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第二章(終)金色の龍

第二章 王城攻略


試合再開の合図とともに、三度静まり返るコロセウム。
サラも魔術師も距離を置き、睨み合ったまま動こうとしなかった。

魔術師の表情は、フードの影で隠れて良く見えないが、薄い唇の口角が上がっていることは分かる。
しかし、サラは魔術師の笑みに動じなかった。
魔術師が、サラを動揺させて面白がっているとようやく悟ったからだ。
サラの心に湧き上がった恐怖は怒りへと変わり、くすぶり続けていた怯えを完全に押さえ込んだ。

王族までもが固唾を呑んで見守るこの大舞台で、人を愚弄するにもほどがある。
もしも悪ふざけでなく、本気で自分を殺しこの黒剣を奪うというなら……打ち砕くだけだ。

「ふーん。いいオーラ出てきたじゃん。俺もそろそろ本気出しちゃおっかなー」

魔術師は、サラの思いをようやく受け止めることにしたようだ。
相変わらずお喋りだが、その口調は僅かに変わった。

「俺を本気にさせてくれた礼に、とっておきの魔術を見せてやるよ」

その台詞にこめられた言霊が、会場全体を駆け回った。
次の攻防が最後になるだろうと、サラも観衆たちも、予感していた。


魔術師は、細い指で自らの指輪に触れた。
その指輪には、光を乱反射し虹色に輝く宝石が埋め込まれている。

サラを挑発するように薄く笑んだまま、詠唱は行われた。
この世界に来てから初めて耳にする、韻を踏んだ歌のような心地よい響きだった。

アレク、そして前回大会を見ていた一部の観客たちの脳裏に、5年前の記憶が蘇ってくる。

あの日も、女神の愛し子である太陽は高く昇り、空は青く澄み切っていた。
魔術師の前に立っていたのは、一人の屈強な剣闘士だった。
目の前の敵に自分の力が到底及ばないことに目を背け、重い体を引きずるように、魔術師へとにじり寄っていった男に、襲い掛かったものは……


「サラ!逃げろ!」


思わず叫んだアレクの声は、観客のどよめきにかき消された。

魔術師の指輪から現れたのは、一匹の龍。

人の背丈ほどもある頭、見るものの魂を奪うという鋭い瞳、長い髭、裂けた口から覗く牙。
水色の鱗がびっしりと敷き詰められ捩れた胴体には、鋭利な爪を持つ腕が2本生えている。
妖精と並んで、伝説の中にしか存在しない生き物だ。

水龍は咆哮をあげながら、長い体をくねらせ、サラへと襲い掛かった。

 * * *

一部の観客に、記憶がフラッシュバックする。
あの日、龍に襲われた男は、二度と意識を取り戻すことはなかった。
魔術師は、やっちまったなと呟くと、審判の合図も聞かずに壇上を降りた。

結末を知っている者たちは皆、絶望に瞼を閉じた。
アレクでさえ、恐怖に張り裂けそうな心を抑さえつけ、薄目を開けているのがやっとだ。
過去を知らない者たちは、ただ目を見開き、呆然とその光景を眺めるだけだった。


龍の召喚は、魔術の中でも最高上位ランクだ。
魔術師の召喚に応えた、力のある幾多の精霊たちが集い、形を変え、龍の姿となる。
一部の魔術師からは”禁呪”と呼ばれ、恐れられる魔術だった。

魔力のある者には鮮明に、魔力の少ない者には水晶のように透き通って見える水龍。
恐ろしくも美しいその存在から、誰1人目を反らすことはできない。
風をまとい、土ぼこりを巻き上げながら、目の前の獲物へと襲い掛かる水龍は、サラの目の前に迫ると、巨大な口を開いた。

そこから放たれたのは、灼熱の炎。
本来なら、火と水は相容れないものだが、稀代の魔術師にとってはわけのないこと。

「この複合魔術ってやつが、俺の特殊能力なんだよね」

呟きをかき消すように、水龍が哮る。
強さを求める全ての魔術師を絶望へと追いやるような、圧倒的な力がそこにあった。


魔術師は、指輪の宝石の艶やかな表面を撫でた。
宝石からは、解放された森の精霊たちの歓喜が伝わってくる。

実は、この龍には秘密があった。
鮮烈な光景を外から見ているだけの者には、決して伝わらない真実。
あの日死んだ男でさえ、気づいていたかどうか。

この龍は、全て幻なのだ。

見るものの恐怖や悪意など、負の感情を餌に暴れ狂う、決して触れることのできない魔物。
恐怖にかられ剣を突き出したならば、その剣の痛みがすべて当人へ返される。
前回、この魔術は1人の男の命を奪った。
だいぶ手加減したつもりだったが、よほどあの男は腹に悪意を抱え込んでいたらしい。

今回の獲物は、果たしてどうだろうか……?

どうか簡単に壊れてくれるなよと、魔術師は残忍な笑みを浮かべた。

 * * *

何か恐ろしいものが近づいてきている。

水龍が迫る気配を察したサラは、身の毛がよだつような恐怖を覚えた。
ここから逃げろと、第六感が訴えてくる。
しかし、迫り来るそれが一体何なのか、サラのブルーの瞳に映ることはない。

炎も、水も、光も、何も見えない。
何の魔術なのか、どの程度の威力なのか、考えても意味が無かった。

サラは、黙って瞳を閉じた。

魔術を、受け止めるために。


まず失ったのは、前方に突き出していた腕の感覚。
魔術師に向かって真っ直ぐ構えていた黒剣を、サラはいつの間にか取り落としていた。

次に、体全体が繭に包まれていくような、温もりを感じた。
眠いような、だるいような、奇妙な感覚だった。
温かい空気の中に、サラの持つ生気が溶け出していくようだ。

サラの体だけでなく、思考をも麻痺させるように、温かくやわらかな繭が広がり、ついにはサラの視界を閉ざしてしまった。
サラの心は、上も下も無い、純白の空間に閉じこめられた。

なんという不思議な魔術だろう。
この魔術を受け止めているのか、跳ね返しているのか、サラにはもう分からない。
自分が立っているのか、倒れているのかすらも。

頭の中に、サラを眠りへと誘う何者かの声が聴こえる。

このまま眠ってしまえば、この戦いは終わる。
楽になれる。


(嫌だ……負けたくない!)


抗う心に応えるように、胸の傷がドクンと熱を放った。

サラの胸の傷の熱さが、唯一残った感覚。
いや、違う。

熱いのは……左胸の奥。


胸に感じる不思議な熱に意識を揺さぶられ、サラはそっと瞳を開いた。

サラの瞳に映る世界は、目映い黄金に染まっていた。

 * * *

水龍の吐き出した炎が少年騎士を包むのを、まるでおもちゃ遊びに飽きた子どものように眺めていた魔術師は、思わず叫び声を上げた。


「何っ……!」


炎に包まれ、ふらりと崩れかけた体を包んだのは、少年の胸から広がった淡い光。
昇る朝日のように輝きを増していく光は、炎の赤をあっという間に飲み込むと、やがて大きなうねりとなり、魔術師の前にその姿を現した。

魔術師の思惑を完全に裏切る、その光の正体は。

まさに魔術師が生み出した、幻の龍そのものだった。


サラの体から現れた龍は、眩しい太陽光を受けながら、水龍の何倍もの大きさへと膨れ上がり、咆哮を上げながら天へと駆け上る。
太陽に届く手前でぐにゃりと体を曲げ、地上へと舞い降りた光龍は、巨大な口を開けて水龍を飲み込むと、そのまま地を這うように一気に魔術師へ向かった。

あまりの眩しさに、目を閉じる時間すら与えられなかった。
魔術師の全身を覆い尽くした光は、彼の意識を一瞬で奪っていった。

光の龍は、立ち尽くす魔術師の心を腹の中におさめると、再び天高く昇り、太陽に溶けて消えた。


黄金の光が消え、静寂に包まれたコロセウム。
その場に居る数千人のうち、正気でいたのはサラだけだった。

眩しい光の中で立ち尽くしていたサラは、発熱する左胸ポケットのお守りに手を当ててみた。

大丈夫、私はちゃんとここに立っている。
変な術を受け止めたせいで頭がもやっとしたときは、もうダメかと思ったけれど。
このお守りのおかげで、意識を失わずにすんだ。

やっぱり、アレクの忠告は聞くもんだなあ。

まさかあのタイミングで、お守りが”ホッカイロ”に変身するなんてねえ……


光が引いて、徐々に視界がクリアになっていく。
さあここから反撃だと、足元に転がっていた黒剣を拾い上げたサラが見たものは……

床に倒れ伏して、ぴくりとも動かない魔術師だった。

 * * *

倒れた魔術師をじっと見つめ、こくりと首を傾げるサラ。
いったい何が起こったのか、さっぱり分からない。

まさか死んでないだろうなと、魔術師へとにじり寄ってみる。
悪夢にうなされるように、うーんと唸り続ける魔術師。
フードが頭から外れてしまったせいで、魔術師の寝顔がばっちり見える。
整った顔が、少し苦しげに歪められているものの、たぶん大きな怪我はないだろう。

浮かんできた数々の疑問はさておき、心の中で10秒数えたサラは、魔術師から離れた。
今度は床にへたりこむバリトン騎士に近づき、ちょいちょいと肩をつつく。
うつろな目でサラを見上げた騎士が、ヒッと叫んでお尻で後退しようとするところに、サラは声をかけた。

「あのー、10秒、経ったみたいですけど?」

夢幻の世界にトリップしていたバリトン騎士は、自らの頬を両手で叩くと、ふらつく体を起こした。

そして、恐怖を振り払うように、声の限りに叫んだ。


「勝敗は決した……鳴らせ、勝利の鐘をっ!」


その声が、引き金となった。

響き渡る鐘の音。
会場全体が揺れるほど、踏み鳴らされる足。
終わらない拍手と大歓声。

王族たちも、全員立ち上がって惜しみない拍手を送っている。

アレク、カリム、リコ、リーズの4人も、一人の観客として、サラに声援を送った。
全員が流れる涙にも気づかず、手のひらが真っ赤になるほど手を打ち鳴らし続けた。


コロセウムの外に居た観客たちも、天高く駆け上っていった黄金の龍を見ていた。

「あの龍は、少年騎士の魔術だ!大逆転勝利だ!」

会場から転がり出てきた観客の1人が叫んだことで、歓声は一気に膨れ上がる。
猛スピードで伝播していく興奮と熱狂は、いつしか街全体を飲み込んでいった。


倒れていた魔術師は、観客たちの上げる声に、うるさいなと思いつつ意識を取り戻した。
魔術師の敗北を告げる鐘の音に、ハッとして立ち上がる。

体に痛みはない。
金色の龍に食われたが、どうやら自分は無傷ですんだようだ。
そして、心はすっきりと晴れ渡る空のように、すがすがしい。

人生で初めての……完敗だった。

立ち上がった魔術師は、きょろきょろと所在なさげに視線を動かすサラに近づき、苦笑しながら「まいったまいった」と告げた。
サラとしては、どうして勝てたのか分からず、まるっきり消化不良だ。

