んだ後のように、全身が重くけだるい。サラは、頭脳労働の疲労は肉体労働に値するなと、あたかも自分が事件を解決したかのようにうなずいた。「年取ると疲れが2日後に来るのよねー」という、馬場先生のところの愉快なおばちゃん看護士松田さんの声が聞こえたような気がしたが、きっと気のせ...全文を読む


画期的○○○○ あらすじ

2009.05.13【 画期的○○○○

 ザンコクな神がシハイするこの世界。仲間たちが次々と倒れる中、彼は過酷な環境でなんとか生き延びていた。ついに死を覚悟したとき、彼の身に起こった奇跡とは……?(一見SF風……微グロ? キモ? でもコメディ)※恋愛ホラー短編『ドメスティックバイオレンス弁当』と、ちょっぴり世界観リンクしています。→ 【本編へ】 → 【Index(作品もくじ)へ】...全文を読む


第二章 閑話2 ~名探偵サラの事件簿(後編)~

2009.05.12【 第二章 王城攻略

 いきなり自分を「探偵」と名乗った黒騎士。それまで容疑者扱いされていたこともすっかり忘れ、得意顔で指示を始めた。「皆さん、その場に座ってください。いいですね?」あんぐりと口を開けてサラを見つめていた全員、有無を言わせぬ探偵の要求に答える。ああ、なんて面白いんだろう。彼女の行動は、まったく読めない。魔術師ファースも、切れ長の目を細めてニヤリと笑いながら、その場に座り込んだ。 * * *「今からワタクシ...全文を読む


第二章 閑話2 ~名探偵サラの事件簿(中編)~

2009.05.11【 第二章 王城攻略

 酔っ払った男たちも、すっかり酔いが醒めたようだ。もちろん、アルコールを取っていなかったサラもすっかり興ざめしてしまった。用意周到な騎士たちの動きからは、計画的な匂いがぷんぷんする。わざわざ参加者全員が集められたのは、このためだったのかと、サラは心の中でガッテンボタンを連打した。アレクが「俺がすっぽかしたイベントは2つだけ」と言っていたし、この内輪ねぎらいパーティは、ある意味ドッキリ企画だったのだろ...全文を読む


第二章 閑話2 ~名探偵サラの事件簿(前編)~

2009.05.10【 第二章 王城攻略

 決勝戦終了後、バリトン騎士に言われた連絡事項は、3つあった。1つ目は、王城へと出向く日程について。それなりに準備を整えての豪華なパーティになるため、5日後になるとのこと。前回優勝者は、パーティを見事にすっぽかしたから幻と言われるようになったのだと、ねちねち愚痴られた。サラがちゃんとパーティに出るなら、王に願いを伝える機会もそのときに設けてもらえるとのこと。2つ目は、優勝パレードについて。3日後に行...全文を読む


第二章 閑話1 ~眠り姫を起こすのは、誰?~

2009.05.09【 第二章 王城攻略

 決勝戦直後。前回大会の優勝者である”幻の勇者”ことアレクが、コロセウムの控え室を訪れるのは本日2度目のこと。先ほど感極まって泣いてしまったことを知られるのは気恥ずかしく、顔を洗ってさっぱりしてきた。ドアを開けようとして、少し躊躇するアレク。なんとなく、祝いの言葉を告げるのに手持ち無沙汰なのはカッコ悪いような気がしてしまった。こんなことなら、花でも用意しておけば良かった。アレク自身も、サラ...全文を読む


第二章 エピローグ ~魔術師ファース君、受難の日~

2009.05.08【 第二章 王城攻略

 いつの間に眠ってしまったのだろう?かすかに聞こえたリコの泣き声に、サラはがばっと跳ね起きた。「リコ!」パッチリと目を開けたサラは、自分が枕にしていたモノを蹴飛ばし、邪魔なでかい障害物を押しのけ、リコを抱きしめた。「リコ、泣かないで?私無事だよ?」「サッ……サラさまぁ……」泣きじゃくるリコを抱きしめ、慰めながら、サラは自分の現状を思い出していた。そうだ、今はちょうど決勝戦終了...全文を読む


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