困惑するサラの腕を取り、魔術師が満面の笑みでその手を掲げると、空が割れんばかりの大喝采が起こった。


そっと腕を下ろした魔術師は、サラの耳元で「そろそろ、その覆面を取ってもいいんじゃないか?」とささやいた。

そういやそうかと、サラはうなずく。
流れる汗と熱気で蒸れた、その金色の髪と黒い覆面を外した時。

会場は、水を打ったように静まり返った。

 * * *

覆面の下に隠されていたのは、この世のものとは思えないほどの、美しい少年だった。

輝く漆黒の髪、長い睫に縁取られたブルーの瞳、意志の強そうな眉。
透けて見えるほど白い肌に、すっと伸びた鼻と赤い唇。
上気した頬はバラ色に染まり、汗ばんだ横髪が張り付いている。

つうっと流れた汗を、さも鬱陶しげに手の甲で乱暴に拭い取る。
そんなありふれたしぐさ一つも、目が逸らせないほどの存在感だった。

今まで戦っていた魔術師も、素顔の少年騎士……いや、少女の姿を間近で見て、魂を抜かれたような表情をしている。

誰もが茫然自失で少年を見つめる中、1人の男が立ち上がり、その青い瞳を見据えながら問いかけた。


「勇者よ、お前は、何者だ?」


英雄王と呼ばれるトリウム国王を、サラは初めて視界に入れた。

サラはゆっくりと片膝を付き、その前に黒剣を水平に置く。
一度深く顔を落とし、再び上げたサラの瞳が、挑戦的にきらめいた。


「オレの名は……黒騎士!」


何にも遮られない、力強い少年の声が、会場に響いた。

国王の瞳が、サラのブルーの瞳とぶつかる。
全てを見透かすようなその鳶色の瞳が細められ、国王の顔に笑みが広がったとき、サラはようやくこの戦いの終わりを感じた。

黒騎士と呼び続ける大観衆の中で、サラは太陽のような笑顔を解き放った。

(第二章 完)


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
第二章、終了です!読んでいただいてありがとうございました!最終話も長かったー。苦しかったー。ヒッヒッフー。反省点多々ありますが……似たような表現多用とか……才能キラキラシーンも上手く伝わったか……こんなんでええんのんか……まっ、とにかくこれでようやく作者の苦手なバトルモード終了です。ファンタジーに必須の龍も出してみました。これで王道1個クリア。ついでにサラちゃん、また得体の知れない男子1名引っ掛けちゃいましたけど、彼の出番は第二章で終了です。サイナラッキョ。
次回、エピローグ。ツワモノどもが夢の後、というかお疲れさんモードで一気にゆるくなります。サラちゃん、ホッカイロの真実教わりつつ、和みキャラ(?)登場です。


【ウェブ拍手】

(可愛い猫ちゃんの正体&第二章完結記念のお礼小話が入ってます。ブログ版に載せていたものですので、そのうち転載するかも……?)

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第二章(26)新たなターゲット

第二章 王城攻略


静寂の中、魔術師の笑い声だけが響き渡っていた。
無残に折られ、半分の長さになった杖をまじまじと見つめ、肩を震わせる。

「スゲー、予想外!キミ最高だねっ」

魔術師は、目尻に浮かんだ涙をぬぐった。

それ片付けてよと言われた審判の騎士が、慌てて戦闘一時中止の号令をかけ、転がった杖と魔術師の手に残った片割れを回収していく。
念のため、床に破片が落ちていないかもチェックするようだ。

その間、魔術師は何がツボだったのか、笑い続けていた。
サラが笑うなと言えば、余計に笑いたくなるらしい。
戦いの再開を強く求めるほど、まあまあとなだめすかしてくる。

こんな状況の中でもマイペースで天邪鬼な魔術師は、本当に腹立たしい。

「そういえば、その剣についている宝石の名前、キミは知ってる?」

サラは、まいったとばかりに、天を仰いで嘆息を漏らした。
少し会話に付き合わなければ、きっと魔術師は戦闘モードに戻ってくれないだろう。

宝石の、名前か。
ジュートから聞いたような聞かないような……

手にした黒剣の宝石をじっと見つめるサラ。
その表情はマスクと前髪に隠れて見えない。
魔術師はくすりと笑うと、灰色の瞳を猫のように細めてささやいた。

「女神の涙、っていうんだよ」

魔術師は、試合の中断に苛立つ観客に気を使ったのか、澄んだ声で高らかに一つの物語を語った。


『この世界が、女神の手で作り出されたとき、光の源は太陽1つだった。
闇に包まれる夜を少しでも照らして欲しいと願う人間のために、女神は太陽の一部を欠いて、月を作った。
しかし、月は太陽に戻りたいと願った。
それは絶対に叶わぬ願い。
月の悲しみを知った女神が流した涙は、1粒の宝石となって地上へと降った』


話を聞いていた観客たちは、サラの手元で美しく光を放つ黒剣の宝石にそんなエピソードがあったのかと、感心しきりでため息をついている。
魔術師の洗練された立ち居振る舞いや、涼やかで雅な表情にも心酔しているようだ。

すっかり戦闘モードを解いたサラは、エライ女神様でもコチラを立てればアチラが立たずみたいな二択で悩んで泣いちゃうなんて、案外イイヒトなんだなと思った。
そういえば、日本のやおよろずの神様も、ギリシャ神話も、男女関係のモツレがあったり、なんだかんだ人間くさい。
この世界の女神に少しだけ親近感を覚え、心が和んだサラ。

だが、魔術師の小さな呟きで、和みモードは強制終了。

「それ、欲しいなあ……」
「はぁっ?」

ぎょっとしたサラは、思わず黒剣を魔術師に向け構えた。

「うん、俺が勝ったら、そいつを譲ってもらうことにしよう」

悪いけどと口では言うものの、まったく悪びれた様子はない。
呆れるサラの視線も気にせず、魔術師は皮肉げな笑いを浮かべたまま独り言を呟く。

「その剣で、肉を切り刻んだら、かなり美味いハンバーグができそうだ」

聞き捨てならない台詞に、サラの表情は一変する。

自分の魂の片割れとも感じている、サラの大事な黒剣。
その剣で、ハンバーグっ……!

あまりの侮辱に、かあっと頭に血が上ったサラ。
しかし次の瞬間、魔術師の狂気を目の当たりにし、サラの顔からは一気に血の気が引く。


「ハンバーグを作るなら、人間の肉が一番美味いからね……」


発言のたびに表情を変える、グレーの瞳。
今は闇を強め、魔性が宿ったような残忍な色が浮かんでいる。
瞳から放たれる威圧感が、風圧となって襲い掛かるようだった。

試合が再開しても、サラは黒剣を構えたまま、一歩も動けずにいた。

 * * *

2人を縛っていた武力のみで戦うというルールは無効となった。
これからが、本当の勝負だ。

サラは、すぐにでも魔術攻撃を放たれるだろうと、身構えていた。
しかし、魔術が解禁される気配はない。
それ以前に、魔術師は結界やスピードアップなどの補助魔法を含め、何ひとつ魔術を使っていない。
ノーガード戦法で、サラの剣をするりとかわして逃げてしまう。

完全に、舐められている。

サラをからかうように、右へ左へとステップを踏むその姿は、魔術師ではなくマジシャンのように見えた。
Aだと思えばB、Bかと思えばCと、次々と人の心理の裏をかき続ける奇才。
見せかけの姿に騙され、つい翻弄されてしまう。
トリックに引っかかれば負けと分かっているのに、剣は魔術師にかすりもせずに空を切るばかり。

攻撃の手を緩めたつもりはないサラだったが、無手の相手と立ち会うのは初めてだった。
相手に怪我をさせられないと、無意識にセーブをかけたサラの攻撃は、傍から見ていても手ぬるかった。

まるであの不思議な杖を向けられているかのように、気圧される。
圧倒的に有利なはずなのに、なぜか勝てる気がしない。

思考が混濁するサラは、また悪い癖が出た。
サラの怯えを察した黒剣が、自動的に魔術師へと切りかかっていく。
魔術師はといえば、唐突にスピードが上がったサラの攻撃にも、臆する様子は無い。
甘い剣筋を難なく避けては、くすくすと挑発するように笑う魔術師。

そんなやりとりが、どのくらい続いたのだろうか。
再び、サラの体が疲労に引きずられはじめると、先ほどまで痛くも痒くもなかった胸の傷が、ズクズクと主張し始めた。

集中が切れた証拠だった。
サラが、痛みを追いやろうと強く歯を食いしばったとき。

「ちょっと待った!」

華麗な身のこなしで、サラの剣をかわし続けていた魔術師が、いきなり声をかけてきた。

審判に目線を送ると、タイムの合図を待たずにサラへ近づいてくる。
気まぐれな態度に振り回されるのにも、サラは慣れつつあった。
次は何事かと、訝しげに魔術師を見上げる。

「傷が気になるんだろ?治してやるよ」

魔術師は、俺って親切ーと言いながら、サラの胸の前に手をかざした。
サラはとっさに要らないと叫んだが、あとの祭りだった。

破れた布地の奥に見える、血の滲んだ一筋のラインに、魔術師は手のひらを当てた。


「やめろっ……!」


サラは、渾身の力で魔術師を突き飛ばした。
後方へとよろめいた魔術師は、信じられないものを見るように、灰色の瞳を大きく見開いている。

サラは、とっさに自分の胸元を確認した。
当然、傷は塞がれていない。
サラの胸には、癒しの魔術を受けた証拠である不快な熱が微かに残る。

魔力が無いのではなく、受け付けないという特異体質。
サラが隠し続けていた、最後の切り札だった。

こんな些細な傷のせいで、バレるなんて!

サラが、ギュッと目をつぶったとき。
すぐに落ち着きを取り戻した魔術師がサラへと近寄って、マスクに隠れたサラの耳元に手を添える。
それは、内緒話のポーズ。

ささやかれたのは、意外な言葉だった。


「キミ……女だったんだね?」


体を強張らせたサラは、至近距離で見つめるグレーの瞳に囚われた。

最高に面白いおもちゃを見つけたというように、魔術師は満ち足りた笑みを向けた。

 * * *

こそこそと内緒話をする2人の勇者。
いや、1人の魔術師。

なかなか再開しない試合に、観客たちもざわめき始める。
アレクだけは、サラがきっと何かマズイことを言われているに違いないと察していたが、どうすることもできず神に祈るだけだ。


魔術師は、サラの耳元に熱い息を吹きかけながら、こう言った。

「その剣が欲しいってのは、取り消すよ」

所有者ごと手に入れれば、一石二鳥だもんな。
決めた。
キミを、絶対俺のものにする。


マスクの下、真っ青になってイヤイヤをするように首を横に振るサラ。
魔術師はサラの瞳を覗き込み、その深いブルーを確かめながら、舌なめずりした。


「キミを食べたら……美味しいだろうなあ」


サラの背筋に、髪の毛ホラーを凌駕するレベルの寒気が走った。

早く試合を再開しなさいとバリトン騎士の声が飛び、魔術師はペロリと舌を出してサラから離れた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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エキセントリックな魔術師ファース君、本性小出しにしてみましたがどーでしょう。作者は好きですが……いや、さすがに好きじゃないかも。なんにせよ、こんな男実際に居ねーだろ度No.1です。ハンバーグの話はたぶん彼の嘘だと思います。カニバリ……とかいーわーなーいーのっ。この物語ではリアル暴力描写無しです。あと女神伝説、チラリと出ました。太陽と月はこの先のキーワードでもありますが、まだ……えー、プロットのツメが甘い状態なので(←正直者)ここでは一度お忘れください。
次回、かなり振り回されてきたサラちゃんですが、さっぱり決着。長かった第二章もついにオシマイです。サラちゃんも作者も、しんどいのこれでオシマイ……
※前の話で言いまつがいご指摘いただいた匿名さん、どうもありがとうございました!「たぶらかす」ですね……助かりましたっ!

第二章(25)武力縛り

第二章 王城攻略


決勝戦の直前、観客たちが密かに待ち望んだ瞬間が訪れた。
両脇にローブ姿の妙齢魔術師を2名従え、コロセウムの中央ステージへと現れた、1人の男。

ゆったりとした黒いサテン地の服に、真紅の甲冑をまとった、大柄な男だった。
胸に描かれた十文字のエンブレムの中心には、人のこぶし大の宝石が埋め込まれ、降り注ぐ太陽の光を乱反射している。
くるぶしに届くかという長いマントが、がっしりと逞しい背中を覆い、歩みに合わせてヒラリとはためく。
宝石が散りばめられた白銀の王冠が、褐色の肌に良く映え、男の神々しさを増す。

1歩進むごとに、空気が震えるほどの威圧感だった。
男は、ビロードの布が敷かれた階段を昇り、戦いを見下ろす位置にある革張りの椅子に、ゆったりと腰掛けた。
昼休憩の間に、戦闘スペース脇にしつらえられたその場所は、男のためだけに作られた特別な観覧席だ。

観客たちは、待ちきれずに叫び始めた。

「国王様ー!」
「トリウム万歳!」

英雄王とも呼ばれるトリウム国王ゼイルは、その声に片手を軽くあげて答える。
選手の控え室とは間逆にある出入り口から、次々と王族たちが現れた。

まずは、第一王子エール。
背中までの美しい黒髪をなびかせ、髪柔和な表情で観客に手を振るが、もう一方の手には国宝の杖が固く握り締められている。
トリウム国の筆頭魔術師でもあるため、自らも含めた王族たちを守る強力な結界を維持していることは、少し魔力のある観客たちには良くわかった。

次に、第2王子リグル。
騎士団長として日々訓練に勤しむことを証明するような、見事な体躯の青年。
大剣を背に、短剣を腰に差した、騎士たちと同じスタイルは、王子といえど気取らない印象を与える。
こちらも、何かあろうものならすぐに相手への攻撃をできるよう、警戒しつつの入場だ。

続けて、第3王子クロル。
賢者と誉れ高く、栗色の髪と理知的な瞳の少年は、観客のどよめきにも無表情で定位置へと向かう。
その美貌は、精霊の森の向こうに果てしなく続く大陸へも伝わっているという。
戦いには向かない分、知力をもって事前に暗殺者の新入するであろうルートを塞ぎ、幾人もの暗殺者を返り討ちにしたともっぱらの噂だった。

少し遅れて現れた、ただ一人の王女ルリ。
結い上げた栗色の長い髪の後れ毛と、ドレスの裾を揺らしながら、羽が生えたように軽い足取りで兄たちの後を追う。
少女からこぼれる笑みには見る者の胸を突く神秘性があり、妖精に例えられるのもうなずける。
穢れを知らない無垢な少女のようだが、大陸の各国からの求婚を全て断り続けているというエピソードからも、意思の強さを秘めているのだろう。

最後に、腰の下まである長い銀髪の女性。
うつむいているため、その表情は観客たちから見えなかったが、王の横に立つその姿はまるで、王を守るために天界から舞い降りた天使のように可憐だった。
王の側近として珍重されている巫女であることは、一般国民にはあまり知られていない。


5年ぶりに姿を見せた王族たちの姿に、観客たちは熱狂し、倒れる者も出るくらいの興奮状態に陥った。
警備の騎士たちが、慌てて観客を諌めてまわった。

それからほどなくして、バリトン騎士から声をかけられたサラと魔術師ファースは、ついに彼らの前に立った。

 * * *

今までの3戦では耳に入らなかった観客たちの声が、今ははっきりと聴こえる。
コロセウム全体が地響きを起こすほど、歓喜の叫びに埋め尽くされていた。
サラと、魔術師と、なによりすぐそこにいる王族へに向けられた声だ。
大変なところへ来てしまったようだと、サラは苦笑した。

舞台へ上がる際、サラは王族の居るであろう方向を見ず、魔術師の後姿を見続けた。
王族を見てしまうと、勝敗を意識しすぎてしまうと考えたからだ。
魔術師はといえば、さすがに手馴れたもので、観客や王族に手を振り投げキッスまでサービスしつつ進んでいく。
本当に、変な男だ。

サラは、先ほどまでの奇妙な舌戦は、自分の貴重なシミュレーション時間を邪魔するためだったのではないかと、今更ながらに悟った。
たぶらかされてしまったものは仕方が無い。
なにより、緻密な計画も試合が始まればすべて無意味になるだろう。

それは、相手の実力が分からないから。

サラは、自分が挑戦者側だと分かっていた。
黒剣と自分を信じて、全力を尽くして立ち向かうだけだ。


バリトン騎士が、すぐ脇に控える王族を気にしたのか、いつにもまして大きな声で告げる。

「両者、試合前に何か言うことはあるか?」

サラは無言で首を横に振る。
魔術師は、はーいと緊張感の無い声で手を挙げた。

「俺の方から、武力縛りを提案します」

控え室では、なんとなくうやむやになってしまったその話題。
サラは、ついカチンと来て言った。

「必要ない!」
「キミがそういうなら、絶対やるよ」
「天邪鬼もいい加減にしろよ!」
「うん、分かってるなら素直に受け入れようね?」

王族の前で繰り広げられる、くだらない水掛け論。
バリトン騎士が割って入り、両者が納得する提案を行った。

試合開始後は、お互い武力のみで戦うこと。
魔術師が「魔術を使わなければ勝てない」と思った時点で、その旨をサラに告げ、魔術を解禁する。

「わかった。せいぜいキミが俺を追い詰めてくれるのを期待しよう」

サラは納得し、天邪鬼な魔術師もあっさりうなずく。
このルールは、事前に考えていたシミュレーションに沿うものであり、むしろ線引きしてもらったことでより戦いやすくなる。

「では、遠慮なく」

王族と大観衆が見守る中、魔術師は不思議な呪文を唱えた。
目を閉じ、手にした杖の先を額に当て、杖を掴む手に力を入れうつむく。
そのしぐさは祈りに似て、今までのふざけた姿とはまったく違う凛然たる態度だった。

呪文の意図は、すぐに分かった。
魔術師が額に当てた部分から、うねりのある木の杖が淡い光に包まれながら、先端にかけてみるみる細く鋭く尖っていく。
木の杖はいつしか微光を放つ鉛色の塊へと変わり、最後は美しい抜き身の刀となっていた。

「これ、俺の武器。いいよね?」

呆気とられるバリトン騎士にウインクして、魔術師はサラへと向き合った。
薄墨を溶かしたような瞳には、静かな闘志が見える。
なにより、手にした異形の刀から感じるのは、サラには見えないはずの膨大な魔力。

サラは、厳しい戦いを予感しながら、黒剣を構えた。

 * * *

あれだけ騒がしかったコロセウムも、魔術師の杖が変化した頃から徐々に静まり、試合が始まった今では物音一つ聴こえなくなっていた。
王族の姿見たさにチケットを入手した、ややミーハーな住民たちも、近づいては離れる2つの影から一時も目を逸らせずにいた。

観客席には、すでに敗退した選手たちの姿もあった。
緑の瞳の騎士は、2人の姿をかろうじて捉えてながら、体の震えを抑えることができずにいた。

驚いたのは、魔術師の武力だった。
剣のスピードが、速すぎる。
遠めには針のようにも見える先端の細い鉛色の剣は、きっと空気抵抗をほとんど受けないのだろう。
自分と戦ったときのように、少年騎士の動きも切れているが、それでも防戦一方だ。
魔術師の顔には、余裕綽々なのだろうか、笑みが張り付いている。

あの剣を、もし自分が受けたら、どうなっていただろうか?
少年騎士ほどねばれたか分からない。
いや、開始すぐの一撃で敗北していた可能性も高いだろう。

あまりにも、圧倒的な実力の差を見せ付けられ、騎士の心には興奮と同じくらい空しさが広がった。
騎士や剣闘士に負けるならわかる。
しかし、魔術師に武力で負けるのだ。
今まで積み上げてきたもの全てが、あっけなく崩されるような絶望感だった。

1回戦で魔術師ファースと戦った男も、騎士の隣で観戦していた。
彼も、地元では名の通った魔術師だった。
上には上がいるし、胸を借りるつもりでと臨んだ武道大会だったが、初戦であの魔術師ファースとぶつかってしまったことが、男にとって運の尽きだった。

『へえ、キミはずいぶんと炎の魔術に自信があるようだねぇ』

最初は、単に炎の精霊の指輪をつけていたが故の言葉かと思ったが、そうではなかった。
試合開始直後、自分がもっとも得意とする炎の魔術を詠唱したタイミングで、魔術師は同じ魔術を発現させてきた。
いや、同じではなく、より精度の高いものを。

偶然かと思った男が、次に放ったより上位の魔術でも、同じ目にあった。
発露した魔術がまったく同等の魔術とぶつかったとき、2つの魔術は互いを食い合い消える。
何度か同じことが起こり、気力を失った彼は自らギブアップを宣言したのだった。
ささやかなプライドは、粉々に砕けた。
自分がこの大会に出ることは、もう2度とないだろうと、男は思った。

もしかしたら、あの少年騎士も自分と同じ気持ちを味わっているのだろうか?
少し同情の混じった視線で、捕らえきれない2つの影を追い続けた。

彼らと少し離れた場所にいたアレクも、固く手を握り締めながら、この試合を見守っていた。
リコも、カリムも、リーズも、目の前の攻防に釘付けだ。

サラが、全力で戦っていることは良く分かる。
しかも訓練時以上の力を発揮している。

それなのに、魔術師の笑みは深くなるばかりだった。

 * * *

魔術師の杖ならぬ聖剣を、ただ無心で受け止め続けていたサラ。
変化を遂げたその剣を見たときから、この展開は予想できていた。

アレクを上回るスピードで、その剣はサラへの攻撃を連鎖させていく。
受け止めたと思った瞬間には、剣先は滑らかに角度を変え、もう次の攻撃に入っているのだ。
流れが魔術師に傾いてしまったのだとサラは思った。
あの神秘的な変化に、自分の心が奪われたから。

開始直後は戦闘エリア中央に居たはずが、防戦一方のサラは、いつしか隅まで追いやられていた。
握力も、腕の力も、そろそろ限界だ。
黒剣を握る手のひらは、豆が剥けて血がにじんでいる。

何か策を考えなければと思ったとき、黒剣の動きが一瞬鈍った。
魔術師の剣先が軽く、喉の下をかすった。
戦闘服の胸元の生地が破れ、猫に引っかかれたような、チリッとした痛みが走る。

サラが傷ついたとき、魔術師の剣が止まった。
咄嗟に魔術師から距離を取ったサラは、一瞬うつむいて傷の状態を確認する。
切れ味の鋭さから痛みは少ないが、けっこうな量の血が流れ出している。

『本当は、私が縫ったのはポケットだけなんです。ヘタクソだから……』

あの日リコがこっそり打ち明けてくれたときの表情を、サラはなぜか今鮮明に思い出していた。

ゴメン、リコ。ナチル。
この試合が終わったら、ちゃんと洗って縫い直して、また着るからね。

傷よりも服を気にしてたサラに、魔術師の冷酷な声が届く。
人をからかうような、貶めるような、不愉快な音色で。

「ああ、ゴメンね?キミの体には触れないように注意してたんだけど」

サラが距離を置くのを追うそぶりも見せず、魔術師はにやけながら手にした剣をくるくると回転させた。

手加減をされていると、サラはようやく気づいた。

全力で防いできた今までの攻撃が、魔術師にとってはほんのウォーミングアップでしかなかったのだ。
あくまでサラに傷を負わせないという手加減の上で、この舞台を盛り上げるために、遊んでいただけ。
圧倒的な実力差だった。

普通の人間なら、勝機は無いと察しギブアップするだろう。
しかし、そのときサラが感じたのは、絶望ではなかった。

平静を装った心の奥に、不安と焦り、なにより恐れを隠し持っていたサラ。
その心が、膨らみきった水風船のように突然弾けた。


「笑うな」


サラは、顔を上げた。
強い風が吹き、サラの前髪をかきあげて通り過ぎる。
今まで前髪に隠れて見えなかったサラの青い瞳を、魔術師は初めて正面からまじまじと見た。

ブルーの瞳が、激情に煌めいたとき。
漆黒の剣の柄に埋め込まれた透明な宝石から、かすかな光が放たれた。


「なっ……」


横一線、振りぬかれたサラの聖剣。

床に転がったのは、確かに握っていたはずの、彼の杖だった。
魔術師は、自分の手元を確認し、再びサラの足元に転がる杖を見やる。

半分に切り裂かれた、魔術師の杖。

それは、剣の姿を留めることはできず、ましてや杖としても使えない、単なる木の枝に成り果てていた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
ようやく決勝戦前半終わりましたー。ファース君過激な強さですが、ブチキレサラ坊の方が強かったというオチです。しかし、なんだかどんどん敵が強くなるー。そのうち別の星から敵が来襲し「おとうさん、早く来てー!」……みたいな展開まではさすがに行かないです。何度も言うけど、これバトル小説じゃないし。戦闘戦記モノ書ける人って本当にすごいなと思います。この話はあくまでギャグ……ではなく、シリアスラブファンタジーですからっ。しかし、スピード速いことを表現する語彙で「ダッタン人の矢のごとく」が真っ先に思い浮かぶ自分。恐ろしい子……。
次回は、ついに魔術解禁……の前に、ちょっとした舌戦?引っ張ってスマンです。サラちゃんの秘密がバレちゃいます。なんにせよ、ラストまであと2回!
※個人的に、祝50話!祝1ヶ月!祝アクセス1万人(某サイト版)と嬉しいつながりでございます。本当に読んでくださっている皆様、どうもありがとうございます!

第二章(24)天邪鬼な魔術師

第二章 王城攻略


決勝戦の直前、サラが提案したマジックアイテムの交換は、あっさりと受け入れられた。

バリトン騎士は、あまり魔力がないのだろう。
不思議そうにお守り袋を手の中でくるくると転がした後、指輪を持っていないことだけを念入りに確認し、サラを解放した。

光の精霊系のアイテムは希少らしく、盗賊たちもかなり気を使って隠し持っているというし、これは何だと騒がれずに済んだことでサラはホッとした。

 * * *

魔術師はまだ休憩から戻っていなかった。
今朝までは闘志溢れる挑戦者たちで埋め尽くされていた控え室に、今はサラ以外誰も居ない。
少しさみしいけれど、あの魔術師とサシで過ごすよりは1人の方がマシかもしれない。

サラは、頭の中で戦略を練り始めた。

基本は、相手の魔術をなるべく受けないこと。
自分の武器であるスピードと黒剣だけで決着がつけば、それでよし。
黒剣様には、さっきあれだけ謝ったし、きっと許してくれたよね?

サラは、腰につけた黒剣を撫でさすりながら、どうかお願いしますと神頼みならぬ黒剣頼みをした。

次の仮定。
もしも、スピードや剣術で勝てなかったら?

前の試合、緑の瞳の騎士に剣筋をすべて見切られてしまったし、過信は禁物だ。
これから戦う魔術師は、アレクと武力が同等クラスということは、スピードも忍者レベルということ。
重ねてスピードアップ系の魔術でもかけられたら、サラに100%勝ち目は無いだろう。

魔術師があの試合を見ていたなら、サラの弱点がスタミナだということにも気づいているはず。
足を使うとしたら、試合開始からしばらく様子を見る程度にしておいた方が良さそうだ。
初っ端から走り回って、後半へばっては命取りだ。

となると、やはり決勝では、魔術返しの封印を解くしかない。

魔術を受ける前に、相手とそれなりにコミュニケーションを取っておかなければ。
得体の知れない魔術師から、いきなり攻撃系の上位魔術を受けたら、完璧に受け止めきれる自信はない。
きっと自動反射するか、ヘタすると増幅反射してしまう。

一応、アレクからは、あらゆる種類の魔術を経験させられていたサラだが、アレクの過去と魔術師の強さを聞いてしまっただけに、考えれば考えるほど不安が沸いてくる。

アレクの不思議なメガネでは、確か7色のオーラが見えたとか言ってたっけ……
今までの試合では、特に目立つような攻撃も、派手な上位魔術も使っていなかったみたいだけど、それは私と同じで隠していたのかな。

毎試合すんなり勝利していった魔術師は、一球入魂タイプのサラとは大違いだ。
それは、対戦相手に恵まれたことだけでは、説明がつかないような気がする。

どうもあの魔術師には、アレクや自分の想像を超える何かがありそうだ。

 * * *

サラは、自分が不利になるであろう最悪の状況を想定してみる。

仮定3。
もしも、魔術反射を破られてしまったら?
例えば魔術師は防御に長けていて、強力な結界をはれるとか。

だんだん複雑になってくる設定に、サラは1人2役となって演技しつつ考える。

まず自分が、魔術師の攻撃魔術を反射するとしよう。
はい、魔術師が、自分の反射を結界で受け止めました。

……その後、いったいどうなっちゃうんだろう?

サラが直接触れれば、結界は消える。
しかしそこまで接近すれば、魔術師はまた忍者へと変化して、サラと武力勝負に打って出るだろう。

魔術師の直接攻撃では、杖が武器になるのだろうけれど、はたして黒剣と戦えるほどの力があるアイテムなのか?
ドラクエでは、杖の攻撃力って剣より全然弱かったけれど。
アレクに、そのあたりも確認しておけばよかったな……

サラの思考は、そこで行き詰った。
将棋で例えるなら、飛車と角、どちらを動かせばよいか迷うような構図だ。
王を取れるのは、魔術反射か、黒剣か?
それとも、さきほどの試合で歩が金と成ったように、意外な手段があるのか?

何か策が見つかりそうなのに、なかなか思いつかない。

サラがうーんと頭を抱え込んだとき、蝶番が外れんばかりの勢いで、控え室のドアが開けられた。

「マスク少年に、質問がありまーす!」
「はぁ?」

飛び込んできたのはもちろん、決勝戦の相手。
ファースという名の、凄腕魔術師だ。
手にした杖をいたずらに振り回しながら、魔術師はサラに近づいてきた。

長い年月を経てきたであろうその杖は、油が染み込んだような艶のある色合いで、魔力の無いサラが見ても逸品と分かる。
そんな重要なアイテムを、あたかも細身のバトンのようにくるくると片手で回し、空中に放り投げては上手にキャッチ。
こんな場所、こんな立場でなければ、サラは無邪気に手を叩いて喜んだに違いない。

「ラスト!」と言って、高く杖を放り投げると、魔術師は後ろ手にキャッチ……

しようと思ったが、あいにく天井の高さが計算されていなかった。
勢い良く天井にぶつかった杖は、無残にも床に叩き付けられた。

「ああっ、杖がっ!」

慌てて杖を拾い、ふーふーと息をかける魔術師。

なんて、緊張感の無いやりとりなんだろうと、サラはガックリうなだれた。

 * * *

「そういえば、少年に質問があったんだよね」

なんだっけなぁと呟く魔術師。
アレクの話からイメージしていた人物と、目の前の人物はかけ離れている。
サラは、この相手とどう戦うかのシミュレーションも忘れて、ぼんやりと目の前の人物に見入っていた。

こうして正面で見ると、案外……いや、かなり綺麗な顔立ちをしている。
フードに隠れた髪と瞳は、淡いグレー。
歌舞伎や茶道の世界に居そうな、少し中性的な雰囲気の男だ。
緑の騎士のようなカチッとした騎士服か、もしくは着流しなんてのも意外と似合うのではないだろうか。

あとは、メガネもすごく……

「そうだ、あれだあれ」

サラが脳内でメガネ市場に入店しかけたとき、魔術師はぽんと手を打った。

「キミ、また例の条件出してくるの?」

この人は、どこまで本気なのだろうか?
サラは間髪いれず返答した。

「まさか、魔術師に魔術を使うなとは、さすがに言いませんよ」
「でもキミが戦った、あの下品で矮小で筋肉だけがとりえの大男は、キミから大事な剣を取り上げたよね?」

かなりの毒舌発言だったが、サラは馬場先生で慣れていたので、普通にスルーした。

「あれは、仕方なかったんです。勝ったから、別にもういいし……」

ふーん、と呟いた魔術師の周りに、少しずつ黒い靄が見え始めた気がして、サラは目を凝らした。

「そこまでして、キミは隠したかったんだね?」


『魔力が無いってことを』


サラの頭は、一気に戦闘モードに切り替わった。
人の魔力が見えるという、貴重なアイテムを簡単に手放すくらいだ。
この魔術師は、元々あのアイテムと同等の力を持つのかもしれない。

警戒を強めたサラに、魔術師は重ねて聞いてくる。

「もう1つ質問。キミが優勝したら、叶えたいお願いって何だい?」
「……なぜソレを、アンタに言わなきゃいけない?」

サラが慎重に言葉を選ぶと、逆に魔術師からは緩い言葉が飛び出す。

「実は俺、叶えたい願いなんて1つも無いんだよね」

壁際の椅子にどすんと腰掛けて、魔術師はまた懲りずに杖を回し出す。

「だって、地位も名誉も金も女も、ぜーんぶ持ってるし。せめて顔がブサイクとか、オツムが弱いとか、アソコが不能だとか、何か弱点があれば良かったんだけど、残念ながら何も無くってさ」

臆面もなく告げる魔術師のナルシスト発言に、サラは言葉を失った。
バカと天才は紙一重というけれど、やはり何かに秀でた人間は、ちょっと普通の感性ではないのかもしれない。

一通り自分ラブ発言を語り終えた魔術師は立ち上がり、げんなりしているサラに近寄った。

「俺の唯一の弱点、教えようか?」

サラの返事など待たずに魔術師は、至近距離でささやいた。
サラは、おのずと灰色の瞳に釘付けになる。

「それは、天邪鬼ってこと。人の邪魔をするのが好きなんだ。だからね……」

魔術師は、サラの想像を超える台詞を吐いた。


「キミが欲しがるものを、俺が奪っちゃおうと思ってさ」


人が怒り狂う顔ってけっこう興奮するんだよねと、キレイな顔を歪めてくすくす笑う魔術師の姿を、サラは金髪前髪でシャットアウトした。

こいつは、この世界に来て出会った中で、一番のヘンタイだ!

 * * *

ドSヘンタイ発言を聞いて以降、魔術師を存在しないものと無視していたサラだったが、願いを教えろとあまりにもしつこくねだられ、最後はどうでも良くなってしまった。
かわいらしくおねだりする魔術師は愛嬌があり、餌を求めてハフハフとまとわりつくハスキー犬のようだ。

「はいはい、分かりました。オレの願いを教えますよ」

犬バカな飼い主気分でサラが言うと、魔術師は尻尾を振って喜んだが……
その答えを聞いて、意気消沈した。

「キミが相当のお人よしだってことは、試合を見て分かってたけどね」

まさかそこまでだったとはと呟くと、よろけながら椅子に座り、顔を手のひらで覆ってため息をつく魔術師。
頭痛薬のCMに出てくる母親のように、こめかみに手を当てた大げさなポーズだ。

サラが答えたのは『世界平和』の一言。
それが嘘ではないと察した魔術師のリアクションに若干苛ついたサラだったが、もし魔術師が”勇者”としてその願いを叶えてくれるなら、それはそれでアリかもしれないと思ってしまった。

「訂正しよう。俺は単なる天邪鬼ではない。人を困らせて楽しむ、正統派の天邪鬼なんだ!だから、もっと困るような願いを考えてくれ!」

そんな風に迫られ、サラはなんて我侭な男だと呆れた。

「例えば、狙ってる女がいるとか、欲しい土地建物があるとか、手に入れたい宝があるとかさー」

再び餌くれとハフハフ迫る魔術師。
サラはげんなりしつつ、首を横に振る。
この魔術師は、人への嫌がらせに命を賭ける男なのだということは、良く分かった。

アレクはああ見えて意外と律儀な性格だから、きっとコイツの術中にはまってしまったのだろう。
もしも魔術師が「5年後リベンジしに来い」と直球で言っていたら、アレクは死に物狂いで修行し、魔術師に対抗できる力を得て、サラの代わりにここへ立っていたはずだ。
わざと魔力が見えるメガネを渡し、弟子を作れと告げたことが、この魔術師流の嫌がらせだったのだ。

無言で首を横に振り続けるサラに、魔術師はうーんと考えた後、良いアイデアがひらめいたとばかりに、両手を叩いて瞳を輝かせた。

「じゃあこうしよう!キミの大事な恋人を、俺が奪うってのはどう?」

その発言は、サラの心の琴線に触れた。
サラは椅子から立ち上がり、金髪の前髪の隙間から、上目遣いに魔術師を睨み付けた。


「それだけは、許さない。その前に、彼はアンタみたいなヤツ相手にしない!」


本気の怒りをにじませた、サラの低い声。
つい本音で漏らしてしまった台詞の矛盾点に、サラは気づかなかった。

魔術師は、初めてサラを恐れるようにじりじり後退ると、灰色の瞳に警戒心を浮かべて言った。


「キミ……男が好きなの?」


ゴメン、俺は普通に女の子好きだし、さすがに男とは付き合えないや。
いくらキミに嫌がらせしたくても、それはだけは無理、つーか勘弁。

顔の前でバイバイするように手を振りつつ、壁に背中をへばりつかせた魔術師。

ヘンタイ勝負で、サラが大逆転した瞬間だった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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またヘンタイキャラの罠に落ちてしまった……アホな舌戦で一話分終了。チーン。放っといたらこんなやり取り延々と続いちまうわ。とりあえず彼のヘンタイっぷりは試合で小出しにしましょう。ヘンタイなら態度で示そうよです。天邪鬼な彼は、欲しいものが何も無いといいつつ本当はしっかりあるんですが、その辺はまたおいおい。つーか実はファース君、この話に続編があるなら活躍するかも?って方です。なんて遠い未来……まずは足元見ましょ。しかし、ファース君がここで「それは好都合。俺も同じ趣味」と言ってたら、今流行の(?)ボーイズラブな展開になるのでしょうか。それも王道な気もするけど、ここはノーマルに進めときますよー。
次回、ついに決勝戦スタートです。王族チラリと出ます。ファース君の実力もチラリ。サラはやっぱり全力少年で。

第二章(23)アレクの望み

第二章 王城攻略


朝からスタートした決勝トーナメントも、残すところあと1試合。
観客たちにとっても、決勝に残った2人の勇者にとっても、一息つける昼休憩となった。
試合を見守ってきた者たちが語り合うのは、先ほどの準決勝第一試合のことだ。
素晴らしい剣技と、想定外のエンディングに、人々は酔いしれていた。

準決勝は、当然もう一試合行われたのだが、人の口にのぼる言葉は少ない。

「やっぱり、ファース様はすげえ方だな」
「ああ、あの方は別格だ」

トトカルチョでも、不動の人気ナンバーワン。
代わりに、魔術師が優勝したところで、戻ってくる金額は一割り増し程度。

どうせならば、お祭り騒ぎに浸れるような番狂わせを期待したい。
観客たちの情熱は、サラへと向かって流れていた。

 * * *

トリウム国民の心をとりこにした、キノコ少年サラは、昼休憩だというのにまだ控え室にいた。

決勝戦の相手である魔術師も、管理側のバリトン騎士も、すでに食事へ行ってしまった。
緑の瞳の騎士だけが「おい、昼飯はちゃんと食べろよ?」と最後まで心配そうに声をかけていたが、微動だにしないサラにさじを投げ、部屋を後にした。

「サラ、いるのか?弁当食べようぜ?」

控え室を訪ねてきたのは、アレクだった。

本来、部外者とは会えないのがルールだったが、そこは前回優勝者の肩書きを持つアレク。
「王城が用意した食事では、サラがアレルギーを起こすかもしれないから」と適当なことを言って、弁当を届けることを管理側の騎士に認めさせたのだった。
もっとも、管理側の騎士にも、すんなり許可したのには理由があったのだが。

ドアを開けたアレクが見たものは……

黒剣を前に、土下座するサラの姿だった。


アレクは、プクッと頬を膨らますサラを、目に涙を浮かべたまま見つめていた。
控え室のドアには鍵をかけたので、覆面を取っていいぞと言われたサラは、またアレクに爆笑された。
第二戦で殴られた痣が、ちょうど左のほっぺの真ん中に、まん丸いお月様のように浮き出ていたのだ。

「乙女の大事な顔が傷ついたのに、笑うなんてひどい!」

ひとしきり笑ったあと、アレクはサラにゴメンと謝って、代わりにある術を施してくれた。

適当なサイズに紙をちぎり、アレクは手のひらに乗せる。
もう片方の手は、サラの右頬をそっと触る。
それだけで、紙はサラの頬と同じ色に変化した。

「これが、転写の魔術だ」

サラが興奮してうわーと声を上げると、とたんに左頬がズクリと痛む。

「おいおい、乙女の顔なんだから、大事にしろよ?」

揚げ足を取りつつも手は動かし、アレクは着色した紙をサラの青なじみの上へそっと乗せた。
紙が肌に溶け込むようにぴったり付着し、サラの傷は完璧に隠れた。

上出来と自画自賛するアレクに、サラは遠慮なく不満をぶつける。

サラは鏡を見て、自分でも確認したかった。
しかし、この世界にはあまり鏡というものが普及していない。
なぜなら、水と器さえあれば、比較的簡単な水の魔術で、鏡にそっくりなものが作れてしまうから。

「本当に本当に、ちゃんとくっついてる?」

サラが気にしていたのは、またマスクをかぶって汗をかいたら、はがれてしまわないかということ。
唇がカサカサする冬に、皮がぺろりとめくれるのも大嫌いなサラは、途中ではがれるくらいなら最初から要らないと思っていた。

「あの、半分剥がれかけた皮とか、ガサガサしてめくりたくて気になっちゃうんだもん!」

サラのこだわりは、アレクにはまったく理解できなかった。
ただ、妙なわがままを言うサラが、年相応に見えて可愛いなと思った。

「本当にくっついてるって、証明してやるよ」

俺の術は完璧だぞと言って、アレクは近くにあった水差しをサラに渡し、簡易鏡に変化させた。
そっと俯いて水鏡をのぞきこむサラ。
確かに、違和感は無い。

大丈夫ならいいけど、と思った瞬間。

水鏡が、サラの動揺を映して大きく揺れた。

サラの頬には、アレクの唇がそっと押し当てられていた。

 * * *

突然頬にキスされて、色付いた紅葉のように真っ赤になったサラに、アレクは言った。

「ほら、ちゃんと見てみろよ。同じ色になってるだろ?」

怒り心頭のサラは、なんのことよと怒鳴りかけたが、アレクは強引に水さしを向けてくる。
サラが再び水鏡を覗き込むと、紙が貼ってある左頬も、右頬と同じように赤く染まっていた。

「すごーい!」

でも、突然ちゅーするなんて、セクハラ!

サラは、得意顔なアレクの頭を軽く叩いて、ぷいっと後ろを向いた。
しかしアレクが「そっち向いてると、弁当やらないぞ」と言ったので、サラはあっという間にアレクに向き直り、げんきんなヤツとまた笑われたのだった。


サラは、ぶつぶつと呟きながら、ナチル特製の美味しくて消化の良いお弁当をつついている。
呟いている内容は、ヘンタイ、セクハラ、エロオヤジなど、すべてアレクを罵倒するものばかり。

チラリとアレクをのぞき見ると、サラの愚痴などまったく気にしていないという風で、クールに弁当を食べている。
サラは、だんだん怒っている自分が馬鹿らしくなり、お弁当に集中することにした。
アレクは「女のヒステリーは、食べ物を与えた上で無視するが吉」という、頭領の指導に従う真面目な弟子だった。

腹八分目で満足したサラは、アレクからあるものを渡された。

「お前、そっちの手出せ」

遠慮なくサラの手を取り、右手の中指にはまっていた指輪を抜き去る。
代わりに手に乗っていたのは、予選で一緒に戦った、サラの髪の毛お守りだった。

「なんでこれ?私こんなの持ってても、使えないよ?」

自分の髪といえど、単純に人毛そのものが苦手なサラ。
理由は、小学生の頃クラスに回ったホラー漫画を読んだせいだと思い出した。
確かタイトルは「わたしの黒髪は良い黒髪」だったっけ。

親友の恋人に横恋慕した女が主人公。
憎い親友の髪をわら人形に入れ、杭で打ちつけるシーンは、今思い出してもぞっとする。
呪うほど憎んだ相手が死んだ後、好きな男を手に入れて幸せになったはずの主人公の首に、いつのまにか死んだ女の長い黒髪が巻きついて……

うわっ、鳥肌!

サラはお守りを机に放り出した。
しかし、さすがに髪の毛が怖いから嫌だとは言えない。

「どうせ役に立たないなら、指輪の方がカッコイイのに!」

子どものような文句をたれたサラを、アレクは漆黒の瞳で容赦なく睨みつけた。
何度見ても、カキンと背筋が固まるような、恐ろしい目力だ。

「サラ、お前さっきの試合に勝てたのは、誰のおかげだと思う?」

サラは、ヒッと呟くと萎縮して背を丸めながら、黒剣様とアレク様のおかげですと言った。

「ああ、俺の助言をちゃーんと思い出して素直に従った、サラのおかげだったな?」

彼は、私を褒めていますか?
いいえ、違います。

サラは英作文のようなことを考えつつ、しぶしぶお守りを手にした。
中身の感触を意識しないように、汗で汚れてべとつく服の胸ポケットにそっとしまった。
しかし、試合の途中で装備アイテム交換なんて、ドラクエだったら贅沢な1アクションだなと考えていたサラに、アレクの言葉が届けられる。

「サラ、決勝戦の対戦相手だけどな……」

そこでアレクは、一度言葉を切ると、そのまま口ごもった。
いつも発言が明瞭簡潔なアレクにしては、珍しく歯切れが悪い。
今日はノーメガネなので、アレクの黒い瞳の色が不安定にゆらめくのが、サラには良く分かった。

アレクは一度部屋の時計を気にしてから、いつも腰にぶら下げている袋をまさぐると、サラにいつものメガネを見せた。

「あの魔術師は、5年前、こいつを俺にくれたヤツなんだ」

あのときのことは、今でもはっきりと覚えている。
アレクは、少し声のトーンを落としながら、今まで心に秘めてきた過去を語った。

 * * *

5年前の大会で、真の優勝者はヤツだったと、俺は信じている。

初めて予選会場でヤツを見たとき、こいつは絶対最後まで残ると感じていたんだ。
しかし、俺も参加者の中では、それなりにずば抜けて強かった。
お互い目線を交わしただけで、そう感じ取ったような気がするな。

決勝をヤツと戦うと思い込んでいた俺は、正直勝てる気がしなくて、体の震えが止まらなかった。
武力ではなんとか互角、しかし圧倒的な魔力の差を感じていたから。
ただ、俺は若かったし、誰にも負けないと自分に言い聞かせていたんだ。

だから、2回戦でヤツが、恐ろしい魔術を使って対戦者を殺したときは、怒り狂った。
この控え室で、ヤツの胸倉を掴んで、くってかかったんだ。

俺と戦うのが怖いからわざと失格になったのか。
お前は俺から逃げたんじゃないかと。

遺族が聞いていたら、どう思うかって考えつかないくらい、あの時の発言は自己中そのものだったな。

するとヤツは、このメガネを俺に渡して言ったんだ。


『こいつは、人間の魔力が見えるメガネだ。さあ、俺のことを覗いてみろよ』


言われるがままにメガネをかけた俺は、ヤツの体から吹き上がる七色の光の洪水に、圧倒されたんだ。
次に、自分の手のひらを見て、その輝きの違いに愕然となった。

ヤツは「お前は指導者に向いてるかもな。こいつは置き土産にやるよ。せいぜい弟子でも育てて、5年後にまた挑戦しにこい」と言って、あっさりと去っていった。


俺は、次の試合でわざと負けようと思った。
そうすれば、優勝なんて肩書きはつかなくなる。
5年後は、俺自身がヤツにリベンジする、いやしなければならないと。

しかし、結局俺は優勝してしまった。
自治区のためってのは、あくまで建前、完全に俺のいいわけだった。
俺は心底、ヤツが怖かったんだ。
5年修行したところで、とうていヤツに勝てる気がしなかったから。

だから、ヤツに勝てる素質を持った弟子を探したよ。
5年探して、結局見つからないと諦めかけたときに、サラ、お前がやってきたんだ。

いくじなしで、ちっぽけなトラウマ抱えたままの俺の心を、お前はあっさり蹴飛ばした。
普通の女の子が到底思いつかないようなでかい目標を掲げて、貪欲に強さを求めて、厳しい訓練にも食らいついてきた。

なによりお前には、俺が今まで見たことがないような、天性の才能があった。


「お前は……俺の、希望だ」


アレクはそういって、サラをそっと抱き寄せた。

 * * *

負けず嫌いで、いつでも自信満々で、人をからかってばかりのアレクが。
今は、幼い少年のように、肩を震わせてサラの体にしがみついている。

まるで道場に遊びに来る、孤児院の子どものような熱い体温だった。
サラは、アレクの体温を感じながら、緑の瞳の騎士と戦ったときに感じた不安がすうっと消えていくのを感じた。
まるで手のひらに落ちた雪のように溶けていく不安と、代わりに湧き上がってくる愛しさ。

私、アレクの心に刺さったままの、小さな棘を抜いてあげる余裕くらいはあるみたい。

「ね、アレク?」

サラが鈴の鳴るような女の子の声で呼びかけると、アレクはゆっくりとサラの体を放した。
その心地よい声を、ずっとそばで聞いていたいと願いながら。

「私、さっきの試合で、分かったことがあるの」

私がこの試合を戦う理由は、誰かのためじゃなく、自分のためだったんだって。
出場できなかったリコやカリムの分もとか、指導してくれたアレクのためにとか、戦争で傷つく多くの民を救いたいとか。
そんなの全部、私にとっても建前だった。

今、アレクの過去を聞いて、良く分かったの。

「私はただ、強くなりたい」

誰のためでもなく、自分のために、この勝負を勝ち抜きたい。
自分に課した目標を、達成できずに放り出すことが、気に入らなくて許せないだけ。

緑の瞳の騎士は、自ら戦いを望んでいた。
しかも、きっと楽しんでいた。
だからあれだけ、迷いのない剣を私に向けてきたんだ。

良く日本のスポーツ選手も言ってたよね。
どんなに大きな舞台でも、自分が楽しめたら最高だって。
結果は、後からついてくるって。

何度も理解したつもりになって、決意したフリして、でも強い敵が現れるとすぐぐらついて。
同じ気持ちを行ったりきたり振れながら、ゆっくりだけど、ようやくここまで来たんだ。
次の試合で、全てが決まる。

「あの魔術師が、どんなに強いかなんて、関係ない」

もしも普通の人が死んじゃうような強い魔術をくらっても、私は平気だもんね。

私は、優勝するんだ。
いつも一緒だった、この履き慣れた靴底に眠っている書状を、王に渡す。

「アレク、私の旅の結末を、どうか見守ってて」

サラが、青い瞳をアレクに向けてくる。
花が開くようなその笑顔と、深いブルーの瞳に魅了されたアレクは、どうしようもなく胸が騒いだ。
情熱の赴くままに、再び彼女を抱き寄せようとして、やめた。

サラの瞳の色はクリアで、まっすぐ前を向いている。
その瞳に、アレクの姿は映っていなかった。

もう彼女は、ただの女の子じゃない。
これから、戦場に立つ戦士なんだ。


「ああ、見守ってるよ。ずっとな……」


うん、と無邪気に微笑んだサラの黒髪を、いつも通りくしゃりと撫でながら、アレクは「ついに頭領と女を争うときが来ちまったか」と心の中で呟いた。

負け戦の予感にも、高鳴る胸をおさえきれなかった。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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あー、甘クサ……遠慮なくファブッてください。実はアレク様、優勝者とか言われて褒められるのが単に悔しくて逃げまわってました。逃げ逃げ逃げても現れるばぁさんのように、結局は立ち向かわなきゃイカン時が来るのですが。しかし大人の男が年下女子に弱さ見せるときって、胸キュンじゃないですか?はい、そこで同意した女子は、立派なダメンズ候補です。大学のサークル合宿で酒入って、顔はまあまあだけど女はコロコロ変わるような先輩男子の些細な悩み相談には乗らないように注意。「わたしの黒髪~」は、恐怖マンガのオマージュです。ベタな短編ギャグホラーとしていずれ世に出すかも?
次回、ついについに決勝戦です!長かったー。相手は、ある意味新キャラというか、一筋縄ではいかない深イイキャラの魔術師君です。エキセントリック度高いです。

第二章(22)敗北の予感

第二章 王城攻略


お互いの指輪を預けた後、試合は始まった。
好感度の高い2人の対戦に、会場の興奮は一気に高まったが、その後潮が引くように静まり返ることとなる。

広いコロセウムに響くのは、ただ、剣のぶつかり合う音のみ。
鋭い金属音が、途切れることない音楽のように、会場を包み込んでいく。
聴く者の心臓を鷲掴みにするその音は、命のやり取りの音。

刹那的で美しい音楽を奏でる2人から、誰一人、一瞬たりとも目が離せなかった。

 * * *

緑の瞳の騎士は、サラが今まで戦った誰とも違った。
その太刀筋は、どこまでもまっすぐだ。
まさに太陽のような正確さでのぼり、落ちる。

少し癖のある、人を引っ掛けるようなフェイントをするアレク。
師匠がおらず、すべて自己流で剣を学んだというカリム。
その2人とはまったく違う、力強く正しい打ち筋は、なぜかサラの心を怯ませた。

騎士の剣を、教科書のような剣と批判する人間もいるかもしれない。
しかし、教科書がなぜ教科書たるのかを考えれば、その批判が的外れと分かるだろう。

または、こうしてリアルに剣を向け合って見ればいいのだ。
どんな角度から剣を繰り出しても、強く正しく真っ直ぐ返してくる。
拮抗する状況を変えようと、無理にトリッキーな動きをしようものなら、自滅への近道となるだろう。

サラの全身は、試合開始からいくらも経たないうちに、汗でびっしょりになった。
もしかしたらこれは、冷や汗かもしれない。

……この人、強い!

久しぶりに感じた、対戦相手への恐怖だった。
剣闘士に追い詰められたときすら、恐怖など感じなかったのに。

サラは、黒剣を強く握り締めた。
あのときは、自分に寄り添い、支えてくれていた黒剣。
今はその気持ちが分からなくなっていた。

うっすらと敗北を予感しはじめたサラ。
その心を感じ取り、黒剣は勝手にその剣先を動かし始めた。
騎士を敵とみなした黒剣は、尋常ではない速さで切りかかっていく。
相手の致命傷となるだろう箇所へ向かって。

試合前に、騎士とかわしたあの約束通りに。

 * * *

騎士は、サラの剣が変化しつつあるのを感じていた。

先ほどの試合でもそうだった。
この少年は、戦いの途中で”進化”する。

騎士は決して手を抜いていたわけではないが、しばし様子を見ていたのも事実。
序盤の少年は、騎士の剣を受けるのがせいいっぱいだった。

ところが、今はどうだ?

元々表情のまったく見えない、不気味な変装をしているが、その奥に潜んだ魂は熱くしなやかな少年と見えた。
しかし今の少年からは、一切の感情がそぎ落とされたようだ。

瞬きする間も与えられないほど、早い打ち筋。
致命傷になる箇所へと次々繰り出される少年の剣を、騎士はかろうじて受け止めていく。
受けるたびに、自分の腕の骨がみしりと音を立てるのを感じた。

最初は見た目の通り軽い剣だし、たいしたダメージにはならないと思ったが、いかんせん打ち付けられる数が多すぎる。
長引くほど、不利になる。

しかしこの剣を受け止めきれなければ、己がこの場に立つ意味はない。
戦場を捨ててきた自分には、これしかないのだから。


騎士が戦地で感じたのは、苦しさというより空しさだった。
敵は、狡賢い魔術師と、何も知らない農民ばかり。
戦うたびに、何かを失っていく自分がいた。

力のある相手とあいまみえたいと、ただそれだけを強く願っていた。
その欲求が抑えられず、ギリギリで戦場を飛び出した。
自分が腕を認めた好敵手と、お互いの剣を持って、正々堂々戦いたかった。

そんな夢が今、叶ったというのに。

くそっ!
あんな挑発、しなきゃ良かったな……

闘技場の端に追い詰められながら、騎士は必死で逆転のチャンスを待った。

 * * *

小柄な少年に力で押され、じりじりと後退する騎士。
予想外の展開に、観客たちは椅子に座ったまま身じろぎ一つできなかった。
勝利を掴みかけているように見えるサラを、焦りと共に鋭いまなざしで観ているのは、アレクだけだ。

「サラ、そのままでは、勝てないぞ……」

しかし、アレクの呟きがサラに届くことは無い。


騎士を確実に追い詰めながら、サラは絶望的な心境で、剣の望むままに体を差し出していた。

この人は強い。
だからこそ、私は冷静にならなきゃいけないのに。
臆病な心が、不安に震える腕が、抑えきれない。

サラの体には、明らかに自分の肉体の限界を超えてきている兆候が現れはじめた。
徐々に痺れを感じはじめた両腕を、サラはわずかな理性と気力で支え続ける。

今なら、まだ間に合うはず。
騎士の体に、一太刀でも入れられれば勝負は決まる。
それがサラ自身の力ではなく、サラの恐怖を受けて暴走する黒剣の力だったとしても、勝ちは勝ちなんだから。

サラの支配が緩むのを感じた黒剣のスピードは、もう一段階増した。
人間離れしたその剣は、訓練ですら見せたことの無いものだった。
しかし、目の前の騎士はすべて受けきってしまう。

その緑の瞳に感じるのは、戦慄。

黒剣を受けるタイミングが一瞬でもずれたら、この人は死ぬだろう。
なのに、ギブアップなんて絶対にしてくれない。
あと何分持つか分からないが、サラの体は限界に近づいている。

だめだ!
このままじゃ、私は負ける!

今の弱気な自分と、目の前の騎士との違いは、決意だ。
全力で戦うこと、そして散ることを恐れない決意。
それこそが、戦場で培われる魂のようなものなのだろうか?

……私は、どうすればいい?

観客たちの目に追えないほどの速さで、流れ続ける黒い聖剣。
美しい剣舞のような、その太刀筋。

しかし、サラの心も体も、限界へと近づいていた。

 * * *

追い詰められながらも、騎士はサラの剣の変化を再び感じていた。
剣のスピードやキレは変わらない。
しかし、少しずつ、受け止める自分の腕の衝撃が、軽くなってきている気がする。

所詮、少年騎士。
いかに剣の腕が立とうとも、スタミナが切れれば、攻撃を持続することは不可能だろう。
肉体的な限界が近づいているのかもしれない。

試しにと、騎士は思い切り強くサラの剣を跳ね返すと、サラは体を振られて後方へと飛びのいた。
開始の合図から鳴り続いていた音楽が、ようやく止まった。


サラは、汗で滑りそうになる黒剣の柄を握りなおすと、剣先をまっすぐ騎士に向けた。
握力が尽きかけていることは、自覚している。
腕も、もう上がらないかもしれない。
あと使える部分は、足と体だけだ。

騎士の方は、まだ余力が残っているようだ。
表情には、薄く笑みを浮かべる程度の余裕がある。
なにより、剣を握るその腕には力が宿り、緑の瞳には怯えも迷いも無い。

強烈な敗北感がサラの全身を毒し、力を失わせていく。

騎士の聖剣は、きっと魔力を秘めているのだろう。
もしもその手に指輪があれば、サラはここまで優勢に戦うことはできなかったはずだ。

ああ、そうだ。
元々対等に戦える相手なんかじゃなかったんだ……

騎士の剣が、守りでなく攻撃のために振り上げられるたびに、なんとか剣で応えるものの、怯える心はサラの足を一歩一歩後ろへと向かわせていく。
じりじりと後退していたサラだが、いつしか後が無くなっていた。
ついに、戦闘エリアの終わりを示す段差が見える位置まで、追い詰められてしまった。

これ以上、後ろに下がることはできない。
かといって、前へと打って出る勇気もない。
サラに協力してくれた人たちの顔が次々と浮かんで、サラは悔しさに涙をにじませた。

リコ、カリム、アレク……
ゴメン、みんな。
みんなのために、全力で向かったけれど、駄目だったよ。

ゆっくりと振り上げられる騎士の太い剣。
集中を失ったサラに、剣の打ち筋は読めない。

サラが、もうおしまいだと、瞳を閉じたかけたとき。

まるで暗闇に光が差し込むように、サラの脳裏にアレクの言葉が蘇った。


『いいか、サラ。チャンスは一度きりだ』


騎士にとって、剣は神への忠誠を誓った証。
誓いと共に口付けられた剣には、神の魂が宿るとされている。

その剣を、手放す騎士は絶対にいない。

だから。


『ガキィンッ!』


サラは最後の力を振り絞り、黒剣を突き出して、騎士の重い剣を受け止めた。
剣を打ち合わせクロスさせたまま、とっさに体を横にひねり、騎士の太刀筋から自分の体をずらす。

重なりあった剣の勢いを、殺さないまま。

サラは剣を手放し、空へと放り投げた。

 * * *

一瞬、何が起こったのかわからず、宙を舞う黒剣に見入った騎士。
力を受け止めてくれる相手がいなくなった騎士の聖剣が、ゆるやかに床へと向かう。
剣の勢いを止めようと伸ばした腕が、少年の肩に乗せられたと感じたときには、もう遅かった。

まるで少年の剣と同じように、自分の体がふわりと宙に浮き、景色が反転していくのを、騎士は信じられない思いで眺めていた。

サラは、剣を手放すと同時に、騎士の懐に飛び込み、そのまま一本背負いをかけていた。
ブチブチと鈍い音がして、サラが掴んだ騎士の胸元のボタンが飛び散り、闘技場の床の上を転がった。


硬い闘技場の縁から、草の生えた地面へ転がり落ちるボタンと共に、騎士の体も同じ場所へ投げ落とされていた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
(携帯の方は「テキストコピー」でたぶん読めます)
はー。ようやくサラちゃん、決勝進出です。あー、しんどかった。なんともヘタレな展開で、泥臭い勝ち方になってしまいました。でも、人間そんなあっさり強くなんてなれまへん。アレク様のおまじないこと伏線風指示は、頭文字某の車のマンガから。ピンチひっぱってひっぱって負けそうなときに「そういえば涼○さんが……」って思い出して大逆転。あれ毎度ハマっちゃうんですよね。まさに王道。そして、創造とは模倣である。うむ。……ゴメンナサイ。ちょっとインスパイアされてリスペクトでフューチャリングしたっていうかぁ……もにょもにょ。とりあえず、サンプリング(丸パクり)だけは無いと断言しときます。
次回、決勝戦……の前に、アレク様とサラちゃんのシリアス&ちょいラブエピソード。アレク様の過去に迫っていきます。甘い匂いがぷい~んと。ファブリーズのご用意を。

第二章(21)騎士との誓い

第二章 王城攻略


次の試合が始まるというのに、観客席のざわつきはなかなか収まらなかった。

判官贔屓という言葉が、これほど当てはまる試合は無かった。
一方的になぶられるだけだった少年騎士に、誰もが憐れみを覚えていた。
勝てる見込みの無い勝負を受けたことに、あきれる者さえいた。

ところが、少年騎士は良い意味で観客の期待を裏切り続けた。
圧倒的に強い敵の攻撃を必死でかわし続け、徐々に攻撃を見極めて、受け止められるようになり。
最後には、完璧な勝利を掴み取った。

見ている観客の誰もが、その劇的な展開に心を動かされていた。
一般席に座る者も、そうでない者も。

「アイツは、何者だ?」

ざわめく観客たちに答えが与えられるのは、もう数時間先のこと。

 * * *

黒剣と指輪を受け取り、控え室に戻ってきたサラは、ドアを後ろ手に閉めると同時に、崩れ落ちるように床に転がった。
ただただ、疲れた。

体の表面に傷も作らず、痛みを感じるところはない。
一ヶ所だけ、剣闘士の拳がほんの少しかすった頬がじわりと痛みを訴ええるが、きっとたいしたことはないだろう。
とにかく、目に見えるところにさえ傷が無ければいいのだ。
せめて、あと1試合は。

「よっ、少年。試合見てたぜ」

危険度ナンバーワンの魔術師が声をかけてくるが、サラは返事をせずに寝転がったまま、はあはあと荒い息を繰り返している。

「俺、お前と戦ってみたいなー」

サラのツヤツヤした金髪ヅラの中心部、つむじのあたりを、ツンツンと杖の先でつつく魔術師。
つつかれるたび、逃げるようにゴロリと横に転がっていくサラ。
控え室といっても、風雨にさらされるコロセウムと接しており、床は砂埃だらけだが、どうせヅラも服も汗や砂でぐちゃぐちゃだし、サラは気にせず転がった。

勝てたのは、本当にラッキーだった。
黒剣ダイスちゃんの意識が自分の中に残っていたから、あれだけ攻撃を受け止められた。
あんな条件を飲まなければ、もっと楽に勝てたのかもしれないけれど……

サラは、気づいていた。
本当に厳しい勝負になるのは、この先だ。
まだ、自分の手の内は見せられない。

「おい、そっとしといてやれよ」

革靴の紐を結びなおした緑の瞳の好青年騎士が、闘技場へと向かいつつも、後ろ髪を引かれて声をかけた。

少年が休めるのは、あと3試合分。
しかし、自分とこの得体の知れない魔術師は、さほど試合に時間をかけるタイプではない。

今のうちに体力を回復しておけよ?

騎士は、大歓声に笑顔で答えながら、颯爽と控え室を飛び出して行った。

 * * *

どのくらい寝転がっていたのだろう。
ベスト4が出揃ったぞと、サラはバリトン騎士から叩き起こされた。

「大丈夫か、少年。リタイアするか?」

体は鉛のように重く、全身に疲労感がまとわりついて、サラを心地よい地面へと誘惑してくる。
するわけねーだろと呟きながら、サラは苔の一念で体を起こした。
首をコキコキと鳴らし、腕をぐるぐる回して軽くストレッチした後、自分の見た目があまりに汚いのを気にして、手のひらで体中の砂を払った。

一試合目に、省エネ戦法で勝利しておいて良かった。
二試合目では、予想外に消耗させられてしまったけれど、少しだけ休めたし戦えないほどではない。

この準決勝が、きっと山になる。
つい先ほど、この手が握手を交わした相手が、敵となるんだ。

サラは、何かのげん担ぎか、靴紐を何度も結びなおす騎士を横目に見ながら、先に闘技場へと向かった。


コロセウムを埋め尽くす観客たちは、登場したサラと緑の瞳の騎士へと惜しみない声援を送った。

2回戦で見せた堂々たる戦いぶりから、サラの人気はうなぎのぼりだ。
一方、騎士の方も負けてはいない。
数年前までこの王城の警備を担当していた騎士には、昔馴染みも多いようで、声援の量からも圧倒的な支持を受けているのが良く分かる。

「オレは最初から、アイツには何かあると思ってたのよ」
「ああ、オレもだ」

大穴狙いでサラに賭けた者たちが、喜び勇んで自分の先見の明を吹聴している。
順当に勝ち進む、優勝候補たちの一角に食い込んだ、不思議なキノコ少年ことサラの評判は、試合を重ねるごとに高まっていた。

げんきんな観客たちの態度を横目に見つつ、カリムは思った。
最初の評判が低すぎたのかもしれないが、高まっていく噂を聞く分には悪くない。
はしゃぐ観客たちの姿を見ながら、アレクは「サラが優勝してもお前の取り分はねぇぞ」と意地の悪い笑みを浮かべたが、カリムはまだ優勝してもいないのに暢気なことだと、内心呆れた。

リコは、準決勝の舞台に立つサラの姿を見ただけで、すでに号泣していた。
そっと差し出されたリーズのハンカチが、瞬く間に水浸しになる。

「リコ、泣いてばかりいないで、あいつの姿をしっかり見ておけよ」

お前も5年後にあそこに立つんだろ?と言いながら、アレクがリコの頭を撫でると、リコは顔を真っ赤にしてコクコクとうなずく。
リーズにも、そのスプーン無しでお前も狙えと無茶な要求をして、猫たちにニャンニャンとブーイングを受けている。

アレクは軽口を叩きながらも、緊張に汗ばむ手を何度もズボンの生地でぬぐっていた。
遠目にも、あの騎士の強さが伝わってくる。
サラにとっては、今までの2試合とはまったく違う次元の戦いになるだろう。
うまく頭が切り替えられればよいのだが。

神様なんて信じないと豪語するアレクだったが、今日だけはサラの勝利と無事を、神に祈っていた。
勝利のおまじないもかけたのだが、今大舞台に立つサラは覚えているだろうか。

今朝のミーティング時、アレクはサラに1つのアドバイスをしていた。

もしも、この王城に仕える騎士と当たったら……


「大丈夫だ、サラ。お前ならやれるよ」


アレクは、心の中に留めておいたはずの言葉を、無意識に口に出していた。
すぐ隣に座って、アレクを意識していたリコだけが聴こえるくらいのボリュームで、そっと。

リコは、初めて聞くアレクのやわらかい声色に、自分の耳を疑った。
幼い頃に聞いた声が、リコの脳裏によみがえる。
そう、あれは、父が母に語りかける声。

もしかして、アレクは……

「どーしたの?リコ?」

顔を青ざめさせているリコに、すかさずリーズが声をかけてくる。
リコは、首を横に振り何でもないと呟いた。
再び潤み始める瞳を、しっとりしたハンカチで軽く押さえるが、なかなか止まりそうもない。

そうだ、私本当は、気づいてたんだ。
知りたくなかったから、またいつもの癖で、見ないフリしてた。
アレクの目が、いつもどこを向いていたか、最初から私は知っていたの。

リコに向けるのは、ナチルと同じ、家族を労わる優しい目。

でも、サラに向けるのは……

闘技場の中心で、立派な青年騎士と対峙するサラの姿が、涙で霞んでふわりと揺れた。

 * * *

「例の条件だが、俺の方に異論は無い」

サラが言い出す前に騎士が告げたので、サラは苦笑しつつも「ありがとうございます」と一礼した。

「では、何か引き換えの条件は?」

この相手は、剣闘士のように武器を手放すことはないだろう。
しかし、本来なら聖剣と魔術を組み合わせて戦うタイプのはず。
サラの一方的なわがままで、相手にだけハンデを負わせるわけにはいかない。

騎士は、緑の瞳をまっすぐ空へと向ける。
一瞬、まつげが影を落としたその瞳の色が深い緑に見えて、サラはドキッとして目を逸らした。

「そうだな……」

考え込む騎士に対して、勝手に焦るサラ。

「な、なんでも言うこと、聞くぞっ!」

何言ってんだ、私はっ!
やばい、緑の瞳は危険!鬼門!

とっさに伏せられたサラの青い瞳は、金色の前髪に隠れて見えない。
その瞳を覗き込むように首を傾げていた騎士は、フッと笑んだ。

「じゃあ、俺からの条件を1つ出そう」

緑の騎士は、優雅に剣を抜くと、磨きぬかれ輝きを放つ剣の中心部に、軽く口付けた。
それは、騎士が神と王に対して誓いを立てる儀式。

「我は誓う。持てる力の全てで、この戦いに臨むことを」

目を閉じる騎士のしぐさに、サラは一時戦いを忘れて見惚れた。
ぼんやりと騎士を見つめるだけのサラに、騎士はお前も剣に誓えと促した。

「全身全霊で、向かって来いよ」

その剣で、俺を殺すくらいの気合で、な。


挑戦的に煌めく騎士の瞳に、サラはぎゅっと口を真一文字に結ぶと、黒剣を抜いた。


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【後書き】↓次号予告&作者の言い訳(痛いかも?)です。読みたい方のみ反転を。
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サラちゃん、準決勝直前まで行きました。なかなか試合に入れんのは、やっぱそれなりにどんな相手か書かなきゃとね。うん、技量の問題もあるけどね。緑の騎士、やっぱかっちょいい男です。登場キャラのなかでも、癖が無いし誠実だし優しいし一番モテキャラかも。しかし名無しのままです。年齢は実際かなり上……ついでに既婚者と思われます。あと、アレク様の気持ちにリコちゃんようやく気づいてプチ失恋の回でもありました。とはいえ「今は妹でも満足、だってサラには彼氏いるしぃ」というあみん気分は当分抜けそうにありません。
次回、準決勝の試合まるまるお送りします。初めて剣同士の戦い。しかも好敵手との戦いで、何気にサラちゃんピンチです。技量のない作者もピンチ?

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第二章(終)金色の龍

2009.05.07【 第二章 王城攻略

 試合再開の合図とともに、三度静まり返るコロセウム。サラも魔術師も距離を置き、睨み合ったまま動こうとしなかった。魔術師の表情は、フードの影で隠れて良く見えないが、薄い唇の口角が上がっていることは分かる。しかし、サラは魔術師の笑みに動じなかった。魔術師が、サラを動揺させて面白がっているとようやく悟ったからだ。サラの心に湧き上がった恐怖は怒りへと変わり、くすぶり続けていた怯えを完全に押さえ込んだ。王族ま...全文を読む


第二章(26)新たなターゲット

2009.05.06【 第二章 王城攻略

 静寂の中、魔術師の笑い声だけが響き渡っていた。無残に折られ、半分の長さになった杖をまじまじと見つめ、肩を震わせる。「スゲー、予想外!キミ最高だねっ」魔術師は、目尻に浮かんだ涙をぬぐった。それ片付けてよと言われた審判の騎士が、慌てて戦闘一時中止の号令をかけ、転がった杖と魔術師の手に残った片割れを回収していく。念のため、床に破片が落ちていないかもチェックするようだ。その間、魔術師は何がツボだったのか、...全文を読む


第二章(25)武力縛り

2009.05.05【 第二章 王城攻略

 決勝戦の直前、観客たちが密かに待ち望んだ瞬間が訪れた。両脇にローブ姿の妙齢魔術師を2名従え、コロセウムの中央ステージへと現れた、1人の男。ゆったりとした黒いサテン地の服に、真紅の甲冑をまとった、大柄な男だった。胸に描かれた十文字のエンブレムの中心には、人のこぶし大の宝石が埋め込まれ、降り注ぐ太陽の光を乱反射している。くるぶしに届くかという長いマントが、がっしりと逞しい背中を覆い、歩みに合わせてヒラ...全文を読む


第二章(24)天邪鬼な魔術師

2009.05.04【 第二章 王城攻略

 決勝戦の直前、サラが提案したマジックアイテムの交換は、あっさりと受け入れられた。バリトン騎士は、あまり魔力がないのだろう。不思議そうにお守り袋を手の中でくるくると転がした後、指輪を持っていないことだけを念入りに確認し、サラを解放した。光の精霊系のアイテムは希少らしく、盗賊たちもかなり気を使って隠し持っているというし、これは何だと騒がれずに済んだことでサラはホッとした。 * * *魔術師はまだ休憩か...全文を読む


第二章(23)アレクの望み

2009.05.03【 第二章 王城攻略

 朝からスタートした決勝トーナメントも、残すところあと1試合。観客たちにとっても、決勝に残った2人の勇者にとっても、一息つける昼休憩となった。試合を見守ってきた者たちが語り合うのは、先ほどの準決勝第一試合のことだ。素晴らしい剣技と、想定外のエンディングに、人々は酔いしれていた。準決勝は、当然もう一試合行われたのだが、人の口にのぼる言葉は少ない。「やっぱり、ファース様はすげえ方だな」「ああ、あの方は別...全文を読む


第二章(22)敗北の予感

2009.05.02【 第二章 王城攻略

 お互いの指輪を預けた後、試合は始まった。好感度の高い2人の対戦に、会場の興奮は一気に高まったが、その後潮が引くように静まり返ることとなる。広いコロセウムに響くのは、ただ、剣のぶつかり合う音のみ。鋭い金属音が、途切れることない音楽のように、会場を包み込んでいく。聴く者の心臓を鷲掴みにするその音は、命のやり取りの音。刹那的で美しい音楽を奏でる2人から、誰一人、一瞬たりとも目が離せなかった。 * * *...全文を読む


第二章(21)騎士との誓い

2009.05.01【 第二章 王城攻略

 次の試合が始まるというのに、観客席のざわつきはなかなか収まらなかった。判官贔屓という言葉が、これほど当てはまる試合は無かった。一方的になぶられるだけだった少年騎士に、誰もが憐れみを覚えていた。勝てる見込みの無い勝負を受けたことに、あきれる者さえいた。ところが、少年騎士は良い意味で観客の期待を裏切り続けた。圧倒的に強い敵の攻撃を必死でかわし続け、徐々に攻撃を見極めて、受け止められるようになり。最後に...全文を読む


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四泊五日グルメな子猫ちゃん体験ツアー (1)
一分間のラブストーリー (22)
冷蔵庫にゆずシャーベット (2)
マグカップにキャラメルティ (2)
トーストにピーナツバター (2)
そうして二人は月を見上げる (2)
トーストに、何つける? (2)
赤い花 (2)
ニガダマ (2)
朝から、プリン。 (2)
すきま風 (2)
ささやかすぎる贈り物~重なる想い~ (2)
初恋 (2)
三分間のボーイミーツガール (4)
天使の雲子(ウンコ)~Cloud Baby Cupido~ (2)
Fairy tale~微笑む君に、小さな花を~ (2)
その他掌編 (20)
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夏休みの計画~目指せ、熱湯甲子園!~ (2)
そして私は、夢をさがす (2)
スケバン女侠、お京が行く! (2)
ささやかすぎる贈り物~奇跡の花~ (2)
ミレニアムベビーな魔王さま! (2)
レイニーデイ ~雨音に魔法をかけて~ (2)
ツイッター小説(二百文字以下の超掌編) (2)
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悪魔なサンタにお願いを (2)
ドメスティックバイオレンス弁当 (4)
七両目のリンゴ (2)
放課後レクイエム (2)
凡人・大木広人の事件簿 ~密室、消えたP&Uの謎~ (5)
さよなら、マルオ君。 (2)
砂漠に降る花 (218)
第一章 異世界召喚 (22)
第二章 王城攻略 (37)
第三章 王位継承 (51)
第四章 女神降臨 (31)
第五章 砂漠に降る花 (52)
番外編 (19)
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